蛍光灯の紐、書斎をふんわかと飛び回れ、スナフキンの小型人形 |
俺の部屋にはスナフキンの小型人形が浮かんでいる。タグで製造年を識別すると1990年だ。タグには「MOOMIN VALLEY」と書いてあり、さらには顔を右に向けたムーミンの絵も付いている。さて、主役のスナフキンについてだ。蛍光灯の紐の色は怪しいまでの紫。ハットはフェルト素材の緑、身体を覆うコートも緑、幼児が食事に困らぬよう身につける布巾のようにも見えるスカーフは優しい肌色だ。眼は幻夢の世界を眺めているような、とろんとした楕円形。垂れた眉毛が頼りない旅人の足跡を示している。風に飛ばされ続けて何年だろうか、といった趣すら感じられる。両手を水平に伸ばしており、人形が十字架のポーズを取っているようにも解釈できる。普段人間は、電気を消す時、あるいは点ける時にしか紐に触らないと思う。だが、ちょっとした弾みで紐に薬指が当たり、紐が揺れた。すると、当然ながら圧力によって紐の位置が変わる。紐に繋がれているスナフキンの位置も紐の移動に合わせて変わる。フェイス・トゥ・フェイスができるように括り付けたから、スナフキンの横顔や後姿を見れたのは貴重だった。フィギュアマニアではないから、正面だけ鑑賞すれば事足りると考えていた。その考えは捨てよう。人形は、人間と同じく正面よりも後姿や側面こそ興味深い。それは、自分が横を向こうとも下を向こうとも顔面は正確に顔面性正面を保持し続けているためだ。顔面性正面を他者も保持しつづけるが、少なくとも俺たちは、それを「横の顔」や「後の姿の顔」と呼ぶことができる。自分の「横の顔」と「後の姿の顔」は、鏡や画像や映像でなければ知りえない。対象物は、正面以外を常に教えてくれる素材なのだ。そんなことを思っていると紐が切れてスナフキンが灰皿の中に埋没してしまった。顔を見せるのは人間でなくとも恥ずかしいものらしい。 |
奇術師
2011年04月29日(金) 21時58分32秒 公開 ■この作品の著作権は奇術師さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.1 ハコ 評価:20点 ■2011-06-19 23:37 ID:wiRqsZaBBm2 | |||||
読ませていただきました。 [感想] ずっと正面から向き合っていたから横顔や後ろ姿は見えていなかった、 それはきっと人間関係にも言える話で、 親しい人の正面しか見ていなかったら、隠れた悩みだとかトラブルに気付けないかもしれない。 常に正面から向き合うのだけが正しい付き合い方ではないのかもしれない、と読み終わった後考えました。 少し改行して頂ける読み易くなるのではないかな、とも思いました。 灰皿に落ちてしまった彼は、恥ずかしかったのに加えて、両腕が疲れてしまったのかもしれませんね! |
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総レス数 1 合計 20点 |
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