春の歩み
 あ、倒れる――。
 と思った時には駆け寄っていた。JR総武線、錦糸町駅。各駅停車に乗り換えるため、ホームに上がってすぐのことだ。
「大丈夫ですか」
 僕が何度か肩を揺すると、おばあさんは小さく頷いた。貧血か何かを起こしたようで、しばらくうとうとしていたが、気を取り直したようだからもう心配ないだろう。
「ええ。ありがとう」
 僕はそっと背中を支えて、彼女をゆっくり起き上がらせた。目の前を電車が通過する。午前中は研究室セミナーだが、たぶんもう間に合わないだろう。教授の機嫌を考えると、遅刻するくらいなら出ない方が賢い。後で小言を聞いた方がマシだ。
「じゃあ、僕はこれで」
「あの、お兄さん」
「お気になさらないで下さい。学生は暇だけが取り柄ですから」
 誰かが呼んだらしく、向こうから駅員が駆け寄ってくる。空高く伸びるスカイツリーに背を向けて、僕は駅の階段を降りていった。
 先程のおばあさんも足が不自由な様子だったが、改札に向かうまでの間、駅の通路には杖をついた人が多くいることに気付いた。最近、都市部の駅はどこもエレベーターが常設され、足の悪い人にはずいぶん便利になったことと思う。先月に東京へ遊びに来た祖母は「人は冷たいけど機械は温かい街だね」などと皮肉を言っていた。
 改札を抜けて構内のショッピングモールを歩くと、煌びやかなライトに照らされた店が軒を連ねる。子供を連れた母親たちも何人か散見され、昨今の低消費ブームの割には案外客入りがいい。少なくとも、うちの地元の商店街よりはまだ希望が持てそうだ。
 何もしないのは退屈だし、何かするには中途半端な時間。電車の時刻まで暇を潰そうと立ち寄った書店で、懐かしい顔を見つけた。彼女とは高校を卒業して以来だから――五年振りだろうか。少し痩せたように見える。
 耳には涙の粒を模したピアスが輝いていた。昔は自分の身を着飾ることなんて、まるで頓着しなかった彼女だった。上品な微笑みを湛えたその口元は、記憶の中の彼女とはどうにもうまく重ならない。
 胸に爽やかな風が吹き抜けた気がした。その奥で、見えない棘がちくりと痛む。彼女のことを見つめながら、僕は夢でも見るようにあの頃を思い返していた。

                  ***

 僕が彼女と知り合うようになったのは、確か高校二年生の秋だった。「そろそろ受験を意識しておけ」と発破を掛ける教師に、「まだ正月までは」とモラトリアムの延長を乞う生徒たち。これがいつの間にか春休みに延びて、夏休みに延びて、気付けばもう一年、と悲劇のループに入る者も少なくない。
 同級生に、小西歩美という子がいた。一年の頃は別のクラスだったし、二年のクラスで一緒になってからも半年間、特別彼女と接点はなかった。僕も彼女も目立つようなタイプではなく、まぁそれなり、の高校生だった。
 晩秋の放課後、テストでクラス最低クラス(もう何がなんだか)の成績を収めた僕は、地学の補習を受けるため一人廊下を歩いて特別棟校舎へと向かった。吹き込む木枯らしに身を縮めて中庭を眺めると、銀杏の樹がはらはらと葉を散らせていた。まだ梢に残る葉の枚数を残り少ない高校生活と重ね合わせて、あと一年か、と改めて実感していた。
 地学講義室で教員が用意したプリントをこなし、長い補習を終えたら日が暮れていた。教室を出て扉を閉める。ふと向かい側の空き教室を覗くと、そこに誰かが座っていた。
 ――小西さん、だっけ
 僕は一瞬、声を掛けようかとも思った。けれど、単にクラスが同じであるというだけで僕たちはさほど親しい間柄でもない。それに、彼女は何かに集中しているようだった。
 僕が目を離そうとしたら、彼女は顔を上げた。
「……」
 彼女は何も言わず、じっと僕を見つめていた。僕はと言えば、「なかなか印象的な瞳をしている」なんてどうでもいい所見を、というか初見を考えていた。
「いや、別に」
 沈黙に耐えかねて、とりあえず出てきたのは言い訳だった。なんだかまるでおねしょを見られた子供のようだ。彼女はそんな僕の狼狽を気にする風でもなく、訊いてきた。
「何か用事?」
「地学の特別講義。指折りの優等生だから」
 彼女は合点が言った様子で、視線を向かい側の教室に向ける。
「ああ、補習」
「小西さんは?」
「ちょっと用事」
「ちょっと?」
「まぁ似たようなものだよ」
「ふうん」
 彼女は補習になど縁がないだろう。成績は良かったはずだ。とは言え、べつだん興味があるわけでもないので、僕は軽く手を振ってその場を後にした。

 少し意識するようになると、彼女はなんだか自分に似たところのある子だということが分かった。友達がいないわけではないが、交友関係は広くない。波風は立てないけれど、一人で行動するのは苦にならない。そして、周囲をどこか冷めた目で静観しているようなところがあった。まぁ、あくまで僕の目から見た印象だ。
 僕がそれまで小西さんのこういった部分に気付かなかったのは、二人とも観察する側の人間だったからだと知った。自己を主張せず、基本的には一歩引いた話し方をするから、お互いが観察対象になることは少ない。
 放課後、彼女はたまにあの空き教室を利用しているようだった。僕も彼女も部活に所属していなかったから、時間はたっぷりあった。偶然通りかかったフリをして、僕は彼女と話すようになった。
「やあ」
「最近よく会うね、桜井くん」
「ちょっと通りかかって」
「そう」
 僕が近付いて行くと、彼女は作業していたものを片付け始めた。いつもここで勉強しているのだろうか。それなら見習わなくてはいけない。彼女が何をしているのか気になったけれど、あまり詮索するのも不躾だと思った。
「小西さん、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳ならどっち派?」
「コーヒーは苦手」
「じゃあこっちだね」
 僕はそう言って、フルーツ牛乳を彼女に差し出す。さっき下階の自販機で買っておいたものだった。
「いいの? もらって」
 僕はそれまで何度かそこに立ち寄っていたけれど、こんな風に腰を落ち着けて話すのは初めてだった。それに、そろそろ打ち解ける転機が必要だと思っていた。そこで、餌付けという初歩的な戦法を取ることにしたのだ。これは「こちらからアプローチしている」という意思表示でもある。それに気付いたのか、彼女が聞いてきた。
「通りかかった、割には準備がいいね」
「常に予備を持っていないと不安になる性分で」
「まぁいいけど。ありがとう」
 二人で味も色も違う牛乳を飲みながら、とりとめのない会話を交わしていた。それからしばらくは、こんな調子で秋の放課後を無為に過ごしたものだった。

 何度か話していくうちに、興味本位だった気持ちは別の感情に変わっていった。実際のところ、彼女は僕が思うほど冷めた子ではなく、むしろ普段は意識的にそうしているようだった。ちなみに、僕の場合はあまり表情が豊かな方ではなく、無意識の内にそっけない態度になってしまうのだが。
 空き教室の机に頬杖をつきながら、二人で向かい合って話すのが習慣になった。
「小西さんは彼氏とかいるの」
「いるように見える?」
「それなりに」
「うわあ、興味なさそうー」
 彼女はおどけるように言って、頬杖の手を左に替えた。肩までかかった髪が、さらりと流れる。窓から差してくる夕焼けに照らされて、その左側だけが栗色に染まって見えた。
「なんか桜井くんって、何考えてるのか全然分からないよね」
「小西さんもいい勝負だと思うけど」
「私は人を見るのが好きなだけ。無表情とは違うよ」
 割合、はっきりと物を言う子だった。
「悪かったね、無表情で」
「ごめんごめん」
 そう言いながら彼女は鞄から何かを取り出すと、頭の後ろに手を回した。どうやら髪を束ねるらしい。後ろで結んだ髪型も、ほっそりとした彼女の輪郭にはよく似合っている。 フェルト地のシュシュが、笑うたびにゆらゆら揺れた。
「それ似合うね」
 と僕が褒めると、
「手作りです」
 彼女は得意気に答えた。どうやら裁縫が趣味らしかった。なかなか家庭的な面もある。僕は、彼女に少しずつ、けれども着実に、惹かれていった。

