同伴下校とソーサラーズ (厨二病イベント参加作品)
 
 プロローグ 〜 夜明け

 古来、人はゲームと共にあり、ゲームも人の世を覆い共にあった。
 しかしそれらテーブルゲームは紙や木、石で出来たものばかりであった。
「テレビゲームあれ!」
 ゲームの神は言われた。
 するとベクタースキャンのテニスゲームが生まれた。ゲームの神はアタリのPONと名付けられた。
 人々は熱狂し、たちまち世界中のアーケードに敷衍した。
 ゲームの神はそれを見て良しとされた。
 夕となり、また朝となった。アーケードゲームの誕生日である。
 幾日かが過ぎ、人の世にはマイコンブームが到来していた。
 ゲームの神はまた言われた。「マイコンで冒険ができるようにせよ!」そのようになった。
 テキストだけのZorkシリーズに始まり、やがてグラフィックがグリーンディスプレイを飾るようになった。
 夕となり、また朝となった。アドベンチャーゲームの誕生日である。
 アドベンチャーゲームは当初、テキストをタイプして謎を解く物であったが、時が経ちポートピア連続殺人事件のようにコマンド選択式のものが主流となっていた。
 マイコンはやがてパソコンと呼ばれるようになっていた。
 ゲームの神はまた言われた。「パソコンでロールプレイングゲームができるようにせよ!」そのようになった。
 ウイザードリィとウルティマが生まれた。ウルティマではプレイヤーの分身であるキャラがアバターと名付けられた。
 ゲームの神は彼らを祝福して言われた。「生めよ増えよ電脳空間に満ちよ!」そのようになった。
 夕となり、また朝となった。ロールプレイングゲームの誕生日である。
 ゲームのグラフィックは進歩し、3Dレンダリングが主流となっていた。
 ある日、PSO2というゲームがあった。PSO2はFFOの子、FFOはEQの子。EQはウイザードリィの子であった。
 人々は女キャラのグラフィックのある部位のバー移動式の調整機能に強いこだわりを持ち、おっぱいスライダーと呼んだ。
 ゲームの神はそれを見て、いたく気に入られ、良しとされた。
 夕となり、また朝となった。ゲームの神は休眠に入られたようであった。

 そして悠久の年月が流れ去った。


 
 第一章 同伴下校とソーサラーズ

 荒涼とした大地に赤茶けた風が吹きすさぶ。
 屹立する少女は静かに双眸を閉じ瞑想していた。
 ――来る!
 少女がキッと両目を見開く。そのオッドアイは一匹の狂犬じみた醜悪なモンスターを捕らえていた。土煙を上げながら猛然と牙を剥き突っ込んでくる。
 少女がさっと右手を体の前にかざす。
 一陣の風が大地を這って吹きすさぶ。
 華奢なその体を覆うマジックローブがちぎれんばかりに強風になびき、スカーレットレッドの長い髪が逆立つ。
 少女の真一文字に結ばれていた唇が開き、口とお腹の中間辺りから響くようなトーンで高らかに発声を始めた。
「万里を睥睨する黒き王よ、我が求めに応じ、爆炎の裁きの下に我らが敵に滅びを与えん!」
 呪文詠唱完了。
 少女の全身から揺らめく炎のようなオーラが立ちのぼり、彼女のかざした掌を中心にまばゆいばかりの光の粒子が四方八方から集中する。
「喰らえ! ドラゴンフレアー!!」
――fizzle――
 唐突に空中に大きく光の文字がスクロールする。
 そして少女の手からは鈍い煙の筋が弱々しく立ち上っただけだった。
 プスッと……
「いけね、フィズった、ヤバス!」
 少女は口に手を当てて足をじたばたさせながら逃げる体勢に移ろうとする。が、それより早くモンスターは目前まで急接近していた。耳朶を聾する唸声とともに突進してくる。
「きゃあ、きゃあー」
「またかよ」
 くるっと、
 後ろにいた男が入れ替わるように少女の前に割りこむ。
 黒いローブ姿のその男は大柄で褐色の肌、アーリア人風のスキンヘッドだ。飛び掛かってきたモンスターに対してローブの袖を一閃、ドッジスキルの発動で軽く横へといなすとそのまま数秒間のスタンを逃さず距離をとる。
「極北の地の氷よ、我が手に来たりて、魔槍となれ」
 今度は男が素早く詠唱を終えた。
「グラスジャベリン!」
 男の手から放たれた大きな氷の槍が敵の体を貫く。
 煌めく氷の破片が派手なエフェクトを振りまき四散する。
 遠吠えのような断末魔を残し地面にくずおれるモンスター。
 あとには土煙の中に骸が転がるばかりだ。
「おお、グッジョブ!」
 満面の笑みで親指を立てる少女。
「グッジョブじゃねえよ!」
「じゃ、マーベラス!」
 と、今度は両手の親指を立てる。
「はあ……」
 と、スキンヘッドがため息をつくの図である。
「でもなんで魔法出なかったんだろね? まだ射程距離外だった?」
「いや…… おまえ、さっき“まんり”って言っただろ? 万里(ばんり)のとこで」
「あれ? そうだっけ? だから失敗したのかあ。ほんっと細かいよね判定が」
 ぷんすかぴーと怒りながら言う少女の頭から蒸気の柱が三本ほど生えてくる。
「うざいエモーショナルエフェクタ使わなくいいから」
 と言いながら、男は16トンと書かれた巨大なハンマーを振り上げ少女の頭を殴打する。
 ピコッっと。
「そのエフェクタの方がこわいって」
 首をすくめながら膨れあがった巨大なたんこぶを撫でる少女であった。
「そもそもコボルトロードごときにそんな高レベル呪文撃ち込んでもしょうがないってーの。明らかにオーバーキルだし」
 男はコボルトロードの死体をルートしながら、あきれ気味に零す。
「えー? ドラゴンはスライムを倒すのにも全力で立ち向かうっていうジャン」
「もうやめてあげて……だよ、そこまでいくと」
 男は古より伝わるオーバーキルの代名詞を口にのぼす。
「で、なんか、良いアイテム出た?」
「いや、ネームッドでもレアポップでもないからな、金だけだよ」
「なあんだ、せっかく苦労して倒したのに」
 言いながら少女はオーバーレイ表示されたインベントリを開き、ちゃっかり分け前を確認している。
「無駄に苦労しただけだけどな」
「あたしゃ派手にいきてーんだよ、こう、ガンガン行こうぜ! ってな具合に」
「戦略もなにもあったもんじゃないな」
「大体こんなのもともと無理があるんだよ、殴りキャラのいない魔法使いだけのMMO-RPGなんて」
「いやそういうゲームだし、いまさら言ってもしょうがないし、LFPコールあげて、サモナーのプレイヤーでも探すか? ペット召還できるぞ」
「もー、なんか疲れた、いったん落ちよう」
 と、おおげさに肩を落としながら言う少女。
