ある喫茶店(ギャグ?)
 高校の帰り道。
 何度か行ったことのある喫茶店がリニューアルオープンしていたので入ってみた。リニューアルしたわりには、内装が少し綺麗になったくらいで、それほど変化は見当たらない。聞いた話だと、長年勤めていた店員さん(三十八歳女性)が寿退社したため、ついでに耐震強度や使っていた材質や白アリやらに問題がある部分を一気にリフォームしたらしい。そんな店に通っていたと思うとぞっとするが。
 そんな店内を眺めていると、彼女と目があった。
 長めの黒のスカートに、白のワイシャツ、黄色い前掛けエプロンをした、まるでウェイトレスのような姿のお団子頭の女子高生であり、ついでにクラスメートの黒居蜜柑と。
 彼女は俺が入ってきたのに気付き、笑顔で――
「いらっしゃいま……ちっ」
 舌打ちしてきた。なんとも斬新な挨拶だろうか。
「なんだ、黒居、こんなところでバイトしていたのか」
「失礼ですが、プライベートに関する質問にお答えできません」
「プライベートって、今のは完全にこの喫茶店に関する質問だろ」
「警察呼びますよ」
「わ、悪い」
「ご注文がありましたら、こちらのボタンを押してください」
 黒居は俺の目の前に、小さなボタンのついた台を置く。
「へぇ、ファミレスでよく見かける奴だよな。こんなのが――」
「防犯ブザーでございます」
「なんで防犯ブザーなんだよ!」
「ご自分の顔に手を当てて考えてください」
「顔じゃなくて胸だろ、それを言うなら。俺の顔がそんなに犯罪者顔か! もういい、注文言うぞ」
「お会計でよろしいですね」
「よろしくねぇ!」
「千円になります」
「何も注文してないのになんで千円なんだよっ! まだ水も出てねぇぞ」
「お客様、これ以上店に居られたら延滞料金が発生しますがよろしいですか?」
「よろしくないです。非常によろしくないです。ぼったくりバーでもここまでしないぞ」
「困りましたねぇ。店長、今留守なのに、こんなクレーマーが来るなんて」
「あぁ、困ったよ。本当に困った」
 何を血迷って、ここの店長はこんな女を雇ったのだろうか。
 黒居は溜息をつき、仕方ないといった口調で言う。
「じゃあ、千円はもういいですから、早く注文して早く飲んで早く帰ってください」
「店員がいうセリフじゃないだろ。とりあえず、コーヒーくれ」
「わかりました、三百円になります」
「普通の料金だな」
 てっきり、二千円くらいふっかけられるのかと思った。
「どの種類になさいますか?」
「ん? 種類とかあるのか? アイスとホットとか?」
「当店では、多くの種類をご用意いたしております。ブラック、カフェオレを始め」
 本当に普通の種類を言い出した。てっきり雑巾の絞り汁くらいが出てくるかと思ったが。
「ゴールドプレッソ、レインボーマウンテン、新発売のシンプルスタイルがあります」
「それ、缶コーヒーだろ! 表の自動販売機の!」
「お客様はB○SSより、GE○RGIA派ですか?」
「サントリー製品でもコカ製品でもどっちも同じだ」
「それは缶コーヒー業界に対するクレームととってもよろしいでしょうか?」
「お前に対するクレームだ!」
 俺が机を叩こうとしたとき、叩いた先にボタンがあった。

《ブブブブブブブブブブブブブブブブブ》

 うわ、やべ、これどうやって止めるんだ!?
 俺がおろおろしていると、黒居は慣れた手つきでボタンを操作し、ブザーを止めて一言。
「お会計でよろしいでしょうか?」
「よろしくねぇぇぇぇっ!」
「千三百円になります」
「さらに飲んでもいないコーヒー代まで追加されているし!」
 俺がどなると、黒居は再び溜息をつき、一言。
「……そろそろあんたをからかうのも飽きたわ」
「からかってたのか! いや、むしろ安心した、からかわれていると知って安心した。店の経営が本気で心配だった」
「えっと、コーヒーだっけ? ホットでいいわよね。まぁ、水でも飲んでちょっと待っててね」
 黒居は水と氷の入ったグラスをおいて、店の奥へと入っていく。
 そして待つこと三分。
「お待たせしました」
 俺の目の前には、缶コーヒーではない、きっちりとカップに入ったコーヒーが出される。俺は最初にミルクも砂糖も入れずに、それを口に運んでみた。

