駆逐艦魂 |
じゅう、きゅう、はち…… 頭の中でカウントダウン開始だ。アタシはベッドに体を横たえたまま、天井を睨みつける。 なな、ろく、ご…… 思い切り腹筋に力を溜めて飛び起きる――準備をする。 よし。 きたきた。 この感覚。 おなかから胸のあたりに向けてぞわぞわと電気が走るみたいに動きが感じられる。それが波打つたびに全身に鳥肌が浮き上がる――気がする。 よん、さん、に…… でも、まだだ。 もう少し。 あと少し。 体は微動だにもさせない。 動き出そうとする全身の筋肉をじらすように押さえつけるのだ。 そうして――ぜろの声と同時にアタシは掛布団をはねのけて体を起こす――つもりなのだ。 いい? いくよ? いーち、 ぜっ……ろっ! 「っ……ふう……」 アタシは横たわったままで大きくため息を吐いた。 「やっぱ、ダメかぁ」 そんなに簡単にはだませないようだ。引っかかってはくれないみたいだ。 アタシが今やっている実験。起き上がる命令を体に出すフリをして、その瞬間体を動かさなければどうなるか。だまされたアタシの魂が体を抜けて、魂だけが起き上がる――気がするんだ。 そうなる予定なんだ。 魂だけがベッドから起き上がる。アタシの体を残して。 幽体離脱。 できるような気がするんだけど。今のところ、まだ一度も成功したことはない。 もう一度やってみる。 頭の中のカウントぜろで―― がばっ! と、起きてしまった。 普通に。 体が付いてきちゃった。 やっぱり。 「はあ……」 まあ、わかっちゃいるんだけど。 そんなことできっこないって事くらいは。 だってアタシがだまそうとしてるのは自分の体じゃなくて、自分の魂なんだから。 いや、違うか。 自分の魂が自分の体に動かないフリをしているだけなのかも……体にウソを吐こうとしてるだけなのかも。 だから―― アタシがだまそうとしているのは自分の体なんだろう。なんか体は正直者だって、聞いたことあるんだけど。なんて疑り深いんだ、アタシの体。 やれやれだ……。 ばさっと、 湿っぽい掛け布団をどけて体を起こす。 アタシの部屋。勉強部屋。いつもと同じ朝。窓の外からかすかに蝉の声が聞こえる。締め切ったカーテンの隙間から強い日差しが感じられる。朝と言っても、すっかり高く昇った太陽でさぞ外は暑いことだろう。けど、部屋の中は暑くも寒くもない。エアコンの送風音はいたって静かだ。 そりゃそうか。 かれこれ一ヶ月もエアコン入れっぱなしなんだから。省エネ主義の人に見つかったら、どやされること請け合いだ。 その時、部屋のドア越しに階段を上がってくる足音が聞こえて、ああ、もうそんな時間かと思う間もなく、ノックの音が響いた。 「風花、起きてるの?」 母上様だ。 「風花?」 今度はちょっと強い調子になる。でもドアを開けて入ってくることはしない。 わかってるんだ。 いつものことだ。 「あんた、今日も学校行かないつもりなの」 ドア越しにいつものお題目が聞こえる。 アタシもいつものように沈黙で応える。 向こうも少しの間沈黙。 アタシもおまけに沈黙。 「もう、勝手にしなさい」 勝った。 大きなため息が聞こえた後、階段を降りていく足音がフェードアウトしていく。 ふん。 誰が行くもんか。 まだ幽体離脱もできてないし。 ホント、じゃまな体を脱ぎ捨てられたらどんなに爽快だろう。それなら学校に行ってやってもいい。体さえなければ何の心配も要らなくなるんだから。背中にシャーペンの芯が刺さることもなければ、トイレでずぶぬれになることもない。歩く必要もないから上履きの中を確認する手間も省ける。 なんて便利なんだろう。 まさにアンタッチャブルだ。 死角はなしだ。 無敵の人だ。 といっても、復讐することもできない。ひょっとしたらストレスが溜まるだけかもしれない。 そう――お互いに。 お母さんが仕事に出かけたのをドアの閉まる音で確認したアタシは、ベッドから脚を下ろす。 棒みたいな細い脚。 細っこい小さな体がアタシに付いてくる。 やっぱりこれがアタシの全てなんだと思う。 なんの力もない、なんにもできない。 誰も守ってくれない。 だからここにいるしかない。この部屋にいれば安全なんだ。 外の世界はみんなウソの世界なんだ。外に出たら、アタシの体はあっという間に押しつぶされて死んでしまう。荒波に飲まれて沈没してしまう。 アタシの周りにいる皆は宇宙人なんだ。きっとアタシは数少ない地球人の生き残りなんだろう。だから解かり合えなくて当然だ。土台ムリな話なんだ。 でも、 やっぱりお腹は減る。 ペッタンコのお腹が自己主張してくる。 ベッドから立ち上がり、ドアの方に足を進める。 エアコンの風にさらされるとさすがにちょっと肌寒い。 まぁ、シミーズにパンツ一丁だからか。 そっと部屋のドアを開けて階段を降りる。 キッチンに入り、冷蔵庫の中のラップ掛けしてあるグラタンを取り出す。 レンジで温めたグラタンを持ってテーブルに着いた。 椅子の上にあぐらをかいて座り、焦げ目の付いたマカロニグラタンを口に運ぶ。時間をかけてゆっくり食べる。 これがアタシにとって、一日のうちで唯一の食事。 お腹を満たすだけの作業。 まぁ仕方がない。 体があるからには食べなくちゃならないんだし。 それにきっと、おいしい――んだろう。 お皿はきれいに空になっちゃったし。 食べ終わった皿を流しに置いて、洗面台の前に立つ。 歯ブラシに歯磨き粉を付けて鏡をのぞき込む。 歯ブラシは山切りカットのお気に入りのヤツだ。 鏡を見ながら山切りカットの山の部分が歯の谷間に合うように位置合わせする。 学校に行かなくなって久しいこの頃じゃ、何をやるにもゆっくりした動作になった気がする。だって時間は嫌というほどあるのだから、急ぐ必要なんてこれっぽっちもないんだ。 たっぷり三十分かけて歯を磨き終わったアタシが部屋に戻ろうとした、その時。 ちーん、 と廊下の奥の部屋から音がした――気がした。 誰かいる? いや、 お母さんは仕事に出かけて、家の中には誰もいないはずだ。 なんだろう。 仏壇の鐘の音? 奥の部屋はじいちゃんの部屋だ。 でもじいちゃんはもういない。 だから今はあの部屋は仏間ということになっている。 階段の上り口で足を止めたまま、耳をそばだてたけど、それっきり物音ひとつ聞こえてこない。 気のせいか。 そう思って階段を上がりかけた時、今度はハッキリともう一度、仏壇の鐘が鳴った。 え? 「お母さん?」 思わず呼んでみたけど、だれも応える者はいなかった。 階段を降り、ゆっくりと廊下を進み、仏間のドア越しに気配をうかがう。 部屋の中はひっそりと静まり返って人の気配はない。 ドアノブに手を掛け、思い切ってドアを開けた。 部屋の中には誰もいなかった。やっぱり。 六畳の和室はなんの変りもない。 部屋に入り、奥の仏壇の前に行く。 仏壇の扉は開いていたけれど、鐘は足元の畳の上に置かれている。見まわしても、当たって音を立てそうなものは見当たらなかった。 本当にこれが鳴ったんだろうか。 顔を上げ、仏壇の上に掲げられたじいちゃんの写真を見る。 古臭い軍服姿のじいちゃんが難しい顔をしてまっすぐ前を見据えていた。 「じいちゃん……」 アタシは小さいころからおじいちゃんっ子だった。 じいちゃんは自転車でアタシをいろんなところに連れて行ってくれた。 お気に入りの麦わら帽子に、虫かごを肩掛けにしたアタシは、はやくはやくとじいちゃんを急かしたものだ。 そんな時はいつも、気遣かわしげにお母さんが玄関口で見送っていたのを憶えている。 「宅配機《ドローン》に気を付けてくださいね、お父さん」 「ああ、わかっとる」 じいちゃんはアタシをひょいと抱え上げて自転車の前に乗せると、ジャージの裾をまくりあげてサドルにまたがった。 「微速前進、よーそろ。風花、帽振れ」 アタシは麦わら帽子をお母さんに向かってひらひらさせる。 「お母さん、いってきまーす」 じいちゃんが目の前を横切ろうとした大きな虫を網の柄でたたき落とすと、プラッチックの羽が地面を叩いて土煙を上げた。 じいちゃんは昔、戦争に行っていたそうだ。 なんでも軍艦の船長さんだったらしい。じいちゃんはそれが自慢だったみたいで、よく昔話を聞かされた。これは最近になってから知ったことだけど、じいちゃんは戦争に負けてすぐの頃は酷い扱いを受けていたそうだ。それが戦争が終わって何十年も経った最近、ようやく昔のことが話せるようになって、昔話が多くなっていたらしい。じいちゃんがどれだけ勇ましく戦ってきたか、どれほど仲間を失ったか、話し出したら止まらないのがいつものことだった。子供のアタシにはちんぷんかんぷんの話だったけど、熱っぽく語るじいちゃんは嫌いじゃなかった。 そんなじいちゃんだったけど、じいちゃんはいつでもアタシの味方だった。 テレビで学校内いじめのニュースが流れたりすると、決まってじいちゃんは怒鳴り声を上げた。 「こういう子供はもっと厳しくしつけなきゃいかん。 わしゃあ、風花が学校でこんないじめを受けたらと思うと、心配でたまらんよ。 風花、学校でいじめられたら、すぐじいちゃんに言うんじゃぞ」 「うん」 子供の頃のアタシはそんなじいちゃんが頼もしく見えて、首っ玉にかじりついたものだった。 「お父さん、やめてください」 お母さんが息巻いているじいちゃんをたしなめるように言う。 じいちゃんにべったりのアタシを心配していたんだろう。 でもじいちゃんは、きびしいところもあった。 自転車に乗る練習をしに、大きな広場のある公園に行ったとき、じいちゃんのスパルタ式教育の洗礼を受けた。 荷台を支えているじいちゃんが手を離すと、すぐに倒れてしまうアタシに向かってじいちゃんは叱りつけるように言った。 「風花、倒れそうな方向にハンドルを向けるんじゃ。そしてペダルを力いっぱい踏み込むんじゃ」 「だって、こわいよ、じいちゃん」 「こわいからといって逃げたらいかん。逃げたらよけいに危なくなるんじゃ。魚雷が向かって来た時と同じじゃ、魚雷が向かってくる方向に船のへさきを向けるんじゃ、そうすれば魚雷のほうから逸れていく」 「ギョライって……なに?」 倒れた自転車を起こしながらアタシは泣きべそをかいた。 だけど、思い切ってじいちゃんの言うとおりにやってみると、本当に自転車は倒れなくなった。 「やった、じいちゃん、のれた、のれたよー」 「偉いぞ、風花」 じいちゃんはしわくちゃの顔をほころばせてアタシをほめてくれた。 きっとアタシの顔は泥だらけだったろうけど、うれしくて公園の広場を何度も周り続けた。 「行きたくないのを無理にいかせんでもええじゃろ」 アタシが登校拒否を始めた頃、じいちゃんだけはそう言ってくれた。理由については何も言わないアタシに、家族のみんなもいじめだと薄々は気づいていたろうけど、深く追求されることはなかった。小学生程度でそこまで深刻な話でもないと思っていたんだろう。今にして思えば本当に大したことのない、ちょっとした仲間はずれだった気もする。でも当時のアタシにとっては、やっぱりいたたまれない程の場所だったに違いない。 じいちゃんが許してくれたのもあって、アタシが学校を休む頻度は日に日に増えていった。 「お父さんがそうやって甘やかすから」 当たり前かもしれないけど、お母さんはアタシをなんとか学校に行かせようと躍起になっていた。 「明日こそ行くんですよ」 「やだ」 アタシは頑として拒否を続けた。当たり前のように。 「風花!」 「あんな宇宙人ばっかりの学校なんて行きたくない」 まあ、とお母さんは大げさに驚いた後、噛んで含めるような調子でアタシに言った。 「なんてことを言うの風花、聞きなさい、いい? 地球人だってずっと前から宇宙人なのよ。アポロ宇宙船の頃から」 「そんなの知らない」 知るわけがなかった。アポロどころかその頃のアタシは、戦争に負けたことの本当の意味さえ知らなかったのだから。 アタシはリビングを飛び出し、自分の部屋に戻るとドアに鍵をかけた。 この頃からアタシは学校に行かないどころか、自室から出ることも少なくなって、じいちゃんともあんまり話さなくなっていた。しかも、アタシが中学に上がる頃、元気だったじいちゃんが急にボケ始めたのだ。それは本当に唐突で考えもしていなかったことだったせいか、アタシは恐ろしくてじいちゃんと顔を合わせることさえ避けるようになった。じいちゃんの方も、外に出ることはめっきり少なくなって、部屋にこもりがちになっていた。それでもじいちゃんの声は相変わらず大きくて、部屋の外までわけのわからないことをわめき立てる声が響いてくることがあった。 「敵艦見ゆ!」 「同航戦準備じゃ。アビ夫、機関最大、前進一杯」 「前進一杯、よーそろ」 そっと部屋を覗くと、じいちゃんはちゃぶ台の前に正座して、うつろな目で見えない敵を睨んでいた。 「じいちゃん……」 アタシはふらつく足で部屋から離れると、耳をふさぎながら自分の部屋に駆け込んでいた。 そのじいちゃんも半年前に死んだ。 体だけはまだ丈夫だと思っていたのに、連れられて行った病院のベッドの上でじいちゃんは冷たくなっていた。 じいちゃんがいなくなって、アタシを学校へ行かせようとする風当たりは強くなったけれども、アタシは相変わらず登校拒否を続けていた。中学にあがってからのアタシは前にも増してクラスのみんなにとけ込めなくなっていたからだ。言うまでもなく、いやがらせ自体も小学校の時とは比べ物にならないくらいエスカレートしていた。たまに登校しようものならアタシは集中砲火を浴びる動く標的だった。学校から帰ってくるたびに、ぼろぼろになったノートや体操着を、見つからないように処分するのは辟易とする作業だった。 「じいちゃん……」 仏壇の前で立ち尽くしていたアタシは、ちーんと鳴った鐘の音で、はっと我に返った。 「あ、あれ?」 急いで足もとに目を移す。 でもそれは畳の上にある鐘から出た音じゃなかった。それに音の出所はもっと上、仏壇の中から聞こえたように思えた。仏壇の中に置かれているのはお線香立てにロウソク、それから位牌くらいだ。 「じいちゃんの位牌……」 戒名の刻まれたじいちゃんの位牌、特に変わった様子はない。 ん、いや、ちょっと異変を見つけた。 