嘆きの森 |
森は暗かった――樹々が密すぎるのだ。重なり合った枝葉が頭上を覆い、陽射しが地上にまで届かない。 だがそのおかげで、足元は悪くなかった。下生えはごく貧相なもので、地面の上を這うのは、光をあまり必要としない、苔や羊歯の類ばかりだ。 森の中を走る男にとって、それは、都合のいいことだった。少なくとも、低木の繁みに足を取られることはない。そのかわり、ときおり濡れた朽ち葉に足を滑らせることはあったが。 男――ヨウルが森に逃げ込んでから、すでにどれほどの時間が経っているかしれなかった。彼はもうほとんど走っているともいえないような足取りで、それでもなお、走り続けていた。ふいごのような息が、たえず喉を焼いている。汗は冷え、悪寒がしじゅう彼をさいなんだ。恐怖がその背を押しつづけていた。 ヨウルはひどく足を引きずっていた。疲労のためばかりではない。左の短靴が破れて、そこから乾きかけた血の色がのぞいている。 遥かな頭上で、けたたましい鳥の鳴き声が響いた。ヨウルはびくりと肩を震わせて、走りながら顔を上げた。だが彼の眼にうつるのは、鬱蒼と生いしげる木々の枝葉ばかりだった。 首をひねった拍子に足の痛みが増して、ヨウルは低く毒づいた。まったくもって、馬鹿馬鹿しいような失敗だった。森に逃げ込んですぐに、兎捕りの罠を踏み抜いたのだ。 救いようのないほど、間の抜けた話だった。どういう場所に猟師が罠を仕掛けるのか、ヨウルは、いやというほど知っていたはずだった。ここは彼の故郷のすぐ近くであり、そして彼はもとはといえば、猟師の息子だったのだ。 それだけ動揺していたということだろう。ようよう辿りついた故郷の村に追っ手の姿を見た、その瞬間の戦慄を、ヨウルはまざまざと思い出す。 兵士どもはどうやって、彼の逃げる先を嗅ぎつけたのか。あるいはただ単純に、捜索の手を四方に広げただけなのか――自分のその思い付きがひどく馬鹿げていることを、ヨウルは知っていた。それならば、あれだけの数の兵士が、あの小さな村で待ち構えていたことの説明がつかないではないか。あてずっぽうの、散り散りになっての捜索だとすれば、彼の見た兵士は、全体のうちのごく一部だということになる。彼のような小物に、それほど多くの手勢を差し向けてくるとは考えづらかった。行動を読まれ、先回りされたのに違いない。 都で暮らしたこの十年あまりの歳月のなかで、出自を他人に話したことなど、数えるほどもなかった。彼を売った者がいるとすれば、思い当たる顔は――ひとつしかない。 歯ぎしりをして、ヨウルは背後を振り返った。誰かが追いかけてきているような気配は、感じられなかった――少なくとも、いまこのときは。 ――畜生。 低く唸ったその声とともに、残った力もすべて、吐き出してしまったようだった。がくりと膝を折って、ヨウルはその場にへたりこんだ。 いっときの間、彼は自分のふいごのような息の音を聞きながら、そこにうずくまっていた。ほかに聞こえてくるのは葉擦れの音と、鳥や獣の気配ばかりだった。 どうにか息を整えたのちに、ヨウルはよろめきながら再び立ち上がった。逃げなくてはならない。 しかし、一度でも立ち止まってしまえば、傷の痛みは否応なしに、より強く意識された。もう走り出すような力は、彼の痩せた体のどこにも残っていなかった。 けがをした左足に体重をかけないように、のろのろと、ヨウルは歩きだした。道がわかるわけではない。子どもの時分には森の入口のあたりでよく遊んでいたが、これほど奥深くにまで足を踏み入れたことはなかった。 ――森の奥には、気のふれた魔法使いが住んでいる。 それは村の年寄りが、よく子どもらにいって聞かせる話だった。だから、けして森に近寄ってはならないと。 とはいえ、子どもらは、そんな話をまともに信じてはいなかった。姿を見られれば呪いをかけられて石に変えられるだの、狼の姿をした使い魔に食い殺されてしまうだのと、大人たちのいうことはまちまちで、要するにそれはいうことを聞かない子どもらを脅しつけるための、決まり文句のようなものだった。夜に貯め池に近寄ると亡霊に呼ばれて引きずり込まれるだとか、鍬を粗末にするとその年は凶作になるだとか、そういったものと同じ、迷信のたぐいだ。 皆がそう思っていたにも関わらず、誰一人として、猟師が目印もつけないような森の奥深くにまでは、けして足を踏み入れようとはしなかった。森はあまりに広大で、ひとたび迷えば、無事に帰ることができるとはとても思えなかったからだ。 その森を、あえていま、彼はさまよっている。無謀だということは、誰よりも彼自身が承知していた。だが追手の姿を見てしまったいまは、故郷の村にも、都に通じる街道にも、戻る気にはなれなかった。 どれほど歩き続けたころだろうか、あるとき急に明るくなった視界に、ヨウルは何度も目を瞬いた。 見れば、巨木が朽ちて倒れており、そのあたりだけは頭上がひらけて、空がのぞいていた。 足元には、さっきまではちらりとも見かけなかった雑草や灌木の類が、まばらに葉を伸ばしている。頭上から差し込む陽射しは、ひどく白々としていた。どうやらまだ太陽が高い位置にあるらしいことに、彼は驚いた。森に逃げ込んだのが昼まえのことだ。もっと長い間さまよい続けたような気がしていたが、思ったほどの時間は過ぎていなかったらしい。 光に怯えて、彼はあたりを見渡した。こうも明るくては、追っ手がやってきても隠れられないと思ったのだった。だが、再び暗い方へ向かうということにも、理屈ではない不安があって、彼は躊躇した。 しばしの葛藤ののちに、ヨウルは恐る恐る、光の輪の中へと足を踏み入れた。 そこで彼は、奇妙なものを見た。 倒れた樹のその向こうにそびえ、半ば朽ちかけているのは、建物のように見えた。だが彼は、すぐには自分の目を信じなかった。疲れきって、幻覚を見ているのかもしれないとさえ考えた――このような森の奥深くに、いったい誰が、なんのために家を建てるというのか。 だが、雑草を踏み分けて歩み寄ってみれば、たしかに建物だった。日の射す一角に、かろうじて壁の一部だけをさらけ出して、残りの大部分は、影の中に沈み込んでいる。 古びて朽ちかかった、屋敷だった。都の暮らしを知っている彼にしてみれば、それは屋敷などと呼ぶのも馬鹿らしい、小ぢんまりしたつくりの家屋に過ぎなかったが、それでもこのような辺境にあっては、農夫たちの住む掘っ建て小屋とはたしかに一線を画した、邸宅だった。幾部屋かの間取りがあり、馬小屋があり、建物のわきには井戸まであった。水がすでに枯れているのかどうかまでは、見ただけでは知りようもなかったが。 人の暮らしていたときには、少なくとも使用人の一人か二人は雇わねば維持のできなかっただろう、屋敷だった。だが、ひどく荒れ果てていた。人が住まなくなったのちに、少なく見積もっても何十年かは経っていると見えた。壁という壁はひび割れて、ところどころ崩れている。窓の木戸という木戸は朽ちて、そこからのぞく部屋は、ぞっとするほど深い暗闇に沈み込んでいた。 そうしたことより何より――彼は振り仰いで、ぞくりと背筋に悪寒の這い上るのを感じた――その屋敷の屋根には大穴があいていて、そこからは巨大な樹が、天を衝かんばかりに聳え立っているのだった。 はたしてこのようなことが、あるものだろうか? これほどの巨大な樹につらぬかれた――それほどの歳月のあいだ放棄されていた屋敷が、なかば朽ちかけているとはいえ、まだ原型をとどめているということが。 知らず知らず後ずさって、彼は廃屋から離れようとした。そうしてみて、ようやく気付いた。その屋敷の向こう側にも、まだ廃墟が広がっていることに。 生い茂る樹々に紛れてわかりづらいが、目の前の屋敷のほかは、どれもごく小さな家々のようだった。それこそ彼の故郷にあるような農家と大差ない、ぞんざいな作りの小屋だ。建てたばかりの年にでさえ、冬には隙間風がしただろうし、雨が降ればどこかからは常に洩ったに違いないというような。そのほとんどはすでに古びて倒壊しており、そう遠くないうちにはすっかり土に帰るだろうという有様だった。そして、それらの廃屋のほとんどが、さきほどの屋敷がそうであったように、樹々につらぬかれ、おしつぶされているのだった。 彼はきびすを返して、この薄気味悪い廃墟を避けるように、できるかぎり大きく回り込んだ。そうしてさらに、足をひきずりながら、森の奥へと向かった。 いったい何があったのか――ヨウルは鳥肌をさすりながら歩き、やがて、首をふって頭を切り替えた。考えれば考えるほどうす気味が悪かったし、どのみち真相を確かめるすべもないのだ。それよりもいまは、自分の身の心配をするべきだった。 目指す方角に森を抜けることができたならば、その先には、町があるはずだった。 街道筋の田舎町だ。都とは比ぶべくもない、辺境の鄙びた町には違いないが、それでも国境にほど近く、それなりに人の行き交う土地だ。彼の故郷のように、そこに暮らす誰もが顔見知りであるというような場所に比べれば、まだしも人のあいだに紛れることができそうに思われた。 だがそれも、無事に森を抜けることができたならばの話だ。 本当に自分が正しい方向に向かって歩いているのか、ヨウルにはまったく確信がなかった。道のりは平坦ではなく、すでに何度となく崖だの谷間だのに突き当たっては、そのたびに迂回していたし、鬱蒼とした木々に覆われた頭上のせいで、太陽がどちらの方角にあるかさえ、はっきりとは見出しようがなかった。 そもそも自分のかつて見た地図が、どれほど正しいものかということさえ、ヨウルにははかりかねた。このような辺鄙な土地では、概して正確な測量など望みようもなく、地図などは推量でいいかげんに作られるものだ。 ただほかにすべがないというだけの理由で、彼はあいまいな見当のもとに歩き続けていた。先ほどから喉がひどく渇いていたが、先ほどの気味の悪い廃虚の井戸から、水をくみ上げる気にはなれなかった。 あるとき辺りが唐突に、そして速やかに暗くなってゆくことに、ヨウルは気がついた。もしや自分の意識が遠のきかかっているのかと、彼は真っ先に疑ったが、そうではなかった。いよいよ夜が近いのだ。 だがいずれにせよ、同じことになりそうだった。傷を負った足は、もはや痛みを伝えてはこず、その代わりに元の倍ちかくにも腫れあがって、ひどく熱を持っていた。その熱が頭にも回ってきたのか、彼の意識は朦朧として、夢とうつつのあいだをたよりなく彷徨いはじめていた。 すっかり視界が暗闇に染まるころになって、とうとうヨウルは立ちすくんだ。 頭上を仰いでも、天に輝くはずの星を見出すことはかなわなかった。風が出てきたのか、頭上で梢の鳴る音は、ざわめきというような可愛らしいものではなく、いまや轟々と吼えるような音を立てていた。だがその樹々にさえぎられるのか、彼のいる地上にまでは風もさして届かず、それだけが唯一の救いのように思われた。 あたりがほとんど完全な闇に閉ざされていたので、彼は、自分の視界が揺れたことにも気がつかなかった。ただ強いめまいのような感覚がして、その次の瞬間には、自分の体が濡れたつめたい地面に倒れこんでいることに気がついた。 けがをした左足が、焼けるように熱かった。体のそのほかの場所は、ぞっとするほど冷えていたが、それでも彼はいまや、恐怖を感じてはいなかった。不安に怯える心も、もはや疲労の波にすっかり押し流されて、いまはただぼんやりと、曖昧な浮遊感にもてあそばれるばかりだった。 木々の轟々と唸り、ひとしきり強まってはまた弱まってゆく、その音の波だけが、このとき彼の世界のすべてだった。自分が目を開いているのか、それとも眠りの中にいるのかさえ、判然としなかった。 だが、その暗闇の中で、彼は灯を見た。 ヨウルはいっときのあいだ自分の目にしているものの意味がわからず、ただ意識の痺れたまま、ぼんやりとそれを眺めていた。やがてそれが紛れもなく灯であると気付いたとき、彼はまず、己の正気を疑った。熱に浮かされて幻覚を見ているのか、あるいは死にかけてすでに魂が肉体を抜けだし、この世のものならぬ光を目にしているのではないのかと。 だが光はゆらゆらと規則的に揺れながら、彼の方に、ゆっくりと近づいてきた。彼が瞬きをすると、その動きにあわせて光も明滅した。その灯の周りにだけ、ときおりわずかに樹の幹のささくれた皮や、そこにしがみつくように生えた苔や、ちらちらとまとわりつく虫といったものの、あいまいな輪郭が照らし出された。持ち主の姿はぼんやりとした影となって暗闇に沈み、ただ灯りを持つ節くれだった指だけが、くっきりと浮かび上がっていた。 近づくまで足音が聞こえなかったことも、ヨウルの感覚から現実感を削いでいたのかもしれない。葉擦れの音があまりに騒々しすぎて、かすかな足音などは、そのなかに紛れてしまっていたのだ。 やがて光は、彼のすぐ傍まで近づいて、そして止まった。そのとき、ようやく彼は、灯りの持ち主の足が朽ち葉に埋もれた地面を踏みしめる、かすかな音を耳にした。 だが、自分を覗き込む何者かの顔をたしかに見定めるまで、彼は目を開け続けてはいられなかった。どうやら助かったらしいという曖昧な安堵だけが、彼の疲れ切った思考を包み込んで、そのほかのことを考えられなくさせていた。 ヨウルは意識を手放した。朽ち葉の甘ったるいにおいだけが、彼の夢の中にまでついてきた。 深い眠りからようやく抜け出したとき、ヨウルがまっさきに感じたのは、ほのかに苦い、薬のようなにおいだった。 目を開ける前から、ここが誰かの部屋の中だということは分かっていた。背中にあたっていた感触が、腐ったやわらかい朽ち葉のそれではなかったからだ。 体の下にあるごわごわとした感触は、彼にとって、ひどく懐かしいものだった。かつては毎日のように馴染んでいたが、もうずっと離れていた感触――わらの上に布をかぶせただけの、粗末な寝床の手触りだった。 ゆっくりとまぶたを持ち上げると、素朴なつくりの木の梁と、くすんだ天井が見えた。彼は身じろぎをして、低く呻いた。けがをした左足ばかりでなく、体中の節という節がひどく痛んだ。 倒れた前後のことを、ヨウルはおぼろげに思い出した。夜の森を包む深い闇――樹々が吠え立てるような轟々たる葉擦れの音――近づいてきた頼りない小さな灯り。あの灯の持ち主が、彼をここまで運んできたのに違いなかった。 どうやらこの部屋には、ごく小さな窓しかないようだったが、そこからは、かすかに日ざしが入っていた。そのおかげで、ともかくものの姿を見分けるのに苦労しないくらいには、あたりは明るかった。ここが森のどのあたりだかは知らないが、周囲はいくらか開けているらしい。 古びているが清潔そうな水瓶や、壁に干された薬草のようなもの、書棚とそこに積まれた紙の束、そうしたものを、彼は熱にかすむ眼で、ひととおり見てとった。ヨウルはさらに首を捻り、そして、そこにいる人物を見た。 うす暗い部屋の隅、壊れかかってなかば傾いだ木の椅子に、一人の老いた男が座っていた。 ヨウルがとっさに息をのんだのは、その人物の異相に驚いたためだった。ほつれの目立つ服の裾からのぞく老人の手足は、目を疑うほど痩せほそって、ひからびた蜥蜴のような、生気のない灰色の皮膚をしていた。真っ白の髪は伸び放題で、皺に埋もれたような顔には、たくさんの斑点が浮いている。小さな目は、かろうじて開いてこそいたものの、その瞳はなかば白く濁り、老人が彼のほうを見つめ返しているのかどうかさえ、判然としなかった。 これほどまでに年を取った人間を、彼は、生まれて初めて目にした。かつて村で一番の年寄りだといわれていた老爺は、七十の年まで指折り数えるというほどで、すでに目も足腰も弱りきって、まだ生きているのが不思議になるほどに弱っていたものだったが、それでもいま彼の目の前にいるこの人物ほどは、老いてはいなかった。 こんな年寄りが、彼をここまで運んできたというのだろうか? ヨウルはまじまじと老人を眺め、訝しく眉を寄せた。 彼の見ている前で、老人の皺ぶかい瞼がふいに下りて、その濁った瞳を隠し、再び持ち上がった。それから老人は、ゆっくりと腰を上げた。 古びた床板が、老人の歩みにあわせて小さく軋んだ。その足取りはひどく緩慢なものだったが、それでも老人の背や腰がまっすぐに伸びていることに、ヨウルは気がついた。少なくとも、農夫ではないのだ――彼はそう考えた。 日々鍬と鎌を握って屈んでばかりいる農夫たちは、たいして年をとらないうちから、みなそろって腰が曲がっている。猟師もそうだ。獣たちに気配をさとられないよう身を隠し、息を殺してじっと伏せるか屈みこむかしてばかりいるから、年老いるころには、すっかり背が丸くなってしまう。 農夫でも猟師でもないとすれば、この老人は、こんな辺鄙な森の奥で、いったいどうやって暮らしているというのか。あらためて見れば、ここは、炭焼き小屋にはとても見えなかった。