あいめいふらい |
目が覚めるとふわふわ雲の上。お日様さんさん。緩やかに渡り鳥を上から眺め見て、その下にある一面の草原を見たり、ふわり。 朝ごはんを食べよう。そうしよう。真っ白ぷにぷに雲を一つまみ。砂糖をふりかけ、醤油を垂らして、ポップコーンの箱に詰め込んだら。もぐもぐ、ふむふむ、今日の雲は活きが良いねぇ。 今日は余りに穏やかで、穏やか過ぎる空気だから、たまには雷さんとこに、散歩しようかな。雲のタンスからお出かけ用のレインコートを取り出し、ゆるゆる着替えて。それから朝ごはんの残りをタッパーに詰めて。 たんっ、とジャンプ。ぐわわわわって落ちる。落ちる、落ちる、落ちる。 巨大な蓮の葉っぱのかさを、ぽんっ、と開く。ぐわっと空気が、風が捕まる。両手で葉っぱのかさに、ぎゅって掴まる。やがてゆるりゆるり降下しながら、飛んでいく。どこまでも飛んでいく。ふわりふわり。 風は穏やか。心は賑やか。南南西に進路を取れ。サバンナではサイもシマウマもチーターもお昼寝中みたいで、がらりと緑の芝生すべてをお日様だけに空けている。小さな野原を飛んでいるタンポポ綿毛の気分で旅をする。 * 巨大な雨雲の、台風の巣の入り口が目の前だ。だんだん雨粒が強くなっていく。蓮のかさにぽつんぽつん、ぽつぽつぽつぽつ。じゃーじゃーじゃー。入り口でトランプのジャックみたいな兵士さんが、暇そうにあくびをしている。 「どうもー」 と声をかけ 「どうぞー」 と応えられて、そのまま飛びながら台風の門をくぐっていく。おっと忘れてた。振り返って大声で訊く。 「このへんで、いちばんおいしいランチを作ってる店、知らないー?」 後ろから大声で兵士さんの大返事。 「そこそこかもしれないけど、こっから右に曲がったところにあるランプ亭がー」 「わかりましたー」 「おすすめだよー」 「はいー」 古ぼけた雲で出来た壁に緑鮮やかなツタがかかっているお店。張り紙には「今日のランチ、シオサバテイショク」とあったりする。 ちゃりーんちゃりーん。扉の鈴が鳴る。木目も浮きそうな雲のカウンターには誰もいない。 「まだやってますかー」 「これから閉めるところだよ」 「そうですかー」 「そんな、しょげた顔すんなや。大丈夫だよ」 お言葉に甘え過ぎて 「いいですかー」 「あー、いいよ」 「ほんとにー」 「残業になるけどな」 「ごめんなさい、ではまたの機会に」 その時、店主がはじめて怒り声で 「俺が良いって言ってんだから良いの! さっ、とっとと食って、とっとと出てけ!」 ぷかぷかとあったかい空気。土色のスープは少ししょっぱく、なにかほっとする柔らかさがある。 「これ、なんです?」 「さつまいものおみそしる」 「聞いたことないんですけど、なに料理なんです?」 「南極料理、自慢じゃないけど、おれ南極キャンプに行ったことあるんよ」 「へー、へへ……」 「何だよ! チップ代30%に値上げるぞ!」 「くく……だって! 南極ですよ! 南極!」 「ほんとだよ。南極探査飛行船ってな、第二十代豊久丸ってのに乗ってな。ペンギンもシロクマも見たんだぜ」 「シロクマって何?」 「クマだよ、クマ。真っ白い産毛に包まれたクマ」 「へー」 「トドも食っちまうんだぜ」 「トドって?」 「んー」 「あと、ペンギンって?」 あーだ、こーだ、おじさんの残業は3時間くらいになった気がする。シオサバは素朴な味で美味しかったです。 * 思ったよりも時間を食ってしまったので、台風王国の中で宿を借りて、一泊することにした。道行くおじさんに、オススメの観光スポットを訊いたら、 「何といっても台風の中心の王様のお城だよ。中には入れないけど、夜にはライトアップするから。あの高台に行ってごらん。一望できるよ」 とのことで、一緒に行ってみることにした。 「ははははははは」 大笑いしてしまった。ギンギラギンに雷電気で輝くお城は風情も何もあったもんじゃない。深い神秘的な森の下で、がーがー大声で怒鳴っているようなもの。途方もなく、しょーもない。おじさんは怒って 「なんだとー、このライトアップに俺達の血税がどれだけ注がれてると思って」 うんぬん。 * そのまま、本日の宿の「ライムライト」へ。タッパーに詰めた朝ごはんの残りを食べる。ちょっと鮮度が悪くなっているのかイマイチ。と思ったのはお昼のシオサバとおみそしるが美味しかった反動からだ。やるじゃん、南極料理。部屋はなかなかに快適。 汗を流そうとお風呂に入ってみる。着替えをオリオリして、裸になって、シャワーを浴びる。えっ! ってなる。台風の雷雲を元にしているからか、ちょっとビリっとする。お風呂は泡ぶろならぬ、雷雲ぶろだったが、ちりちりと妙にくせになる感じで肌を刺した。 明日どうしようかな、と計画を練っている内に、眠りが襲ってきて、今日も一日が終わろうとする。ふぁーあと欠伸をして、寝ることにする。眠る。 |
えんがわ
2023年03月01日(水) 17時08分19秒 公開 ■この作品の著作権はえんがわさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 えんがわ 評価:--点 ■2023-04-15 05:39 ID:PyFRimgEhSs | |||||
>ゆうすけさん あー、ありがとですー。 なんか、ふわ〜とした雰囲気というか、そういうのが伝われば嬉しいです。 個人的に童話にしたら面白くなるかなと思ったりするのですが。 絵のついてない文字だけだから伝わる行間というか余白というか、 世界の広がりもあると思うので、 そういうのを活かせる文章を書けたらと思いまっす! 仰る通り短編集みたいに、幾つも旅のエピソードを重ねても良さげかな。考えてみます。 |
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No.3 ゆうすけ 評価:40点 ■2023-04-09 16:02 ID:l9HNwrYHA8I | |||||
拝読させていただきました。 なんだか、同じ舞台の短編集の一作のようですね。不思議な世界観とのんびりほんわかした雰囲気が、じんわりと面白く感じました。 主人公が、不意に死んでしまった者の魂のようであり、精霊か神のようでもあり、春の陽気による純粋な妄想のようでもあり、それらのどれでもないしなんでもいいような感じ、この独特な雰囲気がなんだかいいような。 |
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No.2 えんがわ 評価:--点 ■2023-03-02 21:15 ID:PyFRimgEhSs | |||||
> アラキさん こんにちはー。 春と言うことで、ぽかぽか陽気になりそうな旅モノを投稿しましたー。 現実は花粉症で、かゆかゆなのですがー。 ファンタジー日常系の漫画では、「ヨコハマ買い出し紀行」が好きです。 文法については、オノマトペをいっぱい使ってます。 ごちゃごちゃしすぎる手前で、止めれてるかなー。 リズムも文をタイピングしていて楽しかった覚えがあります。 ありがとでしたー。 またここが賑わう日を、願いながら。 |
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No.1 アラキ 評価:40点 ■2023-03-02 12:41 ID:pu1HY/1I14U | |||||
拝読しました。 えんがわさんのファンタジー作品は独特の口調と世界観が好きです。 異世界ファンタジーの日常系とでも言いますか。漫画ではよく見る作風ですが、文章作品では珍しい気がします。 くどくならない描写とリズム感がポイントなのでしょうか。安易に真似しようとしてもなかなか難しいです。 今回も旅のお話ですね。 前回の主人公と同じ人物かな、などと想像しながら読んでいました。 |
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総レス数 4 合計 80点 |
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