その名前は、ペパーミントフレグランス
 わたしは、ある悩みを抱えてここに来た。
「ここよね。ペッパー探偵事務所」
 わたしは、木でできたドアを開けた。
 辺りは薄暗く、大きな社長机はスタンドの灯りだけが頼り。机の真ん中に、
「…………!!!!!!」
(なぜ、ぶたのぬいぐるみが)
 わたしは、危うく大声を出しそうになった。
「誰もいないのかしら?」
 わたしは、ぬいぐるみに近づく。
(案外、薄汚れているわ)
 わたしは、微笑んだ。ぬいぐるみは少し間の抜けた顔をしている。ピンク色の布地が使い古されたぬいぐるみのようにあせてくすんだ肌色になっている。しかし、サイズは横20cm、縦30cmの鏡餅みたいなぬいぐるみだった。鏡もちに耳と手足をつけて、目と大きな鼻をつけたら、はい、目の前のぬいぐるみに近い。
 わたしは、ぬいぐるみに触ろうとした。

 パシッーーー

(…………えっ?)
 わたしは心臓が飛び出そうになる。
 わたしが、触ろうとした右手を、目の前のぬいぐるみが真剣白刃取りのように掴んだからだ。
 わたしは、スローモーションのようにそれが網膜に残る。そして、わたしの手には、もふもふした手触りが伝わる。
 そして、自分でもわかるように、顔に漫画の縦線が入り、背中に冷たい汗が伝い落ちた。これを戦慄といわずに例えようもない。
「ご用件は何でしょうか?」
 (ぶ、ぶたのぬいぐるみが、しゃ、しゃべった……)
 歯の根がかみ合わず、がたがたしている。
「ご用件は?」
 ぶたのぬいぐるみは、わたしの手が震えていることに気づき。手を離すと、
「あはは、失敬。自己紹介がまだでした」
 と、ぽりぽりと頭を掻くと、近くにあるデスクの引き出しから、名刺を取り出し、わたしに両手を揃えるように渡した。
「ぺ、ペパーミント フレグランス……?」
 名刺には、ペッパー探偵事務所。探偵 ペパーミント フレグランス。と、印刷されている。
「はい。ペパーミントフレグランスとお呼び下さい」
 ぶたはにこやかそうに言った。
(え、臭そう)
 若干、名前が芳香剤チックで臭そうな名前で、くたびれたぬいぐるみからはとてもその名前は違うと思ったが、わたしは、かなりそれが自分の中でウケて、笑いをこらえるのに必死だった。
 数分間のうちに、怯えたり、笑いをこらえたり、かなり忙しいなと思う。
 ぶたのぬいぐるみは、自分の頬に手をやると、投げキッスのように同じ手を広げた。
 どうやら、トレンディ俳優のように爽やかキメポーズと思ってやっているようだった。
 だめだった。わたしは、涙をうかべて、げらげらと笑いこけてしまう。ぬ、ぬいぐるみが探偵っておかしくない?
「どうされたんですか?」
 ぶたのぬいぐるみは、じっと小首をかしげてこっちをつぶらな瞳で見ている。
「なんでもないの。ちょっとツボにはまっちゃって」
「ツボ、ですか」
 ぶたのぬいぐるみは、考える様子を差した。
「それは、ぼくがぬいぐるみだからでしょうか?」
 ぶたのぬいぐるみは顔を上げて、わたしの顔を下からアップで迫った。わかりやすいように言うと、ぬいぐるみは社長机に立っているので、顔が真近にある。
 言葉に、ぶたのぬいぐるみではマイナスになりますか? という響きがあったので、わたしは気を使って、
「違う理由です。ちょっと、思い出し笑いをしちゃっただけで」
 と、嘘をついた。
「そうですか」
 ぶたのぬいぐるみは、ない眉で眉根を寄せた。
「しかし、ご安心下さい。探偵では優秀な方ですよ」
 わたしは、もう一度、ぶっと吹いた。
「あ、そうですか」
 もう、心はパロディーで、わたしは、雲に浮いたように会話する。
「誰もぼくが探偵だと思わず、ただのぬいぐるみと思うので、浮気調査でもバッチリ証拠を納めることが可能です」
 それは、そうだと思う。ある意味、すごい禁じ手を使っている。
「あ、あの。そもそも、ペパーミントフレグランスさんは、何でぬいぐるみなんですか?」
 ぶたのぬいぐるみの眼が光った。
 そして、もふっと自分の頭に手をもっていき、ちょんちょんと叩いた。若干、手が短いので、おそらく首を90℃に傾けて頭を手に近づけている。
「ぼくの脳にICチップ。つまり、人工知能が搭載されていて、感情を持ってしまったのです」
 ぶたのぬいぐるみは、感情というところを力を込めて言った。
「ぼくは、ピノキオなんです」
 それは、言い過ぎよ、と思ったが、あえて突っ込まないようにした。
「じゃあ、ロボットなの?」
「いいえ。ピノキオです」
 あくまでも、そこを強調して乗り切り、感情を持った人形であると言いたいらしかった。
「じゃあ、わたしはこれで……」
 話しがややこしくなってきたので、まわれ右をして、帰ろうとした。
「お嬢さん。お待ちください」
 呼び止められたので、わたしは振り返る。
 ぶたのぬいぐるみは、にこやかにした。
「ぼくをお持ち帰り下さい」
 そういうと、もう一度、投げキッスのようなポーズをした。
「ぼくは、早く歩けませんから、あなたに掴まれて、ぬいぐるみのようにお持ち帰り下さい。きっと役に立つと思いますよ」
 わたしは、嫌と言えず、ぶたのぬいぐるみを乱雑に首根っこの部分を掴むと、そのまま家に持って帰ることにした。