それらしい道具もないし、それに、空気が違うのだ。この部屋に漂うにおいといえば、先ほどから彼の鼻をくすぐっている、苦い――そう、薬のようなにおいだけだった。 ――森の奥には、気のふれた魔法使いが住んでいる。 幼いころに言い聞かされたその言葉が、このとき再び脳裏をよぎって、彼はぎょっとした。まさかこの老人が、そうだというのだろうか? 馬鹿馬鹿しい――ヨウルは自らをあざけりながら、ゆっくりと半身を起こした。緩慢な動きでまだ彼のもとに近づいてこようとしている老人は、どう見ても、ただ信じられないほど年をくっているというだけの、ただの人間だった。 長い時間をかけて、彼のすぐそばまで歩み寄ってきた老人は、皺に埋もれた色のない唇を、かすかに動かした。 「気分はどうかね」 えらく古めかしい喋りかたをする爺さんだ――その言葉の抑揚を聞いて、ヨウルは思った。それから目を眇めて、慎重にうなずいた。 「おかげさんでずいぶんといいが――体の節が痛むようだ」 歯切れの悪い言い方になったのは、警戒したからだ。本当のことをいうならば、まだ臥せっていたかった。体じゅうが火照って痛むし、頭の芯にも鈍くしびれるような感覚があった。だが、弱った姿を露骨にさらすことには、少しばかり抵抗があった――この老人が、善意から彼を助けてくれたのだとは限らない。もっとも、いまさらといえば、あまりにいまさらのことではあったが。 「あれだけ熱が出たならば、さもあろう」 老人はもごもごといって、手にもっていた布を差し出してきた。 「あんた、自分で汗を拭けるかね。めんどうをみてやりたいところだが、何せこのとおり、すっかり手足が弱ってしまっておるものだから、時間がかかってしようがない」 口の中で礼をいって、ヨウルは布を受け取った。よれて痛んだ古布ではあったが、ともあれ、清潔そうには見えた。 改めて体をぬぐってみて、ヨウルはようやく、自分が信じられないほどの寝汗をかいていたことに気がついた。この分では老人のいうように、よほど熱を出していたのだろう。口の中にかすかに苦い味がするのは、自分の胆汁か、それとも薬湯でも飲まされたからだろうか。 体を拭く間、沈黙に耐えかねて、ヨウルは口を開いた。 「爺さん、あんた、みんなが噂している魔法使いかい」 それは半ば、冗談のつもりだった。老人に、笑い飛ばしてほしかったのだ。辺境の農村の、迷信と噂の尾ひれの滑稽さを自嘲して、笑い話にしてしまいたかった。 だが老人はすぐに答えず、じっと彼の眼を見つめ返した。ヨウルはその視線にうす気味の悪さを覚えて、体を拭く手を止めた。 白く濁った老人の瞳のなかに、彼はなにか、得体のしれない感情を見出した。警戒――自嘲――絶望――悲嘆――彼の知っているどんな感情とも、それは、少しずつ違っているように見えた。老人は長い間の後に、ゆっくりと唇を動かした。 「いかにも、わたしはいやしくも、魔法使いのはしくれだ。だが、それを知って、お前さんはどうするのかね」 問い返されてヨウルは気おされ、せわしなく瞬きをした。 「どうにもしないさ」 「そうだろうとも。さあ、拭き終わったなら、もう一眠りしたがいい――喉が渇いたなら、水はそら、そこにある。すまないが、藁の替えはないのだ」 そういって、老人は彼に窓辺の水差しを示してから、のろのろと背を向けた。 ――魔法使いだって? 薄気味のわるい爺さんだ――心のなかで毒づきながらも、ヨウルはいわれたとおり水を飲んで、おとなしく体を横たえた。 たしかに藁は汗に湿って、あまり快適とはいいがたかったが、それについては、彼は文句をいうつもりはなかった。もっと寝心地の悪い場所――汚れた床や、どうかすれば地面の上で眠ることだって、もとより珍しくはなかったからだ。 眠りの気配は、速やかにやってきた。地の底に体を引きずり込まれるような睡魔に襲われ、あいまいに溶けてゆく思考の中で、彼は考えた。なによりまずは、体を治すことだ――歩けるようになったら、さっさとこの気味の悪い小屋を出ていこう。 ヨウルが次に目を覚ましたのは、叫び声を耳にしたためだった。 「ああ――許してくれ――どうか許しておくれ――」 暗闇のなかで目を開けて、ヨウルは用心深く、そっと体を起こした。老人は、部屋の反対側のすみにいた。もとより質素な自身の寝床を、見知らぬ男に貸し与えてしまったがために、ただ床に布を敷いて、そこに横たわっているようだった。 老人は、自らの胸をかきむしるように腕を折り曲げて、ひっきりなしにうめいていた。その瞼が固く閉ざされているのを、ヨウルは見た。窓からはかすかに月光が入っており、それがちょうど斜めに老人の顔に射しかけていた。 「私が愚かだったのだ――何もかもが間違いだった――許しておくれ――」 よくも自分の声で目を覚まさないものだと思うほどの、大音声の寝言だった。寝床を這い出して老人を起こそうかと、ヨウルは考えたが、結局のところ、それを実行に移す気にはならなかった。 ひとつには、うるさいと思うのよりも、立ち上がるのが億劫だという気持ちのほうが強かったためだったし、もうひとつには、眠っている人間にけして声をかけてはならないという、子どものころにいいきかされた話が、頭の隅に残っていたからだ。 眠りは死に通じているから、眠れる者と話をすると、冥府に魂を引きずり込まれるというのだ。そうした迷信を、理性ではくだらないと考え、まるで信じていないつもりでいても、子どもの時分に身にしみついた習慣というものは、思いがけないほど強く、行動を縛るものだ。 「ああ――どうか――クレフ――エリオット――ヴァルカ――エイウェン――知らなかったのだ。知らなかったのだ――どうか許してくれ――」 老人は長いこと、魘され続けた。延々と誰かの名前を呼んでは、許しを請う。譫言が止むのを待つのはあきらめて、ヨウルは再び体を横たえると、老人のいるほうに背を向けた。そうして目を開けたまま、壁のしみを数え始めた。 老人の皮膚がしみだらけであったように、この建物の壁も、どこもかしこもくすみ、削れ、痛んでいた。それでも不潔な感じがしないのは、掃除が行き届いているからか、それとも壁に掛けられている薬草の束のためだろうか。 ここにはいない誰かに許しを請う老人の寝言が終わるよりも、ヨウルがみたび眠りに落ちるほうが早かった。 つぎの朝には、すっかり熱も下がっていた。ヨウルは寝藁の上で慎重に体を動かして、どこも、疲労に凝り固まってはいても、ともかく自分の意志のとおりに動かせることを確かめた。 左足はいまだに腫れ上がり、少しでも動かすとひどく痛んだ。それでも、巻かれた布をはがしてみれば、傷口はきれいなものだった。足が腐って切り落とすはめになる心配は、ともかくしなくてすみそうだった。老人が塗ってくれていたらしい、膏薬のようなものが、乾いてぱらぱらと床に落ちた。 老人は、ヨウルの傷を確かめてひとつうなずくと、あとは素知らぬふりで、傾いだ机に落ち着いた。 老人はときおり思い出したように何かを書きつけては、手を止めて、ぼんやりと宙をにらんだ。その様子を、ヨウルはじっと見守った。字を読み書きできるものなど、彼の郷里には数えるほどもいなかった。どうやら身かけによらず、教養のある人物らしかった――農夫ではなさそうだという最初の印象を、ヨウルは思い出した。 老人がいつまでも朝食の用意をするようすがないので、やがてヨウルはばつの悪い思いで、空腹を訴えた。老人はいっとき振り返りもせずに、ぼんやりとしていたが、あるとき急に目の覚めたような顔をして、ああ、そうかというようなことを、もごもごとつぶやいた。 昨日言葉を交わしたときには、頭ははっきりしているように見えていたのだが、日が変わって朝になると、どうやら様子が違っていた。老人はときおり、誰もいない場所に向かって意味のとれないことを話しかけ、そうかと思えば振り返って、なぜ見知らぬ男がここで寝ているのだというような目で、ヨウルのことを見た。 ――爺さん、呆けてやがる。 あるいはかつて村人たちが噂していたように、気がふれているのか。だが、どちらにしても同じことのように、ヨウルには思えた。 食べ物を取りにゆくのか、老人がよろめきながら小屋を出て行ったとき、このまま戻ってこないのではないかという不安に、ヨウルは襲われた。 だが、長い時間ののちに、老人は戻ってきた。たったいま土の中から掘り出してきたのだろう、見慣れない形の芋のようなものと、まだ緑もみずみずしい草を、手に提げていた。 ヨウルは老人が火を熾して料理をする間、その一挙手一投足に、油断なく目を凝らしていた。呆けているふりをして抜け目なく人を観察する老人というのが、中にはいるものだ。何もわからないと思わせ、人を油断させておいて、その実、冷静に相手の本性を見極めようというような者が。 だが見れば見るほど、老人は、もうどうしようもないほど耄碌してしまっているように思えた。のろのろとした動作の途中でふと手を止め、さて自分は何のためにこんなものを持っているのだろうというような顔を、ときおり見せた。 それに――たとえその様子が演技だとしても、彼の不意をついて危害を加えることができるようには、とても見えなかった。老人の手足は見るだに細く、まるきり枯れ枝のようだった。 その細い手から、老人は何度となく食材を取り落した。よくもこうまで弱っていながら、こんな森の奥で、これまで暮らしてこられたものだ。ヨウルはあきれて肩をすくめた。それもどうやら一人きりで――見るかぎり、小屋のなかはこの部屋ひとつきりのようだし、藁の寝床や、机や椅子、食器というようなものは、いずれも一組しかなかった。この分では、老人がいずれものを食べることを忘れて飢え死にする日も、遠くはないのではないかと、彼には思えた。 それでもともかく、出された芋粥は、まともな出来上がりだった。老人が寝床まで運んでくれた暖かい粥を啜りながら、ヨウルはその熱が、胃の腑にしみわたるのを感じた。塩気はうすいが、何か香草のようなものが入っていて、いかにも滋味のありそうな味がした。 むさぼるように啜り、ほとんど食べ終わるころになって、ヨウルはようやく、老人が何も食べていないことに気がついた。 「爺さんの分が、なくなっちまったんじゃないのか」 さすがに気が引けるような思いがして、ヨウルがそういうと、老人は目をしばたいた。それから、年寄りはあまり食べなくても平気なのだというようなことを、もごもごと呟いた。 彼が手渡した空の椀を、老人が片づけているあいだ、ヨウルはじっと、その背中を観察した。緩慢な動き――危なっかしげな手つき。まさか魔法使いだから、何も食わずとも平気だとでもいう気だろうか。自分の思いつきを、ヨウルは笑った。 老人がほんものの魔法使いだとは、ヨウルは思っていなかった。 子どものころには、村の年寄りたちの話を、笑い飛ばしながらも、半ば真に受けていたようなところがあった。いにしえの世には魔法使いたちがそれぞれに王に仕え、まつりごとにその神秘の力を貸していただの、この世のどこかに魔法使いたちの棲む隠れ里があって、いまもひっそりと不思議の力をふるっているのだというような話を。 だがいまはもう、魔法などというものは、おとぎ話かつくりごとだとしか思えなかった。成人してからのこの十数年間を、雑多な人の行き交う街で過ごしたいまとなっては、彼はあまりにも多くのペテン師、辻芸人、見世物の類を目にしすぎていた。 そうした人々が魔法といって披露して見せるものは、どれもこれも仕掛けのある目くらましか、そうでなければ、言葉を巧みに弄しての暗示によって、さもそこに不思議な力が働いているかのように人々に思い込ませる、いんちきの類だった。魔法使いというものは、人から言葉巧みに金を巻き上げようとするうさんくさい連中なのだと、いまやヨウルは、頭からそう思い込んでいた。さもなくば――自分のことを魔法使いだと思い込んでいる、ただの狂人か。 森の奥ふかくに隠棲しているらしい、この変わり者の老人もまた、そうした気ぐるいの一人だろうと、ヨウルは踏んでいた。 何の事情があったかはしらないが――ヨウルは昨夜、老人がひどくうなされていたことを思い出した――人里離れたこんな場所に隠れ住むうちに、孤独に押しつぶされて、妄想に捕まったのかもしれない。自らを偽り続けているうちに、本当にそうであると信じこんでしまう人間がいることを、ヨウルは知っていた。 半ばからかうような気分で、ヨウルは老人に呼びかけた。 「爺さん、あんた、なんでこんなところで、一人で暮らしているんだい」 老人は振り返ったが、答えずに、ただじっと、彼の眼を見つめ返した。 答える気がないのだろう――あるいは考えているうちに、質問されたことを忘れてしまったのか。そう思ったヨウルが、答えを待つ気をなくしたころになって、ようやく老人の視線が動いた。 その眼は、いまのいままで、この世のどこでもない場所を見ているような具合だったが、それがこのとき、突如として知性を取り戻したようだった。 「わたしはこの森から、出られんのだ」 低くかすれた、それでいて、これまでの話しぶりとは比べようもないほど、明瞭な声だった。ヨウルは意表をつかれて、少しばかりたじろいだ。 「そりゃいったい、どうしてだい」 ヨウルは聞きかえしたが、さして興味があったというわけではなかった。気ぐるいのいうことだ――真に受けるほうが馬鹿馬鹿しい。老人は、苦く、吐き捨てるように答えた。 「かつて私が使った、魔法のせいだ」 ヨウルは小さく鼻で笑った。それに気づいているのかどうか、老人は細く長く息を吐いて、それから二度、ゆっくりと首を振った。 「愚かだったのだ――私は愚かだった。だからこのような場所にいるのだ」 それきり老人はぴたりと口をつぐんだ。その眼は再び茫洋とした霧の中に飲み込まれて、どこかにさまよいだしたようだった。 小屋の中の時間は、妙にゆっくりと流れていくように思われた。頭のおかしくなった年寄りと二人きりでいるのは、ひどく気づまりなことだったし、それ以上に退屈だった。 まともに立ち上がることもできないのでは、やれることなどない。ヨウルは字がほとんど読めないので、老人の本を借りてみようとは、最初から思いもしなかった。読めたとしても、狂人の蔵書を読んでみる気になったかどうかは、怪しいところだが。 それにしても――ヨウルは再び、老人の正体に想像をめぐらせた。 どういう経緯でこんなところに隠れ棲んでいるのかしらないが、読み書きができるらしいことといい、老いて弱っていてもなお背筋の伸びていることといい、もしかすると、もとはそれなりの身分の人間だったのではなかろうか。 老人の着ている服は、色あせてほつれ、ぼろきれも同然になってはいたが、それでもとにかく清潔に保たれており、これまでは気付かなかったが、よくよく見れば、仕立ては悪くないようだった。意匠は古めかしいながらも、もとは銀糸ではないかという縫い取りが、胸と裾のところにあしらわれていて、こうもくたびれてさえいなければ、上流の人間が身につけるもののようにも見える。 もとは貴族か、あるいは代々続く商人か、そうした出自なのかもしれない。それがどうしたわけか凋落し、世間から隠れる必要に追われて、とうとうこんなところにまで流れ着いたものではないか。 もしその推量が当たっていれば――ヨウルは目を眇めた。この狭い小屋のどこかに、金目のもののひとつやふたつなりと、隠してあるかもしれない。 ヨウルはその思いつきを老人に悟られないよう、慎重に表情をつくろって、ことさらにゆっくりとまばたきをした。もっとも、老人の視線はまたしてもあらぬ虚空に注がれており、その口は、ぶつぶつと意味のとれないことをつぶやいていたのだが。 好都合なことに、老人は日に何度か、ふらりと小屋を出て、森を散策でもしているようだった。その隙に、足の調子を見ながら家探しをしてみるのもいいかもしれない。 助けられておきながら、いかにも恩をあだで返すようだが、なに、こんな森の奥深くに隠れているくらいだ、金があったところで、爺さんには使い道もなかろうし――ヨウルは無意識に唇を舐めた――どのみち老い先も、そう長いようには見えない。このまま老人が一人きりで死んで、せっかくのお宝が人知れず森の奥で朽ち果ててしまうくらいならば、自分がもらっていって町で売り払ったほうが、よほど誰のためにもなろうというものだ。 そこまで考えて、ヨウルは我に返り、瞬きを繰り返した。いや、だが、あまり期待はすまい。こんなふうに質素に暮らしているくらいだ。金があったとしても、とっくに使い果たしてしまっているかもしれない。まあ、だめでもともとだというほどの心持ちで、ゆっくり探してみようじゃないか。 いつしか彼は、すっかりその気になっていた。まとまった金さえあれば、人目につかないように国境を抜ける手立てだって見つかろうというものだ。 