幼馴染と猫とドッペルゲンガー |
少年と少女 俺、目枝多助の学校は今日から春休みだ、部活にも入っていない俺にとっては只々暇な時間だ。 「春休みって暇だよなー」 「そうね」 興味なさそうに返事をしたのは俺の幼馴染である兎持……いや、渡里美月だ。 美月は半年程前からあまり話さなくなった、 ちょうど両親が離婚した時期だ。 クラスメイトともあまり話さなくなり、最近では俺の前でも口数が少なくなっていた。 「美月はなんか予定あんのか?」 「特に無い」 「じゃあさ、明日遊びに行かねぇか?」 「遊ぶ?」 美月の突き放すような口調にはもう慣れている、俺は何事もなかったように話を続けた。 「最近出かけて無いだろ? 食べ歩きでもどうだ?」 「食べ歩き……」 一ヶ月程前ならこれでいけたはずなのだけど……美月はおもったより心を閉ざしてるようだ。 俺は切り札を使う事にした。 「ちょっと遠いけど隣町の神社の近くにケーキバイキングが出来たからさ」 美月は少し黙った後首を縦に振った。 「決まりだな」 翌日、俺と美月は予定通りケーキバイキングを堪能した。 「うまかったな」 美月は少し幸せそうな顔で頷いて近くの神社を見て 「カラス多いね」 神社を見ると確かにカラスが相当な数いた。 「だな、帰るか」 美月が頷いたのを見て俺は歩き出した。 この時俺は美月がその神社をじっと見つめていた事に気づいていなかった。 渡神社 「何処言ってたの?」 「友達と出かけてた」 「そう、もう少しで夕ご飯だから」 「わかった」 半年前、両親が離婚するとき、私はお父さんに着いて行くつもりだった。 家事をしていたのはお父さんで母親と接する事はほとんど無い。 だから母親は私の事を何も知らない、多助が幼馴染だということも、彼に好意を抱いている事も知らない。 そんな時、私はある噂を耳にした。 動物が沢山集まる神社には神が降りたっていて、ご利益がある、そんな噂。 多助と出かけた時にみた神社にはカラスが沢山集まっていた。 翌日、私の足は自然とその神社に向かっていた。 渡神社、祀られている神の名前は見えなかった、私はお賽銭を入れて神に祈った。 神社を出ようとした時、上空から黒い物がこっちに向かって来た。 私は反応できずに立ち尽くしていた、その間にも黒い物は私に近づいて来て………… 異変 「美月ー」 散歩中美月を見つけた俺はそう言いながら肩を叩こうとした。 「…………」 ゴス、そんな音が俺の腹の方から聞こえた。 俺の腹に美月の足がめり込んでいる、腹に激痛が走る。 「いってぇ!? なんで!?」 「…………」 美月はうずくまっている俺を気にする様子も無くそのまま歩き出した。 「なに……?」 翌日の散歩中、いつの間にか美月が横に並んでいた。 「み、美月!!」 俺は後ずさりをしながら言った。 美月は怪訝な顔で 「なんで身構える?」 「何でってお前……」 「暇、どっか行こう」 「話聞けよ、てか何で?」 「いいから」 その日は何故か美月に色々な所に連れまわされた。 「いいから」 その一言だけで翌日もその次の日も俺は美月に連れまわされた、まるで監視されているようだ。 そんな日も三日目になった帰り道、俺は美月に聞いた。 「そういや最近そのウエストポーチばっかだな」 「……気のせい」 「何が入ってんだ?」 この三日間美月がウエストポーチから物を取り出すのを見ていない。 「何も無い」 「そんなわけ無いだろ」 そう言って俺がウエストポーチに触ろうとすると美月は驚くほどの早さでウエストポーチを庇った。 「なんなんだ……」 思い切り動かされたウエストポーチの外ポケットから丸い物が飛び出した。 「お前、これ……」 飛び出してきたのは防犯用ペイントボールだった。 言葉を失った俺に向かって美月は 「相談がある」 只一言、そう言った。 もう一人 「私がいる」 近くにあった喫茶店で美月は真顔でそう言った。 「確かに俺の目の前にいるな」 「正しく言うと私がもう一人いる」 「もう一人?」 