「どうなってるの!?」
 ひゅるるるる。
「きゃあああ」
 緑は叫んだ。それもそのはず、なぜか空からまっさかさまに落ちていたのだ。
「ど、どういうこと!?」
 混乱している緑の横では、寝たまま落下中の暁(あかつき)がいる。
「……」
 熟睡しているようだが、まったく気づかない様子である。しかし、違和感を感じたのか目を覚ましたみたい。
「んん?」
 周りを見ても日本ではない。なぜなら見たこともないサイズのドラゴンが空を飛び回っているからだ。
「暁君もいる。って一緒に落ちてるー!?」
 横を見ればいつも一緒の暁も落ちていた。
「んー……ん? んん!?」
「きゃあああ」
「あー……南無三」
 冷静になったのも束の間、落ちていることに気がつき普段以上の声がこだまする。
 ひゅるると重力のまま落ちて、ようやく地面が近づいてきたのだが、いい気に不安になる。なぜなら――。
「あれ? これって、どうやって止まるの?」
「落ちて死ぬの!?」
 考えてる間にも2人の体は、速度を上げて地面へと近づいてた。暁の答えに緑の叫び声が周囲に響き渡る。
「ぎゃあああ。それは嫌ああぁ」
「せめて足を下に……足を下に!!」
「やばいやばい、やばい」
 暁と緑は、どうにかしようともがくが空中ではどうしようもない。
「もうだめだ!」
 そう思い、せめてもの頭だけは守ろうと両手を頭の後ろに置き、目を瞑って死ぬのを覚悟していると、不意にそよ風が吹き2人の体をゆっくりと包み込む。
「ぐええ」
「あれ?」
 気絶しかけた暁と、いつまでも衝撃的な音が聞こえないことに驚いた緑が、うっすらと目を開くと暁と一緒に地面に横たわっていた。
「魔法とか?」
「あー助かったんだ。でもどうして?」
 2人で首をかしげていると、近くの大きなやしの木もどきの裏から、小さな羽根を背中に生やしたいわゆる妖精が出てきた。
「大丈夫ですか?」
 その妖精は金色の髪に緑の眼をした若くて幼い少年だった。肌は白いが筋肉は程よくついている。その妖精が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫です」
「私も大丈夫です。あなたが助けてくれたんですか?」
 暁のあとに緑も無事なことをいってから、緑が質問すると妖精は頷く。
「あなた達が落ちてくるのを見つけました。あのままだと衝突しそうだったので風の魔法を使いました」
(かわいい妖精さん。お友達になれるかな?)
「男の妖精初めて知った……」
 緑は少年の話を聞きながらも別のことを考えていた。
「助けてくれてありがとう。妖精さんのお名前は?」
「僕の名前はアルフです。風の妖精」
 なんと美少年の妖精は風の妖精だったようです。おかげで助かりました。
「アルフか。ありがとね」
「ありがとうです」
「いえ。僕は人間と話してみたかっただけなので」
 なんでも風の妖精は気が強く、自分が1番だと思ってる種族だそうで、人間には姿を見せてはいけないという掟があるそうだ。
「え? それじゃ私たちと話してよかったの?」
「エルフ族とかいます? じゃ、なかった……」
 興奮して話の順番を間違える暁である。緑は風の性格と掟を聞いて、話して大丈夫なのかを聞いてみた。
「はい。エルフもいますよ。もっと森の奥じゃないとめったに会えませんが」
「いるんだ……。というか緑の言ってたことも気になる」
 暁の質問に答えたあと、緑に向けて話す。そのときの様子が、とても様になっていた。にやっと笑った姿は人間の少年と同じ表情だった。
「あー。大丈夫だと思います。だって僕、問題児だし! 前から【人間と話したい】って、散々いってますから」
「えーっと、それはそれで問題のような……?」
 緑が困ったように返事を返す。その後、女顔の美少年アルフに向けて、笑顔で話す。
「でも、私は妖精さんと話せて嬉しいんだけどね」
「なんか可愛いね」
「え? 僕、かわいいですか? 男なのに……」
 暁に可愛いといわれ、アルフは少しむすっとした表情をする。
「いいなあ。可愛いかったら、こんな地味な自分が女の子に人気でたりしそうなんだけど……」
「僕は可愛いって言われたくない。そういうあなた達の名前は?」
 暁はうらやましそうにみている。
「君の隣にいる女の子は彼女じゃないの?」