位牌のてっぺんで赤い光が点滅している。 「なんだ、これ」 位牌を手に取って目を近づけてみると、黒い位牌の上辺についた発光ダイオードの横にLOW―BATTERYと書かれているのが読めた。 「電池切れ……?」 そういえば、お線香もロウソクも点灯していない。 位牌を裏返してみると、電池のフタらしき扉が付いている。どうやらロウソクも線香もこの電池に連動しているらしい。さっきから鳴っている音は電池切れのサインだったんだろうか。こういう火を使わなくて安全な器具は便利だとは思うけれども、電池が切れれば何の役にも立たなくなるのは困りものだ。 アタシは普段じいちゃんに手を合わせることもしないくせに、なんとなく電池切れで沈黙した仏壇グッズがいたたまれなくなって、替えの電池を探すことにした。 とりあえず電池のフタを開けてみる。と、見慣れない形の電池が収まっていた。 「なんだ、この電池」 単三とか単四の電池ならエアコンとかのリモコンから拝借しようと思っていたんだけど、こんな形の電池は見たこともない。四角くて分厚くてホックみたいな端子が付いていて、そこから赤と黒の線で内部へと繋がっている。 「9ボルト?」 かろうじて電圧だけは読み取れたけど、型名を読んでみても、やっぱり聞いたこともないアルファベットの羅列だった。 あきらめて位牌をもとの位置に戻そうとしたとき、ふとひらめくものがあった。 「そうだ、じいちゃんのラジオ」 ちゃぶ台の上にじいちゃんが使っていたポータブルラジオがそのまま置いてある。こんな古臭いラジオだったら同じような電池を使っているかもしれない。 アタシの予想は的中した。 取り外しにくい端子を無理矢理引きはがしてラジオから抜いた電池と入れ替える。フタを閉じて元通りの位置に位牌型電池ボックスを置くと、ロウソクの炎がゆらめき、お線香の先に赤い火が点った。 「これでよし、と」 一仕事を終えたアタシは改めてじいちゃんの写真を見上げた。 「ふう」 こんな風にじいちゃんの写真と向き合ったのは初めてかもしれない。じいちゃんがいなくなって半年の間、どこかでじいちゃんが死んだことを否定していた気持ちがあったんだろう。 でも、こうしてじいちゃんの写真と向き合ってみると、やっぱりじいちゃんはこの部屋にはいなくて、どの部屋にもいなくて、公園にもいなくて、釣り堀にも、よく行った神社にも、もうどこにもいないことが実感できてしまった。 もしもじいちゃんが幽体離脱してどこかに居るのだとしても、もうアタシを守ることなんてできっこない。死んじゃったらなにもかも終わり。体を失ったら手も足も出ないんだ。 あんなにパワフルだったじいちゃんは、もうどこにもいない。 ただの写真の人になってしまったのだ。 じいちゃん…… 「なんで…… なんで死んじゃったんだよ…… アタシのこと、風花のこと助けてくれるって、守ってくれるって、言ってたのに。 なんで……」 胸が詰まり、のどの奥が熱くなる。 「なんでアタシだけこんな目に遭うの? みんなよりちょっと色が黒くて、体が小さいだけなのに、どうして! 助けて……助けてよ……じいちゃん…… あいつらをやっつけてよ……」 涙がこみ上げてきてじいちゃんの写真が滲んで見えなくなる。 鼻をすすると止まらなくなり、そのまましゃくりあげてしまう。 涙が堰を切ったようにほおを伝ってこぼれ落ちる。 「ぐすっ、ひっく……」 「風花」 「え?」 じいちゃんの声がした――気がした。 涙をぬぐって顔を上げると―― そこに、 じいちゃんがいた。 仏壇の横に立っていた。 いつものジャージ姿で、おだやかな笑顔で、アタシを見ていた。 見間違えるはずもない。正真正銘のじいちゃんだ。 「じい……ちゃん……?」 「風花」 じいちゃんが小さく頷きながらもう一度アタシの名前を呼ぶ。 ボケる前のじいちゃんの目だ。声もしっかりしてる。 「じいちゃん!」 アタシは我を忘れてじいちゃんに近づこうとした。 じいちゃんだ。じいちゃんがここにいる。 だけどじいちゃんは掌を前に出してアタシの突進をなだめる仕草をしたあと、すっと押入の方に移動した。 そうして人差し指で押入の上段を指さすようなしぐさをする。 「じいちゃん?」 なんだろう、と思った瞬間、じいちゃんの姿がだんだん薄くなり、ついにはかき消すように見えなくなってしまった。 「じ、じいちゃん!」 アタシは急いで駆け寄ったけど、じいちゃんの姿はもうどこにもなかった。 夢? まぼろし? 幻覚? そんなはずはない。 確かにじいちゃんはここにいた。 アタシの呼びかけに応えてくれた。 なのに…… 「どこに行っちゃったんだよ……」 アタシはじいちゃんが指さしていた押入の戸を開けてみたけれども、そこには古いタンスが収まっていただけだった。 「じいちゃん」 だめだ。 じいちゃんはどこにもいない。 死んで、煙になって、灰になって、消えてしまったんだ。 やっぱり……。 と、その時、じいちゃんの位牌がまたちーんと音を立てた。 はっとしてアタシは振り返り、仏壇の方を見る。 じいちゃんはいない。いなかった。 けど、 そこには女の子がいた。 小さな女の子。 すごく小さい。身長20センチくらい。 なのに顔はちょっと大人っぽい。切りそろえたショートの黒髪に、服装も黒ずくめのレディススーツという出で立ちだ。おまけに空中、アタシの目の高さくらいの空中に、両手を前に添えた直立の姿勢で浮かんでいる。 「なに……これ……」 「あ、はじめまして」 女の子が空中に浮かんだまま、三等身の体を深く折っておじぎする。 「え、えーっと、朝に礼拝ゆうべに感謝、3Dおしゃべり位牌、ご案内役の過去ちゃんですぅ」 む、なんだかイラッっときた。 女の子は満面の笑顔。おまけにキャラ押しなのか、しゃべりが微妙にわざとらしい。 っていうか、 「カコちゃん……?」 「あ、はい。故人様とご遺族様の間を取り持たせていただく役目を仰せつかっているAIマスコットですぅ」 イラッっていうかムカッ。 「……マスコットって……。もしかしてあんた、位牌から出てきたの?」 「はい、ずいぶん長くハイバネーションしちゃってたみたいなんですけど」 そりゃまぁ、電池切れてたし。 「そんなことより、もう一回じいちゃん出してよ! ろくに話もしてないのに消えちゃったじゃない!」 「はうっ、ごめんなさい、故人様のザンリューシネン濃度が10のマイナス12乗モル以下になっちゃいましたので、実体化終了しちゃいましたぁ」 冷や汗のエフェクトを振りまきながらぺこぺこする女の子。 「はあ? なにそれ? レイナのとこのじいちゃんは十年前に死んだけど、毎晩一緒にテレビ見てるって言ってたよ?」 「す、すいません……わたしのパワーゲインでは、これが限界なんですぅ」 「くっ……」 まったく、これだから安物は。 9ボルトも使うクセに……。 お母さんがテレビ通販で買ったものだとは知っていたけれど、今までじいちゃんを見たことがなかったのは、これが原因だったらしい。 「で? もう出せないってこと?」 「ごめんなさぁい。故人様の思い入れが強い場所に本機を移してもらえれば、もしかしますぅ」 もしかしますぅ、じゃないっての。 だけど、よく考えたらじいちゃんは、そんなに信心深い人じゃなかった。仏壇にはあんまり思い入れがなかったのかもしれない、と思い直した。そうだ、こんなとこに入れっぱなしだったのがいけなかったのかも。 アタシは仏壇の中の位牌を手に取った。 すると、案内役のグラフィックがぱっと消えてしまった。 「あれ? もう電池切れ?」 「違いますぅ。空気プラズマ発光用レーザーは危険なので、本機から一メートル以上離れてくださらないと、ホログラムを照射できないんですぅ」 声だけで案内を続けるカコちゃんだった。 まぁ、別にいいんだけどね、あんたなんかジャマなだけだし。 位牌を持ったまま、部屋のあちこちに移動してみる。 「どう? 強いところはあった? そのザンリューシネンとかの」 「はい、ええと……液晶表示のアンテナマークが目安になると思いますぅ」 「アンテナマークってこれか」 位牌の上についている液晶パネルにはアンテナマークが表示されているけど、いまのところ0本か、たまに一本くらいしか立っていない。 「これって何本立てばいいの?」 「三本くらいないと、実体化は難しいんですぅ」 「三本……つまりバリ3か」 「それ、死語どころか、古代語ですぅ」 「……へえ、おしゃべり位牌のおしゃべりって、あんたの特徴のことだったんだ」 「ひえっ、ごめんなさぁい、あの、その……では失礼しまぁす」 「あ、ちょっと! どこいくのあんた」 それっきり音声も途切れてしまった。 しんと静まりかえるじいちゃんの部屋。 うーん、悔しいことにちょっと寂しい。 白状すると、アタシの語彙はじいちゃんの影響で、中学生のくせに年寄り臭いとよく言われてしまうのだ。 アタシは位牌を振ったり叩いたりしてみたけど、それきりカコちゃんは出てこなくなった。 「ま、いっか」 さっきの続きで、じいちゃんの思い入れが強そうな場所を探して、位牌をガイガーカウンターみたいにかざしながら、部屋の中をうろうろする。 「ん、そうだ、さっきの押入……」 じいちゃんはこの押入を指さすようなしぐさをしていたはずだ。きっとなにかある。 アタシは押入を開けて上段に居座っている古いタンスに位牌を近づけてみる。 「お?」 やっぱりだ、アンテナが二本立った。 「近いぞ、この辺か?」 アタシはタンスの引き出しを上から下までひとつひとつチェックしていく。 「ここか?」 一番下の引き出しに近づけると、時々アンテナが三本立つ。 「うん、この引き出しだ」 アタシは一番下の引き出しに手をかけ、開けようとする。 が、引き出しはとても重くて、なかなか引っ張り出せない。 「うーん、重いな、これ、なにが入ってるんだろう。はっまさか!」 なーんちゃって……まさかね。 ひとりで苦笑いしながら、あわてて自分の考えを打ち消す。 引き出しの左右を替わりばんこに少しずつ引っ張ると、ようやく全部引き出すことができた。 「なんだ、これ」 中には……怪しげなお宝、ではなく、ガラス張りのでっかい機械が引き出しいっぱいに収まっていた。まぁ、これはこれで十分怪しげなんだけどね。 しっかし…… 「これ……電源入るのかな?」 指で触れてみても、冷たいガラスの感触しか返ってこないし、うんともすんとも反応しない。それに、どこにも電源スイッチみたいなものも付いていない。死んでるみたいだ。じいちゃんと同じように。 でも、それならば。 じいちゃんの位牌を機械に近づけてみる。ほら、やっぱり反応がある。アンテナがバリ3になる。 突然、ガラス面に光が点った。 たんすの引き出しが巨大なタブレットになる。 「わっ! まぶしっ」 目がくらむほどの強い光だ。いかにも省エネが嫌いだったじいちゃんの機械らしい。 薄く目を開いてみると、ガラスパネルにレーダーみたいな画面が大写しになっていた。 「なんだろう、この画面」 パネルのボタンを適当に押しまくってみる。 そのうち、何かの拍子に発進《ラウンチ》と画面のまんなかに表示が出た。 「ミサイル発射! なんてね……はっは」 アタシは内心どきどきしながら、そそくさと引き出しを閉めようと手を添えた―― 直後。 部屋の外で爆発音がした。 「ぎゃっ!」 アタシは心臓が口から飛び出るほどびっくりして畳に尻餅をついた。 「わわっ……ひやっ……」 まるでガス爆発のようなでかい音。そのあとバリバリとガラスの割れるような音が響き、壁がみしみしといやな音を立てた。振動は十数秒の間続き、天井から大量の埃が降ってくる。 「地震……なの?」 しばらくは呆然となっていたアタシだったけど、揺れが収まると、よろめきながらもなんとか立ち上がることができた。どうやら地震ではなくて、爆発音は家の上側から響いてきたようだ。 「に、二階? もしかして……アタシの部屋?」 ガクガクする足をひきずって、部屋の外に出る。意を決して二階の階段に足をかけた。 真っ白な埃が階段に立ちこめている。 シミーズの裾で口を覆いながら上がっていく。 廊下が見渡せるところまで階段を上がると、アタシの部屋のドアが吹き飛んでいるのが見えた。 「げげっ!」 なに、これ……? やっぱり、ガス爆発……? そっと部屋を覗いてみると……。 「や、屋根が……」 目に飛び込んできたのは、めちゃくちゃに壊れたアタシの部屋だった。屋根が崩れ落ちて、ベッドも机もガレキに埋まっている。部屋の天井を突き破っているのは、大きな金属製の柱というかレールみたいなものだった。 「なんだ……この……でっかい柱」 どこから飛んできたんだろう。でも、屋根を突き破って大穴を開けてるワリには、床には届いてなくて、残り数センチのところで止まっている。 「ミサイル……じゃなさそうだけど……」 でもこれって……じいちゃんの機械をいじったせいだよね。やっぱり……。 恐る恐る部屋に入り、抜き足差し足でレールのそばまで近付く。足下はばらばらになった屋根のがれきがごろごろしているけど、スリッパのおかげでなんとか歩くことができた。 「上はどうなってるんだろ……」 天井を見上げてみると、屋根の大穴から空が…… 「え? 見えない?」 距離感はつかめないけれども、家の屋根数十メートル上に、なにか大きな人工物が浮いていて、そのグレーのシルエットに家ごとすっぽりと覆われている。 ときおり、腹に響く低いうなりが起きて、空気と家全体を震わせていた。 「なにあれ? ユーフォー、なの?」 すると突然アタシが立っていた床が浮き上がった。 「きゃあ!」 アタシは驚いて床にへたりこんでしまう。 よくよく見てみると、これは家の床ではなくて、丸い円盤のような台座だった。それがアタシの体を持ち上げて、屋根を突き破っているレールに沿って昇り始めたのだ。 「わわっ――!」 あわてて降りようとしたアタシの手がさえぎられる。 ぺたっと。 いつのまにか丸い床に沿って、ガラスチューブが周りを囲んでいた。 「閉じこめられた!? ちょっと! やめてよ!」 じたばたするアタシにはおかまいもなしに円筒は上昇を続けている。ガラス越しに下に目を向けると、ぐんぐんと小さくなっていく我が家が見えた。