美月は紅茶を一口飲んで 「ほとんど喋らない、攻撃的な私と瓜二つの人がいる」 「ほとんど喋らないのはともかく攻撃的ってんならたぶん俺も出会ったな」 「何かされた?」 「蹴られた、しかも思いっきりな」 「やっぱり攻撃的」 「ドッペルゲンガーってやつか……」 美月は頷いた。 「で、ペイントボールでどうするんだよ」 「当てて追跡して捕まえる」 「で?」 美月は少し間をおいて 「尋問する」 「とりあえず落ち着け」 美月は混乱しているようだ。 その後の相談でドッペルゲンガーを見つけたら連絡、追跡する事になった。 音娘神社 それから数日、俺たちの前にドッペルゲンガーは現れなかった。 そんなある日俺が散歩していると一匹の野良猫が近くの神社から飛び出してきた。 俺はふと神社の方を見た。 にゃー、みゃー、にゃー、にゃー。 「猫だらけだな」 俺はそう言いながら神社に入って行った。 普段はあまり神頼み等しない俺が神社に入ったのはこの前クラスで聞いた噂のせいだろう。 十円玉を放り投げて手を合わせる。 「ドッペルゲンガーをどうにかしてくれ」 我ながら単純かつ意味不明な願いである。 ドッペルゲンガーでここの神はわかるだろうか、少し簡単すぎたかもしれない。 「えっと……幼馴染に瓜二つの……」 「ドッペルゲンガーぐらい知ってるニャ」 「……ニャ?」 たぶんツッコム所を間違えた、声のした方、上を見ると猫耳の生えた女の子が堂々と立っていた。 「馬鹿にするニャー」 そう言いながら少女はジャンプして華麗に着地した。 下りてきた少女は銀色の長髪から猫耳、着物の穴が空いた部分から二本の尻尾、まるで猫のようだった。 「で、ドッペルゲンガーがどうしたんだニャ?」 「…………」 「どうしたニャ?」 少女が緑色のつぶらな瞳で俺を覗き込んできた。 「え、えっと……誰ですか?」 少女はため息をついて 「お前が願ったから来てやったのにそれは無いニャ」 「願ったから……きた?」 少女はふくよかな胸をはって。 「この音娘神社に祀られている 猫又、琴花(きんか)でいいにゃ」 「…………」 唖然としている俺の顔に琴花の顔が近づいた。 「なかなかタイプだニャー、お前の頼み、条件によっては聞いてもいいニャ」 「え……あ……」 戸惑っている俺にイタズラな顔で琴花は続けた。 「とりあえずその幼馴染とやらに合わせるニャ」 神に等しく神でない者 「神……様?」 近くの公園にきた美月は目を丸くして言った。 「神では無いニャー、神に等しく神でない者、お前らの言葉で近いのは……妖怪、かニャ」 「妖怪……」 美月の口が飽きっぱなしだ、てか 「妖怪だったの!?」 「? 言って無かったかニャ」 そう言いながら目は美月だけを捉えている。 美月は少し戸惑った様子で 「なんですか……」 「調べてるんだニャー」 「どうなんだ?」 そう言うと琴花は俺の方を向き、首を傾げて 「さっぱりだニャ」 そう言った。 「とりあえずそのドッペルゲンガー本体を見てみたいニャ、出せ」 「出せとか言われてもなー」 「なんだ、まだ捕まえてすら無いのかニャ……」 「なんかすいません」 「まあいいニャ、とりあえずお前の家に行かせろ」 琴花が指を指したのは俺だった。 「俺ですか」 「そうニャ、お前の家に住むニャー」 「…………」 「…………」 俺と美月は沈黙した。 「どうしたニャ? 速く案内するニャ」 「住む……?」 「そうだニャ、お前とずっと一緒にいるニャー」 「いや、ドッペルゲンガーの対象は美月の方なんだけど……」 琴花は首を傾げて 「そんな事わかってるニャ」 「じゃあなんで俺と……?」 「お前がタイプだからニャ、気に入ったニャー」 「……何したの」 久しぶりに美月が口を開いた、ジト目が怖い。 「何もしてねぇよ」 「速く行くニャー」 「……わかったよ」 「私も行く」 美月は琴花を睨んでいる、睨まれて無いのに怖いくらいだ。 