「わかった、わかった、じゃとりあえず村に戻ろうか」
 男のほうも気抜けしたように言いながら立ち上がった。ルートを終えて金の回収が終わったコボルトロードの死体はすでにフィールド上から消えている。
「いえっさー、だけどパーティゲート呪文は頼んだよ、あれってなんか苦手で……」
 てへへ、と苦笑いしながら舌をペロッと出し、顔の前でへろへろと手を上下させる巨乳少女ウイザードだった。
 男はそんな少女を諦念まじりの表情で無視し、右手のモーションフリックから基本ユーティリティ・デクテーションモードを開き詠唱を始める。
「乳と蜜に満たされし丘、ホワイトドゲーブルスに我らを運び、癒しと休息を……」
「それだよ! それ! その出だしを口にするのがなーんか抵抗あるんだよね……つーか製作者のセクハラ?」
「いや、アバターとのコンボでコンプレックスをカミングアウトしなくていいから(おっぱいスライダーの使いすぎには注意)」
 まばゆい光芒が降り注ぎ、無数のグラスハープをかき鳴らすようなエフェクト音に包まれながら二人の姿がかき消すように見えなくなる。
 拠点の村にゲートインし、アイテムショップで不要なアイテムを処分した後、銀行の前まで移動する。
 二人揃ってメニューからログオフコマンドを選んだ。
「あー疲れた、喉乾いた」
 ネカフェのツインシートに体を投げ出しながら友里《ゆり》がぼやくように言う。
 眼鏡型SMDをスタンドに乱暴に引っかけた。
 時翔《ときかけ》の方はきちんとつるを畳んでスタンドに置く。
 二人とも高校の制服姿だ。ブレザーはハンガーに吊してブースの壁に掛けてある。
 VRゲームの最中でも空腹感や便意はリアルに感じることが出来る。それは一種の安全装置なのだ。いくらゲーム内での疲労感がフィードバックされる仕組みとはいえ、所詮それはゲーム内でも癒す事が出来るため、危険を伴うのである。(男に限って言えばボトラーは相も変わらず健在ではあるらしいが)。
「ところでさっきゲートインする時になんか言った? エフェクト音でよく聞き取れなかったんだけど」
「ん? いや別に」
「つーかさあ、おもしろくないよ、これ、体感ゲームなのに体使って戦えないなんて」
 最近じゃすっかり当たり前になったこの手の完全没入型VRゲーム。剣技だけで勝負するゲームもあれば、剣と魔法のすべての要素を取り入れたタイプも数多く存在した。しかし結局は魔法使いばかりに人口比が偏っていき、壁役のタンクは希少な存在になってしまうのだ。なにしろとにかく疲れるわけであり、結局のところ昔からそうなのだが、体感型ゲームで徹ゲーはできない。そういう単純な理由でこんなゲームが市場のメインストリームとなっているのだ。
「そもそも友里がやりたいっつーから俺もつき合って始めたんだろーが」
「そーだっけ?」
 茶ボブの後ろ頭をぽりぽり掻きながら口を尖らせて言う友里だった。
「そうだよ、ほんと忘れっぽいな、おまえ」
「でも、結局これ早口言葉ゲーじゃん。滑舌練習ソフトじゃん、ただの」
 口を尖らせながら文句たらたらの友里。
「あめんぼ赤いなアイウエオ、ってね」
 時翔が流暢に言い放つ。
「くっ……やるね。劇団員?」
 恨みがましい目をしながら時翔をにらむ友里。
「つーか、おまえの場合、漢字の読み方能力に問題があったんだけどな……」
「ちょっとー、むしろ(睥睨)ヘーガンが読めたことを称えてもらいたいね」
「へいげいだろ」
「……あれ?」
 頭を何度か振りながら記憶を辿る友里。
「カンだったんだな……」
「うるさいねぇ、運も実力のうちなんだよ」
「発揮してから言ってくれよ」
 時翔は氷が溶けて薄くなったコーラを口にしながら、さすがにめんどくさげに言う。
「にしても空中に出てくるあのカンペ、読み上げなくても出せる魔法ってしょぼいのばっかりなんだよねえ」
「ああ、まあなぁ、高レベル魔法のオートスペルブックは課金アイテムだから……そういう商売なんだろ」
「せめてふりがな打ってくれって思う」
 友里も思い出したように自分のウーロン茶を飲みながら言う。
「いいじゃないか、勉強になって」
「いらねーよ、あたしゃ国語だけは赤点取ったことないんだから」
「えっ? おまえもしかして赤点の意味わかってないんじゃ……」
「合格ラインだよね」
「そんな笑顔で自信たっぷりに言われると俺のほうの自信が揺らぐんだけど、うちの学校の場合、平均点の半分ってことで……つまり、まあ間違いじゃないけどさ」
 時翔はここに来る前の教室でもそんな話をしていたのを思い出した。
 …………
 ……


 ――ぷりん、ぽろん、ぱらん、ぽん。――と。
 気の抜けた放課チャイムの放送がスピーカーから響いている。
 帰り支度をする時翔が顔を上げるとそこに友里が立っていた。いつもの締まりのない笑顔、平たく言えばにやにや顔だ。
「トッキー、今日一緒に帰ろうジャン」
 友里はすっかり帰り支度を整えて机の横に立っている。学校指定のブラウスにリボン、ニーソックスだが、スカートは巻き上げ気味で短い。ブレザーの第一ボタンも止めていないが、全体的にみれば女子としては平均的な服装と言えるだろう。茶髪とスカート丈を除けば決定的な服装違反と呼べる箇所はない。
 服装違反がないことについては時翔の方も同様だが。
「なんだよ友里、今日は同伴下校の日じゃないだろ? つーかそのあだ名やめろって」
「なんで? かっこいいジャン」
 にやにや顔からさらにパワーアップして、にしゃにしゃ顔で言う友里。
「よくねーよ、なんか犬につける名前みたいだし」
「犬に失礼なこといっちゃだめだよぅ」
 ぱし、と鞄のフタを無言で閉じ席を立つ時翔。
「ふー、さ、一人で帰るかな」
「う、うそですぅ、ごめんなさいぃ」
 胸の前で両手を合わせながら謝意を示している。
 おまけにうってかわった半べそ顔、相変わらず良く動く表情筋だ。
「つーか、昨日も一緒に帰っただろ」
「あのね、昨日のゲームの続きやりたいんだよぅ、かわいい彼女の頼みなんだからぁ、いいジャン?」
 と、小首をかしげつつ今度はしおらしい声を作る友里。
「彼女ねえ……ま、一応な。で? またネカフェ行く気かよ、家でできねえの?」
「うちのパソコン古いからムリ」
「しょうがねえなあ」
「わーい、やっぱ持つべきものは彼氏だよねー」
 実に屈託のない笑顔だが、盲信は禁物なのは時翔も学習済みだった。さすがに。
「ところで、後期試験の結果どうだったんだ?」
 校舎の階段を下りながら時翔が友里に訊ねる。
「ひっ……!」
 友里の足が硬直して止まる。膝がわなわなと震えている。
「そ、それをきいて……どうする気なの?」
