光の橋 |
急な夕立に降られて、目についた喫茶店に駆け込んだ。 通りに面した小さな店である。照明は適度に控えめで、客入りは悪くない。白い顎髭をたくわえた男性がカウンターの向こうでグラスを乾拭きしている。視線が合うと、口元を緩めてこちらに会釈した。 「ここにしようか」 私たちは空いていた窓際の席を選んだ。上着を脱いで後ろの壁にかける。袖口に付いた水滴を軽く払ってから、窓の外に視線を移した。 にわかに激しさを増す雨が容赦なく路上の敷石を叩いていた。弾けた水滴は道行く人の足元を濡らす。 「雨が降ると、君はいつも寂しそうな顔をするね」 向かいに腰を下ろした彼は独り言のように言った。私が答えずにいると、女性の店員がやってきて机の上にメニューを置いた。ご注文がお決まりの際にはお呼び下さい、と若いウェイトレスは付け加えた。 一枚刷りのメニューに目を通し、私は紅茶とケーキのセットを頼むことに決めた。彼も同じものにするらしい。 「昔のことを思い出すから」 奥で待機していた店員に手を挙げながら、私は答えた。 「昔のこと?」 「昔の男のこと」 「それは、聞かない方がいいのかな」 「どうだろうね」 彼はメニューを横に置いて、傍にあった灰皿を引き寄せた。私は彼の咥えた煙草の先に手を伸ばし、オイルライターを擦った。 「ありがとう」 先程の店員がやってきて注文を尋ねた。紅茶のセットを二つ。そして、紅茶にミルクと砂糖は要らないということを伝えた。 「式場はあそこで良かったの?」 彼からは先日、婚約指輪を受け取った。つまり、彼は私の婚約者ということになる。 このところ休日は式場の下見ばかりしている。 「私は納得したけど」 彼が灰皿に手を伸ばして、吸殻を落とした。私は続けて訊き返す。 「どうして?」 「食事、ずいぶん残していたから。何か不満なんだと思ってたよ」 「そんなことないよ。ただ、披露宴で出てくるような堅苦しい料理が苦手なだけ。べつに料理なんてラーメンとか焼きそばでいいのに」 「相変わらず面白いことを言うね」 結婚式場の下見では、披露宴で出される料理を味見する機会がある。どれもそれなりに手の込んだ品だった。味だって悪くない。 食事を残したことには、別の理由があるのだ。雨の日の憂鬱と、同じ理由。 「不満があったらきちんと言うから、心配しないで」 「お手柔らかに」 彼と付き合い始めてから、もうずいぶん長い。口数の少ない彼と自分の意見をはっきり口にする私との相性はなかなか良いようで、波風が立つことはほとんどなかった。 ふと、彼が思い出したように口を開いた。 「さっきの」 「うん?」 「さっきの『昔の男の話』って、どのくらい前のこと」 「あなたと知り合う十年前くらいかな」 「というと、高校生?」 今の彼と出会ったのは会社に入って四年目の春である。社内の語学研修で同じクラスになったのがきっかけで、研修が終わってからも顔を合わせるたびに食事に誘われた。正直タイプではなかったけれど、断るための言い訳を考えるのが面倒になって、今に至る。 まだろくに化粧もしたことがなかった当時の私を想像するように、彼は目を細めて私の顔を見つめた。 「ずいぶんもてたのよ」 「そう? まあ、真相は闇の中だ」 今度卒業アルバムを見せてあげるから、とむきになって主張すると、彼は苦笑しながら楽しみにしていると答えた。 「長かったの?」 付き合っていた期間、と私は理解した。 「長かったよ。初めて出会った日から数えたら、ちょうど八年」 煙草の火をもみ消して、彼は大げさに驚いてみせた。 「想像以上だ」 「――聞きたい?」 結婚する前には、彼にも話しておこうと決めていた。それを話すことが、塞がりかけた傷跡にふたたび触れる行為であっても。 「君が構わないのなら」 運ばれてきた紅茶のカップに視線を落とし、私は目を閉じた。頭の中で古いフィルムが回り始めると、今はもう色褪せてしまった懐かしい光景が、瞼の裏に甦った。 *** ハルと初めて会ったのは、斎場だった。 祖母の葬式に出席した時のことで、私はまだ八歳、彼は十三歳だった。 「今から何をするの?」 母に促されて覗き込んだ棺の中には、お化粧をした祖母が横たわっていた。木の匂いが鼻先をよぎり、不意にくしゃみが出た。生前の祖母と会ったことはほとんどなかったし、人の死を間近に見たのはそれが初めてだった。 母の真似をして、祖母の隣に菊の花を置く。 棺の周りには十数人が円を描いて立っていた。何人か見知った顔の大人が、ハンカチを目の縁に押し当てて鼻をすすっている。 群衆の中に、黒い制服を着たお兄さんの姿があった。眠たげな目をしていて、その先に何か大事なものでもあるみたいに、ぼんやりと床の一点を見つめていた。 私はお兄さんに聞こえないくらいの小さな声で、母親に耳打ちをした。 「あの人はだれ?」 「春馬くんって言うのよ」 「はるまくん」 春馬くんは中学一年で、祖母のお兄さんの娘さんの息子さんで、『はとこ』に当たる人なのだと、母は話した。まだ小学校に入ったばかりの私にはよく分からなかったけれど、お正月に会う親戚と同じような関係なのだということは、漠然と理解した。 しばらくすると棺に封がされて、祖母は箱の中に閉じ込められた。なにか特別なことが始まるのだと思い、私は緊張した。 「これよりご遺体を火葬致します。表で故人様をお見送り下さいませ」 ぞろぞろと大人が外に移動するので、私もそれに倣って後を追いかけた。ちょうど隣に制服姿のお兄さんが歩いていた。 ドアを抜けると初夏の日差しが目を覆った。道の両脇に作り込まれた植え込みで、白い花が頼りなく花弁を揺らしていた。私は植え込みに屈み込んで、花や土に触れながら遊ぶことにした。 乾いた土の上に、すっと横から黒い影が現れた。 「杏奈ちゃん。もうすぐあそこからおばあちゃんが出てくるよ」 不意に話しかけられて私はぎょっとした。振り向くと、後ろにお兄さんが立っていた。お兄さんの黒い制服には金のボタンが付いており、それが太陽の光を反射してきらきらと光った。 「おばあちゃんが出てくるの?」 さっき見たばかりの祖母の白い顔を思い出して、私はお兄さんの不可解な言葉の意味について考えた。しかし、考えても私にはよく分からなかった。 「もうすぐ杏奈ちゃんのおばあちゃんは、煙になって空に昇るんだ」 杏奈ちゃん、と名前で呼ばれたことに私はようやく気が付いた。私がお兄さんのことを知っている以上に、お兄さんは私のことを知っているらしかった。 「はるまくんはおばあちゃんと仲良し?」 「仲良しだったよ。だから、今はすごく悲しい」 前に映画館でかわいそうな犬の映画を見たときと似ている、と私は思った。あのときもみんながハンカチを持って泣いていた。 「かなしいのに、はるまくんは泣かないの?」 「うん」 「どうして?」 「涙がなくなっちゃったから」 涙がなくなってしまうなんて、大変なことだ。きっと、春馬くんはよく道で転ぶ人なのだろうと思った。こんなに背が大きいのだから、転んだときは背の低い私よりずっと痛いはずである。 「また涙が出るようになるといいね」 私が大人ぶって言うと、春馬くんは少し困ったような顔をした。 空へと薄く延びていく煙を見つめながら、私も涙がなくなったら嫌だから、これからは泣くのを我慢しようと決めた。 火葬と納骨を終えた時には三時過ぎになっていた。私たちはお坊さんと一緒に海の傍にある二階建てのお店に入った。天ぷらやお蕎麦を食べることができる、祖母の住んでいた地域では有名なお店だった。 畳敷きの座敷には長方形の机が並んでいて、私はその一番端の方に腰を下ろした。私はひどく喉が渇いていた。 「お母さん、飲み物が飲みたい」 「すぐに水が来るよ」 「オレンジジュースがいい」 店の入り口に透明なガラスケースが置いてあることと、その中にはオレンジジュースの瓶が並んでいることを、私は知っていた。はいはい、と母が苦笑する。 春馬くんは私から見て机の対角線上の位置に座っていた。美少年というほどではないが、線が細く、整った顔だった。 「杏奈はお蕎麦でいい?」 頷きながら私が立ち上がったので、母は首を傾げた。 「さっき土を触ったから、手を洗ってくる」 座敷から降りて赤いスニーカーを履く。何度か来たことがあるお店なので、お手洗いの場所は知っていた。 トイレは男女兼用になっていた。黒い服を着た男の人が何人か並んで待っている。 「佐藤さんのところは、上の二人が医学部と法学部、女の子の方は湘英女子の特進クラスだって話だろ。羨ましい限りだよなあ」 「暎子さんもずいぶん頭が良かったからな」 「それが、あの三男坊だけは出来が悪いらしい」 時間がかかりそうだったので、私は諦めて引き返した。 座敷に戻ると大人たちがお酒を飲んで楽しそうに話していた。賑やかな声の間を抜けて、春馬くんの後ろを通った。彼は誰とも話をせずに黙って座っていた。 「早かったね」 「おじさんがたくさん並んでた」 私の席の前にはジュースが置かれていた。母に頼んで蓋を開けてもらうと、ぽくん、と空気の抜けるような音がする。こうやって、栓抜きで金属のふたを外す音を聴くのが私は好きだった。 お蕎麦が来たので箸を手に取った。ふと、母が尋ねてくる。 「さっき、お兄さんとお話してたのね」 「した」 ずるずるとお蕎麦をすする。汁が飛んで、シャツの白い袖にぴとりと付いた。 「どんなお話をしたの?」 「おばあちゃんが煙になるんだって」 私が悪戯をしたときみたいに、少しだけ、母は嫌な顔をした。 「佐藤のお兄さんはちょっと変わった子みたいだから――」 母は声を落として囁くように言った。当時、春馬くんは親類の間でもあまり評判の良い子供ではなかったらしい。小学生のときに何かと困った問題を起こして、彼の両親も頭を悩ませていたのだと、後で誰かから聞いた。 「何か言われても答えちゃだめよ」 確かに顔はぼんやりしているけれど、さっき話したときには別に普通だった。私には、母が心配するほど春馬くんが変わった人には思えなかった。 黙々とうどんを食べる彼を見て、自分もうどんにすれば良かった、と私は後悔した。 *** それからしばらく春馬くんに会うことはなかった。次に彼と会ったのは祖母の葬儀から五年後のことだ。前に会った記憶はほとんど薄れていたけれど、顔は覚えていた。 場所は結婚式の披露宴会場だった。春馬くんの一番上のお兄さんの結婚式である。私は親族の一人として招かれていた。 一流ホテルの一室で行われた、盛大な式だった。春馬くんの一番上のお兄さんは都内で勤務医として働いているらしかった。お嫁さんは病院長の娘さんだということで、病院の偉い人たちが円卓を囲んで座っていた。 場違いなのではないかと、私の両親はしきりに恐縮していた。私は世界三大珍味であるという高級食材をふんだんに使った料理に箸を付けながら、珍しいからといって美味しいわけではないんだなあ、という月並みな感想を持った。 しばらく続いていた新郎と新婦の紹介が終わり、室内が暗くなった。両親から娘宛ての手紙を読み上げるのでハンカチを用意した方が賢明だと、司会者の人が告げた。 「私、ちょっとトイレに行ってくるね」 赤いカーペットの敷かれた廊下に出ると、春馬くんの後ろ姿が見えた。どうして彼だと分かったかといえば、春馬くんは特徴的な猫背だったからである。 「春馬さん」 おもむろに振り向いた春馬くんは、覇気がなく、相変わらず眠たそうな目をしていた。前に見たときよりもずいぶん背が大きくなっている。 「来てたんだ」 「来てました」 「安奈ちゃん、だよね。今は?」 ぼそぼそと喋るひとである。降り始めの雨みたいな話し方だな、と私はふと思った。 「今って、何ですか」 「学年」 「今年中学に上がりました。春馬さんはまだ高校生ですか」 春馬くんは思案するように空中を仰いでから、曖昧に答えた。 「そうかもね」 「かもって」 思わず吹き出してしまう。 ――佐藤のお兄さんはちょっと変わった子みたいだから。 大きくなってから改めて話してみると、確かに春馬くんは変わっていた。けれど、私はその変わり方というか、方向性が嫌いではなかった。