「うまい」

 なめらかな口当たり。深みのある味わい。そして、なにより飲んでいると心が安らいでくる。今までの店のコーヒーとは何かが違う。豆が違うのだろうか? 俺は気になって、黒居に質問してみた。
「黒居、このコーヒーの豆って何を使ってるんだ?」
「豆? いえ、これはB○SSのシルキーブラックでございます」
「缶コーヒーかぁぁぁぁっ!」
「お客様、当店のコーヒーはお気に召しましたでしょうか?」
「気に入ったが、断じてお前の店のコーヒーではない」
「缶コーヒーと店のコーヒーの味の区別もつかないお客様にはこの程度で十分かと思われますが」
「それを言われるとつらいが、お前、実はコーヒー、淹れられないんじゃな――」
 その時、店のドアが開いた。
 サラリーマン風の男が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 美しいほどの営業スマイル。
 黒居はすぐに席に案内され、水とおしぼりを出しながら、注文を聞く。
「コーヒーですね。ホットでよろしいでしょうか? かしこまりました」
 マニュアル通りの応対。
「お待たせいたしました」
 出される、コーヒーとミルク。
「こちらはスマトラ島産のマンデリン豆を使用しておりまして、飲み心地はあっさりとした、マイルド風に仕上げております」
 きっちりとした説明。
「お会計でよろしいですね、二百五十円になります」
 適正な価格表示。
「またのおこしをお待ちしております」
 丁寧なあいさつ。
「やればできるじゃないかぁぁぁ」
「て、何怒ってるのよ」
「くそっ、本気で店の心配した俺がバカみたい、てか、完全にバカにされてるよな、俺」
「バカにしてないわよ。あんたが生まれつきバカなだけ」
「もう帰ります」
「うん、じゃあ、会計三百円ね」
「はい、三百円でいいです。千円割引感謝です」
 俺は三百円出して、店を去ろうとした時、黒居はレシートと一緒に、ある紙を俺に渡した。
「これ、次回からのサービス券。まぁ、あんたがいたら暇しないしさ」
 営業スマイルではない、本当の笑みで、黒居が言う。
 俺は黒居の笑顔と、手元にある数枚のサービス券(三十円引き)を交互に見て、笑って言った。
「また来るよ」
 俺も、ここに来たら退屈はしそうにない。
 
======================
 その日の夜、喫茶店内で店長と店員の会話。
 というか、先ほどのサラリーマン風に変装していた店長とウェイトレスの会話。
「ねぇ、父さん」
「なんだ? 蜜柑」
「父さんの言ってたツンデレ喫茶とこれ、かなりちがうんじゃない?」
「そうか? まぁ、常連は増えてるから問題ないだろ」
ウィル
2010年12月12日(日) 20時02分37秒 公開
■この作品の著作権はウィルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
執筆時間一時間。

ギャグです。
これでもかというくらいに。

サイトがリニューアルしたということで、リニューアルした喫茶店に行く話をしましたが、リニューアルとほとんど関係ない内容になりました。

暖かい目で見てください。
次回はまともな作品を書きたいです。

この作品の感想をお寄せください。
No.9  エンガワ  評価:30点  ■2011-06-25 16:13  ID:IS6Q0TStVxc
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軽快なテンポが心地よかったです。
ギャグとかツボから外れてるなぁと思う部分があったのですが、最後まで飽きずにリズム良く読了できました。
一時間とは思えないくらい、丁寧に纏まってました。好き勝手に書いているようで、置いていかれた感が無い。絶妙なところを付いてきて、ああ、凄いと思いました。
No.8  ゆうすけ  評価:20点  ■2010-12-20 19:58  ID:DAvaaUkXOeE
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拝読させていただきました。
ギャグですね。難しいですよね。笑いのツボは人それぞれであり、万人受けするギャグを書くのは至難の技であると思います。
ちょっと微笑む程度の笑いであると感じました。オチのキレもイマイチだと思います。

私も何度もギャグを書いて投稿しておりまして、何度も酷評をいただいております。ウケる打率を高めるには練習あるのみだと思います。
No.7  ウィル  評価:--点  ■2010-12-14 23:18  ID:JLR4ZYFjwGg
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皆さん、様々な感想ありがとうございます。
指摘箇所一部修正しました。

>Phys様
ラノベ調、というかラノベそのものですね。というか、私という人間はラノベで9割9分構成されているようです。残り一分はバグ。

しっかりしたという話ですが、ギャグではなくシリアスな物語を書きたいな、とそういう意味でございます。

>HAL様
いつも感想ありがとうございます。
ギャグの作り方は、大阪人なんで物心ついたときから吉本新喜劇を見ている影響でしょうか? 正直、自分ではギャグのセンスがあるほうだとは思っていないので、なんともいえないです。

指摘箇所、修正しました。
地の文はスピード重視でほとんど書いてませんね。
ただ、確かに落ちに行く前に、地の文でいっかい落ち着かせる手法をとったらいいなと思い、次回の参考になりそうです。


>HONET様
ツンデレ喫茶、修正しました。
ワンシーンしか描かれていないのは、ショートギャグとして最初から決めていたことですが。

>お様
いつも感想ありがとうございます。
三語っぽいですねぇ。実は、三語の青ボタンから、防犯ブザー、喫茶店のボタンと連想して思いついたネタでして、でも三語では使えないので考えた末にこちらのほうにいった次第です。
というか、最近三語しか書いてなかったから、その影響かもしれませんね。

