ペンギンのマーチ |
− ハードボイルドとペンギン − 俺は今日の今まで平凡な大学生だった。今日も普通に大学に通うつもりで駅までの道のりを歩いていた。 朝の住宅街は人通りもほとんどなく、今日はまだ誰ともすれ違うことがなかった。不気味と言っても過言ではないだろう。 「今日はまた一段と人通りがないなあ」 こういったセリフをはくと不思議なもので人影が突然現れるものなのだ。この日もこの法則は『大体』当てはまり、静かに前方から近づいてくる影があった。 『大体』当てはまるといったのには訳がある。なぜなら前方から近づいてくるのは人影にあらず、ペンギンだったからだ。 意表をつかれた俺は無意識のうちに立ち止まって、しばらくその近づいてくるペンギンにボケーっと見とれた。 「どこかのペットが逃げ出してきたのかな?」 誰もが真っ先にたどり着くであろう結論をようやく口に出し、もうしばらく銅像のようにペンギンが近づいてくるのを待ってみようと思った。 普段ならどこかのちょっと変わったペットに遭遇したぐらいでは銅像のようにじっとすることもないのだが、どうも違和感があるというか、普通ではないような気がしたのだ。 徐々に大きくなるペンギンの影。なぜかゆっくりとしたペースを保ち、まっすぐに俺の方へ向かってくる。ゆっくりとは言ってもその外見は堂々としていてフラフラやってくるという様子ではなく、まるでワイアットアープが敵に迫るような感じだった。 ペンギンが近づくにつれ、さらにペンギンの姿は大きくなる。少しずつ、少しずつ。大きく、大きく。さらに大きく…… ペンギンはあんぐりと口を開けた俺の前方一.五メートルのあたりでピタリと歩みを止めた。俺はその場で動くことも出来ないまま前方上方四十五度の角度でペンギンと目があう。「で……、でかい」思わず心の中で叫び、例えようのない圧迫感に額から汗を流した。おそらく足も、がに股になって震えていただろう。 世界最大のペンギンといえばコウテイペンギン。その体長は百二十センチほど。しかしこのペンギンはざっと身長二メートルほど。もしかするとこれはペンギンに似た他の生き物なのかもしれない。自分にそう言い聞かせてみるがこいつはどこからどう見てもペンギンに見える。 パニックに陥った俺は頭の中が真っ白になってしまったのか、かえって落ち着いて一.五メートルという微妙な距離を少しだけ縮め、右手人差し指でペンギンのおなかを突っついてみた。プニプニとした猫の肉球のような感触が癖になりそうだ。 ハッと正気を取り戻した俺は、視線を感じて上を見上げる。するとペンギンの顔が予想以上に近くに迫っていた。「しまった、近づきすぎた!」と思ったときにはすでに遅かった。ペンギンと目があったまま圧迫感に動けなくなる。のけぞるように上を見上げながら足はガクガクと音を立てて震えていた。もしこんな俺を馬鹿にする人がいるのなら、あなたが見慣れている犬や猫が自分よりも遙かに背が高く、遙かに高い所から自分を見下げているところを思い浮かべて欲しい。たかがペンギンでもそのでかさは異常なのだ。 「悪いが火を貸してもらえないか?」 さらに異常事態が起こった。ペンギンのクチバシが動いたかと思うと、はっきりとした人間の言葉で喋った。空耳などではない。確かにその言葉とクチバシの動きはあっていた。しかも付け加えておくならば、その声はペンギンらしからぬ渋い低音のドスのきいた声だった。ちょうど刑事コジャック(日本語吹き替え版)によく似ている。 ペンギンは器用に羽と胴体のあいだに挟んであった一本のタバコを、これまた器用に両羽ではさんでクチバシまで持っていき、くわえた。 「ひ、ひ、火ですか? ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい」 俺は完全にパニックに陥って裏返った声でかろうじてそう答え、何かにとりつかれたようにポケットというポケットをすべてくまなく探った。しかしタバコを吸わない俺がライターやマッチを持っているはずもなく恐る恐るペンギンに視線を戻す。意外と鋭い目をしていた。それに引き替え上目遣いな俺の目はきっと潤んでいたに違いない。 「い、い、家に忘れてきたみたいで……」 少しずつ後ずさりながら裏返ったままの声で、いい加減な返事を返す。そうしながらも、もしもの時のために、ここにあるはずもない火打ち石をキョロキョロと探してみる。というのは格好だけで、実は後ずさりしているのをごまかすためである。とにかく早くこの場から立ち去りたい気分なのだ。 どうしてこんなに怯えなくてはならないのか自分でも分からないが、とにかく威圧感が尋常ではないのだ。たぶん俺の体には従来比で十倍以上の重力がかかっているに違いない。ペンギンの知られざる能力だ。学会に発表すればノーベル賞間違いなしだろう。 ペンギンはというと落ち着いたもので、吹い損ねたタバコを再び器用に羽と胴体の間に挟み込んでゆっくりとクチバシを開く。 「それなら仕方がない。タバコはあきらめるとしよう。それよりあんたに一仕事手伝ってもらいたいのだが……」 ペンギンはハードボイルドだった。何が? と言われれば、声も、仕草も、そして何より雰囲気そのものがハードボイルドだった。 「ア、アルバイトですか? 喜んで働かせてもらいます」 ペンギンに引き替え俺はどうだろう。相変わらずの引きつった裏声で思いもよらない答えを返してしまった。どうして俺がペンギンの下で働かなきゃならないのだ。しかもアルバイトとはよく言ったものだ。自分でも何を言っているのか訳が分からない。ペンギンがバイト料払えるわけ無いじゃないか! ってそう言う問題でもないぞ。 「こころよく引き受けてくれたのはあんたが初めてだ。どうしても助手がほしかったんだ。何しろ俺はここら辺の地理にうとい。道案内、頼むぜ」 おびえながらも心なしかペンギンがかっこよく見えた。男の中の男、いや、雄の中の雄と言うべきか。とにかく俺も人間として負けていられないと思った。 「ま、任せてくれ、ペンギン」 深呼吸してとりあえず平常心を保つ。それで何とか、渋めの低音で答えることができた。俺だってやればできるじゃないか。 しかしなんだってペンギン相手にハードボイルドしなきゃならないのか。今はそんなことを競い合っている場合ではないはずだ。俺が今一番にしなきゃならないことは、この非常識な空間から脱出することだ。 それが出来るのならとうの昔にやっている。それが出来ない俺は結局ペンギンの道案内としてペンギンと並んで歩いている。 すれ違う人々は皆、道を空けてくれる。虎の威を借る狐の気分だ。みんなペンギンが怖いのだ。虎とは別の意味で…… 優越感を得られないのが玉に瑕だ。どちらかというと軽蔑の目で見られている。 「ペンギンさん、ペンギンさん」 幼稚園児の女の子がこっちを指さして嬉しそうにしている。 「指をさすんじゃありません。うつりますよ」 母親らしき女性が慌ててその子をかばうように距離をとる。 「今日はハロウィンだったっけ?」 大学生らしき二人組が遠目に会話している。 「あれはきっと、へたくそなトトロの着ぐるみだぜ、絶対に」 今はハロウィンの時期ではない。二人組はハロウィンがいつなのか知らないらしい。 歩き出してから約十分が経過した。俺は相変わらずペンギンに付いて道案内をしている。「ちょっと急用を思い出したので」、この一言が言えない。言おうとすればペンギンと目があってその鋭い眼光は有無を言わせず俺を沈黙させるのだ。 端から見れば異様、しかし渦中の俺にはペンギンの歩く姿がこれまたかっこ良かった。特に後ろ姿はペンギン色のトレンチコートを着ているような、ハードボイルド独特の雰囲気がある。 「着いたぜ、相棒」 このキザな言いぐさは俺の言葉だ。もうやけくそである。とうとう目的地までペンギンの道案内をしてしまったのだ。こうなれば最後までつきあうしかない。 「いったいこんな廃工場で何があるんだい?」 ポケットに手を突っ込んでペンギンと同じく渋い声で訪ねる。なにせ閉鎖されて一年になる製鉄所である。こんな所にいったい何の用があるのだろうか。 「ここから先は俺の仕事だ。あんたはここで待ってな」 そう言い残すとペンギンは一人廃工場の門をくぐった。 言われたとおりに待っていたのが悪かった。まったくバカとしか言いようがない。我ながら頭がおかしいのではないだろうかと思う。あれから十分ほど経過した頃だ。今度は俺の前に本物の人間ハードボイルドが現れた。