                  ***

 放課後の座談会を終え、帰路につく。僕の方から、「じゃあ今日はこの辺で」と言って切り上げるのがいつものことだった。今のところ、僕たちを繋ぐ唯一の時間は空き教室で小話をするひと時だけだ。あそこにいる間だけは時計の針がゆっくりと進み、時の流れがぎゅっと濃縮されたような気がする。
 自転車置き場に向かって歩きながら、僕はなんとなく空を見上げた。沈みかけた太陽が最後の輝きを残して、遠く西の端は薄紫色に染まっていた。
 秋が深まり、日の入りも随分と遅くなってきていた。そろそろ、動物たちも眠る準備を始めている頃だろう。人間だけが、師走よろしく忙しそうにしている。自転車を漕いで、早々に自宅へと帰った。
「ただいま」
 少し遅れて、奥の方から返事がする。
「最近遅いね。やっと勉強する気になったかい」
「ぼちぼち」
 声がする方に歩いていくと、祖母は台所でまな板の上の魚を叩いていた。夕飯の献立はなめろうだろうか。祖母の得意料理だった。
「大学受験、するんだろ」
「たぶん」
「……また蚊が鳴くような声を」
 小西さんは無表情などと評していたが、別に僕は冷めたフリで格好つけているわけでも周囲を遠ざけているつもりもなかった。自然とそうなってしまうのだ。僕は小さい頃から大人しい子供だったろうか。祖母の話だと、幼稚園生や小学校低学年の頃はむしろ陽気に騒いだり歌ったりする子供だったという。
 それがいつからか、感情を表に出すことが苦手になっていた。
「死人じゃないんだからさ。生者に口あり、だよ」
 祖母がよく口にする言葉だった。祖母と二人だけの食卓を囲むとき、畑仕事をしている祖母は、もうすぐ薩摩芋がどうだとか、今年は雨が少ないだとか僕に話しかけたけれど、僕は竹筒に水を引き入れた鹿威しのように、こくりこくりと頷くだけである。
 祖母はその責任の一端が自分にあるかのように、肩を落としたものだった。けれども、それは誰のせいでもなく、僕の中の、そして僕と母の間の問題だったように思う。

 僕が祖母と二人で暮らすようになったのは、小学四年生の春だった。それまでは父親のいない母子家庭で、母と一緒にアパートで慎ましく暮らしていた。僕がずっと幼い頃に、父親を交通事故で亡くしていたからだ。
 暮らしは楽ではなかった。父の保険金も、生活を潤わせることはなかった。なぜなら、その事故は父のみならず、何の罪もない人の命を奪ってしまったから――飲酒運転だった。被害者一人一人に毎月謝罪の手紙を書きながら、母は夫を失った哀しみに沈む間もなく、僕と二人だけで歩んで行かねばならなかった。
 その朝のことは、今でもはっきりと覚えている。擦り切れたランドセルにまだ目新しい四年生用の教科書を詰め込んでいたら、朝ご飯の支度をしていた母が言った。
「今日はちょっと遅くなるから」
「わかった。何時に帰ってくる?」
「起きていられないと思うし、先に寝てていいよ」
 いつものことだった。母は近所のスーパーでパートの仕事をしていたから、店じまいが長引いて帰りが夜の十時を過ぎることも多かった。
「でも、帰ってくるんでしょ」
 なぜか母は目を伏せた。僕は理由が分からず首を傾げたけれど、大人は子供じゃ分からないことで、悩んだり、怒ったりすることを僕は知っていた。その日だけ特別だなんて、僕は思いもしなかった。
「当たり前じゃない」
「じゃあ待ってる」
「夕ご飯は、昨日のカレーが冷蔵庫に入ってるから」
 僕は一度だけ頷いて、ランドセルのフタを閉めた。
 母の声を聞いたのは、それが最後だった。
 その日の夜、僕は何も知らずにリビングの窓際で一人本を読んでいた。淡く青白い月が暗がりの中に浮かんでいて、街をほんのり白く染めていた。本棚に並ぶ宇宙や星の本は、どれも僕がねだり、母が買ってくれた物だった。
 昼間の喧騒が嘘のように、静けさに沈み込んだ夜の世界。浅い眠りと目覚めを繰り返しながら、僕は星々が光輝く世界に何があるのかをいつまでも考えていた。
 結局、母は二度と帰って来なかった。あとで聞いたところによると、パート先の同僚と駆け落ちをしたらしい。
 ――当たり前じゃない
 母は僕との生活に嫌気が差したのか。
 母にとって僕は荷物でしかなかったのか。
 どうして帰るなんて嘘をついて、僕を騙したのか。
 疑問はいくつも浮かんできた。けれど、その答えは二度と聞くことができないだろう。たぶん母はもう一度やり直したかったのだ。何もかもを捨てて、一人の女性として。
 連絡を受けた父方の祖母が迎えに来て以来、僕はこの家で祖母と暮らしている。

                  ***

 僕の中にも、そして彼女の中にもまだ気持ちに余裕があった時期だったと思う。恋人を作ることに汲々とする時は過ぎ、かといって受験戦争に巻き込まれて手遅れ、というほどでもない。僕は気持ちを十分に温めたところで、彼女をあの空き教室に呼び出した。
 初冬の肌寒い放課後、マフラー(手編み?)を巻いて小西さんはやってきた。
「ありがとう、来てくれて」
「うん」
 この日のために、僕は頭の中で何度も告白の言葉をシュミレーションしていた。そして時は満ちた。僕は脳内のデータベースから、そのイカした殺し文句を呼び出すことにした。
「ええと……」
 ――HTTP 404 FILE NOT FOUND(指定されたURLに元々ファイルが存在しないか、既にファイルが削除されています)
「……桜井くん?」
 いつの間にか消去されていたらしい。ようするに、緊張している。
「いや、リンク先のアドレスが間違ってたみたいで」
「リンク?」
 バカなことを言っている場合ではない。僕はようやく覚悟を決めた。
「とにかくもう頭の中が真っ白で、何も出てこないんだ。小西さんのことが、好きです。良かったら僕と付き合って下さい」
 僕が頭を下げて頼むと、彼女はポケットからハンカチを取り出して、目頭を拭きながら「嬉しい。私も好きよ」と答えてくれた――なんてことはまるでなく、僕はじっと自分の足元を見ていた。彼女の返事を待っている間に、心臓が一生分の鼓動を使い切ってしまうのではないかと心配になった。
 ずいぶん長い時間に感じた。これはもしや、彼女はとっくにこの場を辞しているのでは、僕は一人憐れにここで立ち尽くしているのでは。そう疑って僕が顔を上げると、目の前の彼女は小さく口元に笑みを浮かべた。
「よくできました」
「はい?」
「私も好きだよ」
 僕は情けなく口を開けたまま、思った。
 ――心臓、あと何回分残ってるかな

 交際は順調だった。二人の関係は何の障害もなく始まり、それまでの悶々とした時間が嘘のようだと思った。彼女は僕の前では屈託なく笑った。だから僕も無理して笑うように努めたけれど、
「なんか頬がピクピクいってる」
 と顔面神経の障害を指摘されたので断念した。
 控えめに言っても、幸せな時間だった。お節介なクラスメイト達からまんざらでもない冷やかしをうけたり、お昼ご飯を教室で一緒に食べたり、高校生にできる限りの、立派な「恋人同士」だったと自負している。
 意外なことに彼女は男と付き合うのが初めての経験だったらしく、初めは人前で男子の僕と話すことに抵抗があったようだ。僕の方にも「ベタベタするのは恥ずかしいことだ」という程度の矜持はあったので、それほど目立ってはいなかったと思う。
 彼女の親は共働きで、家は学校から歩いて行くことのできる距離だった。僕は自転車で通学していたから、たまに二人乗りをして彼女を送迎することもあった。彼女はしきりに人目を気にしていたけれど、この辺りはパトカーも廻って来ないから気にしなくていいと言ったものだった。
 ある日、彼女を乗せて自転車を漕いでいたらこんなことを聞かれた。
「桜井くんには、夢とかある?」
「夢?」
「そう、夢」
「星を見つけることかな」
 三月も終わりに近づいているとはいえ、まだ寒さの残る外気の中で吐く息は白かった。一年で最も乾燥する時期だから、冬は空気中の埃や水蒸気が少なく、空気が澄んでいると言われる。雨も少ないし、星を見るには絶好の季節なのだ。
「……桜井くん、意外にロマンチスト」
「自分から話振ったくせに。茶化さないでよ」
 表情は見えないが、後ろの荷台に座る彼女は噛みしめるように言った。
「ううん、素敵だと思う」
「小西さんはどうなの」
 しばらくの間、沈黙があった。
「……なんか言った?」
 僕は前を向いているから、僕の声は彼女に聞き取りづらいのだろう。
 僕は少し躊躇いながら、言ってみた。
「歩美は?」
 初めて名前で呼んだ。ただそれだけで、顔が赤くなった気がした。どんな些細なことも僕の心を豊かにしてくれる時期だった。流れていく景色の中には、紅色の花を付け始めた椿の木。もう季節が穏やかに春へと向かっていることを知った。
「なんか言った?」
 僕は右手を後ろに伸ばして、とぼけている彼女の頭をこつんと叩いた。今のはちゃんと聞こえていたはずだ。くすくす笑っている。
「暴力振るう男って嫌だなぁ」
「嘘付きな女に言われるのは心外」
「もう一回聞きたかったから」
「よく言うよ」
 春風がゆるゆると僕らの頬を撫でている。こんな時間がいつまでも続けばいいと、僕はぼんやり考えていた。