「ニャー」 琴花はそんな美月の視線に気づいておらず、あくびをしていた。 「ここがお前の家かニャー」 「みんな出かけてるのか」 琴花は家に入るなり四足歩行に なった。 「二足は疲れるニャー、さて」 琴花は俺たちの方を向いて。 「美月……だったかニャ、こっちに来るニャ」 「はい」 俺も琴花について行こうとした、しかし 「なんで来るんだニャ、変態かニャ」 何故か琴花に怒られた。 「なんで変態になるんだよ」 「今からするのは触診ニャ、それでもついて来るのかニャ?」 「あ……それは……」 正直ついて行きたいけどそれは男として…… 「……変態」 美月にまで言われてしまった。 隠しましょう 「呪いの類だニャ」 久々に聞いた美月の笑い声(くすぐったかったのだろう)が聞こえなくなった後出てきた琴花はそう言った。 「ドッペルゲンガーじゃないってことか」 琴花は首を横に振った 「それはまだわかんニャい」 「そうか……」 琴花は何故か美月のハンカチを持って 「じゃあ、探すかニャー」 「俺達も頑張るか」 琴花は首を傾げて 「頑張るのはお前達じゃないニャ、うちが探すのニャ」 「ん? 俺達も探すぞ?」 「いや、お前はいいんだが娘は離れてて欲しいニャ」 美月は少し低い声で 「なんで……ですか?」 琴花は持っていた美月ハンカチを見せて 「匂いが混じるニャ」 「匂い?」 「嗅覚捜索は犬だけの特権じゃないってことニャ」 「….…そうなのか、じゃあ美月は待っててくれ」 美月は無言で頷いた。 「出発だニャ」 そう言って琴花が二足歩行になる「外出る時は二足歩行なんだな」 「外で四足歩行だと目立つからニャ、じゃあ行くニャ」 行こうとした俺の服を美月が掴んだ。 「なんだよ」 「耳とかは大丈夫なの?」 「…………」 「…………」 「ダメだな」 折角なので琴花の服等を買いに行くことにした。 「なんか変な感じだニャ」 俺たちが持って来たのは 尻尾を隠す為に大きめのワンピース、美月が被っている帽子の柄違い、髭はほっておいた。 「きにすんな、似合ってるから」 琴花はくるりと一回りして 「まあ今までの奴よりは動きやすいか……でもいざという時に動けないかニャー」 「じゃあこれ」 美月が持ってきたジャージを下に着た琴花は 「じゃあこれはいらないニャ」 ワンピースを脱ぎ始めた。 「まてまて! 尻尾隠す為にワンピースにしてんだから」 琴花は少し考えて 「海賊にうちはニャる!」 「まさかの知識!?」 某少年漫画っぽいセリフだ 「まあ長く生きてると雑学の一つぐらい覚えるニャ」 「さいですか」 琴花は爪を見せて、目を光らせて 「年齢を聞いたら裂くニャ」 「聞かねぇよ!」 「うるさい……」 美月によって一蹴された。 現場は 「じゃあ行って来るニャー」 そう言って琴花は家を出て行った。 「…………」 「……とりあえず茶でも飲むか」 美月は黙ったまま頷いた。 ◇商店街 「匂いが薄いニャ」 琴花は商店街の路地にいた。 「……そこニャー!!」 匂いの出処を完全に捉えた琴花は走り出した。 商店街の出店に向かって。 ○ リビング 俺は茶菓子と紅茶を用意した。 茶菓子もそろそろ無くなるかと いうところで俺は口を開いた。 「……最近どうなんだ?」 「…………」 美月は冷めた紅茶を一口飲んで 「なんかよく話しかけて来るようになった」 そう、俺が聞いたのは美月と親との関係だ。 「でも私の事をまだわかって無い」 俺が口を開こうとしたが美月は更に重ねた。 「でも……ちょっと嬉しい」 そう言いながら美月は少しだけ笑みを浮かべた。 「……やっぱり笑ってた方が可愛いのに」 俺は小さく呟いた。 「手洗ってくる」 そう言って美月が洗面所に行った 後一人になってふと思った。 「琴花……遅いな」 ◇ 商店街 屋台 多助が呟いた頃、琴花はイカ焼きを口いっぱいにふくんでいた。 屋台のおっさんが可愛いから、とかなんとかで店の前で食べていてくれと頼まれた物だ。 