Possibility |
「俺、思うんだよ」 ユウスケが、教室の窓側に座っていた。 その前の席に俺がいて、夕日が差し込んでいて、ありふれている放課後だった。 「何を?」 「俺はさ、ヒロが好きだ」 「気持ち悪いからやめろ」 「そういう意味じゃねえよ。恋愛じゃなくて、友情」 ユウスケが何時に無く真剣で、真面目な会話なんだと思った。俺は、椅子に後ろ向きで座ってユウスケの瞳を見たが、いつもどおり曇っていた。 「でな、思うわけだ」 「だから何を」 「俺を嫌いな奴はさ、俺に絡まなければいい」 「ほお」 「でさ、好きなやつとだけ絡んでりゃ、きっと楽なんだよ」 「そりゃそうだろうな」 そんなこと、誰だって思うだろう。でも、それをしようとしないのが人間なんだと思う。人間である以上きっと、仕方ことの一つなんだ。 「視点がずれるけどさ、俺はしょうが焼きが好きだよな」 「ああ、いつも学食で食ってるな、お前」 「でもさ、ヨーグルトは気持ち悪くて嫌いなんだよ」 「へえ、それは知らなかったけど?」 「そりゃそうだ、俺あんま食わねぇし」 嫌いなものを食べないのには、理解が出来る。俺もカツ丼は好きだから学食で食うけど、苺オレは嫌いだから飲まない。そんなもんじゃないのか。嫌いなものを我慢して食う必要は、無いと思う。 「けどさ、嫌いなもん食わねえでいると、栄養とかのバランスとかの問題で、体調壊すと思うんだよ」 「そういう可能性もあるだろうな」 「下手したら死ぬだろ? だから俺は、嫌いなもんも食おうと思うんだよ」 「へぇ、偉いな」 苺オレ飲まないでいて死ぬってことは無いだろうけど、例えば、野菜が嫌いだから食べないでいる。そういう場合は死ぬかも知れないと、単純な俺の脳みそが判断した。 「好きな人間とか、嫌いな人間とかも同じだと思うんだよな」 「……はあ」 「俺は、川本が正直嫌いだ」 「ああ、あいつ? 俺も苦手だな」 「けど、川本と何もしないでいたって、俺は結局あいつを嫌いなままなんだよ」 「それでもいいんじゃねえの? 嫌いなら嫌いで、一緒にいなけりゃよくね?」 「だから、そしたら俺は成長できねえだろ」 曇っていたユウスケの瞳が、スッと澄んだ。 ユウスケは、どこまでもまっすぐに言った。 「生きてる限りは、少しでも成長したいんだよ。生きてる限りは、小さくなりたくないと思うんだよ。身長とかじゃなくて」 「……お前の考えてることって、すげーんだな」 「そうでもねえよ。……でさ、例えばだけどな。昔嫌いだった食べ物を、今になって好きになったりしたことはあるか?」 「あー、とろろがそうだな。口が痒くなんの嫌だったけど、今は好きだ。味が美味しいし」 「やっぱあるよな、そういうことって。それが、人間関係でもそうなってくれる可能性を、信じたい」 見渡すと空に鏡のような丸い月が浮かんでいて、俺たちを見つめていた。 嫌いな奴は、星の数ほどいる。正直人間関係は面倒くさいと思っている。寧ろ人間はあまり好きじゃない。……けど、もしユウスケの言葉が本当なら、 俺は、好きになれる可能性を信じたい。 「なあ、ユウスケ」 「ん?」 「俺もさ、好きになれる可能性を信じようと思った」 「そうか。よかった」 ユウスケがニッと笑って、椅子から立つと、「帰るぞ」、と言った。 鞄を背負って、ユウスケが歩き出して、俺もユウスケの背中を追って歩いた。 |
無花果
2011年02月19日(土) 21時46分40秒 公開 ■この作品の著作権は無花果さんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
No.9 ( ̄ω| 評価:30点 ■2011-02-27 20:34 ID:qwuq6su/k/I | |||||