たぶんだけど飛行物体の方も上昇しているみたいだ。 「ちょっと! どうなってるの!? じいちゃん、カコちゃんでもいいから、なんとか言ってよ!」 アタシはずっと手に握りしめていた位牌に向かって怒鳴る。 だけど、おしゃべり位牌は相変わらず沈黙したままだった。 パニクりながら上を見上げると、チューブに沿って伸びるレールの先に、空を覆う飛行物体の影が迫っていた。 「あれ、なに? なんなの……?」 逆光なうえに、もう近すぎてよくわからないけど、たぶん細長い形だ。それにしてもでかい。あっというまにアタシの乗ったチューブは、飛行物体のおなかに開いている穴に飲み込まれる。内部に入ると、ぎらぎらした黄色い光に目がくらむ。どうやら壁に沿ってパトランプが並んでいるようだ。チューブが完全に中に入ると、足下で穴が閉じていき、パトランプの回転が止まった。 「うわっ、真っ暗闇なんですけど!」 しばらくすると、少しだけ横に移動する感覚が起きた後、ぱっと照明が点いた。 そこは金属の壁に囲まれた小部屋だった。 「と、止まった……?」 アタシはぜえぜえ喘ぎながら円盤からはい出る。ガラスチューブの壁はいつの間にか消えていた。 「う、あう……ここどこ? もしかしてアタシ、キャトルミューティレーションされるの?」 床にへたりこんだアタシがおっかなびっくりできょろきょろしていると―― 「カッターユニット格納完了。認証手続きに移行します」 と、どこからともなく、アナウンスめいた声が響き渡った。 「は? だれ? だれなの……? 宇宙人?」 「ご質問の意味がわかりません。宇宙人とは、プロキオン星系陣営に本艦が所属しているという問いでしょうか」 抑揚のない、愛想のかけらも感じられないウグイス嬢が答える。 プロキオン? どうでもいいけど、荒っぽく人をさらったわりにはバカ丁寧な言葉づかいだ。 でも、これって日本語か…… それならば、話せばわかる相手かも……うん。 「プロキオン……って、セトラーズの? なんだ――それならやっぱりこれってセトラーズの船なんだ」 「いいえ、違います。本艦はプロキオン星系陣営の船籍ではありません」 せんせき……ってなんだ? 「こ、これってたぶん宇宙船……だよね? なのにセトラーズの船じゃないの?」 「はい、地球船籍です」 え? 地球……? って、どういうことだ? 「じゃあ、あんたはセトラーズでも宇宙人でもないってこと?」 「わたくしは本艦の機関管制システムAIです。当然、地球陣営に所属ということになります」 はあ、AI――ね。特にめずらしくもないので、それはいいとして。 「地球人の宇宙船なんて聞いたことないんだけど、いったいなんなの? この船って」 「本艦は旋風型駆逐艦《くちくかん》の二番艦、颯風《そうふう》です」 「そうふう……? そうふう……。うーん、どっかで聞いたことあるような……って……それってもしかして、じいちゃんが乗ってた……?」 そうなのだ。 じいちゃんの昔話。 何回も聞かされた武勇伝。 じいちゃんの乗っていた軍艦。 確かそんな名前だったような……。 「そうです。旧地球防衛軍極東基地第八艦隊所属の駆逐艦《デストロイヤー》、そして地球人に残された最後の艦《ふね》です」 え? ええっ? 「えええええええぇぇぇぇっ――――――――!!」 そんなばかな! だって……だって…… 地球人がセトラーズとの戦争に負けて、もう何十年も経ってるのに。 今じゃ学校だって地球人の方が少なくて、うちのクラスにしてもほとんどがセトラーズなくらいなのに。 でも……ホントに? 「じいちゃんの乗ってた船……なの?」 「はい。本艦は2098年着工、翌年8月チバラギシティ宙軍工廠をロールアウト。旋風と共に第八艦隊に就役しました」 「そ、そんな……だって地球防衛軍なんてアタシが生まれるずっと前になくなったんじゃ……」 「はい、戦争終結後、地球防衛軍は解体され、進駐軍によって徹底的な武装解除を受けました。地球はプロキオン星系思念群の直轄領とされ、植民星としての再出発を余儀なくされたのです」 「じゃ、じゃあ、なんでこんなでっかい戦艦が残ってるの……?」 「あなたさまのおじいさまが戦闘記録の改ざん後、本艦を亜空間ドックに隠蔽したのです」 「隠蔽……って隠してたってこと? じいちゃんって、テロリストだったの?」 「…………」 「……? もしもーし?」 あれ? 黙っちゃったんだけど? 「えっと――」 「口を慎みなさいな、バカ娘が」 「なっ――!?」 なんなんだ急に。恐いんですけど…… 「よくお聞きなさい。プロキオン星系思念群、彼らこそ侵略者であり、略奪者なのです。開拓民《セトラーズ》など、体の良い勝者側の勝手な自称なのです。今を去ること四十年前、人類の存亡を賭けた先の大戦、その最後の大規模戦闘と言われる木星圏宇宙戦で地球防衛軍艦隊は壊滅的打撃を被りました。しかし艦長は賢明なお方でした。自身は虜囚の辱めを受けることを甘んじてまでも、大破した本艦を――いえ、わたくし達を、敵の索敵範囲外であった木星の大赤斑に開いていた亜空間環礁に沈めたのです。いつか巡ってくるであろう人類の再起を信じて。わかりますか? 艦長ほど立派なお方はいません。部下からの信望も厚く、鉄の信念を持ったお方でした。艦長を貶める発言はたとえあなたが艦長の孫娘であろうとも許されないのです」 「そ、そんな一気にまくし立てないでよ」 っていうか、長い…… しかも、この人激オコだし。 まぁ、セトラーズが攻めてくる前までは、地球は地球人だけの星だったことは、学校の授業で習って知ってるけど、さすがに昔のこと過ぎていまいちピンとこない。 でもこの人、っていうかこのAIはアタシがじいちゃんの孫だって知ってるみたいだ。どういうことだろう? 「あの、えーっと、なんか……ゴメン。それと、いちよーアタシもじいちゃんのことは尊敬してるから、あ、あんたの気持ちはよくわかるよ……っていうか、じいちゃん死んじゃったの知ってるんだよね?」 「……はい、それはもちろん。艦長は苦労して当局の監視の目をかいくぐり、本艦の修復をコツコツと続けてきていたのですから」 「え……でも……」 「そうです、一年ほど前の通信を最後にコンタクトが途切れたままでした。ようやく念願かなって再発進のめどがついた矢先でしたのに……それなのに……くっ……」 「あ、あのー……?」 「さぞ、無念だったことでしょう……」 聞いてないよこの人。 まぁ、ショックなのは分かるんだけどね。 でも、それにしても…… 「ね、ねえ、再発進って、じいちゃんなにするつもりだったの、かな?」 「え? ご存じないのですか?」 「うん、聞いてなくて。ごめん」 「ですが、本艦に発進命令を出したのはあなた様でしょう?」 う、やっぱりそうなのか……。 「そ、そうかもしれないけど……あれはちょっとした間違いというか……はずみというか――」 「わたくしはてっきり艦長の遺志をあなた様がお継ぎになったものとばかり」 「いや、そういうわけじゃないんだけど……」 「いまさらそんなことをおっしゃられても、引っ込みが付きません」 「じゃあ、アタシだけでもおいとましてもいいかな?」 なんだかめんどくさいことになってしまった。それにどう考えてもこんな船に乗ってのんびりしてる場合じゃないとも思う。 「そうですか、決心してもらえましたか。では最終認証を行います。正面の扉の前までお進みください」 「いや、あの、えっと、アタシおろしてもらいたいんですけど」 「え? この支配からの卒業を決意なされたのではないのですか」 おいおい、そんな歪曲表現のつもりで言ったんじゃないんだけど。 窓ガラス壊してまわったこともないしね。 まぁ、不良少女なのは認めるけど。 「あ、そうだ、アタシ船酔いに弱くて――」 「四の五の言わずに扉の前に進みなさいな。このシュミちょろ娘が」 「ええっ?」 また恐くなっちゃったよ……おまけにアタシの格好と来たら、シュミちょろどころかシミーズ一丁なんだけど。っていうか、そのボギャブラリーは間違いなく古代語仲間だよ。さすがはじいちゃんの部下だよね。 アタシは手に持っているじいちゃんの位牌に視線を落とす。とりあえず例の彼女としても、ツッコむ気はなさそうだ。 寝てるのか? カコちゃんは。 まったく、もとはと言えばあんたのせいだってゆーのに。 このややこしい事態を収拾するのは多分簡単だ。じいちゃんを出してもらえば一発で解決だろう。なのにじいちゃんの位牌は相変わらず沈黙を続けている。 アタシは位牌のアンテナマークを確認してみる。 なにしろここはじいちゃんが乗っていた船の中なんだ。きっと思い入れも強烈に違いない。 なのに……あれ? 例のアンテナマークはバリ3どころか、一本しか立っていない。 「なんで……?」 と、その時、スピーカーからアラーム音と言うか警報みたいな音がして、さっきの女声のAIとは別の声が鳴り響いた。 「およねさん、ちょっと高度を上げさしてもらいまっせ。セキュアードローンがうるさいよってに」 こてこての関西弁を操る男の声だった。 って……それよりこの船にはまだ他にも乗組員がいるのか。 乗組員とは言っても多分人間じゃないんだろうけど……。 「それは困るわ」 およねさんという名前だったらしい、女のAIが答える。 「まだ出力を上げられないのよ。ブリーフィングシークエンスも済んでいないし」 「停船命令無視して、ろくまる秒は過ぎとるさかいに、すぐパトロールドローンが飛んできまっせ」 「わかったわ、大気圏ブースターの離昇出力5パーセントを維持して。セキュアードローンの実用上昇限度は超えられるはずよ。重力アンカー解除、キャプスタン巻き上げ最大」 「5パーセントを維持して上昇、よーそろ」 なんだか急に忙しそうだ。この隙に逃げ出せないかな……? アタシがさっき自分が乗ってきた円盤にこっそり乗ろうとした瞬間、がくんと足に体重が掛かって、床に尻餅をついてしまった。 「あいててて……。ちょっと! 急に動かないでよ!」 「あ、これは失礼しました。なにせ生身の乗組員を乗せるのは四十年ぶりなので、重力アブソーバーの設定ができていませんでした。でもご心配なく、10Gまでなら死ぬことはないでしょう」 まじっすか…… これは身の危険を感じずにはいられない発言だ。船酔いどころの騒ぎじゃない。 それにさっきの関西弁男もAIということで間違いなさそうだ。 「や、やめてよ! おろしてよ! アタシのこと」 「今本艦から出るのは大変危険です。おそらくパトロールドローンに――」 「うひゃあ、きたきた、ようけ来きよりましたわ。パトロールドローン来襲やで」 およねさんの話を遮って、さっきの関西弁男がスピーカーから叫ぶ。 「数は?」 「あかん、有視界火器管制でロックできる数越えとりますわ。対空防御10門ばっか起動できまっか?」 「まだ無理よ。とりあえず迎撃《インターセプト》ドローンを連続射出してちょうだい」 「インターセプトドローン射出開始。よーそろ」 「な、なに? 何が起きてるの?」 アタシとしては、そうは言いつつも、どう見てもどんぱちを起こそうとしてるのはわかった。こいつらが……。 「さあ、ここは危険です。早くブリッジへ移動してください」 「ぶりっじ?」 「そこのエレベータに乗ってください。終点が第一艦橋です」 「そ、そんなこと言われても……」 と、その時。ずしんと、大きな振動が足下の壁を伝って響いてきた。振動で一瞬目が回る。 「艦尾にインターセプトドローンの残骸が激突。今のところインターセプトドローンの残存数60パーセント。対空艤装のチェック、はよ頼んますわ」 「はわわ……」 アタシには外の様子はまったく見えないけれど、交わされる会話でやばげな雰囲気だけはびしばし伝わってくる。 「早く、乗りなさい! このシマパン娘は」 パンツ一丁なのは責められて然るべきことなのか釈然としないまま、およねさんの声の気迫に押されてアタシはエレベーターに飛び込む。 扉が閉まると、上に向かって動き始めたのが感じられた。 「ね、ねえ、およねさん、アタシ死ぬの? こんなわけのわからないとこで……」 扉の上に表示されているレベル数表示を見ながら、どうやら無事に家には帰れそうもないことを理解したアタシは、憐れみを誘うセリフをぶつけてみる。 「ご心配なく。こんな蚊トンボ連中に本艦がやられるわけがありません」 蚊トンボって……そりゃこんなでかい船に比べたらそうかもしれないけど、そんなことより問題は今戦ってる相手だ。パトロールドローン、通称パトローンって市民の安全を守る警備ドローンのことじゃないか。ようするに国家権力を敵に回しちゃってるわけだ。 この状況って……いざとなったら拉致監禁されたと言い張って通るんだろうか。 いや実際そうなんだけど。 でも今はとりあえず、なんの釈明もできないまま、船もろとも撃ち落とされるなんてのはまっぴらごめんだ。 こうなっちゃった以上、もうちょっとがんばって欲しい。 「でも、なんで武器が使えないの?」 「もちろん、レベル5のスクランブル命令に従った結果です。亜空間からのデフォールトを最優先しましたから」 「へ、へえ……そうなんだ」 言われてみれば、5と書かれたボタンをタップした気もする。 「ともかく、武装さえ起動すれば、なんの問題もありません」 「じゃ、じゃあ、早くそれやってよ」 「言われなくともやっています。ただし武装はメインエンジンのチェックが終わってからです」 するとしばらく押し黙ったおよねさんが、今度はひとりでぶつぶつとつぶやき始めた。 「APUおよびメインエンジンとも全機能グリーン、重力アブソーバー全乗員区画――オールグリーン。続いて兵装チェックに入ります。ブリーフィングシークエンスは対空用を優先して開始。アーマゲドンシステム――オンライン。バーサークモード――オンライン。ケルベロスチェイサー――オンライン。サジタリウスシーカー――オンライン。続いて対空砲塔チェック開始。二連12.7mmパルスレーザーカノン10門――オールグリーン。20mmオートバルカン6門――オールグリーン。40mmプロトンカノン2門――オールグリーン。27mmマイクロミサイルターレット8門――オールグリーン。