屋台のおっさんが注目したのはやはり猫耳だろう、琴花は帽子を邪魔だからとはずしてしまったのだ。 幸い商店街の人にはそれが本物だとばれず、むしろ看板娘と気に入られて今に至る。 「次はこっちよろしくねー」 たこ焼き屋のおっさんが言った。 「ここは天国だニャー!」 琴花の頭にドッペルゲンガーの事など残って無かった。 聞こえる □ 洗面所 「はー」 美月は鏡に写っている真っ赤な顔をした自分を見て溜息をついた。 「うー」 赤くなった理由はハッキリしている、ただ一言の言葉だ。 「やっぱり笑ってた方が可愛いのに」 聞こえてないつもりなのだろうが美月にはハッキリと聞こえていた。 「……こっちの気も知らずに」 美月は琴花の言葉を思い出した。 「お前がタイプだからニャ、気に入ったニャー」 あそこまでハッキリいえたらどうなるのだろうか、最近一段と無口になった自分をどう思っているのだろうか。 「あー、もう!」 顔を二回叩いて気合いを入れた美月は言った。 「この一件が終わったら……多助に告白しよう」 ○ リビング 「多助に告白しよう」 俺は美月のセリフを聞いて紅茶を吹きかけた。 「は……はあ」 しばらく固まっていると何事も無かったように美月が洗面所から帰ってきた。 「琴花さん遅いね」 「…………」 「多助?」 「ん?……ああ、確かに遅いな」 美月のを可愛いと思った事はあるがここまで意識したのは始めてだ。 「紅茶入れようか」 美月のカップをとってポットに向かう。 俺の答えは決まっていた。 俺の事を一番知っているのは美月だろう。 近くにいて一番安心できるし、 いつまでも近くにいて欲しい。 これが恋なのかはわからない、 恋か判別するには幼馴染、友としての期間が長すぎた。 「……あー」 ただ、今だけは美月の顔をまともに見る事ができなかった。 ◇ 商店街 饅頭屋 「美味しいニャー」 琴花が饅頭を食べおえたときだった。 「…………」 商店街の賑やかな音や声の中から何かが羽ばたくような音が聞こえた。 更に羽ばたく音と共にポッという火が灯るような音が聞こえた瞬間。 「聞こえたニャー!」 琴花はそう叫んで勢いよく走り出した。 章変え 間章 猫とドッペルゲンガー 「なるほどニャ、ドッペルゲンガーの正体はお前だったかニャ」 琴花は美月の姿をした者と向き合っていた。 「観念するニャ、うちと今のその姿のお前じゃあ力の差がありすぎるニャ」 美月の姿をした者は沈黙を破らない。 「なんとか言ったらどうニャ」 「…………」 勝ち目は無いと判断したのか偽美月はすさまじい速さで逃げて言った。 琴花は偽美月が落としたカーディガンを拾って呟いた。 「……これは、急がないといけないニャ」 ぺんたちころおやし 気まずい雰囲気を打ち破ったのは琴花だった。 「帰ったニャ」 「どうだった?」 「喉が乾いたニャ」 琴花はそう言って俺の紅茶を飲んだ、美月が琴花を軽く睨む。 「ぺんたちころおやし」 「は?」 「ドッペルゲンガーはうちと同じ妖怪ってやつだったニャ」 「妖怪……ぺんたちころおやし」 美月が呟く 「どういう妖怪なんだ、そのぺん……」 「ぺんたちころおやしニャ」 そう言ってまた俺の紅茶を一口、 美月の気配が怖くなってきているのでやめてくれ。 「人間の間では松明等で辺りを照らす妖怪とされているニャ」 「じゃあなんで美月の姿なんだよ」 「人間は言葉遊びが好きなのか、ただ言葉不足なのかはわからないけど少し意味が違うニャ」 琴花は美月を指指した 「最近何かいい事、無かったかニャ?」 「いい……事?」 「そう、例えば悩みが無くなったとか……誰かとの関係が良くなったとか」 「……ある」 親との関係だろう。 「それがぺんたちころおやしの力の一つニャ」 「悩みを消すのか? じゃあ尚更いいじゃねぇか」 「光は周りの闇を見づらくするニャ」 「そういう考えもあるかもな」 「ぺんたちころおやしは生気を食べる妖怪ニャ」 「……は?」 