                  ***

 週末は隣町の映画館やショッピングモールに出掛けることが多かった。春休みの最終日、面白そうな映画があったので彼女の自宅に電話をかけた。というのも、彼女は携帯電話を持っていなかった。親が許さないというわけではなく、別に要らないから、らしい。
 ……変わった子である。
「映画見に行かない?」
「叔父さんと両親が出かけてるから、家で従兄弟の相手をしなくちゃいけないの」
 きっぱり断られた。映画の上映期間は四月の第一週で終わってしまうため、翌日の四月一日に始業式を終えた後、午後から駅前で待ち合わせをすることにした。
 私服姿の彼女は制服に身を包んだ時より大人びて見えた。もともと彼女は顔立ちが幼い方なので、ハードな生地のライダースジャケットとジーンズ、というフェミニンの対極に位置する服装は、なんだか外見とちぐはぐに思えた。
「そういう服って自分で選んでるの?」
「お姉ちゃんのお下がり」
 なるほど。お姉さん、たまには僕もスカートを穿いた女の子と外が歩きたいです。
「自分で買ったりは」
「あんまり興味ないから」
 彼女は野暮ったい、というほどでもないけれど、どこか流行りに疎いところがあった。僕もそれほどミーハーなタイプでもないが、それなりに周囲の目は気になる。全体を統一し過ぎずに、ボトムスやインナーをもっと女の子らしく崩した方がいい。なんて偉そうなファッションチェックをしていた。もちろん、口には出さない。
「もっと可愛い服を着た歩美が見たいな」
「桜井くんって、真顔で言うからいいけど、結構軽いよね」
「真顔と正直がモットーだから」
「真心じゃないんだ」
「そういうのは持ってない」
「私には持ってよ」
 彼女はわざとらしく膨れ面をする。そういう漫画みたいな表情が嫌味なくできるのは、彼女の魅力の一つだと思った。
「冗談だって」
「桜井くんだと冗談に聞こえない」
 それだけ真面目な青年、という意味に受け取っておくことにした。
「そういえば」
「なに?」
「お姉さんって、どんな人?」
 それまで、彼女の家族や親類についてはあまり聞いたことがなかった。付き合い始めて日が浅いから当然かもしれない。昨日の話からすると、まだ小さい従兄弟もいるらしい。
「小さい頃は入れ替わっても親が気付かないくらい似てたんだけど、性格の方は大分違うかなぁ。いつも動き回ってないと気が済まない、みたいな」
「それは正反対だね」
「私はネクラってこと?」
「落ち着きがあるって意味だよ」
「お姉ちゃんといるとね、『大学は楽しいところです』って宣伝されてる気分になるよ」
「それ、受験生には辛いね」
 彼女によく似た大学生のお姉さん。ちょっと見てみたい、と思った。

 隣町に着いて、まず映画館に入った。上映時刻を確認すると、それにはしばらく時間があったので、僕らの間では定番になっている手作りケーキの美味しい喫茶店「アリス」で時間を潰すことにした。
 扉を開けると、カウベルの音と共にコーヒー豆を挽く香りが漂ってきた。
 しばらくして、水を運んできた店員が尋ねてくる。
「ご注文、お決まりでしたらお伺い致します」
「コーヒーのアメリカン」
「私は紅茶をお願いします」
 ふと机の端に目をやると、手書きで「春のフェアー」と書かれたチラシが目についた。中央に美味しそうなシフォンケーキの写真がプリントされている。期間中は二百五十円で飲み物にプラスできるらしい。紙面には今日の日付が印字され、その下にアンケート欄が設けてあった。店員が説明を加える。
「実は新作商品の試作なんです。お客様からのご意見を集めて、今後メニューに加えるか検討する企画でして。お得なので是非お試しください」
「どうする?」
 僕は彼女に視線を移す。
「私はいい。昨日ちょっと食べ過ぎて」
 太るから甘い物は控える、と言いたいのだろう。
「僕も結構です」
「かしこまりました」
 店員はメニューを下げて、カウンターの奥に消えた。

 ほどなく「アリス」を後にして、僕たちは映画館に向かった。内容は数年前に流行ったホラー映画の続編だった。なかなかスリリングなシーンが多く、彼女が僕の手を固く握り締める度に、なんだか幸せな気持ちになれた。
 その後、ショッピングモールを適当に冷やかし――ではなく、ウインドウショッピングして、電車で帰ることにした。
 二人並んで車窓から外を眺めた。夏は木々が生い茂る風景も、今はまだどこか物寂しく感じられる。これから草花が根を張り、夏には木々が空に向かって葉を広げるのだろう。秋は稲穂の絨毯が広がって、一面を黄金色に染めるかもしれない。残された一年の猶予を僕たちは大切な思い出にできるだろうか。
 視界の隅に、僕と同じように外を見つめる彼女がいた。彼女は何を考えて、この風景を見ているのだろう。浅く差し込んだ夕焼けに目を細めた彼女の頬は、まるで頬紅を差したように赤かった。
 ふと振り向いて、彼女が言った。
「ねぇ、この後どうする」
 いつもデートの帰りは地元の駅で解散、にしていた。僕と彼女とでは駅から家に向かう方向が逆だからだ。
「どうするも何も」
 我が家には、色々と見せたくない物が多すぎる。今すぐに女の子を連れ込むには周到な準備が必要だと思われた。
「うち、親いないから大丈夫だよ」
「今日はお仕事?」
「うん。お母さんは遅番だし、お父さんも帰るのは夜だと思う」
 少し考えた。例のお姉さんは大学生のようだが、聞くところによると平日にはほとんど家に帰ってこないらしい。
「歩美がそう言うなら、お邪魔しようかな。まだ時間あるし」
 時刻は午後五時半を回ったところ。まぁ、変な期待はしないでおこう。

                  ***

 駅前の道を進み、その先のT字路を左に曲がった。Tの「横棒」にあたる道は緩やかな坂道になっており、彼女の家はその坂を上がった高台に位置していた。僕らは手を繋ぎ、映画の感想を話しながら坂の上を目指した。
 人工的に木々と建物が並べられた閑静な住宅地の中に、彼女の住むマンションはあった。僕は、恥ずかしながら「マンション」という建物に入る経験が今までなかったから、変なところで無駄に緊張した。扉を開けて、彼女が促す。
 玄関に女物のパンプスが一足。花柄の装飾が春らしくて爽やかだった。他人の生活感を見るのはどうにも忍びないので、僕はそそくさと部屋に通してもらった。
「ちょっと散らかってるけど」
「いやいや」
 入口から見て左手に僕の背丈ほどの本棚、奥の窓際にベッド、右手には金属製のラックと小さな化粧台、中央に円形のテーブル――。きれいにしているというより、行き届いていた。まぁ、今日僕が来ることを想定して片づけておいたのかもしれない。
 彼女は適当に座るよう言って、部屋を出て行った。
 なんとなく本棚を眺めると、一冊、見慣れない装丁の文庫本が目に付いた。手にとってぱらぱらとめくってみる。まだ新しい。中に何枚か出版社の広告が挟み込まれていた。
 ――木の葉文庫
「ふうん」
 あまり聞いたことのない名前だった。
 その時、本の間から紙切れのようなものが落ちた。屈んで拾い上げると、数字が十一桁書いてあった。その下に「ミキさん」とある。ミキという名前の女子生徒を思い浮かべてみたが、よく見る名前なので分からなかった。

