来世探し |
俺の物語が何処から始まったかと聞かれれば、それは俺の母親の腹の中で生命の種が芽吹いた時になる。 でも俺の人生なんて誰も興味は無いだろう。最初から話す意味も無い。 ならば何処から始めるか、始まりで無ければ終わりとしよう。 そう、この物語は俺の人生の終わりから始まるのである。 * 俺は死んだ。 あまりに唐突な切り出しで申し訳無いけどこの物語はこの切り出しから始まるのが最適だと思う。 何にせよ俺は死んだ。死因は交通事故、最後に自分の背中を見たので肉体は悲惨な事になってると思う。 出来るなら某野球漫画のように綺麗な肉体を残してきたかったものだ。 と、まあ俺は自分が死んだ事は理解している。しかし今の状況は理解出来ていない。 「おはよう、起きたわね」 目を開けると銀髪の少女が俺を覗き込んでいた。誰だこいつは。 「……おはよう」 まあ誰であろうと怯える事は無い。もし目の前にいるのがジェイソンだったとしても殺される事はもう無い。死んでいるのだから。 体を起こして座った俺に少女は言った。 「輪廻の終始点へようこそ、死んだ気分はどうかしら?」 勿論気分は最悪だ。 肉体もボロボロで死んだしな。一生は終わったけど俺はこの事を長く惜しむだろう。 何かこう「人生楽しかった、ありがとう」みたいな最後の言葉を残して死にたかった。 因みに最後の言葉は 「ぎゃぁぁぁぁ!」だった。 だから俺は少女に答える 「そりゃあ死んだんだから気分は最悪だ」 少女はクスリと笑った 「死んだのに気分も何も無いでしょ、何言ってるの貴方」 何だこいつ、少女じゃ無かったら殴ってたぞ。というか…… 「お前は誰だ、ここは何処だ」 少女は笑った 「記憶喪失みたいなセリフね」 それは言ってる途中で気づいた。何だか恥ずかしいので突っ込まないで欲しい。 少女はひとしきり笑って「まあ答えてあげる」と切り出した。 「さっきも言った通りここは『輪廻の終始点』」 「まて、俺が聞きたいのは名称じゃない」 少女は「今から説明するわよ」と、わざとらしく俺を睨む。 「輪廻転生、死んだ者はまた新しく生まれ変わる。そうね……円みたいな物を想像して」 まあ、それはわからんでもない 「終わりも始まりも無いその円に無理やり定めた終わりと始まりの定義、それがここよ」 「ふむ……」 わからん、俺が阿呆なのか少女が説明不足なのか……どう思うよ? 俺は説明不足だと思う、断固抗議だ 「意味わからん、自分だけがわかるように話すな」 「まあ普通わからないわ、私も半分くらい意味わからないし」 「……おい」 少女は溜息をついた。 「じゃあわかるように話してあげる」 「最初からそうしろよ!」 時間の無駄だったよこんちくしょう! 「別に時間は幾らでもあるわよ」 「まあ、そうか」 俺の一生は終わったのだからな 「まあ、ここを簡単に説明すると次に何に生まれるかを決める場所ね」 「…………」 「…………」 説明終わり!? 「え、何? 来世って自分で選べるの?」 「まあそうね」 少女はさも当然かの如く肯定した。 「えっと……じゃあ俺が選んだらどうなるんだ?」 「手続きが終わり次第生まれ変わるわ」 手続きって……何かおかしな話をさも当然のように話されると調子が狂うな。 「じゃあさ、天国とか地獄は無いのか?」 「交通事故や病気などで死んだ者が行ける場所じゃ無いわ、行けるのは主に老衰で死んだ人だけよ」 じゃあ天国って老人だらけなのか……まあ、それはいいか。 「そういう事なら目的は決まった、生まれ変わるには何処に行けばいいんだ?」 