76mmフィールドスクリーン速射砲2門――オールグリーン――」 およねさんのチェックは延々と続いている。 いったいどんだけ武器積んでるんだ? この船……。 アタシは上から下に流れていく船内灯を横目に見ながらおののいていた。 「続いてアンチハードターゲット兵装チェック開始……使用可能武器はハルバート対鑑ミサイル4発、およびデスラーマイン150個のみ。後は……弾切れです」 「あれ?」 なんだか急にたよりない感じになった。 「残念ながら、大型ミサイルは補給する術はありませんが、マイクロミサイルは艦内工場で生産可能です。ですから弾切れの心配はありません」 「そ、そうなんだ……」 「はい、それに本艦はフラックフリゲートの発展タイプですから、もともと対空装備がメインなのです」 「ボーギョりょく重視ってこと?」 「その通りです」 うーん、でもどう考えても過剰防衛になりそうな武器の数だと思うんだけど……。 そんなことを思っていると、エレベータが止まった。終点に着いたみたいだ。 「第一艦橋到着、降りてください」 扉が開く。とそこは機械だらけの広い部屋だった。一見するとゲームセンターみたいに思える。ガラスパネルが壁面一杯に並んでいて、今にも楽しげなグラフィックが表示されそうだ。正面と左右の三面は窓になっていて、外の景色が見えた。なんだか展望台の中のゲームコーナーって感じだ。でも案の定人の姿はない。やっぱりこの船には人間の乗組員はいないのだ。それに、計器パネルみたいなのはいっぱいあるけど、ほとんど電気が点いていない。 「動いてるの? この機械……」 「ご心配なく、節電のために消灯しているだけですから」 ちょうどチェックが終わったらしい、およねさんが答える。 なるほど、そういうことか。そもそも人間が居ないんだから真っ暗でも別にかまわないわけだ。しかも、節電なんてじいちゃんの部下にしてはなかなか殊勝な心がけだ。 「で? ここなら安全……なの?」 「はい、もちろん」 アタシは窓に近寄って外の様子を眺めてみる。 「飛んでるんだ……やっぱり……」 何百メートル上空なのかはわからないけれど、じっと静止しているみたいだ。下を見ると、街の景色はネズミ色のごま豆腐が並んでるように見えた。 地上の景色に気を取られていたアタシの視界に、煙の尾を引きながら落ちていく丸い物体と赤色灯を点けながら追いかけているパトローンの姿が飛び込んできた。 「あかん、インターセプトドローン残機20パーセント。もうもちまへん」 関西弁男AIが悲痛な声を出す。 おいおい、なんだか弱くないか? こっちの戦闘機。 でもよく考えてみたら、こっちの船自体何十年も経った骨董品なわけで、それに比べたらあっちのは最新型で、おまけにセトラーズの機械だったらもともと強いだろうし、無理もないのかもしれない。 「ど、どうなるのよ?」 アタシは船室のどこかに付いているだろうマイクに向かって叫んだ。 「ご心配なく。パルスレーザーおよび、マイクロミサイル発射準備完了しています。艦長代理、トリガーをお願いします」 「……?」 誰のことだ? それって。 「艦長代理、あなたです」 アタシの心を読んだかのようにおよねさんが言う。 「ちょっと待ってよ。なんでアタシが艦長代理なのよ!」 よくあるギャグマンガのように、発射スイッチを押すことが死亡フラグになるなんて思ってるわけじゃないけれど、発射スイッチを押す、イコール実行犯か、良くても共犯扱いになるだろう事ぐらいは予想できる。 紛う事なき反社会的行動だ。盗んだバイクで走り出すよりも……。 だけど……このままじゃ…… 「本来であれば……」 およねさんにしてはめずらしく若干の間があった後、重々しい口調がスピーカーから発せられる。 「なに……?」 「トリガーを引くのは砲雷長の役目なのです」 「ほーらいちょー?」 「はい、武器選択と発射を受け持つ責任者です」 「そんならもう一人AIがいたじゃない、関西弁の。アイツは?」 「アビオは戦闘航法システムAI、つまりメインは操舵関係なのです」 「そんな細かいこと言ってる場合じゃないでしょ。非常事態なんだから」 「いいえ、それはできないのです。わたくしたちはAIですから」 「へ、なんで……?」 「権利がないのです。戦力を行使する」 「人間……じゃないから?」 「そうです。そして砲雷長に命令を下すのが指揮官である艦長の役目なのです。でも今はどちらも本艦には存在しません。もともとわたくしたちには防御機動しか許されていないのです。その命令を上書きできるのは、指揮権を持った人間だけなのです」 う…… なんだか言葉に詰まる。 じいちゃんがどうやってこの船を隠したのかは知らない。 ようは自動操縦のAIに任せてどこかに隠れさせていたんだろう。 四十年のあいだ、このAIたちはじいちゃんの船を守り続けてきたんだ。 じいちゃんの命令を忠実に守って。 ここで反撃しなきゃ、それも全部無駄になる。 じいちゃんの船も、じいちゃんの部下もみんなあいつらに壊されてしまう。 気のせいかもしれないけど。 なんとなくだけど。 そんなのは。 そんなことになるのは。 ……いやだ! 「ボタン押すだけでいいの?」 「はい、トリガーハンドルもありますが、音声コマンドで命令するだけでもオーケーなのです」 「そっか」 「ビュービュービュー……インターセプトドローン全滅、パトロールドローンは全機健在。あきません」 なんか口でそれらしい擬音までくっつけて、アビオが情けない声をあげた。 がちゃんと、どこかで物が壊れる音がして、一瞬照明が暗くなる。 「ブリッジに被弾。第一装甲板損傷」 「くっ……わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば」 「はい、お願いします」 「マイクはどこよ! マイクは!」 「いえ、そのままで大丈夫ですが……」 「マイクがないと格好付かないってーの。こう頭にかぶるやつとかないの?」 「あります! あります! 艦長が使っていたインカムが――艦長席に」 船室の奥に一段高くなったコの字型の教壇みたいな場所があった。 「あそこか」 アタシがすばやく体を滑り込ませると床から椅子が上がってきた。アタシは持っていたじいちゃんの位牌を椅子の上に置く。それを合図にしたかのように操作パネルに一斉に灯がともる。天井に付いているでっかいスクリーンにも灯が入り、何分割かされた船外の様子が映し出される。 「じいちゃん……」 アタシは仁王立ちのままパネルを見渡す。 すると操作パネルが開いて、中からマイク付きヘッドフォンがせり出してきた。鷲づかみにして頭にかぶる。 操作パネルに、だんっと左手を付き、右手でぐいっとマイクを口元に引き寄せる。 まっすぐに前を向いて叫んだ。 「もうなんだかしらないけど、武器、はっしゃぁぁぁぁぁっ!」 「了解。マイクロミサイル有視界ロック、順次発射。パルスレーザーカノン、うちーかたぁはじめぇ」 さっきまで情けない声音だったアビオが勢い込んで告げる。 と、同時に窓の外に光の線が飛び交い、ミサイルがネズミ花火みたいに縦横に駆け回った。 スクリーンに映っていた敵もあちらこちらで一斉に爆発を起こしている。 まるで遊園地パレードの花火のフィナーレのような光景だ。 「アルファグループ殲滅、デルタグループ殲滅……」 状況を刻々とアビオが報告する。 「パトロールドローン、全機撃墜」 「あーあ、やっちゃった……」 アタシは今更ながら事の重大さに思いをはせていた。 「いいのかなあ……こんなことして……」 いくらドローンが無人機だと言っても、公共物を何十個もぶっ壊したのだ。こりゃあ戻ったらお叱り程度では済まないだろう。っていうかもう家に帰りたくない気もする。 「仕方がありません、降りかかる火の粉は祓わなければなりませんから」 「まぁそりゃ、アタシだってまだ死にたくないしね」 「あの……」 「ん、なに?」 「ありがとうございました」 「な、なに? バカ娘が艦長代理なんて、あんたにとっちゃ不本意なんじゃないの?」 「いえ、それが……さっき艦長席に立っているあなた様の姿に、在りし日の艦長の姿が重なって見えた気がしたのです」 「まじ?」 「はい、とても不思議なことなのですが」 「へえ……まあ、そういうこともあるかもね」 アタシは振り返り、艦長席の椅子の上に置いたじいちゃんの位牌を見る。 でも、動いてる気配はないし、カコちゃんも出ていなかった。 それに、一メートル以上離れてないしね……。 「やはりあなた様は艦長の御令孫様に間違いありません。わたくしが見込んだとおりのお方でした」 うーむ、どの時点で見込んだんだ……? なんか調子よすぎるような気もするけど、まぁいいか。 と、ほっとした空気が流れたのもつかの間、緊迫した声でアビオが叫んだ。 「ミサイル接近! 数は4機。距離は――すぐ近く、ですわ」 「なっ、なにそれ……」 一難去ってまた一難ってヤツか。 でもどういう事だ? パトローンとドンパチやってる時に撃たれてたってことなのか? だいたい、ミサイルなんてどっから飛んできたんだ? 頭の中に数々の疑問が浮かんでは消えるが、とにかく今はミサイルだ。 「型式識別成功。小型のアホガミール二機、中型のピッグテイル二機と確認」 「ミサイルって……ドローンのブラスターなんかよりずっとやばいんじゃ……」 それに、すぐ近くってなんだ? いくらなんでもアバウトすぎる。 「着弾まで10秒以内。ミサイルでの迎撃は不可能、フィールドスクリーンも間に合いまへん」 「オートバルカン全門斉射!」 およねさんがヒステリックに叫ぶ。 どうやら専守防衛に関してはアタシの出る幕はなさそうだ。 「オートバルカン全門斉射中。一機撃墜――二機撃墜――三機撃墜――四機目が……あかん、当たらへん、くる! くる! 突っ込んでくる!」 「艦長代理! 衝撃に備えてください!」 およねさんの言葉が終わらないうちに、船体を震わす振動が起き、爆発音がそれに続く。 「きゃあ」 船内灯が点滅を何度か繰り返したけれども、すぐ元に戻った。 アタシは危うく舌をかみそうになったけど、なんとか立っていることができた。 「アホガミール一発が右舷後方に命中」 アビオがくやしそうにうめく。 「損害の状況を報告するわ。第二装甲板に亀裂発生、気密隔壁作動、自動消化装置作動。アビオニクスセンサー系、兵装ともに損傷はなし」 「大丈夫……なの?」 アタシがおそるおそる訊ねると、およねさんがふっと鼻で笑うような音をさせた。 「ご心配なく。この程度の損傷、かすり傷ですから」 「そっか、よかったぁ」 「せやかて、じきにミサイルの第二波が来よりますで」 「え? そうなの?」 「はい、おそらくすでに接近中かと予想されます」 「予想……って、なんでもっと早く見つけられないわけ? レーダーとかあるんでしょ?」 「あるにはあるんですが……。その……肝心のレーダー手がいないのです」 「……はあ?」 「つまり、人手不足、と言いますか、AI不足で、オペレータがいないのです」 「そ、そんなの、あんたたちのどっちかがやればいいんじゃ……」 「それがその、実は、もうすでにアビオがガンナーを兼任していて、わたくしが艦内モニタを兼任しているので、もう手一杯なのです」 「ちょっと……じゃあなんのためにあんなにいっぱい武器積んでるのさ、意味ないじゃん」 「はい……レーダーさえ使えれば、発射と同時に捕捉して、迎撃することも可能なのですが……」 「むー、レーダーってどれなの?」 「はっ、もしかして艦長代理自らやっていただけるのですか!」 「できそうなら、やってもいいけど」 「できます、できます、簡単ですから。今準備します」 およねさんが言うと。船室の真ん中にあるドーム型のモニタに電源が入った。 「これ、どうやって見ればいいの?」 「まずはモニタの手前のMPDでメニューを辿って、対空、対地、対亜空間、各モードを切り替えた後、レンジと指向性を調整してください。VS>RWS>TWSの順に走査範囲が狭くなりますから、機影を補足したらタッチ操作でロックオンしてください。カーソル右下の数字が相対速度なので、そこから現在の速度を足し引きした値がターゲットの速度ということになります」 「計算……せよと?」 「あ、そこの引き出しの中に逆ポーランド電卓が入っていたはずです、遠慮なく使ってください」 「って、できるか! こんなの!」 「やはり無理ですか」 「無理に決まってるよ、こんなややこしいの」 「人間が操作するためには多少操作が煩雑になってしまうのは、仕方がないのです」 「あのさあ、どっか他からちょこっと回せそうなAIはいないの?」 「あいにく、AIオペレータも生き残ったのはわたくしとアビオだけなのです」 なんとまあ…… 情けない話ではある。どれだけ立派な装備が揃っていても、それを動かす肝心の人間かAIが居なければ何の役にも立たないのだ。 ん、待てよ? AIか……。それならひとり心当たりがあるぞ。 アタシは艦長席の椅子の上に置いていた、じいちゃんの位牌を手に取る。アンテナマークは三本立っているけど、相変わらずじいちゃんは出てくる気配はないし、カコちゃんも出てくる様子はない。 壊れたのかな? 「ちょっとこれ、壊れてないか見てくれる?」 アタシはおよねさんからよく見えるように、じいちゃんの位牌を持ち上げて訊いてみる。 「なんですか、その抹香臭いガジェットは」 「じいちゃんの位牌」 「はっ、これは失礼しました。艦長のご位牌とは気づかずに、さっそくお線香を…………お持ちじゃないですか?」 「ごめん、ないっす」 「そうですか、ではせめて追悼に弔砲を撃ちましょう」 「ちょうほうって、黙祷、敬礼、どどーんって感じのヤツ?」 宇宙葬って言うんだっけ? 確かじいちゃんの昔話の中に、そんな場面があった気がする。 「ええ、そういう感じのヤツです。アビオ、なにか一発撃てる?」 「艦底部ジェノサイドキャノンやったら、すぐ撃てまっせ」 「そうねえ、かなりエネルギーを消費するけど、派手ではあるわね」 「ちょっと待ったぁぁぁ――!」 「なんでしょうか艦長代理」 「なんかそれ、地面に当たりそうな雰囲気の武器なんだけど、大丈夫だよね?」 