飄々とした調子で彼は続ける。 「さいきん行ってないから」 「ああ、そうなんですか」 同じ学校の同級生にも登校拒否をしている子は何人かいたし、いまどき珍しいことではなかった。とくべつ驚きはしない。それに、春馬くんの話し方や仕草を見ていればそれも納得できる気がした。 「安奈ちゃんは学校楽しい?」 「楽しいこともあれば、楽しくないこともあります」 「そうなんだ」 「でも楽しいことの方が多いです。今のところ」 「それは、いいね」 「まあ楽しくなくなっても、行くと思いますけど」 心底驚いたというような顔をして、春馬くんは首を傾げた。 「それ、俺に言ってる?」 ああ、この人はいちおうまともなんだな、と私は失礼ながら思ってしまった。 「春馬さんは、学校の他に何か楽しいことがあるんですか」 「あるよ」 「それはいいなあ」 「いいでしょ」 春馬くんは並びの良い歯を見せて、はにかむように笑った。その笑顔は、精神の内側に硬い殻をこしらえている人間のそれではなかった。 「というか、食事、ぜんぜん美味しくないですよね。ほとんど残しちゃった」 「料理なんてラーメンとか焼きそばでいいのに」 「ラーメンですか」 「話したら食べたくなってきた。今から抜け出して食べに行こうか」 すごく簡単に言うんだなあ、と私は感心した。実のお兄さんの結婚式なのに。 「美味しいお店なら行きます」 「駅からちょっと裏道に入ったところに、豚骨ラーメンのお店があるよ」 「私、豚骨以外なら何でも大丈夫です」 「美味しいのに」 春馬くんは、そのお店のスープがいかに時間と手間をかけて作られているのかを力説し、私は、豚骨の臭いが常軌を逸しているという点でその優位性に反論した。事情を知らない人が見たら、仲の悪い兄妹が喧嘩をしているように見えたかもしれない。 とりあえず、店は繁華街に出てから考えよう、という話に落ち着いて、私たちは下りのエレベーターに乗り込んだ。 「そういえばさ」 「はい」 「春馬さん、ってあんまり言われないから、ハルでいいよ」 「私もちゃん付けは好きじゃないので、安奈でいいです」 三大珍味は口に合わなかったのでラーメンを食べてきます、という内容のメールを母に送って、私は買ってもらったばかりの携帯電話をポケットにしまった。 *** そんなことがきっかけで、私は春馬くんのことをハルと呼べるようになった。 あの日は母と父から非常識だとひどく叱られたし(当然だ)、ハルと一緒だったということで、母からは例の嫌な顔をされた。 ちなみに、豚骨ラーメンは私が断固拒否したので、結局あの日は中華料理の店で酢豚を食べた。机が油でべたべたしていて、私はファミレスに行きたかったのだとハルを責めたけれど、味は悪くなかったので許してあげることにした。 「なかなか美味しいですね。庶民的な感じで」 「やっぱり、ご飯はお箸で食べるのがいいよね」 ハルは洋食より中華派らしく、その点でも私と気が合った。 「兄さんたちはああいうのが好きなんだよ。家族で食事に行くときには、いつもナイフとフォークを使うお店だし。使い慣れてないから、いつもこぼして怒られる」 「いや、箸でもこぼれてますよ」 ご飯に青椒肉絲をかけながらハルは顔を上げた。既にピーマンが三切れほどテーブルに落ちている。私は酢豚の中に入ったパイナップルを除けながら、ふと思い出した。 「そういえば」 「ん?」 「学校以外の楽しいことって、何ですか」 除けたパイナップルを素早くハルのお皿に移す。俺も嫌いなんだけどな、と彼は苦言を呈した。私は無視してパイナップルの輸送を終えた。 「俺、勉強できないからさ」 「お兄さんみたいに?」 「うん。姉ちゃんも頭いいし。というか、家族みんな勉強が好きみたい」 「なるほど」 「俺はあんまり勉強、好きじゃない」 日当たりの悪い場所で萎れた植物みたいに、ハルは呟いた。 「絵を描いたり、模型を組み立てたりする方が得意で」 「それは、いかにも」 「人よりゆっくりが好きなんだ。俺って」 両親の価値観に合う子供にはなれないのだと、ハルは寂しそうに話した。末っ子として生まれたハルの前には、いつでも優秀な兄や姉の敷いたレールが続いていて、否が応でもそれを意識しなければならなかったのだろう。 彼が小学生の時に起こしていたという問題の多くは、そういった周囲からの重圧に耐えかねてのものだったのかもしれない。 携帯電話に登録されたハルの番号は、それからしばらく使われることはなかった。私も用がなければ連絡する必要を感じなかったし、中学校での生活は、私にとってそれなりに充実していた時期だった。 テニスの県大会出場をかけた試合に破れたり、好きだった先輩に映画を見に行く約束を破られたり、その先輩にラブレターを渡したら目の前で破られたりしたけれど、『楽しいこともあれば楽しくないこともある』学校生活は、私にとって、楽しい方の割合が勝っていた。 やがて中学の三年になり、私は高校進学について考え始めた。クラスでは、あの高校の制服が可愛いだとか、あの高校のテニス部には硬式はあるけど軟式がないだとか、そんな情報が飛び交っていた。 私の希望は、校則が緩くて、何より気楽でいられる場所に進学することだった。 そこで私はまず、高校生活を楽しめなかった人の意見を訊くことにした。仲の良い先輩たちを当たれば、充実した高校生活を送っている人の話は簡単に聞けるけれど、その逆はなかなか難しい。 ようするに私は『一番ダメなパターン』を知ることで、こうなってはいけないのだな、という教訓を得ることにしたのである。 結婚式の日に教えてもらったアドレスにメールを送ってみた。 「杏奈です。お久しぶりです。お元気ですか」 何と書けばいいのか分からなくて、ちょっと他人行儀な挨拶になってしまった。 一日経っても、返事はなかった。大した用ではないと思われたのかもしれない。重要な要件なのだということを強調して、もう一度送信してみた。 「こんばんは。昨日もメールしました。実は、進学や高校生活について相談したいことがあります。困っています」 今度は根気よく週末まで待ってみたけれど、やはり返事はなかった。送信したメールの文面を読み返すと、困っています、という言い方は自分本位で厚かましく思われたのかもしれないと感じたので、もっと下手に出ることにした。 「頼れる人が他にいなくて……。お時間のある時でいいのでメールをください」 結果、返事はなかった。私は軽い徒労感を覚えた。最終手段として、クラスの男子から『実物の五割増だ』と絶賛された決め顔の写真を添付することも検討したけれど、もはや自分が何と戦っているのかよく分からなくなったので、やめた。 メールアドレスが間違っていて、相手に届いていないのでは……。そんな微かな希望にすがり付くように、思い切って電話をかけてみることにした。 三コール目くらいで、あっさりとハルは電話に出てくれた。 「もしもし、杏奈です……」 「ああ、杏奈ちゃん。こんばんは」 「こんばんは。その、この前メール送ったんですけど、見てくれました?」 「うん、見たよ」 快活に答える彼の口調に、私は少なからずショックを受けた。 ちょっぴり泣きそうだった。 「じゃあどうして無視をするんですか? 一言くらい返してくれたって……」 徒労感が悲しみに変わるのにそう長くはかからなかった。しかし、彼の答えはなんとも気の抜けた、あっけないものだった。 「俺、受信したメールの開き方は分かるんだけど、送信の仕方を知らないんだ。というか電話以外の機能はほとんど」 「いまどきそんな……」 「だから、さいきん杏奈ちゃんからメールが来て、困ったなあって頭を抱えてたんだよ。伝えたくても伝えようがなくて」 「だったら電話すればいいじゃないですか」 「あ、そうか」 心から腑に落ちたという言い方だった。 なんだかもう真面目に聞く気が失せてしまい、お互いの近況について話をして、通話は終わった。というよりも、もともと彼に何を訊こうと思っていたのかも忘れてしまった。 どうやらハルは頭のいい兄や姉ほどではないものの、一応名の通った大学に進学を決め、今は実家から通っているということだった。 「いろいろ聞けて楽しかった。また電話するね」 「その前にメールの送り方を覚えて」 「だってあの説明書、分厚くて何書いてあるか分からない」 「ぜんぶ読もうとするからだよ。今度教えてあげる」 途中から敬語を使わなくなったのは、敬意の消失なのか、親しくなった成果なのかよく分からない。携帯の電源ボタンを押して通話を切ってから、「よく聞くとけっこう低くて男らしい声なんだな」と少し意外に思った。 それから、私たちはときどき外で会うようになった。 まるで本当の兄妹のように、私たちは街を歩いて、遊んだ。もちろん、主導権を握っているのは私だったし、兄というよりは弟を連れているような気分だった。 二人が会う場所は、駅前のハンバーガー店であったり、繁華街のショップであったり、さまざまだった。二人でハンバーガーに齧り付きながら、この安っぽいたれが美味しいんだよねえ、と安っぽい共感を示した。 「一日一緒にいて思ったけど、ハルは歩くのが遅い。たまにいらいらするよ」 「そうかな」 「そうだよ」 「一日買い物に付き合っていて思ったけど、安奈はたぶん、服の趣味が悪い」 「あなたに言われたくない」 よれよれのジーンズと皺だらけのシャツという彼の服装は、一歩間違えれば路上で生活しているおじさんと変わらなかった。顔立ちに女性的なところがあり、割と細身なので、それも野暮ったく見えなかったりするのだけど。 ふと手元を見ると、ハルはハンバーガーの間に挟まれたピクルスを器用に抜き出して、それを私の包装紙の上に並べていた。私も嫌いなんだけど、と一応警告はしておいた。 「安奈って、男の子と付き合ったことがないでしょ」 「げほ」 唐突な発言に、コーラが気管に入ってむせた。 「いきなり何を」 「あれ、あるの?」 「ずっと好きな人がいたから、その人以外と付き合うとか考えたことなかった」 ラブレターを私の目の前で破った彼である。理由を尋ねたら、「お前ってなんか喋り方堅いし、一緒にいると疲れそう」と言われた。それは私の力作(愛の手紙)を破る理由になっていない気もしたけれど、ようするに対象外だということらしかった。 「ふうん。やっぱり」 やけに確信めいた言い方にむっとして、私は尋ねた。 「どうしてそう思ったの」 「いろいろと慣れてないから」 「いろいろ?」 「うん。いろいろ」 意外と見られていたんだな、と考えたら、急に恥ずかしくなった。なかなかどうして、侮れないやつである。 外はよく晴れており、乾いた午後の日差しがハルの並べたピクルスの上に射していた。座っていると手の甲が暖かい。 「ハルは?」 「女の人と付き合ったこと? あるよ」 なんでもないことのように彼は答えた。それから、なんだか胸の奥が窮屈になった気がしたけれど、その意味については保留しておくことにした。 「なんか嘘くさい」 「世話を焼きたくなるらしいよ。女の人は」 「自分で言うな」 ハルのくせに、と肩を小突こうとしたら、手首を掴まれた。 「こういう乱暴なところがいけないんだよ」 ぎゅっと握り締められた力の強さに、自分が女で、彼は男なんだということを変に意識させられる。ちょっとだけときめいた、ような気がした。 「そろそろ行こう。俺、今からちょっと寄るところあるから」 「あ、うん」 トレイを持ってハルが歩いていくので、私は彼の背中にピクルスを包んだ包装紙を投げつけた。淡い感情が胸の中で微かに波立つのを、すんでのところで、私は押しとどめた。 *** ハルはその後、大学を辞めてふらふらとアルバイトなどをして生活するようになった。両親からは猛反対に遭ったらしいけれど、ぼろぼろの安アパートで一人暮らしも始めた。 「どうして大学を辞めたの?」 と訊いたところ、 「楽しくなかったから」 と彼は答えた。こんな親不孝な息子は欲しくないな、と私は心からハルの親に同情した。 私はというと、とりあえず受けた推薦入試であっさり進学先が決まり、自宅から電車で通学することになった。