決断
エヌ博士は長年の研究の末に、ついに死者を蘇生する装置を開発した。
「博士おめでとうございます。やりましたね」
「うむ…しかしな、動物実験では成功したが、実は人体実験がまだなのじゃ」
「それは本当ですか」
「医者の知り合いはおらんし、都合の良い死体が転がっているわけでもないし。どうじゃ、助手君。いっぺん死んでみてはくれんか?」
「そ…それは困ります」
青ざめた顔の助手はその日の内に研究所から逃げ出してしまった。


それからもエヌ博士は、妻や子ども達、数少ない知り合いに同じ提案をし続けたが、それを受けてくれる人間は現れなかった。
それどころか、いつ自分が実験に使われるのか恐れて皆逃げてしまった。

「……誰も、わしの発明を信用してくれん。こうなったら、わし自身で実験をするしかない」
エヌ博士はそう決意するしかなかった。

エヌ博士が自分自身を実験に使う上で、ひとつの問題点があった。
「わしが死んだら、誰が装置を動かすのじゃ?」
装置は非常にデリケートなもので、スイッチを入れてそのままという訳にはいかない。誰かがとても複雑な数値を計算し、更に複雑な装置の操作をする必要があった。
「ふーむ。困ったな。もう頼める人もおらん。…そうじゃ、ロボットにやらせよう」
その日から、エヌ博士のロボット開発が始まった。

それから十数年後。エヌ博士はついにロボットの開発に成功した。
「○X新聞です! 博士、世界一精巧で頭の良いロボットを作り上げたというのは本当ですか?」
「そうじゃ。自分で考え、動く事ができる」
「ということは、これからロボット工学の新たな時代が拓けるという事ですか?」
「そんなレベルの話ではない。時期にもっと凄い技術をお目にかけよう」
エヌ博士は一躍、時の人となった。

そしてついに装置を使う時が来た。
「では、私はこの薬で死ぬ事にする」
<ハイ、博士>
「後の事はわかっておるな?」
<ハイ、博士ノ生命反応ガ途絶エタ後、装置ヲ起動シマス>
「よし。これでワシから離れていったあの憎い者どもを見返すことが出来る。しっかり頼むぞ」
<ハイ、博士>
「お前は賢いな。ワシの味方はお前だけじゃ」
<アリガトウゴザイマス博士>
しばらくして、エヌ博士の心臓は停止した。


その直後、研究室のドアを乱暴に蹴破るようにして入ってくる者達がいた。
「博士!やりましたね!私は信じておりました!」
「あなた!あなたから去った私を許して!」
「親父!すげぇ発明したんだって?ぼろ儲けじゃねえかよ……って、あれ?」
「博士!?…亡くなってる」
「あ、あなた!?」
「…これ、遺産とかどうなるんだ!?」

その光景を見ていたロボットには、その後の彼らの有様が手に取るようにわかった。
研究成果の横取り、特許収益、そこから産まれた莫大な遺産…。
あまりにも醜い未来予想。目覚めた博士はそんな現実を見て、どう思うだろう?
ロボットは、装置のスイッチから手を離した。
雨宮
2011年03月24日(木) 00時16分43秒 公開
■この作品の著作権は雨宮さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
星新一氏をリスペクトしました。

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No.6  らいと  評価:30点  ■2011-04-02 18:47  ID:iLigrRL.6KM
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拝読させて頂きました。
星新一をリスペクトという事で懐かしく読ませて頂きました。
ただ、ラストはどうかなあと思います。
他の方も述べられているように、やられた感がないんですねえ。
そこをもうひとひねりしてもらえれば、完璧じゃないかと思いました。
No.5  Yukariba  評価:30点  ■2011-03-29 14:38  ID:lwDsoEvkisA
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 はじめまして、Yukaribaと申します。
>「そんなレベルの話ではない。時期にもっと凄い技術をお目にかけよう」
 zooeyさんがこの箇所について触れましたが、かえって私はこの部分がとても気に入っています。オチでこの伏線もろとも突き放しているところに、お見事! と思いました。
 これが「やられたぁ!」とまでならないのは、とても惜しい気がします。ネタ勝負ともいえるSSですが、もうすこし文章にこだわってもいいかな、と思いました。
>「……誰も、わしの発明を信用してくれん。こうなったら、わし自身で実験をするしかない」
>エヌ博士はそう決意するしかなかった。
 この、1→2→3→4といった時系列に沿った話の進め方だと、勘の良い読者に先読みされがちなので、

例:「誰も、わしの発明を信用してくれん。このままではせっかくの研究が水の泡だ。一体どうすれば……そうだ!」
 その日からというもの、博士はロボット開発に没頭した。専門分野ではないにしろ、ずば抜けた知能を持つ彼にとっては、必要なのは歳月だけだった。
 そして、十年後のある日。
「○X新聞です! 博士、(略)」〜「(略)お目に掛けよう」
 誰もいなくなった部屋でひとり、博士は決意のまなざしをロボットに向けた。まるで人間のようなそれを、なぜ作ったか。それは、彼だけが知る唯一の目的を果たすためである。
「では、私はこの薬で死ぬ事にする」
 そう、博士は自分自身で人体実験を試みようとしていたのだ。