金も見つからぬうちからあれこれと頭のなかで算段を繰り返し、ヨウルは機をうかがった。いっときの間、老人は書きものをしながら、ぶつぶつとここにはいない誰かに話しかけていたが、やがてふと瞬きをして、ゆっくりと腰を上げた。そうして危なっかしい、のろのろとした足取りで、戸口へと向かっていった。 このときヨウルは、老人が足を引きずっているのが、ただ歳を取って弱っているだけではないことに、ようやく気がついた。どうやらどこか痛めて、それをかばっているらしい。その足取りは、彼にひとつの想像をさせた。行き倒れていた見知らぬ男を苦労して背負い、その弱った足腰で、長い時間をかけて自分の家まで引きずってゆく、痩せこけた老人の姿―― その光景は、あまりにも容易に脳裡に思い浮かんだので、彼は、いささかばつの悪い思いをした。 痛む足を引きずってまで家探しをするだけの気力は、それですっかり失せてしまった。ヨウルは寝がえりを打って、壁の方に顔を向けた。考えてもみれば、そもそも何もかもが想像でしかないのだった。 何、本当に大金を持っているのならば、いくらなんでももう少しはましな暮らしをしているだろうさ。ヨウルは誰にともない言い訳を、口の中で呟いた。 日がな一日寝転がっているので、これ以上眠れるとも思っていなかったが、それでもヨウルは目を閉じて、眠ろうと努力した。少しでも早いところ体力を取り戻したかったし、どのみち起きていたところで、することがない。 だが、そうしてぼんやりしていると、思い出したくもないことばかりが、知らず脳裏をよぎり始めるのだった。都合よく彼を密偵として利用しておきながら、いざ露見すればあっさりと切り捨てた軍人。おそらく警吏に彼の情報を売ったのだろう、友人の顔。考えれば考えるほど、裏切りの心当たりは、ひとつしかなかった。 ヨウルは酒が入っても、記憶を失うような質ではない。むしろ飲めば飲むほど、ますます意識が冴えわたるほうだ。覚えている限り、故郷について他人に具体的な話をしたのは、ただの一度きりだった。 考えるまいとして、ヨウルは首を振った。そもそも、他人を信用した自分が愚かだったのだ。 信じるに足る人間など、どこにもいない。人は人を売るものだ――どんなに親しげな顔をしていても。故郷の村での暮らしを思い出して、ヨウルは唇を曲げた。貧しかった暮らし――人買いに売られていった、彼の弟。 いざ逃げ出すとなったとき、なぜ自分の足が捨てたつもりの故郷に向いたのか、わがことながら、ヨウルには理解しがたかった。いい思い出など、ひとつもないはずの場所だった。わが身を危うくしてまで匿ってくれそうな人間など、誰も思い当たらない。 ヨウルは爪を噛んで、不毛な思考を打ち切った。そんなことよりも、もっと現実的なことを考えなくてはならない。 爺さんは、森を抜ける道を知っているだろうか? 村の反対側への道だ――ヨウルはつらつらと考える。猟師でもない人間が、人の往来もない獣道を知っているとは思えなかったが、それでもここに、どうやら長いこと一人で暮らしているのだ。何かの手がかりは持っているかもしれない。 聞いてみるか――だが仮に老人が知っていると答えたところで、あの様子では、まずヨウル自身がその記憶を信じる気になれるかというと、怪しいものだった。 この先、どうしたものか。考えれば考えるほど、ヨウルは暗澹たる気分になった。まず無事に森を抜け出せるかもわからず――いまこのときも、どこか遠くで狼が声をそろえて吼えていた――抜け出したところで、追っ手に捕まらずに安全なところまで逃げられるのか。 そもそも、安全なところがあるのか。国境をひそかに越えるための手段については、人のうわさで耳にしたことがないでもなかったが、そうした手引きをする者に、渡りをつける伝手を持っているわけではない。 気分はうち沈む一方だったが、それでもいつしか、彼はゆるやかに眠りに落ちていった。 戻ってきた老人の足音で、ヨウルはうたた寝から目覚めた。 このときは、老人は彼のことを忘れてはいなかった。少なくとも、寝床に見知らぬ男が眠っていることに驚いたというようなそぶりはみせなかった。老人が足を引きずりながら歩く、その緩慢な物音を聞きながら、ふとヨウルは疑問を覚えた。 「なあ、爺さん。どうしてあのとき、俺があそこで倒れてるって気づいたんだい。あのときは暗かったし、物音だって、木々の枝が鳴るのがうるさくて、聞こえたもんじゃなかったろう」 ヨウルは答えを期待せずに問いかけたが、ゆっくりと振り返った老人の眼には、いまはいくらか、知性の輝きらしいものが戻っていた。 「この森の中で起こることは、たいてい、私にはおのずと感じられるのだ」 ヨウルはその返答を聞いて、鼻に皺を寄せた。「あんたが魔法使いだからかい?」 老人は平然としたようすで、そうだといった。ヨウルは小さく鼻で笑った。 「あんたが本物の魔法使いだっていうんなら、爺さん、俺のこの足のけがも、魔法でちょいと治してくれないか」 彼の皮肉は通用しなかった。老人は目を伏せてゆっくり首を振ると、彼のほうに向き合う形で、傾いだ木の椅子に腰を下ろした。いかにも軽々とした老人の体重でさえ、受け止めかねるように、椅子はきしむ音をたてて傾いだ。 「魔法というのは、それほど便利なものではない」 老人は言葉を切って、いっとき視線をさまよわせ、それから続けた。「それに私は、二度と魔法は使わん。ずっと昔に、自分でそう決めたのだ」 使わないのではなく、使えないのだろう――ヨウルは言いかけたが、結局は言葉を飲み込んだ。 哀れな狂人が自分の嘘を信じるための方便だ。そんなものをわざわざ否定してみせたところで、何になるだろう。ヨウルは肩をすくめると、老人の話に乗ってみせた。 「へえ、そんなら魔法っていうのは、いったいどんなものなんだい。あいにくと本物の魔法使いっていうやつを、これまで見たことがなくってね」 老人は顔をあげて、まじまじと、彼の眼を見つめ返した。その目つきの真剣さに、彼がいくらか気おされかかるころになって、老人は再び口を開いた。 「魔法というのは、本来は誰にでも使える力だったのだ――だが、忘れられてしまった。いまや魔法の力を使うのは、ごくわずかな、限られた者ばかりだ――」 魔法の話になると、途端に老人の声が力を帯び、その口が倍ほども饒舌になることに、ヨウルは気がついていた。苦も無くすらすらと話せるほどに、長年のあいだこの老いた孤独な男の中で、詳細に作り上げられていった嘘なのだろう。 ふいに哀れみの念が胸の奥にこみあげて、居心地悪く身じろぎするのを、ヨウルは感じた。誰に聞かせるあてもなかった嘘を、一人きりでせっせと作り上げてきた、孤独な男。 老人は再びうつむき、己の皺ぶかい手を見下ろしながら、滔々と語り続けた。 「この世界の、ほんの薄皮一枚へだてた向こう側には、もうひとつの世界があるのだ。我々の知る世界とは似て非なる そのときとつぜん風がうなり声をあげて、小屋を揺さぶった。ヨウルは小さく身をすくめた。これまでにないことだった――頭上で樹々がざわめきこそすれ、その風が森の天蓋を破って、地上まで激しく打ちよせるようなことは。 老人は風になど気づきもしなかったように、話し続けていた。 「魔法というのは、その薄皮をうまく破いて、向こう側の力をこちらに呼び込み、それを支配して、思いのままに制御するわざだ。ただ破れ目をつくるだけでは、何にもならん。力を支配することこそが、肝要なのだ――支配する――」 言葉は、話が進むにつれて徐々に速度を落としてゆき、やがて老人は、ふっつりと黙り込んでしまった。小屋の外で、風の逆巻く音が強まり、ひとしきり唸りを上げた。 風が止むのを待って、老人は再び口を開いた。 「だが、一定のところを過ぎれば、今度は――」老人の眼が妙にうつろになり、それでいて、うっすらと皮肉っぽい色を帯びた。「逆に、力に支配される……」 ヨウルは背筋の寒くなるのを覚えて、あわてて首を大きく振った。老人の口調が暗示をかけるのか、あるいはこの小屋にただよう侘しい空気がそうさせるのか――まるきり信じていなかったはずの話に、いつしか釣り込まれかかっている自分に気づいたのだった。 「支配されたら、どうなるっていうんだい」 わざとらしいほど明るい口調で、ヨウルはたずねた。老人はわずかのあいだ瞑目して、それから顔を上げた。 「百年と少し前には、ここは森ではなかったといったら、信じるかね?」 急な話の飛躍に、ヨウルは戸惑った。それから気を取り直して、老人の言葉を咀嚼した。つい数日前に彷徨った森の、果てしない広がり、密に生い茂った樹々の、見上げれば首の痛くなるような背丈――馬鹿馬鹿しいと、彼は笑いとばそうとした。そして黙った。来るときに見た、あの奇妙な廃屋の数々を思い出したのだった。家々の屋根を突き破ってそびえる、巨大な樹々―― 「私は、魔法を使いすぎた。私は魔法を支配しているつもりで、いつしか逆に、魔法に支配されていた。お前さんから見れば、私のこの体は、老いぼれてくたびれているにせよ、ともかく自分の意のままに動かせているように見えるかもしれない。だが真なる意味では、私の主は、もはや私ではない――」 老人の口ぶりに、ヨウルは違和感を覚えた。それではまるで、その魔法の力とかいう得体のしれないものが、生き物のように自らの意思をもって、老人の肉体を動かしているかのようではないか。 ヨウルの困惑をよそに、老人は低く、語り続ける。 「いまや私は、この森に囚われ、深く結び付けられているのだ。未来永劫、森の外に出ることはかなわぬ。だがそれは、自らの為したことの報いなのだ。私はそれだけの罪を犯した――許されざる罪を。許されようとも思わぬ……」 老人はすでに、ヨウルに話しかけているのではなかった。それは独白だった。自らに言い聞かせる口調で、老いた男は、つぶやき続ける。 「みな、亡霊になって恨み言のひとつも聞かせてくれれば、せめての慰みにもなろう。だがもはや誰も、私に話しかけてはくれんのだ。しかしそれも、当然のことだ。彼らは死んだのではなく、森になったのだから。みんな、森になってしまった――森に――」 老人の言葉の後半は、掠れた小さなつぶやきにしかならなかったので、ヨウルにはろくに聞きとれなかった。だが問い返す気にはなれなかった。鳥肌の立った腕をさすって、彼はいっとき黙りこくっていたが、やがて身震いをして、口を開いた。 「罪の報いのと、ずいぶんと大層な話になってきたじゃないか。何が何だかよくわからないが、爺さん、あんたいったい、何をしでかしたっていうんだい」 「――戦だ」 答えて、老人は遠い目をした。小屋のくたびれた木の壁を通り越して、その視線は、遥かな昔にさかのぼっているようだった。 「魔法のわざに携わるものは、戦やまつりごとには、けしてかかわってはならぬ。どのようなことがあろうともだ。だが、私は掟を破った――」 大きな戦だった、と老人は囁いた。「ほかに、どうするすべがあっただろう? 愛する人々が戦禍に踏みにじられるのを、かつて過ごした土地が炎にまかれるのを、さんざん目の当たりにして――私の手の中には力があった。ただふるうことを禁じられているだけで、その気になりさえすれば、いつでも意のままになる力が。妹の生んだ赤ん坊が、兵士の乱暴な手に投げ捨てられ、旧い友が血にぬれた刃の下で震え、かつて愛した女が犯されかけているときに、ほかにどんな方法が?」 いや、いやと、老人は頭を振って、自らの言葉を打ち消した。それまでの緩慢な動作が嘘のような、激しい動きだった。 「だがそれでも、やはり私は、何もするべきではなかったのだ。私は愚かだった。ときにどれほど不条理に思えようと、掟には、いつでもそれだけの理由があるのだ――私がふるった魔法のために、彼らは――彼らは――」 老人はまだ話し続けていたが、ヨウルは視線を外した。老人の嘆きぶりは、まるきりの嘘とも思うには迫真の響きをそなえていたが、それでもこんな話を信じる気にはなれなかった。彼には学はないが、このあたりの地方で最後に起こった戦が、百三十年ばかり前の出来事だということくらいは知っている。いくらこの老人が年を取っているといっても、それほど長く生きているはずがない。 「魔法使いたちは私を追放したが、そのようなことをする必要は、どこにもなかったのだ――どのみち私はこの森にとらわれて、一歩も外へは出られないのだから。罰は甘んじて 受けよう。私には許しを請う資格がない。許されたいとも思わない……」 許しを求めはしないと、老人は何度となく繰り返した。際限なく続くかのように思われた老人の独白は、いつの間にか迫っていた宵闇に、徐々に吸い込まれてゆき、やがて途切れた。そうして老人がひとつ瞬きをした、そのあとには、彼はもう、自分のした話をすっかり忘れてしまっているようだった。 その晩、うつらうつらとしては目が覚めるということを繰り返して、ヨウルはとぎれとぎれの眠りの合間に、風の音に耳を澄ましていた。 老人は床の上で、寝苦しそうに身じろぎをしていた。その息が苦しげに高まり、いびきとも唸り声ともつかないような音を立てていたのが、あるときから徐々にはっきりと、寝言の体を取りはじめた。 「許してくれ――私が愚かだったのだ。こんなつもりではなかったのだ――おお――」 許されようとは思わないと、起きているときにはあれほど執拗に繰り返しておきながら、その同じ口が、いまは必死に誰かの許しを乞うている。哀れで、みっともなく、滑稽な姿だと、ヨウルは思った。だがその滑稽さを、笑う気にはなれなかった。昼間と眠りの中にいるときでは、人は往々にして、異なる望みを持っているものだ。 魔法――戦――報い――罰。口の中でつぶやいて、ヨウルは寝返りを打った。老人の狂気に巻き込まれそうになっている己を少しばかり危惧しながら、それでも同じ心の一方では、やはりこの孤独な老人が、ひどく哀れに思えもするのだった。 他人を気の毒だと思うことが、久しく絶えてなかったことに、ヨウルは気がついた。都での暮らしは忙しなく、他者の不幸に思いを馳せる余裕など、どこにもなかった。わずかの隙を見せたばかりに、足元の危うくなるような日々――他者が転落すれば、それを横目に見て、ああはなるまいと己を戒めるのが、都のやりかただ。 魔法だの戦だのというのは作り話としても、かつて老人が何かのあやまちを犯し、その罪悪感に苦しみ続けているというのは、おそらく本当のことなのだろう。ヨウルは老人の寝顔を見下ろした。すべてが作りごとであるにしては、老人の嘆きはいかにも悲痛な響きを帯びていた。 「――私が愚かだった――許してくれ――どうか……」 ヨウルは眼を閉じて、足の傷にさわらぬよう、そろりと寝がえりを打った。絶え間ない老人の懇願を、うるさいとは感じなかった。 窓の外では梟が鳴き、狼が声をそろえて吠え、樹々が絶え間なくざわめいている。どこかで水音がしているような気もしたが、それが本当にせせらぎの音なのか、葉擦れがそのように聞こえるだけなのか、彼にはわからなかった。 そうした雑多な音の飛び交う中で、眠れる老人が、ここにはいない誰かに許しを乞うている。それらの物音のどれひとつとして、夜の森の静寂を破るどころか、かえって深めているようにさえ、ヨウルには感じられた。 しんと静まり返った水底のような夜、寒くもないのに妙に凍えるような夜だった。 なじみの酒場のテーブルは、いつも油じみて、たいていの場合はその上に何の痕だかわからない染みが残っていた。店内には酒と食べ物のにおいに混じって、男たちがそこらに平気で吐き捨てる噛み煙草だの、質の悪い革からただよう刺すような悪臭だのが混じり合っていた。育ちのいい人間ならば入るなり鼻をつまむに違いなかったが、そこに通う人々はというと、一向に気にならないようすで、強いほかには取り柄のない酒と、熱いことだけが救いのような料理をつつきながら、気ままに声を張り上げている。 そんな店にしか入れないほど、給金が少ないわけではなかった。だがそういう店をヨウルは好んだし、この日の連れもまた、そういう人間だった。 ――へえ、お前、北方の出だったのか。たしか織物の有名なところだろう。 友人はそんなふうにいって、面白がるように目を丸くした。よく日に焼けた肌と、くるくると回る黒い目を持つ青年だ。頭のめぐりは悪くないのだが、それが立ち居振る舞いにまでは及ばない。悪くいえば大雑把で気の利かない、よくいえば純朴でおおらかな、都では珍しい種類の男だった。 ――いやあ、もう長いつきあいになるのに、ちっとも知らなかった。それにしちゃ、お前さん、きれいな都ことばを話すよなあ。てっきりこの辺の生まれだとばかり思ってたよ。 ――田舎者で悪かったな。 ――それをいうなら、俺だって田舎者さ。いや、たいしたものだよ。生まれ育った土地を離れて、よその言葉や暮らしにすっかりなじむってのは、人が思うよりずっと、大変なもんだからなあ。 