 
青空
2016年01月22日(金) 00時56分53秒 公開
■この作品の著作権は青空さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。

この作品の感想をお寄せください。
No.6  ピカソの向こう側  評価:50点  ■2017-01-08 14:00  ID:hQLqXqXj732
PASS 編集 削除
はじめまして。
この作品には、作者の青空さんの人間性(明るい性格、ウィットに
富む性格)が投影されていると感じました。

この作品を通じ、作者の青空さんのパーソナリティにも
好意を持つことが出来ました。

ペパーミントフレグランスとヒロインの会話のやり取りは
勿論のこと、比喩表現も独特で面白かったです。

素晴らしい作品を、ありがとうございました!
No.5  かもめ氏  評価:50点  ■2016-07-09 23:32  ID:LGBBG1L4ZS6
PASS 編集 削除
拝読させて頂きました。
読みやすくてすっきりした文章。個性豊かなキャラクターに好感しかありません。
素敵な小説を読ませていただいてありがとうございました。勉強になります。
No.4  青空  評価:--点  ■2016-01-25 09:04  ID:fH7ZN1q52oE
PASS 編集 削除
(−^^| |(ガラガラッ)

 どうも、おはようございます。( ▽ )”

おおっ文章量が懸賞小説並みですね。懸賞小説……紙とインク、切手と封筒代金を工面できればかかんに挑むのですがね((−^^−。

A4用紙 500枚 500円
インクカートリッジ(黒)1000円
切手 300円
封筒 5枚入り 100円
電気料金
(消費税 10%)

応募総数が一万人だとすると新人賞に入る確率は一万分の三(佳作までとする)×12カ月


大作をお金と費用対効果にすると、あんま儲からないジャンルじゃないかと思う今日、この頃。すっごい赤字……になります(▽;)ので、投稿したことないです。

当たると
一冊の売り上げの3%×部数っていうのを聞いたことがあります!

書くのは好きなほうなのですが(−^^−
No.3  冬将軍大佐  評価:50点  ■2016-01-25 06:55  ID:hB6/jNV6c8Y
PASS 編集 削除
全部読みました。こちらの方は描写がきっちりかけているので特に注文はない感じでつね。あとは何度も何度も細かいところを読み直して滑らかにしていくだけでつ。入りの部分だけなのでここからが大変でつね。原稿用紙6枚くらいですか。この導入だと風呂敷をたたむのに少なくとも50枚は必要でつね。願わくば100枚。1冊にするなら200枚(汗)。頑張ってくらさい。
No.2  青空  評価:--点  ■2016-01-24 16:49  ID:fH7ZN1q52oE
PASS 編集 削除
(−^^| |(ガラガラッ)

こんにちは、どうもです( ▽ )!

そうですよね。わたしも読んだり読んでもらうのは色々な意味で脳の健康に絶対いいはずだ! と思っています。

そして、無理のない時間で適度に小説時間をエンジョイして、明るくし、お金をかけずに趣味有楽に過ごすこともあるかもわかりませんです。有難う御座いました。
 
No.1  菊池清美  評価:50点  ■2016-01-24 15:39  ID:dJ/dE12Tc8A
PASS 編集 削除
意外性と読み易さが良いと思います、読んでいて違和感の無いのも良いですね。
もっと読んでいたいと言う衝動に駆られました、有難う御座いました。
  
総レス数 6  合計 200

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除