新しい制服に袖を通した姿を、真っ先にハルに見せたいと思った。 入学式の前夜に『明日の夕刻、とびきりかわいい制服を着た女の子が君の部屋にやってくるだろう』という犯行予告文みたいなメールを送りつけて、私は予告通りにハルの住むアパートを訪問した。 「お邪魔します」 玄関を開くと目の前にゴミ袋が二つ置かれていて、行く手を塞いでいた。もちろん長く嗅いでいたい類の匂いではなかった。 障害物を跨ぐと、ハルが台所の収納棚に寄りかかって座っているのが見えた。取っ手の付いた観音開きの扉に、背中を預けている。一人暮らしの青年の孤独死に遭遇したのではないかと焦ったけれど、浅く呼吸はしていた。どこでも眠れる人らしい。 「朝だよ」 よだれを垂らしたままの唇が、微かに動いた。 「いや、もう夕方……」 眠っていたはずの人間がなぜ正確に時間を把握しているのだろう、と疑問には思いつつ、私はハルが目を覚ますのを待った。擦りガラス越しに赤い夕陽が差し込んで、彼の睫毛の下に美しい陰影を与えていた。 「……お、杏奈ちゃん」 「高校生になりました」 片手でスカートの裾を摘まみながら私は言った。ハルがぱちぱちと手を叩いた。 「おめでたいおめでたい」 よいしょ、と言って重い腰を上げると、ハルは机の上に置かれたクラッカーの紐を引き抜いた。中からカラフルな旗みたいなものが飛び出す。なんとなく、私は空しくなった。 「ごめんね。部屋、汚くて」 「うん。想像通りだった。まずは掃除をしようか」 結局、二人で掃除をして、翌日が回収日だというゴミ捨て場にゴミ袋を出しに行って、気が付けば日が暮れていた。夕暮れの淡い光は夜空に溶けて、大気は少しずつ藍色に変化していった。 おもむろに、ハルが冷蔵庫から何かを取り出してきた。四角い縦長の箱だった。 「シャンパンを買ったんだ」 ラベルに、アルコール分が五パーセントと表示されている。 「いや、まだ未成年なんですけど」 「高校生はもう大人だよ」 法律的にも身体的にも子供であるのは否めなかったけれど、この人が成人なんだから、私はもう大人を名乗っていいのかもしれない、と私は判断した。 紙コップを合わせて、私の高校生活とハルのフリーター生活の前途を祝した。 一口飲んでしばらくすると、顔が火照ったように熱くなった。 「何かお祝いの品をあげないといけないね」 ハルの家では、子供たちが人生のステップを踏み出したときにはいつも、家族みんなでお祝いの品を用意する決まりになっているらしい。さすがに、今回の一連の騒動(大学を辞めて、フリーターみたいな暮らしをすること)にお祝いの品はなかったらしいけれど。 「何がいい?」 しばらく考えて、私は、私の中の何かを試すようにその言葉を口にした。 「キスして欲しい」 予想していたとおり、私の心臓は小さく震えた。私にしてはけっこう頑張った方だな、それにしてもお酒の力ってすごいな、と色々なことを短時間の間に考えた。 「いいよ」 ハルが上体を起こす。蝶の羽に触れるように、彼がそっと私の肩に手を伸ばしてきた。気が付くと身体を引き寄せられていて、何か柔らかいものが唇に押し当てられた。 触れ合った唇から順に、身体が溶けてしまいそうだった。血液が逆流して、床に座っているはずなのに足ががくがくと震えた。身じろぎした私に合わせて彼が角度を変えたのを見て、やっぱり慣れてるんだ、と頭の隅の方で考えた。そのことが私は少し悔しかった。 「はい、おしまい」 オプションはないのかと尋ねたら、心臓の音が落ち着くまで頭を撫でてくれた。 ハルの身体からは汗と日なたの匂いがした。首筋に顔を埋めながら、「洗濯してる?」と尋ねると、彼は「洗濯機の使い方が分からなくて」と予想通りの答えを返した。 *** 特別な決めごとがあったわけではないけれど、その日を境に、私とハルの関係はただの友達から恋人になった。言い換えると、私にはちょっと(かなり?)風変わりな初めての彼氏ができた。 私が高校生活に慣れ始めたところで、ハルに合鍵を作らせた。そして、私はすぐに通い女房みたいなことをする羽目になった。 母には「文科系の部活に入ったよ」と説明して、放課後の時間はハルの家で家事をして過ごした。おかげで私の女子力は飛躍的に向上した。 「杏奈はテニス入るんでしょ」 五月の体験入部説明会で、友達からそんなことを言われた。中学校でキャプテンなんて柄にもないことをやっていたせいで、周りからは当然高校でもテニス部に入るのだろうと思われていたらしい。 「だいぶ視力も落ちてきたから、やめとく」 「あんなに一生懸命だったのに」 「これからは帰宅部として、帰宅することに全力を注ぐつもり」 「なにそれ」 受験勉強を始めた時期から、私の視力は急激に落ち始めていた。高校に入ったときにはかなり度の入った眼鏡が必要になっていて、裸眼ではすれ違った人の顔すら判別できないくらいだった。 繰り返すけれど、視力低下の原因は受験勉強である。決して、暗がりで読んでいた少女漫画や携帯小説のせいではない。 私が彼の部屋を訪ねるときには、彼は部屋にいることが多かった。夜勤のアルバイトをしていて、午前にはどこかの予備校に通っているらしい。そして、午後は寝ている。主に台所で。ベッドを台所に置いた方がいいのではないかという頻度で、その場所だった。 食事を作る段になって、台所で眠る彼を起こす。気が付くとそれが習慣になっていた。 「起きてよ。ご飯作れない」 「もうちょっと、寝かせて」 氷をシャツの背中に入れたり、タバスコを口の中にねじ込むといった方法で起こす日もあったけれど、大抵は寄り添い合って恋人らしいやり取りをした。私が寄りかかってきたことに気が付くと、ハルは両腕を伸ばして私の身体を抱きしめてくれる。とても高機能なリクライニングシートである。 「杏奈、シャンプー変えたでしょう」 「うん。なんとなく、自分用を買ってみた」 振り向くと、私の髪が彼の頬に触れた。私は中学生の頃からショートカットにしている。テニスコートの上を動き回るのに、長い髪は不便だった。 「前の方が好きな匂いだったなあ」 ハルは、恋愛ドラマで俳優さんが言うような甘い言葉を囁いてはくれなかったし、私もそんな期待はしていなかった。そして、ケーキみたいに甘い言葉がなくても恋はできるのだということを、私は彼から教えてもらった。 「好きとか言うな」 初めは恋愛の緊張感なんて日増しに薄れていくのだろうと思っていた。しかし、身体が触れ合う瞬間の震えるような感覚は、いつまでも鮮明なままだった。小鳥のように互いの唇をついばみ合いながら、一秒でも離れたら自分は死んでしまうのではないかと錯覚した。 誰かを好きになるということはとても怖いことだ。そしてそれは、少しずつ視力を失うことに似ているな、と私は思った。 それからしばらくして、ハルが通っているという予備校のことを知った。二人で夕食を食べているときのことで、特別なきっかけはなかった。 「俺、美大に行きたいんだ」 そもそも、勉強嫌いの彼が予備校に通っているということ自体、私には疑問だった。 ハルが通っていたのは、美術大学を受験する人たちのための予備校だった。芸術一般に関する講義を受けながら、それぞれに絵画や映像制作の技術を学ぶのだという。 「もし時間があったら、今度の土曜日に一緒に行こう」 ハルが私の知らない間に一体何をしているのか、それまで謎に包まれていたし、まさか美大を目指しているとは知らなかったので、とても興味を惹かれた。 私は二つ返事で快諾し、その週末、ハルと一緒に彼の通う学校を訪れた。 どうやら、美大専門の予備校は県内にさほど数があるわけではないらしく、学校は彼の住んでいるアパートから電車でずいぶん離れた場所にあった。 「こっち」 彼に促されて門をくぐった。表面に複雑な幾何学模様があしらわれており、美術の学校だという風情があった。校内では色とりどりの花を植えた花壇が道に沿って並んでいる。まるで西洋の庭園みたいだった。歩いている人は圧倒的に女の人が多い。 「なんか、学校っていうより整備された公園みたい」 「そうだね。よく近所のおじさんとかが散歩に来たりするんだよ」 彼に案内されて校舎の中に足を踏み入れた。比較的新しい建物で、近代的な建築手法を取り入れていることは私でも分かった。吹き抜けになったホールから頭上を見上げると、天井で色ガラスが光を散らしていた。 「三階にいつも油絵を描いている教室があるんだ」 予備校には油絵科から、建築科、映像科まで大小様々なクラスがあるらしく、かなりの美大志望者がここで美術を学んでいるのだと彼は教えてくれた。 教室には、置き椅子やキャンバスを置くための器具などがずらりと並んでいた。 黒い塊を手に持って何か描いていた女の人が、私たちに気付いて会釈した。長い髪の、きれいな人だった。乾いた絵の具で汚れたエプロンを前にかけている。 「おや、佐藤くん。土曜に来るのは珍しいねえ」 その子は妹さん? と女の人に訊かれたことにはムッとしたけれど、それ以上に、俺のはとこだよ、とハルが答えたことが気に入らなかった。彼の足を思い切り踏み付けて、 「彼女と言いなさい彼女と」 と指示すると、ハルはそのように訂正した。従順なやつである。そのやり取りを見て、長い髪の彼女は形の良い目をすっと細めた。 「あの人はクラスメイト?」 「そうだよ。俺より年下だけど」 私の中の嫉妬の炎は一息に燃え上がり、そして途端に自分の自信のなさに燻った。 認めたくはないけれど、彼女はとても美人だった。 私の知らない間に、こんな場所でハルは一日を過ごしていたのだ。彼女たちをモデルに絵を描いたりするのかもしれない。(さすがに裸とかはないよね……) 「佐々木さんは、九月のコンクールの準備?」 「うん。まだ素描だけどね」 彼女が手に持っていたのは木炭で、油絵を描くときは、まず炭で下地の絵を描いてから油絵の具を重ねていくのだと、佐々木さんという女の人は教えてくれた。 「見せてもらってもいいですか?」 私が訊ねると、彼女は快く頷いてくれた。見やすいように置き椅子まで勧めてくれる。残念ながら性格も良いようだ。悪魔のような性悪女ではないらしい。 「すごいですね」 下書きなのか私には判断できないくらい繊細な線で、その素描は描かれていた。お皿や果物などを配置した素朴な絵だった。彼女の前にはモデル図として実物が置いてある。 「これって、完成するまでどのくらいかかるんですか」 「だいたい二カ月以上はかかるかなあ。まあ、個人差はあるけどね」 「そんなに」 一つの芸術作品を作り上げるということは、それだけ大変なことなのだ。ちなみに私は美術が大の苦手である。彫刻刀は指を削ぎ落とすための武器だと思っている。 ちょっとトイレに行ってくる、とハルが言うので、私はいつまでも佐々木さんの邪魔をしてはいけないと思い、席を離れた。しげしげと教室の中を見て回っていたら、 「佐藤くん、油絵科でも何人かに狙われてるから、釘を刺しておいた方がいいわよ」 というお告げがあった。振り向くと、佐々木さんが悪戯っぽい目でこちらを見ていた。どうやら彼女はライバルではなく、心強い味方だったらしい。 学校の近くで夕食をとって、電車で彼のアパートに帰った。土曜だったので、家族には友達の家に泊まると嘘をついておいた。 「天気がいいから屋上に行ってみようか。星が見えるかも」 「賛成」 アパートの屋上は飛び降り防止用のフェンスもない殺風景な場所だった。隣にある棟の屋上には、植物を植えるプランターと物干し竿が置かれていた。 両手を広げて大の字に寝転がる。真下のコンクリートが首筋に触れてひんやりとした。 「星、よく見えるね」 「今夜は三日月」 意味のない記号のように並べられた星に、何か絵を描こうと頭の中で線を引く。しかし、図工と美術で安定した低成績を誇った私の想像力では、そこから何のイメージも浮かんでこなかった。 私は腕を伸ばして彼の手を探った。夜の気配が胸元に忍び込んできて、なんだかひどく心細い気持ちになった。 暗闇の中で指先が触れ合う。彼は私の手を見つけてしっかりと握った。