しみじみとそういう友人は、西方の高山地帯の出だという話だった。幼いころから学問がよくできたので、遠縁を頼って町の学校に通わせてもらうことになったのだそうだ。そのままこちらで仕官のくちを見つけた。 それはヨウルからしてみれば、別世界の出来事のような話だった。それでも妙に馬が合ったのは、この都においては、どちらも同じよそものだという共通点があったからだろうか。 かつて身一つで飛び込んだ都は、狭い故郷の村とは違い、よそものに寛大ではあったが、その寛大さは、無関心を意味してもいた。まともな職につけるのは、生粋の都人か、そうでなければ、それなりの伝手をもつ者ばかりだった。 ある日ふらりとやってきた田舎者にでも、投げ与えられる仕事があるとすれば、よほど条件の悪い日雇い人夫か、稼ぎの九割は元締めに吸い上げられてしまうような、けちな商売がせいぜいだった。そして、それさえも見つからないことのほうが、ずっと多いのだ。 彼がもし女だったなら、また別のやりようがあったかもしれない。だが現実にヨウルを待っていたのは、食べるものさえまともに購えないような日々だった。それは、故郷の貧しさとは似て非なる貧窮だった。都にやってきてひと月もしないうちに、彼は野良犬のように残飯を漁ることにさえ、すっかり慣れかかっていた。 そうした日々を幾月も過ごしたのちに、彼は、ようやく決意したのだった。まっとうにやろうとしたって、何にもならない。何かを為そうと思って故郷を出てきたのだ――何かを変えるためには、まず金が要る。そして、普通のやりくちでは、ここでは金など、百年あってもたまりっこない。 腹をくくってさえしまえば、あとは早かった。けちな盗みを皮切りにして、彼の暮らしは変わっていった。そうやって手にした小金で、少しは身なりをとりつくろうことができるようになると、ヨウルは詐欺の手口を学んだ。 学んだといっても、何も師についたわけではないが、都会というところは、似た者同士がいつの間にか吹きだまるようなつくりになっているらしい。けちな盗人には、けちな犯罪者連中の知り合いばかりが、どんどん増えていくといったぐあいに。そうした中に、天才的に口のうまいのが、ひとり混じっていたのだ。 自慢げに吹聴されるその手口を、ヨウルは鵜呑みにはしなかった。誇張された話は半分に訊き流し、それでいて、よくよく耳を澄まして慎重に隠された秘訣を勘ぐった。ときにはうまくおだてながら、さらなる手がかりを聞き出し、ひっそりとその男の後をつけて、やり口を目と耳で盗んだりもした。 そうしてヨウルもまた、鼻と目とを養った。騙されやすい人間を嗅ぎ分ける鼻――騙されたと気づいたときにむきになって相手をとっちめねば気のすまない連中と、黙って泣き寝入りする類の人間とを、見分ける目。 そんなふうに作った金を持って、今度はもう少し大きい仕事に手を出そうかとしていた矢先のことだった。そうした勘の良さを買われて、ヨウルはある貴族に拾われた。代々軍人の家系だという、高慢な男だった。世話をしてやるかわりに、政敵の弱点をつかんでこいというわけだ。 それからの十年ばかりは、何もかもが順調だった。ヨウルはいい働きをしたと自負していたし、だからといって、調子にのって欲をかきすぎることもなかった。 身分をいつわってかかわりあった人々の中には、お育ちの良いわりに、妙にうまの合うようなのもいた。そうした連中と、表面上は気さくに付き合いながらも、ヨウルは心の奥底では、けして油断を崩さなかった。そう、たった一度きり、このときばかりをのぞいては。 ――なあ、ヨウル。戦は起きると思うか。 ――さあなあ。起きなきゃそれに越したことはなかろうが、起こしたがる連中が、これだけいるんじゃあな。 肩をすくめたヨウルに、友人はふと口元をゆるませて、問いを重ねた。 ――お前はどうなんだ。 ――起こらなきゃいいって、いっただろう。ちゃんばらなんて、ごめんこうむりたい話だよ。 そう答えた瞬間、それまで頬を紅潮させて上機嫌にしていた友人の顔から、すっと表情が消えるのを、ヨウルは見た。 ――嘘をつけ。お前の飼い主は、いまにも誰かれなく斬りかかりたくて、うずうずしているようじゃあないか。 いっぺんに酔いが醒めた。 ヨウルはかぶっていたすべての仮面をかなぐりすてて、油じみたテーブル越しに、相手の胸ぐらをつかんだ。 ――お前だったのか。 ヨウルは低く、うなるように問いただした。 友人は答えず、薄い笑みを浮かべて、ただ彼を見つめ返した。その眼の冷たさにぞっとして、ヨウルは空いた一方の手で、テーブルの上を薙ぎ払った。 真鍮製の食器が転がり落ち、酒瓶が割れ、周りの人々から歓声だか罵声だかわからないような声が上がった。店主がカウンターの向こうで怒っている。ヨウルは立ち上がって、友人にいった。 ――お前が、俺を、売ったのか。 だが友人は、冷たい目をしたまま、泰然と微笑んでいる。ヨウルの手を払いのけて、友は肩をすくめた。いつでも底抜けに明るく人のいいこの男に、ひどく似合わない、慇懃なしぐさだった。 ――そうだといったら、どうする。 しゃあしゃあといってのけるその顔に向かって、罵声を浴びせかけるつもりだった。少なくとも、口を開いた、その瞬間までは。 ――嘘だろう。 実際に口からこぼれ出たのは、みっともなくかすれた声、情けない、懇願するような声だった。 友人は答えなかった。微笑を崩さないまま、腕を組んでいる。その眼が、はっきりと自分を哂っているというのに、それでもヨウルは目の前にある事実を、認められなかった。 ――嘘だといってくれ。そんなはずがないだろう。お前が…… ――裏切り者はどっちだ? その言葉は、ヨウルを刺した。だが彼は、すぐに激しく頭を振った。彼らが仕える主からしてみれば、たしかにヨウルは裏切り者に間違いなかった。けれどこの男に対しては、彼は、裏切りを働いたつもりはなかった。その気になれなかったからだ。 方々からそれとなく聞きだした情報を、本来の雇い主に流すときにも、この友人にだけはあらぬ波紋がおよばぬよう、慎重に言葉を選んできたつもりだった。他人を利用することばかりの日々、抜け目なくふるまってきた都での暮らしの中で、それが彼に残された、唯一の良心だったのだ。 ――なあ、嘘なんだろう。 ヨウルは声を枯らして叫んだ。お前じゃないといってくれ――…… 何かを叫んで、その自分の声に驚いて目を覚ましておきながら、ヨウルは自分が見ていた夢を、その一瞬のちには忘れてしまっていた。 体じゅうが痛んで、ひどく凝っており、そのうえにいやな汗をかいていた。 空気は冷たく、木戸の隙間から漏れる光はいかにも弱々しかった。まだ朝も早いのだろう。老人はすでに起きていたが、椅子にぼんやりと腰かけたまま、じっと沈思しているようだった。あるいは何も考えていないのか――その茫洋としたまなざしからは、何もくみ取れなかった。 ヨウルは深く息を吐いて、半身を起こすと、体の具合を確かめた。夢見の悪かったせいか、疲れのとれない感じはあったものの、足のけがは、ずいぶんいいようだった。 寝床から降りて、ヨウルは床を何度か軽く踏み鳴らした。まだ痛みはあるが、なるべく体重をかけないように気をつけてさえいれば、歩くことはできそうだった。 いつここを出るか――ヨウルは肩を回しながら、そのことを考えた。この場所が、そう簡単に兵士たちに見つかるとは思えなかったが、いつまでもこんな場所にいてもしかたがない。なにより、長く二人きりでこんなところに籠っていれば、いずれ老人の狂気が伝染しそうで恐ろしかった。 それからの数日、老人は魔法だの、過去の戦だのという彼の妄想については、まったくといっていいほど口にしなかった。ヨウルは黙りがちに日々を過ごし、老人は彼が返事をしてもしなくても、何もない空に向かって脈絡のないことを話しかけた。 その日は朝から、老人は机に古い書物を広げて、ずっとぼんやりとそれを眺めていた。ヨウルは何気なくその手元を覗き込んだが、紙は痛んで虫食いだらけになっているうえに、インクもすっかり褪色して、とても書かれていることが読めるとは思えなかった。それとも老人の眼には、かつてそこに書かれていた文章が、見えているのだろうか。 もし自分に読み書きができたなら――ヨウルはぼんやりと考えた。何の展望もないまま都に飛び込んだ、あの十年余り前の若かりし日々にも、多少なりとまっとうな仕事に就くこともできたのだろうか。そうしていたなら、いま自分は、どこで何をしていたのだろう。 それは、いまさら考えたところで、あまりに詮無いことではあった。それでもこのとき、妙に感傷めいた気分になって、ヨウルはもしもの先を空想した。 「サナンや、シキミを切らしているのではなかったかね」 もの思いから呼び戻されて、ヨウルは瞬きをした。さっきまでぼんやりと書物を見つめていた老人が、いつの間にか顔をあげて、彼のほうをじっと見ていた。 彼を、誰かと間違えているのだ。 ときおり老人の頭が過去に戻ってしまうらしいことに、ヨウルは気がついていた。彼はあいまいに首をひねった。 「シキミ――何だって?」 「おやまあ!」 老人は目を丸くして、大げさに唸った。「そんなことも忘れてしまったのかね。私が毎日毎日教えてきたことは、そのおつむのどこにいってしまったんだね。お前さんというやつは、まったく、魔法の腕前は一級品のくせに、そのほかのことの覚えときたら――」 老人はいっとき嘆いていたが、やがて深くため息をついて、戸棚に向かった。そのシキミだかなんだかいうのを探しているのかもしれない。ヨウルは肩をすくめて頭を掻いた。 どうせろくにものもわからなくなっているのだし、適当に調子を合わせてやったほうが、親切というものかもしれなかった。だが話を合わせるにも、いわれていることの意味さえわからないのではどうしようもない。 いっときあきらめ悪く戸棚を探っていた老人は、やがて首を振りながら戻ってきた。 「あとで採ってこなければ。狼どもはシキミのにおいを嫌うから……」 老人はくどくどと、その草だか実だかの効用をいってきかせた。そのどこまでが彼の妄想で、どこからが正しい知識なのか、ヨウルには判じようもなかったが、それでも、老人がかつて生徒をとってものを教える立場にあったのだろうということだけは、本当のことのように思われた。というのも老人の話しぶりは、説法をする坊さんのような、人にものを教えることに慣れた人間のものだったからだ。 老人はあきれかえってはいたけれど、その口調やまなざしは、できの悪い教え子に情愛をそそぐ、根気強い師のそれだった。 たとえ老人の眼に映っているものが、まやかしにすぎないとしても――ヨウルは苦いものを飲み下しそこねるように、その考えを持て余した――彼が去ってしまえば、この老人は、また一人きりの暮らしに戻るのだ。 ふっと、老人は瞬きをして、不思議そうにヨウルの顔を見た。夢から覚めたような表情だった。それから腕まくりをして、彼にいった。「どれ、足の傷の調子はどうだね。診せてみなさい」 素直に従って、ヨウルは傷口をおおう包帯を解いた。傷あとはまだ生々しかったが、腫れはすっかりひいていた。 経過はいいようだと、老人はもごもごとつぶやき、おぼつかない手つきで古布を裂いて、替えの包帯をこしらえた。 町まで新しい布地を買いにゆくことなどできないのだろう、老人の暮らしに思い当って、ヨウルはいくばくかの胸苦しさを覚えた。かつて故郷の村では、彼もまた、それに近い暮らしを送っていたのだ。ほかの家がそうするように、新年に布地を新調する余裕さえなく、使い古してくたくたになったぼろきれの一枚さえも、無駄にはできないような日々を。 腹は減っているかねという老人の言葉に、ヨウルがすぐにうなずかなかったのは、そうした気兼ねが、とっさに彼の喉をふさいだからだった。そうして、そういう自分の心の動きに、彼は戸惑った。人の好意の裏側を疑うことには慣れていたが、相手の窮状を思って言葉に詰まるなどということは、かつて久しく覚えのないことだった。 「なに、遠慮をすることはない」 老人はわずかに笑い、ヨウルの包帯を替え終わると、ゆっくりと戸口に向かった。 その足取りが、昨日よりはずっと軽いことに、ヨウルは気がついた。 昨夜の罪の告白が、老人の心ばかりでなく、肉体をも軽くしたのだろうか。彼は漠然とそんなふうに考えて、それから、違うと気がついた。老人はもう、足を引きずってはいなかった。痛めた足が、恢復したのだろう。 年寄りというものは、怪我の治りが遅いものではないだろうか。ヨウルは違和感を覚えて、眉をひそめた。そもそも最初から、たいしてひどく痛めていたわけではなかったのかもしれないが、それにしても、早すぎはしないだろうか? 足を痛めていたというのは、さては、演技だったのか。だが、いったい何のために? 彼の同情を引くためにか、彼を油断させるためにか―― ヨウルが判じかねているうちに、老人は芋と薬草と、何かの果実を持ち帰ってきた。そうして質素ながらも暖かい朝食をこしらえると、やはりかすかな微笑みを浮かべたまま、彼が食べるのを見守った。 「爺さん、あんたは食べないのか」 ヨウルが尋ねても、老人は緩く首を振るばかりだった。 「飢え死にでもされた日には、こっちの寝覚めが悪いよ」 ヨウルがいうと、老人は静かに瞬きをして、ふっと笑った。「私に食べ物は、必要ではないのだ」 「あんたが魔法使いだからかい」 ヨウルが呆れてからかうと、老人はさもありなんといわんばかりの表情で、静かにうなずいた。その淡々としたようすに、ヨウルはなぜだかこのとき唐突に、はげしい苛立ちを覚えた。 「なあ、爺さん。魔法だなんて、嘘っぱちなんだろう」 口に出していってしまってから、ヨウルは悔いた。わざわざ問い詰めて暴き立てることもないはずだった。 老人は、無言のまま彼の眼をじっと見つめ返したが、そこには怒りだとか、疑われたことへの嘆きやあきらめだとか、そうした感情は、いっさい浮かんでいなかった。老人は静かなまなざしのまま、ただ、すっと、指を動かしただけだった。 ただそれだけで、空気が変わった。 ヨウルはわが目を疑った。昨夜、老人はなんといったのだったか――薄皮に上手に破れ目を作って、向こう側の世界から、力を呼び込むこと。 まさにその通りのことが、いま、彼の目の前で起きているのだった。そこにあるのは老人の指先――皺だらけの、痩せて節くれだった、骨と皮ばかりの手だけだ。目には、何の異常も映らなかった。そして、にもかかわらず、そこは異質だった。 小屋の中を、生ぬるい風が逆巻いた。その風が、老人の指の先、何もない空間から吹き出してくるのを、ヨウルは感じた。 物音はしなかった。ついさっきまで窓の外から聞こえていた、木々のざわめきや鳥のさえずりさえもが、いまは止んでいた。異様なほど静まりかえった小屋の中で、古びた紙の一枚、わらの一本さえも、微動だにせずそこにある。それだというのに、風が小屋の中を、轟々と逆巻いている――ヨウルの肌は、しきりにそう訴える。 ヨウルはいまこの瞬間まで、魔法というものを信じていなかった。これまで真実の魔法と呼べるようなものを目にしたことはなかったし、その本質など知りようもなかった。だが、理屈ではなかった。何を説明されるまでもなく、何者かの見えざる手、巨大な冷たい手が、彼の魂をわしづかみにして、乱暴にひれ伏させた。 全身の肌を粟立たせ、冷たい汗を流しながら、ほとんど崩れ落ちるようにして、ヨウルは床に膝を折り、力に屈した。渦巻く風に肺腑を押さえつけられて、助けを求めるどころか、声を出すことさえできなかった。 その力の暴風の中で、老人が平然と微笑んでいることが信じられなかった。耄碌し、醜く萎びた、やせっぽちの老人――過去と現在とを往ったり来たりして、半ば夢の中に暮らしている、哀れな狂人。さっきまでそういうものだった目の前の人物が、いまは、おそろしい力の渦巻く中で、まったく気負いなく背筋を伸ばし、涼しい顔をして椅子に腰かけている。 老人の指が、再び虚空をすっと撫でた。 その瞬くほどの間に、何もかもが元に戻った。森の生き物たちの気配は蘇り、ヨウルの体を押さえつけていた見えざる手は、一瞬にしてどこかへ消え失せていた。それでも長い時間、彼の体はこわばったまま、いっさいの緊張を解こうとはしなかった。脂汗が頬を伝い、怖気が波のように押し寄せては、彼の鼓動を乱した。 「何か、感じたかね」 ヨウルは答えなかったが、その表情と荒くなった息が、言葉よりも雄弁な返答だった。 「いまの力を感じとることができたのなら、お前さんには、素養があるのかもしらんな……」 そう囁いた老人の口元には、どこか満足げな微笑がにじんでいた。ヨウルは何度か首を振って寒気をふりはらい、それからようやく口を開いた。 「いまのが――」 声は掠れて、ほとんど音にならなかった。