かくれんぼ

月のきれいな夜でした。
ママと乗っている自転車の後ろで千紘ちゃんは、そのやわらかい光を見ています。
伸ばした手をぱっと広げて月に合わせます。
【つるつるしているのかな? ふわふわしているのかな?】
その綿菓子のように白くまあるいお月様が千紘ちゃんは大好きでした。

「ママ〜,きれいなおつきさまだよ」
と、千紘ちゃんが言うと
「そうだね。すごくきれいだね」
千紘ちゃんの呼びかけに、ママはいつでも答えてくれます。
「ママ!! おつきさまがいなくなっちゃった」
急にお月様が見えなくなって、千紘ちゃんは泣きそうなほど悲しくなりました。
でもママは微笑んでばかりでちっともびっくりしてません。
「あら本当、どこにいったのかしら? もしかしたら、お月様はかくれんぼしているんじゃない?」
「か・く・れ・ん・ぼ?」
ウサギ思わせるまん丸目をしながらちひろちゃんは聞きました。
「そうよ。遊びたがっているのよ。ちーちゃん、お月様をみつけてあげなくちゃ」
ビルの合間からぼわんと顔を出した綿菓子。
ほっぺの涙は風が消し去り、目はキラキラと淡い光に輝いていました。
高い建物が多いこの町の宵の満月は、ビルやマンションの陰に隠れてしまうのでした。
ビルから出てきたお月様をみつけては
「おつきさま、み〜つけた」
と、コロコロと笑い
「あ〜 またかくれた〜」
いなくなっても千紘ちゃんは、もうがっかりしませんでした。

すっと全てが真っ黒になってネオンも星も月も千紘ちゃんの視界から消えてしまいました。
「わぁ!!」
小鳥のような声がこだまします。家の近くのトンネルに入ったのです。
「びっくりした?」
「うん。いきなり真っ暗になるんだもん」
叫び声が笑い声になり、ママの笑いも重なってトンネルに明るい声が響きます。
トンネルの出口にさしかかった時、いきなりまばゆい光に包まれました。
千紘ちゃんは眩しくて目を開けられず
「ママまぶしいよ」
いつもならすぐに返ってくる優しい声が返ってきません。
「ママ?」
ふわっと誰かに抱っこされたと思うと
乗っていた自転車もママも消えてしまいました。
辺りを見回すと、通ってきたトンネルも続いているはずの道路もなくています。
「ママ〜」
叫んでも、千紘ちゃんが期待している返事はきませんでした。

「千紘ちゃんみつけた」
いきなり後ろから、ケラケラ笑う声が聞こえてきました。
振り返ると、そこには千紘ちゃんの背丈よりずっと大きい、綿菓子のようなものがいます。
「きゃ!!」
あまりにも大きくびっくりして、しりもちをついた千紘ちゃん。
「あれ? いたくない」
そうなのです。全く痛くなく、ふわふわしたトランポリンに乗っているようでした。
「ここどこ? あなた、だれ?」
千紘ちゃんは白く大きなものに聞きました。
「ここ? 雲の上さ。ボクは『つき』だよ。さっきまでかくれんぼして遊んでいた『つき』さ。ずっと、千紘ちゃんにみつけられてばかりだから、今度はボクが千紘ちゃんみつけたんだよ。もっとかくれんぼして遊ぼうよ」
「ここで かくれんぼ?」
「そうさ。雲の上でかくれんぼ。ボク、いつも一人ぼっちでお空の上からみんなを照らしているだろ。友達が一人もいないんだよ。だけど千紘ちゃんがボクと遊んでくれた。すごくうれしかったんだよ」
お月様は精いっぱい体を小さくして目線を千紘ちゃんに合わせました。
「おつきさまのことみんなすきよ。ママもすきだし、ちひろもだいすき。ひとりぼっちなことないよ」
「たくさんの人が、ボクを好きなこと、もちろん知っているさ !! みんなボクに話しかけてくるけど、ボクが話すなんて思っていないんだよ」
「なんでかな? じゃあ、ちひろとおしゃべりしましょ」
「お話もいいけどね、ボクかくれんぼして遊びたいな」
「いいよ。じゃあさいしょ、おにはおつきさんだよ」
そういうと雲の隙間を使ってかくれんぼを始めるふたりでした。
どのくらい遊んだのでしょう。
「つかれた〜」
すとんと千紘ちゃんは座り
「もうつかれちゃった?」
心配そうにお月様は覗き込みました。
「うん」
隣に座ったお月様をちひろちゃんはぎゅっと抱きしめました。つるつるもざらざらもしていなく、やわらかくてあたたかい。ママに包まれているようでした。
お月様にそっとキスすると、白い顔がみるみる赤くなっていきました。
「うれしいな。お返しのキスだよ」
今度はマシュマロみたいにぷにゅぷにゅしたものが、千紘ちゃんのぽっぺに触れました。