ボサボサ頭にサングラス、その表情はうかがえず、おきまりの襟を立てたトレンチコートに身を包んで悠々としている。 「ペンギンを見なかったかい?」 渋い声だった。ペンギンの上をいく渋さだ。てっきり二人、というか一人と一羽は知り合いで待ち合わせをしているものだと思っていた。だから正直に(もちろんハードボイルド口調で)今までのいきさつを説明すると、ハードボイルド男は突然トレンチコートの中からワルサーP99をとりだして俺の頭に突きつけた。 「な、何をするする……」 せっかく状況に染まりかけていた俺もこれには声が裏返り、負け犬口調で訳の分からない言葉をはき出した。本物のハードボイルドだ。ルパン三世だ。ジェームスボンドだ。スーパーマン(?)だ。 「おとなしく人質になってもらおうか」 俺の口を封じるのに十分な迫力だった。俺のまわりの重力は従来比二十倍にふくれあがった。落ち着き払ってドンと構えていて、なんと言ってもワルサーP99だ。おとなしくするより他はない。 頭にワルサーP99を突きつけられたまま廃工場の門をくぐる。無言の誘導に逆らうこともできずゆっくりと進んでいくと、工場の中庭のようなところに出た。そこにはあの懐かしいペンギンが一羽、こちらをにらみつけて立っていた。 「俺の任務はあんたとちがって、あらゆる手段を使って確実に依頼を遂行することだ。つまり、このガキの命と引替にお前の命をもらおうか。卑怯だが悪く思わないでくれ」 ハードボイルド男がドスの利いた大声で抜かした。俺はのんきにも少しほっとした。俺ではなくペンギンを殺す気らしい。 「俺はあんたとやり合えればそれでいい。だがどうせなら正々堂々とやりたかったぜ、腰抜けのオッサン」 今度はペンギンがドスの利いた大声で抜かした。『腰抜けのオッサン』が強調されている。その『腰抜けのオッサン』はかなりこの言葉がきいたらしく俺の後ろでは、素人(?)の俺にでも殺気が立ち上るのが分かった。 「言ったなペンギン。ならば正々堂々とやり合えるように、このガキをひと思いに殺すとしようか」 ハードボイルド男の言ったことが最初分からなかった。ガキなどどこにいるのだろう。後ろか? 横か? まさか俺のことか。 どうやらのんきにほっとしている場合ではないらしい。物陰からドッキリカメラの札が出てくるところ、ガバッと目覚めるとすべて夢だったところ、突然超能力に目覚めた俺がテレポーテイションで窮地を脱出するところ、自分に都合のいいことばかりが頭の中を駆けめぐった。そして、思いつくだけの現実逃避がすむと最後に俺の頭の中を締めくくったのは自分の葬式だった。 半気絶状態でボケッと突っ立っている俺をよそにペンギンの弁戦は続いていた。 「ガキを殺してる暇なんてあんたにあるのかい? あんたのナマケモノのような動作じゃその間に俺のくちばしがあんたの喉をかき切るぜ」 ハードボイルド男の血管の切れる音が聞こえた。完全にぶっ飛んだハードボイルド男は、殺気のオーラを成層圏あたりにまでふくらませて銃口を俺の頭からペンギンに向け替えた。 「殺してやる!」 ハードボイルド男は少し渋みのなくなった叫び声と同時に引き金を引いた。それと同時にペンギンがその短い足からは想像もできない速度でハードボイルド男につっこんで行く。ワルサーP99のスライドが後退し弾頭はペンギンに一直線に放たれる。 俺はハードボイルド男から乱暴に解放され、倒れ込みながらそんな一瞬の動作をスローモーションのような感覚で目撃していた。「避けるんだ! ペンギン」心でそう叫んだのも届かず、ペンギンの胸のあたり、白と黒の境目あたりから赤い液体が流れるのが見える。それでもペンギンは痛みを感じないように速度を落とさない。 ペンギンがハードボイルド男のワルサーP99を叩き落とすまでに放たれた球はこの一発だけだった。恐るべしペンギンの足だ。学会に発表すれば……以下略。 ハードボイルド男はすぐに後ろに飛び退いて懐に手を差し入れた。ペンギンが自分が叩き落としたワルサーP99を拾って構えるのと、ハードボイルド男がもう一挺隠し持っていたS&WM19を構えるのとほぼ同時だった。 俺は何とか這い進んで三十メートルほど離れたところでことの次第を見つめた。両者の間はわずかに三メートル。双方にらみ合ったまま全く動かない。いや、動けないのだ。動くと負けなのだ。 「このままでは出血しているペンギンが不利だ」 そう思いはしたものの俺にはどうすることもできない。ただ見守るのみである。 「ペンギン、おまえの負けだぜ」 唐突にハードボイルド男が口を開いた。再び渋みのある声に戻っている。そのサングラスの下の表情には、はっきりと笑みが見えていた。 「そうでもないぜ」 ペンギンも啖呵を切ってみせるが出血のためか少しつらそうだ。 「ペンギン、おまえのその指のない羽でどうやってトリガーを引こうってんだい」 あきらかに勝ち誇ってハードボイルド男が表情に余裕を見せた。確かにそうだ。ペンギンに銃が扱えるわけがないのだ。俺の額には汗がしみ出していた。もしペンギンが負ければ、俺は口封じで殺されるだろう。俺にはペンギンしか頼れるものがないのだ。 「死にな」 銃声が再び廃工場に響き渡った。そのときだった。ペンギンがハードボイルド男の喉元をかみ砕いた。一瞬の出来事だったがハードボイルド男は喉から大量の血を吹き出してたおれ、動かなくなった。 「やった……」 俺は自分の命がつながったのとペンギンが勝ったのとで、涙を流し、喉を詰まらせた。 「やったぜ、相棒」 俺はゆっくりとペンギンに近づいて賞賛した。しかし、俺が近づくとペンギンは突然たおれ立ち上がれない。 「大丈夫か? 今獣医を呼んでやるからな」 ペンギンの羽を握りしめて俺は涙ながらに話しかけた。無理もない、.357マグナム弾を至近距離でくらったのだ。ハードボイルド男の血がくちばしを赤く染めていた。そして、胸には二つの穴があき、絶え間なく血が流れ出していた。 「おまえは無茶はするんじゃないぜ、相棒」 ペンギンが血に染まったくちばしを弱々しく動かしながらつぶやいた。 どこからかパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。 「俺なら大丈夫だ。つかまらねえ内に行きな。振り返るんじゃないぜ、相棒」 ペンギンはそう言うと瞼を閉じた。胸が詰まった。こみ上げてくる涙を押さえることができなかった。それでも俺はその場を後にしなければならない。このままではペンギンの死が無駄になってしまう。俺はペンギンを残して弱々しい足取りで廃工場を出ていった。ペンギンが鶏の天使二匹に導かれて天に昇っていく姿が、脳裏のスクリーンに繰り返し映し出された。 あれから一週間、毎日、新聞に目を通しているがあの事件の記事が載ることはなかった。俺が見たのは夢だったのか、幻だったのか。今ではいつもと変わらない大学通いの毎日が繰り返されていた。 ペンギンが現れたのはちょうど今日のような人通りのない日だった。あの時は腰が抜けるほど驚いたが、今ではもう一度あのペンギンに会いたい気分だ。死にそうになったことだって今となっては思い出の一部なのだ。 もし、もう一度彼に会うことができるのなら、今度は俺がペンギンを守ってやりたい。 「心配はいらない。俺がついているぜ」 こんなセリフを渋く決めて殺し屋に悠々と立ち向かって行くんだ。 妄想にふけって歩いていたので俺は思いっきり通行人にぶつかってあわてて頭をペコペコさせて誤った。つくづく似合わない妄想をしたものだと反省した。 「気にすることはないぜ、相棒」 下げた頭の上から聞き覚えのある声が聞こえた。俺は頭を下げたまま目を見開いて地面を見つめていた。人間のそれではない足が視界の隅に入っていた。少し頭を上げてみる。暖かそうな羽毛が目の前に現れて、むしり取って羽毛布団を作りたい衝動にかられる。それをこらえて、そこから一気に頭を上げると、火のついていないたばこをくわえたペンギンの顔がアップになって迫った。 「て、天国に飛んでったんじゃないのか?」 俺の間抜けな表現にペンギンは大声を上げて笑った。俺は穴があったら入りたい気分になった。 「俺の胸板はそんなに柔じゃないさ。もっとも警察から逃れるのに手間取ってしまって、出血多量で死にかけたけどな」 笑いながら自分が死にかけたところを平気で話すところなど相変わらずのハードボイルドだ。こうなると俺も負けてはいられない。俺のハードボイルドな妄想の話をしてやる。 