ヨウルは何度か唾を飲み込み、それからどうにか体を起して、寝藁の上に座りなおした。 「いまのが、魔法なのか」 老人は首を振った。「いいや。いっただろう――ただ薄皮を破いてみせるだけでは、何にもならん。その力を支配し、思うように操ることこそが、肝要なのだと」 いまの力を、支配して、操る――ヨウルは再び唾を呑んだ。そうして鳥肌もまだおさまらないうちに、声を張り上げていた。 「爺さん、俺に、魔法の使い方を教えてくれ」 老人はかすかに目を瞠った。それから何か、思案するような目の色をのぞかせた。ヨウルはじっと息を詰めて、老人の返答を待った。 「魔法――魔法を、学びたいというのかね」 「頼む」 息せき切って、ヨウルは身を乗り出した。老人はいっときのあいだ、考え込むように顎に手を触れ、ぶつぶつと何事かを口の中で呟いていた。そうしてあるとき突然、はっとしたように目を瞠った。それから顔色を変えて、激しく首を振った。 「いかん――魔法だと? ばかなことを――ばかなことを。私は二度と、魔法は使わんと決めたのだ。他人に教えもせん。絶対にだ」 呻いて、老人は立ち上がった。それから部屋の中を歩き回り、何度も頭を振った。「私はいま、何をした? なんということだ。忘れてしまえ、お前さんは何も見なかった。忘れてしまえ――」 ヨウルは引き下がらなかった。ほとんど床にぶつけるような勢いで頭を下げて、声を張り上げた。「頼む。俺には力がいるんだ」 老人は歩き回るのをぴたりとやめた。そうしてまじまじと、ヨウルの顔をのぞきこんだ。ヨウルは期待を込めて、その濁った瞳を見上げた。 目を逸らさないでいることには、努力が必要だった。視線は勝手に老人を恐れ、避けようとした。だがヨウルはかろうじてその衝動をこらえた。 だが老人は、うなずかなかった。今度は静かに、ゆっくりと首を振った。 「人は、魔法になど頼るべきではない」 その声は、厳かな気配をにじませていた。さっきまで彼をほかの誰かと混同していた、頼りない老人と同じ人物のものだとは、とても思えない声だった。 「力が――」 ヨウルの声は、震えていた。「使える力があるんなら、なんだって使うべきだ。そうだろう、あんただってそうしたんじゃないのか」 老人の、ただでさえしみだらけの灰色の皮膚が、いっそう色を失って、青ざめた。だがヨウルは頓着しなかった。 「それだけの力があるんなら――爺さん、あんた、なんだってできたんじゃないのか。ずっとここにいて、森のようすを見ていたっていうんなら、俺たちの村の状況だって、知ってたんじゃないのか。どうしてこれまで何もしなかったんだ――その力を使えば、この国をもっと豊かにすることだって、簡単にできたんじゃないのか」 老人は唇を引き結んだまま、まばたきもせず、濁った眼でヨウルを見つめ返していた。その瞳から視線をそらさずに、ヨウルは叫んだ。「そうすりゃ、俺の弟だって――」 自分の口から飛び出した言葉に、ヨウルは戸惑った。だが唇はかってに動いて、老人を非難した。 それは、自分でもほとんど忘れかかっていたような、古い記憶だった。 痩せた土地しかない、ちっぽけな村だった。農作業の合間にしつらえた織物を町に売りにゆき、暮らしの足しにしてさえ、税を納めたのちには、食べてゆくのがやっとの家も少なくなかった。 ヨウルの母は早くに病を得て死んだ。猟師の父親が獲ってくる獲物だけでは、とても兄弟みなが食ってゆくには足りなかった。 ある日ヨウルが目覚めると、末弟の姿がなかった。問いただしても父親は頑として口を割らなかったが、人買いの姿を見かけた村人たちがひそひそ声で話すのを聞けば、何が起きたかは明らかだった。 予兆はあったのだ。 兄弟の誰かが捨てられるのではないかという恐れは、ずっと前からあった。戦がはじまるかもしれないと噂が立ち、税が増えた。村人たちの暮らしは、前よりさらに苦しくなった。村にはほかにも姿の見えなくなった子供らが何人かいて、遠くの親戚の家のやっただの、嫁入り修行のために嫁ぎ先に早くから引き取られただのと口ではいうが、その実、みなが本当のことを知っていた。 いつかそうした日が、自分たちのもとに訪れることにおびえながら、いざそのときがやってくるまで、兄弟の誰も、口に出して父親に訊いたりはしなかった。自分らを捨てるつもりなのかと、言葉にしてしまえば、それが本当になりそうで恐ろしかった。 ほかに何ができただろう? 彼らは畑を持たなかった。兄弟みなでほかの村人たちの農作業を手伝ったが、引き換えにわけてもらう作物は、不作の年には十分な量にならなかった。だがそれを分ける側の村人たちでさえ、己らが食ってゆくのにかつかつなのだ。 売られていった弟が、どこの誰に買われたのか、その後どうなったのか、わからない。父親はとうとう口を割らなかったし、そもそも知らなかったのかもしれない。 知らずにいれば、まだしも楽観的な希望に縋ることもできる。買われていった先でこき使われるにしても、まだ村で不作に飢える冬より、いくらかましな暮らしを送っているかもしれないと。同じ捨てられるのでも、森に捨てられて狼に食われるよりかは、どこか知らない異国で生きているほうが、まだしもではないかと。 ヨウル自身も、長いことそうした空想で、自らを慰めていた。だが、都で長く暮らしたいまでは、もう彼は、知ってしまっている。人買いに連れられてゆく子らが、そんな幸運に恵まれることは、まず百に一つもないのだと。 弟は運がなかった。兄弟みなが仲良く飢えて死ぬよりはましだった。そう思って、忘れようとつとめた。実際に、とっくに忘れてしまったつもりだった。それだというのに、いまこのとき、彼の胸の内には、幼いころの弟の姿が、あざやかに浮かび上がっているのだった。弟は年の割には体が小さく、要領も悪かった。甘ったれで、幼い時分には三人の兄の後ろをよくついて歩いては、手伝うつもりで邪魔ばかりしていた―― 「どうして助けてくれなかったんだ。それだけの力があるんなら、畑を肥やすことも、性根の腐りきった税吏どもを黙らせることも、なんだってできたんじゃないのか」 自分が口にした言葉にあおられて、ますますいきり立っている己に、ヨウルは気がついた。それは、彼が普段、もっとも軽蔑している人間のすることだった。人を利用し、自分が足元をすくわれないためには、まず冷静でいなくてはならない。いまだってそうだ。感情任せに怒鳴り散らすより、機をうかがって老人を丸め込み、その気にさせるほうが賢いと、頭のなかではわかっていた。だが、どうしても歯止めがきかなかった。 ヨウルが叫び疲れて黙るまで、老人はじっと唇を引き結んだまま、彼の話を聞いていた。そして、とうとう声を枯らしたヨウルが黙り込むと、ゆっくりと目を伏せて、首を振った。 どっと重い疲労に襲われて、ヨウルは目を閉じた。興奮で息が上がっており、まぶたの裏がちかちかした。 汗をぬぐって立ち上がると、彼はわずかばかりの荷を背負って、よろめきながら戸口に向かった。 まだ足は痛んだが、この小屋の中に居たくなかった。行く先の展望など何も見えないが、もはやここにいては、体を休めるどころか、気がおかしくなりそうだった。 外に出る前に、何かに押されるようにして一度だけ振り返ると、老人は先ほどまでよりも、ひとまわり萎んだように見えた。その眼は何もない虚空をぼんやりと見つめており、老人がつい先ほどまでの会話について、まだ思いをはせているのか、それともすでに忘れ去ってしまったのか、それさえわからなかった。 自分は何をしているのだろう。怒りは失せて、いまはひどくむなしい思いばかりがヨウルの胸を占めていた。あんな耄碌した爺さんに、何を期待するというのか。魔法が本物だったとしても、長い時間まともな話をすることさえできないような、呆けた年寄り一人に―― 「世話になったな」 言い残して、ヨウルは歩き出した。これでまた老人はひとりきりだという思いが、わずかに胸の底を掠めたが、彼はそれをつとめて無視した。 戸口をくぐり、ヨウルは木漏れ日の眩しさに目を眇めた。小屋の周囲だけは頭上が開けており、そのおかげで、ともかく太陽の位置だけは見定めることはできた。おおよその方向を頼りに、やみくもに歩くほかない。 この森を、果たして自分が生きて抜け出せるかどうかさえ怪しかったが、いまはひどく捨て鉢な気分になっていた。どのみち、死ぬまでこの森に籠っているわけにはいかないのだ。 小屋を少し離れれば、再び樹々が深く生い茂り、あたりは暗く木陰に沈み込んでいた。ヨウルは立ち止まって何度も瞬きをした。一度すっかり明るいところに目が慣れたのちには、日陰がいっそう暗く感じられるものだ。 何日も寝ていたせいか、体が重かった。ヨウルは背負った荷を揺すり、背後を振り返らないように歩き続けた。 ときおり視界に明るい光の筋がかすめ、そのたびに、ヨウルはその下に向かった。暗い森の中では、方向感覚はすぐに失われる。そうやって太陽の位置をたしかめながら、ゆっくりと歩いた。 かつての青臭い思いが、いまだ自分の心のうちに残っていたことに、彼はあきれ、自嘲した。村の貧しい暮らし、子を捨てねば食ってゆかれないような日々――それだというのに、その同じ時、都では貴族だの商人だのという連中が金を湯水のように使い、戦が起これば誰の得になるかということばかりを考えている。そういった世の中に腹を立て、何かを変えたいと思っていたときが、彼にもたしかにあったのだ。 それは、とうの昔に忘れてしまった、遠い過去のはずだった。危うい綱渡りをしながら、自分が生きてゆくだけで手いっぱいの日々の中で、他人のことなど構ってはいられないと、いつしか割り切ってしまった。 人が集まれば、そこには損をするもの、割りを食うものが必ず出る。それならば、せいぜい自分がそちら側に回らないよう、うまく立ちまわるくらいしか、できることはない。そうではないか? たいして歩かないうちから、すぐに汗が吹き出てきた。息が上がるたびに、ヨウルは足を止めて体を休めた。そうやって、半日も歩かないうちには、すでに後悔に飲み込まれかかっていた。 魔法だなどと――なぜ自分はあんな話を、鵜呑みにしたのか。小屋から遠ざかるにつれて、その思いばかりが膨れ上がっていった。たしかに目の当たりにしたと思った、あの得体のしれない力だって、ただ彼が勝手にそこに何かがあると思いこんだだけで、実際に老人がそれをふるって何かをなしたわけではない。小屋の中にあったものは何一つ、微動だにしなかったのだ。 ヨウルは苛立ち、舌打ちを漏らした。目くらましに違いなかった――ひとたび冷静になると、そうとしか思えなかった。しかけがあったのだ。暗示をかけられた。あるいは、食べるものに何か混ぜられていたか―― そうまでする必要があるのかという疑問が、ちらりと胸を掠めたが、ヨウルはその声を胸のうちで握りつぶした。そうでもなければ、辻褄が合わないではないか。魔法が本物だと思い込んだがために、老人の昔語りもうっかりと信じかかっていたが、そもそもそんなことはあり得ないのだ。戦は大昔の話なのだから―― 何度目に、倒れた巨木を迂回したところで、ヨウルは川に突き当たった。足を踏み入れてもくるぶしまでしか浸からない、浅く、流れの穏やかな小川だ。 長く歩いたせいで、足が痛みだしていた。そこで水を汲み、火照った足を冷やして、ヨウルはいっとき体を休めた。川の回りでは樹々が途切れて、燦々と陽光が降り注いでいた。水気を含んだ微風が汗を冷やしたが、陽射しのおかげで、寒くはなかった。 老人が食事のたびに掘っていた芋の、蔓にぶらさがっていた葉の形を、彼は覚えていた。川辺に同じものを見つけると、ヨウルはためらいながら、手で地面を掘り返した。朽ち葉の下の黒土は軟らかく、掘るたびに甘ったるいにおいがした。 まさかこの芋が、暗示のもとの薬だったわけではあるまいが――ヨウルはいっとき、薄気味の悪い思いで土のついた芋を眺めたが、じきに思いきって、川で土を洗い落としはじめた。森に飛び込んだときには闇雲だったが、抜けるまでに何日かかるかわからない。食べられるうちに食べておくべきだった。 集めた枯れ枝を地面の上に組み、荷の中から鍋と火打石を取り出した。そうして火を起こすための準備を整えたところで、ヨウルはその異臭に気づいた。 朽ち葉の甘く湿ったにおいと、水のにおい、その二つにまじって、かすかに、異質な臭気があった。生ぐさい、さすような―― はっとして立ち上がったときには、木立の向こうに、金色に輝くいくつもの目があった。 ヨウルは手にしていた火打石を取り落し、反射的にそれを眼で追いかけようとして、かろうじて思いとどまった。夜中にはあれほど大声で吠えたてていた狼たちが、いまはまったく音を立てずに、彼を取り巻いていた。 群れで狩りをする生き物なのだ――ヨウルはぞっとして、すばやく視線を巡らせた。 走り出せば、かえって注意を引く――ヨウルはじりじりとあとずさった。水が跳ね上がり、彼の足を濡らす。いまはこの穏やかな流れが恨めしかった。まだしも流れの速く深い河であったなら、いちかばちか、泳いで逃げるという道があったかもしれないのに。 狼が嫌うにおいがどうとかいっていた、老人の言葉が頭をよぎって、ヨウルは悔いた。もっと詳しく聞いておけばよかった――だが、いまさらどうしようもなかった。 木下闇の中に、涎に濡れた牙が光るのを、ヨウルは見た。狼たちは音も立てず、確実に距離を詰めてきていた。 待てば待つだけ、包囲の隙がなくなる――その思いが、とっさに彼の背中を押した。地面におろしていた荷物をあきらめて、ヨウルは駆け出した。 視界の隅で、灰色の、巨大な塊が跳ねた。 前触れなく激しく視界が回り、その次の瞬間には、顔を地面に打ち付けていた。反射的に閉じた目の中で、ちかちかと光が瞬き、鼻の奥で血のにおいがした。 叫ぶことさえできなかった。背中を、信じられないほどの力で押さえつけられている。肺がひき絞られて、いやな音を立てた。 焼けるように、背中が熱かった。まだ痛みは追いついてこなかったが、うつぶせに突っ伏す自分の背中に、太い爪が食い込んでいるようすが、ありありと想像された。 次の瞬間には、牙が自分のうなじを噛み砕いているだろう――言葉にならない刹那の思考の中で、ヨウルは考えた。 だがその瞬間は、なかなかやってこなかった。 ふっと、肌に触れる空気が冷たくなった。 いぶかしく目を開けた彼の背に、生暖かい液体が、音を立てて降りかかった。 ヨウルははじめ、それを狼の涎だと思った。だが違っていた――鉄さびのにおいが、むせ返るように広がった。狼たちがやけに遠くで、しきりに吠えている。 地面が激しく揺れた。ついさっきまで、彼の背に覆いかぶさっていた狼が、横倒しにどうと倒れた衝撃だった。風が逆巻いた――音のない風が。 ヨウルが身を起こすまでには、かなりの時間が必要だった。ようやく周囲を眺め渡したとき、あたりは淡い光に包まれていた。頭上からさしこむ陽射しとは違う、青ざめた、奇妙な光だった。 その淡い光の中心に、老いた魔法使いがたたずんでいる。 ヨウルはぽかんとして、その場に尻餅をついた。そして、へたりこむ自分のすぐわきに横たわる、巨大な狼のすがたを見た。銀色の毛をもつ、美しい獣――そのつやのある毛並みは、いまや、赤黒い血に汚れていた。鋭い牙のならぶ口が緩み、そこからは舌がこぼれていたが、それでもまだ、かすかに息があるようだった。 その体が、びくりと、跳ねるように動いた。 ヨウルは息をのんだ。だが、狼は立ち上がって飛びかかろうとしていたわけではなかった。何かに下から突き上げられるように、その巨躯が二度、大きく震えた。 その毛皮の中から、緑色をした小さな突起がいくつも吹き出すのを、ヨウルは見た。それは、彼の見ている前で脈打つように伸び、微細な繊毛をびっしりと生やした、植物の蔓となった。 緑の蔓は、音を立てながら伸びてゆく。自分が目にしているものの意味もわからぬまま、ヨウルは唖然として、座り込んでいた。蔓は見る間に狼の体躯をすっぽりと覆ってしまうと、絡まりあいながら、空に向かって勢いを増しながら伸びてゆく。 ヨウルが呆然と顔を上げたとき、青い光はまだ失われておらず、たたずむ魔法使いの体を、ぼんやりと取り巻いていた。いや――その光は、老人の体に、ゆっくりと吸い込まれてゆくように、彼の目には見えた。実体のないあの風はすでに止んでおり、ほかの狼たちの姿は、もうどこにも見当たらなかった。 「爺さん――あんた――」 ヨウルはかすれた声で老人に呼びかけ、その途中で声をとぎれさせた。あんたが助けてくれたのかと、そうたずねかけた唇は、ただ震える息を飲み込んだだけだった。 青白い光の中にいるその人物は、たしかにこの数日をともにした、あの老人に違いなかった。だが、その眼はもう白濁してはおらず、青く澄んでいた。 