そう言ったら少女は意外そうな顔をした 「あら、中々素直ね」 「死んだんだから仕方ない」 「そうね……生まれ変わるにはその生まれ変わりたい生物の神の誓約書にサインして役所に提出する事」 そう言って少女は俺に地図を渡した。本当に役所って書いてやがる。 「何か面倒臭いな、承諾書とか意味がわからん」 「そうでもしないと希望していない生物に生まれ変わらせようとする奴らがいるからね」 「何の意味があるんだよ」 「生物の生存競争ね、その生存が絶滅するとその神の死と同じだから」 「ふーん」 神様も色々あんのな、神様とか信じてなかったけど。 何はともあれ目的は定まった。人間の神様に承諾書を貰えばいいんだな。来世も勿論人間だ。 「人間の神様って何処にいるんだ?」 「えっとね……大体ここ」 少女が指差した地図の場所にペンで丸をつける。あれ、ペンとか持ってたかな。 「人間の神の特徴は?」 「特徴も何も無いわよ、人間の姿形をしている」 「はあ……」 「じゃあ私の案内はここまで、じゃあね」 少女は唐突にそう言って翼を生やして飛んでいった。何だあのいかにも天使って感じの翼。 てかあいつは天使だったのか。 そんな訳で、人間の神探しが始まったのだった。 * 「さて……」 一人になった俺は辺りを見回した。ひたすらに花が生えている。あの世はお花畑というのもあながち間違っていないようだ。 地図を広げて丸をつけた場所を確認する。誰もいないので声に出して整理しよう。 「よし、じゃあここに行くには……」 ……あれ? 「ここに……行くには」 少しの沈黙、そして理解。 「ここ何処だよ!」 ゴールは分かってもスタートがわからない! 駄目だ、とりあえず歩こう。 「そこの人、何もしなくていい生き方に魅力は無いかな?」 「……?」 辺りを見渡すが誰もいない。気のせいか? 「下だよ、下」 下……花しか無いな 「黄色い花をよく見てみ」 声の言うままに黄色い花を見る。パンジーかな。 「いるだろ? 私が」 私とは何か 「……ああ」 多分こいつだ。花にぶら下がるミノムシだ。 「……ミノムシ喋るのな」 「そりゃあミノムシの神ですから……で、どうかな?」 ミノムシはユラユラと楽しそうに揺れている。 「……何が」 「来世はミノムシにならないか?」 「いや、いいです」 さて、行こう。何かミノムシが喋ってるけど無視だ、無視。 ・ 「やあ、そこの君」 次は犬が話かけてきた。無視。 「にゃあ、君」 猫、無視。 「ねえ」 鼠、無視。 「……どう?」 これも無視……って何だこいつ。 細長くて気持ちの悪い物がうねうねと動いている。 「ハリガネムシだ」 「絶対やだよ!」 くそう、数歩毎に誰かに話かけられる。うざったいなぁ…… 「よし」 俺は靴の紐をしっかりと締める。走るか * 俺は走っていた。これで虫系の小さいのは無視出来る。 「よう……」 目の前にいきなり現れた大きな者に反応出来ず、思わずぶつかった。 「い……ったぁ」 尻餅をつきながらぶつかった者を見る。 「おう、同じ系統で力の強いゴリラはどうだ?」 「嫌です」 断って走り出そうとすると腕を掴まれた。 「まあまあ、そういうなよ」 「……嫌です」 「まあまあ、これにサインするだけだからよぉ」 ゴリラが取り出した紙は恐らく承諾書。 これにサインしてしまったらこいつはそれを無理やり提出するだろう。 そうなれば来世はゴリラだ…… 「そんなの嫌だ!」 暴れるがゴリラの筋力には勝てない。 こんな事で来世が決まってたまるか! しかしゴリラをどうやって倒すか。 普通なら武器を使うのだが……今の俺の手元には何も無い…… 「何かあれよ! 武器とか!」 叫ぶといつの間にか手にバットが握られていた。咄嗟にそのバットでゴリラの目を突く。 「ぎゃっ……いってぇな!」 