「そう言うことで今度は俺が主役の座をもらうぜ」 再びペンギンはくちばしを天に向けて大笑いした。 「頼りにしてるぜ、相棒」 ここで言葉を切るとペンギンは改まってさらに話を進めた。 「実は一仕事手伝って欲しいんだが、頼めるかい? 相棒」 この前はこれを断れなかったが為に俺は死ぬ目にあったのだ。今回は丁重にお断りした。以前より少しは成長したようだ。 − 故郷へのハードボイルドな道 − 青空広がる住宅街の生活道路を、俺は駅に向かって歩いていた。このあたりは朝の内、人通りも少なく歩調は非常に快適だ。今日は大学の授業を受けに行く、つもりだったのだが…… 前方から迫り来る影。「出たな」と小さくつぶやき俺は歩みを止めた。影は近づくにつれどんどん大きくなる。その影がペンギンの形を作るのにそれほど時間はかからなかった。 「やっぱりそうだ」 ため息を一つ。そのあと、ジーンズのポケットに両手を突っ込み、目線は少しだけ下がり目に、わずかに体を斜めに構える。最後に咳払いを一つ。これでペンギンに対応する準備が整った。 ペンギンの姿は近づくにつれ、さらに大きくなる。通常のペンギンの大きさを遙かに超えて前方五十センチのところで止まると、俺の視界はペンギンの暖かそうな羽毛をたたえた胸板しか見えなくなった。「近いんだって!」心の中で叫びながらも表情には表さない。 「悪いが火を貸してくれないか? 相棒」 俺の目はペンギンの胸板を見つめ続ける。もし俺が顔を上げたとすると、その渋い声にあわせて、火のついていないタバコをくわえたくちばしを動かすところを見ることが出来ただろう。しかし、まだ顔を上げるわけにはいかない。心の準備がもう少し必要なのだ。 「悪いが今日もライターを家に忘れてきたようだ。悪いな、相棒」 鏡の前で練習した、ペンギンに負けず劣らずの渋い声を出した。視線はまだ、そのままだ。 住宅地を巨大なペンギンが悠々と歩いてきて、人間の言葉を、それも渋いドスの利いた声でしゃべり、タバコを吸うから火を貸せという。この異常な事態に当たり前のように対処している俺には、わけがある。このペンギンに出会うのはこれで三度目なのだ。そういえば三度ともこのあたりで出会ったが、このあたりには次元のひずみでもあるんじゃないだろうか。 このペンギン、ただの巨大なしゃべるペンギンではない。凄腕の殺し屋なのだ。ハードボイルドなのだ。そのオーラは着てもいないトレンチコートを着ているかのように見せる。俺もこの殺し屋ペンギンとともに、よそ者の殺し屋と戦った(見守った)ことがあるが、けっこういいコンビなのだ。 だから次に来る言葉も分かっている。「あんたに一仕事手伝ってもらいたいのだが……」この言葉を断るために目を合わせずに、心の準備をしているのだ。むやみに目を合わせてしまえば、その眼力によって言いなりにさせられてしまう。 「実は、助けて欲しいんだ……」 なんか予想してたのとは微妙にちがう台詞が帰ってきたため、「はぁ?」と裏返った声でつぶやくと、思わず顔を上方六十五度に上げてしまった。むやみに目を合わせてしまったのだ。後悔してももう遅い。殺し屋ペンギンの眼力により俺のまわりの重力が従来比十倍に……ならない? なんか困り果てたような殺し屋ペンギンの目。そういえば声にも、渋みはあってもドスが利いていなかった。 「と、とりあえず話ぐらいは聞いてもいいかなあ」 雰囲気に飲まれて恐る恐る聞いてみた。その言葉を待っていたように殺し屋ペンギンは大きく一歩、横へ移動する。すると、そのあとにはペンギンの列が出来ていた。どうやら通常サイズのペンギンのようだ。 横へまわって数えてみると、コウテイペンギンらしきペンギンが三羽、そして最後尾にはコウテイペンギンよりも一回り小さなペンギン。目のまわりが白いのでおそらくアデリーペンギンだろう。よく見ると、そのアデリーペンギンの後ろにおまけのように、ひよこも並んでいた。 「この五羽を家に帰してやってくれ」 殺し屋ペンギンらしからぬ泣きそうな訴えだった。 話が長くなりそうだったので、とりあえず駅前の喫茶店に行くことにした。今日の殺し屋ペンギンは、とにかく困った様子で、俺の言いなりだった。 それにしても、端から見たらなんて異様な集団だろう。俺の後ろには巨大なペンギン。その後ろにコウテイペンギン三羽が自衛隊の行進訓練のように規則正しく並び、最後には一回り背の低いアデリーペンギン。そしておまけのひよこまで、全員で七人パーティーである。ドラゴンクエストでもこのような行列は滅多にお目にかかれないだろう。 遠巻きに避けて通る通行人に目もくれず歩いていると、ひよこの歩調に合わせても、駅前の喫茶店までは十分とかからなかった。 ここは俺の行きつけの喫茶店で、普段なら同い年のウエイトレスが笑顔で出迎えてくれる場所だ。 「いらっしゃいま……」 「せ」を発音できないまま、顔なじみのウエイトレスは笑顔を引きつらせた。店内に客は店の隅に一組だけだったが、彼らもウエイトレスと同じように俺たちに視線を釘付けだ。 「あのぉ、ウチはペットの連れ込み禁止なんですけど……」 ちょび髭を生やした喫茶店のマスターがカウンターから慌てて出てくると、すり手しながら近づいてきて、申し訳なさそうに言う。 「知らない仲でもないだろう。今日のところは大目に見ておきな」 かけてもいないサングラスをはずす振りをしながら、俺は渋い声を出した。マスターはおびえる様に店の奥に戻って行った。俺の眼力も捨てたもんじゃない。こっちを見ていなかったような気もするが、きっと気のせいだろう。 「邪魔者もいなくなったところで話を聞いてくれるか、相棒」 殺し屋ペンギンはいつものハードボイルド口調に戻っていた。思わず目を合わせてしまったが、眼力もいつもどおりに戻っていて少し後悔の念がよぎった。 「あいつ、ペンギンと話してるぜ」と、店の隅のテーブル席からヒソヒソ話が聞こえてくるが、いまさら気にすることもないだろう。 殺し屋ペンギンの話によると、ある政府から、通称『ペンギン皇帝』という重要人物(人じゃないような気がするが)の暗殺の依頼を受けた。結構難易度の高いミッションだったが、殺し屋ペンギンには朝飯前の依頼だったらしい。ミッションをこなして、さあ、あとは脱出するのみ、という段階になって小さな事件が起こった。背後が妙に騒がしいのだ。後ろを振り返ると、いつの間にかペンギン四羽が列を作っていたというのだ。 「ペンギン効果ってやつじゃないか!」と俺は心の中で叫んだ。ペンギン効果とは、一羽のペンギンが動き出すと、その周りのペンギンもその後に続き、いつの間にか大行列をなして歩いているというペンギンの習性だ。要するに、ペンギン皇帝とやらのアジト、もしくはその付近で飼われていたペンギンたちなのだろう。 いくら追い払っても四羽のペンギンは、いつの間にか列を作っている。とうとう追い払うのをあきらめた殺し屋ペンギンだったが、隠れ家のひとつで、また小さな事件が起こった。いつも最後尾にいる、四羽のうち一羽だけ小さなアデリーペンギンが、いつの間にか卵を温めていたのだ。殺し屋ペンギンが、いつの間に卵なんて産んだのかと頭を抱えていると、その卵からかえったのはペンギンにあらず。なんとひよこだったのだ。それ以来、四羽のペンギンの最後尾にさらにひよこが加わることになった。 「今度は刷り込みっていうやつじゃないか!」と俺は心の中で叫んだ。刷り込みとは、生まれてはじめて見たものを母親だと思い込む鳥類によくある習性だ。インプリンティングとも言う。要するにアデリーペンギンを母親だと思い込んで、くっついてまわっているのだ。 話をまとめてみると、ようは、ペンギンとひよこの元の飼い主を見つければいいということらしい。なんだか予想に反して簡単なミッションのようだ。これならば引き受けてもそれほど大きな問題はなさそうだ。 「仕方ない、助けてやるとしよう。まずは卵を見つけたアジトって場所を教えてくれないか」 俺はハードボイルド口調で聞いた。なんだかうまい具合に乗せられているような気がするが、かっこをつけた以上、今更後には引けない。 ちょび髭マスターにも同い年ウエイトレスにも送り出してもらえないまま喫茶店をあとにした。アデリーペンギンが卵を温めていたというアジトは、俺の家の近所だった。普通の民家に見えるが、それはカモフラージュらしい。中に入るとハイテク機器で埋め尽くされているらしいが、中には入れてもらえなかった。ちょっと、相棒としてはショックだった。気を取り直して近所で鶏を飼っている家を思い出そうとする。