 不思議そうに緑をみる。
「僕は暁(あかつき)って言って、この子は緑」
 暁が自分と隣の緑を紹介する。
「ごめんね? 私は緑です」
「暁に緑ね! よろしく」
 美少年が微笑むととても素敵です。緑は内心、かっこいいなと思っている。
「あの、ごめんなさい。僕は地味でいじめを受けてるから、その美顔は羨ましいと思って……」
 後悔した暁が事情を話す。その話を知らなかった緑は驚く。
「え? そうだったの? 知らなかった。ごめんね? 暁くん」
「なんで謝るん?」
「僕は暁の顔、素敵だと思うよ? 男らしくて羨ましい」
 アルフは暁の顔を羨ましく思うようだ。
「だって、彼女なのに知らなかったし、気づかなかったんだもん」
「あ、ありがとう。あと、そこまでひどいようないじめじゃないから……」
「そっか。これからは何でも話してね」
 緑は暁の顔をまっすぐ見つめる。詳しく話を聞くと、1〜2人に軽度のいじめを受けているくらいだということ。深刻そうなのじゃなくてちょっと安心したのは暁君には秘密。
「緑、そんな勢いつけて言わなくても」
 必死そうな緑の様子に、少し笑っている暁。
「2人とも可愛いね。顔まっかだし」
「可愛いくないよ」
「そうそう。かわいくないよ?」
 2人して同時に反論する様子を見守り、いたずらっこのような表情で楽しんでいるアルフ。 
「ところで2人は何歳なの?」
「16歳」
「私も16歳」
「若いねー。僕は25歳だよ」
 美少年妖精のアルフが爆弾発言をしました。もちろん人間の2人は驚愕の目でアルフを見る。
「えええ? うそだぁ……!!」
「え?」
「え? どういう意味で驚いてるのかな?」
 2人が驚くとアルフも逆に驚き、何に驚いてるのかを聞いてきた。暁は体の成長が遅いのか? と思っている。
「あはは。もっと年下かと思ったから……」
「僕はもっと200とかいっててもおかしくないと思ったけど、人間的な感覚だともう少し下かな、と……」
 緑は苦笑いしながら、暁も同じように答える。
「ふむ。人間から見たらそんな風に見えるのかぁ。まぁ、あながち間違いではないかな?」
 にっこり笑うアルフ。
「だって僕、妖精族の中では1番年下だしね。最高齢が350歳かな! 僕のおじいちゃんだけど」
「え? な、長生き!」
「長いなぁ……」
「そうかな? でも人間の命は短いんだっけ? 不思議だねー」
「そうだね。長くても100歳くらいだよ」
「そうだね」
「ふーん。短いんだね」
 アルフは人間の世界に興味津々なのは本当らしい。なんでも質問してくるし、こっちが聞けば妖精族の話も色々してくれる。そのため話しに花が咲いている。
「妖精族にエルフ族かぁ。ほかにどんな種族がいるんですか?」
「巨人族とかいるん?」
「緑はなんでかしこまった言い方になってるの?」
「だって年上だったから!」
「年上……さっきの話し方のほうがいいなぁ」
 年齢を知ったので思わず敬語で話したら、アルフに不満そうに言われた。しかも少し悲しそうな顔をしたので、少し気まずくなるも標準語で話す。
「巨人族かぁ。昔はいたけどね。今はいない。反対に小人族ならいるよ」
「わかったぁ。小人族! おおー。やっぱファンタジーの世界だぁ」
「巨人滅びた!?」
「150年前にね」
「巨人族……暴れなければ悪い奴じゃないのに」
 暁は巨人族が滅んだことに驚いている。
「うーん。あれはしかたないことかもなぁ。僕はまだ生まれてないけど、巨人族同士の争いと、巨人族と龍族との争いで……絶滅したらしい」
 アルフは親から聞いた話を思い出しながら説明する。
「いわゆる縄張り争いの末にってことかぁ」
「龍族……うわぁ!」
「そうだね。縄張り争い! でも巨人族の居住地帯のあとは残ってるよ? 龍族は半分になってしまったけど生きてるからね」
「わぁい! 見たいみたい! 巨人の家と龍族。大好きだぁ」
「わぁお。食いつきがすごい」
「だって異世界来たなら、異世界の住人全部みなきゃ損でしょ?」
「緑は不思議な子なんだね?」
 わくわくと楽しそうな表情をしている緑の様子に驚きつつ、暁に視線を送る。
「う、うん」
「もちろん妖精も精霊も、悪魔に天使に魔女に人魚も信じてるー!!」
 目を輝かせる緑。そのままアルフの目の前まで近づいていた。