 戦々恐々としながら横目で時翔を見やる友里。
「だめなのかよ?」
「おそろしいことになるよ……それをきいてしまったら」
 もはや顔面蒼白状態だ。
 まだ一年生ではあるが、二学期の後期試験の結果はどうやら訊いてはいけない恐ろしい結果だったらしい。
「それに……たかが彼氏に個人情報のリークなんて出来るわけないよ」
「信頼度、低いな……つーかもう人間不信レベルだよな」
「もう気分は董卓だよ」
「じゃ俺はなんなんだよ?」
「えーっと……呂布?」
 思いの外高評価だとは思った時翔だったが、そこはかとなく悲運な別離の物語を予感させる会話でもあった。
「だけど、いいのかよ、遊んでて」
「いや逆に今しかないんだよ遊べるのは……あとは野となれ山となれ! だよ」
 とうとう開き直ったようである。ぐっと握り拳を作る友里。
「おい、明日から補習始まるんじゃ……逆にとか言ってる場合か?」
「ん? あれ? よく知ってるね、もしかして仲間だったの? なんだあ、もぅ早く言ってくれればよかったのにぃ水くさいなあ」
 うって変わって満面の笑みでぽんぽんと時翔の肩を叩く友里。
「いや、残念だが明日からは袂を分かつことになりそうだな、俺赤点なんて取ってないし、ひとりでガンバってくれ」
「えー!? 薄情ものー!!」
「まあ、呂布奉先だし」
 時翔が思っていたよりも早く予感が現実となったようだ。
「そうだ! 一緒に補習受ければいいジャン、どうせ帰宅部なんだしさ」
「いや、補習ってプリントやるだけだろ」
「じゃ、私の横で答え教えてくれるだけで良いよ」
「なんの解決にもならんぞ、それ……」
「じゃあ、プリントは自分でやるから」
 殊勝に身を縮ませながら上目使いで言う友里。
「まあ、それなら……っておい、あやうく譲歩戦術に乗せられそうになったじゃないか」
「ちっ、気付かれたか……」
 うって変わって不敵に唇をゆがめながら慚愧の念に耐える表情の友里だった。
「腹黒いヤツだな」
「ふ、そんなこと言っていいの? 月夜ばかりじゃないんだよ?」
 脳内仕込み杖を煌めかせながらドスの効いた声で言う友里。時翔のノリツッコみに気をよくしたか、テンションアゲアゲだ。
「返り討ちにしてやるよ」
 脳内十手を構えながら反駁する時翔だった。
「……で? 何科目赤点だったんだ?」
 ここで情け容赦なく現実の話に引き戻す時翔。
「う……国語以外……」
 一気にテンション大暴落のトーンで言う友里。
「マジで? やばいだろ、そりゃ、前のテストでも数学がひどかったみたいだけど、今度は何点だったんだ?」
「えっと……丸が一個だけだった」
 蚊の鳴くような声である。
「と言うことは、10点以下ってことかよ」
「それが……丸ついてたのは名前なんだよね」
「それ、0点ってことだよな……」
 それは丸ではなくOだ。
「明日から頑張るから今日だけ見逃してよ」
「そのセリフほど信用できないセリフはないな」
 ――明日やろうは、バカやろう――と、だれか偉い人も言っていた。
 と、言いつつも結局最後は友里に押し切られてしまうのがいつものパターンなのだ。時翔は本日もネカフェに寄り道決定の覚悟を決めていた。
 一階まで階段を降り、下駄箱がある板の間に降りる。
 下駄箱は一見古ぼけた木製だが、扉の裏がわに指紋スキャナーが付いていて指をフタの隙間に差し込むことで解錠される仕組みになっている。
 時翔が上履きを脱ぎ、革靴を取り出す。上履きも外履きも学校指定品だ。
「トッキーの内履き(うちばき)っておニュー?」
「ちがうけど」
「へえ、きれいだね」
「友里みたいにかかと踏んづけたりしないからだよ」
「まったく細かいこと言うよねー、風紀委員?」
「スリッパにした方がいいんじゃないか?」
「ふーんだ」と、少々ふてくされ気味に焦げ茶色のローファーをコンクリの床に置き、履き替える友里。
 二人揃って、校門のゲートでIDカード兼用の定期をかざして校外に出る。
 夕方とはいえまだ日は高く、日没まではかなり時間がある。
 頬をくすぐる秋風が心地よかった。
「わはーい、ガッコー出ると気持ちも軽くなるねー」
 校門を出たとたん、友里は意気揚々とスキップで時翔を追い抜いていく。ただでさえ短いスカートがめくれ気味に揺れるが、そんなことはお構いなしだ。
 ――まったく自由人としか言いようがない。
「ところで前から気になってたんだけど」
 しばらく歩いてから、時翔が前を行く友里に背中から声を掛ける。
「え? 何が?」
 虚を突かれたように時翔の方を振り返る友里。
「うちばきって、あんまりこの辺じゃ言わないよな」
 通学鞄を片手で肩掛けにしながら時翔が訊く。
「ぉおーう? なっなんでっ? みんな言ってない?」
 突然の時翔のクエスチョンに瞠目して聞き返す友里。
「いや、普通は上履きか上靴だろ」
「まっ……マジ?」
「うん、もしかしてローカルネームっぽいヤツか?」
 数瞬のあいだ懊悩の表情を見せていた友里だったが、しどろもどろながらもなんとか返答する。
「そ、そうだ、まえに……言ったじゃん、春休みに引っ越してきたこと……」
「ああ、そうだったな。でも大阪に親戚いるけど、そんな言葉聞いたことないから、もしかして北の方か?」
「そ……」
「……?」
「そ、そっだだこと、どごだっでいいでねすがあああっ!」
「どこの方言だよ」
 関東周辺でないのは間違いないようである。
「だっ……だいたい、そんなこと言い出したら、いろんなところに疑心が暗鬼を生んじゃうよ」
 どういうわけだか頬を真っ赤に染めながら言う友里。
「いや、別にバカにしてるわけじゃないって、意味は通じてるし、ちょっと訊いてみただけだから、そんな気にスンナよ」
「じゃ、じゃあ外履きはっ? もしかして違ってる? 私だけ!? 私おかしいのっ!?」
 と、今や瞳までもウルませて食い下がる。
「いや、外履きは外履きでいいと思うよ」
「あはは、なあんだ、そっかーよかった、もーおどかさないでよー」
「ああ、ワリーワリー、でも考えてみれば外履きの反対で内履きなんだからおかしいわけでもないよなぁ」
「だよねー、だよねー、じゃあ、白墨は白墨でいいんだよね」
 再度、数秒の沈黙が流れる。
「えっ? あ、ああ、大丈夫だよ意味は通じてるし」
「え? え? なんか今ビミョーな反応しなかった?」
「いや、まあ……チョークって言うヤツもいるかなあっ――てな感じ?」
 ――そんな名詞は知識としては知っているが生徒の間で使うヤツは見たこともない。大体白いチョークが白墨なら赤いチョークはなんて呼ぶんだ? 赤墨か?
