Fickle |
彼女は黙って俺の腕を引くと、そのまま下敷きになるようにベッドへ沈んだ。 広がるブラウンの髪に腕をつき、鼻と鼻が擦れるほどの近さで見つめあう。ワインで酔ったのか、彼女の頬は僅かに赤らんでいた。グラスにはまだ半分ほど残っている。 「困るよ」 じゃれるように、けれども誘うように首に回された指先がうなじを撫でる。こちらを見上げる彼女の顔に浮かぶのは艶のある笑みだけだ。 きっと彼女は遊んでいるのだ。酒のせいにして貪ることを許されるという逃げ道までご丁寧に用意して、気が緩むのを今か今かとまっている。決められた男以外に絡めとられるタブーを犯すために。 「そう? 全然困ってるように見えないわよ」 指先がえりあしをいじる。耳の裏をくすぐられて、眉を寄せた。目下を彼女の親指が辿る。 「あなたにしておけばよかったかしら?」 「俺じゃ物足りないんじゃない?」 「そうね、よくわかってるじゃない」 白く柔らかな足先が円をえがき、軽く膝をたてる。真っ白なシーツに刻まれたしわが、ひとつひとつ増えていく。 「一人のものになる気なんかないくせに、結婚なんて無駄じゃない?」 「独身じゃ味わえないスリルが魅力的だったの」 下唇をなぞり、ひっかけば傷をつけられそうな赤の爪先が喉仏へ向かう。ひんやりとした感触に、背筋が震えた。うなじへ戻り、引き寄せられ、コーヒー色の海へもぐる。 「最後の夜、いらない?」 確信したのであろう彼女が堕ちるよう囁いてくる。じわじわと身体の奥にある芯の部分へ呼びかけ、熱を呼び起こす。鼓膜を震わせたその声が脳を揺さぶるそれは、なんて甘い毒なのだろう。 「―――だから困るっていったんだ」 他の男の臭いを纏り、欲を孕んだその瞳に、今夜もまた、吸い込まれていく。 |
月子
2012年06月30日(土) 22時15分24秒 公開 ■この作品の著作権は月子さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 月子 評価:--点 ■2012-07-05 23:29 ID:iY7yzWMcD6. | |||||
Physさん 返信が遅くなってしまいすみません。 純愛小説が大好きなのですが、時々スパイスとして ふしだらを摂取したくなります笑 そうですね、これをみせたら先生に驚かれそうです。 今回は会話で女性に魅力を持たせたかったので、 とても嬉しいです。ありがとうございます。 主人公は年上で経験も豊富な女性にたじたじになってればいいと思います笑 得できそうですよね。 蝶のようにひらひら舞う彼女は男性にとっては毒だと思いますが、 わたしはこういう女性が好きなので是非このままでいてほしいです。 指摘を受けた部分ですが、私のうち間違いですね・・・。 うぅ、ご指摘ありがとうございます。 「纏い」ですね、わたしが書きたかったのはこっちなので 教えていただいてほんとうに助かりました。 Physさんには誤字や表現のおかしいところを毎回教えてもらっている気がします。 Physさんがいなければ私の小説は読めるものではないでしょう笑 どうもありがとうございました。 笹森 賢二さん 返信が遅くなってしまいすみません。 わたしもできれば幸せな結末を迎えて欲しいと思うのですが、 彼女はふらふらしているので・・・どうなのでしょう笑 主人公が頑張ってつないでいてくれると嬉しいです。 年齢は関係ない、たしかにそうですよね。 物書きの基準というのでしょうか、境界線は難しいです。 ろくに社会も知らずにぬるく生きている私にはわからないですが・・・。 瑞々しさを含んだ人生、素敵ですね。 飽きないためにも、ちょっとした甘さと苦味をもって生きたいものです。 どうもありがとうございました。 |
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No.2 笹森 賢二 評価:40点 ■2012-07-01 22:18 ID:TQuxQJnwtBs | |||||
生々しい感触が残りました。 読者として経緯やその後を妄想する話でした。 出会いからこの結末への経路、未来はどうなるのだろうと下世話な妄想が膨らみます。 ……僕は幸せな結末が好みなのでそっちに転んで欲しいと切に願っています。 蛇足になりますが、年齢は関係ないでしょう。 貴方が書きたいものを書けているかいないか、それが物書きの生命線だと、物書きにすらなれない僕は思っています。 それでも一つに、人は青春を失った瞬間に老いるのだと言った人が居ます。 青春とは、つまり瑞々しさを含んだ人生なのですね。 人の身が果てるその瞬間までそれを持ちたいと願うばかりです。 |
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No.1 Phys 評価:40点 ■2012-07-01 12:24 ID:70DOORYLZH. | |||||
拝読しました。 ふ、ふしだらな小説だ……。と思いました。月子さんは純愛小説のお仲間だと 信じていたのに……。泣 夏休みの課題に小説ですか! これを投稿したら、 評価する先生もどぎまぎしてしまうかもしれませんね。笑 でも、すごく良かったです。会話文が特に良かったです。相手の女性の語り口 だとか主人公さんの困惑した感じがありありと伝わってきて、物語の雰囲気を 引き立てていました。 >堕ちるよう囁いてくる ここが良かったです。そんな風に囁ける自信がすごい……とおもいました。笑 そのくらい男の人を魅了するテクニックを持っていたら、なんかいろいろ得を できそうな気がします。 一点、気になった一文が、 >他の男の臭いを纏り、欲を孕んだその瞳に、今夜もまた、吸い込まれていく。 です。男の人の匂いをまとっている、という意味だとしたら「纏い」のような 気がします。纏りだと名詞としての「まとまり」みたいな印象を受けます。 (私はあんまり日本語を正しく使えない人間なので、というかよく人に注意を されるので、間違っているかもしれません。汗) また、読ませてください。 |
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総レス数 3 合計 80点 |
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