「生気、生きるためのエネルギーニャ、勿論無くなると死ぬニャ」 「……体調は悪くない」 美月が言ったが琴花は首を横に振った。 「人間は気分に左右されやすい生き物ニャ、嬉しかった時は生気もいつもより多く出るニャ」 「…………」 美月は真剣な表情で琴花の話を聞いている。 「標的はいつもより生気が出ているから生気を食べられていても気づかない、ぺんたちころおやしはそれを狙うんだニャ」 美月が固まっていたから俺が口を開く。 「つまり、ぺんたちころおやしを退治しないと美月は……」 言葉に詰まった俺を美月がサポートする。 「私は死んでしまうのね」 琴花は今までに無い真剣な表情で 「そうだニャ」 首を縦に振った。 「じゃあそのぺんたちどうたらを早く退治しないと!」 「……まあいいニャ、とりあえず行くニャ」 琴花は何故か浮かない顔をしていた。 不幸と幸福の鳥 「この先の神社にいるニャ」 「ここ……来たことある」 案内されたのは渡神社、美月は腹をさすりながら。 「ここでカラスに襲われてから私がもう一人……」 「なるほど、カラスを従えているのか」 「違うニャ」 琴花により一蹴 「ぺんたちころおやし自体がカラスなんだニャ、一部では不幸の象徴、幸福の象徴とされているカラスだニャ」 「カラス……飛ぶのか」 琴花は首を縦に振った 「今は人間になってるから遅いはずニャ……いつまでもここにいてもしょうがないニャ」 「……だな」 「…………」 美月は黙って頷いた。 神社に入ると琴花の言う通りもう一人の美月が無表情で立っていた。 「…………」 「ぺんたち……えーと、とりあえず美月の生気を取るな」 「しまってない……」 偽美月は敵意を感じたのかこっちを無表情のまま睨んだ。 「ぺんたちころおやしは遅いニャ、人間の走力で余裕だニャ」 「なんだ、楽勝じゃん!」 「まあ、取り押さえるのは簡単だニャ……」 琴花はまた浮かない顔をしていた。 「まあいいか……よっと……あれ?」 約二十秒で捕まえれた。 「さあ、観念しやがれ!」 俺はバットを振り上げた、しかしそこで止まってしまった。 偽物とはいえ相手は美月の姿をしているのだ。 「な……観念……」 「無駄ニャ」 後ろから琴花が来た 「ぺんたちころおやしは密接に繋がった相手、つまり生気を取っている相手にしか殺せ無いニャ」 「なら……」 美月が俺のバットを持った、そのまま振り上げて……固まった。 「う……」 「それでいいニャ」 琴花が静かに、でも確かに聞こえる声で言った。 幼馴染と猫と俺 「それでいいって……どういう事だよ」 「ぺんたちころおやしが生命の危機に陥った時、どうすると思うニャ」 「…………!?」 「気づいたかニャ、生気を一気に奪うはずニャ、人間じゃあまず耐えれないだろうニャ」 「じゃあどうすんだよ! 美月はこのまま……」 琴花は少し笑って 「一撃で倒すのニャ」 「ならあいつを俺に化けさせてくれ、俺なら躊躇なく出来る」 「ならなくていい、私がやる」 バットを構えようとした美月を琴花が止める。 「妖怪の生命力を舐めるなニャ、人間は本能で力を弱めるニャ」 「出来る、俺なら……」 「甘く見るなニャ」 琴花が少し声を荒げた。 「琴花……」 美月が心配そうに琴花の方を向く 「人間じゃぺんたちころおやしは倒せないニャ」 そう言って琴花は偽美月の頭を掴んだ。 「何……してんだ?」 「今からうちの生気をぺんたちころおやしに送るニャ」 琴花の手が光る、その光が偽美月に移動する。 「……カァ」 偽美月が始めて声を出した。 琴花と偽美月が光に包まれた。 「多助……何?」 「生気を送ってるらしい」 光が消え、琴花と…… 「琴花が二人!?」 「うちが本物ニャ」 一人の琴花がこっちに来た。 「さて、勝負するかニャー、ぺんたちころおやし」 偽琴花は本物の琴花を少し見つめて 「カァ!!」 どこからか羽を広げて飛んでいった。 「逃げた……のか」 「さて、鬼ごっこの始まりニャ」 「だな」 琴花は不思議そうに俺を見て 「人間がついてこれる速さと思うかニャ?」 