銅像の街
 ある街道沿いには立派な街と1体の銅像がありました。街には、大きな広場がありその中央に銅像がありました。銅像は、鎧を身にまとい馬にまたがった大きく立派な青年の像で、まるでおとぎ話の英雄のようでした。
 そんな街にある日、一人の行商人がやって来ます。この行商の青年は、英雄の像に感動しました。そして道行く農夫に、像のモデルとその名前について聞きました。
「この英雄の名前は、簡単には教えられないな」
 農夫は、もったいぶるように言います。どうやら名前を教える見返りを要求しているようでした。青年は、あきらめて別の人に聞くことにしようと思いました。
 農夫と別れてしばらく歩くと長椅子に腰かけて談笑をしている2人の老婦人に会いました。人の良さそうな老婦人だったので青年は、さっきの農夫と同じ質問をしてみました。すると老婦人は、真剣な顔でこう言いました。
「旅人さん。あなたは、初めてこの街に来たのでしょうが、街の者たちは、あの英雄様の名前は、畏れおおいので簡単には口にしないのです。」
 青年は、納得して老婦人に感謝の言葉をかけて立ち去りました。
 そうこうしている間に日が落ちてきます。青年は、宿屋を探すことにしました。すると目の前に宿屋があったので、今日の宿をそこに決めました。
「いらしゃい、お泊まりかい。ちょうど一等の部屋が空いているだが兄ちゃんどうだい?」
 宿に入ると気さくそうな店主が話かけてきました。
「いや、安い部屋でいいよ」
 店主は、少し残念そうな顔をしましたが、思いついたように聞いてきました。
「兄ちゃん、この街は、初めてかい。もしそうなら広場の銅像は、見たほうがいいぜ」
 青年は、もう見てきたことを伝えて部屋を見せてくれと店主に頼みました。
「へぇじゃあ、あの像のモデルが誰かも知っているのかい」
 腕をくみ少し誇らしげなそぶりで店主は、聞いてきました。
「名前は知りませんが、あの英雄の像のモデルは、この街では畏敬の対象なのでしょう。先ほど会った老婦人が教えてくださいました。それに畏れ多くて簡単に名前は、口にできないとも言っていましたよ。」
 青年が答えると店主は、両手を挙げて肩をおとしやれやれといった様子で言いました。
「そういった考えのやつもいるだろうな。だが俺は、別に名前を口にすることに抵抗は、ないぜ。あの英雄様のおかげでこの街ができたのも確かなことだけど俺にとっては、どうでもいいことなのさ」
「それでは、教えていただけるのですか」
 青年は、目を輝かせて聞きます。
「教えてもいいぜ、だがタダじゃだめだ。もっとも1等の部屋に宿泊するっていうのなら話は別だがな」
 幸いにも1等室の料金は、そこまでのものでなかったので青年は、条件をのみました。すると待っていましたといわんばかりの勢いで目の前の椅子に片足をのせ店主は、声高に語り始めました。
「あの英雄の名前は、アステローンという。アステローンは、この地を異民族からの侵攻から守りぬき、ついには異民族どもを撤退に追い込むだけでなく全滅させたわが街が誇る勇者だ。この街は、彼を慕う人々が集まったのが始まりなのさ。」
 青年は、納得をして感謝の言葉を店主にかけて部屋に向かいました。そして今日は、疲れたのでもう眠りました。

 次の日、広場で商売をしていると行商仲間が来て青年に言います。
「なあ、お前この像が何なのか知っているか」
「昨日、宿屋の主人に聞いたよ。この街を作った英雄様だろ。」
 行商仲間は、探りを入れるように言いました。
「ああ、その通りだ。この英雄様のおかげでこの街ができたんだよな。じゃあ、この像のモデルは、知っているか」
「英雄アステローンだろ。」
 青年が間髪を入れずに答えると行商仲間が大声で腹を抱えて笑い出しました。青年が理由を尋ねると彼は、笑いをこらえながら答えました。
「お前は、騙されているよ。この像には、モデルなんてものありはしないんだ。この街ができる前からこの像は、ここにあった。というよりもこの像があったからここに街があるんだ。この街の住人達にとって銅像の名前を聞いてくる奴は、カモなのさ。」
サニー
2012年12月01日(土) 18時29分40秒 公開
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■作者からのメッセージ
どうもサニーと申します。

卵が先か鶏が先か。正直にいうと、どっちが先でも鶏も卵も存在するのだからどうでもよい気がします。
この小説も大体は、そんなこと考えながら書いていました。

この作品の感想をお寄せください。
No.8  お  評価:30点  ■2013-01-19 00:42  ID:.kbB.DhU4/c
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どもども。
やられちゃいましたね。おもしろかったです。
思いついたネタを、イメージに乗せて書いた掌編だとしても、作りも整ってるし良かったと思います。こういう小ネタって長い物の中に忍ばせてもスパイスとして利いたりするんで、どんどんためていくと良いんでしょうね。
僕にもなにか降ってこないかなあー。
ありがとうございました。
No.7  サニー  評価:0点  ■2013-01-13 00:36  ID:gLIHkLer5N6
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帯刀穿さん、白星奏夜さん、朝陽遥さん

