フクロウにあった日

It was late one winter night.
long past my bed time,
when Pa and I went owling.

 ぼくは、お気に入りのいつもの図書館で、その時は、絵本を読んでいた。それは、フクロウを深夜に松林のなかに見に行くという話だった。
 はじめは、ふたりのヒソヒソ話が、気にはなったのだが、そのうちに、その囁き声が、恋人たちの愛の囁きのように聞こえはじめ、心地よい眠りへと誘われたのだった。
 夢のなかで、ぼくはピンクフラミンゴの群れの一糸乱れぬ優雅な舞いを眺めているのだった。
 フクロウならまだしも、なぜまたフラミンゴなのか? 人生は、ミステリアスなのだ。この脈絡のなさに万歳! などとアホなことを考えているうちに、その囁いている女性は、大柄な人で、どんな顔だったかはっきりと覚えてはいないが、確か何かを尋ねられて言葉を二三交わしたことがあったはずだったことを思い出した。
 失礼な言い方となるやもしれないが、ぼく個人としてはいささかも食指を動かされないといった趣きだった。綺麗なひとには違いないのだが、ちょっときついというか……。
 そんな彼女が、いや、彼女でなくとも、ヒアリング出来ないとなると、いったい何の話をしているのだろうかと知りたくなるのが人情というものなのだろうし、気にはなるのだが、そんなことよりもその恋人同士の愛の囁きのようなシチュエーションに突き上げるほどに欲情している自分がいて、鋼のように勃起するというわけのわからない挙動にどう対処し、処理していいものなのか、ぼくは夢心地のなかでそれでもしっかり頭を悩ませていた。
あるいは、ピンクフラミンゴに劣情しているのだろうか? まさか、それはないとは思うのだけれど、非常に心もとないのも確かではある。
 それで思い出したが、以前久しぶりに出掛けていったお隣の区にある図書館で見た貼り紙にこんなことが書かれてあった。
「不審な行為をする人物を見掛けたら、係員までお申し出ください」
 これを読んで、いったい不審な行為とはなんだと、頭が歪んでしまうくらい疑問に思ったものだった。
 あのサリン事件の後で、駅構内からゴミ箱が消え、不審な行為をする人物なんたらかんたらの注意書きを日々目にしていたが、図書館で見たのは、あれがはじめてだった。
 煙草に火を点けて吸い出したとか? あるいは、覗きとか痴漢行為? 平気で飲食しだしたとか? 脱糞? 排尿? あるいは、脱衣か? 女装とかコスプレ? 選挙演説? 焚書か? それとも片っ端から破りまくるとか? まさか、セクロスはないような……。
 などなど、想像力のない瀕死な頭で考え、やっとこさ辿り着いた貧相な答えは、自慰行為だった。果たして真犯人は、巧妙に放たれた、すかしっぺさえ聞こえてしまいそうなほどの、この静謐な館内で、音もなく自慰行為に耽っていたというのだろうか。なんかロマンがないでもないような。
 ところで、ぼくの天を摩すような猛りは、相変わらず。甘い疼痛を伴う男の誇りをどう説き伏せたならよいのだろうか。彼のお気に召すまま、元の鞘に収まるべく、生温かい湿った穴蔵を探し出してやるべきなのか。
 とにかく表層は、猛スピードで変貌しているのだ。なんのこっちゃ。いや、フクロウの絵本の前に読んでいた本にそう書いてあったのだが、なんとなく現在の自分の状況に当てはまっているように思われて仕方ないのだった。
 そう。いっそのことぼく自身が、人身御供だか人柱に立って、この身を捧げウロボロス的にちゃんねーと、ぱついち決めてやろうかしら、などと思ってれいの囁きねーちゃんはと見てみれば、まだ飽きもせず囁きまくりだった。
 彼女は、丸顔で目が大きく、眼鏡をかけていた。しかつめらしい感じは、その眼鏡のせいなのかもしれなかったが、思慮深い賢そうな顔つきをしていた。
 そのあちら側の空いている耳に、空耳とも思われるような衝撃的な四文字禁句を唇が耳朶に触れるほどの至近距離から叩き込んでやった。むろん、濡れるようなウィスパーで。
 したら、ねーちゃん目をカッと見開いて、真顔でぼくを見上げると、こう宣った。
「して」
 ぼくの視界は、ハレーションを起こして、世界は真っ白に飛び、くずおれるようにしてぼくは彼女に抱きついていた。
 すると、彼女がまた囁く。
「ここじゃ、いや」
 ぼくは、心の中で叫ぶ。
「いや、ここだから。ここだからこそ、萌えてるんだから」
 そこで、ぼくは雷に打たれたかの如くに閃く。
 そうだ。オナヌーもだめ。セクロスは、もっとだめ。じゃ残るは、そう。
 ぼくはぼくのイカロスをズボンから苦労して取り出すと、彼女の唇の前にヌッと突き出した。
 そして、呟くようにこういう。
「Suck me baby」






バッファロー冨樫
2012年12月20日(木) 18時44分08秒 公開
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