「はい、拠点制圧用の武器ですが、この高度なら問題ありません」 「それって、この船には問題ないってことに聞こえるんだけど……」 「そうですね、地上半径10キロ程度は消滅と言うか、蒸発しますが、問題ありません。この一帯はセトラーズしか住んでいませんから」 「いや、やめといてくれる?」 一応アタシの家もあるんだけど。 でもなるほど、どうりでセトラーズの軍隊が大あわてでミサイルなんか撃ち込んでくるわけだ。 これはやばい、やばすぎる。 はっきり言って死んだかもだよね、アタシ。 「とにかく、そういうのは後でゆっくりできるし、なんならじいちゃん本人が出てくるかもだから、今は黙祷だけにしといて、この位牌を調べてみてよ」 「なるほど、ただの位牌ではないとは思いましたが、分かりました。それではマルチスキャン解析台にセットしてください」 「あ、これね」 アタシは床から出てきた台の上にじいちゃんの位牌を寝かせてセットする。手を放すと同時に、台のあちこちから細い線が伸びてきて、位牌をぐるぐる巻きにした。どうするのかと見ていると、今度は青いレーザーのラインがせわしなく行き来して、位牌を調べ始めた。 「電池切れとかじゃない? 中古の電池使っちゃったから」 「いえ、プルトニウム電池ですし、それは問題ありません」 うーん……ということはやっぱり故障なのか。 「こ、これは――!」 「?」 「す、すごいテクノロジーが使われています……。メインプロセッサは128キュビットの量子プロセッサ、ペリフェラルは、かろうじてレガシィのUSBxがアクセス可能なくらいで、後は未知のインターフェイスばかりです。しかもこれは、セトラーズの技術を利用して作られているようです」 「ん? あれ? そもそもこの船って四十年間冬眠してたんだっけ?」 「いえ、限定的ではありますが、社会情勢や、技術進歩を取り入れるための諜報活動は続けていました。とりわけプロキオン星系思念群の強さの秘密である、思念実体化技術の情報を探し求めていたのです」 「な、なに? それってもしかして……」 「そうです。このガジェットには思念実体化エンジンが組み込まれているようです」 「あ、ああ……そうなんだ」 そりゃまぁ、そういう機械だからね。 っていうか、四十年間、どこを探していたんだ? およねさん。 「いったいどこでこのガジェットを手に入れたのですか?」 「テレビ通販だけど」 「それは盲点でしたぁぁぁぁ」 本気で探してたの? 「とにかく、このままでは解析不可能なので分解しましょう」 「え? バラしちゃうの?」 「はい、これを解析すれば、無敵の思念群軍の弱点が見つかるかもしれません。そもそも思念体なんて卑怯なのです、チートです。死なないんですから。もともと勝ち目のない戦いだったとしか言いようがありません」 思念群軍って、正式名称なの? ちょっとかわいい。 いや、そんなことより…… 「分解して、元に戻せるの?」 「無理ですね。超LSIはスライスしないと中が見えないですし」 超LSIって聞いたことないけど、なんとなくすごそうだ。 でも…… 「だめだよ! それ壊しちゃったら、じいちゃんに会えなくなるよ! それにカコちゃんにも用があるし」 「そうですか、わかりました。艦長代理命令とあれば」 「うん、壊さないように調べてよね。なんで動かなくなっちゃったのかを」 「デリケートで精密な機器のようですから、外来ノイズでハングアップしているのかもしれません。ちょっとリセットしてみましょう」 位牌をぐるぐる巻きにしている線の一本がほどけて、位牌の裏側をプチっと押した。 と、ぴこん、と小さな女の子が現れた。三等身のくせに黒ずくめのレディススーツというフォーマルなコスチュームだ。胸には白いハンカチまで差してある。 「あ、おはようございます。朝に礼拝ゆうべに感謝、みんなのアイドル、ご案内役の過去ちゃんですぅ」 「あ、出た」 つーか、アイドルってなんだ。マスコットからクラスチェンジしたのか? 「あ、これはこれは、ご遺族様の方ですね……えっ、後ろにいる人達はどちらさまでしょう?」 カコちゃんはアタシを見とがめると同時に、AIの二人も見えてるみたいだ。さすがはAI仲間というところなのか。 「あれ? ここどこなんですかぁ、なななんでそんな怖い顔で睨むんですかぁぁ」 睨まれてるのか? それにしても、えらいうろたえようだ。声がめちゃくちゃ震えている。 「ああ、ここは宇宙戦艦の中だよ」 「な、なんですかそれぇ、お仏壇もないですしぃ、それに、お位牌はどこに行ったんですかぁぁ」 「ここにあるよ」 「ななななにしてるんですかぁ! 故人様のお位牌をこんなぐるぐる巻きにするなんてぇ、バチかぶりますよぉぉ!」 意外に良識があるカコちゃんだった。 「うん、それはアタシもちょっと思うけど、今は非常事態なんだよ。だからカコちゃんに頼みたいことがあるんだけど」 「な、なんでしょう、わたしにできることと言ったら、歌って踊るくらいのことですようぅ」 「いや、レーダー係やって欲しいんだけど」 「えっ、そんなお仕事はカスタマー契約内容に含まれていないですぅ」 ん? 歌って踊るのは料金に含まれてるんだろうか? ちょっと見てみたい気もする。 いやいや、そんなことより。 「できないんだったらじいちゃん出してよ。じいちゃんならできるだろうし」 ボケてなければだけど……。 「わ、わかりましたぁ。あ、あれ? おかしいですぅ、充分な思念濃度はあるはずなのに。うーん、はっ、ここってノイズがいっぱいですぅ。これじゃ実体化できないですぅ」 ノイズ? ここにある機械から出てるってことなんだろうか。 「失礼なことを言う女ですね」 およねさんが憮然とした口調で言う。なんか機嫌を損ねたみたいだ。 でも待てよ…… 「これって敵の弱点になるんじゃないの?」 「いえ、たぶんだめです、電磁シールドが貧弱なだけみたいですから」 この筐体、とおよねさんが断言する。筐体ってのは位牌のケースのことらしい。 およねさん、さっきはすごい技術とか言ってなかったっけ? まぁホントのところ安物だしね。 「とにかく、じいちゃんが出せないんだったら、カコちゃんにやってもらうしかないね」 「む、無理ですぅ」 わたわたと両手を振りながら例の冷や汗のエフェクトが振りまかれている。 「およねさんの見立てはどう? カコちゃんは使えそうにない?」 「そうですね、基本スペックは高いようですが、オペレータとしての知識が皆無ですね。今のままでは」 「そうなんだ、やっぱ無理?」 「いえ、情報をインストールしてやれば、充分使い物になるはずです」 「ふーん、インスコってヤツね」 「ええ、そういうヤツです。ふふ」 「なななにするんですかぁ、こっちに来ないでくださいぃぃ」 はて? アタシには空中に浮いたままで、何かから逃れようとしているカコちゃんの姿しか見えないが、カコちゃんには何か恐ろしい物が見えているみたいだ。 「じたばたしても無駄よ。ここではわたくしのパワーのほうが勝っているんだから」 「やややめてくださいぃぃ、ひっ、そ、それなんですかぁぁ、そんな大きいの入るわけないですぅぅ」 「たかが200ペタじゃない。大丈夫、あなたならできるわ。さあ、いくわよ」 「ひゃあっ、そんなとこにメモリを突っ込まないでくださいぃぃぃ」 なにがどうなってるのかわからないけど、一瞬エビぞりになったカコちゃんがぴくぴくとけいれんしている。ホログラムのカコちゃんのグラフィックが切れ切れになっているのは、位牌のレーザーレンズが線で隠れちゃってるからだろう。 まるで自主規制しているみたいだ。 「いっいやっ、わたし壊れる……裂けちゃいますぅ」 なぜか変な小芝居が始まってるみたいだけど、アタシには所々しか見えないのでおもしろくも何ともない。そもそもコネクタが突っ込まれてるのは位牌本体のUSBポートだしね。 「いやあ、眼福でんなあ」 こっちも見えるわけじゃないけれど、アビオはきっとにやにやしながら眺めているに違いない。アタシだけのけ者というのが、なんとなくむかつく。 「すぐ終わるから、がまんしなさい」 「ひ、いやあぁぁ、はいってくる……あ、ぅ、ん……すごく……おっきいです」 「もう半分入ったわよ、ほら、もっとでしょ? このよくばりさん」 そろそろやめてくれないかなあ、その変なノリ。 なんてことを思っていると、ピピッと小さな音がして、位牌からコネクタがはずれ、巻き付いていた線が離れていった。 「インストール完了。よくがんばったわ」 すべてが終わった後、放心状態になったカコちゃんがぱたりと空中に倒れ込む。 その目は見開かれたままだ。完全に瞳孔が狭窄したうえに、うっすらと涙が浮かんでいる。なんだかバックにひぐらしの声でも聞こえてきそうな絵ヅラだ。 まぁ、ちょっとかわいそうな気もするけど、今は非常事態だ。心を鬼にしてカコちゃん補完計画の成就を祈ろう。 「さあ、起きなさい。これしきでへばってる場合じゃないわよ」 およねさんの叱責にびくんと反応したカコちゃんがゆらりと立ち上がる。 「お、おはようございまふぅぅ、あさにらいふぁい……えっと……なんでしたっけ」 「おかしいわね、再起動がうまくいってないのかしら。まだ昔のことを憶えているなんて」 え? そこまで改造しちゃったの? アタシのことも忘れてたりして。それはちょっと寂しい。 「さあ、ぼやぼやしてないでさっさと配置に付きなさいな」 「ふぁい」 立ち上がったカコちゃんがふわふわした動きでレーダーのところに移動した。 レーダー画面に灯が入り、カコちゃんの顔が浮かび上がる。 だけどもその目は、ぴたりと画面を捉えていた。 うわ、目が据わってるよ……。 突然カコちゃんの手が目にもとまらない速さでレーダーの操作パネルをタップし始めた。丸く盛り上がったドームは大きくて、カコちゃんには手が届かないので、空中をちょこちょこと移動しながら画面をタップしている。まるで蜜を吸うハチドリのような動きだ。 「12時の方向、ミサイル16機接近中!」 カコちゃんが張りつめた声を上げた。 「距離、ふたじゅうごおまるマイル。着弾まで2.48562857掛ける10の46乗プランク時間、ですぅ」 なんだか最初の方はわかったけど、後の方は何をいってるのか全然わからなかった。 しかも語尾のですぅ≠ェ取って付けたみたいになってるけど、かろうじて残されたカコちゃんのアイデンティティかもしれないので、そこは尊重しておこう。 「なかなか良い調子じゃない。一部単位系が人間にはわかりにくい事になってるから直しておくわ。それにしても、もうそんなところまで来ていたなんて」 まぁ、ゆっくりしすぎだよね。非常事態なのに。 っていうか後何秒で来るわけ? 「どう、アビオ、迎撃できそう?」 「問題おまへんけど、一応大事をとって、T字戦形態で迎撃しまひょか」 「いいわ、とりかじ一杯、90度回頭」 「とりかじ一杯よーそろー」 「右砲戦用意。アーマゲドンシステム起動。全ターゲット同時攻撃モード。カコはターゲットフォーカスを維持して」 「はい、ですぅ」 おお、なんだか俄然無敵感のあるやりとりだ。アタシなんて出る幕ないんじゃ……。 「艦長代理! トリガーを」 「え? あれ? これって防御だよね。なんでアタシが?」 「いえ、レーダー照射によるロックオンは攻性行動の範疇ですから」 「へえ……そっか」 言われてみればそんな話を聞いたことがあるような気がする。 「んじゃ、いくよ。はっしゃ、はっしゃ、全部はっしゃぁぁぁぁぁ」 アタシは右手に掴んだマイクに向かって叫んだ。 「マイクロミサイル、バーストモードで発射。続いてフィールドスクリーン展開用意。速射砲うちーかたぁはじめぇ」 一斉に放たれたミサイルや大砲のせいなのか、強い振動でブリッジが揺さぶられる。 天井のマルチスクリーンには大挙して飛び去っていくミサイルの姿が映し出されていた。 でも、望遠が届かないのか、煙の尾を残して画面から消えていく。 「マイクロミサイル、迎撃ポイント到達まで、ふたじゅうご秒、ですぅ」 カコちゃんの報告は時間の単位が修正されて、わかりやすくなっている。と感じるのはアタシの感覚がおかしくなっているのかもしれない。 マルチスクリーンの画面が切り替わり、レーダー画面が映し出される。 カコちゃん、なかなか良い仕事をするじゃないか。 「ハルバートやったらミサイルビューに切り替えできるんやけど、もったいないさかいなあ」 数少ない発言のチャンスとばかりにアビオがコメントする。 レーダー画面の方は、接近する16個のカーソルにおびただしい数の白い光点が群がっていくところだった。 そして、見る間にすべてのカーソルが消滅した。 「ミサイル、全機撃墜、ですぅ」 「ふふ、T字形態にする必要もなかったわね」 およねさんが不敵につぶやく。 「す、すごい……」 「これが本来の颯風の防御力なのです」 あっけにとられていたアタシに向かっておよねさんが誇らしげに告げる。 確かにすごい。すごいと思う。 でも…… 「セトラーズの軍隊が出てきたら、やられちゃうんじゃないの?」 いくら強いとは言っても、地球人はセトラーズと戦争して負けたのだ。こんなミサイルじゃなくて、向こうも戦艦を出してきたら、こっちはただの一隻、とても勝ち目があるとは思えない。 「そんなことを心配していたのですか」 「だって」 「ご心配なく、今のセトラーズに本艦を凌駕する戦力はありません」 「え?」 「プロキオン思念群はいわば戦闘民族なのです。この宇宙に同胞を広めることを目的としています。だから戦闘タイプの思念群軍はある星系の制圧が終わると、他の星系へと目標を変えるのです。さながらイナゴのように」 「じゃあ、地球にはセトラーズの軍艦はいないってこと?」 「そうです。地球防衛軍との戦争が終結して四十年。シビリアンタイプである今のセトラーズにとっても戦争はすでに遠い記憶なのです。平和ボケしてると言ってもいいでしょう。おまけに太陽系周辺の星系はほぼ制圧が終わっていますから、前線はずっと遠くに移動しているのです。反転して地球に戻るまでに三ヶ月はかかるでしょう」 「ちょっと待ってよ、なら三ヶ月して軍隊が戻ってきたら、やられちゃうんじゃないの?」 「もちろん、そうなったら勝ち目はないでしょう。