「あとはハーピィとかセイレーンとか……?」
「おお。暁くん、よく知ってるねー。嬉しい」
「暁は緑に弱いの?」
「ん。緑の押しに弱いよ」
 緑と暁の関係をなんとなく把握したアルフだが、好奇心に負けて暁にたずねる。
「え? 暁君も不思議生物好きじゃなかったの? よく図鑑とかみてたのに」
「へー。でもそれだけ、好きってことなんだね。緑のことが……うらやましいなぁ」
「あ、うん。好きだよ!」
「だよね! やっぱ好きなんだ。不思議生物!」
 きらきらした目で暁を見る。その顔はとても嬉しそうである。その様子をみて、アルフは暁が「緑が好きだ」ということに反応しているのに気づいたが、当の本人は不思議生物のことに、興味がいってしまっている。
「なるほど。これは苦労するね? 暁」
「う、うん」
 アルフは後半の台詞を暁の近くまで来て、耳元でささやく。
「まぁ、君なら大丈夫だと思うけど、ちゃんと手綱は繋いでおきなよ」
「何の話してるの? 2人とも」
 暁とアルフが話し込んでいるのにようやく気づいた緑だった。
「う、うん。え? 緑が可愛いって話」
「うぇえ? 可愛くないよ……」
 顔を真っ赤にして暁の言葉に反論するも、この世界の食べ物に興味がわく。
「この世界にはどんな果物や食べ物があるの?」
「妖精リンゴとか?」
「それは妖精さんがリンゴになってるの? 暁くん」
「うーん。この世界ならではのものもあるけど、人間世界の果物もあるよ? ただし、大きさはこっちのがでかいけどね。バナナとか」
「おおお。バナナ! なんか果物食べてきたくなった」
「いや、妖精がリンゴになってるわけではないよ?」
 暁が笑いながら否定する。
「そっか。妖精さんがリンゴになってたら悲しいもんね」
「この世界で有名なものは……あ! 丸くて大きな茶色くて中身が甘い果物かなぁ?」
「んー。こっちよりも大きいのかぁ。んで、妖精リンゴは、妖精の世界で作る特殊なやつとかがそうだったような?」
「よく知ってるね。暁は! そうだよ。特殊な育て方で作るリンゴだよ」
「丸くて茶色くて甘いもの? 栗のこと?」
 人間世界の栗を思い浮かべるが、アルフは知らないようだった。
「そういうのは体力よりも魔力を回復させるんだよね。 茶色だっけ?」
「栗がどんなのかわかんないけど、そのままでもおいしいし、ジュースにしてもおいしいよ」
「へえ。魔力の回復かぁ。いがいがの中身は茶色い実じゃん。栗は」
「そんなのがるのか。いがいがって何だ?」
「簡単に言えばトゲトゲだな」
「そうそう。トゲトゲしたものに包まれてるの。で、殻を割って中の実を食べるんだよ!」
 暁と緑がジェスチャーを交えながら説明すると、アルフはじっくり話を聞いている。
「殻を割って食べる実なら、こっちにもあるぞ。ただし、周りは赤くて実は青色だけどな! これの殻がまた硬くて割るのも大変なんだよな」
「すごいな……」
「そいつは木になってて熟したら勝手に落ちるんだけど、割れないから風のカッターで切ってから割るやつなんだよね。でもその実は5個あるんだけど、味が全部違うんだよね!」
「へー。木になる果物かぁ。パパイヤとかヤシの実みたいなやつかな?」
「味が違うだと!?」
 現実世界にある食べものに近いものを想像していたら、味が違うってことで2人とも驚く。しかもその味が、おかしい。不思議すぎる。
「そうだよ。甘いのに酸っぱいやつ、苦いのに辛いやつ、それから癖のある味とかな!」
「え? 癖のある味? ってどんな味だ!?」
「そこかよ!」
 アルフの説明に4つ目の味までは納得できたのに、最後の味がわからず思わず突っ込んでしまった。そしたら、暁君に笑われる。
「君たち、ほんと面白いよね」
「え? どこが? 真剣に聞いてるだけなのに……」
 軽く頬をぷくっと膨らませてすねている緑に、慌てる暁。
「あ、あっ……(傷つけてしまった)」
「いいもん。もう今日の話はここまでね。アルフ」
「え? これからどうするの?」
「いっぱいお話したら、お腹空いてきたなぁ」
 言った瞬間、緑の腹の虫が盛大に鳴く。
 ぐきゅるるる
「きゃあぁ」
「盛大に鳴ったな」
「可愛いお腹の音だね! ってどこ行くの?」
 緑は思わず恥ずかしさで、走り去る。走り去る緑の後姿に声をかけるも、緑はまったく気づかず夢中で走り続けている。