 などと、余計な疑問がわき起こるが、それはおくびにも出さない時翔だった。
「むっ…… ってな感じって、なんなのさ。ちょっと口開けてみて」
 と、時翔の頬を人差し指と親指で挟む友里。
「どぅわんでだよ」
「奥歯にモノ挟まってないか確認するから」
「はざまっでねえっで!」
「ほんと?」
 手を離して時翔を解放してやる友里。
「ああ、ネギもモヤシも食った憶えはねえ!」
「じゃあさあ、ワラ半紙はワラ半紙でおけ?」
 今度は時翔の顔をジト目でのぞき込みながら言う友里。
「……ごめん、それは聞いたことない、っていうか多分見たこともない……と思う」
「聞いたことないのに見たことないってわかるんだ、ふーん」
「いや、だから見たことないから聞いたことないんだって」
「まあ、私もじいちゃんの子どもの頃の話でしか聞いたことないんだけどねー」
「ひっかけかよ」
「ちっ、つまらない男だね」
 にひひ――としたり顔の友里。
「理不尽なダメ出しだな、おい」
「へっへーん、もう名誉挽回には、明日は私の補習につきあってくれるしかないよねー、あははは」
 うひひひ、ひやっひやっひやっ、へむへむへむ、と笑い続ける友里。
「いやだっつーのに」
 友里は笑い始めるとなかなか止まらない悪い癖があるのだ。しばらく笑いが後を引いていた友里だったが、ひとしきり騒いだあと、急に静かになった。
 ふう、と軽いため息をつく友里。
 反動で賢者モードに入ったのかもしれない。
 ――まったく喜怒哀楽が激しいヤツだ。
 時翔はそんな友里を無視して今度は数歩先を歩く。
「ね、加治矢くん」
 後ろから友里がさっきとはうって変わった神妙な口ぶりで声をかける。
「なんだよ、急に名字で呼ばれると変なかんじだよ」
「トッキーだって、私のこと名字で呼んでんジャン」
「それはそうだけど……なんだよ急に」
「あのさあ」
 妙に口ごもる友里。
「どしたん?」
「私ってやっぱり――変かな?」
「――! い、いやあ……そんなに……は」
 とっさに訊かれてつい本心がかいま見える返答をしてしまう時翔。
「ほんと? なんか、そういうの自分じゃわからないっていうか」
 うつむいて歩きつつ言う友里。
「私、中学までけっこう引っ越し多くてさ、親が引っ越しマニアだったから」
「あ、ああ、そうだっけ、って言うか仕事の関係だろ、親の」
「そうなんだけど……中三の時に気が付いたんだ、私っていつでもどこでも浮いてるんじゃないかって」
「友里……」
 友里はついに立ち止まってしまい、自分のつま先を見つめている。
 なんだかダウナーなオーラをまとい始めたな、と若干あせる時翔だった。
「だから……さ、高校入って、こんな形で私なんかとカップリングさせられちゃって迷惑に思われてるんじゃないかなって……」
 体の前で鞄を両手に持ち、消え入りそうな声で言う友里。
「いや、まあ、俺も校則だってのはわかってても最初はちょっと抵抗あったけど、今はそれほどでもないっつーか」
 鼻の頭をぽりぽりと掻きながら友里に向き直る時翔。
「リアリー?」
 不安げに顔を上げつつ友里が言う。
「リアリーだって」
「そっか、……あの……変なこと訊いて――ごめんなさい」
 ちょこんと頭を下げた後、顔を上げた友里の瞳がまっすぐに見つめていた。目にはようやく輝きが戻ったように見える。
「うん、だから、よかったんじゃねえか……きっかけはどうあれ」
 そう言うと時翔は前を向き再び歩を進める。
「そっか……そうだよね、もしかすると運命の人なのかもよね」
 小走りに時翔の横まで追いついてから時翔に向かってにっこりと笑い顔で言う友里。
「ん、ああ……袖ふれ合うも何かの縁って言うだろ」
 若干照れ気味に横を見やりながら言う時翔。
「そうだよね、鎧袖一触って言うもんね」
「いやいや、運命の人を雑魚キャラ扱いにするんじゃない」
 ――ま、友里流の照れ隠しってとこだろう。
「うん、でも、わかった、もう気にしないよ、何があっても」
 と、がぜん気迫を込めて言う友里。
「う、なんか、極端なところは、直した方がいい気もするけどな」
「もう金輪際気にしないことを誓うよ! ロマンスの神様に!」
 天を仰ぎつつ誓いを立てる友里。
 空には鱗雲が夕焼けの気配を映して輝いていた。
「もしかして言質とられた!?」
 などと、こんなやりとりをしているうちにネカフェに着き、一時間ほどゲームした後、今は休憩中というわけだ。


「ちょっとドア開けてー、たのもー」
 友里がブースの外から叫んでいる。ドリンクバーのおかわりに行っていたのだ。
「ほいほい、ちょっと待てよ」
 とブースの扉を開けてやる。
「はい、トキリンのも入れてきたよ」
 友里が手にしたプラスチックのトレイには、ストローを刺したコップが二つ並んでいる。
「おお、サンキュ、ってかそのあだ名もやめろって」
「私って気が利くよね、ね、ね」
「ああ、そんな恩着せがましいこと言わなきゃな」
「ね、飲んでみて」
 時翔にコップを手渡しながらにやりと笑う友里。
「なんだよ……って、なんじゃこの色! 何を入れてきたんだよ!」
「ふふ、いろいろだよ」
 黒に近いが微妙に毒々しい色の液体。泡立つ炭酸でさえなぜか不気味に見えてしまう。
「俺が頼んだのはコーラだったはずだけど、何混ぜたんだよ」
「飲んで当ててみてよ、でもコーラは入ってないからね」
「それで、この色かよ!」
 おそるおそる一口飲む。
「まずっ! くもないな……」
 ――だけどうまいとも言えない、微妙な味だ。それがかえってムカつく時翔だった。
「友里は何入れてきたんだ?」
「牛乳だけど」
「ん? ドリンクバーにそんなのあったっけ? ホテルの朝食バイキングじゃあるまいし」
「フレッシュミルクだよ。コップ一杯分貯めるのに手間と時間がかかるのが難点なんだけどね」
 …………
 時翔が友里のセリフを理解するのには数秒の時間を要した。
「おまえ、怒られるぞ! コーヒー飲む人が迷惑するだろうが! つーかそんなもん飲んだら胸焼けしそう……」
「氷入れたらちょうどいいんだよね」
 と言いつつ、鼻歌交じりにストローでコップの中身をぐるぐるかき混ぜる友里。
 友里のミルクに対する執念に関してはツッコみたくなる箇所もないではないが、ややこしいので口にはしないでおこう。と自分に言い聞かせる時翔だった。
「あ、よい子は真似しないようにね」
「自覚があるんなら、ぜひやめてもらいたいよ」
 二人して喉を潤し、一息ついたところで友里が口を開いた。
「ねね、今度は違うゲームやってみようか?」
「え? 今から違うゲームするの? なんなんだよおまえ」
「あれ? トキにゃんはソーサラーズがそんなに好きなの?」
「いや、今日は昨日の続きがしたいからって来たんだろ?」
「いやあ、何て言うか……あのゲーム、はずこくねえ?」
「それを言うのかよ……今さら……」