だが、そもそも近所付き合いというものがない俺に、そのような時間はまったくの無駄だった。結局、近所の家を一軒一軒訪問してまわる事になる。 「鶏を飼っている家を探しているのですが……」 「ごめんなさい。帰ってください」 …… 「鶏を飼っている家を……」 「知りません!」 …… 「鶏を……」 「キャー」 どうしてみんな非協力的なのかと思いよく考えてみると、 「俺が一人で聞き込みしてくるから、みんな外で待ってて!」 という結論に行き着いた。 その後のお宅訪問は順調に進んだものの、都会の住宅街で鶏を飼っている家は、そうそうあるものではない。何の成果もないまま日没を迎えようとしていた。 「一羽目でこの体たらく、先が思いやられるぜ」 などと口調だけはかっこよくつぶやいてみるが、もうとっくの昔に家に帰りたい気分になっている。そんな時だ。どこからともなく鶏の鳴き声が聞こえてきたのは。 「運が向いてきたぜ、相棒」 どうやら殺し屋ペンギンの耳にも鳴き声は聞こえたらしい。それらしい家の庭を塀の隙間からのぞき見てみる。いた! 一羽の鶏がなぜか犬小屋で飼われている家を発見した。思わず跳んで喜んでしまった。 「お宅のひよこが逃げ出してきたので、保護していたのです」 鶏の飼い主は、すっかり白髪一色になったおじいちゃんで、俺はひよこを丁寧に両手で渡しながら説明する。 「うちの鶏はメス一匹だけなので、有精卵は生まないはずなんだけどなあ」 確かにメスだけでは無精卵しか生まない。つまりひよこが生まれるはずはないのだ。 「間違いありませんよ。お宅のひよこちゃんです」 俺は強引におじいちゃんにひよこを押し付けた。日没まで歩き通しで、もう家に帰りたいのだ。どこのひよこだろうと関係ない。 「これでひよこちゃんは優しい飼い主の元に帰した。きっと幸せになるだろう」 俺は、まだ納得いっていないおじいちゃんに背を向けて、しめの言葉を殺し屋ペンギンに投げつけた。 「ありがとう。持つべきはいい相棒だぜ」 殺し屋ペンギンの言葉にちょっと照れる俺。しかし、 「あとは四羽のペンギンたちだな」 と続ける殺し屋ペンギンに、俺は慌てて待ったをかけた。 「もう日も暮れる。続きは明日にしないかい? 相棒」 夜通しこんなことを続けていれば死んでしまう。ここは何とかして一度家に帰らなければならない。 「そうだな。では、明日の朝、今日の喫茶店で待つことにする」 予想外に、すんなりと家に帰してもらえそうだ。しかし明日の朝からまた、今日のような聞き込みが開始されると思うとゾッとする。早く寝て十分に睡眠をとっておいたほうがよさそうだ。 目覚めると時計が七時を指していた。寝ぼけ眼で大学へ出かける用意をしようとして、昨日の出来事を思い出す。 「あいつ、一人で喫茶店に入れてもらえたかな」 特に時間指定をしたわけではないが、とりあえず喫茶店に向かってみようと思った。 喫茶店の前には巨大な影が。間違いない、殺し屋ペンギンだ。その後ろには、ひよこちゃんが減ったものの、ちゃんと四羽のペンギンが列を作っている。ウエイトレスともめているようだ。「そのリアルな着ぐるみは脱いでください」とか言う声がかすかに聞こえてくる。 「俺のツレだ。入れてやってくれ」 俺は言いながら千円札をウエイトレスに握らせた。渋々入り口のガラス戸を開けてくれる。殺し屋ペンギンが「やるな!」と、うなる。昨日から俺はそれなりに彼の上位にいる。とてもいい気分だ。俺は、胸を張り、肩を大きく揺らせながら店内に入った。 マスターは「またかよ。店の評判、がた落ちだぜ」というような顔でコーヒーカップを洗いながら俺を見たが、気にせずホットコーヒーを二杯頼んだ。店に客の姿は見当たらなかった。確かに評判落ちてるかも。ウエイトレスが「ほんとはペットダメなのに」と、小さな声だが聞こえるようにぼやいたが、殺し屋ペンギンの一にらみで黙り込んだ。やはり、金で黙らせるような俺とは格が違うようだ。 「じゃあ、今日はペンギンたちの里帰りだな。彼らに出会った、ペンギン皇帝とやらのアジトってのはどこなんだ?」 今、俺は殺し屋ペンギンよりも上位に立っているので、自分のペースで話を進めることが出来た。椅子に浅く腰をかけて、肘掛けに両肘をかけ、余裕の姿勢で殺し屋ペンギンに対する。以前の眼力にやられて萎縮した態度とは大違いだ。 「ペンギン皇帝のアジトは……南極だ」 この瞬間、俺は椅子に深く腰掛け、作り込んだ渋い顔を緩め、 「な、南極ですか?」 と裏返った声で聞き返した。俺は一介の平凡な大学生だ。南極などという文明もない遙か彼方の土地へなど行きたくはない。つい今まではペンギンたちの里探しに付き合うつもりだったが、たった今、何とかしてこの場を抜け出す方法を考えるのが重要事項になってきた。 「南極っていうのは、チケット買って飛行機でひとっ飛びって風にはいかないんですけど……」 俺はすっかり負け犬口調になっている。南極という言葉が出ただけでこのざまだ。作られたハードボイルド精神などもろいものなのだ。 「大丈夫だ。俺のクルーザーなら南極はそれほど遠い大陸ではない」 殺し屋ペンギンは有無を言わさぬ強い口調で、この時のためにとっていたのではないかと思うような強い眼力を俺に向けた。強い重力が俺を押さえ込む。「そういう問題じゃないんだけど……」と思うものの、今更あとには引けないということらしい。 「じゃあ、南極まで行ってみる?」 と弱々しく聞いてみる。殺し屋ペンギンは羽で胸をドンッとたたいてクルーザーまで案内すると意気込んだ。 一人と五羽が乗り込むのにちょうどいい大きさのクルーザーだった。殺し屋ペンギンは乗り込む前に、自慢げに、聞いてもいないのにクルーザーの簡単な説明をした。 最上部はフローリングの床に舵輪と操作パネルがあるだけのシンプルな操舵室になっている。壁や天井はガラス張りで非常に眺めがいい。 その下の部屋には、小さな二段ベットとちょっとした広間。床はセラミックだそうだが、滑り止め加工が施してあり、某おもちゃメーカーの何とかブロックのような床だ。広間の端は腰掛けられるように一段高くなっている。 見せてもらうことは出来なかったが、デッキにあるハッチを開いて、さらに下に降りていくとエンジンルームがあるらしい。動力源は原子炉。いったいどこでこんなものを手に入れてくるのだろう。信じがたい動力源ではあるが、この殺し屋ペンギンが嘘をついているとは思えない。その証拠に、クルーザーは燃料補給もなしに驚くべきスピードで南下を続けている。 「どうしてペンギンたちを故郷に帰さなきゃならないんだ?」 俺は今更あとには引けないと分かりつつも、こんな質問をしている。 「彼らを故郷に帰してやりたいとは思わないのかい? 相棒」 タバコをくわえて器用に羽で舵輪を操作している殺し屋ペンギンは哀愁を漂わせていた。その後ろにはいつも通り四羽のペンギンが列を作っている。 「これじゃあ、仕事にならないわな……」 俺は、たてまえじゃない里帰しの理由を知ったような気がした。 すでに見えるのは四方八方海ばかりとなっている。見たことのない単位のスピードメーターが五百を指していた。聞こえるのは波の音とかすかなスクリュー音。 「平和だなあ」 などとのんきにつぶやいたとたんに轟音が響き渡り、操舵室のガラスの一つにひびが入った。とっさに平面生物のようにフローリングの床に伏せた俺。四羽のペンギンたちはそれぞれバラバラに右往左往している。さらに轟音が響き渡り、それが銃声であることを俺は確信した。 殺し屋ペンギンだけが比較的落ち着いた様子で、右へ、左へと舵輪を勢いよく操作している。おそらく銃弾をかわしているのだ。さらに一発の銃声が聞こえたあと、今度はモーター音が近づいてきた。恐る恐るひびの入った窓から目だけを出して見てみると、そこには少し間を開けて、併走するモーターボート。そして、何より目を奪われるのが、モーターボートの舵を握る鶏と、長身の銃をこちらに向けて構える鶏。 「あいつら、有名な凄腕殺し屋夫婦じゃねえか。指もないくせにどうやって引き金を引いていやがるんだ!」 さっきまで比較的落ち着いた様子だった殺し屋ペンギンが慌てて叫んだ。よく分からないが、どうやらヤバそうだ。鶏は両羽でしっかり銃を固定して、片足立ちになり、上げた方の足の指をトリガーにかけていた。 「ちゃんと指、あるって! 足にだけど……」 一応殺し屋ペンギンの疑問に答えたが、何か忘れてるような気がして、俺はそっちに思考を取られていた。