哄笑 |
なぁ、あんたらは知ってるか?一度釣られた蟹は二度とは釣られない。函館で育った俺が言うんだから間違いない。 なんでだかわかるか?それはな、蟹は本能で生きてるからなんだよ。蟹は一度釣られればどういう餌に食いついたらいけないのかわかるようになるんだ。 それに比べて人はどうだ?人は何度でも似たような手口の罠に引っ掛かる。 人と蟹の違いはなんだ?いやまぁ姿形も生物の分類も同じところの方が少ないんだけどよ、何かしらの罠にはまるところまでは同じなんだ。その先が違うんだよ。 なぜ先が違うのか。さっきも言った通り蟹は本能で生きてる。だが人はどうだ?人は蟹と違ってある余計なことをしてるんだよ。それはそう、考えることだ。人は本能を無視して『考えて』次のことをしているんだ。 それがいけないんだよ。考えなければ避けられる事態だってあったはずだぞ?とくにあんたらは。 だが考えることをやめたらそれは人じゃない。人は考えてなんぼの生き物だ。 なぁさっき言ったことと矛盾してるだろ?でも間違ったことは言ってないはずだぜ?じゃあなぜ矛盾してるのか?それこそ人の得意技、考えればわかるんじゃないのかぇ? ククッ アハハハハハ! とんだ詭弁だなぁおい! まぁ、これでも俺は考えたんだ。 不思議だろ脳みそなんて長らく使ってないから錆び付いちまってると思ってたんだが、動くもんだなコレ。 んで俺が出した答だがな、それはズバリ、どっちもあってるんだよ。 だってそうだろ?どっちもあってるんだからどっちかが間違ってるなんてないんだよ。どっちがあっていて、間違ってることにするかはその時その時臨機応変にな。 と、まぁ俺はこんな感じに考えるわけだけど、え?こんな適当すぎること考えたっていうのかって?まーまーかたいこと言うなよ。んで、何か反論もしくは意見みたいのない?ああ、あるわけないか、この状況で。 まぁそんなわけだから、俺は今から本能にだけ従う事にする。今回は『考えて』本能にしたがうことにする。あれなんか矛盾してるか?ああ、そうかわかった人間考えることが本能なんだ!あー俺今いいこと言った!おー! さーて早速有限実行だ。 そう言い終えると七人の人間を殺害した無差別連続殺人事件の犯人の男は、完全に警察に包囲された十五階建てのビルの屋上からぐるりとあたりを見回して、一瞬少しだけ本当に少しだけ、悲しそうに、寂しそうに笑った。だがそれもすぐに消え、また軽薄な笑みが顔に張り付いた。 そしてまたしゃべりはじめた。 なぁあんたらはわかるか?俺が人を七人もなんで殺したか。なぁわかんねぇよなぁ!俺にもいイマイチわかんねぇんだ。ハハッ変な話だ。 だから俺は理由を心の奥底に聞いてみた。俺にそんなものがあるのかどうかは別としてな。結論としてはだな、ククッアハハハハハ、ハハッハハックククククッ!寂しかったんだよ!アハハッ!笑えるだろう!?いい年こいた男が一人で死ぬのが寂しかったんだよ! ん?ああそうだ。俺は自分が死ぬために、自殺の道連れとして七人の人間を殺したんだ。すげぇだろう!?いろんな意味で!これも本能に従った結果かもなぁ! え?なんでそんなに多いかって?そりゃな、俺が死んだとしたらこれで俺が手をかけた人間が八人になるからだよ。八って数字は一番霊的に安定してるんだ。 すごいよなぁ大勢殺した人間が、霊的に安定がうんたらかんたら言ってるなんて。天国なんてあってもいけないような人間がっ!ククッアハハハハハ!おもしろい!おもしろいよ本当にククッアハハハハハッ! だからさ、俺は今から死ぬんだよ。これが俺の本能かって?さぁな!けど違うんじゃねぇの!?本能なんて生きるためにあるんだ!ああそうだよ矛盾してるし嘘だ!世の中嘘だらけの矛盾だらけだろう!?そこに俺のが加わったって何がかわるんだ?!いいんだよ!これで!あんたらなんかに捕まるか! そして男は自嘲にあふれた言葉を残し、躊躇うこと無く、宙に身を投げた。 ククッアハハハハハハハッ!アハハハハハッ!ハハッヒャハハハハッ! 後に残ったのは男の哄笑と―― 体より遅れて落ちて行く数滴の涙だけ。 |
ナツ
2011年08月16日(火) 17時52分46秒 公開 ■この作品の著作権はナツさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 Phys 評価:30点 ■2011-08-20 19:52 ID:K6BykC50GXk | |||||
拝読しました。 全体的に読みやすく、特に分かりにくい点などはありませんでした。ただ、 >七人の人間を殺害した無差別連続殺人事件 から雰囲気が少し変わってしまったというか、俗っぽい話になってしまった ようにも感じられました。でも、一人で死ぬのはさびしかったから殺した、 というのは現実にもあるんでしょうね。寂しいという感情自体が「考える」 ことで生まれるものなのに、「本能に従った結果」という矛盾が悲しいです。 それと……。 >一度釣られた蟹は二度とは釣られない 初耳でした。カニって賢い生き物なのですね。ちなみに、魚はどうなのかが 気になりました。キャッチアンドリリースとか言いますけど、学習するから 次からは釣れなくなるのでしょうか? (なんか本編に関係ないですね……すみません。汗) 総じて軽快な文章でした。笑い声が少し多かったかな、と気になるのはその くらいです。 また、読ませて下さい。 |
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No.3 山田さん 評価:20点 ■2011-08-17 23:18 ID:iNA2/rsuwOg | |||||
拝読しました。 こういう独白を中心とした作品って、結構難しいんじゃないかと思います……当作品の場合、実際には独白とは違いますが……。 そこにはかなり気の利いたセリフがいくつも必要だろうし、かといってあまり凝ったセリフだと現実味に乏しい内容になってしまうだろうし。 一人の人間の発する言葉だし、会話も無いわけですから、どうしても独りよがり的な内容に終始してしまう危険性が高いのかな、と思います。 しかも当作品の主人公はそれこそ独りよがりな存在ですから、そんな存在から発せられるセリフは、それこそ独りよがりに陥ってしまうんじゃないかと思います。 だから、「パッと思いついてパッと書く」にはちょっと荷が重すぎる作品じゃないかな、と思います。 失礼しました。 |
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No.2 みずの 評価:20点 ■2011-08-17 22:11 ID:tUYcy0OjL5E | |||||
読ませていただきました。 なんとなくですが、説教じみている割にぐっとくるところがなくて、そのへんがちょっと物足りなかった気がします。 あとはらいとさんもおっしゃっていますが設定がなんかこう、ぐっとこないです。 ただ最後の一行の雰囲気は好きだったので、なんかそこをもっと引き立たせるようなつくりにしたらいいのかな、とか思いました。 ずけずけと偉そうなこと言って申し訳ありませんでした。以上です。 ありがとうございました。 |
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No.1 らいと 評価:20点 ■2011-08-17 02:05 ID:J44h6PeHayw | |||||
拝読させて頂きました。 前半は、面白いなあと思いました。けれど後半は殺人者の科白と判って一気に興ざめしました。 なんでだろうと思ったのですが、多分七人も殺した男がこんなに冷静に自己分析しているのが変に思えたからだろうと思いました。 面白い作品でした。 拙い感想失礼しました。 |
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総レス数 4 合計 90点 |
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