 ――それを言ったらおしまいというものだろう。
「しょうがねえなあ」
 タッチパネルディスプレイを操作し、アクティブなゲームの一覧を眺める時翔。
「じゃ、これは? マリーン・スピリッツ」
「それって一緒にやったことあったっけ?」
「まえに一回だけな」
「ん、思い出した、エイリアンと戦うやつだよね」
「そうそう、人類側の海兵隊とエイリアン陣営に分かれてやるPVPだな」
「でも、こないだは最悪だったジャン、最初の惑星降下でドロップシップごと撃墜されて終了って、まだ何もしてねえっつーの」
「ああ……あれはなあ、コマンダー役も人間がやってるからなあ……」
「捨て駒の気持ちがわかっても虚しいだけってのはよくわかったけどね」
「百回ぐらい死なないと階級が上がらないらしいからなあ」
「戦争の無意味さがよくわかったよ……」
 腕組みをしてウンウンとうなずきながら、しみじみと言う友里。
 ――何げに良ゲーだったのかもしれない。
「じゃあ、他にはっと……」
 気乗りはしないが再びディスプレイのゲーム検索に戻る時翔。
「ねえ、トッキー、これは?」
 同じように友里の席側に設置されているディスプレイを指先でフリックしつつ眺めていた友里が声を上げた。
 友里が指し示すゲームタイトルを見ると、
 ――ケダモノの森オンライン――
 だった。
「これって、なんかほのぼの系のやつなんじゃない?」
 友里は勝手に“わくてか”のようだ。
「いや、それってR18系だから」
 タイトルを一瞥した時翔が嫣然と言う。
「えええぇぇぇ、こんなにかわいいキャラなのに?」
「だから、よく見てみろよ、選択アイコンがグレーアウトしてるだろ? 俺たちのIDじゃ年齢制限で入れないの!」
「えええ、全年齢版はないの?」
「あったけどな、昔。タイトルはちょっと違ったけど……」
 もう説明するのもめんどくさくなった時翔だった。
 ちなみにそのゲーム、正規のログオフ手続きをせずに切断すると、次回ログオン時にはリセクロスさんに説教されることで有名だ。
「あれ? これなんだろ」
 しばらくしてまた友里が素っ頓狂な声を上げた。
「なんだ?」
「これ見てよ」
 友里の見ていた画面を見ると、それはさっきまでプレイしていたゲーム、ソーサラーズのユーザー情報BBSのページだった。
「謎の新エリアに続く隠し洞窟発見? だってさ」
 友里はやたらと色めき立っている。
「こんなのよくあるエセ情報だろ」
 時翔はそのトピックスを眺めながらも訝しげに言う。
 この手のゲームじゃ日常茶飯事とも言える適当情報だ、ことによるとプレイヤーの仕組んだ罠であることも珍しくない。
 真意を確かめるまでもなく、そのうち物好きなプレイヤーがネタばれしてくれるのを待つ方がよっぽど賢いとも言える。
 しかし友里はしつこくその関連スレッドをためすつがめつしている。
「オクトヘッドクラブ山脈の南壁らしいよ」
「それだけの情報じゃ場所もよくわからんな」
「ふむふむ、種まき爺さんの右足のあたりだってさ」
「え? 何爺さんだって? なんか意味不明なんだが……」
「なづがしいズー」
 故郷に思いを馳せるかのごとき遠い目をして言う友里だったが、ハッと我に返ったかのように「行ってみよう」とのたまう。
「まじで? 飽きたんじゃなかったのかよ」
「だって新エリアだったら早い者勝ちでキャンプできるジャン」
「そりゃそうだけど」
 友里の意見にも一理はある、突発的なイベントクエストはゲームの話題作り、てこ入れの手法としては常套手段とも言えるからだ。
「もしかすると例のセクハラ呪文のオートスペルブックがドロップするかもジャン」
「そんなに嫌だったのかよ」
 キャンパーにまでなる気はない時翔だったが、まあ友里がその気になってる以上、行くしかないのだろう。言い出したら聞かないヤツだし。
「この場所って例のセクハラ村の近くだよ」
「どんな村だよ、風評の流布で訴えられるぞ」
 確かに場所的に言えば最後にログアウトした村からそれほど距離はない。これならちょっとだけのぞきに行くのにもさして時間は掛からないだろう。
「じゃ、ちょっとだけな」
 時翔はメニュー画面からソーサラーズのアイコンをタップする。
「ぃよっしゃー」
 二人してスタンドに掛けてあった眼鏡型SMDを揃って装着する。ゲームが起動するとすぐ目の前にタイトルとクレジットが表示される。
 いつものようにログイン認証を済ませ、セーブポイントからの再開を選ぶと、すぐさま目の前に広がるVR世界。降り立つと同時に徐々に体の感覚がVR世界にシフトしていく。
 原理はよくわからないのだが、眼球の動きを読みとって脳波とシンクロさせる画像を投影することで完全な没入感を与えることを可能にしたのがこのSMDなのだという。
 世の中頭のいい人がいっぱいいる物だと時翔は思う。
 まあそのおかげでいろいろと楽しい娯楽の世界が広がったのだからそこはありがたく享受しようと思うことにしている。
 気が付くとそこはのどかに広がる村落の風景だった。
 目の前にはログオフした場所である銀行がある。
 とは言っても村という設定に沿ったちょっと立派目なログハウスという風情の建物ではあるのだが。
 周りには多めの緑の中に、ぽつり、ぽつりと点在するショップや酒場や宿屋などが並んでいる。ファンタジー系のRPGではおなじみの風景だ。
 村の北側には遠くフォグに霞む山並みがそびえ立っていた。
 視界オーバーレイからマップを選び確認する。どうやらあれがオクトヘッドクラブ山脈で間違いないらしい。
 時翔は傍らに立つ友里のアバターキャラを確認してみる。
 ピンクと白を基調にしたやたらとレースをあしらったメイド服のようなコスチューム。めいいっぱいに強調された胸とひらひらのフレアスカート。
 およそ友里のイメージとはかけ離れているが、そこはゲームというものだ。この世界に入れば特に違和感も感じないし、これはこれで見慣れていることもあって、友里だと一目で認識できる。人間の適応力というのはまったくすごい物だとパーティ・インバイトリクエストのOKボタンをタッチしながら時翔は思った。
 ド派手なスカーレットレッドの長髪を揺らしながら友里が近づいてくる。
「時翔のアバターってさあ、なんでこんなおっさんキャラにしたの?」
 と、見た目年齢十四、五歳の少女アバターが目をすがめながら言う。
「別にいいだろ、かっこいいんだよ、俺的にはこれが」
 見上げるような長身に精悍な褐色のスキンヘッド。黒を基調にしたマント型のローブが実に渋い。まさに壮年の漢としか言いようのないアバターだ。もちろん基本性能はどのアバターでも変わらない。あくまでも見た目だけの話である。
「へーえ、まあアバターなんて自分の劣等感の裏返しだっていうもんね、そういえば時翔ってガキっぽいもんねー アハ」