最近 フランス国王ルイ16世妃、マリー・アントアネットの伝記をチラっと見る機会が有った。調べたい記事の別の件で、お付きの侍女(と言っても貴族)で、マリーの大のお気に入りだった女(一番)が 革命が起きて マリーが捕らえられる時点迄に 真っ先に逃げ出したさうで。成る程、仲が良いとか馬が合うとか さういうのは一概に、、何処迄 だうなのか分からないと思えた。チャットで一番親しく毎日話し、哲学にも精通し多くの名作を読んでいる男が居たが、自分のサイトを作り、チャットを拵えたら、あたし丈は 入れ無かった。中学の時 転校した先で やっと出来た友達は、有名な貧乏神で中高と毎日 朝から晩迄 仲良しだったが、登下校の道が同じだったんで、あたしはアッシー君で、高校を卒業したら相手にされ無くなった。口が巧く、付き合って快い人間がどれ丈プラスか分からない。巧言令色 鮮いかな仁と云うやつか? | |||||
No.8 無花果 評価:--点 ■2011-02-24 18:04 ID:qDaj5EVH48E | |||||
感想有難う御座います。 こういう感想のお返事とか書くの苦手なのですが、 読んでくださって本当に嬉しいです。 食べ物の好き嫌いが激しいんです。 苺みるく飲んで発熱したことも有ります。小2のときですが。 これからも頑張ります。 お読みいただき本当に有難う御座いました |
|||||
No.7 言葉に惹かれて 評価:40点 ■2011-02-24 10:56 ID:DtFcOSyTsW2 | |||||
はじめまして。 拝読させていただきました。 (感想だけ書かせてください) みなさんがおっしゃるように、私も会話のテンポが いいなと思いました。 実際に語りかけられているような感覚がしましたよ。 だから、最後の「俺もさ、好きになれる可能性を信じようと思った」 の部分がとても説得力があるなあと感じました。 食べ物の好き嫌いをたとえにしていたのは、 とてもわかりやすかったです。 こういうお話、大好きです。 また読ませてください。 |
|||||
No.6 桜子 評価:10点 ■2011-02-23 18:53 ID:T2Ali//3h.g | |||||
拝読しました。 他の方も仰っているように、会話のセンスがよかったです。リアルな会話に近く、無駄な説明がないのでテンポよく読めました。 テーマもストレートでわかりやすかったです。 地の文はこれから伸ばしていくことで十分追いつけるでしょう。 チャットなどを活用してアドバイスをもらうのもいいと思いますよ^^ |
|||||
No.5 無花果 評価:--点 ■2011-02-22 21:37 ID:qDaj5EVH48E | |||||
感想有難う御座います。 そうですね、物語を書いたという感じでは無いです。 自分の今思ってることを、文にして伝えたって感じかな。 私はこの話に出てくるユウスケ君のような考えを持ちたいなーって思っています。 嫌いな人間が多いからなぁ・・・。 お読み頂き本当に有難う御座いました。 アドバイスを元に頑張ろうと思います。 |
|||||
No.4 お 評価:30点 ■2011-02-22 15:03 ID:E6J2.hBM/gE | |||||
ちわ。 チャットでもちょっといいましたが、がっつり物語というよりは、青春の1シーンという感じですか。あえていえば、作者氏の今現在の思いをそのまま映した、小説の体裁をとったエッセイみたいな感じ? なのかな? と。 ストレートである分、共感できる人には真っ直ぐ伝わる反面、少しでも疑問を持つ人には説教臭く感じてしまうリスクがありますね。 その、リスクを回避するのには、もう少し情景を書き込む、あるいは、人物たちが描かれる気持ちを抱くに至る過程をエピソードとして書き連ねるか、そういった物語らしい体裁にしていくというのもひとつの方法でしょうし、反面、それだと、フィクション色が強くなって、思いの伝わるのが婉曲になってしまうリスクもあります。 この辺は、善し悪しの問題というよりも、作者氏がどのようなスタンスでどのようなスタイルをとるかってことだろうと思います。 文章としては、会話文のセンスがよかったように思いました。 一方、ご本人おっしゃるように、情感を湧かせるような文章が少し弱かったか。 内容に関しては、僕は嫌いなヤツは嫌いで、好かれたければ好かれる努力をしなさい。でなければ、僕は知らん。という感じがあるので、若いのにえらいなーと思いました。 でわでわ。そんなところで。 |