大の字の横棒が繋がったおかげで、空から見たら不思議な象形文字に変わったように見えるだろう。 「佐々木さんって」 「ん?」 「きれいな人だね」 彼女の控えめな笑顔を夜空に浮かべる。 優しげに細められた目元。今夜の三日月みたいに。 「そう?」 「髪が長くて、背が高くて」 「うん。長くて高い」 私はハルにすり寄って、身体をくっつけた。 「私も伸ばそうかな」 「身長?」 「身長はもう伸びないよ。髪だよ」 「そっちか」 「そうしたら、今よりもっと好きになってくれる?」 「うーん。今よりは、無理だなあ」 好きな気持ちは今の状態で百パーセントに達しているのだ、というシンプルな内容を、彼はいまいち分かりにくい言葉で私に伝えた。 「いちおう言えるんだね」 「なに?」 「ケーキみたいに甘いやつ」 「夜に甘い物食べると太るよ」 「そういう意味じゃない」 私はあなたより五歳も若くて、採れたばかりの果実みたいにぴちぴちなんだよ、というシンプルな内容を、なるべく分かりにくい言葉でハルに伝えた。 しばらく黙り込んでから、彼はふと思いついたように言った。 「寒いからそろそろ部屋に戻ろうか」 「うん」 部屋に戻ってから特にすることが見当たらなかったので、歯を磨き、交代でシャワーを浴びて、それから二人で同じ布団に入ることにした。 明かりは緑色に蛍光するタイプの電球を使っていたから、暗闇の中でも服を脱いでいく彼の姿はよく見えた。靴下はかかとがすれていて穴があきそうだ。ベージュのチノパンに染みが付いている。シャツには皺が寄っているから、明日アイロンをかけよう。 恥ずかしかったのか、彼は急に私の鼻筋に手を伸ばして、邪魔なものを取り払うように私の眼鏡を取った。水中から見上げたみたいに、目の前が歪む。 私の短い髪を撫でながら、ハルは私の額や首筋、身体の隅々に口づけをした。それから場所を唇に移し、身体をぴたりと合わせた。長くて熱い、でも優しいキスだった。 現在が目の前を剥がれ落ちていく。頭の奥が甘く痺れて、何も考えられなくなった。 「痛かったら言って」 彼は割れ物を扱うように私に触れ、たびたび私の様子について訊ねた。正直痛くて死にそうだったし、さっさと終わって欲しいとしか思わなかったけれど、そうやって優しさを注がれることで、自分がとても上等なものになったような気がした。 「さあこい」 「なにそのレスラーみたいな掛け声」 彼の背中に手を回すと皮膚の表面がごつごつしていた。なんだかすごく頼もしかった。骨格も筋肉も、私とはまるで違う。ハルも男の人だったんだなあ、という不思議な感慨を持って、私は目を瞑った。 その日は私にとって忘れられない一夜になった。もちろん、トラウマ的な意味で。 *** 「華道部に入ったなんて、嘘だったのね」 そう母に言われたのは、夕暮れの蝉がカナカナと鳴いている、夏の終わりのことだった。私は縁側で網戸越しに自宅の庭を眺めていた。豚の形をした陶器から、蚊取り線香の煙が立ち上っている。 「何の話?」 鳴いていた蝉が不意に静かになり、今度はコオロギの鳴き声が浮き上がって聴こえた。すっかり陽は落ちて、涼しげな風が心地よかった。 「とぼけるのはやめなさい。絵里ちゃんのお母さんから聞いたんだからね」 ――これからは帰宅部として、帰宅することに全力を注ぐつもり。 さては絵里のやつ、喋ったな。 「サーティワンのトリプルじゃ口止めにならなかったか……」 蚊取り線香の煙に巻かれて、蚊がぽとりと目の前の畳に落ちた。羽ばたくのを止めれば地球の引力に逆らうことはできない。簡単なことだ。 「そもそも、私に華道なんて似合わないでしょ」 「どうして嘘なんてついたの」 「私、ハルと付き合ってるんだ」 母の返事には、わずかな間があった。 「ハルって、あの春馬くん?」 「そう。お母さんたちの嫌いなあの春馬くんだよ」 私の母が小さい頃の私にハルを近寄らせたくなかったのは、彼が小学生のときに特殊な学級に入れられた経験があったためらしい。授業中に教室を抜け出して廊下を歩き回っていたのが原因だったと、本人からは聞いている。 「帰りが遅い日は、あの子と遊んでいたの?」 母が口の端を歪めて訊ねてきた。薄暗い和室の中で見たその顔を、今は少しだけ、嫌いだと思った。 「ハルは大学辞めてから一人暮らしをしてるんだよ。だから夕飯を作ってあげたり」 私の学校の近くに彼のアパートがあるのだと、母に話した。そして、それと今の高校に進学したこととの関係性については、話さなかった。 「そんなことしてるなんて、知らなかったわよ」 「言わなかったからね」 「春馬くんは何をしてるの」 「フリーター。それから、美大目指して油絵描いてる」 聞こえるか聞こえないかという小ささで、母はため息をもらした。 「私がとやかく言うことじゃないけれど」 別れなさい、と母は言った。とやかく言わないと前置きしたくせに、いやにきっぱりとしていた。 「いやだ」 もともと母は挨拶をしない人間が嫌いで、ハルみたいなはっきりとしない人間はもっと嫌いなのである。しかしどうやら母としては、あちらの家族とは関わりを持ちたくない、というのが本音らしかった。 「あの家はね、うちとは住んでる世界が違うのよ。せっかく入った大学まで辞めて、油絵だなんて……」 その言葉が、ひどく私の気に障った。 ハルを好きになってから、以前なら気にならなかった些細なことでも気分が浮き沈みを繰り返した。喧嘩をした後には、呼吸ができなくなるほど苦しくなった。世界中でその人だけが特別な存在だった。その不安定さを、私は大切にしたいと思った。 「そういうの、私たちには関係ないから」 私は立ち上がってその場を離れた。台所からは醤油を焦がしたような匂いがしていた。背中で夕飯のメニューを告げた母の声に、私は無視をすることで答えた。 ハルの母親がアパートにやってきたのは、それからすぐのことだった。 私は鶏肉とトマト缶の入ったビニール袋を片手にぶら下げて、玄関の前に立ち尽くした。鍵が開いており、中にハル以外の誰かのいる気配があった。 どうやらハルはまだ帰ってきていないようだった。わずかな逡巡の後、私は扉を開ける覚悟を固めた。 「こんばんは」 私の顔と手に持ったビニールの袋を交互に見て、ハルの母親は納得したような顔をした。事情はすでにうちの母から聞いているのだろう。 「うちの子がお世話になっているみたいね」 怖ろしく他人行儀な声で彼女は言った。その冷ややかな目が私の顔をひたと見据える。切れ長の一重で、鋭敏な印象を相手に与える人である。私はビニールを掴んだ右手に力を込めた。 「いえ」 それだけ返して、彼女の言葉を待った。 「あの子は」 「まだ予備校なんだと思います。週末だとたまにそういうこと、あるから」 「予備校」 彼女が部屋の隅に置かれた画材を忌々しそうに眺める。私は思い切って質問した。 「お母さんは、ハルが大学を辞めて美大を目指すことに、反対だったんですか」 「家出同然で飛び出して行ったのよ。こんな場所で暮らしているなんて知らなかったわ。その上、あなたみたいな高校生を毎日家に連れ込んで」 「それは私が勝手にやってるだけで……」 「あなたがどういうつもりかなんて、問題にしていないわ」 「でも、真剣なんです」 ハルの夢も。私の気持ちも。好きな人の夢を実の母親から否定されて、それ以外に何と返答すれば良かったのだろう。しかし、彼女から見れば私はただの高校生で、ただの遠い親戚である。それ以上でも以下でもない。 「真剣なんて言葉は、あなたみたいな子供が使うものじゃないの」 有無を言わせない口ぶりだった。胸の中心にひびが入り、悔しさがじわりと広がる。 「こんな汚いアパート、すぐに解約させるわよ」 「話を聞いてあげてください」 「勝手に大学を辞めて、美大だなんてバカなことを言って、本当に昔からあの子は――」 ハルのために何か言っておきたくて、でも何も言えなくて、思わず涙が滲んだ。 「とにかく、分かっているでしょう。あなたのお母さんからも言われているのよ」 それだけ言い残して、ハルの母親はアパートを後にした。 家に帰って自分の部屋で泣いていると、携帯電話が震え始めた。母さんがひどいことを言ったみたいでごめんね、という短いメールが、ハルから送られてきた。 *** 海に行こう、と言い出したのはハルだった。 「杏奈のおばあちゃんの家の近くにある海岸、行ったことがあるでしょ」 「あるけど」 「きっと今だとクラゲがたくさん浮いてるよ。楽しみだね」 「それ楽しみポイントじゃないと思う」 このところ、ハルは私の前で不自然なほど明るく振る舞っていた。 「ゴムの手袋で触るとぷよぷよして気持ちいいんだ。クラゲでキャッチボールをしよう」 「もし投げてきたら一生口きかない」 あの日、ハルの母親がアパートを訪ねてきてから、ハルは母親と話をしたのだろうか。そのことについて彼が口にしようとしないので、私も訊かなかった。 まだアパートは解約されていないらしく、私は懲りずにアパートを訪れては彼といちゃついていた。あなたがいないとどうだとか、けっこう恥ずかしいことも平気で言った。 私は焦っていたのだと思う。二人の母から否定された私の拠り所は、彼が与えてくれる愛情とそれを示す行為、それだけだったから。 週末にレンタカーを借りて祖母の生家まで行くことになった。彼の免許証をまじまじと確認したけれど、どうやら偽造ではないようだった。私は教習所がハルに実施試験を通過させたことを心から恨んだ。 「電車じゃダメなの?」 「いいけど、結局駅からバスとか使わなきゃ移動できないんだ。車の方が便利だよ」 「運転、ハルがするんだよね」 「もちろん」 嫌だまだ死にたくない、と私が喚いて許しを請うと、死ぬときは一緒だよ、と彼は全く感動的ではない言葉を口にした。 「じゃあ出発」 しかし、走り始めると意外に安全運転で、取り越し苦労だったということが分かった。 ただ一つ計算違いだったのは、そのレンタカーにナビが付いていなかったことと、彼がものすごく方向音痴だったということである。私たちは間違ったジャンクションを降りて再び高速道路に戻るという不毛な行為を何度も繰り返した。 高速を降りると、道は急に細くなる。舗装の剥がれた道路の間から雑草が生えていた。古めかしい日本家屋が並び、ひなびた山あいの集落といった印象である。延々と続く山の麓には細い川が流れている。 「懐かしいなあ」 「ハルは何回か来たことあるの?」 「うん。俺、じいちゃん子だったからね。杏奈のおばあちゃんともよく遊んでもらった」 祖母は夫を早くに亡くしていたため、ハルの祖父が住む生家に移り住んでいたらしい。 ――はるまくんはおばあちゃんと仲良し? ――仲良しだったよ。だから、今はすごく悲しい。 不意に幼い頃の記憶が蘇り、胸の内側が温かくなった。あの頃はハルとこんなに親しくなるなんて思いもしなかったし、誰かを好きになることの苦しさも、知らなかった。 「涙がなくなっちゃった、とか言ってたよね」 ハルは私の言葉には答えずに、フロントガラスを見つめていた。運転をしているせいか、その横顔はいつもより大人びて見えた。「着いたよ」と言って、彼は車を停めた。 祖母の生家ではまだハルの祖父(つまり私の祖母のお兄さん)が一人で暮らしていた。畑仕事をしているためか顔が真っ黒に焼けていて、笑うと茶色い歯がわずかに覗いた。 「よう来たな」 私はワンピースの裾を持ち上げながら挨拶をした。こりゃべっぴんさんになったなあ、とハルの祖父が呑気に答える。アンリちゃんだっけか? と彼は惜しい名前を口にした。 「杏奈です」 もともと、母方である祖母の家と私の家族は疎遠だったのだ。だから私には彼と話した記憶がほとんどない。 「春馬はお前、相変わらずひょろひょろして」 「じいちゃん元気そうだね」 とにかく上がるようにと促され、三和土で靴を脱いだ。久しぶりの来客なのか、ハルの祖父はなんだか上機嫌だった。 「来月に海祭りがあるぞ」 この地域では秋に豊漁を祝う祭礼が海岸で行われ、お神輿を持って海に入るのだという。九月の頭にあるらしい。