音のない言葉 |
いつも教室で本を読んでいる女の子。字がいっぱいの難しそうな本。 彼女の名前は安曇爾(あずみ ちか)。席替えをして隣の席になった女の子だ。 物静かで声も小さくて、よく1人でいる子。でもクラスで孤立しているわけじゃなく、友達もそれなりにいる。1人で本を読むのが好きらしい。 図書委員会の書記で、生け花クラブに入っている。桜木南に住んでいて、地区会でも書記をしてる。まるでお手本みたいなきれいな字を書くんだ。もちろん習字も得意で、書初め大会ではいつも金賞。 前髪が長くて目が少し隠れ気味。だから皆なかなか気付かないけど、安曇は可愛い。白い肌、奥二重の茶色の瞳、綺麗な黒髪、いかにも清楚って感じ。 そんな彼女と初めて話したのは席替えをした3日後の算数の授業中だった。 授業中にふざけてばかりいた俺は先生に問い5を答えろと言われてもちんぷんかんぷん。席を立ったはいいけど分かんないから適当な数字でも言おうかなと思った時、コンコンと机を叩く音がした。見れば安曇が鉛筆で自分のノートを指していて、“答えは4”と書かれていた。 「新倉、答えは。」 「よ、4です!」 「おー。正解。ちゃんと話聞いてたんだな。じゃあ次は佐々木ー。」 同じくふざけていた佐々木が当てられるけど、間違ってしまって話を聞いてなかったなと怒られていた。ごめん佐々木。俺ずるした。 俺はノートに“ありがとう”と書いて安住の机を叩いた。安曇の返事は“どういたしまして。でもちゃんと授業は聞かなきゃ駄目だよ?”。 “だって、算数きらいだし苦手” “私も苦手。でも嫌いじゃない” “うそ。あずみ、成績いいじゃん” “そう?よくわかんない” 残りの算数の時間、俺と安曇はずっと筆談をしていた。安曇は習ってない漢字もいろいろ書けたし、真っ直ぐで読みやすい。 3時間目の国語も、5時間目の社会も筆談した。安曇と筆談してると分からないところも教えてくれたし、何より楽しかった。安曇の教え方は先生より上手い。 それから教室でやる授業は全部、筆談の時間になった。安曇と話してるのはすごく楽しかった。 だけど最大の危機が訪れた。2学期最初の席替え。隣の席じゃなくなったら、今まで通り筆談ができなくなってしまう。安曇は目が悪いから前の方の席に座る。今回は2列目の右から4番目の席だ。てことは右から3番目の席、9のくじを引けばいいわけで。 何の奇跡か俺は見事に9のくじを引き当てた。何人かの友達に「安曇と晴哉、また隣かよ〜。」と言われた。安曇は席替えの次の数学の時間に“また隣だね。新倉くんが隣で嬉しい。よろしくね。”と言ってくれた。 3学期の席替えでは流石に隣になれなかったけど、ナナメの席で手紙交換をした。先生にばれないように2人で秘密の会話をするのは楽しかった。 “新倉くん、身長何センチだった?” “148。あずみは?” “私は150だったよ” “あずみにぬかされたー” 他の女子が自分より大きいことには何も感じなかったけど、何故だか安曇が自分より身長が高くなったことがすごく悔しかった。 俺が安曇の身長を1センチ越した頃、卒業式だった。俺も安曇も同じ桜木中学校に入学するからお別れはなかったけど、クラス替えがあった。安曇は4組で、俺は3組。 クラスが別だから今までみたいに筆談どころか授業中の手紙交換もできなくなってしまった。安曇も新しい友達ができたみたいだし、もう筆談なんてしないだろうか。そう思って半ば諦めかけていたら、廊下ですれ違った安曇に1枚の紙を渡された。 “クラス別れちゃったね。残念。” その一言が嬉しくて、俺はすぐに返事を書いて安曇に渡した。もう安曇という漢字は自然に書けるようになっていた。 “安曇はまた図書委員?” “うん。新倉君は?” “俺も。安曇が入ると思ったから。” “じゃあ図書当番、一緒になれるといいね。” 委員会の最中も安曇と筆談は続けていた。3組と4組は隣で座れたから。運良く図書当番は火曜日の放課後、俺と安曇は一緒になった。小6の時の席替え然り、俺は運がいいらしい。 当番になって初めての放課後。新しいノートに2人で会話をしていた。幸いこの学校の図書室はさして人気もないらしく、放課後は数人がいるだけで静かなものだった。 “塾行くことになっちゃった” “何で?安曇、成績いいのに” “お母さんに言われて。中学校は勉強が難しくなるからって。” “そっか。何曜日?” “火曜日はもちろんないよ。月・水・金” その言葉で少し安心した。少なくともこの放課後の時間がなくなることはないんだ。 だけど、また新たな問題発生。 “瀬崎君って分かる?同じクラスだよね、1組。塾が一緒なんだ” “へ〜。うん、結構話すよ” “いい人だよね” 安曇のいい人という言葉に少し胸が痛んだ。少し前に、瀬崎と安曇が仲良さそうに話しているのを見かけたばかりだった。安曇が見たことないくらい、嬉しそうな笑顔だった。 “瀬崎と仲良いの?” “わかんない。普通?” 普通?でも俺は一緒にいる時、安曇のあんな笑顔見たことない。俺と安曇、普通程度にも仲良くないってことなのかよ。 「もう下校時間だ。帰ろ。」 「うん。」 図書室の鍵を職員室に返して、玄関まで一緒に歩いた。2人とも無言。玄関を出ると、ほとんどすぐ逆の方向だから、手を振って別れた。 次の日の数学。ペアを作ることになって何の因果か瀬崎とペア。瀬崎は頭いい。運動もできる。顔もいい。モテる。安曇が好きになるのも無理なくね。 「新倉って安曇と仲良いよね。」 「は!?……瀬崎だって前、仲良さそうに話してたじゃん。」 「そんなことあったっけ。」 「あった。何?付き合ってんの?」 「別に?