ザボンギさんと僕


 夏休み、海、奇麗なお姉さん、これ以上は無い三種の神器とも言える最高の品揃え。世間一般的な高校男子なら間違いなく青春を謳歌するだろう。うん、普通ならそうだよね。ですよね、そうだよね。誰に言うまでもなく僕は自分に言い聞かせる。あの夏の彼女との出会いに思いを馳せる。

 家庭の事情で夏休み手前に転校した僕は友達もいなくぼっちだった。初めての土地、しかも田舎、家にはクーラーが無かった。他の高校生諸君は何処で遊んでいるんだろうと、家の近くの海で無駄にプカプカ浮いて夏休みを満喫していた。周りには誰もいない穴場だった。
 寂しくなんてないよ、潮風が目に沁みるんだよと携帯ゲームでも一人狩りをして、孤高のぼっちを堪能していると、ん?
 ガチャでウルトラレアキャラゲット、リアルアンデットを手に入れた。全く喜べない、明らかに人型のレアなあれが海藻に巻かれ打ち上げられていた。
 うへぇ、嫌だなあ、怖いなあ、トラウマにならないかな、一応確認してから通報しようと歩み寄る。勿論足取りは重い。近づくにつれ、腐臭よりも魚臭さが増してくる。海鮮丼は当分食べられないな。気持ち悪いな、全身海藻につつまれている、多分うつ伏せだ、軽くつま先でそいつの腰を突っつく。
 寝返り? そんなに力は入れていない。しかも唸り声が聞こえる。どうやら息があるみたいだ。しかたない、海藻を千切っては投げて海に帰し、顔を出すと奇麗なお姉さんだった。よし、ここは人工呼吸しかない、下心はないわけでもない、唇を突き出し彼女の顔に近付くと、彼女の鼻から漏れる息がやけに酒臭かった。うわ、堪らずペシペシと彼女の頬を軽く叩く。
 う〜ん、と意識を覚醒させる彼女、もう少しで目が覚めるかなと構わず頬をたたき続けると、
「痛いんじゃ、ワレ!」
 見開いた目と目が合い、海藻から拳が飛び出し、僕の額にヒットし二メートルはふっとんだ。
 眼鏡をしていたら大惨事だろう、眼鏡っ子じゃなくてよかった。
 目がチカチカする。瞬きをし、起き上がると、彼女も上半身を起こし、海藻をはがしていた。裸? え? 何? 彼女の下半身は魚だった。僕を睨みつける人魚がいる。
「私の裸を見たのなら生かしておけん、覚悟しいや」
 え? そこなの? 人魚の正体じゃないんだ。匍匐前進で近づく殺意の人魚に慌てて助けた事を説明する。
「何だ、そうなんだ、助けてくれてありがとちゃん、うー、頭痛い、水ある?」
 ちょっと待ってと、荷物置き場の水を取りに行こうとしたら、
「よっこらせっくす、あはは」
 人魚は全裸で立ちあがった。下半身は乾くと足になるみたいだ。
 突っ込み所満載過ぎて頭がついていかない、取りあえず目のやりばに困るのでタオルを腰に巻いてもらい、上着を貸した。日陰に腰掛け、水をゴキュゴキュ飲む人魚、プハーと酒臭い息を漏らすと、
「あー、飲みすぎた。二週間前から彼氏と連絡取れなくて、むしゃくしゃして、密輸船襲って、船員全員殴り殺して、その船の酒や食い物でやけ酒してたの」
 怖い怖い、殴り殺したって、人魚って武闘派? さらっと何言ってんの?
「でも、コックだけはつまみ作らしてから最後に殺したよ」
 でもの意味わかってる? 救いがありませんから。
「三隻目ぐらいでベロンベロンに記憶なくして、嵐に出くわして今に至るってわけなの」
 居酒屋をはしご感覚で殺された人達、南無南無。彼氏が連絡しない理由も分かった気がする。大変ですねと返事すると、まだ自己紹介が無いなと言われたので、簡単に名前と年齢を言う。
「普通の名前だな」
 失礼だな、
「私の名前はザボンギ… 海野恵だ」
 上手い名前思いついたドヤ顔やめろ、ザボンギさん。
「好みのタイプは哀川翔だ」
 そんな事は聞いてはいない。
「年は三千六百だから、百で割って、七百引いて、うん、まだ二十代だ」
 何で引いた。その見栄は必要? さば読みすぎだろ。奇麗なおばさんに格下げしよう。
「お前一人か?」
 名前で呼んでくれないんだ。親が離婚して、夏休み前にお婆ちゃんの所に引っ越したのを説明すると、
「ウヒャヒャ、何このボッチ、超ウケルんですけど」
 手を叩いて大笑いする人魚、ウケる要素皆無だろ、腹立つなこのババア。
「くよくよするなって、そんな事じゃ私のフィアンセの竹内力様みたいな、立派な極道にはなれないぞ」
 哀川翔はどこいった。勝手にフィアンセにされた竹内力様が迷惑だろ。役者だし。挫けてないし、突っ込むのが面倒だな、この半魚類。
「まあ、あれだ、世の中金だよ金、年収だよ、貧乏暇なし、真っ当に生きろ、酒は飲んでも呑まれるなってな」
 説教する相手考えろ、極道は何処行った。もういいかなと、ですよねと、簡単に促し、恵さんもお元気でと別れを告げると。
「そっか、帰るんだ、帰れる所があっていいな、もう一人は嫌なのにまた一人か」
 水平線を見つめる彼女、一筋の涙が頬を伝わり落ちる。黙っていれば奇麗な人なのにと、心が揺らいだ僕がいる。
「その、夏休みだし、帰る所がないなら、少しの間なら家にいてもいいですよ」
「えっ? いいの?」
 涙を拭い笑顔になる彼女、
「その代わり、人を殴り殺すような面倒は起こさないで下さいね」
「了解、オッケー、OK牧場、大丈V、しかも人魚の三大能力、泳げる、不老不死、歌が上手い、陸でも生活できる、は絶対に役立つから安心して」
 溺れたじゃん、おばちゃんじゃん、演歌歌いそう、両生類? 一つ増えてるし、人魚関係あるの? 突っ込んで欲しいの? 役に立つの?
「これからよろ乳首ンビン」
 思春期のドキドキを返せ、乳首摘むその下ネタやめろ。