「ちょ。ちょっと待ってくれぇええ!」
 慌てて暁は、すぐ追いつけるくらいの速さで追いかける。
「ああ――。あのままいくとヤバイかもね」
 アルフも緑と暁のあとを追う。まぁ、羽があるので飛んでいるのだが。
「緑って可愛いよね。照れ屋だけど突っ走りしすぎるところがあるのかぁ」
「まぁ、僕の彼女だからな」
 しみじみと緑の性格を分析するアルフ。さすがは伊達に歳をとってないようだ。
「ほう。こういうときははっきりと言えるのかぁ。彼女の前でも言えばいいのに」
「まあいいわ」
「面白い人間に会えて嬉しいぞ。ともかく緑を探さないとな」
 どこからか葉っぱを取り出し、唇にあて音を鳴らす。するとピーと音が鳴る。
「ん?」
 アルフが葉っぱの笛らしきものを吹いたあと、不思議と風の音が強くなり、周囲の木々を揺らす。
「お。緑の行方がわかったぞ! このまままっすぐ行った先の大木の前だ」
「そ、そか……」
 言いながらアルフは暁の前を先導する。その間にも風が緑の様子をアルフに伝えている。
「どうやら緑はようやく走るのをとめたようだが、知らない場所にいるためか不安な顔をしているらしい」
 風の情報を暁に伝えながらも飛ぶスピードは落としていない。
「暁から離れたのも不安の要素みたいだな。何度も名前を呼んでるらしい。あとは僕の名前もか。素直なこだなぁ」
「助けるほかあるまい!」
 時速を3キロくらい上げる。暁の様子に驚きつつも風の情報を伝えていく。風の妖精は風魔法を使うので、風を読み取ることも大事だ。それができなければ1人前になれないのである。
「おお! 男らしいな。暁よ」
「あ、あれかっ……」
「それにしても不思議な子だな。お!」
 目の前に大木が見えてきた。
「もうすぐだぞ。暁」
「緑いいいい!」
「ふむ。愛の力は偉大だな」
 暁の声が聞こえたのか、緑はきょろきょろしている。
「あれ? 暁君の声が聞こえる……?」
「ぜえはぁ……」
 暁は緑が大木の前にいるのをみて安心したが、走り続けてきたので息が切れている。すると緑が後ろを振り返る。暁がいたのに驚くも慌てて駆け寄る。
「暁くん! よかったぁ。もう会えないかと思った……」
緑は暁に抱きつきながら、すすり泣き。
「なわけないだろ!」
「だってぇ……どこ走ってきたかもわかんないし、帰り方もわかんなかったんだもん」
 ひっくと鼻を鳴らしながら会話する。
「おやおや、すっかり泣き虫さんですね。可愛いらしいですが」
「もう知らない世界で自棄を起こすなって」
 緑は暁に抱きしめられた。
「うう……はい。ごめんなさい」
「よかったですね」
「はい。アルフにも迷惑かけてごめんね?」
「疲れた……」
 疲れている暁をよそに、アルフに謝罪の言葉をかける。抱き合ったままでいることに気づいていない緑。
「ごめん……ありがとね! 暁くん、大好き!」
 ようやく笑顔になった緑だった。


























智美
2015年07月26日(日) 19時19分28秒 公開
■この作品の著作権は智美さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めて投稿します、この作品はチャットでの芝居をもとに書き直したものです。ほんとうはラノベ系で投稿する予定でしたが、投稿できなかったのでこちらに投稿させていただきました。
 プロットなしの勢いだけで書いたので支離滅裂な文章になってると思いますが、ここまで読んでくださりありがとうございます。

この作品の感想をお寄せください。
No.1  通りすがりです  評価:30点  ■2015-11-03 18:24  ID:W.SanRdNWms
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 お芝居をもとにしているからなのか、会話が多いなと思いながら読みました。
 可愛いんだけどちょっととぼけた感じがしてこういうの結構好きです。
 最初の「ひゅるるるる。」がなくていきなり「きゃあああ」で始まった方がインパクトはあったかもですね。
総レス数 1  合計 30

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