目の前にいる男は、たしかに年老いてはいたが、それはあの百も生きているというような、死の床を思わせる疲弊した老いではなく、年をとったといえど、まだ充分に働く力を残している男のそれだった。 「ああ――」 老人はうめいて、自らの顔を、片手で覆った。その手指は変わらずしわ深かったが、もはや枯れ木のようではなく、いくらか血の色を通わせて、その気になれば鍬でも振るえそうな力を備えていることが見て取れた。 ヨウルは何度も目をしばたき、しまいにはまぶたを手で擦ったが、いくら確かめても、それは、錯覚ではなかった。老人はたしかに、若返っていた。 老魔法使いを取り巻いていた光は、徐々に失せていったが、だからといって、その中の男が、再び老いのなかに戻ってゆくわけではなかった。 「ああ――なんということだ――だから魔法を使いたくはなかったのに……」 ひと声さけび、魔法使いは苦悶するように、激しく身をよじった。悲痛な声――聞きなれたものとは違う、ずっと太い声だった。 「どうせ死ねぬのなら――せめて、耄碌して何もわからないでいるほうが、まだしもよかった――」 へたり込んだまま、ヨウルは唾を飲み込んだ。いったい何が起きているのか、まだ彼は完全には理解してはいなかったが、ともかくこの老人が狼たちを追い払って、彼を救ってくれたのだということだけは、はっきりしていた。 「爺さん……」 ヨウルはためらい、ためらいして、それからようやく、口を開きかけた。だが老人は、ヨウルのほうを振り向き、彼を黙らせた。 「去れ――」 ヨウルは言葉に詰まった。老人の声は怒りの気配を帯びていたが、その青い眼は、むしろ哀しげだった。 「すぐに去るがいい――二度とこの森に近づくな」 その言葉が終わるやいなや、またしても風が巻き起こった。一度は消えた青白い光が、ふたたび膨れ上がって、川辺を満たした。ヨウルは目を開けていられなくなって、まぶたを固く閉じ、それだけでは足りずに、とっさに腕で目を覆った。 何も聞こえなかった。川のせせらぎも、葉擦れの音も、狼の声も、何も。自分の体が浮かび上がったような感覚があったが、暴風に吹き飛ばされたというよりは、ただ静かに地面を離れ、音もなく舞い上がったように、彼には感じられた。 次に目を開けた時には、老人はもう目の前にいなかった。 それどころか、小川もなかった。緑の蔓に飲み込まれた狼の体も、朽ち葉の甘ったるいにおいに包まれた地面も、周囲に聳えたつ巨木も、それらがさしかける木下闇も、何ひとつなかった。 彼は街道の敷石に尻をついてへたり込んでおり、頭上には青空が広がって、太陽が燦々と明るい日差しを投げかけていた。視線の先、歩いてはいっときかかるほどの距離の先に、深い森が広がっているのが見えた。 ヨウルはぽかんと阿呆のように口を開いて、周囲の風景に見入った。見知らぬ景色だった。街道は左右にうねりながら伸び、一方は地平の向こうまで続き、もう一方の先には遠く、連なる家々の屋根が見えている。振り返ればはるか彼方に、鋭い峰を見せて山脈が横に連なり、頂には、うっすらと雪がかぶっていた。そのすぐ手前には、青々とした河が悠然と横たわり、かなりの距離があるというのに、ここからも水面が光をはじいているのがわかった。 隣国との境界だった。 ヨウルは呆然として、森に視線を戻した。頭の中の地図と、目の前に広がる光景を、何度も照らし合わせた。あざやかな色をした鳥が、枝から飛び立ち、彼の頭上を通り過ぎる拍子に、ひと声高く鳴いた。 「爺さん――」 ヨウルは叫んだが、その声は黒々とした森に吸い込まれてゆき、こだまひとつ返さなかった。 声を上げた拍子に、背中の傷がずきりと痛んだ。混乱した頭で、ヨウルは老人の言葉を思いかえした。だから魔法を使いたくなかったのだと、老人はいった。 食べ物はいらないのだといったときに、老人が浮かべていた微笑みが、ふいにヨウルの脳裏をよぎった。二十も三十も若返ったかのような魔法使いの姿――もはや濁ってはいない、澄んだ青い瞳。 ほかに彼は、なんといったのだったか。この森で永劫の時を過ごすと、老人はいわなかったか。 せめて耄碌したままでいたほうがよかったと嘆いた、老いたる魔法使いの言葉を、ヨウルはやっと理解した。そのほうが、自らの犯した罪を、眼前に広がる途方もない孤独を、まともに見据えずに済んだだろうに。 ヨウルはいっときの間、呆然として座り込んでいたが、やがて街道の向こうに、馬車が近づいてくるのをみとめて、のろのろと腰を上げた。そうして足を引きずりながら、ともかく町を目指して、歩きはじめた。 |
朝陽遥(HAL)
http://dabunnsouko.web.fc2.com/ 2012年12月09日(日) 21時59分49秒 公開 ■この作品の著作権は朝陽遥(HAL)さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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この作品の感想をお寄せください。 | |||||
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No.24 朝陽遥 評価:0点 ■2014-01-30 21:41 ID:j0iBm.ky63Q | |||||
> ムー様 気がつくのが遅れまして、大変失礼いたしました。コメントありがとうございます! > 情景や色彩が鮮やかに目の前に浮かんでくるようで、 わあ、嬉しい! ありがとうございます。五感に訴えかけるような描写というのをめざして頑張っていた時期のような記憶があります。というか、最近そういうことをすっかりさぼっている自分に気がつきました。またがんばろうと思います…… > おじいさんの葛藤 死にたいのに死ねない不死者の悲哀には、なんと申しますか、中二心をくすぐるものがあるなと……(動機が軽い) 罪の意識だ当然の罰だと言いながら、孤独に耐えがたくなってうっかりヨウルに魔法を伝授しそうになったりするあたりの矛盾が、人間くさいような気がして、自分でちょっと気に入っていた描写だったなあとか、書いた当時のことを久しぶりに思い出しました。 このところ思うように筆が乗らず、苦戦することばかりなのですが、コメントをいただいたおかげで一年前を振り返ることができて、なんだかちょっと初心を取り戻せた気がします。ありがとうございました! |
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No.23 ムー 評価:50点 ■2014-01-25 11:07 ID:rXOqfmnYhQQ | |||||
初めまして。遅まきながら読ませて頂きました。とても面白かったです。 これだけの長さの話を、息もつかずに読み切らせてしまう力量に感服しました。情景や色彩が鮮やかに目の前に浮かんでくるようで、豊かな描写力の成せる技だなと思います。 魔法使いのおじいさんの葛藤に人間的な魅力を感じ、ぐいぐい引きこまれていきました。重厚なファンタジー、楽しませて頂きました。ありがとうございました。 あの、感想に時間制限は…………ありませんよね…………? |
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No.22 朝陽遥 評価:0点 ■2013-08-11 17:04 ID:iB6pfbOLm9I | |||||
コメントいただいたことに気づくのが遅れまして、失礼いたしました! お読みいただきありがとうございます。 書いたとき、ちょうど色々煮詰まっておりまして、なにかと筆が止まりがちだったものですから、とりあえずいったん完成度とかウケるかどうかとかぜんぶ脇に置いて、とにかく自分が書いて楽しいものを好きに書こう! などと思っていました。なので情景とか魔法の描写とか、好きたい放題シュミに走ってしまったのですが、魔法の説得力、演出できていたのであればとても嬉しいです。 ありがとうございました! お言葉励みにいたします。 |
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No.21 ホオズキ 評価:50点 ■2013-08-08 23:19 ID:N.bTUeA4P26 | |||||
読ませていただきました。とてもすごかった、と本当に単純な言葉になりますがそう感じました。風景が目の前に現れるような、風を本当に感じられるような、土の甘い匂いが感じられるような、そんな気がして引きこまれました。設定のきめ細やかさが細部に出ていて、魔法というおぼろげなものにも説得力が出ているので、物語の中で客観的に読んでいるはずの自分が納得していくのがびっくりしました。兎に角面白かったです。 | |||||
No.20 朝陽遥 評価:0点 ■2013-04-07 15:22 ID:MURvRaJRXoY | |||||
> ゆうすけ様 返信遅れまして失礼いたしました。ありがとうございます! > 舞台設定の匠 ありがとうございます。嬉しいです。今回のこれは、実際に登場する舞台の中だけしか描けていないといいますか、どうにもハリボテに終わってしまっていて、外側の社会をちっとも作りこめていなかったなと思います。いくらミニイベント用とはいえ、いまさらながら恥じ入る次第です。 > やっぱり女の子の方が 素朴な疑問なのですが、魔法でうら若き乙女になっているけれど中身はおばあさんというのは、男性諸氏にとって果たして萌えの対象なのでしょうか?(食いつくところはそこか) ほんのり恋愛路線に展開した挙句、際どいところで老婆の姿に戻ったりして……その路線もアリかもですね(笑) > 心理的変化が欲しい こう、心情の変化を直接描写するのでなしに、ストーリーや構図の中でそれとなく見せたかった……というような記憶があるのですが、あらためて振り返ると、やっぱりいまひとつ伝わるように書けていないなあと思います。いつも似たような失敗を繰り返しています。下手は下手なりに、無粋だろうがなんだろうが、伝えたいことは一から十まで書いたほうがいいんでないかという気はしています。いずれにせよ精進します。ありがとうございます。 > ファンタジーとか魔法とか書いてみたいな、 ぜひぜひ! 楽しみにしております。 ご多忙中のところ温かいご感想及びご指導、ありがとうございました! 仕事にせよ小説の執筆にせよ、まずは体が資本ですし、どうかご自愛くださいますよう。 |
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No.19 ゆうすけ 評価:30点 ■2013-04-04 16:37 ID:1SHiiT1PETY | |||||
拝読させていただきました。賞味期限は切れておりませんよね。 なめらかな文章で、のびのびと作品世界が描かれていると感じました。さすがは舞台設定の匠と呼ばれている(私が勝手に言っている)だけのことはあるなと。 魔法の設定も面白く、世界の広がりを感じさせてくれました。 じいさん……ミステリアスなキャラですね。老婆が魔法を使うとうら若き乙女に変身ってのはありがちだけど、個人的な趣味ですとやっぱり女の子の方が萌そう。勝手な意見なので無視してくださいね。 主人公……過去を思い返すシーンで感情移入できますね。裏切られた切なさと弟への思い、面白い設定なので、ここからの展開を期待してしまいます。老人との接触、魔法との接触を通じて心理的変化が欲しいと感じました。 素晴らしい舞台なので、どうしても勝手に高い期待をしてしまいます。これを読んで、ああ、私もファンタジーとか魔法とか書いてみたいな、と思いました。実際問題として超多忙で書く余裕もなく、そんな私が感想を書いてもいいのだろうかとすら思い悩んでおりました。 いつか私がファンタジーとか中二病的なのを書く事ができたなら、それはきっとHALさんのおかげです。 |
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No.18 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2013-02-03 14:47 ID:3GnziIVoVuk | |||||
ありがとうございます! もともと最初に小説を書くということを始めたとき、剣と魔法のファンタジーが入り口だったのですが、好きなジャンルだけにかえってだんだんと自分の中で敷居が高くなってしまって、いつの間にか書く機会が激減してしまっておりました。そんなこんなで魔法の描写が思うように書けずに悶々としていたものですから、お褒めに預かり、大変嬉しかったです。 小説外で説明しても言い訳にしかならないところなのですが(汗)、一応、魔法を使って若返ったからというわけでなく、この魔法使いはそもそも死ねないというつもりで書いておりました。不老不死から「不老」を引っこ抜いただけといいますか。耄碌するか、若返って頭がはっきりしてよけいに苦しむかの違いがあるだけで、どのみち未来永劫死ぬことあたわずの人です。 老人がものを食べない描写で、そのあたりをさりげなく想像してもらえればなと思っていましたが、そういう書かずに想像してもらうというのの按配って、やっぱり難しいなと思いました。何かひとつ、もっと露骨な描写、たとえばけがをしても治ってしまうとか、そういうのを入れられればよかったのですが…… > ちょっとダレた だと思います。薄々わかってはいたのですが、もう今回はせっかくのイベントだったので、読み手の方への配慮はいったん忘れて、自分の好きなものを好きなだけ書こうと開き直ってしまいました。申し訳ないです(汗) 自分で書いておきながら何なのですが、そういえば、猟師のひとって腰が曲がるんでしょうかね……?(すみません……) 農家や海苔漁の人は親類にいるので、=腰が曲がるものという認識をしていたのですが、猟師についてはそういえば、想像でテキトーなことを書いてしまいました。コメント拝見していまさらながら冷や汗を書いております。嘘八百だったら申し訳ないです(汗) お言葉励みにして、また魔法の出てくるファンタジーにも挑んでいきたいです。温かいお言葉、ご指摘、ともにありがとうございました! |
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No.17 えんがわ 評価:30点 ■2013-02-01 21:52 ID:43Qbmf87t4Y | |||||
拝読しました。 うん、ミステリアスなのに説得力が。魔法の描写が、とても無理なく吸い込まれました。何だろう、最初の方から十中八九、老人が魔法使いで、魔法が本当だと見当は付いてたんです。でも、いざ、魔法を使うとなると、その巧みな言葉遣いにすごく説得力ありました。魔法を使うと若返る、ってのも意外で面白かったです。200、300年ともっと歳月を重ねさせて、どうしても魔法を使ってしまい死ねない、とか描写があっても面白いかなとも思いました。読解不足だったら、すいません。 老人とひたすら微妙な間合いで交流し続けるって、ほんと難題を使いこなしているのにびっくりしました。シチュエーションから言うと淡々としているんですが、主人公の感情の起伏が自然でしびれるものが。ただ、ちょっとダレたので長いかもしれません。主人公が魔法を教えてくれと懇願するところや、人売りに売られた弟を回想するシーンなど。ちょっと言いたいことを語りすぎてるような。ここら辺は秘密にしたほうが、味が出るかなーと勝手ながら思いました。 うーん、でもこの量を読ませるってのはHALさんの確かな力なんでしょう。 腰が曲がった農夫や猟師など豆知識も豊富で、ガンガン脳に語りかける小説でした。 |
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No.16 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2013-01-25 23:20 ID:OKt5VLBhUkE | |||||
> クジラさま ありがとうございます。身に余るお言葉を頂戴しまして、喜んでよいやら恐縮してよいやら、あたふたしております。でも嬉しいです。 わたしはどうも頭が固いらしく、斬新で独創的なアイデアだったりとか、複雑な構成から生まれるどんでん返しだったりとか、そういうのはどうも向かないようで……。一方で、一見ありふれたようなお話を新鮮に描く魔法の筆というものがこの世にはどうやら存在するらしいので、なんとかしてそちら側に一歩でも近づけたらいいなと思います。なので、お言葉がとても嬉しかったです。 励みにして精進したいと思います。ありがとうございました! |