そして、鶏が構える長身の銃と、自分が乗っているクルーザーを交互に何度も見回す。 「ちょっと待って! このクルーザーって原子力エンジンじゃなかったっけ?」 俺は即座にキノコ雲を連想する。 「やっかいな奴ににらまれちまったぜ。しかし、あの銃はレミントンM870というポンプアクション式の散弾銃だ。一度撃てばポンピングしている間は次の弾を撃てない。舵を代われ!」 キノコ雲のことなど全く無視して、そう言うなり殺し屋ペンギンは舵輪から羽をはなし、いつでも外に出られる物陰に身を潜めた。 「次の銃声と同時にクルーザーをモーターボートに寄せるんだ」 どうやら俺に言っているらしい。慌てて右往左往しているペンギンたちの間をすり抜けながら舵輪を握った。 「あ、あの人たち……いや、人じゃないけど、凄腕なんですよね。こんな所に立ってたら狙い撃ちされちゃうんですけど……」 握ったものの、操作の仕方の分からない舵輪をもてあそびながら俺は情けなく叫んだ。 「大丈夫だ。たとえ散弾銃でもこのクルーザーの防弾ガラスを一発で貫くことは出来ねえ」 殺し屋ペンギンが叫ぶ。「一発で貫けないってことは、次はつらぬくかもしれないってことですよねえ」とひび割れたガラスを見ながら抗議しようとしたが、その余裕はなかった。銃声とともに砕け散る窓ガラス。どうすることも出来ない状態に観念した俺はかえって落ち着いていた。「もうやけくそだ!」と言わんばかりに、さわったこともない舵輪をモーターボートの側に回した。おもーかーじいっぱーいってな感じで。 クルーザーはうまい具合にモーターボートに寄っていく。かなりのスピードだ。 「原子炉が…… 原子炉が……」 操舵の仕方の分からない俺に減速の出来ようはずがない。そのままのスピードでクルーザーはモーターボートに激突した。ものすごい衝撃に体が吹っ飛ぶ。俺の脳裏にはデジャブのようにキノコ雲が登っていく。 幸いキノコ雲はあがらなかった。殺し屋ペンギンは衝撃をものともせずモーターボートに跳び乗った。その勢いでレミントンM870を天高くはじき飛ばす。レミントンM870は、割れた窓を抜けて俺の足下に飛んできた。 どうやらクルーザーもモーターボートもエンジンが停止したのか動いていなかった。四羽のペンギンは俺のまわりで目を回してたおれていた。レミントンM870を何となく手にとって風通しのよくなった窓に近づく。モーターボートでは壮絶な三羽の死闘が繰り広げられていた。一対一の肉弾戦なら殺し屋ペンギンは誰にもひけをとらない。しかし、相手は二羽だ。壮絶な突っつきあいは長期戦の態を表しはじめていた。 「動くな!」 一段高いクルーザーの操舵室からモーターボートを見下ろし、レミントンM870を構える俺。中断された突っつきあい。これは神様が与えてくれた俺の見せ場に違いない。感傷に浸っている俺に、はじめて聞く渋い声が、 「ふんっ、おまえに引き金が引けるのかい?」 と、非常識にも鶏のくちばしから発せられた。非常識だが、すでにペンギンで経験済みの俺には、それは常識の内だった。それよりも、鶏にけなされたことへの怒りが俺を支配して、 「鶏に言われたかねえ!!」 と、俺の人生で一番ドスの利いた声で台詞を吐いてやった。やれば出来るものだ。二羽の鶏はおとなしく両羽をあげたのだった。 殺し屋ペンギンの二枚の羽でそれぞれの首根っこをつかまれて、鶏夫婦はクルーザーに連行された。その鶏夫婦の第一声は予想外の言葉だった。 「息子をかえせ!」 鶏夫婦は、涙を流しながら何度も訴えた。 「アデリー、おまえ、よりによってこの殺し屋夫婦の卵を盗んだのか?」 殺し屋ペンギンはあきれたような口調で問いかける。その言葉で俺は事態を認識し、アデリーペンギンを見つめるが、普通のペンギンであるアデリーペンギンは、もちろん何も答えない。 「ここに息子の姿はないわ。いったい息子をどこに隠したのよ!」 鶏の妻が今にも突っつきかからんばかりに殺し屋ペンギンにせまった。 「ウチの近所の家にあげちゃいました」 ひよこを無責任によその家に帰したのは俺だった。少し責任を感じたこともあり、慌てて殺し屋ペンギンよりも先に答えていた。あまりに軽いノリで答えてしまったので、鶏夫婦に殺されるのではないかと思い少し後ずさって身構えた。 「あげちゃいましたですむとでも思っているのかい、坊や」 案の定、鶏の夫が殺気の混じった声で俺に強烈な圧迫感を与えた。身長が一センチほど縮んだに違いない。 「待って、あなた」 今にも跳びかからんばかりの夫を妻の言葉が制した。俺の身長が元に戻るのを感じた。 「あの子は、きっと優しい飼い主の元に預けられたはずよ。私たちのような裏稼業の鶏に育てられるよりはずっとその方が幸せなはず……」 その声は優しい母親のものに変わっていた。涙がその優しさをより引き立てている。 「おまえ、本当にそれでいいのかい?」 夫が妻の肩を抱きながら優しく問いかける。もう凄腕の殺し屋の風格はみじんもない。 「これでよかったんです。さあ、あなた、あの子のことはもう忘れて、私たちの家に帰りましょう」 突然始まったお涙ちょうだいのドラマ。観客は俺と五羽のペンギン。これはもう見入るしかなかった。 「おまえという奴は……」 涙、涙で抱き合う二羽。俺たちももらい泣きしながら盛大な拍手で二羽を包んだ。 モーターボートは壊れてしまってエンジンがかからなかった。仕方なく、手漕ぎで去って行く二羽は哀愁たっぷりだった。真っ昼間にもかかわらず、俺たちの脳裏には水平線に沈みゆく太陽が映し出されていた。そこにはもう、殺し屋の面影はなかった。これからの二羽は、息子を影ながら見守ることに専念し、殺しをすることはないだろう。 めでたし、めでたし…… あまりに感動的な場面だったので忘れかけていたが、俺たちにはまだペンギンたちを故郷に帰すという仕事が残っていた。いや、忘れかけていたのは俺だけで、殺し屋ペンギンはクルーザーの再起動のために忙しく動き回っていた。 「これでクルーザーは息を吹き返すはずだ」 殺し屋ペンギンはエンジンの起動ボタンらしきものに羽を触れる。 「爆発しなければな……」 なんだか怖いことを言っているがきっと冗談だ。そうだろう? せーの、という感じでペンギンは起動ボタンを押した。 「ちょっと待って、まだ心の準備が……」 かがみ込んで、目をつむり、頭を抱える。しかし、今回もキノコ雲は回避され、心地よいスクリュー音がかすかに聞こえはじめた。 「心臓に悪いクルーザーだぜ」 と額の汗を拭きながらぼやくも、手漕ぎで南極まで行かなくてすんだことに感謝した。俺たちはまだ、感覚から察するに日本の領海を出ていないのだ。 クルーザーのエンジンは完全に調子を取り戻した。クルーザー自身もあちこち穴が空いて無残な姿なのに、沈没するような気配はみじんもない。速度五百……なんだか分からない単位のスピードで南下を続けている。しばらくすると、殺し屋ペンギンは日本の領海を出たと言った。あっという間だった。海上保安艇に捕まらなかったのは幸いだ。もし見つかれば無残な姿のクルーザーは間違いなく怪しまれるだろう。 日が沈んでいく。俺はパンツ一丁になってデッキの隅で仰向けに寝転がっていた。汗が全身からわき出てくる。おそらく赤道を越えようとしているのだろう。 「夜通し走るが、おまえは一眠りするといいぜ、相棒」 殺し屋ペンギンが操舵室から聞き慣れた渋い声を張り上げていた。お言葉に甘えて操舵室の隅で、脱いだ服をふとん代わりに横になる。四羽のペンギンも殺し屋ペンギンの後ろに並んで、立ったまま眠りについていた。俺も暑さにうなりながら眠りについた。 ところが、目覚めるときは凍えることになった。大きなくしゃみを一つと、激しく身震いした。太陽は頭上高く上がっている。にもかかわらずこれほどの寒さを感じるということは、もうかなり南下して南極が近づいているのだ。慌てて脱いでいた服を着るが、南極に来ることを想定した格好ではなかった。とても耐えられそうにない。 「どうして俺は着の身着のままで、ここまで来てしまったんだ?」 操舵室の割れた窓から海を見下ろしてみた。流氷がプカプカと漂っていた。防寒服の買えそうな店は地平線の遙か向こうだろう。四羽のペンギンたちは思い思いに駆け回っている。舵輪の前からまったく動かない殺し屋ペンギンの後ろに並ぶのにはさすがに飽きたのだろう。 「いいなあ、ペンギンは寒さに強くて」 また大きなくしゃみが出た。のんきなことを言っている場合ではないらしい。 