少しの沈黙を破ったのは美月だった 「いつ、帰ってくるの?」 「うーん、気合を入れたら約一週間ってとこかニャ」 「そう……」 琴花は美月に近づいて 「この事件は終わったニャ、でも一応気をつけておくんだニャ、それと」 琴花は俺に近づいて来て 「うちがいない間、あの神社を頼むニャ」 「わかった」 「あと頑張ったからご褒美が欲しいニャー」 ……そういえばそういう話もあった気がする。 「何だ? 魚かなんか?」 琴花は美月をイタズラな目で見て から俺に視線を戻す。 「お前が欲しいってのは……ダメだよニャー」 「なっ!?」 美月が獲物を狩る様な目になった。 琴花は少し笑って 「じゃあこれぐらいならギリギリかニャー」 目を閉じて顔を近づけてきた。 「き……琴花?」 俺は固まった、驚いたのと美月の鋭い目に睨まれて。 少し間が空いた後琴花が目を開けて 「うちは待つのは嫌いニャ」 頬に柔らかくて暖かい感触を感じた。 「これぐらいで許してやるニャー」 笑いながら琴花は偽琴花の飛んでいった場所に走っていった。 「多助」 後ろから美月の声がした 「話したいことがあるの、この事件が終わったら話そうと思ってたこと……こっち向いて」 来たか、そう思いながら美月の方を見ると 「……何してんだ?」 美月は目を閉じていた。 美月は目を閉じたまま 「私も頑張った……だから」 まさかの変化球!? 「え……と」 俺が戸惑っていると美月が口を開いた 「私も琴花と同じ気持ち、ずっと前から多助を気に入ってる」 気に入ってるにしたのは恥ずかしさからだろう。 「や……でも」 「私は琴花と違って待てるよ……ダメ?」 美月が目を開けて上目遣いで更に近づいて来た、覚悟を決める時のようだ 「……仕方ないな、目閉じろ」 目を閉じた美月に俺は顔を近づける。 唇が一瞬触れあった。 エピローグ 唇が触れた後、美月が目を開けて心配そうに言った。 「……嫌だった?」 どうやら仕方ないと言う言葉のせいで嫌々やったと心配しているようだ。 俺は美月に顔を近づけて 「俺も頑張ったから褒美が欲しいな、美月と同じやつ」 美月は耳まで真っ赤にしながら俺に顔を近づけてきた。 終 |
リーフライ
2013年08月12日(月) 11時55分52秒 公開 ■この作品の著作権はリーフライさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.1 白星奏夜 評価:20点 ■2013-09-19 03:46 ID:FaS9bFR4fFM | |||||
こんばんは、白星と申します。 ストーリは少し単調なように感じましたが、キャラは可愛らしく好みでした。幼馴染というのは、何か心を引かれるものがありますね。 最初に感じたことですが、小説というより劇の台本のように思いました。文頭にリビングや、商店街とだけ書いておいて場面を説明し終えるのは、ちょっと読み物としては不親切なような気がしました。一文でも、描写をすることによって情景が目に浮かびますし、読みにくく感じる要素を減らせるのでは? と思います。 次作を投稿されたようですが、原則、ここは連載禁止です。内容上、一つにまとめられるのであれば物語を完結させて下さい。利用規約は読まれたでしょうか。投稿したら、最低一つはどなたかの作品に感想を付けるというルールもあります。 この場から、追い出そうと思って発言してはいません。守るべき規約は守って、楽しく投稿できたら良いなあと思う気持ちがあったので、発言させて頂きました。 というところで、今回は失礼させて頂きます。それでは〜! |
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総レス数 1 合計 20点 |
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