 へきろーん、と小さい牙を口から光らせながら友里のアバターがからかうように笑う。
「ふん、かわいくないヤツだな、腐れ縁的幼馴染みみたいなセリフを吐くんじゃない」
 ――そんなにおっぱいスライダーの件に突っ込んで欲しいのか? しかし紳士の時翔はあえて不問に付すことにする。
 めんどくさいし。
「ところでさっきのBBSの書き込みにあった場所って心当たりあるのか? なんとか爺さんとか言ってたけど」
 時翔が先行き不安を隠しようもなくぼやくように言う。
 ふふん、と半眼になった友里アバターが腕をまっすぐ前に伸ばし、ビシッと指をさすポーズを決める。
 友里が指さした先には霧に霞む山並みがそびえ立っていた。
「はあ? そりゃあれがオクトヘッドクラブ山脈だってのはわかってるけど。で? なんとか爺さんってのはなんのことなんだよ?」
「それはひみつ」
 にへへ、と笑う友里アバター。
 なんだかこの表情の再現性だけはやたらと高い気がするのだが、それは自分の脳内補正のなせるワザなのだろうと時翔は思う。
 BBSの書き込みにあった謎のエリアへの入り口、目標の山壁のどこかに位置するのはわかるのだが、例の暗号めいた文字列については時翔には見当も付かなかった。
 だが友里にはその暗号めいたスラングにも思える場所指定が明確に特定できているらしい。
 そうは言っても、どうせ大したことではないのだろうとも予想の付く時翔なのだが。

「あ、そうだ、私ちょっとショップ寄ってくね」
「ああ、ポーションの補充か?」
 友里は言い終わらないうちにすでにアイテムショップがある酒場に飛び込んでいた。
 遅れて時翔も古びた木製扉をくぐる。中を見回すとNPC以外は誰もいなかった。
 ――ふむ、こうなるとどうにも例のBBSの書き込みの信憑性が怪しくなってくる。物好きなプレイヤーならばすぐさま確認しにこぞって集結してきても良さそうな物なのだが。やはりガセ情報ということがすでに確定しているんじゃないだろうか。
 しかしそういうことならば、友里が目星を付けているらしい探索目標を検分しさえすればそれでさっさと切り上げられる可能性が高い訳で、それも悪い話ではないなと時翔は考えた。
 友里はカウンター越しにトレーダーNPCとアイテム売買中だ。
「トッキーは買わないの?」
「ああ、俺はさっきログオフする前に装備は調えてあるから」
 この辺が友里と時翔のプレイスタイルの違いだろう。
 中断している時間が長くなればインベントリの中身についての記憶が薄れてしまう。再開した時にすぐに行動に移れるように最低限必要な装備類は補充しておく。効率重視の時翔にとってはごく当たり前の行動なのだ。

「げ! お金が足りない!」
 泡を食った表情で友里が叫んだ。
「トッキー、お金貸してよ」
「はあ? 何買うつもりなんだよ?」
 ――やれやれ、当たり前のように要求してくれるよなあ。ちょっとは計画的に装備そろえて欲しいんだが……。
 心の中でつぶやきながら自分のインベントリを開きトレード画面を展開する時翔。
「で、いくらぐらい要るんだ?」
「傭兵代……どれくらいのランクがいいかなあ? 迷ってるとこなんだよねえ……」
「へえ、友里にしちゃえらく慎重だな。だけど行ってみて何もなかったら無駄金になっちゃうぞ。使い捨てだからなあ、傭兵NPCなんて」
「何言ってんのさ、用心に超したことないジャン、なんせ未知のエリアなんだし」
 全力で力説する友里。えらく気合いが入っている。
 絶対に何かあると確信しているのか?
 女のカンってやつかもしれないな、となんだか気圧され気味の時翔だった。
 一応エリア検索でログインプレイヤーを確認してみるが壁役になるペットを召還できるジョブの人数はほぼ皆無だった。そもそもこの時間、プレイヤーの絶対数自体が少ない訳でそれもむべなるかなのだが。

 今プレイ中のゲーム、ソーサラーズにはプレイヤーキャラとして操れるロール(役割)としてはキャスタータイプしか選択できない。そのためプレイヤーは直接攻撃能力はほとんど持っていないのだ。
 魔法を撃ち込むための時間を稼ぐための足止め方法としては、おおまかに言って三つある。
 まずはルート、スネアリング、スリープ、パラライズ系の敵の動き自体を封じる呪文を遠距離から先制して撃ち込む方法。二つ目はペットと通称される召還キャラを呪文で呼び出す方法。しかしこれはそのスキルを持つ属性のキャスターにしか習得できない制約がある。
 三つ目は今回のようにNPC、ノンプレイヤーキャラをお金で一時的に購入してプレイヤーのオプションとして随伴させる方法だ。ただし使い捨てなので敵に殺されても復活させることは出来ないし、所有パーティが全員ログオフすると消えてしまう。

 仕方がないのでここは友里の意見を尊重し、時翔もショップに並ぶ雇用可能な傭兵リストを確認してみる。
「うーん、一番安いので良いんじゃないか?」
「ええ? それってフェアリー武者のこと?」
「それか、豆腐ゴーレムか……」
 ごらんの通り、ネーミングからして世界観がカオスなのは目を瞑るとして、壁役としては頼りないにも程がある。とは言え、その分ペットタイプの傭兵は安価なのだ。
 まあ性能の方も推して知るべしではあるのだが。
「これがコスパ的にお買い得なんじゃないか? マンモスチワワ」
「い、いやだよ、せ、せめてヒューマンタイプにしようよ」
 心の底から嫌そうに友里が懇願する。
「ぜいたくなヤツだな、じゃこの一番安い難民剣闘姫ってヤツでいいんじゃね?」
 ネカフェでプレイするゲームとしてはいささか皮肉が効きすぎな気もするネーミングだが、まあそこまでの他意はないのだろう。
「わかった、それにするよ」と、渋々ながら承諾する友里。
 クレジットを支払うとニックネーム入力のオーバーレイウインドウが待ち受け状態に入った。デフォルトではウララというおざなりな名前が表示されている。
「うーん、なんにしよっかなー?」
 ここで友里はいきなり悩み出した。
「おい、そんなのデフォルトのままでいいんじゃねえの?」
「ちょ、何てこというのさ! せっかく高い金払って雇ったんだから思い入れの出来る名前付けてあげなきゃかわいそうジャン」
 ――どうせ捨て駒にするんだけどな。
 ちなみに時翔のアバターキャラの名前は“あああ”である。ある意味鉄のポリシーを感じさせるネーミングだと時翔は自負している。
 どうせゲーム内でもメインのパートナーである友里にはリアルが割れているわけで、ゲームキャラの名前なぞそれほど重要とも思えないというのが大きな理由なのだが。
 購入したNPCキャラのプロフィール画像を見る。
 金髪に碧眼。片手剣に小型のシールド装備。アーマーは肌色露出度の高い、いかにも見た目重視のマスコット的な少女剣士の雰囲気だ。