「めちゃくちゃ寒いんですけど……」 ペンギンのクルーザーに防寒服を積んでいるわけもないが、一応殺し屋ペンギンに声をかけてみた。 「寝室の隅にクローゼットがある。コートが一着かけてあったはずだ」 予想外にも嬉しい返事が返ってきた。さっそく操舵室の下の寝室に行ってみる。それは、クローゼットと言うよりロッカーと言った方がよかった。開けてみるとトレンチコートが一着だけかけられていた。防寒服ではないがないよりましだろう。取り出してみると、まだ新品のようで一番上のボタンに札がかけられていた。札には『これであなたもハードボイルド』……コスプレ用の衣装じゃないか! かなり生地が薄い。羽織ってみる。うん、確かにハードボイルドな男になったような気分だ。 そんなことをしていると、クルーザーがエンジンを停止したのに気づいた。 「クルーザーが止まったようだが、どうかしたのかい? 相棒」 操舵室に戻ってきた俺はすっかりハードボイルド気取りだ。そうやってバカやって気を紛らわせていないと、風通しのよくなってしまった操舵室では、凍死してしまいそうなのだ。 「ここからは徒歩でないと行けない。だが、その前に腹ごしらえと、いこうじゃないか」 その言葉を聞くと、俺のお腹が鳴った。そういえば昨日から何も口にしていなかった。 全員を寝室に集めた殺し屋ペンギンは、腰掛けの板を押し上げると、そこから大量の缶詰を取り出した。 寝室の広間で俺と五羽のペンギンが缶詰を囲んでいる。 「どうせなら暖かいものが食べたかったけど、贅沢は言えないか」 カッコばかりがハードボイルドの俺はボソッとつぶやいた。 「えーっと、缶切りがないんですけど……まさか、缶切りがないとかいう古典的なオチなのかな?」 缶詰はすべて、昔ながらの缶切りでふたを開けるタイプのものだったのだ。一拍の沈黙が走った。と、思ったとたん、五羽のペンギンがものすごい勢いで缶詰を突っつきはじめた。 「キ、キツツキみたい」 俺が呆気にとられて見ていると、あっという間にすべての缶詰のふたは開けられていた。ペンギンの隠された能力だ。学会に発表すればクラフォード賞、間違いないだろう。 「さあ、みんな腹一杯食べておくんだ。今度はいつ食べられるか分からないぞ」 殺し屋ペンギンが、どうぞ、というように羽を動かした。 寒さと空腹。遭難死の二大要素だ。寒さはトレンチコートで解決……出来てはいないが、とりあえず空腹を満たしておくことにする。遠慮などしない。全員が満腹になったところでしばらくの休息だ。その間になんとか南極の氷を踏まない方法を考えておく必要がある。こんな寒いところを当てもなく、気休め程度のトレンチコート一枚でさまよった日には、間違いなく凍え死んでしまうのだ。 休息が終わり、俺は南極の氷を踏みしめた。踏みしめなくてよい考えを思いつかなかったのだ。 「くそっ、なんであいつらは裸で平気なんだ」 歯をガチガチいわせながら俺は五羽のペンギンを見た。楽しそうにお腹で氷の上を滑ったりしながら進んでいる。見ているだけでますます寒さが増してきた。さらに悪いことに、俺の靴はただの運動靴で、氷の上を歩くようには出来ていない。もう数え切れないほど滑って、全身打撲、恐ろしく薄い生地のトレンチコートも所々生地が裂けていた。もうハードボイルドを気取る気にもなれない。 また滑った。腰を強打したようだ。もう限界だ。クルーザーに戻れば少しは暖をとれる。これ以上進めば死んでしまう。と、なれば、なんとしても引き返さなければ。 「ちょっと待ってくれ!」 あまり残っていない力を振り絞って、かなり引き離されたペンギンの行列に叫んだ。吹雪いていれば声は届かなかったかもしれないが、今はなんとかペンギンたちに声が届いたようだ。そもそも、吹雪いていればとっくに凍死していただろうが。 「どうした、相棒。顔色が悪いぜ」 心配そうに俺を囲んで見つめる五羽のペンギン。強打した腰が痛くてまだ起き上がれない俺は、殺し屋ペンギンの眼力に押さえ込まれそうになりながらも、もうやけくそになって叫んだ。 「寒いんだよ! 俺はペンギンじゃないんだ! 死んじまう! クルーザーに戻るぞ!」 叫んだら少し身が軽くなった。腰の痛みも少し和らいだ感じだ。 「俺はここで去る。だが、おまえは彼らを故郷に送り届けるんだ、相棒」 なかなかいい台詞だが、本心は「これ以上付き合ってられるか!」である。 「分かった。ここでしばしの別れだ。だが、一人で迷わずにクルーザーに戻れるかい?」 殺し屋ペンギンの優しい一言に、俺は後ろを振り返った。見渡す限りどこも同じ氷の景色。クルーザーは影も形もなかった。すでにけっこうな距離を歩いてきたようだ。ぐうの音も出ない俺に殺し屋ペンギンは一回り大きめの懐中時計のようなものを差し出した。 「そいつがあればクルーザーの方角は一目瞭然だ。野生の勘がある俺には不要のものだ。持っていくといい」 どうやらレーダーのようだ。さすが殺し屋ペンギン。秘密兵器とはかっこいい。きっとQに作ってもらったに違いない。それに引き替え俺は、トレンチコート(借り物)を着てカッコばかり。殺し屋ペンギンにはかなわない。 レーダーを見る。碁盤の目のように区切られたモニターに小さな光が点滅していた。「ドラゴンレーダーそっくり。パクリ商品か?」という言葉は胸にしまって、俺は立ち上がった。 「これさえあれば大丈夫だ。さあ、おまえは前に進んでくれ、相棒」 なんだか感動的な言葉が出てしまったが、この言葉は厄介払いの言葉だ。そもそもこのミッションに俺は必要だったのだろうか。 「クルーザーに戻ったら、缶詰は好きなだけ食べていいぜ、相棒」 殺し屋ペンギンが俺を気遣っている。「あのぉ、缶切りがないんですけど……」という台詞も胸にしまっておこう。 五羽との別れもすみ、お互い反対方向に遠ざかっていく、俺とペンギンたち。しばらくすると、五羽の姿は見えなくなっていた。寂しさちょっぴり、開放感全開でクルーザーを目指した。 日暮れが近づいた頃、クルーザーがもう少しで見えるのではないかという所まで来た。しかし今、前方に見えているのは巨大な船だった。なにやら騒がしく、慌てているような感じだ。 いったい何事だろうとさらに近づいてみた。巨大な船はクルーザーのすぐ傍らに碇を降ろしているようだ。 その巨大な船のサーチライトが俺をとらえた。俺は眩しさに手をかざした。 「Victim discovery! Victim discovery!」 前方から駆けつけてきた、完全防寒で暖かそうな四人の船乗りが、有無を言わさずに俺を担ぎ上げた。 「It is already OK.He often did his best.」 俺に抵抗するすべはなかった。四人に担ぎ上げられて連れ去られた先は、もちろん、クルーザーではなかった。巨大な「南極観測船」だったのである。 それから一週間が経過した。あれから俺は家に閉じこもりの日々をすごしている。 「退屈だなあ」 家でゴロゴロしながら特に何をするでもなく俺はつぶやいた。 窓を締め切り、きっちりとカーテンも閉めている。これぐらいしないと騒音が部屋を満たしてしまうのだ。 うんざりしながらテレビのリモコンに手を伸ばす。すでに昼をまわり、ワイドショーがチャンネルの八割を占めている。 『日本人遭難者、南極で無事保護。果たして彼の正体は!』 テレビの画面をテロップが占領する。ここ最近のニュースはこればかりだ。ポストまで行くことが出来ず新聞は読めていないが、新聞も一面トップで連日紙面を騒がせていることだろう。 俺は立ち上がるとカーテンを閉め切った窓に近づいた。わずかにカーテンをめくり上げて外の様子を伺う。報道陣の大群がマイクやカメラを構えてたむろしていた。 「一応俺も大学生なわけで、単位というものがあるわけで、大学に通わないといけないわけで……」 あきらめてテレビを消し、またゴロゴロしながら物思いにふけった。もう長い間、大学どころか家から一歩も出られずにいるのだ。カップラーメンのストックも、もう底が見えてきているぐらいだ。物思いにふけりたくもなるというものだ。 ペンギンたちは無事故郷にたどり着いただろうか。凍え死んだりしていないだろうか。……ペンギンが南極で凍え死ぬなんてことはないだろうけど。みすぼらしい姿になった原子力クルーザーは、どこかの政府が取り込んでしまったらしいが、殺し屋ペンギンは無事に帰ってこられたんだろうか。もしかしたら南極で野性にかえったんじゃないだろうか。 そんなことを考えるものの、どうせ殺し屋ペンギンは、またいつものように前触れもなく俺の前に現れるような気がした。 ハンガーでカーテンレールに吊るされたボロボロのトレンチコート(コスプレ用品)が、思い出をよみがえらせる。 それから三日後に、殺し屋ペンギンはいつもの場所で俺の前に現れるのだった。火のついていないタバコをくわえて…… To Be Continued? |
