昆虫食対策会議 |
「近年の人類の人口増加、将来の宇宙への進出を見越して、昆虫食を普及させようという動きがあります。飼料効率が高く食味も海老、蟹やナッツ類などに似ていて優れた蛋白源であり、原始人類には主要な食材であった昆虫類が見直されているのは、さほど意外ではありません」、会議の主宰者は口ひげを震わせながら切り出した。 「栄養学的、生物学的には昆虫食は妥当かもしれませんが、死肉や人糞にたかる穢れた生き物だのと、うねうね動いて気持ち悪いだのと、社会的、生理的に昆虫を口にすることを厭うように先達は文明の発達を促してきました。いまいちど、ハエ族、ゴキブリ族をはじめとする衛生害虫のみなさまの奮起により昆虫食を廃絶させようではありませんか!」、主宰のヘラクレスオオカブトは金色に輝く前翅を展げて訴えかけた。 「蛆虫療法で壊疽の治療のために人間に使役される同族があらわれたり、カースマルツというチーズに住み着いている蛆をイタリア人は好んで食べることが広く知られて、以前ほど我が一族は人間に嫌われなくなっており、好感度を下げるのは至難の業です」、会議場を五月蠅く飛び回っていたイエバエは申し訳なさそうに羽音を下げた。 「我々の南米の縁戚はすでに食用として養殖されており、サツマゴキブリなどは冷え性に効く漢方薬として珍重される始末。既に『美味しくてカラダにもよいゴキブリ』というパラダイムシフトは起きてしまっているのだよ」、そう言うとチャバネゴキブリは会議場の隅に潜り込んだ。 「そもそも、イナゴは洗礼者ヨハネも常食していたと聖書に記されていますし、あなたの遠縁のコフキコガネのスープはドイツやフランスでは御馳走だそうではありませんか。われわれの目玉も中国では薬膳ですし。人類に忌み嫌われることで捕食を免れようという発想は時代遅れです。それよりは、人間の反捕鯨や反犬食プロパガンダを参考に我々の高い知性やペットにもなる人間の友であることをアピールするべきでは?」 「人間の友?人間から吸血して日本脳炎の媒介もするのによく言うよ。それはともかく、人間の異種動物愛護精神に訴えるのは蚕成、ではなくて賛成だな。なにしろ高品位の繊維を作れるというだけで変態中の無抵抗な状態の時に釜茹でにされ、繭を繰り取られ、体は摺り潰されて飼料にされるんだ。こんな残酷な虐待、よそでは聞いたことないよ。毛皮反対の女闘士は絹のパンツも履くなって言いたいね」、カイコガが飛べない翅をばたつかせながら身悶えた。 「絹糸はともかく、カイコは有望な宇宙食として研究されていますからね。さて、高い知性となると我々やアリ族、シロアリ族のような社会性昆虫が代表格ですわね。でも私たちが8の字ダンスを踊ることや女王と働き蟻の分業制を施いていることを人間は発見しても特段敬意を示したようには見えませんね。それどころか、新しい農薬を開発して、蜂群崩壊症候群などという私たちの社会性に対する攻撃すら始まっています。そう、攻撃されたら反撃しなくてはなりません。人間のペットになるなどと媚びるのではなく、人間に鉄槌を喰らわせて、我々を食材化する事を断念させるべきです。人類の数が減れば人類の食料問題も解決して昆虫を食べようなどと思わなくなるでしょう」 「どうやって攻撃するんだい?その針でかい?一匹一殺ではすぐに駆除されてしまうよ」ナナフシが身じろぎもせずに訊ねた。 「私たちが受粉をサボタージュするのです。蜂がいなくなったら人間は四年で滅びると言った人もいるそうですよ」 ナナフシは、少しふらふらと体を揺らしながら、短くため息をこぼして、話し始めた。 「受粉を行わないって?つまり花粉も花蜜も集めないと言うんだな。そりゃ、人間が滅びる四年前に蜂が絶滅するよ。しかも植物には虫媒ではなく、風媒や鳥媒で受精するのもいるんだぜ。おまえさんがいなくても麦や米やヤマモモは稔るさ」 ミツバチが口惜しそうに後肢の花粉団子を丸めだした。それを見たヘラクレスオオカブトが話を引き取った。 「昆虫嫌いを増やすのも難しい、人間と戦うことも現実的ではない、知性のある保護すべき対象だとして反昆虫食団体が人間達の中に生まれるのも望み薄、そうなると『かわいい虫さんを食べるのはかわいそう(はーと)』と人類に昆虫の認識を転換させるしかあるまい」、いろんな意味で会議場の一同が引き気味になるのも構わず、ヘラクレスオオカブトは熱弁で会議を締めに入る。 「それにはもっと目立たなくては!パンダのように複眼のまわりを隈取りするとかわいくなるんじゃないか?触覚を緑に光らせればツインテールっぽくなりそうだな!みんな、怯まずにやってみるんだ。新しい時代の始まりだ!」 会議終了後、昆虫達はそれぞれ人間から「かわいいっ!」と思ってもらえそうな目立つ擬態を工夫して会議場である古木の ◇ その森を住処とするツグミやムクドリは見慣れない目立つ姿の御馳走が大きな木の |
苗穂 乂
2013年12月27日(金) 08時14分13秒 公開 ■この作品の著作権は苗穂 乂さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.6 苗穂 乂 評価:0点 ■2014-02-26 05:00 ID:BrU745UO/7Y | |||||