|||||
No.3 無花果 評価:--点 ■2011-02-20 20:43 ID:qDaj5EVH48E | |||||
感想有難う御座います。凄く嬉しいです。 しっかり読んでいただけて、恥ずかしいけどにやけてます。 自分でも、情景に関してが苦手だと感じています。 なので、こういったアドバイスを頂けたのがものすごく有難いです。 これからも、私の伝えたいこと、書いていきたいと思います。 本当に有難う御座いました。 |
|||||
No.2 木枯らし 評価:20点 ■2011-02-20 17:08 ID:CMjvhWCJU0A | |||||
初めまして、いい話ですね。テーマというか、主題というか、そういうのを伝えるのが上手いと思いました。 ただ、ちょっと唐突な印象を受けました。どうしてそんな二人だけが残ってる状況になったかの前置きのようなものがあってもいいかなと。 それに心理描写が非常に多く、二人の時間がずっと止まってるように感じました。話をしていても仕草などが出るはずなので、そういう描写を入れると二人の様子が伝わりやすくなるかと。 それと、最後の辺りは違和感を感じます。『見渡すと空に鏡のような丸い月が浮かんでいて』とありますが、どんな空かという描写がないので、月という言葉だけで夜空に月が浮かんでるように感じてしまいます。また本当にそうだとしても夕方から夜になるには時間的に早すぎるうえ、二人に電気つけろよとツッコミたくなりました。 ストーリーは本当に良かったです。また読ませて頂きたいと思いました。 |
|||||
No.1 zooey 評価:30点 ■2011-02-20 03:21 ID:qEFXZgFwvsc | |||||
初めまして、読ませていただきました。 これはイイですね。こういう話好きです。 前に進んで、成長したいという感情が、嫌味なくストレートに伝わってきました。 きれいごとを並べた説教くさい作品より、 こういう風に拙い言葉(無花果さんの言葉がというわけではなく、主人公たちの言葉や思考のことです)によって書かれたものの方が共感できるし、 現実味があり、心にせまってきます。 でも、もう少し扶線やエピソードがあってもよかったかなと思いました。 たとえば、川本君のことが嫌いという言葉だけではなく、 回想とまではいかなくても、二人が嫌っている彼の口癖とか、行動とか、 そういうものをつけたしていってもいいのかな、と思いました。 あと、最後の >見渡すと空に鏡のような丸い月が浮かんでいて、俺たちを見つめていた。 嫌いな奴は、星の数ほどいる。正直人間関係は面倒くさいと思っている。寧ろ人間はあまり好きじゃない。……けど、もしユウスケの言葉が本当なら、 俺は、好きになれる可能性を信じたい。 という部分は、とてもいいと思うのですが、 せっかく夜空の情景があるのだから、夜空の星の輝きを細かく描きこめば、 それに続く「嫌いな奴は星の数ほどいる」の部分が光ると思います。 星は美しく光り輝いていて、その星と同じように嫌いな奴も一人一人輝いてるのかもしれない、みたいな内容が盛り込めれば、表現がいきてくると思います。 ラストシーンは、目に浮かんでくるようで良かったです。 また読ませてください。では(*^^)v |
|||||
総レス数 9 合計 160点 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
評価(必須) | 削除用パス Cookie |