「うーん、宮本武蔵と呂布め、挟み撃ちとは卑怯なり、いいぜ、まとめて殴り殺しちゃる」
 大の字で脇腹を掻く彼女、どんな夢を見ているのだろう。
 少しの間、僕は夏休みが終わるまでと思ったのだが、三千六百年生きた人魚とは少しの間隔が明らかに違った。そのせいもあり、二十八歳の時、彼女の血をうっかり飲んで僕も不老不死になってしまった。
 彼女は寂しさを忘れられたのだろうか、三百年経ったが彼女の涙はあれ以来見てはいない。昔と何一つ変わらない妻の寝顔を見ながら、僕はあの夏の出会いに思いを馳せる。


















みんけあ
2016年09月25日(日) 03時19分28秒 公開
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No.3  みんけあ  評価:0点  ■2016-10-15 19:56  ID:3MOjXOnubh.
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逆さ様、ありがとうございます。
ですよね、オチが飛び過ぎてますよね。人魚の外見とかかなりほったらかしですね。
本当に久々にキーボードを叩いたので、面白いとの言葉が物凄く嬉しいです。
No.2  逆さ  評価:0点  ■2016-10-12 17:39  ID:vobjcoqkwM6
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すいません途中で投稿しました。続きなので0点にしときます
(続き)
少し残念でした。
No.1  逆さ  評価:50点  ■2016-10-12 17:37  ID:vobjcoqkwM6
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人魚のキャラが面白かった。人間味が溢れていて良かったです。
ただひとつひとつのネタは面白かったのですが、ストーリーをもう少し書いてほしかったというか、若干端折られている感じがしてそこは
総レス数 3  合計 50

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