永久凍土

 花の匂いがした。
 一歩足を踏み出すごとに、夢のように舞い上がる花弁が目蓋の裏に浮かんだ。
 彼は目を閉じていた。あるいは盲目であっただろうか。――いったいいつから?彼は覚えていない。
 差し伸べる手は、気を抜くと宙高く浮かんで行ってしまう。――ここは水の中?自分が息をしているかどうか、彼は確かめ方が分からない。
 彼に恐怖はなかった。手足は固く疲れていて、ただ気持ちが良かった。体を押している何かの流れとともに、ゆっくりと歩を運んで行った。
 やがて辺りが生温くなった。あなたがそこにいる。彼はそう思った。
「       」
 口を開いた。声も空気も出てこなかった。体の中に何かが詰まっている。
 雪だ。
 柔らかな雪がぎっしりと詰まっているのだ。ほの冷たさが舌に触った。
 彼はあなたの声を聞いた。海底で揺れる声。菫色の声を。
「雪ですか」
「       」
「このごろは冷えますからね」
「       」
「わたしは平気ですわ、ここは一年中ひなたですから。あなたが選んで下さった場所ですもの」
 彼はその時、目の前に微笑む唇を見た。どっと何かを思い出しそうになった。
 オルガン。藁半紙。乾いた米粒。爪の間の土。とんびの声。挿絵じみた夕焼け。
 泡のようにぽかりぽかりと、掴みどころもなく、それらは遠ざかって、かわりに彼の耳に響き始めたのは、深い深い螺旋階段から吹き上げる風の音だった。
「あら、隙間風……」
 窓を閉めようとする白い手の記憶が、最後にぽかりと浮かび上がって、もう何もかもが暗闇になった。









 東京は雪に埋もれた。
 日ごとに街は白くなった。斜めに叩きつけ、あらゆる隙間を塗り潰す。ビルの屋上に蹲った、その男の影など、一口で食らい尽して、雪はうずたかくなる。
 音もなく崩れ、呑まれていく都市を見下ろして、ただ氷色の電波塔だけが、厚く曇った天を指して、墓標のように立ち続けた。

あさつき
2015年07月19日(日) 22時27分02秒 公開
■この作品の著作権はあさつきさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
垂れ流しわけわかめポエムごめんなさい。
ずっと書きたいと思っていたイメージが書けてすっきりしました…

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No.4  通りすがりです  評価:20点  ■2015-10-24 22:27  ID:cGIMZ/gS3V6
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 死のイメージかな。
 書かれている感触は感じられるように思います。
 意味は不明だけど感じられるってところです。
No.3  しょぼ  評価:0点  ■2015-08-04 00:37  ID:02vdbEm/EVA
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意味不明でよくわかりませんでした
No.2  あさつき  評価:--点  ■2015-07-28 09:15  ID:qBJb.Is0EhA
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走馬灯的なものを表現したかった…感じ…でした。
お目汚し失礼しました><
No.1  弥生 灯火  評価:10点  ■2015-07-26 11:32  ID:dPOM8su8lqs
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・・・ポエム?
よく分かりませんでした。
総レス数 4  合計 30

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