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No.15 クジラ 評価:50点 ■2013-01-23 09:35 ID:52PnvSC7.hs | |||||
描写力に圧倒されました。 地味ともとれる作品ですが、 それを補って余りある筆力だと思います。 |
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No.14 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2013-01-03 21:01 ID:3vAMUj1LXTU | |||||
> 帯刀さま あわわ、お気づかいありがとうございます。返信の書きようが悪くてお気を遣わせてしまいました。申し訳なかったです。ついつい反省なんだか言い訳なんだかわからないことばかり述べてしまいましたが、激励のお言葉、本当に嬉しかったです。厳しいお言葉をいただけば、たしかに落ち込む場合もありますが、ただ否定されるのと違い、期待をかけていただいていると感じられるのは、非常に嬉しいことです。ありがとうございます。 なんと申しますか、ゆっくり書く時間がとれないほど多忙なわけではなくて、気持ちの問題といいますか、自分が何のために書いているのかよくわからないような心理状態になってしまって。 書くのが好きだから書いているはずが、いつの間にか人目ばかり気にして委縮しているようで、何を書いてもぜんぶ駄目なような気がしてきたり、書いてもすぐに手が止まってしまったり……。そういうのは、もっと力の充分についたあとで悩むようなことであって、自分のような未熟者は、まずとにかくどんどん書いてみるのがいいと、頭ではわかっているのですが。 巧くなろうと思うのも大事だけれど、ともかく好きで書いているのだから、まずは何より楽しんで書くことを、当面優先したいと……ほんとうは、技術を磨く過程まで含めて楽しむのが理想的だとは思いますし、要は甘えているだけなのですが。お恥ずかしい話です。 完成度の低いものをそのまま晒しておくのも、恥ずかしいことではあるのですが(汗)、書き終わったものに手を加えるよりも、新しいものを書くほうを優先して、反省は次以降に活かしたいと思います。 重ね重ね、本当にありがとうございました! |
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No.13 帯刀穿 評価:0点 ■2013-01-03 03:30 ID:DJYECbbelKA | |||||
俺としたことが…… そうだった。HALさんは主催だった。 なら、多忙な中を無理矢理に時間を作って作品を提出することなど 想像するに難くないはずだ。 過去に俺自身経験したことではないか……一言、そういうこともある、 と入れてやれなかったのか。我ながら情けない。 ちと厳しすぎたが、時間をかけてゆっくりあとから、 思いつくときに手を加えればいい。 これからも是非とも、イベントに勤しんでほしい。 |
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No.12 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2013-01-02 22:23 ID:JcZuKwjr1Os | |||||
> 帯刀さま おひさしぶりです! ご指導ありがとうございます。 的確なご指摘の数々、沁み入る思いです。長さ(イベント制限枚数)などの都合から、やむなく省略した部分もありましたが、人の姿に見える樹のアイデアなど、自力で思いつかなかった部分も多々あり、悔しくもあります。ありがとうございます。糧にさせていただきます。 昨年の後半は個人的に諸々ありまして、恥ずかしい話なのですが、いっときどうにも書くことへのモチベーションをうまく見出せなくなってしまって。何も書けずに悶々としているよりかは、とにかくいったん初心にかえって、しばらくは好きなように、自分が書いて楽しいものだけ書いてみようかというような状況でした。うまく書こうとか、完成度を上げようとか、読者様からどんなふうに読まれるかとか、そういうことを意識するのをいったんやめてみれば、なんとか筆が動きはしないだろうかと…… 読み手の方からしてみれば、そんな書き手の甘えは関係のない話ですし、ましてやそういうものをこちらに投稿するのにはおおいに気がひけはしたのですが(汗)、ミニイベント主催の立場からは、やはり広報を兼ねたいという思いもあり、甘えて開き直ってしまいました。お恥ずかしい話です。 まだいっときはリハビリ兼ねて、あまり考えすぎずにどんどん気楽に書いていこうなんていう、少々甘ったれたことを考えてもいるのですが(汗)、しかし、もっとできるといっていただけることが嬉しくもあります。 技術的にもですが、精神的にも諸々身につけなくてはならない部分が多くて、なにかと気の遠くなるような話ですが、お言葉を励みにして、くじけず少しずつでも精進してゆきたいです。 ご指導ありがとうございました! |
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No.11 帯刀穿 評価:20点 ■2013-01-02 13:22 ID:DJYECbbelKA | |||||
全体的にストーリー面で、綺麗に通っていたと。 いくつかのパートによって分かれているが、いずれも補強可能であると思われる。 追手からヨウルが逃れるシーンの補強 遠目からでも、ちらほらと追手の姿が見える (崖の上や樹の茂みから顔をのぞかすと、追手が下をうろつきまわる。追手方の服装や、上司と部下。人数。追手の人数が足りないとか、でも増員は出せないとか、部下が帰りたがっているとか、どうせならその代表を加筆し、性格も設定する。山狩りをするなら村人も呼べばいいとか、刈入れ時だから、そんなことは拒否してくるとか) 政治上の工作員なのだから、政情をセッテッングして語ったりしてもよい。 当然、どちら側にヨウルがついているかも書きこむ。 ちんぴらとしてやっていくシーン (名前と状況をあげて、具体的にこうなったと説明をつける。その際、屋根から飛び降りたとか、誰の顔をぶん殴ってやったとか、アクションも踏まえてみるといいのではないだろうか) 密偵として活躍している時のシーン (仲間たちと動き回りながら、連帯行動とる。貴族から誉められる回想など 短くていいので、あらすじに近いストーリーをつけて構築する。、馬を疾駆させて、途中で谷底に自ら落ちたとか。体に隠した密書の扱いとか) どうせなら、ラストのところで追手が現れて、魔法使いに対処させるという手もあったか。 魔法の森らしさの一端を今少し増やすために、どう見ても人の姿に見える樹を出現させるといった手法もあるだろう。 雰囲気でまとめているので、架空であろうと名前を出したり、地域を設定したり、敵対関係を設定したり、いわゆるそれっぽさを構築してみてほしい。 いってしまうと、ショートのストーリーとして独立できるように、部分部分を構築して、奥行きを見せていくということだ。 大枠は出来上がってしまっているので、あとは肉付けだけでよい。 そうすればこの作品はより鮮明さを増すだろう。 点数を厳しめにつけているのは、愛情の証だ。HALさんは、もっとやればできる。がんばってほしい。 |
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No.10 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2012-12-22 17:33 ID:V2vmJqKO9EM | |||||
> お様 追加レス拝見しました。ありがとうございます。女性キャラ……がんばります。そのうちに。 萌えない自由、もちろんのことです。お口に合われなかったようで、申し訳ないです。誰かこの広いネットのどこかには、「わかる小悪党萌える」みたいなニッチの方がいらっしゃることをひたすら祈るばかりであります。 没にするほどアイデアが泉のように湧きでてきたりしませんので、あいにくながら没ネタの手持ちとかないです。ネタ……。わたし自身は率直に十代のころの萌えを引っ張り出してきただけだったのですが、お様がじゅうよんさいくらいのときに考えておられた話とかなかったでしょうか。ちょっと読んでみたい気がするのですが! ---------------------------------------- > 楠山さま 返信が遅れまして申し訳ありません。ありがとうございます! > 人が樹木に変わってしまった そこを拾っていただけて、とても嬉しいです。あとは、老魔法使いの良心の呵責とかエゴとか、もっときっちりつたわるように描ければよかったなと思います。 > 一本目 そういえば、どちらも森の中を逃げる話でした。書き終わってから気付いたのですが、中二のころにちょうどのめり込んでいた小説に、登場人物が森の中を必死に逃げるシーンがありまして、刷り込みって怖いなあ……と思いました。 > 感情の動きみたいなもの 三人称ってむずかしいですね。またどこかでリベンジしていきたいです。 > 欲求不満 欲求不満どころか、むしろ「……で? オチは?」くらいはいわれても仕方ないなあと、自分でも思いはしたのですが、ここはせっかくのイベントなので、もうとにかく自分の好きなように書かせてもらおうかなと……言い訳です。すみません(汗) > 中二イベとして 恥ずかしながら、中二属性の分類的には、不幸な過去萌えとか、過去の罪萌えとか、あるいは不死者萌えとかいうやつです。もし自分がほんものの中学生だったときに書いたんだったら、不死ついでに不老属性までくっつけて、見ため若いかんじの、美形キャラとかにしたんじゃないかと思います。そうしたらもっと中二っぽかったのに……と思ったりもして。 なんだかすっかり萌えを変な方向にこじらせていまして、「いやこの展開なら、あえてよぼよぼのお爺さんのほうが熱いだろう」とか思ってしまったのが、そもそもイベント的に間違いのもとのような気もします……。反省しています。 しかし、居直って好きなように書かせてもらったので、ともかく書いていてとても楽しかったです。おかげで自己満足感あふれる感じになってしまいましたが(汗)、個人的にはイベントを満喫させていただきました。 こちらこそお目汚し失礼いたしました! そしてあらためまして、イベントへのご参加、ご感想ともども、ありがとうございました! ---------------------------------------- > 陣屋さま ありがとうございます! ロマンチックとのお言葉がたいへん嬉しかったです。 文章のつたない部分に関しては、まったくもってお恥ずかしいかぎりです。読点に関しては、これくらいのが好きなので、どうしたものかなあと思います。 恥ずかしながら、いまだこれが自分の文体だというような決まった形を特に持っていないので、ときどき唐突にそうした呼吸が変わるときもありますし、そのとき書くものに応じて変えてゆくかとは思うのですが……。ともかく、少し意識してみます。ありがとうございます。 > この分量で終わらせるには むしろ、枝葉を落としてすっきりとキレのいい短編に仕上げられるのなら、そうしたほうがよかったのでは……というのを、いまだにちょっと思っています。最初は三十枚くらいでやるつもりだったのですが、力が足りませんでした。ただ短くするだけなら簡単だけど、印象深い短編を書くというのは、すごく難しいことだなあと思います。いつか書けるようになりたいものです……。 > 小ずるく狡猾な人間ならば なんというかこう、小悪党萌えとか、小市民萌えとかいう属性が自分のなかにあります。自己本位で小ずるい、露悪的なキャラクターのようでいて、どこかに善良さの尻尾を引きずって、根っからの悪人になりきれないようなのとか。基本的には善良でいい人なのだけれど、無私の愛みたいな領域にはほど遠いふつうの人だったりするのとか。そういうのが好きなんです。 なんというか、そういう萌えをちゃんと萌えとして読み手の方にお伝えするには、エピソードの順番だったり、描写力だったりという部分がぜんぜん足りないという気がします。精進したいです。 > 筆を走らせるこの勢い ありがとうございます。実際には日々ぐだぐだちまちま書いていました。好きな文体、好きな内容ですし、自分が何にそんなに苦戦したのかよくわかりません。いざ書き始めれば楽しいのだけれど、なかなか集中して一気に書くということができず、ゆきつもどりつ悪戦苦闘しました。長く時間がかかったわりにこのありさまなので、なんというか、お恥ずかしいです(汗) > 刺激を受けました。 大変嬉しいお言葉です。第二弾、楽しみにお待ちしています! 感想、イベントへのご参加ともども、ありがとうございました! ---------------------------------------- > 白星奏夜さま ありがとうございます! 魔法、いいですよね。 魔法系ファンタジー、大好きなのですが、好きすぎて気負いが邪魔をするのか、いつの間にか自分ではなかなか書かなくなってしまいました。好きなだけに理想が跳ね上がってしまっていて、自分の書けるものの現実と理想の差に打ちのめされがちというか…… 久しぶりすぎるのもあって、自分で書きながら、魔法の描写にぜんぜんはったりが効かないのが悔しく、もどかしくてなりませんでした。また時間をおいて挑戦したいです。 > 薄皮一枚で違う世界がある 守り人シリーズのナユグは、たまらない設定ですよね……! トロガイ師が魂を飛ばす描写とかすごく好きです。いままで読んだなかでの魔法の理想は、西のはての年代記シリーズのギフトでした。 魔法のありようと人々の暮らしや社会が綿密に絡み合う、豊かな世界観の魔法系異世界ファンタジー、死ぬまでに一本でも書ければ、幸せだろうなと思います……。 > 男性キャラ ありがとうございます。男性キャラのほうが、分からないぶんだけ好き勝手に書けるのだよなあと、このごろよく思います。女子のほうがかえって難しいです……生々しすぎて女の厭なところが露骨に出ても読んでいてつらいし、逆にそういうのを排しすぎて良い子過ぎても、リアルじゃなくて鼻白んでしまうというか。按配がつかめません。 > 十二国記 新作そのものはまだまだ先のことのようですが、それでも楽しみですね! 待っていた甲斐があったなあと、しみじみ喜びつつ、旧版をそろえているのに、お布施のつもりで新装版を着々と買いこんでいます(笑) 温かいコメントありがとうございました! 新作、のちほど楽しみに読ませていただきますね。 |
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No.9 白星奏夜 評価:40点 ■2012-12-22 12:24 ID:rXFqT2VZQDQ | |||||
こんにちは、白星です。お久しぶりです。 拝読させて頂きました。やはり、私の萌える(燃える?)ポイントは魔法とかなようで、楽しく読ませて頂きました。大きな力には対価がある、と言えば良いのでしょうか。それ故に踏み外してしまえば、大きな責任を負うことになる。それは分かっていても、力を使わざるを得なかった老人の心が、響いてきて切なくなりました。 薄皮一枚で違う世界がある、というのは守り人シリーズを少し思い浮かべてしまいましたが、一味違う魔法の捉え方に興奮してしまいましたっ。作者様によって、いろんな捉え方があるのでそこも読んでいて楽しいところなのかもしれません。 HAL様の男性キャラは、こう芯があるというか、深い人物像があって私は個人的にとても好きです。こういう風に書けたらなぁといつも勉強させて頂いている気持ちです。 何か真面目なコメント過ぎて面白みに欠けますが、ご容赦下さい。ではでは、またお会いできるのを楽しみにしつつ。 PS 十二国記、どうやら新しいのが出そうな雰囲気ですね。とても楽しみです。あ、これは私のしがない呟きなので無視してくださっても構いません!! |
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No.8 陣家 評価:40点 ■2012-12-22 05:02 ID:98YScwpXzig | |||||