gokui
2013年05月19日(日) 21時08分46秒 公開 ■この作品の著作権はgokuiさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.12 gokui 評価:--点 ■2013-12-05 21:57 ID:SczqTa1aH02 | |||||
青空 さん 感想ありがとうございます。 前半……ということは『ハードボイルドとペンギン』ですね。私の若かりし頃の作品ですので、勢いがあるのかな? 後半も昔を思い出しながら書いたのですが、ちょっと弱かったようです。小説は書き続けていなければダメですね。って、最近また執筆から遠ざかってますけどね。青空さんの感想をきっかけにまた書き始められるかな? ありがとうございました。新作が書けたときはまたよろしく! |
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No.11 青空 評価:40点 ■2013-12-04 23:27 ID:wiRqsZaBBm2 | |||||
天才的な主人公のボケツッコミだなと感心しました。前半が、何度も何度も笑えて超人的だなと思いました。後半は……笑いの壁が薄くなっているのが、あと、もう少し……惜しい、惜しいです。 | |||||
No.10 gokui 評価:--点 ■2013-08-26 23:34 ID:SczqTa1aH02 | |||||
えんがわ さん 感想ありがとうございます。楽しんで頂けたようで、まずはホッとしています。 >スーパーマン(?)だ。 主人公はスーパーマンがハードボイルドだと真剣に思っていると思いますよ。決して余裕かましているわけではありません。(?)は作者の私の疑問符ということで。これでうまいことごまかせたかな? >実物の銃の名前、特徴 代表的な銃しか登場していませんが、確かに普通の大学生の知識ではないですね。実名を出さなければハードボイルド感がそがれてしまうと思うので、これは何か工夫が必要ですね。 > ギャグマンガを見ている感じで、読みすすめれました。 トータルクリエイターズに投稿させて頂いている他の私の2作品(今のところ)とは違い、漫画をかなり意識した作品です。ギャグ漫画を見ているような感じというのは私の狙い通りです。 暗殺とか、縄張り争いとかは、続編のアイデアとして暖めておきますね。 最後にもう一度、感想ありがとうございました。えんがわさんの次回作も楽しみにしています。 |
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No.9 えんがわ 評価:30点 ■2013-08-26 22:09 ID:1rXVLSXzIUI | |||||
楽しんで、拝読しました。 何かすんごい言葉にしきれない後味。もやもやとドキドキが併存していて、何というか。 − ハードボイルドとペンギン − でっかいペンギンが近寄ってくる場面。 浮かんできたヨチヨチとした独特の癒しな歩き方と、巨大さ故の恐怖が、どことなくユーモラスで、何だかほわんとしました。 ただ、幾つか中間に引っかかるものが。 >スーパーマン(?)だ。 普段ならコミカルなんですが、ここはとてもシリアスな場面へと転換していく場面なので、何かなじまない感じがありました。 意外と遊び心があって、余裕あるじゃん、主人公みたいな。 >実物の銃の名前、特徴 を主人公が知っているのは、何故だろう? と素朴な疑問が残りました。 ハードボイルドに憧れてて、そうした知識を得たのかなと思ったんですが、主人公が大学生だと知ったとき、違和感は更に大きなものになりました。 ペンギンなハードボイルドという巨大な嘘を付く際には、そうした細部というか詰めにリアリティーを与えると、よりそれが説得力を持つように思われたり。 けれども − 故郷へのハードボイルドな道 − で。 そんな自分の些細なツッコミが、小さな粗探しかと思える程に、ブッ飛んだ展開に、圧倒されました。 ヒヨコまで出てきちゃうし、本当に南極行っちゃうし、クルーザーを大学生が運転しちゃうし。 これはもう、どこまでぶっ飛んでるのか、壊れてるのか、読者を試す展開の連続だったと感じました。 ギャグマンガを見ている感じで、読みすすめれました。 ペンギンと暗殺っていう取合せはとても好きです。あと縄張り(シマ)争いみたいな展開とかも、面白そう。 暗殺は、エピソードのみでなくて作中で活写しても、面白いかなって思いました。 |
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No.8 gokui 評価:--点 ■2013-08-08 22:22 ID:SczqTa1aH02 | |||||
ゆうすけ さん 感想ありがとうございます。 後半がだれているというのは、皆様書かれていることなので、やはり反省しなければならないですね。 ペンギン皇帝との決戦は、『ハードボイルドとペンギン』を抱き合わせにしないという考えで、ハードボイルド男との対決をそのまま流用するつもりでした。それが途中で抱き合わせにしようと考えが変わったものですから、鶏夫婦との決闘を派手にして、皇帝との決戦は省いてしまいました。書き直す機会があれば皇帝にも登場してもらうようにしましょうかね。 それでは、ありがとうございました。またよろしくお願いしますね。 |
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No.7 gokui 評価:--点 ■2013-08-08 22:07 ID:SczqTa1aH02 | |||||
楠山 さん 「思い出」に引き続き感想いただきありがとうございます。 ペンギンらしくハードボイルドに…… 走るときは飛べないくせに羽をばたつかせるとか、じっとしているときは首をすぼめてトレンチコートの襟を立たせているよう、とかですかね。ペンギンらしい会話っていうのはあり得ないので、行動でペンギンらしさを出すしかないですね。 両極端な作品を読んで頂きありがとうございました。またよろしくお願いしますね。 |
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No.6 ゆうすけ 評価:30点 ■2013-08-08 13:46 ID:1SHiiT1PETY | |||||
拝読させていただきました。 私が感じたことは既にほとんど書かれておりますので、キャラについて考えてみます。 ペンギンの殺し屋。可愛いはずのペンギンと、ハードボイルドな殺し屋、このギャップが面白味となりますね。ただ残念ながらそれだけですと、手垢のついたネタだと感じてしまいます。前半部分の、鈍重にみえて実は俊敏、ここは面白かったですが、後半はだれているように感じました。 細かいエピソードは省略して、皇帝との戦いがあったほうが娯楽作品として面白かったと思います。傍観者であった主人公が実はペンギンの隠し子だったとか、ペンギンの不倫相手が主人公の母親でありその隠し子が行列に加わっていたとか、伏線をはるのも面白いと思います。 鶏の勇者チキングって話を昔書いていたのを思い出し、私的にはこのノリ大好きなので、さらなる発展と飛躍を祈ります。 |
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No.5 楠山歳幸 評価:30点 ■2013-08-07 22:41 ID:3.rK8dssdKA | |||||
読ませていただきました。 「思い出」を先に読ませていただいていたので、はっちゃけた内容に主人公のように?少し驚いています。 主人公のキャラ立ちというか、描写が良かったです。良くこの年頃の気持ちが書かれていると感じました。かわいらしさも感じました。面白かったです。さすがです。 欲を言えば(TCではわたし一人であろうにわかバーダーの目ですが)、ペンギン氏がやや人間寄りかなあ、ペンギンくさい所が欲しかったようにも思います。「火を貸してくれ」→「たばこを入れる所が無いんだ、一本くれ」→「羽が嘴に届かないんだ、くわえさせてくれ」みたいな……(ハードボイルド道とは外れてしまいますが)。初めはモロにペンギンで、実はかなりやばいペンギン氏だったという展開もどうかなあ、と想像させる説得力というか、面白さがありました。 失礼しました。 |
