四つの意識 |
彼らは唯一無二の特別な存在。 とてもあやふやで、とても明確。 最も強大で、最も微弱。 そして儚く、永遠。 実体はないが意識はある。 お互いを感じ取ることができ、おのおのが意思を伝えられる。 彼ら四人、いや、四つ? 彼らをどのように数えたらいいだろう。 四個、四点、四羽、四者、四匹、匹は流石に失礼だ。 どうだろう? どれも正解であり、正解でもなさそうだ。 彼らを表現する言葉はあるが、とりあえず伏せておこう。 それらを自分達で確かめる必要もない、彼らは自由に存在していた。 たった一つルールがあった。 ただ一つの規則に縛られた彼らにもどかしさが生まれている。 例えば正方形のテーブルにそれぞれ座っているとしよう。 普通なら、食事しながら四人で会話ができる。 たまに席を変えたりもできよう。 恋人同士なら同じ席で語りあうこともできる、少し窮屈だが。 しかし、彼らの場合、席を変えてはいけない。 それどころか、対面者とは壁があり、意思を伝えるには両サイドのどちらかに伝えてもらわなければいけない。 彼ら四つの意識は、決して超えてはいけないテーブル上にある、対面の壁に悩まされていた。 追いかけても追いつかない、永遠に回り続けるメリーゴーランドのように。 彼らには決められた名前はない。 適当な名で呼び合っていた。最近では何となくだが自分達の性格に合った色で呼び合っていた。 グレーは寡黙。 イエローの性格は明るい。 ピンクとオレンジの性格は穏やかで似ているが、ピンクの方がどことなく温かみがあった。 正方形の席に座らせるなら、グレーとイエローが対面し、同じく対面しているピンクとオレンジに壁が塞がっている。 昼と夜、太陽と月のように正反対な性格のグレーとイエロー、通わせたことのない意思はお互い、壁の奥に惹かれていた。 誰ともなく集まり、めずらしく全員が席に着いている状態だった。 「どうしたの? グレー、元気ないね」 オレンジが隣にいるグレーに意思を伝える。その共有化の元、オレンジからからイエローにも伝わるが、イエローからはグレーの意思には届かない。 「またグレー君は塞いでいるの? まさか私が勝手に決めた名前が気に入らなかったのかな? じゃあね、ポッポって言うのはどう?」 「イエローがグレーの名前をポッポに変えようかだって、どうする?」 オレンジがグレーに伝える。四者が揃っている場合、意思を上手く伝えるために、オレンジ→グレー→ピンク→イエロー→オレンジ、一応は一方通行で回るというルールにしている。 「いや、グレーでいい」 「変えないでいいってさ、まあ、元気ないのはいつものことじゃないかな」 「せっかくみんなでいるんだしさ、悩みなら何でも解決しちゃうよ」 「イエローが、悩んでいるなら解決してあげるって」 「違うよオレンジ、みんなでね、みんなでかいけーつ!」 イエローがオレンジに意思をかぶせる。 「みんなで解決しようって」 「………」 「駄目みたい、かろうじて繋がっているけど、何もこないね、待つしかないか」 「……まっ、しょうがないか、ところで、オレンジはピンクに伝えたいことある?」 「……うーん、特にないかな、今の所は」 「そう? ピンクは? オレンジにないの?」 「……私もないかな」 「………」 「あら、めずらしいね、ということはだ、ここから私の独壇場になって参りました! よぅーし! 気合いを入れて、では行きます! イエローちゃんの知りたいことベスト二百五十! デケデケデケデケデケデケ……ジャカジャン! 第二百五十位! 最近はまっていることがあると大分前に漏らしていたピンクさんですが、そのはまっていることとは?」 ピンクとオレンジは意思に出さなかったが、まだ二百五十位でホッとしていた。 八十位もきった頃、どうしてこんなに毎回続くのだとイエローを不思議がり、受け答えするピンクとオレンジ。 不思議がるだけでは意思は伝わらない。 言いたいことを言えるイエローに、さして時間の無駄にも感じないピンクとオレンジ、むしろ彼らには時間は関係ない、儚い存在とは言われても。 「ねえ、オレンジ、グレー君も楽しんでくれた?」 流石に自分ばかりではと話題を変える。 「どう? グレー? 少しは悩み晴れた?」 「………」 「やっぱり駄目みたい、今回はグレ」 オレンジの意思は途中で切れた。 「どうしたの?」 「私の存在を喜ぶ者はいない」 グレーの意思はイエローには届かない。 「何で?」「どうして?」 ピンクとオレンジは同時に伝える。 イエローはグレーの異常を察したが、ピンクとオレンジに任せ意思を抑える。 言葉にならない不安の波が伝わってくる。 「ピンクとオレンジには、私の苦しみは分からない。忌み嫌われ、私の存在に誰もが心を閉ざしてしまう」 「それは……」 確かにそうだとは出せず、意思をしまい込むピンクとオレンジ。 「私はピンクとオレンジのような優しさもない、かといって未だ心通わしたことのないイエローのような明るさも持ってはいない。このまま永遠ともいえる時間に、ただ存在しようと思っている」 ピンクとオレンジにグレーの固い決意が伝わってくる。 「ちょっと待って、今までみんなでやってきたじゃないか、これからもそうだろ?」 いつになく熱の入るオレンジ。 「イエロー、グレーが自分の存在に迷っているの、私とオレンジの言うことは耳に入らないの」 「ピンク、オレンジ、グレーの良さを伝えてあげて、お願い」 自分だったらと、イエローは直接グレーに通じない思いに歯がゆさを感じる。 いつしか、心を閉ざしているグレーに諦めたのか何も伝えず、ピンクが意識の繋がりを途絶えていた。 オレンジも考え直してと一言伝え、席を離れていった。 壁一枚挟んだ背中あわせともいえる状況、イエローとグレーは残されていた。 お互いの思いは届かない。 「何で? 何で? 私だって言われるよ。まだ私よりグレーの方がいいって、そんなのしょっちゅうだよ! それを聞く度に、ああ、グレーってどんなに素敵なんだろうっていつも思っているのに、ねえ、お願いだから返事してよ!」 「……イエロー、すまない、せめてあなたと心通わせたかった。最後に、あなたの明るさに触れたかった……ピンクとオレンジのように……」 二つの意識を阻む絶対強固の壁、実際は壁などそこには無かった。 実体を持たない聖神の意識を遮れる物など初めから何もない。 あるとするなら、虚構、疑心をお互い持ち合わせていた。 何一つ感じられなかった相手が果たしているのだろうかと。 それだけではない、自分たちが行動を起こし、求め合っていいのかという迷いもあった。 意識がある以上、意思もあり、全ては自分の行動によって結果が伴う。 それが例え衝動であっても。 拒絶していた壁は崩れ去る。回りがどんな目に遭おうとも、関係ないと言わんばかりに、グレーとイエローは溶け合うクリームのように交わり、融合して一つになり満たされる。 そして世界は突如としてバランスを失った。 世界中の氷という氷が全て溶け、水位の上昇により地表が失われていく。 突然の温暖差に地上の動植物は瞬く間に死に絶えた。 今までにない異常気象に人々は、どうすることもできないそのちっぽけな存在に、ただいくつもの神の名を叫ぶしかなかった。 それとグレーとイエローの前に、ピンクとオレンジは隠れて何度も心通わせていたが、そう変わらない気候、春と秋が交ざりあっても、まあ、誰も気付かなかった。 |
みんけあ
2017年10月16日(月) 02時27分23秒 公開 ■この作品の著作権はみんけあさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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