ご感想ありがとうございます。
年末年始は、どうも忙しくて返信がおくれてしまいすみません。

アイディア先行で書いてしまったので内容がちぐはぐになってしまっています。
暖かいお言葉をいただけて本当にうれいしです。
No.6  帯刀穿  評価:30点  ■2013-01-02 18:27  ID:DJYECbbelKA
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これはアイデアの勝利であるし、ファンタジーになっているが、別のジャンルでも使えるなかなかこぎみの良いネタだ。
No.5  白星奏夜  評価:30点  ■2012-12-22 12:35  ID:rXFqT2VZQDQ
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こんにちは、白星と申します。

拝読させて頂きました。最後のオチが、効いていてとても楽しく読めました。この銅像は一体何がモデルなんだろうと、興味を持たせておいて、最後に引っくり返す、という構成が非常にうまいなあ、と思いましたし、勉強にもなりました。

この名称の由来は何だろう、この建造物の由来は、この創作物のモデルは何だろう、そういう知的な好奇心って誰にもあるよなあと思ってしまいます。
そこで、ちょっとした仕掛けに気付けたら何か嬉しくなりますよね。

と、最後は余談でしたが楽しく読めました。ではでは、またの機会をお待ちして。
No.4  藍紫蒼世  評価:30点  ■2012-12-12 00:19  ID:2wDJEeKhVK6
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この短い文章でしっかりと世界観が構築されており、あたかも長編の序章を読んでいる気にさせられました。それだけにあまりにもあっけない落ちには心底脱力感を得、そして正直失笑しました。
面白かったです。ファンタジー色の強いショートショートとして良くできていると思います。
No.3  朝陽遥(HAL)  評価:30点  ■2012-12-09 22:38  ID:1lJTIwToPww
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 拝読しました。
 童話のようなテイストの文体ながら、皮肉な内容。ちょっと可笑しくて、ちょっと悲しいお話だなあと思いました。あまり多くは語られていないながらも、主人公はどうやら、とても礼儀正しくて実直な人柄のようです。そういう彼をだましてカモにしよう、からかおうという人ばかりが次々に出てくる……
 とはいえ、本当にひどいめにあわされるというわけではなくて、実質的な被害は青年の財布が少々痛んだくらいなので、そういう点では後味の悪くない、いい意味で軽い仕上がりになっているように思いました。

 と、作品の感想から逸れてしまいますが、メッセージ欄の「どっちが先でも鶏も卵も存在するのだからどうでもよい気がします。」のお言葉に思わず脱力して、笑ってしましました。たしかに!

 楽しませていただきました。つたない感想、どうかご容赦くださいますよう。
No.2  サニー  評価:--点  ■2012-12-06 22:10  ID:8e1Jm3WWRKk
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zooeyさん、的確なご意見ありがとうございます。

やっぱり登場人物に内的な動機で行動をさせると理由としては、弱いですね。
まるで「あしたからがんばる」といつも自分が言っているの同じです。
外側からの圧力が動機になったほうが納得がいきます。

目的や主題がなく書き始めた物語は、つまらないところに着地してしまいました。
本当にこんな駄文を読んでくださり、あまつさえ感想までいただけると次からは、もっとちゃんとしたものをと思わずには、いられません。
次回からは、頑張ります。


↑ああ、だめそうだなw
No.1  zooey  評価:30点  ■2012-12-06 12:50  ID:LJu/I3Q.nMc
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読ませていただきました。
感想書くと言いつつ、遅くなってしまって、すみません。

題材が面白いなと思いました。
鶏が先か卵が先か、は永遠の謎という気がするので、
それをモチーフにするというのは、とても興味深いです。
プロットとしても最後きちんと落ちていて、よかったです。

ただ、料理の仕方でもっと面白くできるのではないかな、という気はしました。

まず、ちょっと旅人が銅像の名前を知りたがる必然性が無さすぎるかなと思います。
気になるのであれば、好奇心をくすぐる要素が銅像になくてはダメではないかなと。
だから、名前を知りたがる旅人に私は寄り添って読むことができなくて、
宿屋の店主が銅像の話を持ちかけてくるのにも違和感がありました。
住人たちの様子も、ちょっとフラットすぎるかなと思います。
故に、旅人の好奇心にふれてこなくて
ラストまで読んでも騙されていた感じがしないのかなと感じました。
要は、騙すんだったらもっと演技して、旅人の気持ちを煽るんじゃないかなと。

それと、小さなことですが、冒頭の一文が、分かりにくいかなと思いました。
そのほかはどこもつっかかることなく読めましたが。

あとは、これは完全に私の好みの話で、しかも大分脱線した話になってしまうのですが、
鶏と卵って、突き詰めていくと、かなり哲学的な話だと思うんですよね。
どちらも正解とは言えなくても、
どちら派の根底にも深い思想が根付いているというか。
だから、この話題というのは、結局どっちであるかが問題なのではなく、
どう考えてどちらを選択するかが重要ではないかなと。
この物語自体鶏と卵の話ではないので、
こんなこと言っても仕方ない気が自分でもすごくしますが。すみません。

一応、この話に変換するとしたら、
町が先派と英雄が先派との深めの対話をさせるのは、
好奇心を煽る一つの要素になるのではないかなと思います。
割と深い理論を展開した方が、ラストの肩すかし感も大きくて、
結局どっちでもいいんじゃん、という皮肉も強調されるかな、とか。

後半ほとんど余計な話になってしまいました。
なんだかすみません。
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