 しばらくして、彼女はダイニングから湯気の立ち上る飲み物と、タルトのようなものを運んできた。男側にとって、女の子の部屋は「お洒落な接待を受けられる場所」である。男友達だとこうはいかない。たぶん、出てきたとしてもポテトチップとコーラだ。
 コーヒーを口に運びながら、僕はどう切り出してよいものか迷った。さっきまで饒舌に話していたのに、密室で二人きりになるとどうにもお互い意識してしまう。
「男の人を部屋に入れるの、初めてなんだよ」
「恐縮です」
「いえこちらこそ。大したおもてなしはできないけど、食べて」
「恐れ入ります」
 僕はほんの少し気になることがあったので、彼女にさっきのメモについて尋ねようかと思った。けれど、やめておいた。とりあえず目の前の獲物にフォークを伸ばすことが先決だと思われた。二人でタルトをつつく。
「これ、美味しいね」
「そう? 気に入ってもらえてよかった」
「うん」
 彼女は紅茶を口にして、しばらく黙り込んだ。気付けば、外はもうずいぶん暗くなっていた。春先とはいえ、この時間帯になれば随分と気温も下がる。冷たくなった両手を擦り合わせて、僕は彼女の瞳を見つめていた。
「電気、つけよっか」
 彼女が立ち上がろうとする。僕は――その腕を掴んだ。
「こっちきなよ」
 僕がそっと彼女を引き寄せると、彼女は膝をついて僕の正面に座った。暗闇にぼんやり浮かぶ二つの瞳に吸い寄せられるように、僕は腕を伸ばす。抱き締めた彼女の肩は細く、今にも砕けてしまいそうな気がした。
 腕にきつく力を込めると、彼女が小さく吐息を漏らした。頭の奥で、熱を帯びた血液が流れていくのを感じる。甘く溶けるような感情が、そこに生まれては消えた。
 重ねた体を通して、僕の心臓が刻むリズムとは違う旋律が入り込んでくる。少しずつ、強張った彼女の体から力が抜けていった。激しく息を切らせた後のように、胸の高鳴りがゆっくりと引いていく。
 僕らは言葉を交わすことなく、ただ静かに体を引き離した。
「……いいよ」
 初めて口付けた彼女の唇は、なんだか少し、ほろ苦かった。

                  ***

 そして、僕たちが高校生でいられる時間は一年という単位で数えられなくなった。
 四月の第二週に、課題テストが行われた。先生曰く、春休みの宿題から出題されるから合格点の六割は余裕らしい。テキストを開いた記憶すらない僕にとっては、あまり心強い励ましに聞こえなかった。
 テスト最終日の放課後、彼女と一緒に下校した。
「頭使った後はやっぱり甘い物だよね」
「それ何味だっけ?」
「春のいちごスペシャル」
「へぇ」
 クレープを食べる彼女を横目に見ながら、僕は自転車を押していた。四月も半ばに差しかかり、夕方でもずいぶん過ごしやすくなっていた。
「あのさ、桜井くん」
「ん?」
「反応薄いよ。美味しそうだね、とか、ちょっと貰ってもいい? とか、言うことなんていくらでもあるでしょ」
「苺はそれほど好きじゃないし」
「そういう意味じゃなくて」
 彼女は、ふう、と息を吐き出した。
「たまに不安になるよ」
「不安とは『何が原因か』ということがはっきりしないからこそ不安なのであって、原因が明らかになればそれは『恐怖』に変わる」
「誰の言葉?」
「フロイト。ユングだったかな」
「桜井くんが心理学者の言葉を引用するなんて」
 彼女はこちらを向いて、驚いたとばかりに口を開けた。
 その口はすぐにクレープへと戻る。
「僕の教養を侮っていたようだね」
「テスト前にたまたま見ただけでしょ」
「お見通しか。でも、実際フロイトのおかげで助かったよ」
「一夜漬けなのにできたんだ」
「いや、まったく」
「助かった、っていうのは?」
「『忘れるのは、忘れたいからである』って名言知らないの?」
 僕たちの会話は大抵こんな調子で進む。何も心配ないと思っていた。僕は彼女を必要としているし、彼女もたぶん僕を必要としてくれている。大学受験を控えていると言っても、まだ二人が付き合ってからの時間に比べたらずっと長い猶予が残されていた。
 けれど、美しい湖面の下で少しずつ砂礫が堆積していくように、僕の中に一つの澱みが生まれつつあった。彼女の家で見つけたメモ書き。電話番号らしき十一桁の数字と、
 ――ミキさん
 あの日、僕はそのメモに書かれた番号をとっさに控えておいた。僕はこう思ったのだ。「ミキ」が名前ではなく、「御木」や「三城」という名字だとしたら――。
 僕はバカげたことに、「ミキ」を男ではないかと疑っていた。
 一般に、十一桁の数字は固定電話ではなく携帯電話の番号だ。それは「ミキ」のものと考えていいだろう。メモが挟まれた本は比較的新しいものだったから、彼女と「ミキ」はつい最近連絡先を交換したような間柄だということになる。
 それだけなら疑いの目を向けたりはしない。気になっていたのは、メモの内容ではなくそれが記された紙面だった。あのメモの裏には「春のフェアー」と書かれていた。それは「アリス」に置いてあったチラシと同じものだ。アンケート欄の上に、集計用と思われる日付が印字してあった――二〇〇四年三月三十一日。
 ――叔父さんと両親が出かけてるから、家で従兄弟の相手をしなくちゃいけないの
 彼女はそう言って前日の誘いを断った。しかし、この日付は彼女がその日「アリス」に行き、「ミキ」と連絡先を交換したことを示唆している。もしそれが女友達なら、僕には正直に言うだろう。わざわざこんな嘘をつく必要なんてない。それに、
 ――私はいい。昨日ちょっと食べ過ぎて
 彼女は「アリス」で、甘い物は控える、ようなことを言ったのに、僕たちは彼女の家で甘いタルトを食べた。ならば、本当はこうだったのではないか。
 ――私はいい。そのシフォンケーキは昨日食べたから
 彼女は三月三十一日、「アリス」で「ミキ」という男と会い、連絡先を交換した。僕は愚かにもそんな出来事を想像していた。
「ねぇ桜井くん、また考え事してるでしょ」
「……え?」
「難しい顔してた。そういえば、一緒に歩いてる時に上の空になる回数が三回を超えたら八割浮気してるって話だよ」
「そんなマニアックなアンケートどうやって取ったのかな」
 彼女は笑いながら僕をたしなめた。
「本日四回目だから百パーセントだね」
「その計算、なんかおかしい」
「慰謝料にクレープもう一個。次はチョコバナナかな」
「食べ過ぎだよ」
 もちろん、この推論にはかなりの飛躍がある。彼女は家族が帰ってきてから「アリス」に行ったのかもしれない。女友達の「ミキ」は最近携帯電話を変えたばかりで、たまたまあの喫茶店にいる時に彼女と出くわしたのかもしれない。
 正直、どうしてこんなことを考えるのか、自分でもよく分からなかった。たぶん、僕は無意識のうちに彼女と母を重ね合わせていたのだろう。僕に嘘をついて、知らない誰かの元へ行ってしまった母。僕は人の嘘に対してひどく敏感になっていた。いつも人を疑っているから、自然に笑うことができないのかもしれない。
 こんな自分は彼女に相応しい人間なのだろうか。それを信じることさえできない僕には、彼女が別の男に移り気することなど絶対にない、なんて自信を持てなかった。