「千紘ちゃん、ちーちゃん。もう起きて」
聞きなれた声が聞こえました。
ふわふわしているけど、さっきまでの雲の感触とはちょっと違う。
千紘ちゃんはゆっくり起き上がると
「あれ? おつきさま…… どこ?」
「もうお家よ。ちーちゃん寝ちゃったね。とってもかわいい声で笑っているから。思わずキスしちゃったよ」
そこはいつも見慣れたリビングのソファの上でした。
「あのね、あのねママ。ちひろね、おつきさまとかくれんぼしたんだよ。それでね……」

千紘ちゃんはママにお月様のお話を始めました。

(了)
開戸 優日
2013年11月12日(火) 06時34分46秒 公開
■この作品の著作権は開戸 優日さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
童話初投稿です。子供とのエピソードからふくらまして書きました。
寸評、酷評よろしくお願いします。

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No.4  開戸 優日  評価:0点  ■2013-11-14 13:55  ID:3qgH.wtzjm6
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おさん。
ありがとうございます
確かにもう少しお話ふくらますことできますね。
そもそものインスピレーションが子供との会話の中だったので
忠実に再現しすぎたかもしれません。
起点から、もっとお話しふくらます作品書けるようにしたいと思います。
No.3  開戸 優日  評価:0点  ■2013-11-14 13:55  ID:3qgH.wtzjm6
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つるこさん。コメントありがとうございます<m(__)m>。

主題、童話でもそのことを考えないと訴える力が小さくなってしまいますよね。ありがとうございます。
発想が日常からくること多いのです。
だからこそ「そこから」の捻りや妄想がしっかり入らないと
「何が言いたいの?」
になってしまうのですね。
これからの作品作りの時気を付けたいと思います。
No.2  お  評価:30点  ■2013-11-14 00:23  ID:jEFqhZMHooM
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(ネタばれ)





あぁ、生きてた(笑)
可愛らしイお話ですね。世知辛い日常でほっとするようなお話し。それだけで価値がありますね。癒しやわ。
童話としては、僕は門外なので分かりませんが、小説としては[つき]の人とのやりとりに何か波乱とか、不条理とか、寓意とかあると、よりそれらしくなるのだろうなぁと思ったりもしました。
No.1  つるこ。  評価:20点  ■2013-11-14 00:01  ID:y0FIm362d1k
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はじめまして。拝読させていただきました。
気になった点はこの物語の主題はなんだろうなということです。
童話に限らず、物語には大なり小なりの主題(目的)があると思うのですが、この作品の場合、『可愛いな』『微笑ましいな』というものはあるのですが、いまひとつ目的がわかりません。
『家族愛』といってしまえばそこまでなのですが、それならばそれで、もう演出が欲しいなと思いました。
例えば、お月様とのシーンは夢なのだけれど、あえて名言を避けてお母さんの愛情を描く……など。

お話自体はかわいらしいですね。
思わず頬が緩んでしまうような。
子どもを意識したやさしさを感じたので、今後の作品に期待です。
総レス数 4  合計 50

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