>とりさと様
確かに急ぎすぎですね。いちど、間に休憩箇所があったらよかったかもと、いまさら思っております。

>神童様。
どこかで見たことあるような気がするといわれたら、うーん、確かに。
私の中では、生徒会の一存シリーズに似ているなぁ、と思ったんですけれども、まぁ、わかりません。
さっきまでと違う笑顔、いい表現ですねー。
そういう細かい言葉の推敲が必要ですね。反省です。
No.6  神童  評価:30点  ■2010-12-14 09:30  ID:dN5p.3DPFjA
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 読ませてもらいました。
 面白かったです。『どこかで読んだことのある雰囲気の話だな』と思い目の前にその原作があるのに小一時間考え込んでいたのは秘密です。
 と、言うより触れないでください。俺が傷つくから……
 個人の感想としては落ちを別の形にしてほしかったのとあともう一つ。
 『本当の笑顔』となっていましたが『さっきまでとは違う笑顔』の方が個人的には好きです。
 下手な上に個人的な事しか言えてない気はしますが俺の感想はこんなところです。
No.5  とりさと  評価:20点  ■2010-12-14 01:07  ID:2aTk9s9CjZk
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 読みました。

 ギャグでした。これでもかというぐらい。
 読んでいて、掛け合い楽しいけどちょっと急ぎ過ぎてるなおしいなと(でも一時間じゃしかたないですね……推敲して欲しかったかもです)読み進めていくこと後半。

>「缶コーヒーかぁぁぁぁっ!」

 のつっこみが一番好きです。間の取りかたも絶妙でした。いやあ、ほんとに吹かせてもらいました。もういっそそのまえまでのやり取り全部これの伏線なんじゃあと思うぐらい、ナイスギャグでした。

 ラストも。
 無難にしまったかなと思ったら、そうですねリニューアルしてるんですよね。そういうことかと。意外性あって良かったです。
No.4  お  評価:30点  ■2010-12-13 21:59  ID:E6J2.hBM/gE
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こんちわ。
楽しい。軽妙な掛け合い。雰囲気好きだなぁ。
ただ、仕立てが粗い。
あえて喩えれば、三語作品みたい。
センスとノリは良いけど、作り込めていない。
そんな感じを受けました。
No.3  HONET  評価:20点  ■2010-12-13 19:05  ID:gOH2TKqQEE2
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 いわゆるラノベ風、と一括りにするのは私の悪い癖ですが、良い意味でありそうな軽妙な掛け合いでした。
 惜しまれる点は二つ。一つは、ここからいかにもいろんな方向に話を膨らませられそうなのに、ワンシーンしか描かれていないこと。まあこれは私の好みの問題でもあります。
 もう一つは、ツンデレ喫茶なのに、サラリーマン風の男性には普通の接客なのか、という点。この設定がいかにも蛇足に感じます。主人公が相手だからこその態度、という方がまだ想像の余地があってよいかな、と。
 執筆一時間ということで仕方ないかもしれませんが、ややもったいない感がありました。
No.2  HAL  評価:20点  ■2010-12-12 21:20  ID:RuNkYQkLyAA
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 拝読しました。

 笑いました……。
 息もつかせぬギャグの連発。コメディやギャグの苦手な人間としては、本気でうらやましいです。どうしたらギャグって思いつくんでしょうか(真顔)
 蜜柑さんもほどよく黒くて可愛いですけど、主人公のキャラが地味にいいですねー。ツッコミの必死さが好きです(笑)

 今回、自分自身が新装開店にあわせたかったあまりに激しく推敲不足の作品を投稿しているので、些事を指摘するのも、なんていうか棚上げはなはだしいというか、ものすごい心苦しいのですが(汗)、気になったところをふたつだけ。
 ひとつには、冒頭の地の文、ちょっと状況が飲み込みづらかったかなという気がしました。具体的には、
> ついでにクラスメートの黒居蜜柑と。
 この部分が、その直前までのウェイトレス=黒居蜜柑をあらわす文だというのがすっと飲み込めなくて、いっしゅん戸惑ってしまいました。

 ふたつめは、地の文と会話のバランスですけれど、もう少し地の文をつかって、ギャグとギャグのあいだに、かるく呼吸をおいてあってもよかったのかなって思いました。と、ギャグを書くのが苦手な人間のシロート意見ですので、見当違いかもしれません(大汗)

 ……と、小さなことばかり指摘してしまって心苦しいですが(汗)、ともかく、楽しく読ませていただきました。
 拙い感想、大変失礼いたしました。
No.1  Phys  評価:20点  ■2010-12-12 20:43  ID:ewXEkHXxC8g
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拝読しました。

いわゆるライトノベル調、という書き口でしょうか。軽快な叙述を
楽しませて頂きました。素直に、おもしろかったです。

喫茶店なのに『寿退社』という発想に笑いましたし、
>なめらかな口当たり。深みのある味わい。
のくだりも、漫画を見ているように楽しく読めました。

ただ一点細かいところを。
>営業スマイルではない、本当に笑みで、黒居が言う。
のところは、『本当の笑みで』の方が自然かなぁ、と思いました。
あんまり本筋と関係ないところでごめんなさい。

次回はまともな作品を、なんて謙遜してらっしゃいますが、誤字や
脱字もありませんし、十分しっかり書いてらっしゃると思います。
私じゃ一時間でこんなに書けません。

感想下手ですみません。失礼します。
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