                  ***

 いつの間にか僕は、誰もいない映画館でスクリーンに映る母を見ていた。
「でも、帰ってくるんでしょ」
「当たり前じゃない」
「じゃあ待ってる」
 少年の僕がランドセルを背負って、無邪気に笑っている。玄関を出て行く僕を見送り、母はホッと息を吐く。まるで、長く抱えてきた荷物を降ろしたように。
 また同じ夢だ。この頃、こうやって夜中に何度も目を覚ます。
「これからは、ばあちゃんが一緒だからね」
 祖母はそう言って、僕をこの家に連れてきた。見慣れないこの和室に、最初は戸惑ったものだった。湿った畳の匂い、傷の付けられた柱、シミのついた木目の天井。かつて父が過ごした場所で、僕は暮らしている。
 父も母も死んでしまったと、これまでそう思うことにしていた。逆でもいい。結局は、父にも母にも捨てられたのだ。誰一人必要としてはくれなかった。それなのに、どうして僕は生きて行かなくてはならないのだろう。
 どうして今さら、こんなことを思い出さなくてはいけないのだろう。
 汗でシャツがじっとりと背中に貼り付いて、気分が悪かった。寝付けないと思ったので窓越しに外を見ながら、眠気がやってくるのを待つことにする。
 今も世界のどこかで、誰かが同じ星を眺めているのかもしれない。僕の意識は深い闇を縫って進み、そこでいくつもの意思と繋がっているような気がする。けれど、どこまでも続く夜空は冷えた光を僕に投げかけるだけで、何も答えてはくれない。
 教えて欲しかった。大切なものは、どうして簡単に僕のそばから離れていくのか。
 歩美はとても真っ直ぐな子だ。その彼女が嘘をついてまで何を隠したがっているのか、僕には何も分からなかった。僕は彼女のことを分かった気でいるだけだった。それなら、何も考えず正直に尋ねればいい。
 ――ねぇ、「ミキ」さんって誰?
 そんな簡単なことがこんなに怖いなんて、思わなかった。自分がこれほど女々しい人間だということを自覚して嫌になる。信じている、などと言いながら、本当は彼女のことも他人のことも、誰一人信じていない自分がいる。
 ――誰かを信じれば、裏切られた時に傷つくのは、君自身なんだ
 目を閉じると、幼い顔の少年が語りかけてくる。今までそう思って生きてきた。けれどそれは弱い人間が弱さを隠すためにすることだと、僕はずっと前から知っている。
「何もないよ。歩美は僕を裏切ったりしない」
 顔を俯けた彼にそう言って、僕はすっかり冷たくなった布団にもぐり込んだ。

                  ***

 それから、何事もなく日々は過ぎていった。学校で会う時も、帰り道でも、電話口の声にも、彼女に不審なところはなかった。それでも、「不審」という言葉を使うくらいには疑いの目を光らせていたかもしれない。
 ある日の週末、僕は坂を上って、駅を目指していた。欲しかったCDが入荷したという知らせがあったので、駅前のレコード店に向かったのだ。高く晴れ上がった空から暖かい日差しが降る、気持ちのいい陽気だった。五月も初旬に差し掛かり、祖母は梅雨の心配をするようになった。
 こんな日に二人で散歩できたら良いのに、と思う。昨日の帰り道に彼女と話したことを頭の中で反芻する。
 ――あのさ、明日空いてる?
 ――ちょっと用事があるの
 ――そっか
 ――ごめんね。それよりこの前借りてたCD、良かったよ
 せっかくテストも終わったので、誘いを持ちかけたら、彼女は言葉を濁した。僕は別に駄々をこねたりはしなかったけれど、彼女の方ではなんだか無理に話題を変えようとしている風に感じた。
 坂の中腹から彼女の家がある高台を眺めた。T字路を左に折れて駅前通りを望んだ時、見慣れた背丈の後姿が見えた。パーカーにサブリナパンツ、というボーイッシュな服装にシンプルな花柄のパンプスが映えている。
 ――あの靴、どこかで見たような
 すぐに思い出した。彼女の、小西家の玄関だ。
 僕は歩く速度を抑えて、彼女を見失わない程度の距離を保ちながら後姿を追った。
 彼女が駅舎に入った。改札を抜けるのを確認して、僕は駅前のロータリーで電車の到着を待った。駅のホームは見通しが良すぎる。僕がそこにいれば簡単に見つかってしまう。ひさしの下で春の陽を眺めながら、なんだか自分が暗い路地裏で息を潜めているネズミになったような気がした。
 隣町の駅で彼女は降りた。夏場でもないのに、さっきからやけに汗が出る。嫌な予感が胸をざらつかせた。彼女は「用事がある」と言っていたが……。
 彼女が淀みない足取りで向かったのは、「アリス」だった。
 店内に入るのは躊躇われた。小さい店だから、出入りの際に気付かれる可能性が高い。しかし、彼女が座った席は入り口が直接見えない位置にあることを外のガラス越しに確認できたので、そっと入店した。人差し指で「一人」という旨を店員に伝える。
 入口に一番近いカウンターに座った。後ろを通られても下を向いていれば大丈夫だろう。どうやら店内ではまだ彼女一人のようだった。何があったわけでもないのに、ホッと胸を撫で下ろした。ぽつぽつと店内に入ってくる客の中で男性を見かける度に唾を飲み込むのだから、僕はもう重症だ。
 しばらくして、上背のあるすらりとした体形の男と、がっしりとした体育会系風の男が入店した。細身の方は眼鏡をかけていて、知的な雰囲気だった。体格がいい方の男性は、短く刈り込んだ髪を後ろに回した右手でガリガリと掻いていた。
 どちらも年齢は二十代そこそこ、といったところだろう。
 ――まぁどっちにしても
 僕より年上だ。
 二人の男性は僕の後ろを通り過ぎて、店の奥へと向かった。心臓が早鐘を打ち始める。用事って、男と会うことだったのか? 今度こそ本当に、彼女は嘘をついたのか?
 ――不安とは「何が原因か」ということがはっきりしないからこそ不安なのであって、原因が明らかになればそれは「恐怖」に変わる
 怖気づいた僕は彼女の方を振り向くことができなかった。慌てて飲み干したコーヒーが喉元をせり上がってくるようで、嫌な気分だ。早くこんな場所は出たかった。
 こんなのは、嘘に決まっている。あれは彼女じゃない。
 会計を終えて店を出る直前、優しげな男性の声に続いて、耳慣れた声を聞いた。
「僕はエスプレッソ、君はどうする?」
「私も同じものをお願いします」

                  ***

 先程から、僕は自宅のベットで仰向けになっていた。もう夜の十時を回っている。僕は帰ってきてからずっと、自分の考えを整理していた。
 ――三月三十一日、彼女は従兄弟の面倒を見ると言って映画の誘いを断った
 ――彼女の部屋で見たメモは、三月三十一日だけ「アリス」に置かれていたものであり、「ミキ」という人物の連絡先が書いてあった
 ――昨日、三月三十一日と同じように、用事があるからと誘いを断られた
 ――今日の昼前、駅で偶然彼女を見かけた
 ――後を尾けると彼女は隣町の「アリス」に入った
 ――そこにやってきたのは眼鏡をかけた痩身の男だった
 僕の想像が正しければ、あれが「ミキ」だ。御木だか三城だか知らないけれど、彼女は僕の誘いを断ってまであの男と会った。それが彼女の「用事」だった。
 もう、不安はない。僕が感じているのは恐怖なのだろうか。
 ディスプレイに「小西歩美 自宅」の文字。
 後は発信ボタンを押して、彼女に確認するだけだった。
「遅くにごめん」
「どうかした?」
 心なしか、彼女の声色が疲れているような気がした。疎まれているのだろうか。それも僕の思い込みなのかもしれないが。
「あのさ」
「こんな時間に電話なんて、珍しいね」
「確認しておきたいことがあって」
「確認?」
「今日、『ミキ』さんと会ったね」
 電話越しに沈黙が下りた。
 彼女が答えるまでの間、僕は冷静に、乾いていく自分の心を感じていた。
「何のこと」
「『アリス』でのことだよ」
「どうして知ってるの」
「尾けたんだ。それより、どんな関係?」
 彼女は口ごもった。
 それが答えということだ。彼女も、母と同じ嘘つきだった。
「私、桜井くんに……」
「いいよ、言い訳は」
 僕は彼女の言葉を待たず続けた。
「用事がある、ってのは他の男と会う用事だったわけだ。体よく言い訳して、ほんと女はうまくやるよな。あれ学生じゃないでしょ。びっくりしたよ」
「桜井くん、聞いて」
 何を今さら。頭が沸騰したようになって、僕は汚い感情を次々に吐き出した。
「どうせ『初めて男と付き合った』ってのも嘘だったんだろ? 映画を見た日だって親がいないとか言ってたけど、本当はああやって男連れ込むの慣れてたくせに。何も知らない僕の前でウブな女の子を演じるのは楽しかったかい?」
「やめてよ――」
 電話越しに、彼女のすすり泣く声が聞こえた。泣き落としで収められるだろう、などと侮られているのか。腹が立ったけれど、僕は自分の中で何かが軋む音を聞いた気がした。
「不満があるなら、直接言ってくれれば良かった。……こんな裏切りは、あんまりだ」
「……」
 開け放った窓から見える夜空に、意味のない言葉たちが吸い込まれていく。月明かりに照らされた高台の上で、彼女は誰のために泣いているのだろうか。
 舞台の幕を下ろすように、彼女がそっと口にした。
「……もう終わりだね」
「終わらせたのはそっちだろ」
 情けないくらい、声が震えた。彼女のことを信じられなくなっても、僕は心のどこかで彼女への未練を残していたのかもしれない。
「最後に一つだけ、教えてあげる。私は浮気なんてしてない。桜井くんみたいに、隠れてこそこそしたりしないもの」
「まだ言うんだ」
「信じてくれないなら、いい。確かに私は、桜井くんに言えなかったことがある。でも、もう遅いね。……今までありがとう。さようなら」
「言えなかった?」
 聞き返しても、返事はない。通話は途切れた。
 平坦な電子音が、いつまでも耳に響いていた。