安曇にふられただけ。」 「……瀬崎でもふられるんだな。」 「何だそれ。俺そこまで人気者じゃねーって。安曇、好きな奴いるんだってさ。」 瀬崎の一言で俺のテンションが一気に下がった気がした。いや、その前も決して高くはなかったけど。瀬崎はそんな俺の心中も気にせず続ける。 「でも、その好きな人は全然気づいてないんだって。同じ委員会で、隣にいるのに。」 「え……?」 「まぁ、俺は安曇を応援してるから、その気づかない馬鹿に後押ししてるわけですが。」 まさかとは思うけど、安曇の好きな相手って。 「安曇が俺といる時笑ったの、お前の話してる時なんだよ。すごい嬉しそうに笑ってた。」 「……瀬崎。」 「何。」 「ありがと。」 「どういたしまして。」 奇跡的にも今日は火曜日。やっぱり俺はつくづく運が良いのだと思う。 放課後が来るのが待ち遠しくて、HRが終わった瞬間に図書室へと駆け出した。 図書室のカウンターには既に安曇が座っていた。HRが終わるのは2組の方が早かったらしい。俺はカウンターに座るなり、ノートを開いて書きだした。 “好き” “私も” 帰ってきた一言を見て、安曇を見ると、顔を真っ赤にしていた。気持ちを文字にするのも、やっぱり難しい。 |
るな
http://ameblo.jp/runa0908/ 2011年03月21日(月) 21時20分38秒 公開 ■この作品の著作権はるなさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.5 水川 朝子 評価:30点 ■2011-04-01 17:53 ID:u3lyy/5P.xY | |||||
はじめまして。読ませていただきました。 読みやすい文章で、物語から優しい雰囲気が漂ってきていて、可愛いお話だな、と思いました。でも、お話にもっと膨らみをもたせるために、瀬崎君がもうすこしいじわるでもいいかな、と思いました。 とにかく、優しいお話でまた読みたいと感じました。 次の作品楽しみにしています。 |
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No.4 昼野 評価:20点 ■2011-03-30 17:57 ID:MQ824/6NYgc | |||||
読ませていただきました。 主人公がイマイチどういう人間かよくわからないので(顔とかクラスでの人気とか?)、安曇さんが主人公に惚れてる理由がよくわからなかったです。もうちょっと人物造形をちゃんと書いた方が良かったかなと。他は概ね、他の方の感想と同じ感じです。 |
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No.3 片桐秀和 評価:30点 ■2011-03-24 18:51 ID:n6zPrmhGsPg | |||||
初めまして。 と、書こうとしている感想がおさんともろかぶりであることに気づき、今何書こうかなと改めて考え中ですw。うー無理だ。同じことを書こう。筆談をテーマにしてるということは良いのですが、それが話の筋(特にラスト)を盛り上げきれていないというのが少し残念です。筆談だからこそ生まれる誤解を使って、ただ伝え聞きで両想いと知ってハッピーエンド、という以外のストーリーを作ることも出来たんじゃないかな、などと思いました。 よく言われることですが、物語で男女がくっつく時って、その前に大きな障害があった方が盛り上がることは確か。共感する隙を与えるとでもいうのかな。 文章は、飾らない書きかたをされていて、それが作品の柔らかな雰囲気を作っていたと感じました。ただ一方、それだけだと印象に残りづらいので、まずこういった作品をしっかり書けるという段階から、次どう進むかが課題となるのではないかなと。 結局同じようなことを書いただけですが、とにかく気持ちよく読めたということが伝われば幸いです。 |
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No.2 るな 評価:--点 ■2011-03-23 18:28 ID:26VugPo02oQ | |||||
評価ありがとうございます! 参考にさせていただきます^^ 自分でも終わり方が安易だったとは思うので、また推敲していきたいと思います。 本当にありがとうございました! |
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No.1 お 評価:30点 ■2011-03-23 02:37 ID:E6J2.hBM/gE | |||||
ちっわす。 全体には、文章のリズムが良くて読みやすいし、さらっと溶け込んでくる良い雰囲気かなぁと思いました。 ただまぁ、筆談と言うことでいえば、筆談しかしないことの必然性とか、筆談のもどかしさってのが感情の中にあっても良かったかなぁとか、思ったり。 そして最後はちょっと安易に走ったかなぁと思わなくもなく。 どうせ小説であるなら、最後にもう少し意外性があっても良かったんじゃないかなぁと。それこそ、筆談に絡ませたなにか的な。 あと、体言止めの多用はリズムを作るのに良いし、本作でも一定の効果を出していると思いますが、出だしのところ、少し重ねすぎてくどかったようにも思えます。やりすぎると、ぶつ切りの文章のように感じてしまうので、そこは要注意かなと。 そんなかんじで、ほんわかといーかんじでした。 |
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