扇風機が壊れた |
今日、扇風機が壊れました。なぜ壊れたか。簡単に言いますと、古くなったからです。買って十年もするのですから無理もありません。三年ほど前から調子が悪かったのです。三年ほど前から、ガチャリとボタンを押しますと、ギギーと苦しむ音がし、少しの時間をおいて、やっとの事で薄汚れた羽が廻りはじめるようになりました。それを見て 「あぁ。もうだめだなぁ」 と 私の父は、やかましい風を額に受けながら、ぼんやりと言いました。父の気の抜けた様な無関心な声は、扇風機の軋んだ音と混ざり合って 、風に流され消えて、妙に儚さを感じさせました 。 父がそう言った次の年の夏。扇風機は前年よりも 、古びているように見え、もちろんのこと、機能の面でも益々古びておりました。前年は不協和音を上げるだけに止まっておりましたが、その年は不協和音とともに、気狂いの様に体全体をガタガタと激しく小刻みに揺らすのです。 「今年でこれを使うのも終わりだな」 そう言ったのはやはり父で、それを言い終えると縁側へ出て、もう扇風機の事なぞ頭にないようなそぶりで、年老いた我が家の犬の元へ行きました 。 その次の年の今日。扇風機が壊れたのです。音を立てながら廻っており、突然、パチっと一瞬の閃光を放ち、魂を突き崩された様に、もうそれ以上 、羽を廻す事はありませんでした。彼は死んだのです。真夏に、一瞬に、燦然と輝き燃え尽きたのです 。 「新しいの買わないとだめだなー」 父は言いました。そうして、扇風機のコンセントを荒々しく抜くと 「おーい。母さーん。扇風機、粗大ごみに出しとけー」 と、台所にいる母に言いました。母は「はーい」と一つだけ返事をしました。 次の日、父は新たな扇風機を買って来ました。まだくすみ一つない、白色の扇風機でした。 壊れた扇風機は、母によってゴミ置き場に捨てられ、粘土の高い真夏の熱気に晒されました。 夏が終わり、秋の風が吹く頃には、新たな扇風機も既に今年の役目を終え、物置へと押しやられました。 最近の事です。夏バテがまだ残っているからでしょうか。我が家の犬の体調が優れません。父は舌を出したまま横たわる薄汚い飼い犬を見て、やはり言う事があります。 「あぁ。そろそろだめだなぁ」 |
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2012年07月31日(火) 17時53分40秒 公開 ■この作品の著作権はcomさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 com 評価:0点 ■2012-09-18 00:05 ID:L6TukelU0BA | |||||
YEBISUさん ご感想ありがとうございます。 句読点の打ち方、すこし変ですね、ありがとうございます。 カムサッカさん ご感想ありがとうございます。 自分ではレベルがよくわからないので、嬉しいです。ありがとうございます。 |
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No.2 カムサッカ 評価:40点 ■2012-09-17 02:02 ID:ObizS4MImBI | |||||
悲しいですね。 こういう風な場面を見ると、悲しくなります。 淡々とした描写はテーマ?にあっていて良いと思います。 まとまりもあって、掌編としてのレベルは高いと感じました。 |
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No.1 YEBISU 評価:30点 ■2012-08-14 19:38 ID:hugVebm6UOc | |||||
はじめまして、YEBISUと申します。 一読して、まず思い浮かんだのは、悲哀、という単語でした。 comさんが、どういう意図でこれを書かれたかは判りません。けれど、これだけの短文で、一つの単語を思い浮かばせるというのは、やはり、凄いことだと思います。 ‥蛇足ながら。余計なお世話とは思うのですが、文節の区切りというか、句点の打ち方に、やや違和感を感じました。 |
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総レス数 3 合計 70点 |
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