 眠れなかった。
 ベッドから上体を起こして、窓の外を見つめた。春は天の川が見えない寂しい季節だ。夏や冬のように目を引く星もない。その中で、おとめ座の女神が持つ穂の先に、ひときわ強い光を放つ星――スピカ。英語のスパイクと同じ、「尖ったもの」を意味する。
 彼女はそのスピカで、抜けない棘を僕の胸に刺した。
 痛みは感じない。悔しいとも思わない。ただ、空しかった。
 彼女は最後まで僕に嘘をついたのだろうか。
 ――私は浮気なんてしてない
 駅で見たのは歩美としか思えない。背丈や雰囲気、何より履いていた靴が彼女の自宅の玄関で見たものと同じだった。そう、同じ――。
 いや。
 ふと僕は「アリス」で聞いた声を思い出した。
 ――僕はエスプレッソ、君はどうする?
 ――私も同じものをお願いします
 彼女は、歩美は「コーヒーが苦手」なはずだ。コーヒー牛乳よりフルーツ牛乳を選ぶし、喫茶店でも紅茶を注文する。選択肢さえあれば必ずコーヒーを避ける。
 それならなぜ?
 あれは彼女ではなかった?
 それなら、誰だ?
 ――小さい頃は入れ替わっても親が気付かないくらい似てたんだけど、性格の方は大分違うかなぁ。いつも動き回ってないと気が済まない、みたいな
 分からない。分からないけれど……。
 そして僕は、今まで何度もしようとして、できなかったことを実行した。
 携帯電話の電話帳を呼び出して、発信ボタンを押す。
「もしもし」
 寝ぼけたような声で電話口の男は答えた。
「はい、三木ですが」

                  ***

 久々に彼女の顔を見たら、色々なことを思い出した。当時の僕の身勝手な行動と勘違い。自分自身への自信のなさと、それゆえ相手を信じ切れなかった弱さ。その全てで傷付けた彼女のことを考えると、やり切れない思いが込み上げてくる。
 そして、六年の歳月が過ぎ、彼女は立派な大人の女性になっていた。少なくとも、学生気分でふらふらとしている僕に比べれば社会経験も積んでいるだろうし、今もその魅力は変わらない。未だに彼女を忘れられない自分の女々しさを感じて、苦笑した。
 僕は今彼女を見つめているが、彼女の視線の先に僕はいない。
 不意に後ろから声をかけられた。
「お兄さん」
「あ、え?」
 情けない声で振り返ると、さきほど介抱したおばあさんが目の前で微笑んでいた。緩く口元を綻ばせて、すっと頭を下げた。
「さっきはお礼もできませんで」
「いやいや、もういいですって」
 つっけんどんに聞こえないよう、僕はなるべく柔和な笑みを浮かべて両手を前に出した。おばあさんは深々と頭を沈める。
「助かりました」
「たまたま近くに僕がいただけですから」
「でも、見て見ぬふりをする人だって多いでしょう」
 おばあさんは愚痴っぽく言うでもなく、詞をそらんじているような口調だった。若者に義理と人情の時代を語る、なんてつもりはないらしい。彼女の隣で、書店員が棚から本を出して平積み作業を始めた。「愚痴らない生き方――ヒューマンライフ新書」
「人は冷たいけど機械は温かい街、ですか」
「なんです?」
「いや、独り言です。まぁ義理とか人情なんて言うと作り物めいて聞こえますけど、僕は作り物みたいな綺麗事の一つや二つ、あっていいと思うんですよ。青臭いですかね?」
「若いうちはそのくらいでいいんですよ。これから分かってくるんだから」
「手厳しいですね」
 あの日から、僕はもう人を疑うのをやめた。盲目に他人を信じるという意味ではない。傷つくことを恐れずに、相手と正面から向き合うことにしたのだ。
「お兄さんは、いい顔をしてるわ」
「よく言われます」
 おばあさんはくつくつと笑った。からりとした、気持ちのいい笑い声だった。
「おかしな人ね」
「それもよく言われます」
「学生さん?」
「大学院生です。今は帝都大学で天文学を専攻しています」
「ご立派じゃない。天文って、わたしじゃよく分からないけど、星とか……?」
「ええ。昔から星が好きで」
 一年という時の流れの中で、少しずつ表情を変えていく漆黒のカーテン。手の届かないその先には何があるのだろう。星を読み、計算して、遠く宇宙の果てへと思いを馳せる。いつからかそれが僕の目指すべき道しるべになった。大学受験は一度失敗したけど、今はなんとか好きな研究ができている。
「将来が楽しみねえ」
「自分だけの星を見つけるのが夢なんです」
「まぁ。うちの孫も、いつかお兄さんみたいな夢を持てればいいんだけど」
 ――桜井くんには、夢とかある?
 ――星を見つけることかな
 歩美はあの頃から確かな夢を持っていた。きっとこれからもその先を歩いていくだろう。僕の方は少しだけ遅れるかもしれないけれど、そのうち追いつく予定だ。
「お兄さんが今手に持っているのも、また難しい本なんでしょう」
「いいえ。これはただの娯楽小説ですよ。僕の高校時代の友人が書いているんです」
 ――「春野歩」一九八六年、千葉県生まれ。二〇〇四年、高校在学中に「星を見る彼」で第十二回木の葉文庫大賞を受賞し、デビュー。一般文芸からライトノベルまで、幅広いジャンルで多くの作品を発表しており、次世代の恋愛小説の旗手として期待されている。撮影=水原タケシ
 六年前、僕は一方的な勘違いで彼女との関係を壊した。彼女は浮気をしていたわけではなかったし、かといってよく似たお姉さんと入れ替わっていたわけでもなかった。まさか「アリス」が紅茶のエスプレッソを売りにしているなんて、知りもしなかった。
 僕らが出会ったあの空き教室で、彼女は世界に一つしかない物語を書いていた。編集者の三木さんは彼女に受賞を告げ、作家「春野歩」の華々しいデビューが決まった。
 彼女は今も、文壇の若き俊英として作家活動を続けている。
「ご高名なお友達がいらっしゃるのね」
「良かったら買ってあげて下さい」
「ええ喜んで。これも何かの縁ですし」
 表紙の裏にあった著者紹介を見ていた僕は、おばあさんに彼女の本を差し出した。
 相変わらず歩美は写真映えする。
「では、そろそろ大学に行きます。あんまりさぼると教授に叱られるので」
「まだ寒いから、天文さんも体に気を付けて。今日は本当にお世話になりました」
 天文さん、とは。なんだか専門家になったようでむず痒い。笑みがこぼれた。
「はい。おばあさんも」
 僕は軽快に足を踏み出して、駅のホームへ向かった。
 行き交う人々は淡い色合いの上着に身を包んでいる。息を大きく吸い込むと、陽だまりの匂いがした。また、この季節がやってきた。木枯らしに木の葉舞う時は過ぎ、僕たちは六度目の春を歩き始めた。