でも彼らが戻ってくるかどうかはわかりません。彼らの行動は地球人には理解不能なのです。案外彼らは一度手に入れたものには執着を持っていないかもしれません」 ほんとかなあ…… その割には結構攻撃してくるじゃない。 充分執着してるように思うけど。 まぁそりゃそうか。今の平和な世の中に、こんなぶっそうなもん引っ張り出してこられたら、じっと指をくわえて見てるなんて事もあり得ないだろうしね。 「それに、今回のこのガジェットの発見には大きな意味があります」 「じいちゃんの位牌のことだよね、それ」 それっておよねさんのリサーチ力不足のせいじゃないの? っていうか壊さないでよね。 「そうです。この様な第一級の重要秘匿テクノロジーが一般商品に使用されて流通しているということは、セトラーズも決して一枚岩ではないということを示しているのです」 「ん? どういう意味?」 「ポートモレスビー条約――終戦時に人類に突きつけられた数々の不平等条約なのですが、その中でも最大の足かせはIT系テクノロジーの使用制限でした。特に情報統制のためにネットワーク技術やインフラは、およそ100年の技術退歩を強いられたのです」 「え、そうだったの? でもパソコン通信とかふつうにやってるよ?」 「もちろん、ある程度の自由は残されはしましたが、未だに厳しい帯域制限や情報フィルタリングが課せられているのです」 「そうなんだ……じゃあ、昔はパソコン通信始めると電話ができなくなるでしょ! なんて母親に怒られるとかなかったのかな?」 「もちろんです。他にも夜11時を過ぎると急にプロバイダに繋がりにくくなって、ピーヒャロピーヒャロを繰り返すいらいらとも無縁だったのです」 「あ、それいいなあ。なんか腹立ってきたかも。セトラーズに」 「こんな風に一方で厳しい情報管制を敷きながらも、一部のセトラーズは利益のためにテクノロジーを漏出させているということなのです」 「つまりどういうことなのよ」 「つまりですね、本来は個を持たないはずの思念体が、ある意味堕落しているとも言えるのです。そこに付け入る隙があるのではないかと」 「ふーん」 およねさんの話はややこしくてよくわからないけど、とりあえずリサーチ力不足というのはアタシの誤解だったみたいだ。でもテレビはもうちょっと見た方がいいんじゃね? とは思うけど。 などと、まとまらない考えをまとめようとしていると…… 「報告します」 と、突然カコちゃんが甲高い声で告げた。 「レーダーに感あり、ミサイル接近中、ですぅ」 思い出したようにですぅ≠付けなくてもいいのにと思いつつ…… 「また来たの?」 ミサイル第三波ってことなのか? いつまで続くんだこれ。はっきり言っていい加減にして欲しい。 でもとりあえずさっきまでのような危機感は感じない。なんせこっちには優秀なレーダー手がいるからね。 「距離は?」 と訊ねるおよねさんの声も、心なしか落ち着いている。 だけど、カコちゃんの様子を見ると、さっきにも増してあたふたしている。 はて? どういうわけだ? 「えっとえっと、さんふたまるまるまるマイル、6時方向からですぅ」 「まだずいぶん遠いわね。数は?」 「一機ですぅ」 「たった一機? それ本当にミサイルなの? 戦闘機とかじゃなくて?」 「は、はい、識別信号は確認できません。それに、速度が……」 「速度はどれくらいなの?」 「マッハ35ですぅ」 「ま、まさか……」 「はいぃぃ、大気圏外弾道ミサイル、型式はスカイタートル2型と思われますぅ」 「くっ……ドン亀……か、まだそんなものが使えたのね」 「ドン亀? だなんて言う割にはすごいスピードみたいだけど……」 アタシは不穏な空気にびびりながら、およねさんに訊ねる。 「こいつは、大戦中の兵器です。まさか生き残りがいたなんて思いもしませんでしたが……いったいどこから発射したんでしょう」 「あのあの、発射地点はニューギニア沖赤道上の第二軌道エレベーターワルキューレ≠フSAMサイトですぅ」 「ワルキューレ! そ、それは盲点だったわ」 やっぱ結構あるよね、およねさんの盲点。 「でもさあ、またさっきみたいに撃ち落とせばいいんでしょ? 近づかれる前に」 「はい、そうなんですが……」 「なに? なにか問題あるの?」 「あのミサイルはちょっと特殊なのです。機体が超硬テクタイトの装甲板で覆われていて、弾幕や小口径砲では破壊できないうえに、弾頭も近接信管ではなく、リモート式なのです」 装甲板……? 亀ってそっちの意味だったんだ。 「いまのうちにハルバート全弾撃ち込みましょか?」 アビオの進言におよねさんは、悩ましげに答える。 「そうね、ハルバート一発分の弾頭炸薬量じゃ破壊は無理かもしれないけど……全弾撃ち込めばなんとかなるはず」 「全弾ゆうても4発しかないんでっけどね」 アビオの声も震えている。なんだかまたまたやばげな雰囲気になってきた。 「ハルバート射程圏内に入りましたぁぁ」 「艦長代理、発射許可を!」 「え? あ、ああ、わかった、んじゃとっととはっしゃあぁぁぁ!」 「ハルバート発射管、1番から4番まで、うちーかたぁはじめぇ」 スクリーンに映ったミサイルは、ほぼ真上に向かって飛んでいく。それに今度はミサイル本体にもカメラが積んであるようで、ミサイルビューと表示されたウインドウに、雲を突き抜けて進むミサイルの姿が、中継映像さながらに表示されていた。 「頼むでえ、ハルバート四人衆はん」 アビオが念じるようにつぶやく。アタシはレーダーに表示されている光点と中継画像を見比べながら、命中の瞬間を待った。 じりじりと時間だけが過ぎていく。 「迎撃ポイント、弾着まで10秒ですぅ」 「さすがに、早いわね」 やがてミサイルビューのウインドウに、かすかな点が見えたかと思った瞬間、映像がふっと途絶えた。 「ハルバート、全弾命中。ですぅ」 「やったわね。ドン亀は? 誘爆した?」 「あ……あ、い、いえ……スカイタートルは――目標は…………健在ですぅぅぅ!」 泣きそうな声でカコちゃんが叫ぶ。 「ええっ! だめじゃん!」 「あかん、きかへんかったんや」 「スカイタートル進路変わらず。着弾まで45秒ですぅ」 「なんでっ? 全部当たったんだよね? なんできかないのよっ!?」 「ヤツはサブロックシールドで近接信管の発動タイミングを遅らせる機能を持っているのです。だから破壊力も弱められてしまったのでしょう」 「なにそれ!」 「サブロック――空間変圧魚雷の特性を応用したシールドなのです」 「……ぎょらい?」 「こうなっては仕方ありません。アビオ、回避運動準備。おもかじ一杯、デコイもチャフもフレアも全部射出して」 「よ、よーそろ」 「それから重力アブソーバーもカット、ヒッグス粒子遮蔽フィールドの全セグメントを推力偏向にまわして」 「そ、それはさすがにまずいんちゃいます? 「仕方がないわ、そこはアビオ、あんたの腕の見せ所よ。戦闘航法《アビオニクス》AIのプライドに掛けて操舵しなさい」 「わかってまっけど……」 「よ、よけられるの?」 「避けるしかないのよ。ミサイルの進行方向と直角に……全速で……。できなければ、この艦は………………沈む」 「そんな……」 「艦長、この艦を、颯風をお護りください――」 「じいちゃん……」 はっとして、じいちゃんの位牌を見る。 だけど出てこない。この土壇場でも出てこれないんだ。 じいちゃん。 なんで…… じいちゃんはなんでアタシにこの船を呼ばせたの? アタシのことを守ってくれるんじゃなかったの? 答えてよ、じいちゃん。 じいちゃんの船にぎょらいが当たりそうなんだよ。 じいちゃん。 なんとか言ってよ! じいちゃん! あ…… なぜだか…… ずっと昔、公園で自転車の練習をした時のことを思い出していた。 あの時の……じいちゃんの言葉を。 そっか…… そうだ。 うん。 「じ……っちゃん、そうだよね、うん……わかった、わかったよ」 「艦長代理?」 「……逃げちゃ、だめだ……」 「え?」 「およねさん!」 「は、はい」 「アビオ!」 「へい」 「船をミサイルの方に向けて」 「ええっ!」 「逃げちゃだめなんだ」 「せ、せやかて……」 「いいから向けて。それから全速力でミサイルに突っ込んで」 「え、ええぇぇぇ? お、およねさん……どないしましょ」 「そんな、自殺行為だわ……そんなこと……」 「およねさん、アタシを信じて」 「……艦長代理?」 「おねがい、信じてよ――――アタシのことを」 「う……」 「信じてよ! じいちゃんの言葉を!」 「艦長の言葉……? え? 待って……そうだ……わたくしは……忘れていた…………。アビオ! 進路戻して。ドン亀に正対。機関最大、前進一杯」 「え、ええんでっか!」 「……ふふ」 「およねはん?」 「アビオ」 「は、はい」 「おまえも忘れてるみたいだね」 「え? なにを、でっしゃろ?」 「ここは――――大気圏内よ!」 「……あ! あ、あ…………よーそろ!!」 「オーケー、ドン亀を正面に捉えたわ。進路そのまま、船速を維持して」 「ひっ、12時方向、スカイタートル急速接近、ですぅ。着弾まで10秒…………5秒……3秒」 「アビオ! 今よ! ダウントリム2度!」 「よーそろぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――」 アタシは目をつむらない――つもりだった。 スクリーンに映るばかでかいミサイルが真っ直ぐに突っ込んでくるのを。 スクリーン一杯にドン亀が映し出される光景を。 必死に目を見開いて。 見届ける――んだ。 じいちゃんの船が、そのへさきが、ミサイルをはじき飛ばすのを。 ぎょらい≠ェ逸れていくのを。 「うおっ――」 「ぐっ――うっ――」 「ひいっ――」 頭が割れそうなほどの音が響いて、船全体が揺さぶられる。 意識が吹っ飛ぶ。 ……………… ………… …… 気が付くとアタシは艦長席の床にへたり込んでいた。 「どう……なったの?」 計器パネルにつかまり、なんとか立ち上がる。 「ご心配なく、やりました」 「成功でんな」 「ミ、ミサイルは……?」 「衝突は回避しました」 「よけられたの?」 「はい、正しくは向こうの方が進路を逸らせたと言うべきですが」 「ミサイルはどうなったの?」 「はいぃぃ、スカイタートル、コントロールを失い、第二宇宙速度で離昇中。まもなく成層圏突破します。ですぅ」 「ふう」 大きくため息をつくおよねさん。 「艦首前面衝撃波。わたくしもすっかり忘れておりました。なにしろずっと宙雷戦ばかりでしたから」 「へ、へえ……」 「お見事でした。艦長」 「や、やめてよ、艦長はじいちゃんだよ。アタシは艦長代理だよ」 「いいえ、やはりあなた様は艦長にふさわしいお方でした。たった今確信を得ました」 「……えっ?」 まあいいけど。 でも…… でもね。 「きっと、みんなのおかげだよ。みんながアタシを信じてくれたから……じいちゃんの言葉を信じてくれたから……だよ」 「艦長〜〜〜」 およねさんが潤んだ声で言う。 ちょっとかわいい。 ギャップ萌ってヤツかも。 「風花はん」 アビオの中ではそういう呼び名だったみたいだ。 アビオらしい親しみのこもった感じで悪くない。 「ご遺族様ぁぁぁぁ」 いや、それはやめて。 っていうか名前憶えてくれてなかったのか。 ちょっとショックだし。 「では艦長」 およねさんが改まった口調で言う。 「う、うん。なに?」 「当面の危機は去りました。以降は本艦の行動を艦長の指揮に委ねます」 「急にそう言われてもなあ……」 「思案中ということですか」 「ま、まあ……」 「そうですね、おすすめは、まずは二子山の地下にあるセトラーズのミサイル基地を叩きましょうか。それとも、いきなりワルキューレを大気圏に落下させるのも一興ですが」 「そ、そんな大それたこと考えてないんだけど」 「では、どこに進路を取れば?」 進路? 「どこへなりとおっしゃってください。わたくしたちはどこまででもお供します」 「進路か……」 アタシはじいちゃんの位牌を手に取る。 じいちゃんがこの船にアタシを乗せた理由、それをもう一度ゆっくり考えてみる。 あ。 そっか…… 思い出したよ。 そうだったんだね。 やっとわかったよ。 「目的地、決まったよ」 「はい!」「へい!」「はいですぅ」 アタシが向かうべき場所、取るべき進路、今ならわかる。 じいちゃんが伝えたかったこと。メッセージ。 そしてアタシは顔を上げ、言う。 「学校へ」 (了) |
陣家
2014年10月13日(月) 22時44分19秒 公開 ■この作品の著作権は陣家さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.12 陣家 評価:0点 ■2016-08-18 01:05 ID:y.C3ECh3cdE | |||||
うわっと かもめ氏さん、感想ありがとうございます。 しばらくこのサイト見ていなかったので、気づくのが遅れました。 返信遅くなりすみません。 冒頭はそれなりにインパクトあったようで良かったです。 まずは読者を引き込めないと、先はありませんからね。 ところで、ストーリー展開でよく思うのですが、良いストーリーってのは、読んでる時には全く先が読めない意外な展開なのに、読み終わって全体を俯瞰してみると王道的でよくあるお話だったんだなーって、思えるような筋書きなんじゃないかなと。 難しいんですけどね。 それでは、ありがとうございました。 |
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No.11 かもめ氏 評価:40点 ■2016-07-09 23:44 ID:LGBBG1L4ZS6 | |||||
拝読させて頂きました。 冒頭の幽体離脱の展開に目が点となってしまいました。読者を惹きつける冒頭に脱帽です。 ストーリー展開はとても素晴らしかったです。勉強になりました! ただ改行が少し多すぎて、無駄が多いような印象を受けます。 改行が気になって、文章にのめり込むのに少し時間がかかってしまいました。 そこが少し残念でした。 |