ゴリラの手は離れたがゴリラは追いかけてくる。早いなこのやろう! ・ もう少しで追いつかれる……そう思った時だった。 「やめんか野蛮人め!」 誰かに掴まれた。 「えっ……」 みるとそこにはモコモコの服を着た人。 「さあ、行こうか」 その人は俺を抱きかかえて凄いスピードでゴリラから逃げていった。 「ありがとうございます……」 「別にいいさ、いつもの事だ」 俺は助けてくれた人を見る 「……ん?」 人? ってことは 「貴方が人間の神ですか!」 「いや、雪男の神だよ」 「えー」 雪男の神とか居るのかよ! 来世雪男になる事も出来るのかよ! いや、ならないけどさ。 雪男の神はニコニコと笑って 「君は来世も人間になりたいのかな?」 「はい……人間の神が何処にいるか知りませんか?」 「知らないなぁ……他の神とは中々反りが合わないからねぇ」 「そうなんですか?」 皆言語は通じるのにか? 「言葉は通じてもやはり違う種族、中々親密にはなれないのだよ」 寂しい物だ、と雪男の神は笑った。 「じゃあ気軽に話せる人は少ないんですか」 「そうだね、ここに来た来世を選ぶ者くらいだね」 「……ん?」 来世を選ぶ者だけ? 家族とか……家族はいなくとも 「同族はどうなんですか?」 「同族何ていないさ、神は一種族に一つで充分だ」 「はあ……」 その後、雪男特製スープをご馳走になって俺は人間の神探しを再開した。 因みにスープは凄い冷たかった。 * 雪男の家を出た後、少し歩いて気づいた。ゴリラを殴ったバットは何処から出たのだろう? 武器が欲しいと祈ったからでたのか? 俺は試しに祈ってみる。 「自転車が欲しい」 目の前に出てきたのは一輪車 「……なんでさ」 余計疲れるじゃねぇか 溜息をつくと近くから笑い声が聞こえた。 「創造は想いが強く無いと成り立たないよ」 居たのは弱々しい身体の人、似合わないスキンヘッドだ。 「あんたは……」 「あ、地底人の神です」 だろうよ! 人間の神じゃないとは思ったよ! ……あれ? 「地底人!?」 「はい、地底人です」 「で、創造って?」 「さっきの通り、想いが強ければ何でも出せるこの世界の法則」 「なるほど」 さっきは本気でゴリラになるのが嫌だったから武器が出たのか。 納得していると地底人は何処からか紙を出した 「貴方地底人になる気は……」 「無い!」 俺はまた歩き出した。 * 数十分程歩くと人間らしき人影が見えた。 近づくと平均的な人がいた。 ザ、人間の神だ。 今までの失敗を踏まえて一応聞いて見る 「あんたが人間の神か?」 「ああ、私が人間の神だ」 やっと見つかった。俺は溜息をつく 「俺は人間になりたいです」 「ならばこれにサインなさい」 貰った紙に名前を書こうとする。 書かれた文を何と無く読んでみる。題名は…… 『来世狸誓約書』 「狸じゃねぇか!」 俺は紙を投げ捨てて人間の形をした狸の神を殴った。 * 「やっと来たわね……」 狸を殴ってしばらく進むとあの少女、最初にいた天使の少女がいた 「お前、現在地がわからねぇから地図意味ねぇじゃねぇかよ!」 「ああ……そうだったわね」 「とりあえず今は何処なんだよ」 地図を取り出すと少女は指を指した。指した場所は…… 「目的地?」 そう、赤い丸で囲まれた人間の神がいる場所なのだ。 「じゃあここに人間の神が?」 「いるわよ」 「何処にいるんだ?」 「ここよ」 少女が指したのは自分の胸。 「え……」 思わず少女の顔を見て固まる 少女はクスりと笑って 「私が人間の神よ」 そう答えた。 ・ 「……でもお前天使なんじゃ」 少女は羽を触る 「こんな物創造すれば簡単よ」 「本当に人間の神なのか?」 