 春野先生、お元気ですか。作品、いつも楽しみに読んでいます。この頃ずいぶん暖かくなりました。そろそろ春の大曲線が見ごろです。お時間があるなら、気分を変えて夜空を眺めてはいかがでしょうか。まだまだ夜は冷えますが、お体にお気を付けて。
 P.S.いつか話した夢の続きを、僕は今でも追いかけています――桜井光惺

おしまい
Phys
2010年12月12日(日) 21時10分51秒 公開
■この作品の著作権はPhysさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
新年明けまして、改稿しました。素敵な感想をお寄せ頂きまして本当に恐縮です。
恥ずかしくないお話を書けるように今年から頑張ります。            2011/1/8

卒業するために頑張っているのですが、時々小説が書きたくなって寄り道しています。
なんだか無計画に書き進めたせいで、随分長い話になってしましました。もしよろしければ、批判、激励、アドバイス等よろしくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.14  Phys  評価:0点  ■2011-01-18 10:34  ID:xLdBwQPeFUs
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あやあつし さん

稚作を読んで頂けて光栄です。
>言葉の言い回しが自然で読みやすく
なんて、全くできていないのですが、ちょっと勇気が出ました。少しくらいは
自然な叙述に近づけているのかなぁ、と。

>どうしてちょっとした誤解で別れるようになってしまったのか
なんですが、ああ、全く考えていませんでした。私は、自分があそこまで
言われたら、誤解が解けたとしても絶対に別れるだろう、と勝手に歩美の
思考を私自身に重ね合わせていました。一度破綻した関係を修復するのは
私にはとても難しいと思ったからです。

結末、変えた方がいいのかなぁ、と考えてしまいます。というか私の感覚
って普通の人とずれてるところがあるので、どうも心の動きがうまく表現
できません。難しいです…。

何はともあれ、読んで頂いてありがとうございました。また、あやあつし
さんの作品にも拙い感想を書かせてください。
No.13  あや あつし   評価:40点  ■2011-01-10 14:18  ID:SQw/4/DMZgQ
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拝読させていただきました。言葉の言い回しが自然で読みやすく、全体の文体を上手につかまれて書かれている、感心しました。主人公の胸の内をさりげなく書いているのも好きです。そうですね?あえて言えば、どうしてちょっとした誤解で別れるようになってしまったのか、主人公は最終的には真相をつかんだはずですから結末と若干の違和感を感じました。ごめんなさい。でもさわやかなすごくいい話と思います。次回作を期待しています。
No.12  Phys  評価:--点  ■2011-01-08 16:48  ID:6uKnl6ldB7Q
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青木 航さん
ありがとうございます。褒めて頂いた、ということでいいんでしょうか(汗)
私はどうにもトリッキーな叙述や伏線を張ることばかりに囚われがちな人間
なので、心の動きを描くのがかなり甘いと自覚しています。私にも、理想と
する物語の形、のようなものがあるのですが、そこを目指して頑張りたいな
と思っています。ずぶの素人なのでまだまだ道は長いですが…。

>ちょっと切なく、じわっと暖かい
書きたいです、そんな話。青木 航さんのお話も、卒論が終わったら読ませて
頂きます。

貴音さん
柔らかく書けていたなら幸いです。どうも普段からガチガチに理屈勝負をして
いるためか、『文章が硬かったり、読みづらかったりするのでは…』と不安に
思っていました。切なさとあざとさは紙一重だと思うので、もっとリアリティ
ある物語を作っていきたいと思います。稚作を読んで頂き、ありがとうござい
ました。
No.11  貴音  評価:40点  ■2010-12-31 16:29  ID:33E/nA6Ip9Y
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はじめまして。読ませていただきました。
全体的にせつなくて、読みながら情景が想像できて素敵だなと思いました。
話のテンポがやわらかいので、読んだ後に優しい気持ちになれる物語だなと思いました。
ありがとうございました。
No.10  青木 航  評価:40点  ■2010-12-30 21:49  ID:JIcKmB8A7uc
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拝読させて頂きました。
今、読ませて頂いたのですが、もし先に読んでいたら、ヒントを得たと他人に思われるのではないかと心配するくらい自分と感性が似ているので、びっくりしました。そう言われては気分良くないかもしれませんが、お許しください。

 他の作品の中には、どうも私のキャパを超えていて、論評しようにも手が出ないものもあるのですが、Physさんとなら、作品について、いつまでも話せそうな気がします。
 「今の僕」「過去の僕」「自分を置き去りにした母を重ねた、彼女との少し苦い思い出」そして、この物語はハッピーエンドとは違うが、ある種の暖かさを持って終わる。ご自分でも仰っている通り、少しだけぎくしゃくしたところは感じられますが、全体としてはうまい流れだと思います。

 ちょっと切なく、じわっと暖かいところは、僕にはなかなか出来ないところなので、勉強になります。

 ただ、蛇足でちょっと気になったのは、横書きで数字が漢数字になっているところです。
 もともと縦書きしたので、じつは僕もそうなってしまい、いちち拾って数字に直しました 。でも、Physさんの作品を読んでいたら、別にそのままでもよかったのかなとも思います。

 感想も沢山寄せられていて、評判も良い作品ですね。
 感性が似ていると言ってしまいましたが、自分に足りないのは何なのか、どこが違うのか、何度か読み返させて頂いて考えてみたいと思います。
No.9  Phys  評価:0点  ■2010-12-18 10:12  ID:MXariIasrZ.
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>みなさま
気付いたらたくさんのご感想を頂いていて、びっくりしました。私情ながら
教授から卒論のダメ出しを食らって落ち込んでいたせいか、TCのみなさんの
優しいコメントにうるると来ました。今回は、単なるコマとしてではない、
『人と人の物語』をきちんと書こうと決意して作りました。
聖鷲さんから指摘された『あなたの書きたいものを書いて下さい。この人物
はただの道具です』という言葉に胸を突かれたからです。MS-Wordで卒論を
書いている途中、物理公式の横に『桜井光惺、星が好き、無口』とか設定を
書いたりしていました。教授に見られたら確実に留年でした。
なんだか、完成したことそのものが尊い作品です…!
落ち着いたら、アドバイスを生かして推敲していこうと思います。

>HALさん
若干、ミスリードの手法があざといかなぁと心配していたのですが、そこまで
気にならなかったようで安心しました。
地の文の情景描写が下手なんです。もっと表現を学ばねばと思っています。
HALさんは旧TCのミステリー板で何度か作品を拝見させて頂きました。叙述に
落ち着きがあって、人物造詣もしっかりしていて、憧れてしまいます。

>藤村さん
読んで頂けて嬉しく思います。最近忙しくて、作品を全篇読めていませんが
息抜きに少しずつ読ませてもらっているので、まとまったら感想を書きたい
と思っています。天文さん、は単なる思い付きで出てきた記述なのですが、
褒めて頂いて桜井くんもよろこんでいると思います。

>HONETさん
す、鋭いなぁ…と唸ってしまいました。実は、あの祖母とのくだりは最後に
追加した部分で、あの場面は私自身物語の中で浮いているように感じていた
からです。参考になるアドバイスと激励、大変励みになります。卒業して、
もっと人に読みたいと思ってもらえる作品を書けるように精進いたします。

>桜井隆弘さん
あ、主人公の方ですね…(?)。実は私の親友の苗字が『桜井』でして、
それで今回その人の苗字を使うことにしました。桜井隆弘さんの作品が好き
なのも、親友効果でしょうか?(もちろん、作品そのものの魅力です)
ご都合主義を感じさせてしまったようで、反省です。皆さんのアドバイス
を読んでいたら、作り込みが甘い箇所が段々分かってきました。もう少し
推敲しようと思います。
また、桜井さんの楽しいエンタメ小説に期待してます。

>とりさとさん
とりさとさんの方が100倍文章素敵です…。最近は自信を喪失することよりも
『何か吸収しなくては』とTCのみなさんの小説を読めるようになれたので、
とりさとさんの表現や叙述も色々と取り入れたいと思っています。そのうち
感想を書くつもりなので、その時はよろしくお願いします。

>内田 傾さん
いつも稚作を読んで頂いて恐縮です。しかも細かい箇所に的確なアドバイス
を書いて下さるのでいつも内田さんのコメントは背中にぴん、と力を入れて
読むようにしています。思えば、文章作法を指摘して下さったのも内田さん
でした。今よりもっと成長できるように、これからもビシビシご指導宜しく
お願い致します。