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No.10 陣家 評価:0点 ■2015-02-19 01:07 ID:T2P12kB.Ed6 | |||||
わお、返信ありがとうございます。 最近、仕事が立て込んでおりまして、自分もさっき帰宅したところなのです。 Physさんもご多忙だったようで、察するに余りある思いです。 人生にはそうした大事な時期と言うものがありますよね。 きっと真面目なPhysさんのことですから、TCでの中途半端な活動は憚られたのでしょう。 どういうわけか? 今は以前のようにアクティブに投稿や感想を付ける人はいなくなりましたが、細々と続けていればまたそのうちお会いできる日も来るだろうと、爪の先に灯をともすように投稿を続けてきました。 これからも、このサイトが存在する限り参加していくつもりでした。 そんな中、Physさんに再会できて嬉しい限りです。 もちろん、憶えているに決まってます。 恥ずかしい話なのですが、未だに落ち込んだ時には、ハッピーエンドサーキュレーションの感想欄を読み返したりして元気をもらっています。 もう何回読み返したか数え切れません。 自分、なにか書く時には、仮想読者を想定すると筆が進む人間なので、あの人ならこんなお話が好きだろうな、とか考えると、どんどんアイデアが沸いて出るので、いつも感想をくれる人がぱったりといなくなると、モチベーションもだだ下がりなのでした。 しかも、本当に以前の顔ぶれはお見かけしなくなりましたね。 中には感想欄での議論が高じて、自主退場なさる方もいらっしゃいます。 いろいろな人が集まるのがネットの良いところですが、それ故に時には衝突したり、誤解が生まれることも少なくないです。 でも、オーディエンスはそれほど偏っていない物ですので、おおらかにやっていこうと自分に言い聞かせています。 忙中閑有りとはいえ、やはり、物を書くのは気合いが要りますね。 自分はなるべく小説を読もうと、最近では車を運転しながら弦巻マキさんにネット小説や、青空文庫の朗読をiphoneで聞き、寝ながらオンデマンドサイトで映画を毎日一本見るのが最近のパタ−ンとなっています。 昨日はむかで人間を観ました。クソつまらんかったです。 どうでもいい報告ですね。 当方も、当分は忙しい状態が続きますが、Physさんの作品が投稿されましたら、万難を排して読ませていただこうと思います。 今から楽しみにしております。 それでは。 |
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No.9 Phys 評価:0点 ■2015-02-18 23:21 ID:FIm.G4w4GHI | |||||
追記 本当にお久しぶりです。Physの読み方は、「フィス」のつもりなんですが、 基本的には識別記号のようなものですので、読みやすい方でお願いします。 たぶん、社会人になってからなので、潜伏期間は3年くらいあったかと思い ます。TCから遠ざかるつもりはなかったのですが、公私ともに変化があり、 また、仕事とプライベートを両立するのは想像していたよりずっと厳しくて、 読まなければいけない本と語学をはじめとする勉強に追われているうちに、 気が付くと余裕がなくなっていました。 ということで、単に要領が悪いだけなのですが、小説を書くどころか、ここ 最近まではフィクションそのものから遠ざかっていました。学生のときには この意味が分かっていませんでした。仕事の合間に作品を書くのは、本当に 大変ですね。TCにいらっしゃる社会人の方に改めて尊敬の念を抱きました。 さて、平日にこうやって書き込みをしているくらいなので、今はいろいろと 落ち着いて、ようやく映画を観たり小説を読んだりする余裕が生まれてきま した。今回急に現れたのも、小説を書いてみたので、TCの皆様にお世話に なろうと思ったからです。推敲が終わったら、投稿できるかもしれません。 私に集客力のようなものがあるとは思えませんが、現在のTCに私の知って いる方がもういらっしゃらないのだとしたら、とても寂しいです。 molのロマンについては初耳でした。なるほど、数ベースの単位系ってよく 考えるとmolくらいですよね。化学量論か何かの授業で「化学屋さんが分光 分析を好むのは、データから直接molベースの評価ができるから」と聞いた ことがあります。私もあまり化学に詳しいわけではないですが、アボガドロ 数に神秘的なものを感じるのはなんとなく分かる気がします。 最後になりますが、陣家さんが名前を覚えていてくださったのが嬉しかった です。(忘れられていた場合も想定していたので) 作品と関係のないコメントをしてしまってすみません。失礼します。 |
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No.8 陣家 評価:0点 ■2015-02-15 00:31 ID:YeCW8U4Ne4. | |||||
な、なんとこれはこれは、ふ、Physさんではありませんか。 あ、今更ですけど、Physさんの読み方ってファイズさんで良かったんでしたっけ。それともフィジ? フィズ? とにかく、本当にお久しぶりです。 長の沈黙を破ってまでの感想書き込みありがとうございます。 実は出だしの幽体離脱チャレンジは、自分が幼少のころから試しているものでして、もしかしたら同じようなことをやった経験のある人がいるんじゃなかろうかという思いで、書いてみました。 もちろん成功したことはありませんが。 Physさんもおじいちゃん子だったのですね、自転車でいろんなところに連れて行ってくれたおじいちゃんはきっと孫娘がかわいくてしょうがなかったのでしょうね。 うさぎの遊具に乗って手を振る幼女Physさんの姿が目に浮かぶようです。 >陣家さんの仕掛けた罠だ すいません。せっかくの思い出をぶちこわしてしまいました。 でも、本当に書きたかったのはただの思い出としてのじいちゃんではないのです。 どんなに惚けようと、或いは死んでしまおうと、ただの遺志としての存在になるだけの人間は書きたくなかったのです。 惚けちゃった? 死んじゃった? なにそれ、関係ないよ? 健在ですよ、不滅ですよ。 じ い ち ゃ ん は !! 誰がなんと言おうと、ね。 きっとPhysさんのおじいちゃんも消えてなんかいません。 死んでなんかいません。 Physさんならよくご存じとは思いますが、大宇宙を構成する物質の成分は68%はダークエネルギー、27%はダークマターで、残りの5%程が今現在人間が知覚できている物質ということが分かっています。 生きていると言うことは、この5%の中に閉じこめられている状態なのかもしれません。 いや、そもそもこの5%の中でさえ、全てを認識できてはいないのですから。 蝶々は人間の目では知覚できない紫外線を見ることができるし、コウモリは音波の反射で世界をレーダースクリーンのように認識しています。 人間が便宜的に光と呼んでいるものは、周波数の高い電磁波に他なりません。 地球上の現世生物はたまたま、直進性が高く、分散率の低い一定の周波数帯の電磁波を空間認識に利用しているだけなのです。 宇宙には、世界には、人間の感覚器官では認識できない情報であふれているのかもしれません。 発明王エジソンが死の間際まで没頭していた研究は霊界ラジオでした。 ええ、そう、あれですよ、人間が想像できることは、いつか必ず実現できるのですよ。 人類もいつかは開拓者《セトラーズ》として、未開の地へ名乗りを上げる時が来ると信じています。 その時、死の概念が完全に書き変わることになるかもしれません。 ふう…… と、いうことで…… あ、そうなるとやっぱりじいちゃんが活躍しなさすぎですよね。 なんとか形を変えてでも、いつかそういうお話を書きたいと思います。 ところで、モルに反応しましたか。 うれしいです。いまだにそこに言及する人は皆無でした。さすがです。 1molはおおよそ6.022×10の32乗個の分子数あるいは原子数なので、1リットルの気体中に1molが存在したとして、水素分子と同程度の質量であれば18グラムの重さになるので、10のマイナス12乗でも、結構な濃度と言うことになりますね。 でもそこがmolのおもしろいところで、モル数はあくまで個数の単位なので、それがどんな分子なのかによってまったく重さが変わってしまうと言うおもしろさがあります。 なので、SFにおいてはもっともロマンにあふれる単位だと思っていますので、登場願ったわけです。 ところでPhysさんはまた作品の投稿はされないのでしょうか。 お忙しいとは思いますが、また拝見したい物です。 自分もめっきり投稿スピードは落ちておりますが、かつて、TCの隆盛の一翼を担っていた常連さんであるPhysさんが投稿されれば、かつてのにぎわいをかなり取り戻せるように思います。 本作の閲覧数を見ると、この超過疎サイトの中でも不人気ページであるファンタジー板であるにもかかわらず、Physさんが感想書き込みしただけで、約一日間で14閲覧数をたたき出しています。 まだまだその人気、知名度は衰えていないのではないでしょうか。 と、勝手に期待しております。 それでは。 |
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No.7 Phys 評価:50点 ■2015-02-14 11:53 ID:r2uruZNS3k6 | |||||
拝読しました。 お久しぶりです。陣家さんの作品を読ませて頂くのは何年振りでしょうか…。 早速ですが、拙いながら、感想を書かせて頂きます。 出だしから、幽体離脱の驚くべき実施手段にちょっと笑ってしまいました。 主人公の女の子が素直でかわいらしくて、なんだか登校拒否を匂わせている ところから、学園もののお話なのかな? と想像して読み始めました。最近 土曜の九時に「学校のカイダン」っていうドラマが日本テレビで放映されて いるのですが、そのドラマのような展開を想像していたのです。 それから、軍艦の船長さんだったおじいちゃんが出てきて、想像を少しだけ 方向修正しました。以下のおじいちゃんの台詞がすごく好きです。 > わしゃあ、風花が学校でこんないじめを受けたらと思うと、心配でたまらんよ。風花、学校でいじめられたら、すぐじいちゃんに言うんじゃぞ > こわいからといって逃げたらいかん。逃げたらよけいに危なくなるんじゃ。魚雷が向かって来た時と同じじゃ、魚雷が向かってくる方向に船のへさきを向けるんじゃ、そうすれば魚雷のほうから逸れていく こんなおじいちゃんがいたら素敵だなあ、と風花さんが羨ましくなりました。 また、自転車の乗り方と魚雷の避け方(?)の類似性を指摘されて、目から うろこでした。(もちろん魚雷の避け方は初めて知りましたけど……。笑) この自転車のエピソードは、自転車で遠くに行くのが好きだった私の祖父が、 私が幼稚園生の頃に自転車で隣町のスーパーに連れて行ってくれた思い出と 重なって、懐かしくなりました。スーパーの前に太いばねに繋がれたネコや うさぎの遊具がありまして、そこで遊ぶのを祖父が傍で見てくれていました。 祖父はもう亡くなってしまいましたが、その時は本当に悲しくて、お葬式で 祖父の顔をみたときは涙が止まりませんでした。脱線してしまいましたが、 おじいちゃん子の私には、とても共感できるエピソードだということです。 しかし、こういった人間味溢れるエピソードが、陣家さんの仕掛けた罠だと 気付いたのは、位牌を見つけた辺りからでした。私はすっかり主人公さんに 感情移入していたのですが、戦艦の起動からは私の想像力が及ぶ範囲を超え 始め、まさかの宇宙戦争的なお話になっていきました。物語の中盤でSFで あることが見え始めると(SFのページなのだから当然想定すべきなのです けど……)、一気に陣家さんの術中にはまってしまいました。 そこから先はもう息もつかせぬ展開でした。途中からギアを変えたと言うか、 本来の陣家さんのスタイルが前面に出てきたように思います。私はこういう モードに入ったときの陣家さんの文章がとても好きです。主人公さんおよね さんアビオさん過去さんの掛け合いに何度も笑いました。特に、 >「テレビ通販だけど」 >「それは盲点でしたぁぁぁぁ」 > 「ななななにしてるんですかぁ! 故人様のお位牌をこんなぐるぐる巻きにしてぇ、バチかぶりますよぉぉ!」 辺りがとても楽しかったです。SFは以前にゆうすけさんがおすすめされて いた神林長平さんのものをいくつか読んだくらいなので、実は用語の意味は ほとんど感覚でしか理解していなかったのですが、登場人物の人の掛け合い だけで何が起こっているのか分かるように書けるのは、本当にすごいと思い ました。分かりやすい台詞を書くのは、地の文を書くよりもずっと難しいと 感じているので、こういう陣家さんのセンスを少しでも勉強したいです。 そして、物語の最後におじいちゃんのエピソードが伏線として登場したとき には、意外性にやられちゃいました。どこに落ち着くのかはらはらしていた のですが、陣家さんにはそんな心配は無用ですね。「学校」という答えも、 落語のような落ちで素敵でした。 最後に一つだけ、不満だった点を指摘させて頂きます。 > 故人様のザンリューシネン濃度が10のマイナス12乗モル以下に 残留思念が濃度であるなら、単位体積を明示しないと不明確ですよ。笑 それ以外は誤記もなく、最後まで楽しく読むことができました。 また、読ませてください。 |
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No.6 陣家 評価:0点 ■2014-12-12 01:09 ID:T2P12kB.Ed6 | |||||