小さい頃はよくおじいさんが神輿を担いでいる姿を見に行ったのだと、ハルは懐かしそうに話した。 「それにしてもどうした。急にこんな田舎に来て」 「海が見たくなったんだ」 「そうかそうか。春馬は昔から海が好きだったもんなあ」 夜になったら花火をしようとハルが提案するので、私は頷いた。ハルの祖父はシャツの上からぽりぽりと背中をかいて、「若いもんがいると賑やかでいい」と笑っていた。 夜になり、シャワーで汗を流してから、私たちは外に出て夜風に身を浸した。海沿いの道をしばらく歩いたところにコンビニがあったので、そこで花火セットを買った。 街灯の少ない海辺の夜道は静まり返っていて、ときおり波の音が耳に届いた。鮮やかな青さを映す昼の海とは違い、夜の海はうっすらと冷気を孕んでいる。 潮風の匂いが風に乗って鼻先をよぎる。私は前髪を押さえて、ハルの横顔を見上げた。お昼におじいさんと話していたときは楽しそうにしていたけれど、私と二人きりになるとハルは黙り込むようになった。少し話しかけにくい雰囲気だった。 「この辺に座ろうか」 海の家の前にある砂浜に腰を下ろして、私たちは夜の海を眺めた。広がる海の中には、たっぷりと暗闇が詰まっている。ぼうっとしながら前方を眺めていると、ハルがおかしな言葉を口にした。 「しーしーしーだね」 「なにそれ」 「彼女は海を見ている、を英訳しただけ」 おもしろいアイディアだなあ、と私はハルを褒めてあげた。それから、彼はまた一言も話さなくなった。 低く呻くような波音が、二人の間に横たわる沈黙を埋めていた。 静寂がもどかしくて、ずれたワンピースの肩紐を私が直していると、ハルが身体を抱き寄せて口づけをしてきた。突然のことで、いつもより乱暴なやり方だった。 「どうかしたの?」 不安になって尋ねると、 「今夜はちょっと曇ってるね」 とハルは話題を逸らした。薄い雲が夜空をゆっくりと流れ、月光が海の上に帯を作っていた。まるで、海の上に橋が架かっているようだった。 「あの上を歩いて行ったら、杏奈のおばあちゃんのところに行けるのかな」 「天国まで続く光の橋」 「ねえ杏奈」 美大、行けなくなっちゃったよ。迷子になった子供みたいに、ハルは小さく呟いた。 「……お母さんに、何か言われたの?」 どこか遠くで一筋の閃光が瞬く。瞬間、蠢くような雷鳴が轟いた。月はたちまち薄雲に隠れ、霧にも似た雨が私たちの上に降り注いだ。 慌ててハルの袖を引く。彼は暗い海を見据えたまま、その場を動こうとしなかった。 「もう一度大学に入り直して、父さんの会社で仕事をするんだって」 「でも、ハルは油絵がやりたいんでしょ」 「やりたい」 「だったらお母さんに分かってもらえるまで頑張ろうよ。私、応援するから」 すがるようにハルの腕に両手を添える。けれど、彼は私の手を強く振り払った。 お腹の底の方から、何かとても冷たいものが這い上がってくる。それは私の胸の内側を満たして、次第に身体の隅々にまで広がっていった。 「無理だよ」 「どうして」 「母さんには、逆らえない」 ハルは頭を抱えて俯くようにした。激しさを増した雨は彼の細い髪を濡らし、たまった水滴がシャツの背中に流れていく。うなだれた彼の後ろ姿に、私は思わず息を呑んだ。 背中から下腹部の方にかけて、太く白い線のようなものが無数に走っている。恐る恐るその跡を指でなぞると、ハルは目を瞑って深く息を吐いた。 ――私の鼻筋に手を伸ばして、邪魔なものを取り払うように私の眼鏡を取った。 服を脱ぐとき、ハルは私が眼鏡をかけていることを嫌った。 「言うことを聞かないと、こうなるんだ」 兄や姉と違って自分は母親を困らせてばかりいるのだと、ハルは話した。なにか母親の気に障ることがあるたび、彼は罰を受けた。彼にとってそれは日常だったし、その意味を疑ったことは一度もないのだという。その『教育』は、高校生になるまで続けられた。 「母さんの機嫌が悪いときには部屋に入れないから、台所で寝てた」 ごく平凡な家庭に育った私には、想像のできない話だった。 「どうして今まで、言ってくれなかったの」 ふたたび薄雲に覆われていた月が現れて、白く透明な光の橋が架かった。降り続く雨に打たれ、その輪郭は微かに揺らめいている。 私はハルの頭を引き寄せて彼の背中に手を当てた。シャンプーの匂いが鼻先をよぎり、不意に私は泣きたくなった。 「泣くとか笑うとかそういうこと、杏奈と会うまで、しばらく忘れてたんだ」 合わせた肌から伝わる彼の体温が、私には、ひどく悲しかった。 翌日の夕方になって、ハルの祖父にそろそろ帰ることにすると告げた。 「もっとゆっくりしていけばいいのになあ」 「明日から学校なので」 「そうか」 ふと、ハルの祖父は顔を赤らめると、『ちゅう』はもう済ませたのかと中学生のような質問を口にした。親戚とはいえ一種のセクハラだと私は判断して、無視することにした。 「また、海祭りのときに来いよ」 「うん。じいちゃんも元気で」 手を振るハルの祖父に、ハルは窓から身を乗り出して答えた。そして、私たちは祖母の生家を後にした。 車内ではハルも私も無言だった。黙ったまま、二人でフロントガラスを見つめた。赤く熟れた太陽が山の端に沈んでいく。運転席の彼の頬に、夕陽が暗い影を落としていた。 日曜の夕方でも高速道路はさほど混んでいなかった。車の通りはまばらで、対向車線を走る車の何台かはヘッドライトを点けている。 「あのアパートはどうするの」 沈黙を破るようにして、私は尋ねた。 「来週の内に引っ越しを済ませるって、母さんが言ってた」 「予備校は?」 「母さんが先週に退学の手続きをしたんだ」 「……ハルは何でも、『母さん』なんだね」 わずかな苛立ちを隠せずに私は呟いた。 「杏奈?」 「何でもない」 空っぽの時間だけが過ぎ、気が付くとすっかり日が暮れていた。 等間隔に並んだ常夜灯が後方に流れていく。窓の表面は鏡のようになり、運転席に座るハルの横顔を映していた。私は助手席のサイドミラーを見つめながら、彼とのこれからについて考えていた。 左側の車線を黒塗りのワゴンが追い越していく。 「お腹すいたね」 「次のパーキングで何か食べようか」 エアコンの送風口から冷気が滑り込んできて、私は身震いした。もう秋が近づいているらしく、陽が沈むと少し肌寒い。私は二の腕をさすり、ハルに話しかけた。 「ねえ」 「うん?」 「ちょっと寒い。エアコンの温度、少し上げてよ。風量も落として」 彼は操作パネルに手を伸ばして、温度を調節するための摘まみを探した。そのとき彼が意識を逸らしたのはほんの数秒の出来事で、そのことが私たちの命運を分けた。 突然、耳を劈くようなクラクションの音が鳴り響く。視界が大きく揺れ、シートに押しつけられた。車体は歪み、窓が粉々に砕ける。背中から全身にかけて強い衝撃が走った。 それからの記憶はほとんど残っていない。 遠のく意識の中で、ハルがその瞳を閉じた瞬間を、私は確かに、見たような気がした。 *** 「左車線を走ってた大型トラックに追突されて、私たちの車は横転したらしいわ。ハルは運転席で車の下敷きになって、そのまま」 最後まで話し終えると、私はすっかり冷めてしまった紅茶に口を付けた。向かいの彼も思い出したように煙草を手に取り、自分で火を点けた。 それは、私の中の少女が体験した、ひどく幼い恋と、別れの物語だった。 あれから十年が経ち、少しずつ彼の表情や仕草は薄れていくけれど、ふとした瞬間に、ハルのことを思い出すことがある。それからの私の人生は、過去の記憶を手繰り寄せては彼の幻を追いかける日々だった。 「なあ、杏奈」 おもむろに、彼は私の名を呼んだ。 窓の外に落下する無数の雨音が、ホワイトノイズのように耳の奥に響く。 「一つだけ、訊いてもいいかな」 煙草を灰皿に押し付けながら彼は尋ねてきた。抑揚のない声だった。 「なに?」 「君たちはレンタカーを借りて親戚の家まで旅行に行った。そして、帰りに運悪く事故に遭った。君は助かり、彼は亡くなった。そういう話だったね」 「ええ」 「事故は彼の不注意だった」 「ぶつかってきたトラックの運転手は、私たちが蛇行運転をしていたって」 幸いにも、私は軽傷だったので一カ月ほどの入院で済んだ。その間、事故の補償などの手続きはハルの母親がやってくれたらしい。 彼が一体何を訊きたいのか、私にはよく分からなかった。 「――どうして君は、彼にエアコンの操作を頼んだんだい?」 私の反応を窺うように、彼が視線を向けてくる。私は紅茶に手を伸ばして唇を湿らせた。 彼はゆっくりと質問の意図を説明した。 「聞いていて、なんだか違和感を覚えたんだ。普通、エアコンの温度や風量の調整なんて助手席にいる人間がやってもいいものだろう?」 彼が足を組み替える。腰かけたスツールは軋んだ音を立てた。 「それは、彼の方が詳しいと思ったから」 「そうなんだ」 「うん」 セットのケーキを彼がフォークで割くと、中から血のように赤いソースが溢れてくる。彼はそれを口元に運びながら首を傾げた。 「でもそれも、変だな。自分の車なら、勝手が分かっているから運転手に頼むこともあるかもしれないけど、君たちが乗っていたのはレンタカーだったんだよね。それに君の話を聞く限りでは、彼は携帯のメール機能も満足に使えない、機械音痴だったみたいだけど」 手のひらがじわりと汗ばむ。背中に微かな震えが走った。 「私も迂闊だったと思うわ」 「迂闊」 ふと彼から視線を逸らすと、カウンターの奥でウェイトレスの子がトレイを胸に抱えてこちらを見ていた。注文を取るときに彼が式場の話を持ちかけてきたのを聞いたからか、私たちの話に興味を示しているらしい。 白髭の店主らしき男性が、彼女の頭に拳を軽く当てた。 「もう一つ。左の車線を走っていたトラックがクラクションを鳴らして追突してきた、というのがよく分からないんだ。僕が運転手なら、前を走ってる車が蛇行運転を始めたら、スピードを落として車間距離を取ると思う。どうしてそんな事故が起きたのかな」 珍しく饒舌な彼の口調に、私は少し驚いた。 「でも、トラックの運転手もぼうっとしていたのかもしれないよ」 ほとんど意味のない可能性について私は口にした。 彼は口を開きかけて、それから躊躇うように下唇を噛んだ。何か大事なことを言おうとするときの、彼の癖だった。 「君はサイドミラーを見つめながら彼とのこれからについて考えていたと言ったね。彼は美大に進学する夢を諦めて、父親の会社で働く。母親が、彼と君が付き合い続けることを許すとは思えない。そのとき君は、サイドミラーで何を見ていたのかな?」 カップに手を伸ばすと、紅茶はもうほとんど残っていなかった。 「それは……」 許されるとは思っていない。 そしてこれからも、私が私自身を許すことはないだろう。 呼吸が止まるほどの激しい感情に駆られて、自分で自分の身体を傷つけたこともある。彼が私の手首に残る傷跡の理由について、尋ねたことはない。 布巾を手に取り、彼はソースの付いた口元を拭いた。 「いいよ。ぜんぶ、僕の想像なんだから。僕は過去を掘り返したいわけじゃない。ただ、言っておきたかったんだ。どんな過去があっても、僕は一生、君を愛し続けるって」 すぐ傍で陶器の割れる音がする。ウェイトレスの彼女がカップを床に落としたらしい。取り乱す彼女を叱責するでもなく、店主は冷静に後片付けを始めた。 「最後の方、聴こえなかったよ」 それは彼からもらった、初めてのプロポーズの言葉だった。 「上手く言えたつもりなんだけどな」 「……ありがとう」 小刻みに震える私の腕に、彼が手を添えた。嗚咽を堪えながら、私は子供みたいに顔を歪めた。見開いたままの目の端から、涙が次々に溢れては、頬の上を伝った。 ふと横に目をやると、窓の外には晴れ間が覗いていた。どうやら通り雨だったらしい。湿り気を帯びた大気を淡い光の粒がさらっていく。雲間から差した光の橋は、通りの道に沿ってどこまでも長く延びていた。 煌めく白い光の中に、ハルは一人歩いていく。私の愛していた人。いつでも眠たそうな目をした、弟のように純粋で、兄のように優しかった人。 「帰ろう」 彼は立ち上がり、私の肩に手を置いた。私は一度ハンカチで目元を拭いて、背後の壁にかけていた上着を手に取った。 「秘密を教えた代わりに、一つ、お願いがあるんだけど」 「うん」 「煙草、やめられない?」 赤ちゃんにも良くないし。私が控えめに零すと、彼は私のお腹を見つめて、眩しそうにその目を細めた。 彼の意見や好みを訊いたり、相談したりしながら物事を決めていくということが、私の毎日をどれほど意味のあるものにしているか、彼に、そしてハルに伝えたかった。 ねえハル? 私、もうすぐこの人と結婚するよ。無口だけど気配りのできる人で、余裕があるようなフリしてるくせに、ちょっと嫉妬深いところもあるの。機械に強いし、方向音痴でもないみたいだから、あなたとはずいぶん違うかもしれないね。 「言って」 「なに?」 「ケーキみたいに甘いやつ」 光の向こうから、「夜に甘い物食べると太るよ」という声が聞こえたような気がした。お腹が膨らんでるのは太ってるわけじゃない、と私はハルに教えてあげた。 「必ず幸せにする」 私はその言葉を、いつでもまた取り出して聞けるように、大事に胸の奥にしまった。 おしまい |