「うーん、やっぱ妹的な名前がいいよね、あかり? ジャイ子? なにがいいかなー」
「えらくイメージがかけ離れたキャラチョイスだな、おい」
「よし決めた、これでいくよ!」
 きゃらーん、と少女剣士の輪郭が実体化しておずおずと二人の前に進み出た。
 かわいらしくちょこんとお辞儀をした後、小首を傾げながら高音ボイスで挨拶を口にする。
「はじめまして、“メイ”です、よろしくね、“マトリョーシカ@あああなんて名前付けるヤツとかバカじゃね?” さん、“あああ”さん」
 いわゆるシステムのテンプレートに沿ったご挨拶のセリフというやつだ。
 ヒューマンタイプのNPCはある程度人工無脳的な受け答えができる仕様となっている。それだからこそ性能の割には人気がある所以なのだが。
「きゃわゆすうう」
 友里がうっとりと頬を紅潮させながら漏らす。
「おいおい、メイって俺の妹の名前じゃねえか」
「にゃはは、これでいやでも感情移入できちゃうよね、ね、お兄ちゃん」
「誤解を招くようなこと言ってくれるよなあ、俺をシスコンだとでも思ってるのか!」
「あれ? 違ったの!?」
「妹なんぞ、なんの興味もねえよ!」
「え? え? それって、もう攻略済みってこと??」
「……言わせてもらっていいか? ……新発見だよ……このエロゲ脳がっ!」
「えー、そんなムキになんないでよ冗談なのに」
 わざとらしく鼻白い口調で言う友里。
「冗談なのね……ごめん、ついていけそうにないわ、矢吹くん……」
「うーん、まあ、75点ってとこかな」
 意外な高得点である。とデジャビュな感慨に浸る時翔だった。
「それとなあ、ついでに言わせてもらうとおまえのアバターネームもあらためて聞かされると腹立つよな、自分の名前で人をディスりやがって」
「うへへ、実はちょっと後悔してるんだよね、ノリで付けちゃったのはいいけど、名前変更できないみたいだし」
「ほほう……友里にその気があるならPvPのハードコアサーバーで決着つけてやってもいいんだぜ、あそこに移動すれば死亡=キャラデリートだからなっ!」
「はあ? なにマジになっちゃってんの? 名前のふざけ具合でいけばどっこいってとこジャン」
「ぐ、そういわれると……そうかもな」
 ややツッコミの順番とタイミングを間違ったことに後悔をおぼえる時翔だった。
「それにしても……」
 と、現れた少女剣士、いまやメイと名付けられたNPCの周りをぐるぐると角度を変えながら眺め回している友里。
「見れば見るほど可愛いよねえ…… スクショ撮っとこ」
「なに? おまえそんな趣味あったの?」
「だって大枚はたいてデリったんだから、たっぷり元とらないと損ジャン」
 ぴきーんと、時翔のこめかみにシワが寄る。
「なあ友里、もう少しゲームの世界観ってもんを大事にしようや、ついでに自分のキャラもな」
「いいジャン、鑑賞するぐらい、どうせ触れないんだしさあ」
 と、少女剣士の胸に指を突き立てる友里。VR世界で構築されたグラフィックである少女剣士の体と、赤髪ウイザードの腕はなんの干渉も起こさずにすり抜けるはずだった。
 が、直後に友里が驚愕の声を上げた。
「あれ? あれ、あれ、あれれれえええええっ!?  当たり判定がある……?」
 突きだした友里の指先が弾かれて返ってきた。その部位にぴったりのエフェクト音が聞こえるほどに。
 ぽよん、と。
 そしてメイちゃんが身をよじらせてくすぐったそうに声を上げた。
「やんっ」と。
「え? 今おまえ触れたの? NPCに?」
「うん、柔らかかった……」
 にへり、と笑う友里。
「なっ、なんで? 課金アイテム? バグ?」
 信じられないといった表情で漏らす時翔。
 実際友里にも時翔にも初めて遭遇する現象であった。
 そもそも友里のアバターも時翔のアバターもそうであるが、プレイヤーどうしでさえもお互い触れることはできないのだ。
 当然である。感覚をフィードバックするこのタイプのゲームでそれができてしまうと、ゲーム本来の趣旨とまったく違った遊びに興じる輩が出てきてしまうのは自明の理だからだ。もっとも、年齢制限のないその手のゲームは別に存在はしているのだが(なんとかの森オンラインとか)。
 また、NPCにも当たり判定がないのは、部屋の出口を図らずもふさいでしまって出られなくなってしまうなどの不測の事態を防ぐためでもある。
 ゲームシステム上、唯一当たり判定が存在するキャラは敵モンスターのみとなっているのだ。
「どれどれ」と、時翔も確認しようと少女剣士NPCに近づこうとしたところで、すっと友里が立ちふさがるように制止する。
「やめといたほうがいいよ」
 瞑目してゆるゆると首を振りながら、冷徹に諭すような口調で友里が言う。
「やめとくべきだよ……」
 さらに場の空気を一気に氷点下に変えてしまうほどの怜悧な表情で少女ウイザードが言葉を紡ぐ。
「たぶん、システムのバグだよ。いや、それ以外考えられないね」
「お、おお……まあ……そうだな」
 友里の迫力に逆らえずに動けなくなる時翔。
「よけいなことしてシステム異常が検知されちゃったらめんどうなことになるよ、きっと」
「な、なるほどな、冷静な判断だな友里にしちゃ……」
「そう、ゲームの世界観が壊れるからね」
 腕組みをして時翔を見据え、決然と言い切る友里だった。
「う、なんか一抹理不尽なもの言いにも思えるけど、ま、そのとおりだよな」
 今の友里にはどうにも逆らえる雰囲気ではない。そんな威厳さえも感じ取れる態度だった。
「じゃ、じゃあ、そろそろ出発するか、準備も整ったことだし」
 時翔が空気を変えるべく、あらたまった口調で言う。
 が、そこで友里が、
「あ、あの、えーっとさ、貴石屋さん行ってマラカイトとキャッツアイ補充してきてくんないかな?」
「貴石ショップって村はずれの? 俺一人で行ってくるの?」
「う、うん、どうせ村の出口はこっち方面だし……こ、ここで待ってるからさ……」
 なぜか時翔から目を逸らしつつ、つっかえ気味の口調で言う友里。
「ふーん、いいけど、まさかとは思うけど、変なこと考えてないよな?」
「なっ! なにいってんの! なにも企んでないよ!」
 と言いつつ頬を紅潮させている友里。
「ま、一応信じるけど、ことによるとこれからのおまえとのつき合いを考え直す必要も……あるかもしれないからな」
 半眼でおとがいを上げながら釘を刺すように時翔が言う。
「その発想がすでにおかしいって! は、はやく行ってきてよ」
 時翔の背中を押そうとする友里だったが、当然なんの手応えもなくすり抜けるだけだった。
 しかたなく時翔は酒場を出てショップに向かう。

 五分後、買い物を終えた時翔が酒場に戻ってきた。
 ガチャリと扉を開ける。
 友里はカウンターの椅子に座っていた。頬杖を付いた状態のまま横目で時翔の方をチラりと見やる。
「あ、お帰りー 早かったね」