えんがわさん、感想くださりありがとうございます。 なんとか笑っていただける箇所があったようでほっといたしました。 カコちゃんのインスコシーン、思いっきりベタだとは思うのですが、それなりに好評のようです。 やっぱりこういう、はいここ笑うところですよってギャグも大事なんだなあと再確認しました。 自分的には、もっと細かくてわかりにくいギャグが好きなんですが、そういうのはそもそも通じてないのが大半なのかもしれませんね。 実は、今作はプロット的にロボットアニメを踏襲したつもりなのです。 平凡な日常に平凡な主人公が、ある日突然超絶パワーを持ったロボットを手に入れる。 兜甲児みたいなヤツです。 王道中の王道ですね。 「神にも悪魔にもなれる」能力――を手に入れた主人公が否応なく世界を変えるキーパーソンとなる、ってのは、子供の頃から刷り込まれたパタ−ンなんでしょう。 意見が被っているとのことですが、そうでもないと思いますよ。 えんがわさんの感想としては、後半は短いと思えるくらい読めるものになっているのに、前半は冗長ということのようですね。 これは片桐さんやゆうすけさんの意見とまったく逆なのがおもしろいなと思いました。 多分えんがわさんの好みは、自分と似ていると思います。 なにしろ前半はだいぶ無理してシリアスに書いてますので。 ただし、楠山さんにも指摘されているように、尻切れトンボな感はぬぐえないようです。 といっても、自分としてはもっと続きが読みたい、って思える短編は良作だと思ってるところがあるので、その意味では逆にありがたいなあという気もしています。 今回はオチだけは最初から決めて書き始めたのですが、書いているうちに、つい余計な設定を盛りすぎてしまって、不完全燃焼な印象を与えてしまっているのでしょうね。 実は続きの構想はないこともないので、こうやって続きのことに言及してもらえると、モチベーションをいただけているようでありがたいことです。 こうなったら、またちびちびと書いていこうかなと考えております。 続きを書くとすれば、まずはセトラーズとはどういう物なのかについて掘り下げないとダメですね。 なにしろ、かなり地球文明に同化した設定にしてしまったので、つじつま合わせは大変そうですが、郷にいれば郷に従え主義で適応を遂げた生命体ということでギャグネタを作れそうです。 高度な知力と幼稚な精神構造は霊長類の特徴ですから、それをデフォルメするだけでもおもしろそうですね。 うーん、そんなの書けるんだろうか? ところでえんがわさんはチバラギをお読みいただけたと思うのですが、あの作での舞台設定として隣人を不可視化する技術を使って、情報格差が極端に進んだ情報カーストの世界を描いたつもりでした。 自分としては、かなりぶっとんだ設定じゃないかなと思いこんでいたのですが、先日、光子の隙間にカムフラージュ情報を挿入することで人間を不可視化する技術を研究中だというニュースを目にしました。これが実現すれば、まさにITカーストの世界が具現化するだろうということです。 やっぱり人間の考える事って同じようなことなんだなあとつくづく思い知らされました。 人間が想像できることはいつか必ず実現できるってのはベルヌの言葉ですが、本当にそうかもしれませんね。 どうでもいい余談でした。 ありがとうございました。 |
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No.5 えんがわ 評価:30点 ■2014-12-11 20:08 ID:DR2hIgqKGrg | |||||
拝読しました。 楽しかったです。エンタメいいなって思いました。 作品読んでる間、睡眠を取ったんですが、久しぶりに笑える夢を見た気がします。中身忘れちゃったんですけど。 一番笑えたのが、カコちゃんへのインストールでした。 これは明らかに狙っていて、狙っていること自体が笑えるって構図だと思うんですが、清々しいほどキップがよくて、あと自分の好みが意外と古風だったのかなってのもあり、ツボでした。 最初の方は戦中体験の祖父とのことから今よりも過去の昭和の設定かなと思っていたら、途中からどんどんどんどんそこがずれてきて一気にスペースロマンまで引きずり込まれて、 そこらへんのトリックというか持って行き方とか、凄く好きです。 ただ最初の方、ちょっと焦れったかったり、飛躍への必然の助走だとは読み終えたあとにはわかるんですが、いじめとか引きこもりとかジメジメしてるので、ちょっと長いかもしれません。 これは全体のバランスで、つまり、長編な方向に持っていくのなら問題はないだろうし、もう、こうなったら学校を巻き込んでロボット対決してくれよー的な欲求もありました。 途中から縦のバーを見て、あっまだ終わらないで欲しいな、「続」ってなんないかな的な気持ちが強くなって、オチは綺麗に決まっているんでしょうが、広げた風呂敷に対して中身のあっさり感があったのでしょう。でしょう? あの、今回のバトルの最強の敵は良心というか倫理観というか常識というか、そういう感じに思えて、何だろう、花火のような戦闘の快楽へと持っていかないで、焦らしつつ、しょぼい面も見せつつ、 でも吹っ切れると「はっしゃぁぁぁぁl」的なのがあって、楽しかったです。 こんな経験するんだから、そりゃ今までの悩みなんて、飛んでいってしまうよね的な、スカッとした高揚感があります。 この黄金パターンはやっぱり楽しいです。なんか、こういうの久しく触れていなく、嬉しくなりました。 ここまで書いてみて、コメントを読んで思いっきり重複しているようで。 これは本作が安定していて確かな印象へと導いているパワフルな作品で、コントラストがくっきりしていることの証明じゃないかと言い訳をして。 ほんと独自性の欠片もない自分の感想で、すいません。 |
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No.4 陣家 評価:0点 ■2014-11-10 23:41 ID:xirF3gxu5AI | |||||
ゆうすけさん お読みくださりありがとうございました。 そもそも短編にしようと思ったのが間違いだったのかもしれませんね。 自分、とにかく貧乏性なもので、思いついたストーリーには必要のない設定や舞台背景までついつい盛ってしまう癖があります。 そのせいで、最初考えていたストーリーからかけ離れていくのがいつものパターンとなっています。 最大の戦犯は過去ちゃんですね。 こいつを出しちゃったがために、宇宙人の謎を解くキーパーソンというヘビーな設定が生まれてしまい、肝心のじいちゃんの影が薄くなってしまいました。 さて、人知を超越したソラリスっぽい観念系、思念体系の地球外生命体は一つのパターンですが、どうもこの手の宇宙人は人類を小ばかにしている輩が多いような気がします。 宇宙人は大体が上から目線なものでしょうが、特にこういう実体があるのかないのかわからない系の宇宙人はお高く留まっていて、自分たちを人類よりもはるかに高次の存在とでも思っている奴が多いですよね。 でも、本作に出てくるセトラーズは違います。なにしろ、上履きに画びょう入れたりするおちゃめな奴らですから。 しかもすでに少数派であるはずの原生人類向けにテレビ通販で怪しげなグッズを販売したりします。 多くの科学者が言うように、人類もいつかはマトリックスのような世界に住む意識体になるだろうというのは、今や現実味のある見立てですが、どんなに住む世界が変わっても、ちっぽけなプライドに縛られて日々を生きていくのではないかなと思っています。 未完成品……確かにそうかもしれませんね。 自分でもそう思うなら書けば? ですよね。 他人様の感想欄にネタ書き込みしてる暇があるならなおさらですね。 その方が平和になりますし。 ありがとうございました。 |
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No.3 ゆうすけ 評価:30点 ■2014-11-08 17:20 ID:7Ifq/xqLE0U | |||||
拝読させていただきました。肉体の衰えを感じるゆうすけです。 趣味に走って面白いノリですね。 序盤、引きこもり少女の現代劇だと思わせてからの意外な展開、まさかのSF展開へ……この意外性と、SF設定の奥深そうな面白さの気配、そこまではよかったのですが、その後が駆逐艦内での掛け合いだけで、せっかくの設定が生かせていないような印象です。話を中途半端に膨らませてしまったように感じました。どこで区切るか? どこまで描くか? 構成の難しさですね。 装備満載のAI宇宙船……「敵は海賊シリーズ」のラジェンドラが私は好きです。人間味の加減も、SFとギャグの比率も、難しい加減だと思います。 メインストーリーは、じいちゃんの遺志を引き継いで人類の逆襲開始かなと予想しながら読み進めましたが、なんとなく終わってしまったようで、もしかしてまた未完成かな……とか思ってしまいました。面白そうな設定を生かして描き切ればSFとして面白い作品になりそうですね。 |
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No.2 陣家 評価:0点 ■2014-10-26 00:24 ID:emodMEn5j1U | |||||
アカショウビンさん、お読みくださりありがとうございました。 冒頭の書き方は読みにくかったようですね。 自分は最近、活字はスマホで読むことが殆どで、大きなフォントサイズで縦書きにして読んでいるので、その形で読みやすい形に無意識にしてしまっているようです。 しかしながらPCの広い画面で見るとそれはやはり間延びして見えるし、頻繁にスクロールしないといけないので、読みにくいことも間違いないでしょう。 しかも手抜きに見えてしまうのは問題ですね。 とはいえ、ネット小説の大きなメリットとして大きな物の一つに、枚数制限を受けない、というのがあると思っています。 もちろんそれは単に長さの問題だけというわけではなく、紙媒体ではどうしても制限を受けてしまう、ページ数に対していかに効率よく文字を配するかという縛りが存在しないということです。 いわゆるラノベのページの下半分はメモ書きに使えるというような揶揄を受ける心配がないわけです。 最近開催された星新一賞では投稿規定は枚数で制限するのではなく、文字数で規定してしました。 近い将来、作品は原稿用紙換算ではなく、データ量が作品の規定となるのではないかと思います。 今現在でも日本人の四人に一人は60歳以上という時勢を鑑みれば、新聞や雑誌の文字はどんどん大きくなっていき、スマホは大画面化し、紙媒体での縛りはどんどん弱くなっていくのでしょう。 で、何が言いたいかと言うと、ラノベっぽい改行だらけの文章は今後の高齢化社会のIT普及にこそ必要だと思っていまして、自作は特に高齢者向けに書かれた、高齢者による、高齢者のための読物なので、紙媒体への展開を視野に入れない限りにおいて、悪くないんじゃないかなと思うのであります。 というのはウソで、単なる手抜きでした。 >自分が読み取れないだけかもですが、最初は現代の話と思ってしまいました。 いえいえ、そういうふうに書いていますから、当然です。 白状しますと、実を言えば、そのトリックだけで落ちにする予定だったのです。 つまり最初の予定からすれば、後半部分はまるっきり後からの付け足し、蛇足だともいえるのです。 ある意味ぶち壊しだったのかもしれません。 その辺を自分でコントロールできないのが自分のダメなところなのは重々承知しているのですが、つい書いてしまうのです。 チバラギなんぞはその暴走の結果、あんなことになってしまったわけですから。 読者目線に立てば、自分が書きたくないものをこそ書くべきなのは分かっているのですが、モチベーションの問題もありますから、その辺はうまく折り合いをつけてバランスを取らないといけないのでしょう。 >終わり方が短編の終わり方のように感じました ラノベにありがちな、起承転転転転、あれ? 結は? に陥ってますね。 短編としては失格です。 >もうひと悶着起こして やはり来るとは思っていましたが今回も言われてしまいました。この尻切れトンボ感は自分でも痛感しているどころか、この先の展開までも頭の中を侵略してきていて、それなら書くべきだろうなという気持ちも捨てきれません。 >カコさんのリロード 過去ちゃんはなぜか自分でも気に入ってしまって、無理矢理再登場させてしまいました。名前はもちろん過去帳のもじりです。 お気に召されたのであれば、幸いでした。 ありがとうございました。 |
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No.1 アカショウビン 評価:30点 ■2014-10-24 22:41 ID:3.rK8dssdKA | |||||
読ませていただきました。小説から遠ざかっている奴の感想です聞き流してやってください。 気のせいですが冒頭に改行が多いためか、ネタは興味を引きましたが雑な印象を持ってしまいました。この調子で進むのかな、と陣家さんらしくないなという印象でしたと忙しいのを知って難癖つけてしまいました。 自分が読み取れないだけかもですが、最初は現代の話と思ってしまいました。平坦になってしまうリスクはありますがファンタジー設定は早めに出したほうが僕は良いと思います。 マニアック(?)設定はおばかな僕にはちょうど良い塩梅で楽しく物語に移入しました。 大事の後に学校に戻るという所は面白かったのですが、終わり方が短編の終わり方のように感じました(いえ、陣家さんにとっては短編かも知れませんが)。クラスメイトは主人公の秘密を知らないのを利用してもうひと悶着起こしてハッピーエンドにしても良かったかな、と思います。 カコさんのリロードにはなぜかテンションが上がってしまいました。 失礼しました。 |
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総レス数 12 合計 180点 |
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