まだ、早い |
「ココが固くなったら、愛している証拠?」 ギチギチに布が張り詰めた股間を指差し、ケイタが僕に尋ねる。 「放っといても固くなることはあるだろ?保健体育の授業で先生が言ってたし。お前、欲求不満なの?」 半ば呆れながら答えると、放り出した鞄の中から教科書を手に取り、慣れた手つきでページをめくって読んでみせた。 「勃起とは、陰茎が性的興奮より大きく固くなること。性的興奮が高まり、精液が射出する状態を射精という」 「そこまで聞いてないのに、ご説明感謝します」 ケイタはクスクス笑いながら言う。 友だちが遊びに来ているというのに、勃起させているお前は助平だろ。 蔑視気味にジトっとケイタの目を見つめると、視線がバチッと合ってしまった。瞬間、ケイタは少し頬を赤くし、 「な、なんだよ……お前、そんなに色っぽかったっけ?」 と言う。 「は?」 わけが分からない。 なおも頬を赤く染めるケイタ。妙な空気が周囲を包んできた。 「あ、あのさ……タカヒロに言ってなかったんだけど」 「うん?」 「おれ、お前のことは友だちとしての好きだと思ってた。だけど……今ので分かんなくなった」 ギョッとした!言ってる意味がよく分かんないのは僕のほうだ。 「ここ最近のタカヒロはカッコいいし、動作ひとつとっても妙に色気があるし……。ドキドキしてチンポ固くなることがあるんだ。見てみる?」 突っ張りを指先で摘むと、激しく幾度も上下する。 目の前がクラクラしてきた。友だちがまさかそんな目で僕を見ていたとは……。 僕にはそんな感情を持ち合わせていないし、。そもそも、この状況は非常によろしくない。性への興味と、好きという想いが混同しているだけ、そうに違いない。 クラクラし続ける頭を右手で支え、左手でケイタの左肩をぐっと掴み、尋ねてみた。 「率直に聞くけどさ、僕にキスしたいと思う?」 頬を赤くしていたケイタは、僕の質問を聞くと、途端に目を丸くする。 「な、なに言ってんだよ、お前もおれも男だぞ。男同士でキスなんてないって!」 その言葉を聞いて、心底ホッとした。 できるだけ冷静に、そのまま言葉を続ける。 「僕だって、意味もなくチンポがカチカチになるし、オナニーも射精も何回だってするさ。でも、お前のは性への興味だけであって、恋ではないんだよ。本当に好きならチンポが固くなって、キスもしたいと思うもんだ。でも、お前は違う。というより、お前のカチカチになったチンポは見たくない」 きっぱりと想いの丈を伝え終わると、ケイタはガクッと項垂れた。が、急にガバッと起き上がり、 「まあ……そうだよな、タカヒロは大事な友だちだもんな!」 さっきまでの状況は何だったのか、いつもの明るいケイタに戻った。 「そもそもケイタもカッコいいんだから、そのうち彼女だってできるさ」 最後に付け加えると、ケイタは照れ臭そうに 「へへっ、ありがとな。おっと、さっきのでパンツがビチョビチョだ。ちょっと履き替えるから部屋出てもらえる?」 分かったと言い、部屋を後にしてドアを閉めた。 しばらく廊下でボーっとしていると、ドア越しに衣擦れの音が聞こえてきた。ひとつ隔てた向こうにはチンポを出したケイタがいる。付き合い長いけど、一緒に風呂さえ入ったことがないから、見たこともなかった。 『アイツのってどんなだろ――』 なんとなく、そんなことを思ったら、急に胸がドキッとした。 「そんなわけないよな……」 胸を掌で押さえ付けると、心臓がバクバク音を立て、次第に息苦しくなる。 息苦しさを抱えたまま、壁へ項垂れると、身体が熱を帯び、自分のチンポも固くなっていることに気付いた。 「そんなわけないんだよ……」 身体の熱は引くこともなく、身を任せるまま廊下にドサッと寝込んだ。 何故だか分からない。 でも、このままだと泣いてしまいそうだった。 この気持ちを知るには、まだ早すぎるから。 十四歳・ある初夏の日の出来事だった。 |
葉津京一
http://hazukyouichi.info/ 2012年06月20日(水) 18時14分10秒 公開 ■この作品の著作権は葉津京一さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 蒼井水素 評価:30点 ■2012-07-09 21:57 ID:Sfd4I.yvznQ | |||||
拝読しました。 不思議な清潔感のある文章だと思いました。なので、即物的なセリ フにちょっと驚きました。 金原ひとみさんが、芥川賞を取る前にお父さんから「恥ずかしいこ と書かないとダメだ」と言われたそうです。 葉津さんは、好きなことを書いたのかもしれませんが、恥ずかしく ないことを書いているような気がします。そんなことはない! と 思われるかもしれません。そうでしたら、ごめんなさい。けれど、 何かをセーブして書いているように思えます。 TOTAL CREATORS !! では官能小説は禁止されているそうなので、発 表は別の場所になるのかもしれませんが、フル・スロットルで、自 分の世界を書かれてみてはどうでしょうか。 「こんなの投稿しちゃった。ギャー! どうしよう恥ずかしい!」 というのは、意外と楽しいものですよ。ハズしたときのダメージも 大きいですが…… |
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No.3 葉津京一 評価:0点 ■2012-06-26 20:54 ID:Rbmmi1V8YJo | |||||
ご意見・ご感想ありがとうございました。 >笹森賢二さま はじめまして。 仰るとおり、叶えてしまってもよかったのですが、今回は「友情と恋心の境界線」でしたので、敢えてあの終わり方にしました。 かくいう私も、ちょっと消化不良気味ではありますが(笑) 三点リーダ等に関しては、読み直した際に少し多いかなとも感じました。 次回は、いつも以上に文章の体裁も気をつけて推敲したいと思います。 > さかさきさま はじめまして。 心情がリアルだと仰っていただいて、見せ方はうまくいったのかなと思います。 大人になったら笑い飛ばせるような貴重な経験って、思春期ならではの特権ですね。 |
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No.2 さかさき 評価:30点 ■2012-06-23 13:13 ID:bWjCk.64/Qo | |||||
恋愛と友情の線引き、曖昧さに困惑する少年たちの心情がリアルだと思いました。 大人びた言葉で否定をしながらも戸惑ってしまうところがなんとも。 大人になったら笑い飛ばしてしまうけれど今は泣きそうになる、そんな経験をしながら一歩一歩大人になっていくのかなという青春の一幕がうかがえる気がしました。 |
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No.1 笹森 賢二 評価:40点 ■2012-06-22 16:21 ID:TQuxQJnwtBs | |||||
小説が作った世界ならば、いっそ叶えてしまえば良いのではないでしょうか。 そんな世界も見てみたいと思います。 空白や三点リーダー(意図したものであれば問題ありませんが)など、多少文章の瑕になるのかな、と思う部分が見受けられました。 「まあ」で一度切って描写を加えると綺麗に見えるのかも知れません。 もちろん、三点リーダーの視覚的効果を狙っているのであれば問題なく成功していると思います。 曖昧な世界の答えは、総じて得られないものではありますね。 次はもう少し、先を読みたいな、と思いました。 |
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総レス数 4 合計 100点 |
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