リクガメ |
僕はペットであるリクガメを小脇にかかえて、教会へと向かった。リクガメは四肢をよじってジタバタしており、くすぐったい。 教会は、キリスト教の教会の一般的な形をしているが、違うのはその表面であった。教会の表面には、黒い男根の模造が、群生しているようにして、びっしりと生えていた。男根の模造のそれぞれは、微妙に違う形や大きさをしており、脈動するような生命力を感じさせた。 僕は教会の重々しい扉を開き、中へ入ると、教会の奥の方で、神父がいた。 よく見ると彼は、生きたままの鳩を食らっていた。白い鳩を、犬歯をキラキラ光らせながら噛み付き、翼をばたつかせるのもかまわず、溢れる鮮血をも飲み込むようにして、食っていた。 やがて彼は鳩の全てを口内におさめ、幾度かバキバキと骨を砕く咀嚼音をさせ、飲み込んだ。 「おはよう」 と神父は血だらけの口を開閉させて言った。 「おはようございます」 と僕は答えた。 「私はいま、鳩を食っていたよ。平和の象徴である鳩をね。平和、笑わせるね。私はいま、小便をしたいんだが、平和主義者の顔面に浴びせてやりたいよ。金色の美しい尿をね。彼らの醜い顔が、さぞかし美しく塗装されるだろうね」 神父がそう言うのへ、そうですねと答えて、僕は椅子に座り、テーブルにリクガメを置いた。リクガメは首を甲羅にひっこめて、置物のように動かなかった。 やがて徐々に信者が集まってきて、次々と椅子が埋まっていった。 これから説教が始まるという時だった。教会内の男根や、女陰をあしらったステンドガラスが次々と音をたてて割れた。煙を吐き出す弾丸が打ち込まれたようだった。 ガス弾と思しきその弾は教会の、木床の上をカラカラと音をさせて転がり、刺激性の煙をもうもうとあげる。 僕は服の袖で、口と鼻を覆いながら、入り口の方を眺めると、ジュラルミン製の盾と、小銃を持った、黒ずくめの機動隊員が、ぞくぞくと突入してきた。 いつか、こうなることは分かっていた。僕たちのような異分子は、清潔好きのマジョリティーに排除されるという事を。 それでも僕という人間の、僕性とでもいうべきものを、歪めずに肯定していきたい。そう思って僕は彼らへの抵抗として、周囲に武器になるものはないかと探した。長テーブルに置物みたいなリクガメがあった。 僕はリクガメを掴み、黒ずくめの、陰毛みたいな機動隊員へ向けて、投げた。しかし、リクガメは空中で小銃で撃たれて、血と臓物を、はじけるようにまき散らした。 床に散らばったリクガメは、ばらばらになりつつも、爬虫類独特の生命力でもって、頭部、四肢、を、うねうねと動かしていた。 |
昼野
2012年02月27日(月) 23時01分23秒 公開 ■この作品の著作権は昼野さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.6 昼野 評価:--点 ■2012-03-26 00:40 ID:FJpJfPCO70s | |||||
>ゆうすけさん 感想ありがとうございます。 リクガメは特に考えてなかったですね。何となく出してたら最後で活躍?してくれました。 おぞましいのは今後も書いていきたいなと思います。 自己肯定は大切!ですよね。 ありがとうございました。 |
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No.5 ゆうすけ 評価:30点 ■2012-03-16 10:29 ID:1SHiiT1PETY | |||||
拝読させていただきました。 リクガメ、これは男根の象徴でしょうか? あるいは信念や、他愛無い心意気でしょうか? 映像化したらと想像するだけでワクワクする凶悪な描写が昼野さんの持ち味だと思っておりまして、今作でも鳩咀嚼シーンなど、いい意味での(?)おぞましさが出ていると思いました。 「僕性とでもいうべきものを、歪めずに肯定していきたい」←ここ好きです。 少数派であろうとも、いかに矮小であろうとも、自己肯定をやめない。齢を重ねてもこのノリは私も忘れたくないなあ。 |
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No.4 昼野 評価:--点 ■2012-03-10 02:32 ID:FJpJfPCO70s | |||||
>Physさん 感想ありがとうございます。 映像的な描写は自分ではもっと緻密にしたいなと思います。 今作はわりと筋がありましたね。そういえば三語で書いたものはそういうのが多かったような気がします。お題があるからでしょうかね。 ありがとうございました。 |
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No.3 Phys 評価:30点 ■2012-03-04 09:29 ID:vJVAPig4KGg | |||||
拝読しました。 >翼をばたつかせるのもかまわず、溢れる鮮血をも飲み込むようにして、食っていた >リクガメは空中で小銃で撃たれて、血と臓物を、はじけるようにまき散らした >爬虫類独特の生命力でもって、頭部、四肢、を、うねうねと動かしていた 極めて映像的な描写でした。映画のワンシーンみたいで素敵です。とにかく、 表現が良いんですよね。 >幾度かバキバキと骨を砕く咀嚼音をさせ 恐ろしいんですけど、惹きつけられる魅力がありました。 昼野さんの習作とは雰囲気が違うように感じました。いくぶん正統派過ぎる、 というか。主人公さんの内面がもっと壊れた感じの作品も好きですが、私は このくらい物語の筋がはっきりしている方が読みやすいです。 >異分子は、清潔好きのマジョリティーに排除される 会社に入ってもうすぐ1年ほどが経つ身としては、個性と順応性のバランスを 考えさせられました。泥臭くても、マイノリティの力を発揮して頑張ろう、と 思いました。 食べられた鳥や投げられたリクガメさんは可哀そうでしたが、大変創作意欲を かきたてられるお話でした。ひどく残酷で、悲しい話を書いてみたいです。 また、読ませてください。 |
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No.2 昼野 評価:--点 ■2012-03-01 21:49 ID:FJpJfPCO70s | |||||
>zooeyさん 感想をありがとうございます。 ガルシア・マルケスを連想させるというのは前にも他の方に指摘されたのですが、あまり読んだことがないのでちゃんと読んでみたいなと思います。 暴力的肉体的な表現は今後も書いていきたいなと思います。 「陰毛みたい」という表現はおっしゃる通り不適当でしたね。他に良い表現が浮かばなくてそのまま使ってしまいました…。 ありがとうございました。 |
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No.1 zooey 評価:50点 ■2012-02-28 00:42 ID:1SHiiT1PETY | |||||
一度三語板でも読ませていただいていますが、改めて読んで、やっぱり好きだなと思いました。 なんとなくですが、ガルシア・マルケスを連想します。 暴力的で肉体的な描写から、生命力が溢れているなあと思います。 一方で >僕性とでもいうべきものを、歪めずに肯定していきたい。 という部分に、いい意味での青さというか、そういうものを感じて、好みでした。 ラストのリクガメの描写も好きです。 ただ、どうでもいいことのような気がするのですが、一つ引っかかったのが、 >黒ずくめの、陰毛みたいな機動隊員 という表現で、「陰毛みたい」の部分がどうも生命力を与える描写になってしまっている気がしました。 でも、機動隊は「清潔好きのマジョリティー」なわけで、 だったら、もっと清潔感がある卑小さを伴った表現の方がいいんじゃないかななんて思いました。 最後に難癖つけてしまって申し訳ないですが、とても好きだなと思える作品でした。 |
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総レス数 6 合計 110点 |
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