Phys
2012年06月10日(日) 08時20分05秒 公開 ■この作品の著作権はPhysさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.11 白星奏夜 評価:30点 ■2012-07-21 12:51 ID:LuursefdGYI | |||||
こんにちは、白星です。 だいぶ遅いコメントで気付かれなかったら、すみません。 拝読させて頂きました。ハルと杏奈、素晴らしい二人でした。いや、ほんと過去形になるのが哀しくて仕方がないのですが。人と人が、心を通わせる過程、本当に描くのは難しいですね。でも、自然と読み進めることができて、上手いなぁと思いました。 旦那さんの探偵モード入りには、ちょっと驚いてしまいました。物凄い洞察力。でも、最後は前を向いた彼女に本当に拍手を送りたくなりました。私は、トラウマから抜け出せそうにないような(泣 あ、ほんとに今更ですが、というか指摘されているかもしれないですが。杏奈が、安奈になっているところがありました。一応、報告を。 個人的には、はんだ、のお話しがより好みに近かったかもしれません。いえ、そんなこと言われてもお困りになりますね。すみません。 もっともっと恋愛小説、堪能させて下さい!! そして、いつか、悪魔の誘惑にのってファンタジーを見せて下さい(願望です。無視して下さっても無害です) 何か色々と詰め込んだコメントになってしまいましたが、今回は失礼させて頂きます。ではではっ。 |
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No.10 Phys 評価:0点 ■2012-06-24 21:16 ID:70DOORYLZH. | |||||
ゆうすけさんへ >とぼけた味わいから実は悲しい家族環境がある、こういうキャラはこのサイトだとHALさんが書いたことがある それは非常に、恥ずかしいというか、こんな感じで申し訳ない気持ちです……。 HALさんの人物造詣はとにかく考え抜かれていますし、何よりたいへん魅力的 ですよね。一度読んだら虜になってしまいます。私は筆力以上にキャラクター そのものの作り込み(つまりは前設定)が甘いので、どうもお話の中でぶれて しまうことが多いです。このあたりは、経験を積んだらいつかHALさんのように なれるのでしょうか。(叶わぬ夢は諦めた方が幸せなのかも……泣) >せっかくの看護婦さんとの合コンで、いきなり院内感染とか耐性菌の話を食事中にしてドン引きされたりとか。 すごくおもしろそうなお話じゃないですか。笑 あまり詳しくはないですけど、 多剤耐性のMRSAとかのお話ですよね? でも、確かに看護婦さんたちも 飲み会の場に来てまでお仕事に関係したお話を聞きたくなかったのかもしれ ないですね。 自分が好きなものをとことん追求するのは素敵なことだと思います。わたしは それなりに好きなことを大切にしながら、日々のらりくらりと生きていこうと 思っています。(小説もその一つです) >婚約者のいきなりの探偵ぶりがちょっと違和感ありますね。 やっぱりそうなんですよね。白状しますと、この最後のところを書きはじめる ところで筆が止まってしまいまして、本編を書き終えてから二週間くらい停滞 していました。それで、ある日一気に結末まで強引に持っていき、校正をして みたものの、この感じで投稿してしまいました。汗 >秘密を婚約者に語るカタルシス シャレだと思います。笑 >きっかけとなる突っ込み程度に留めた方が自然かな。・・・それでも愛する彼氏にできたらより感動的かも。 zooeyさんから頂いたご助言と合わせて、改稿はその方向性に持っていこうと 思っています。とても参考になりました。そして温かいお言葉、ありがとう ございます! >女性作家が描く男性キャラ、紳士的で優しい男性が多い気がします。・・・少女が女になっていく過程 次は今回とはかなり雰囲気の違うお話を書こうと構想しているので、紳士的な 男性キャラは卒業します。笑 ぐいぐい引っ張っていく人を書くのもありだと 思っているのですが、どうも私の書く主人公は理性的というか、我が強すぎる ようです。私が物事に対してはっきりしすぎなのかな……。汗 参考になるご助言ありがとうございました。大変勉強になりました。ゆうすけ さんも、お体を労わりつつ、ご家族のために頑張ってくださいね。お仕事中に こんな少女マンガみたいな創作小説読んでちゃダメですよ。笑 長々と失礼しました。 らたさんへ らたさんから感想を頂けるなんて。今日はお祝いをしなきゃいけないようです。 でも、主人公と同じでお酒は弱いので、ノンアルコールビールでも飲むことに します。笑 >読み手のペースに文章が足取りを合わせてくれているような感覚になります。 いえ、大半が作者の独走です。追いついて下さったらたさんに感謝するばかり です。しっかりした文章力がお有りのらたさんに褒められるのは、とても光栄 ですが、個人的にはもっとしっかりしたいです。表現が幼稚すぎるので、らた さんみたいに読む人をハッと言わせるものが書けるようになれたらいいなあ、 と思っています。 >夕方で夜でアパートでフリーターで高校生……。青春ですね。 ちょっと変わった青春ですけど、それなりに青春を書けていたとしたら嬉しい です。私の青春は今や遥か遠くです。後悔しかありません。(嘘ですが) らたさんも後悔しないように全力で青春して下さいね。自分を理解してもらう ことから逃げずに。(女は度胸です!) >主人公が心中なんていういわゆるヤンデレ的な発想まで一体いつ至ったのかというところです。 ヤンデレという言葉を今まで知らなかったのですが、病んだ人、みたいな意味 なんですね。若者語にうとくてすみません。(もう年なんです……)でもそう ですね。恋愛は病です。だからこそやめられないのかもしれません。中毒性が 高いので、一度その味を知ってしまったら、もう逃れられないです。 危険な行動力にリアリティを持たせられなかったのは、ひとえに私の実力不足 です。というか、実力って何? みたいなレベルですけど……。でも少しずつ 成長はしていってるような、いないような感じなので、私も続けていきたいと 思います。お話を作ること。 >よくコメントを貰っているのにも関わらずPhysさんの作品に感想をつけるのは初めてになります。 いえ、私は単純にらたさんのファンなだけです。見返りはまったく求めてない です。笑 らたさんは私のハートを鷲掴みにするような、きゅんとする小説を 書いてくれさえすればそれでいいんです。また次回作も最大限の期待で待って います。失礼しました。 |
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No.9 Phys 評価:0点 ■2012-06-24 21:26 ID:70DOORYLZH. | |||||
zooeyさんへ >春馬くんのキャラクターは、きっと他の人が書いたら奇抜すぎるのかな 春馬くんのキャラクターは確かに独特ですね……。飄々とした男性を書くのが けっこう好きなので、会話も組み立て易かったです。コントのボケ役みたいな。 >今時ケータイメールの送り方分からないなんて若者いるのか? いや、それが、いたんです。男の人じゃないですけど、女の人で身近に……。 自転車も乗れないらしいですし、一体どうやって暮らしてきたのか、未だに 疑問符が消えません……。 >主人公のラストの行動は、確かに嗜められてはいますが、どこかお話の上では正当化されてしまっている ここは、もしzooeyさんに読んで頂けたとしたら、絶対に指摘されるだろうと 思っていたところでした。そして、願わくば改稿の方向性を示してもらえたら いいなあ……みたいな他力本願な考えで投稿してしまいました。 というのも、私はzooeyさんの「物語の眺め方」をすごく信頼していまして、 zooeyさんは、私自身が「どうもここはいまいちだなあ……」と自覚している 点を見事に突いて、的確なコメントを下さるからです。 私は論文を書くときの癖で、曖昧な部分は残さず論証し、明確な結論を出して 小奇麗にまとめようとしてしまいます。でも、小説という表現形式は、むしろ 一義的な解を導き出すものではなく、じわりと滲ませるように終わるものにも 価値があるものですよね。最近、その辺りの誤認が一つの問題点なのかな、と 自己分析しています。 そして、 >もしかしたら、主人公の行動をはっきりとはさせず、ただ「なぜ彼女はエアコンの操作を彼に頼んだんだろう」という疑問だけにして、濁してしまった方が良かったのかな、とも考えました 改稿するならこの方向性かな、と思いました。つまり、彼は彼女を糾弾して、 その罪を白日の下にさらす必要はなく、それを知った上で、それでも彼女と 一緒になるのだ、というまとめ方がベストのような気がしました。 いずれにしても、大変参考になる感想ありがとうございました。かなり冗長な お話になってしまいましたが、貴重なお時間をお取りしてお付き合いいただき 感謝しています。お忙しいこととは思いますが、zooeyさんの次回作も待って います。 青山さんへ 稚拙な文章にお目通し頂き、そのうえ貴重なご感想も賜りまして、ありがとう ございました。自分なりにおもしろい恋愛小説を書こう、と努力してつくった お話だったので、少しでも読んで何かを感じて頂けたなら幸甚です。 >ごく普通の恋愛小説っぽくミスリードしておきながら最後の最後で、ひっくり返す。 本人が一番意外でした……。笑 こういう感じにする気は全然なかったので、 書き終わってから「あれ、書きたかったのってこういうのだっけ……?」と 首を傾げてしまいました。 >いやはや、充分シリアスでした。ラストに死が控えているわけなのですから。 死は演出の道具であってはならない、とどなたかが仰っていたような気が致し ますが、私は完全に演出の道具として使っています。ただ、いくらミステリ的 手法を使うとしても、記号的な死だけは書くまいと決めています。死を与えた 方も、与えられた方も、はっきりとした理由に基づいてお話の世界から退場を させてあげるのが、せめてもの礼儀なのかな、と思うからです。 >そんな風に春馬くんを自分のエゴでダメにしてしまったのは、母親でしょう。 私はとても恵まれた家庭環境の下で育ったので、母も父も大好きですし、長期 休暇に帰った時には、親戚一同で食事に行ったり遊びに行ったり仲良しです。 だからこそ、肉親への憎悪や、財産を巡る骨肉の争いといった家庭内の不和に 触れるたび、怖ろしくなります。理解できないもの、怖いものを書くことで、 自分が安心したいのかもしれません。 >つまり、お祖母さんのお葬式で、ふたりは出会い、お祖父さんに最後に挨拶してから、春馬は亡くなっているわけですね。 端的に言ってしまえば、この主人公と相手の男の子は別れを迎えるために作り 出された登場人物です。書く側の心理としては、その結論へどのように導いて いくか、そのことばかり考えていたように思います。そのことを突き合わせた 結果、葬祭場という出会いの舞台が自然と決まりました。 主な小説の書き方として、結論ありきで膨らませる方法と、筆に任せて進めて いく方法の二通りあるように思うのですが、私は明らかに前者だと自覚をして います。設定萌え、という言葉をどこかで聞いたような気がします。しかし、 私はあまり舞台だとかキャラ付けから書き始めるということがないようです。 書きやすいからといって、こちらに流れるのも問題なのでしょうか……? >理系の面目躍如たる切れ味鋭い文章、でしたw いえ、お話の中で重力の話をするなんてニュートン先生に恥ずかしい気持ちで いっぱいです。笑 しーしーしーだとか、こういう描写は、作者がふと考えて たまたま頭に残っていたものです。なので摘記が実は嬉しかったです。自分の 考え方を肯定してもらったようで……。 ありがとうございました。青山さんの新しいお話も待っています。感想を書く とまた表面的にしか読めなくてがっかりされてしまうかもしれませんが、勉強 させて頂きます。 |