 こんなふうに(稚拙な文章ですみませんorz)結論やタネ明かしを後回しにしたりすると、もっと読み手を引きつけるんじゃないかなぁと思います。
 あと、ロボットが人間そっくりに作られた、と書けば、「もしかして、人体実験をロボットでする気か?」といった引っかけにもなりそうですね。
 いろいろ宣いましたが、調理次第ではもっと評価が伸びる作品、というのがまとめの感想です。星新一は質はさることながら、量がすさまじい。このまま書き続けて、持ち前の発想力で読者をあっと言わせてください! 次作も楽しみにしています^^
No.4  永本  評価:30点  ■2011-03-27 02:39  ID:l0JpXo/GvK6
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掴みも良いですし、オチもとても面白かったです。ショートショートのお手本のような作品でした。ただもう少し捻れば、もう少しオチを工夫すればとも思いました。何か教科書通りというかそんな感じがしました。確かに面白かったのですが星氏の作品を読み終わった後の「やられた!」という感動がいまいちなかったのが本当に惜しいです。構成や作りに関して言えば全く問題ないので、読書はしていると思いますが今以上に様々な本を読み文章を洗練させ、発想力を今以上に養えば雨宮さんの書くショートショートはもっと面白くなると思います。ご自身の中にある起爆剤を上手く爆発させることによって「巧い」を超えたショートショート、短編が書けると思います。
それでは。
No.3  片桐秀和  評価:30点  ■2011-03-24 18:29  ID:n6zPrmhGsPg
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初めまして。読ませてもらいました。
よく出来た作品だなという印象でした。終わり方も良いですね。このネタとして、特別気になった点はありません。あえて言うなら、文章はまだ洗練が出来るかなと言ったところ。しかし、星新一って完成されすぎている分、それを真似すると、真似以上のものになりにくいのが難点かな。それこそ、とてつもないアイデアなり、新たな切り口なりがないと、印象としては「よく出来ている」以上になりにくいかもです。
今回はオマージュ的な意味をもたれているとのこと。話を作る力は感じたので、作者さんなりのものをまた読ませて欲しいなと思います。

何はともあれ、気持ちよく読めました。これからも頑張ってください。
No.2  お  評価:30点  ■2011-03-24 01:17  ID:E6J2.hBM/gE
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ちわっす。
良くできてるなと思いました。良くは、出来てる。
その辺の詳細は、もう、過も不足も何もなくまるっとそのまま言いたいことをzooeyさんが書いておられるので、思わずコピペしようかと思ったほどですが、ほんとそんな感じです。
まぁ、人よりもロボットが見せる人情味というところなのでしょうかねぇ。
それにしても、この、博士、発明、ロボットの取り合わせコントは、実際このサイトでも時々見るんですよねぇ。だから、もう、既視感ありまくり。またかという思いと、あえてこれならすげーの持ってきたのかなという期待が、作者氏の思惑とはなんの関係もなく渦巻きつつ読むわけですが、まぁ、良くできてるし面白い、けど、まぁ、ねぇ。的な。
言ってみれば、スタート時点ですでにハンデを自らしょってるようなものなので、がつーんと脳天にコンクリのブロックをぶちかますくらいのネタでないと、なかなか既視感に打ち勝てない、でしょうねぇ。
No.1  zooey  評価:30点  ■2011-03-24 00:52  ID:qEFXZgFwvsc
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はじめまして、読ませていただきました。

面白かったです。
人間の私欲を皮肉っているところなんか、星新一っぽくて、いいなぁ、と思いました。

ただ、結構無難なというか、ありがちな展開だったかなというのは、正直否めないです。
こういうショートショートであれば、
おそらく途中段階でもっと扶線をしいて、それをラストで掬い上げるようにしたほうがいいのだと思います。

たとえば、今回の場合

>「○X新聞です! 博士、世界一精巧で頭の良いロボットを作り上げたというのは本当ですか?」
「そうじゃ。自分で考え、動く事ができる」
「ということは、これからロボット工学の新たな時代が拓けるという事ですか?」
「そんなレベルの話ではない。時期にもっと凄い技術をお目にかけよう」>>

という部分は、ラストに何かしらを期待させると思うのですが、
ラストまで読むと、この部分って、実はなくても全く作品として問題がない。
せっかくだから、こういう部分を一つの扶線として、ラストに絡めていってもいいのかなと、勝手ですが感じました。

あと、これは好みの問題かもしれませんが、もうちょっと滑稽さがほしかったです。

たぶん、私にはできませんが(笑)ラストを書くのが苦手なんです。

でも、最初に書いた通り、人間の私欲の描き方や、
それと対比されるロボットの優しさ、
むしろ、ロボットのほうが人間的な優しさを持ち合わせているという皮肉は
とてもうまいと思いました。
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