幽霊と俺
 黒猫が横切った。

『……死ぬ……死ぬ死ぬ、私死んじゃう! 黒猫が横切ったんですよ、義武さん! 私死んじゃいます』
「落ち着け、美穂! いいから落ち着け」
『そうだ、浄化! 聖水! 榊さんから貰った聖水を振りかけて――あぁ、光がぁぁぁ』
「だから落ち着け! お前はもともと死んでるんだから! って成仏するなぁぁぁ!」

 成仏しそうになるセーラー服、ポニーテールの美少女を引っ張り、現世へと呼び戻した。
 天使が連れていこうとしていたが、天使を殴り飛ばした。
 天使の軍団が現れて俺を攻撃してきた。これが世にいう天魔戦争の始まりだった。魔王でもない俺が魔と呼ばれるのは気に食わないが、天使を殴り続ける様はもしかしたら本当に魔王だったのかもしれない。

 とにかく天使を殴り続け、なんとか美穂は成仏しないで済んだ。

『あぁ、死ぬかと思いました』
「だから、お前は死んでるんだって」

 ここまで言って気付かない人は、きっと国語の時間に苦労したことだろう。
 いないとは思うが、気付いていない人の為に言うと、彼女――佐伯美穂は幽霊だ。

 俺は物心ついたときから幽霊の姿を見えることができ、さらに幽霊を触ることができる。
 ただ、それだけだ。

 別に幽霊に触ることができたからって、テストの成績が良くなるわけでもなければ、かといって悪霊にとりつかれてブリッジして部屋を這いずり回る、なんてこともない。

 幽霊の9割は自我もほとんど残っていないし、意外かと思うかもしれないが、幽霊というのはそれほど多くない。
 大抵の人は成仏するのだ。

 死んだばかりの人の霊魂が抜けるところを、俺は祖父のお見舞いにいったときに病院で見たことがある。
 そして、その霊魂とは死んだ祖父だった。

 死んだ祖父の霊魂は、自分の遺体となった身体を見下ろすと、「ふっ」と笑って天へと昇って行った。
 本当に祖父に悔いが全くなかったかどうかはわからない。ただ、人が死ぬというのはそういうことだ。

 だが、美穂は成仏しなかった。
 彼女が何者で、何が原因で成仏しなかったのか、俺にはわからない。
 ただ、そこまでして彼女が現世に残る理由が気になった。

 そして、俺は彼女と一緒に行動することになった。
 だから、彼女には聖水を浴びたとか、そんなくだらない理由で成仏されたら困る。

「で、成仏しかけた美穂は、何か現世に残る理由がわかったのか?」
『そうですねぇ。あ、見てください、義武さん! さっきの黒猫ちゃん、伸びしてますよ。ふーって言ってます。可愛いですね』
「さっきあれだけ怖がってたのに、なんで可愛いって言ってられるんだ?」
『あれは横切ったからダメなんです。遠くから見ている分には癒されます』

 基準がわからない、が彼女の中ではそういうことらしい。
 彼女が居る理由は、執念なんだと、榊――オカルト研究部の部長は言った。

 執念――それはいい意味でも悪い意味でも使われる。

 彼女の執念が何なのか。
 それは俺にはわからない。

 ただ、一つだけわかることがある。

「美穂、そろそろ帰ろうか」
『そうですね』

 俺達は二人で家に帰る。
 きっと、俺はここで死んだら、成仏するのだろう。
 美穂の執念の秘密は気になるし、榊のことは呪い殺したいと常に思っているが、俺は成仏する。

 なぜなら、今の日常が結構楽しいと感じているから。
 こんなに楽しいのに成仏できないなんて言ったら、世間の成仏できない霊たちに呪い殺される。

 だが、俺が成仏してしまったら美穂が独りぼっちになる。
 だから、俺はまだ死ねない。例え、天使相手に100人組手をしても死ねない。

『そういえば、義武さん。さっきはありがとうございました』
「ん? なんのことだ?」
『とてもうれしかったです』

 美穂は笑顔で言った。
 彼女を抱きしめたくなるような笑顔だ。まぁ、「硬派ぶってただへたれなだけ」と言われる俺にはそんなことはできないが。

 でも、天使から助けたことを言っているのなら、それは俺が助けたいから助けただけだ。
 お礼を言われることなんじゃない。

『だから、もう一度言わせてください。義武さんの三本の槍が世界を突き刺すことで眠っていたラジオの魔力が溢れて探偵のパイプイスだこけたから、私はこうしてアンキモの味を再現する力を身に付けたんです。これで成仏できそうです』
「成仏するなぁぁぁぁっ!」

 カオスなことを言って成仏しそうになる美穂を俺は全力で引き留めた。
 幽霊歴80年。実年齢(幽霊に対して言う言葉じゃないけど)は俺の祖父をも上回る彼女と接するには根気が必要だ。
ウィル
2015年11月30日(月) 01時36分05秒 公開
■この作品の著作権はウィルさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです。投稿は2年10か月ぶり。

あれ、美穂のキャラはこんなんじゃなかったはず。

久しぶりに書いていて楽しかったです。

あれから、他の場所で活動して、何故かしらないけど、本(ラノベ)を出すことになりました。
この作品とは全く関係ないけど、こんなノリでいつも書いてます。全然成長してない。

ここでの切磋琢磨があった……いや、なかったか。でもそれで、今の私があるんだと思います。

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No.2  白鳥 乃奈  評価:40点  ■2016-02-16 11:22  ID:bKxLHEEdd1A
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面白かったです。
天使を殴り続ける俺君……想像すると中々ヴァイオレンスでシュールです。
文も読みやすくてよかったです。
No.1  空中分解  評価:0点  ■2015-12-07 20:58  ID:Iagjyn7tR9w
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私も久しぶりにTC久しぶりに来ました。それでたまたまウィルさんどこかで聞き覚えあるかなと、閲覧させて頂きました。
キャラ自体が生き生きして、やりとり自体は楽しく読ませていただきました。ただ、息抜きに書いたのか、設定などが消化してない感じ(部長なんでそんなに憎まれてるんだろうとか)やる気を出して練った気がしないので無評価で。
本売れるといいですね。では
総レス数 2  合計 40

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