>お さん
『良いもの読ませて貰ったなぁ』というコメントに感動してしまいました。
お陰様で、卒論で折れそうになっている心を奮い立たせることができました。
ぎこちない序盤で飽きずに読んで頂けたこと感謝いたします。私の理想は、
論理的で、でも嫌味じゃない、優しく繊細な物語です。これが私の作品です!
と胸を張れるものが書けるように、これからもがんばります。

>弥田さん
主人公をまだまだ追い詰めねばなりませんね…!桜井君には酷ですが、もっと
酷い目に遭ってもらうため、アイディアを練ってみます。ほんわかした印象、
書けていたら嬉しいです。私の現実の殺伐とした印象が出ていなくて何より
です。(ああ、なんか恨み言ばっかりですね…)
弥田さんの作品は、私の拙い読書観からすると、とても文学的で感想を書く
のに腰が引けてしまうのですが、そのうち変な感想が載っているかもしれま
せん。素っ頓狂なコメントでも、怒らないでくださいね(汗)。
No.8  弥田  評価:40点  ■2010-12-17 23:24  ID:ic3DEXrcaRw
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拝読させていただきました。

面白かったです! ラストの裏切りっぷりがいっそすがすがしいですね。聞いてしまえばあっけない展開が、逆に切なさを増しているように思いました。

ただ、僕も疑心暗鬼のところはもっと強くしたほうが良かったと思います。全体的にほんわかしたあたたかいイメージなので、主人公が小西さんに電話するシーンがすこし唐突に感じられました。お前、そこまで言うか、とw

他の部分はとにかくよかったです。
伏線の使い方が上手いですし、キャラもよくたっていて、とても面白く読み進められました。ありがとうございました。
No.7  お  評価:30点  ■2010-12-16 22:17  ID:E6J2.hBM/gE
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こんちわ。
いい作品でした。読後に、ちょっと、良い気分になりました。
良いもの読ませて貰ったなぁと。
正直言うと、出足のところでは、それほど、特徴というか良さが感じられませんでした。冒頭のおばあさんの下りはちょっとあざといんじゃ? とすら思いましたが、どのくらいだろう、二人が付き合う頃からかなぁ、ぐいぐい惹き付けられていきました。逆に言うと、そこにいたるまでは、ちょっと、ぎこちない雰囲気もあったかな?
あちこちに伏線が引かれてて、それが特別てらった文章でもないのに、きっちり回収されて、しかもかつ、素朴な二人の純情みたいなのがにじみ出ている。二人のキャラも、ちょっと特殊なところが、かえって素朴さというのか、純情さを引き立てて、物語りにまさにあってて、うーん、やるなぁと唸ってしまいました。
No.6  内田 傾  評価:40点  ■2010-12-14 16:59  ID:IADj8zQIHSg
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拝読させていただきました。

すごく楽しませてもらいました。
楽しいし、ワクワクするし、すごく切ない。

『アリス』で紅茶を頼んだお客さんにシフォンケーキを勧めるってどういうこと?とおもったら、紅茶が売りのお店だったんですね。
コーヒーが苦手で、フルーツ牛乳を選んだ小西さんが、エスプレッソを注文?っていうのにも繋がっていて、うまいなーと唸りました。

細かいところにも目が行き届いていて良かったです。

404エラー、すごく笑いました。言い得て妙です。
ですよね。真っ白になりますよね(笑)
あと、すごく個人的な事実に今気づいたんですけど、ぼく女の子の部屋に入ったことがない! 小説読ませてもらって軽く落ち込みました。

あとあと、「天文学を専攻しています」とかってサラって書いてあるけど、これもよかった。続いてリフレインするように

――桜井くんには、夢とかある?
――星を見つけることかな

にもどる。最後の部分にグッときました。

このたびはどうもありがとうございました!
No.5  とりさと  評価:30点  ■2010-12-14 01:43  ID:2aTk9s9CjZk
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 読みました。
 読みましたので文章素敵だぁ! と言わせてください。

 ゆっくりと丁寧に書かれていて作品のゆるやかな恋愛の雰囲気とマッチした文章がとっても心地よかったです。こういう文章好きです。

 難点を上げるとしたら、疑心暗鬼のところ、傷心のところはもっとぎりぎりと締め付けるように、読んでて辛くなるぐらい残酷に書かれていればと思います。それまでの雰囲気がちょっとのこったままな感じがします。
 そこは個人的な好みですが。

 どちらも悪くないのにわかれてしまうのが恋愛小説らしくて、話の作り方も飽きさせないように自然工夫がしてあって面白かったです。
 ラストも主人公がしっかり吹っ切れているのがわかってさっぱり読みおわることができました。
No.4  桜井隆弘  評価:30点  ■2010-12-13 21:40  ID:kDCQnIbv2M2
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まず読み始めて、文章表現が凝ってるなと感じました。
意識して力を入れたのでしょうか、いずれにしてもご参考になります。

読み終わってみて、切ないストーリーではありましたけど、
誰もが一度は経験するようなほろ苦い恋でもありますし、
むしろほんわかして、春の訪れが待ち遠しくなりました。
個人的に抱く、Physさんのやわらかい印象とよくマッチしていると思います。

強いてご指摘を挙げさせていただくと、なんとなく手に取った本がその後の展開を左右するのは、
現実的な視点から言えばやや都合がいいかなと感じました。
(例えば、テーブルに置いてあった、とかなら良かったかなと)

無計画な割には余計だと感じるシーンも無かったですし、
長さも苦にならず読みやすかったです。

天文さんがご好評でしたが、僕が一番良かったと思ったのは、
「お姉さん、たまには僕もスカートを穿いた女の子と外が歩きたいです。」でした(笑)

P.S. ネーミングの為により入り込み易かったです、というのは余計な感想でしょうか(笑)
No.3  HONET  評価:30点  ■2010-12-13 19:31  ID:gOH2TKqQEE2
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 はじめまして、だと思いますのでまずはご挨拶。読ませてもらいましたので感想を。
 非常に丁寧に書かれているな、という第一印象でした。文章も個人的な好みに合っており、気持ちよく読ませていただきました。その中で思ったことなどを。

>死体と変わらないね
 非常に印象的なセリフではあるのですが、一生懸命孫と話そうとして話を振ってくる祖母の印象とはちょっとずれている印象です。「人間は冷たいけど、機械は温かい町だね」もいいセリフで、こちらはイメージとずれていない印象です。

>天文さん
 これはいいネーミングですね。これに限らず、さらっとしたところに良いセンスが潜んでいるなと感じます。

 私も修士論文を仕上げる段になって、やたらと別のことをしていたことを思い出します。こちらが良い息抜きとなることをお祈りしております。
No.2  藤村  評価:20点  ■2010-12-13 07:39  ID:OFktkqRy8XM
PASS 編集 削除
はじめまして。拝読しました。
「天文さん」ってすごくいいですね。それだけであれやこれや妄想がひろがる素敵なネーミングだと思います。ぼくはすごく好きです。「よくできました」とか小西さんの部屋のシーンとかも好きなんですけど、天文さんがいちばんぐっときました。
筋のおもしろさが強いので、文章の細部などは好みになってくるのかもしれませんが、やはり人それぞれにことばづかいはちがうものなんだなーと思って読んでいました。勉強させていただきました。
No.1  HAL  評価:40点  ■2010-12-12 23:58  ID:.waOH.tC6M.
PASS 編集 削除
 拝読しました。
 切ないですね……! 悲しい結末ではあるのだけれど、読後感はさわやかでした。
 ふたりのたわいない冗談のやりとりに、じわりと心温まるやさしさがあって、とても素敵な小説でした。

 ミスリードをさそう文章から、意外な展開へ。書店で「懐かしい顔を見つけた」のくだりといい、エスプレッソといい、こういう伏線の使い方って、自分でもやってみたくてもなかなかできなくて、とてもうらやましいです。

 指摘できるようなことは特に思いつきませんでしたが、(わたしの好みからすると、ですけれど)もうすこし地の文の情景描写が多目だと、なお素敵かも……と思いました。といいつつ、そのあたり好みが偏っているかもしれませんので、あくまで参考意見ということで(汗)

 素敵な物語を読ませていただいて、ありがとうございました。
 学業、大変と思いますが、がんばられてくださいね。拙い感想、大変失礼いたしました。
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