楠山歳幸さま 最後までお読みいただきありがとうございます。 そうなんですよね。虫なんですよね。やっぱり引きますよね。 もう少し読みやすければ、さらっとオチまで持っていけるのになと、皆様のご指摘をいただいて読み直してみると、自分でもそう思います。 いずれ、改稿してみようと思います。今後も読んでいただけるよう頑張ります。 |
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No.5 楠山歳幸 評価:30点 ■2014-02-26 00:21 ID:3.rK8dssdKA | |||||
読ませていただきました。 僕が受けた印象は、上の方々が僕なんかよりも的確にご指摘なされていますね。 個人的にはありがちな感じと、う〜ん、虫だから、と言う感じで今一つ感情移入できなかったです。 オチが面白かったです!そう来たか!と思わず笑ってしまいました。 |
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No.4 苗穂 乂 評価:0点 ■2014-02-15 05:18 ID:BrU745UO/7Y | |||||
時雨ノ宮様 お楽しみいただき嬉しいです。ユニークとお褒めいただき有り難うございます。 硬質な文体でもテンポよく、軽妙に、読むかたにストレスを感じさせない文章を目指して、いただいたアドバイスを参考にさせていただきます。 引き続き、ご指導のほど宜しくお願い申し上げます。 |
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No.3 時雨ノ宮 蜉蝣丸 評価:30点 ■2013-12-30 14:53 ID:BcvuszQJsQM | |||||
こんにちは。読ませていただきました。 ユニークな作品ですね。食用、生産用にされつつある昆虫達による侃々諤々の議論……という感じですかね。必死さが伝わってきて思わず笑ってしまいました。本人達からすれば死活問題なのでしょうが。 「落語のような〜」、とおっしゃっていましたね。でしたら、語り口調をですます調に変えてしまって、「〜なのであります」「〜かもしれませんな」みたいなのも取り入れて、本当に誰かに喋っているようにした方が、より軽快になるかな、と。今のでは少し硬い印象です。でもって本に落語っぽくするならば、虫達の口調も関西弁とか江戸っ子言葉みたいなのとかを入れて、親しみやすくした方がいいですね。いえ、俺の個人的な意見です。 発想はとても面白いと思います。次回作期待してます。 ありがとうございました。 |
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No.2 苗穂 乂 評価:--点 ■2013-12-27 16:24 ID:BrU745UO/7Y | |||||
片桐様 早速ご覧いただき、ご高評までありがとうございます。 ご指摘の通り、会議の会話を追う構成のため、堅めで回りくどい文章になってしまっています。情報提供部分もまだこなれていないというのも、その通りですね。堅くてもリズムがあれば、読み疲れないのだろうなとは思うのですが、筆力がお恥ずかしながら充分ではないことを確認できました。いただいたコメントを励みに精進いたします。 落ちを気に入っていただき良かったです。風呂敷を広げていってたたむのは難しいと実感いたしました。落語のように軽妙なテンポで物語をすすめて余韻の残る落ちに持っていくのが今の目標です。 次作でもぜひご教示を賜われればうれしいです。 |
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No.1 片桐 評価:30点 ■2013-12-27 16:11 ID:n6zPrmhGsPg | |||||
こんにちは。感想を送らせていただきます。 まず、タイトルに惹かれました。 良いですね、このタイトル。どんな話だろうと、興味をそそられ、クリックせずにはいられませんでした。 内容としても、昆虫たちが、人間たちにいかに昆虫食をさせないか会議するというもので、面白い切り口だったと思います。 一方、文章はちょっと読みづらかったです。 味があっていいけれど、肩がこる、とでもいいますか。 硬い内容で、 「かくかくしかじか」、何々は言った。 という感じの文章が繰り返されるので、個人的にはもう少し変化が欲しかったです。 もちろん、今の形式にもある種のこだわりを感じるので、あくまで一意見としてとらえてください。 また、昆虫食の歴史や、現状を語る部分は、よく調べられたのだろうなと思いつつ、 まだ書き写したような感じが抜けていないようにも思えました。 難しい按配だと思いますが、このあたりをいかに本当に昆虫が語っているようにみせるかが、作者の腕の見せ所ではないかなと思います。 さて、最後に、落ちについて。 私としては、初めはあっけない系の落ちと思い、それから少し考えて、 人間ばかりが敵というわけではなかったという落ちと思い、さらに今、他の読み方もあるかもしれないと考えています。 色々捉え方があって、面白い落ちですね。良かったです。 私からは以上です。 これからもさらに面白い作品を書いていってください。 それでは。 |
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