読ませていただきました。 感想遅くなりすみません。 本作を拝読して感じました。 うっかりしていたなあ、と。 ああ、ロマンチックこそ厨二魂なのですよねえ。 いつもにも増してのびのびとした筆致が心地よく、楽しんで書きたい物を書いておられる感がひしひしと伝わってきました。 でも、だからこそと言うべきなのでしょうが、いつもほどの文章の完成度ではない印象も受けました。 なかば、が頻出することや、読点が過多で整理されていない感じとか、人物描写がやや冗長な点などです。 ある意味手なりで書かれた感が残っているのはHALさんの作品では珍しいのではないかと。 しかしながら、それだからこそすごいとも思いました。 勢いのままで書いてもこれほど完成度の高い文章が紡げてしまうのは筆者様の実力の高さ故なのだと思います。 作者様が思い描く風景、雰囲気、空気感まで十全に伝わってくる描写でした。 ただ、全体のバランスと言うことで考えると、このペースは長編にはふさわしいのだろうと思いますが、この分量で終わらせるにはもったいない感が残りますね。 文章も描写も、流麗ではあるのだけれど、あまりに角が無さすぎてすんなりとのど元を通ってしまう。 もう少しどこかに引っかかる感じを残しても良いんじゃないかと思うのです。 それと、これはHALさんという書き手さんの作品を何作か読んできた読者としての問題でしょうが、どうしてももう少しハラハラ感が欲しい印象を受けます。 何というか、サスペンス感とでも言うんでしょうか、痛みの感覚が欲しいかなあというか。 例えば主人公が老人に助けられて気が付いたシーンで回復しきれていない自分を自覚しながらも老人に対して気勢を張りますが、本当に小ずるく狡猾な人間ならば逆にかなり回復していても動けない体を装うのが自然だと思うのです。 この辺は作者様の善良さが故なのでしょうが、どうしても、ああ、このままほんわか行くんだろうなあと思えてしまうのです。 特に、今回はHALさん自身がイベントの趣旨として煽られていたようにいつも書けないものにチャレンジした感が欲しかったかなあ、と。 ある意味読者を裏切ってやろう……びびらせてやろう、的な? とは言え、作者さまの萌えポイントについては十分伝わって来たのも確かでした。 自分で書いていても思うのですが、書き手が登場人物に過度に感情移入してしまうと、なかなかダイナミックな展開に持っていくのが難しくなるんですよねえ。 なかなか悩ましいところですね。 でもHALさんの筆を走らせるこの勢いはすごいと思いました。 自作も細々と書いてはいるのですが、うまくまとまらないので停滞しておりましたが、HALさんのこの勢いを見習って勢いのままに書いていくのも大事だと再認識いたしました。 もちろん、こんな美文は望むべくもないですが。 いつもながら好き勝手な感想となりましたが、自分的には大変刺激を受けました。 ありがとうございました。 それでは。 |
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No.7 楠山歳幸 評価:40点 ■2012-12-17 23:02 ID:3.rK8dssdKA | |||||
読ませていただきました。 一投目はこのように展開して行ったのですね。僕は今作が良かったです。すごく良かったです。エンタメ性が強く火の国のような感情の動きみたいなものがやや感じませんでしたが、テンポにぐいぐい引っ張られて一気に楽しませていただきました。人が樹木に変わってしまった、ここが特にツボでした。森の不気味さに一層拍車がかかりました。 ベタとは思いますが、ヨウルがこの不思議な体験でどう変わったのかまた、この先どうなってしまうのだろうといったところが少し欲求不満です。細かいことですが、とても良い作品なのですみません。 あと、おさんの一部のコメントにやや賛成でして、老人の心理の悲壮感が伝わって良かったのですが、忠にイベとして、どこにときめいたらいいのかな、というかすみません。 楽しませていただきました。うんたさんと同じく、火の国とはまた違った魅力があっておもしろかったです。 失礼しました。 |
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No.6 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2012-12-15 22:40 ID:y9mK1PXblkk | |||||
コメントありがとうございます。点数に関しては義理やお気遣いで無理に高評価いただくほうがよほど辛いですので、主観で正直に入れていただきたく……! > どこにどう萌えろってんでい! いやほんと、すみません……(笑) むしろ女性の方であっても、「……萌え?」とぽかーんとされてもまったく仕方がないかと……(自分にとっては本気で萌え小説なんですが! 恥ずかしながら!) あと色気は、そうですね、いつもないですね……。書けたらいいんですけどね、色気……。必ずしも恋愛や性的な展開に限らずとも……、というか、むしろそういうのが主題じゃない小説にこそ、色気のある文章とか構図っていうか、そういうの持ってこれたらいいですよね。とはいえすぐ身につくようなものじゃなし、これは長期課題にしたいです。 > 周辺がややおろそかになる。 仰るとおりです。イベント作としての制限だけでなく、ともかく今回はクオリティ無視で、自分の萌えるものだけ、ひたすら書いて楽しいように書こうと割り切りました。おかげで世界観の構築には、ずいぶんと雑なことをしてしまいました……。森の中のこと以外は、完全なる張りぼてでした。 その分だけ書くのが楽しくはありましたが、しかしやはりそうやって完成度の低いものを人様の目に触れるところに晒すというのは、恥じ入るべきところかと。反省です。 > 視覚の描写が、どうにも中間距離に固定されがちな傾向 あう、これはまたすっかり頭から飛んでいました……ずっと以前にもご指摘いただいていたのに、なんとも成長がなくてお恥ずかしい限りです(汗) マルゴ・トアフで三人称の文体がうまく使いこなせなくて悔しかったので、その辺り、今回でちょっとくらいはリベンジしたかったのですが……まだまだでした。つぎに三人称に挑むときには、またちょっと意識してみます。 > 女性キャラの方がパワーがあるように 認めたくないというよりか、女子視点、単純に難しいです……。書きあがったときの出来がどうこうというんじゃなくて、その前に書くのが大変で、つい逃げ腰になります……。 しかしそういって逃げてばかりいるのもなんですし、そのうちまた挑みたいです。次に書く予定でいるものは語り手が男なので、その次あたりでも考えてみます。ありがとうございます。 > 厨二イベントの作品としては、ちょい無理ね ……あら? 普通だったらイベントだからということで、若干あれこれ大目に見てもらうほうが一般的な気がするのに、なんたることでしょう(笑) たしかに、一般的にいうところの中二的楽しさがあまり出せなかったので、ええと……。いえ、いかに中二っぽく書くかを競うのが主目的のイベントではなく、あくまで自分の中の萌えを恥ずかしがらずに出そうというイベントなので……!(言い訳です。反省はしてます) 諸々ありがとうございました! お様の作品、楽しみにお待ちしています。せっかくのイベントですし、あまり気負われず、楽しんで書いていただければ幸いです。いえその、自分が完成度無視したことへの言い訳だけじゃなくて……(汗) |
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No.5 お 評価:30点 ■2012-12-16 00:20 ID:.kbB.DhU4/c | |||||
どうも。どうも。 ……て、ありゃ、やや、えらいこっちゃ。なんか、高評価に水を差すようで、なんともはや。うーん。ま、いいか。 えーーと、作者氏の仰るように、まぁ、ぶっちゃけ、誰得な感じはね、しますよ、そりゃ。だって、おっさんのじいさんの乳繰り合いだもの。どこにどう萌えろってんでい! ていうか、僕がこの話で萌え〜とかなったらまずいだろ。とか。まぁ、それは極端として、ふむ、まぁ、色気はないすわね。 その上で、まさか厨二イベではなかろうと思っていたら、どうやら、それなんですね。いやーこの萌えは中学生にはハードル高いって。絶対に。 まぁ、それはそれとして。真面目な話し。超王道の本格ファンタジーのワンシーンという感じで、安定のクオリティでした。ただ、まぁ、いくつか、あえて挙げつらうと、これはファンタジー、SF書きが掌編を書く際にありがちというか、僕にも大いに心当たるのだけども、展開の真ん中はしっかり書き込まれている反面、周辺がややおろそかになる。分量的に仕方ないんだけど、まぁ、読んでる方としては、そこもう少し、と思っちゃう。僕の場合は逆のパターンも多いのだけど。 もう一点、これは多分、HALさんの特徴と言えるのかもしれないけども、視覚の描写が、どうにも中間距離に固定されがちな傾向があるのではないかなと思うわけですわ。これは、マルゴでも感じたし、あと火の国では同じように感じる部分もあるにはあったけども、あれはキャラの視点でぐいぐい押していったので、ほとんど気にならなかった。うん。あれは力があった。反面、マルゴや今作では、背景の風景の演出が全体を引き締める効果を果たすはずのところが、やや平坦な描写の視点のおかげで十全には果たせていたかった印象があるわけで。もう少し、カメラさんに頑張って貰っても良いんじゃないかなぁという気がしましたとさ。 あと、今挙げた三作を通して思ったのは、HALさんは、本人は認めがたいのかも知れないけど、女性キャラの方がパワーがあるように感じましたのさ。 まぁ、なんというか、そんな感じで。 厨二イベントの作品としては、ちょい無理ね? ということで、この点数。 (ツイッタでもつぶやいたりしましたが、書き出しては放り出すを繰り返しておりまして、たきつけたにも関わらず、まだ、出せるものがございませんです。あと、半月、なんとか、やっつけでも挙げれたらいいなぁとは思うものの……) ********************************************* (レスポンス-レスポンス) 周辺がおろそか>これは決して責めているのではなく、相互確認というか、そういう感じで、仕方ないよねーって感じでご了承。 >女性キャラ書くの大変>それだけのことありますよ。クロウは報われると思います。 >萌えは自由! けれど特殊な萌はなかなか共感が得にくいことも事実。萌えない自由もあるのさ。 >僕>ネタください。こうなりゃ他力本願。没ネタください。うがー |
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No.4 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2012-12-14 22:09 ID:2iXi8jlJmZg | |||||
ありがとうございます。一気に読んだとのお言葉、嬉しく思います。 いつもはできるだけ読みやすい文章を心がけていますが、今回はわりと開き直りまして、わかりやすさや読みやすさよりも、自分の好きな文体と呼吸を優先して書きました。それだけに、読みづらいものになっているのではないかと危惧しておりました。 追っ手が追いつく展開は、考えていませんでした。魔法の犠牲者が人間になることで、仰るとおり、インパクトが増しますね。気付きませんでした……恥ずかしながら、いろんな展開のパターンを考えて吟味するということが、自分の場合、弱いように思います。反省です。 しかし、人間を犠牲にすることで、また別種の後味の悪さが生まれてしまうかなという気もしますので、悩ましいところだなと思います。(とはいえ、そもそも狼だったら後味が悪くないというわけでもありませんし、そこは書き手の腕の見せ所、かもしれませんが……) いずれにせよ、本作を改稿する予定はありませんが、今後また新しいものを書いていく上で、ご意見、参考にさせていただきたいと思います。 ご感想ありがとうございました! また機会がありましたら、ご指導いただければ幸いです。 |
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No.3 サニー 評価:50点 ■2012-12-13 22:24 ID:8e1Jm3WWRKk | |||||
すごいですね。 少しのつもりだったのに一気に読んでしまいました。 意識して書かれているかわかりませんが、文章がスラスラとよめて読みやすいです。 内容については、ヨウルと森の老人のお話が一つの軸の上で進んでいくといった感じで老人の過去について少しずつ小出しにされるので続きが気になって仕方ありませんでした。 あとこれは個人的な意見ですが、最後のヨウルがオオカミに襲われるシーンは、追手が追い付いたという設定でもよかったのではないでしょうか。 そうすれば、魔法にかかわってしまった人間の顛末(追っ手の死に方)がより印象的になり魔法という存在の恐ろしさが強くなったと思います。 |
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No.2 朝陽遥(HAL) 評価:0点 ■2012-12-12 21:27 ID:t9e2Y70x6js | |||||
返信が遅れまして、大変失礼いたしました! コメントありがとうございます! 描写、今回は言い訳があったので、好きなだけくどくどと書きました。本当はこれくらいの按配が好きなのですが、しかしこんな調子で描写していては、いつまでも話が進まないことこの上ないので、反省しております(汗) 文章やストーリーのテンポに関する読み手の方の好みって、普段どういうものを読んでおられる方かで、がらりと変わってくると思うのですが、ウェブ小説の平均的なラインを思えば、今回のようなのはまだるっこしすぎるというか、話の動く速度があまりに遅すぎるんじゃないかと……。いつも遅いですが、いつにもまして。 それはそれで開き直って、あえていばらの道を行くのもアリだとは思うのですが、なかなかそこまでは思いきれず、悩ましいです。 登場人物は老人と小悪党のほぼ二人きり、舞台はほとんど日も射さない森の中、爽快なバトルシーンもなければ恋愛要素もなく(このへんはいつものことですが)、結びは苦く後味よくもなくと、これを地味といわずして何を地味といいましょうか……。 書いていて楽しかったので、後悔はしていませんが、諸々反省はしております(汗) > 最後も迫力のある場面に ありがとうございます。嬉しいです。書きながら、途中、「狼に襲われたこともないのにそういう場面をリアルに書けるわけがあるかー!」とかいじけたりしていましたが、このようにいっていただけて、覚束ないなりに試行錯誤した甲斐がありました。 いつも温かいお言葉をいただき、大変励まされております。なかなか思うように書けず、悔しい思いをすることの多い日々ですが、お言葉を励みにして、今後ともくじけずこつこつ書いていきたいと思います。ありがとうございました! |
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No.1 うんた 評価:50点 ■2012-12-10 03:04 ID:iIHEYcW9En. | |||||
読ませていただきました、すごくおもしろかった!! これで冗長で地味極まりないとか言ってしまってはいけないと思います。とにかくイメージの豊かさに圧倒されました。苔や羊歯のはえるうすぐらい森、廃墟を貫く巨木、森に吹く風、魔法使いの風貌、魔法を呼び出すときの緊張感、どの描写も良かった! 朽ち葉のしめったにおいとか、水のにおいとか、細部までしっかり書きこまれていて、ぞくっとするくらいに世界観をつくりあげられていると思いました。 展開も良かったです。ひきこまれて一気に読みました。おもしろかった。ヨウルの小悪党な感じもよかったと思います。魔法なんてあるわけないだろう、そういうところから入っていってガツン! 設定のうまさですね。最後も迫力のある場面になっていたと思います。今回朝陽様の作品としてはエンタメ性が強かったように私は思いました。これで読みやすさへの配慮を捨てたとか、どれだけ目標が高いんだろうって思います。マルゴトアフや火の国とはまたちがった魅力があっておもしろかったです! |
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