少女は紙を差し出した。何処からどう読んでもそれは人間の誓約書だ。 俺はその紙にサインする。 それを確認して少女は言った。 「じゃあ、役所に行きましょうか」 * 役所は綺麗な神殿だった。 「誓約書を提出せよ」 そう言ったのは小さい粒のような何か。何だこいつ 「細胞だ」 「はぁ!?」 細胞かよ! とりあえず俺は誓約書を出す。 細胞は無い口を開く 「それではこれより汝を人間として生まれ変わらせる、魂番号187959543番」 何だその番号。 ・ 「では始めよう」 細胞の言葉と同時に身体から光の粒が出る。 あ、そういえば。俺は後ろにいる人間の神、少女に話かける。 「何で最初に会った時に誓約書出さなかったんだよ」 「何と無くよ、貴方が困惑しているのを見たかったし」 少女はそう言って笑う。しかしそれは何処か悲しい笑い方だった。 よく見た事のある。誰かと別れる時にする寂しい顔だ。 寂しい? 神が寂しいのか? ここで俺は雪男の言葉を思い出す。 ここに同族は居ない。別種族ではどうしても親密になれない。 そう、言ってしまえば彼女は一人なのだ。いくら死んだ人が何人来るといっても皆生まれ変わる。 親密な人が居ないという意味では一人で孤独なのだ。 「うっ……」 頭に違和感を覚える。俺はこの考えを、この思考を何度も経験している。強いデジャヴというやつだ。 俺は生まれ変わる度に少女の孤独に気づき、それでもそれは遅くて生まれ変わってしまうのだ。 止めようとしてももう遅い。誓約書は提出され、光の粒も多くなっている。 光の粒が俺を包み、身体が浮き上がるのを感じる。 上に光る扉のような物があり、アレに入れば生まれ変わるのだと悟る 気づくのが……遅すぎた だから俺は今までの俺、187959543番の魂を使った全ての生物がそうしたように、来世の俺に祈る。 次こそ……この少女を孤独から助けてやってくれ。 * ふと下を見ると少女が手を振っている。その目には……涙。 俺は来世の俺に祈りながらそのまた扉に吸い込まれ……る訳には行かない! 俺が、今の俺がやらないでどうする! 俺は少女の方向に手を伸ばす。 届け……彼女も共にこの扉に しかし手は空を掴み、少女には届かない。 そんな俺を見て少女が涙をポツリと床に落とす 落ちた涙を見て俺は叫ぶ。 なんでもいい、ただのロープだろうが神の糸だろうが何でもいい。 何でもいいから 「届けぇぇぇぇ!!」 叫んだ瞬間手から蜘蛛の糸のような物が出て少女を包んだ。 「え……」 驚きの表情を浮かべる彼女をそのまま引き寄せて抱きしめる。 ご都合主義だろうと構わない。俺はこの少女を孤独から救ったのだ。 これはエゴかもしれない。此処にいた方が彼女にとってよかったのかもしれない。 ただそんな事は関係無い。少女は笑っているのだから。 俺が笑い、少女が笑い 俺達は満面の笑みを浮かべながら、扉に吸い込まれて行った。 |
タキレン
2015年01月03日(土) 03時14分46秒 公開 ■この作品の著作権はタキレンさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.1 タキレン 評価:--点 ■2015-03-02 17:17 ID:jPviRLtW00w | |||||
感想ありがとうございます。返信遅れてすいません。 なるほど、セールスマン。想像してみたら笑えました 転、ですか。確かに短い作品ではどんでん返しがあると映えますね ご指摘いただいた点、修正いたしました。 ありがとうございます。 |
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