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No.4 gokui 評価:--点 ■2013-05-28 20:49 ID:SczqTa1aH02 | |||||
zooeyさん 感想、ありがとうございます。 こだわりきっていないというのは気づきませんでした。ペンギンは、かなりハードボイルドしてると思いながら書いたのですが、しゃべりすぎでしたかね。 設定がおおざっぱというのは、まったくその通りですね。この手の作品でも設定は大事ですね。反省です。 『故郷へのハードボイルドな道』のラストは、やはり強引ですね。最初は、生きていたペンギン皇帝との最終決戦が用意されていたのですが、長くなりすぎるのと、最後が『ハードボイルドとペンギン』とほぼ一緒になってしまうので強引に終わらせてしまってます。これは今回の最大の反省点ですね。 とても参考になりました。また、今後もよろしくお願いしますね。 |
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No.3 zooey 評価:30点 ■2013-05-28 04:22 ID:LJu/I3Q.nMc | |||||
読ませていただきました。 題材というか、アイディアの面白さがいきた作品だなと思いました。 銃や煙草といった小道具から醸し出されるハードボイルド映画のイメージと、 ペンギンや軽快な文体 その両者のコントラストがユーモラスで、 オマージュっぽい味わいを持っているなと思いました。 キャラもたっていて、良かったです。 素直に楽しめる作品、という感じがしました。 ただ、こだわりきっていないかな、とも思います。 ハードボイルドチックな小道具を、よりたくさん使って、 ペンギンはもっと言葉を削ぎ落としてドライな、ボイルドな感じにすると、 さらにコントラストが映えるのではないかなと思いました。 また、少し設定がおおざっぱな(言葉が悪くてすいません)気がしてしまいました。 そこのところは、しっかり詰めた方がいいかも知れません。 あと、それぞれの作品ですが、 ハードボイルドとペンギンについては、 全体の締まりがあって良かったと思ったのですが、 一方で、ちょっと説明不足というか、 こちらには訳が分かっていないのに、同じ情報しか持っていないであろう主人公がなんだかよく分かった風に見えて、 そこはギャグ要素なんだろうなと思うのですが、 ちょっと置いてけぼり感がありました。 また、故郷へのハードボイルドな道は、 置いてけぼりな感じはしないし、 軽快な文体がはじめの作品よりいきている気がしました。 ただ、やや締まりが悪いかな、というか、 ラストがちょっと強引な感じで、 収拾つかなくなってしまったのかな、と少し邪推してしまいました。 結局同じことの繰り返しになってしまうのも、もったいないなと感じます。 もう少し捻りがほしかったなと、贅沢な気持ちになりました。 なんだか取り留めのない感想で、すいません。 また読ませてください。 |
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No.2 gokui 評価:--点 ■2013-05-20 21:29 ID:SczqTa1aH02 | |||||
卯月 さん 批評ありがとうございます。 主人公が南極に行く必要は全くなかった……私もそれには気づいていたのですが、気づくのが遅かったようです。修正するにも修正しようがなく、全直ししか方法がありませんでしたのでごまかしました。 『ハードボイルドとペンギン』とは違い、『故郷へのハードボイルドな道』は南極まで行っちゃうよ……とスケールが大きくなるように見せかけました。 ことごとく、卯月さんの目をごまかすことに失敗してしまいましたね。 それから、「」のあとの一字下げですが、私が小学校で習ったのは、文頭の一字下げは話の流れが変わるときのみ行う、でした。また、「」を閉じる前の句点はつけなきゃいけませんでした。ところが、今私が読んでいる本(ジェノサイドという本です)を開いてみると、卯月さんが正解です。文章作法も時とともに少しづつ変わっていくのですね。以後は気をつけます。 カムパネルラとはまったくちがうノリで書いてますので、比較できないのは分かっています。とんでもなく軽いノリで書いてますからね。おかげで楽しくかけましたけどね。 この手の作品はアイデア勝負です。またアイデアが出たらペンギンに再登場してもらいましょう。(一話完結だから規定違反の連載にはならないですよね) 批評、ほんとにありがとうございました。 |
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No.1 卯月 燐太郎 評価:40点 ■2013-05-20 19:24 ID:dEezOAm9gyQ | |||||
「ペンギンのマーチ」読みました。 ●「ハードボイルドとペンギン」 朝、大学に行くために町を歩いていると大きなペンギンにあって、それがハードボイルドの始まりだった。 と、奇想天外な物語の幕開けです。 「ペンギン」が迫ってきて、煙草をくわえながら火を貸してくれと言うところは「葉巻」のほうが似合っているような気がします。 主人公がペンギンに圧倒されながらも、ついつい、彼のいう事をきいて、危険な目に合うのは滑稽でした。 作品としての文体は合っていましたね。 ●故郷へのハードボイルドな道 「ハードボイルドとペンギン」の続編として長い歳月の後で書かれたそうですが、文体などには違和感はありませんでした。 今度の仕事は殺し屋ペンギンの背後から付いてくるペンギンを、元いた場所に返す事らしいですが、それが南極とは驚きました。 鶏の殺し屋が追いかけて来たりしますが、基本的に主人公が南極に行く必要は全くなかったので、そのあたりの構成がまずかったかなと思います。 両作品(前作も含めて)でいえることですが、会話文の後が「A」のように一字下げになっていないところが沢山ありました。「B」のようにするのが普通です。 A 「いいなあ、ペンギンは寒さに強くて」 また大きなくしゃみが出た。のんきなことを言っている場合ではないらしい。 B 「いいなあ、ペンギンは寒さに強くて」 また大きなくしゃみが出た。のんきなことを言っている場合ではないらしい。 ―――――――――――――――――――――――――――― 両作品を読んでみて2作品あるからプラスアルファーの力になっていると思いました。 これが一作だけだと力が弱いですね。 二作品あることで面白味が増していると思います。 しかし、一作目よりも二作品目の方が普通は面白くするものです。 スケールが大きくなるというやつです。 この辺りは映画などでも同じですよね。 ところが、このペンギンのマーチの二作品目は最初の作品の方が面白く出来ています。 どこがよいかと言うと、ペンギンは殺し屋であり、対立相手が出てきてドンパチとやります。 そして主人公も巻き込まれます。だから、緊張感もあります。 ところが二作品目は殺し屋ペンギンのあとについてくるペンギンやひよこを元いたところに返すという話なので、スケールが小さくなっています。 そして作品自体は長くなっています。 おまけに最終的には南極を目指すわけですが、主人公が行く必要はありませんでした。 どうも、この辺りの構成が失敗していますね。 ――――――――――――――――――――――― ●それから「カムパネルラが呼んでいる」との比較ですが、作品の傾向が違うところに、練り込みとかテーマとか、緊迫感とか、哲学が違うというのかな、「質量」が違うと思いました。 ●今回のペンギンのマーチにつきましては、アイデアと構成を練りこんだらよくなると思います。 文体の味付けは、悪くなかったです。 それでは、次回作期待しています。 |
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