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No.8 らた 評価:40点 ■2012-06-23 20:58 ID:9hhwgmk6ESY | |||||
拝読しました。 すごく良かったです。 八年という長い時間の流れなわけですがすいっと頭に入ってきて、 読み手のペースに文章が足取りを合わせてくれているような感覚になります。 しっかりした文章力がお有りなのだと再認識させられました。 なによりハルくんにどきどきする感じ、主人公に十分共感してしまいました。 夕方で夜でアパートでフリーターで高校生……。青春ですね。好みです。笑 読みながら、同じような時期に自分もちょっと路線が似たようなものを 投稿してしまったと焦りました。 読み終えて、全然敵わないやと悔しく思いつつ、尊敬しました。 ひとつ共感が追い付かなかったのは、 主人公が心中なんていういわゆるヤンデレ的な発想まで 一体いつ至ったのかというところです。 そこを描写してしまうとラストの展開に意外性が持てない、という悩みどころもありますが 読者の私の頭の中はすっかり青春小説モードだったので、 その危険な行動力に驚きました。 偉そうにごめんなさい。 よくPhysさんは私にセンスがある、とコメントしてくれますが、 とんでもないです。Physさんのえがく人物や話の展開、ハルくんの言葉のチョイスなどに 十分にセンスを感じました。 特に好きだったのはしーしーしー、彼女は海を見ている。です。 よくコメントを貰っているのにも関わらず Physさんの作品に感想をつけるのは初めてになります。 そろそろPhysさんに怒られるのではないかとびくびくしながらも感想を残してゆきます。 素敵なお話をごちそうさまでした。それでは失礼いたします。 |
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No.7 ゆうすけ 評価:40点 ■2012-06-23 15:36 ID:dZDA6s9Jnbw | |||||
拝読させていただきました。 まず思ったのは、丁寧に描かれたキャラクターとくにハルが面白いということです。とぼけた味わいから実は悲しい家族環境がある、こういうキャラはこのサイトだとHALさんが書いたことがあるかな。シャレじゃないですよ。 微妙にかみ合わない会話、それらも恋愛におけるピースの一つ、恋愛か〜いいなあ、ほのぼのしてしまいます。 「きっと今だとクラゲがたくさん浮いてるよ。楽しみだね」この程度だったら普通に私も言いますよ。出会った女性にいきなりギャグを仕掛けてドン引きされたことなんざ頻繁だったぜ〜。せっかくの看護婦さんとの合コンで、いきなり院内感染とか耐性菌の話を食事中にしてドン引きされたりとか。面白いことが好き、ではなく、面白くなきゃやだ、のレベルなんですよ。一応このサイトでは、まじめなおじさんを装ってはおりますが。 閑話休題 幼い少女が、恋をして女になっていく過程、これも女性作家ならではの味わいです。読み始めたらつい読破、しかも仕事中。 いかにして別れたのか? この疑問を持って読み進めますと唐突の悲しい別れ、そして驚愕の種明かし。一読目はとにかく、「ほおお、そうきたか!」と驚きました。 さてせっかく読んだのですから、敢えて冷めた目でもう一回読みました。 婚約者のいきなりの探偵ぶりがちょっと違和感ありますね。彼氏に問い詰められていく中で白状する主人公が可哀そうに感じます。言いたくても言えない秘密を婚約者に語るカタルシス(シャレじゃないですよ)、そのきっかけとなる突っ込み程度に留めた方が自然かな。重い秘密を隠ぺいする彼女とそれを暴く彼氏、この図式から、重い秘密を言いたくても言えない彼女と秘密を語らせてそれでも愛する彼氏にできたらより感動的かも。勝手な感想で申し訳ないです。 女性作家が描く男性キャラ、紳士的で優しい男性が多い気がします。傍若無人なエロ大魔王はさすがに男にしか書けないのかも。その逆もまたしかりで、少女が女になっていく過程における男に対する感覚とか、細やかな感情の機微とか、さすがだなあと思います。 |
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No.6 青山カヲル 評価:40点 ■2012-06-22 23:59 ID:7o6OMGvVWos | |||||
拝読させていただきました。 ごく普通の恋愛小説っぽくミスリードしておきながら 最後の最後で、ひっくり返す。 お見事でした。 >初めはシリアスに書こうと思っていたのですが いやはや、充分シリアスでした。ラストに死が控えているわけなのですから。 しかし、こうくるとは思ってもみませんでした。 ミステリ好きのPhysさん、ならではですね。 やはり、一筋縄ではいきませんでしたw >「言って」 「なに?」 「ケーキみたいに甘いやつ」 光の向こうから、「夜に甘い物食べると太るよ」という声が聞こえたような気がした。お腹が膨らんでるのは太ってるわけじゃない、と私はハルに教えてあげた。 「必ず幸せにする」 私はその言葉を、いつでもまた取り出して聞けるように、大事に胸の奥にしまった。 エンディングは、よかったですね。 しかし。 春馬くん、いつまでたっても、おかあさん、おかあさんでは困りものですね。 ていうか、そんな風に春馬くんを自分のエゴでダメにしてしまったのは、母親でしょう。 春馬くんだけが、体罰を受けていたようですが、許せないですね。 ほんとうに許せない。 でも、杏奈はよく元彼のことを喋る気になりましたね。 それだけ、彼を信用しているのかな。 また、ひとつ疑問というか、面白いと思ったのは、春馬くんとのファーストコンタクトとして、葬祭場が選ばれていることです。 すでに、杏奈と春馬くんには将来がなく、また、春馬くんが夭折するような運命にあることを、まるで示唆しているかのような設定ですね。 また、お祖父さんのところに会いに行った帰りに、事故となり不帰の客となるというのも、非常に興味深いです。 つまり、お祖母さんのお葬式で、ふたりは出会い、お祖父さんに最後に挨拶してから、春馬は亡くなっているわけですね。 最後に。 >羽ばたくのを止めれば地球の引力に逆らうことはできない。簡単なことだ。 理系の面目躍如たる切れ味鋭い文章、でしたw それでは、このへんで。 ありがとうございました。 |
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No.5 zooey 評価:40点 ■2012-06-21 22:56 ID:1SHiiT1PETY | |||||
読ませていただきました。 少し時間がないのであまり長い感想が書けないのですが、忘れないうちにと思い書かせていただいています。 大変面白かったです。 春馬くんのキャラクターは、きっと他の人が書いたら奇抜すぎるのかなと思いましたが、 とても物語になじんでいて、色のある人物になっていたと思います。 今時ケータイメールの送り方分からないなんて若者いるのか? と、普通だったら突っ込みたくなると思うんですが、 全然そんな気にならず、そういう部分も含めていいキャラクターだと思えました。 一つ一つの掛け合いが、楽しくもありました。センスがおありだなと感じてうらやましいです。 シー・シー・シーの部分など、急に出してくるところが何だか好きでした。 たぶん私は春馬くんのキャラクターはすごく好みなんだと思います。 ただ、少し気になってしまったのが、ラストの部分です。 もともと、ミステリ要素はなしのつもりだった、と書かれている通りなのかなと思いますが、 少し取ってつけた感があったように思います。 また、主人公のラストの行動は、確かに嗜められてはいますが、どこかお話の上では正当化されてしまっているように感じました。 行為の重さに対して扱いが軽いかなという感じです。 もしかしたら、主人公の行動をはっきりとはさせず、ただ「なぜ彼女はエアコンの操作を彼に頼んだんだろう」という疑問だけにして、 濁してしまった方が良かったのかな、とも考えましたが、難しいですね。 でも、とにかく、とても楽しく読ませていただきました。 ありがとうございました。 |
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No.4 Phys 評価:0点 ■2012-06-20 22:20 ID:BsgHx/NX8Z2 | |||||
陣家さんへ お久しぶりです。風邪はよくなりましたか? だんだんと陽気も暖かくなって きましたね。いつも貴重なコメントをありがとうございます。感想、じっくり 噛み締めるように読ませていただきました。 >元彼話のカミングアウト もうこれは、『いかにも』な始まり方というか、私の中の凡庸さの真骨頂だと 思っています。単純にこういう話を一度書いてみたかったんです。一度書いて みたい、のパターンがあと数十種類くらいあるので、そのくらいは書いてから 死にたいです。笑 > 今回これだけユーモアを詰め込むのは・・・かなりの苦心、というか苦労の跡がうかがえて ユーモアを詰め込んだのは、たぶん陣家さんやゆうすけさんの影響です……。 シリアスに持っていくべきところでも、しつこく畳みかけてみました。手数は 大事だなあ、と陣家さんが以前仰っていたので、見習っていっぱい書きました。 なんか途中から、ふざけるのが過程じゃなく目的になってきてしまいまして、 これが陣家さんの書いているときの気分なのかな、とか勝手に想像しました。 まじめな書き手と別の方からも言われたような気がしますが、数字を追うのが 好きなだけで、それ以外はそんなにまじめではないです。楽しいこと、愉快な ことが好きです。むすっとしている人とかプライドの高い人と話すのは、苦手 かもしれないです。 >初々しくてかわいらしいなあ もともとコメディテイストの小説とかドラマが好きな方なので、たまにはこう いう感じもいいかなあ、と試行錯誤で書いてみました。初々しい、とはまた。 にやにやされてしまいましたか……。汗 >今回はミステリ的要素は無しかなあと油断していた もともとは無しの予定でした。でも、起承転結の転辺りで、しつこくならない 程度に仕掛けてみようかなあ、と思いついて、結では完全にいつものパターン 突入でした。(少しは反省しろよ、って叱って下さい……) >トリックよりもロジック 都筑道夫さんの言葉ですよね? 私は若手作家の道尾秀介さんが(顔も含め) けっこう好きなのですが、道尾さんの名前の由来だと聞いたので、何作か読み ました。ですが、恥ずかしながらクイーンはあまり詳しくないです……。汗 クリスティとかも『アクロイド殺し』と『そして誰もいなくなった』くらいしか 読んでないかも……。 本当に、まさに今の私に必要な言葉はこれだな、と思いました。天啓を受けた 気持ちです。トリックというほど新規な仕掛けは思いつかないので、やっぱり ロジックで読む人を納得させないとぜんぜんカタルシスがないんですよね。 たぶん自分の書き方みたいなものは方向修正するとしても大きくは変わらない と思うので、少しずつ精度を上げて、嫌みのないすっきりとした小説を書ける ようになりたいです。 >最近忙しいなんて逃げ口上でろくすっぽ書いてもいない・・・もし良かったら大喝してください では一言……。 忙しさはみなさんそれぞれだと思いますが、書き始めると少しずつ進んでいく ものだと思うので、まず筆を取ってみたらいかがでしょうか? みなさん陣家 さんの作品をお待ちだと思います。もちろん私も、『まだなのかなあ』としつこく 追い立てつつ、三つ指立てて待っています。ご無理のない程度で、すみやかに 着手してください。笑 また、読ませてください。 |
