肉という名の運命 |
ある牧場に仲の良い鶏、豚、牛が住んでいた。 その家畜達は常に一緒だった。 だが、ついに離ればなれになる日が来てしまったのだ。 それは人間達の食料、つまり肉にされる事が決定したのである。 恐怖のあまり発狂したかのように叫ぶ豚。 首を垂れ下げ大粒の涙をこぼす牛。 諦めたかのようにただ黙っている鶏。 時が経ち、家畜達は最後の夜を過ごした。太陽の温もりを感じられ、黄金色に輝く干し草の場所で。 少し悲しげな声を出し、重いため息をつきながら牛は言った。 「ああ……。私がヒンドゥー教の国の牛として生きていれば良かったのに……。あそこの国では、牛を神聖な生き物として大切にされているようですからね」豚は鶏の事をちらりと見ながら言った。 そう、口をとがらせて。 「僕だって、イスラム教の国か菜食主義者の国での豚として生きていたかったさ。そうすれば人間達に食べられずに済んだのに……。それに比べて鶏さんは可哀想だね。君は世界中で人間達に食べられる運命なのだろ?」 だが、鶏は全然気にしている様子はなく、むしろ冷静だった。 鶏は穏やかな口調で、豚と牛に話しかけた。 「ねえ、豚さん牛さん。人間に食べられるのは怖い?」 「怖いとも」 「怖いさもちろん。だって殺されて食べられてしまうのだから……」 牛も豚もぶるぶると全身を小刻みに震わせていた。 それを聞いた鶏は牛と豚にこう言った。 「私は少しも怖くないわ。だって、私達家畜はいずれ人間達の食料になる為に生まれてきたのでしょ?最近、餌の量が少し多くてなんとなく感じていたけれどついに、私達の肉を味わう時が来てしまったのね……。大勢の人間達は、私達の肉をどんな風に美味しそうに味わってくれるのかしら。そして、私達の肉が人間達の栄養になり満足感を与え時には命を救う事もある。それを考えると少しだけ死の恐怖はなくならないかしら?」 牛と豚は耳を傾け、黙って鶏の話を聞いていた。 しばらくして牛は口をゆっくりと開き、息を吐いてこう言った。 「私達家畜は人間達の食料として生まれてきた運命……。少し怖い気持ちはありますけれど、生きたまま食べられる事はないと思いますね。少し安心した気持ちです。もしも生まれ変わるとしたらけして誰にも食べられる事のない生き物として生きたいですね」 牛の言葉を聞き、自分も安心したのか豚もこう言った。 「僕もそう思う。怖いけれど、僕達は肉として生まれ変わる運命なのだから…」 「ええ。何しろ人間達は私達の命を頂いて食べているという感謝を込めているようですからね」 と鶏は牛と豚に言った。 −−翌日。そして家畜達は肉として生まれ変わった。 それぞれの家庭で、豚は豚カツ、牛はステーキ、鶏はフライドチキンとして食べられた。 牛、豚、鶏の肉を堪能した人間達は満足した表情を浮かべこう言った。 「ごちそうさまでした」(終) |
パンプキン
2012年11月13日(火) 08時34分28秒 公開 ■この作品の著作権はパンプキンさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 中村 評価:30点 ■2012-11-30 00:38 ID:MoCvENvvWTk | |||||
以前から、パンプキンさんの作品にはシニカルなところが垣間見えていましたが、これは直球といった感じですね。 あまりにもズバリと言われてしまうと、嫌な方もいらっしゃるでしょう。 露骨ではなく、オブラートにくるんでというやり方が、もしかしたら得策かもしれませんね。 |
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No.1 陣家 評価:20点 ■2012-11-25 21:36 ID:98YScwpXzig | |||||
SF小説、『宇宙の果てのレストラン』に登場する牛もどきは主人公アーサーに申し出ました。 私の肉を食べてください、と。 しかし、アーサーはぞっとしながら、 「こんなおぞましい話は聞いたことがない」と、ひるみます。 しかし仲間のゼイフォードは言いました。 「食べないでくれと言っている動物をたべるよりましだろう?」と。 この理論は倫理的、道徳的、理性的にどう考えても間違っていないし、簡単に反証できることでもなさそうです。 それでも私たちはアーサーが感じた気持ちの悪さを納得出来てしまいます。 どうしてでしょう? 食べてくれと言っている動物を食べないのはその動物の尊厳さえもないがしろにする行為なのかもしれません。 それなのにどうして違和感が拭いきれないのでしょう? どうやら人間の中には道徳などよりも優先される本質的な生理的嫌悪が存在しているのだということを気づかせてくれます。 簡単なことなのかもしれません。 つまり、キモっ! てやつです。 |
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