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No.3 陣家 評価:40点 ■2012-06-17 08:57 ID:1fwNzkM.QkM | |||||
拝読しました。 Physさん一筋、浮気なしの陣家です。 んー、それならもうちょっとましな感想付けろよ、という話ですが……。 さて、冒頭マリッジブルー的な主人公が元彼話のカミングアウトをするところからお話が進み始めるわけですが、この8年越しに及ぶ幼い恋物語はセリフや語り口にウイットがあってとても楽しかったです。 ウイットのある会話というのは今までの作品でも感じられる部分ではあったのですが、今回これだけユーモアを詰め込むのはまじめな作者様であるPhysさんというイメージを持っている読者としては、かなりの苦心、というか苦労の跡がうかがえて妙に感じ入るところがありました。 おふざけ、なんておっしゃっていますが、少しも嫌味なところがなく、逆に初々しくてかわいらしいなあとにやにやしてしてしまいました。 そして、二人のこの一途で純粋で強い絆が強く堅くなればなるほど最終的にどのような別離を迎えるのかが気になって夢中で読み進めて行ってしまうところもうまい構成だなあと思いました。 で、ちょっと意外と言うか、あまりにも劇的に、悲劇的に突然に別れを迎えるわけですが、うーんかわいそうと言うか、悲運な話だなあと思ってしまいます。多分、ほとんどの読者は。 が、しかし、主人公がすべてを話し終え、章が変わって現在に戻ってきたところで、現婚約者のいきなりの探偵化……。 今回はミステリ的要素は無しかなあと油断していたところもあるとは思いますが、そうきましたか、やはり。 まず、単純な思考回路で言えば、身を切る思いで過去のトラウマ(この医学用語、軽く使われすぎで気の毒になってきます)を吐露した愛すべき女性、守るべき女性に対して、例え矛盾を感じたとしても、あるいは齟齬に気づいたとしても、それをはっきりと問いただすようなことはしないだろうなと思うんです。確たる証拠もなく、もとより彼女自身が“事故だった”と、そう口にしているなら、なおさらそこは胸にしまうのが普通ではないかと。 もしラストでそう来るなら、もうちょっと最初の方、冒頭で主人公の病的な一面を見せておくとか、「やっぱり結婚できないよ……」みたいな空気を漂わせておくか、なら変な言い方ですが体裁が整うような気もするのですが。 ミステリにおいて誰が犯人なのかというフーダニット、手口を解明するハウダニットは、ミステリのある意味“華”だとは思うのですが、やはり一番難しいのはなぜその行為に及んだのかというワイダニットですよね。 考えてみると今作で一番語られるべきなのは、いや注目すべきなのは現婚約者である“彼氏”の心理だったんじゃないかと思います。 なぜそこで突っ込んだのか、現婚約者の女性を無理心中の生き残り、ともすれば殺人犯と断定する行為の動機。もしかすると彼女自身が自己暗示的に思いこませようとしている、不幸な事故だったと、そうであって欲しいという願いをちゃぶ台をひっくり返すように事実を白昼の元にさらすメリット。それほどの理由が何だったのか。彼が思っている乗り越えるべき壁、飛び越すべきハードルがどのようなものだったのか。そこに彼の心理の必定性が欲しかったかなあ、と。 トリックよりもロジック――なんて言いますしね。後期クイーン問題の隘路はうまく避けていきませんと、ね。 なあんて……好き勝手なことを言わせてもらいましたが、やっぱり好きなものは好き。それでいいと思います。それじゃなかったら書く意味無いですからねえ……。最近忙しいなんて逃げ口上でろくすっぽ書いてもいない自分からすると、こうしてしっかりしたものを地道に継続して書いておられるPhysさんは偉いです。頭が下がりっぱなしです。見習わないといけないなあと思いまくりです。 もし良かったら大喝してください。 「おめえも書いて見せろよ!」と。 失礼いたしました。 |
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No.2 Phys 評価:--点 ■2012-06-16 19:26 ID:nkc8dwuPtc. | |||||
太郎さんへ 先日は簡素な返信しかできず、たいへん失礼いたしました。本当にありがとう ございます。太郎さんからコメントを頂けることが、励みであり、筆の活力に なっています。(筆、っていうほど大したものではないんですけど……) >いろいろと良いところがあったんですが、特に安奈とハルとのキスシーンと ベッドシーンでどきどきしてしまいました。 その二つは、書き始める前から「自分らしく生き生きと書こう」と思っていた 箇所だったので、印象に残ったとのお言葉をもらえて嬉しかったです。ベッド シーンみたいなものは、基本的に省略する主義(自分が書いていて恥ずかしい からです)なのですが、今回はおふざけのテイストを残しつつ挑戦しました。 なんというか、行為の最中って生々しい部分が多いので、感覚の描写が弱点の 私にはちょっと敷居が高いイメージがあります。何より白々しく読まれるのが 怖くて……。 もう消されてしまったようですが、最近だとねじさんの蕁麻疹のおはなしが、 すごく艶やかで、素敵でした。でもああいうのが自分に書けるようになるとは 全くもって思えないので、憧れるだけです。読むのは好きです。 >自分が高校生だった頃のこととか、そのとき好きだった女の子のこととか 昔の仲間を思い出したりして いちおう、懐かしい記憶、戻らない過去、みたいなのは一つのテーマになって います。(そんなかっこいい言葉が似合う感じじゃないか……汗) 今回こういうちょっと長めのお話を書いてみたわけですが、小説を書くときは 音楽を聴くようにしていて、そのとき聴いていた歌詞の内容が反映されている ことが多いです。このお話は、ちょっと古いですが、My Little Loverさんの 「Hello, Again 〜昔からある場所〜」でした。 お笑いもチェックしてますよ。でも、どちらかというと、最新のトレンドを 追いかけるというよりは、マニアック寄りかもしれません。ラーメンズとか、 東京03とか、アンジャッシュとか、ストーリー性のあるコントが好きです。 冷やし中華はおもしろかったです。私の中で彼の登場は衝撃でした。 >一度きりの人生だから、できればたくましく生きなきゃねえ、そう思います。 一度きりの人生なので、私も身の程知らずに小説なんて書いちゃってます。笑 さすがに詩は無理ですけど、もっと精度を上げて、品質を向上させたいです。 というか物語に既視感がひどいのが私の特徴だと思うので、そろそろ突拍子も ない方向にいっちゃってもいいかなあ、と考えています。変なアイディアなら たくさんあるので……。 >実はちょこちょこ気になったところもありました 本当はご指摘頂きたいところですが、お忙しいと思うので我慢します。点数は 気にしてないですけど、さすがに、満点を付けられると恐縮します。もちろん 太郎さんからの激励として受け取らせて頂きます。楽しく読んでもらえるお話 書けるように努力します。少しずつでいいから前進できたらいいなあ……。 >お仕事や物理学への情熱や創作など、色々と葛藤もあって大変のようですが、応援しております。 シュレディンガーの猫のくだりを見られていたのですね。汗 物理ってけっこうああいう寓話みたいなキーワード(ラプラスの魔物、マクス ウェルの悪魔とかも有名ですが、ご存知ないでしょうか?)が多いんです。 でもそれを普通の人(私程度の浅学者含め)が正しく理解できるかというと、 そうでもないと思います。私の中でもイメージ止まりです。 たぶんシュレディンガーの猫はまだ解決していないような気もしますし。結局 量子の観測論を猫というマクロな系に還元するって発想そのものがバーチャル なので、そこに問題がありそうです……。(また脱線しました。汗) >一生歩いて行こうと感じられるような道にたどりつけるといいですね うるっとしてしまいました。いろんなことがあって、いろんなことを考えて 今の自分があります。そういう過去を肯定的に捉えることが、ずいぶん長い あいだ、できずにいました。ありがとうございました。 また、太郎さんの詩も楽しみにしています。たまに詩板を覗いてチェックして います。「太郎の地図」が楽しみです。失礼しました。 |
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No.1 うんた 評価:50点 ■2012-06-11 12:23 ID:iIHEYcW9En. | |||||
読ませていただきました。すごくよかったです。 いろいろと良いところがあったんですが、特に安奈とハルとのキスシーンと ベッドシーンでどきどきしてしまいました。 自分が高校生だった頃のこととか、そのとき好きだった女の子のこととか 昔の仲間を思い出したりして、すこしだけかもしれないですけど 優しい気もちになったりしました。 おふざけが過ぎる感じ、ということでしたが、私はおもしろかったです。 ちょっとすべってるように思ったところもあったかな……(ごめんなさい)。 Physさんはそういえば結構お笑いもチェックされているんでしたっけ? 私は残念ながら日々疎くなってしまっていて、「冷やし中華はじめました」 あたりでお笑いの情報は止まってしまっています、か、かなしい……。 結末は賛否両論ありそうですね。私は好きかな。 一度きりの人生だから、できればたくましく生きなきゃねえ、そう思います。 またまた中身のない感想でごめんなさい。 実はちょこちょこ気になったところもありましたが、読んでいてとても 楽しかったので満点にさせていただきました(点はあまり気にしていないでしょうけど)。 楽しかった、それだけで私の感想は言い尽くせちゃうんですよね……。 それから「はんだ」のコメント欄で「励みになっている」なんて、ありがたい お言葉いただきましたけど、私の方こそ励みにさせていただいています! 私なんかが偉そうに言えるものではないのですが、本当にぐんぐんと上手に なっていて、すごいなと思っています。 お仕事や物理学への情熱や創作など、色々と葛藤もあって大変のようですが、 応援しております。 一生歩いて行こうと感じられるような道にたどりつけるといいですね。 ではまた。 |
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総レス数 11 合計 280点 |
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