 そう言うと友里は目を逸らすようにあらぬ方向に顔を向けてしまう。
「あれ? メイは?」
「え? その辺にいない?」
 そっぽを向いたままで言う友里。
 時翔は酒場の中を見回す。
 ほどなく部屋の一番奥の隅っこでへたり込むように座っている少女剣士の姿を発見した。
 剣を床に取り落とし、下唇を噛みしめながら、片腕で自分の体を抱くようにしてぷるぷると小刻みに震えている。そして完全に光彩が消え失せた瞳にはうっすらと涙が光っていた。
「完全に事後じゃねえか!」
「人聞き悪いこと言わないでよー、ちょっとボディチェックしただけなのに。この子が敏感すぎるんだよー」
 白々しくも抑揚なく言ってのける友里。
「なるほど、わかった、おまえの名前は伊達じゃなかったってことだな」
「そんな壮大な伏線回収をこんなとこでするわけないジャン」
「つーか、どうすんだよ、せっかく雇ったNPCが使いもんにならなくなってんじゃねえか!」
「ふー、大丈夫だって」
 友里はそう言うと冷ややかな微笑を浮かべながら椅子から立ち上がった。
 床にへたり込んだままのメイにターゲットフォーカスしたことが時翔のオーバーレイカーソルから確認できる。
 そしてその右手が空中をスイープし呪文詠唱の準備を始めている。
 おごそかに友里の口が動いた。
「連関の理に導かれし時の彷徨者よ、迷える我らへ真理の扉を指し示したまえ」
 友里が嚇怒の神雷のエフェクトを身にまといつつ、超級のスパークエフェクトとともに叫んだ。
「エターナル・インカネーション!」
 全身にそのスパークを受け止めた少女の体が光り輝く。透過光が消え去ると同時にゆらりと片手剣を床に突き立てて少女剣士が立ち上がる。見る間にその体に闘気がみなぎるのが見て取れた。
「それって……最高レベルのステータス回復呪文だよな……」
「ふふふ、まさかこんなところで使うはめになるとはね……」
「俺もまったく同感だわ、しかも今回に限って噛みもしなかったしな」
 友里のMPは今や0である。
「いいじゃん、どうせ目的地に着くまでにはMP回復できるって」
「わーった、わーった、もうさっさと行こうぜ」
「よし行くぞ、メイ」
 少女剣士が先刻とは見違えるほど元気な声で応答する。
「はい、あああさん、マトリョーシカ@あああなんて名前付けるヤツとかバカじゃね?さん」
「……やっぱ俺もこんな名前にするんじゃなかったってちょっと後悔してるわ」
「あははは、だよねー」
 二人プラスNPCの三人パーティは村の入り口に掛かる橋を越え一路北の山脈へと進路を取った。
 先頭を行く友里が振り返り、おでこに手をかざしながら気取った口調で言う。
「しばしのお別れだ、セクハラ村よ」
「おまえが言うんじゃない!」

 結局なんだかんだでメイの体には触らせてもらえなかった時翔だったが、途中出会ったNPCに触れてみてもやはり当たり判定はなく、スカスカとすり抜けるだけであった。
 どういうイレギュラーかは定かではないが、傭兵NPCにのみ発生している一時的な現象なのかもしれない。
 くだんの少女剣士メイは着かず離れず、プレイヤーのオプションよろしく最後尾をちょこちょこと追従してきている。
 ちょっとした段差を飛び越える折には、よっ! とか、はっ! などのセリフが伴っているところなども芸が細かい。
 実に良くできたAIと言うべきだろう。セクハラ耐性は低かったようだが。
 道すがら時翔が友里に訊ねる。
「なあ、友里、そろそろ教えてくれよ」
「ん? なにが?」
 振り返りながら応える友里。
「なんとか爺さんとか言ってただろ?」
「ああ、あれね、このへんからならちょうどよく見えるっしょ?」
「ん? 山の形のことか?」
「形っていうか、模様だね、ほら雪解け後が種まきしてるおじいさんの形に見えるんだよ」
 と、山壁を指さして言う友里。
「ふーん、そう言われてみれば……」
 目をすがめて山の模様を凝視する時翔。雪をかぶった山肌に浮き出た岩肌が人型に見える。
「ナットクだわ…… で、右足っていうと、あの辺かあ」
 時翔にもおよその目的地の位置がイメージできた。
 
 数分後、岩肌に密着する位置までたどり着く。ここまで来るともう近すぎて人型の模様は認識できないが、おそらく目測していた位置からそれほどずれてはいないはずだ。
「あそこだ!」
 友里が指さす先に風穴めいた入り口が見えた。大きさで言えば人一人がやっと入れるほどの小さな穴だ。
「ふむ、ここか、確かにあったんだな」
「うん、思った通りだね、ふふ、やったね」
 友里が興奮気味に肩を揺らしながら笑う。
 しかし穴の中はすぐに暗闇に覆われていて先はまったく見えない。どうもおかしい、色使いが反転していてエリア境界が確認できるほどの不自然なグラフィックだった。
 バグっているようにも見える。自然な地形グラフィックを売りにしているVRゲームではあり得ない不自然さだ。
「じゃ、入ってよ」
 当然と言わんばかりの口調で友里が時翔に告げる。
「え? 俺が? 先に?」
「うん、別に死にゃしないよ?」
「なんかなあ……」
「レディーファーストでしょ、普通」
 口を尖らせて友里が追い打ちを掛ける。
「それなら、友里が先でいいんじゃねえの?」
「はあ? 案内のない部屋出入りする時は男が先なんだってば。で、女性が入るまでドア押さえてて、入ったらドア閉めんの。レストランでは男が下座、道歩くときは男が車道側。それから階段上がるときは男が後、降りるときは先ね。ふう……かっこいいよねえ」
 と、うっとり顔の友里。
「その暗記力をなんでテストに活かせないんだ? 大体それって西洋のマナーだろ、俺は現代日本人なんだって」
 と、鼻白く言う時翔。
「ちょ……これっていちよー中世ファンタジーの世界なんだよ、世界観ってものを尊重しようよ」
「話題がループしてるよな。リセット早すぎだろ……そもそも俺はロールプレイヤーじゃないんだけど」
「志が低いよー、そんなこっちゃ変態紳士の風上にも置けないよー」
「ほほう……紳士をつけて成立する単語の中で最悪なチョイスをしてくれたようだな」
「ああ、もうめんどくさいなあ、じゃ、いちにのさんで同時に入ろう」
 しびれを切らしたように友里が言う。
 今回は時翔の粘り勝ちだ。
「そうするか」
 二人並んで穴の前で前傾姿勢をとる。
「じゃ、いちにの……さん」
 突入と同時に目の前が真っ暗になる。今まで味わったことのない違和感に二人とも狼狽しながらも、視界が戻るのを待つ。
 そして……
 気が付くとネカフェのブースだった。
「あれ?」
「なんだ……?」
「落ちた?」
 二人してゲームをしていたネカフェのブースに立っていた。
「え? あれ? なんでおまえコスプレしてんの?」
 制服を着ていたはずの友里がなんと先ほどの少女ウイザードのひらひらのコスチュームを身につけている。どころか、髪の毛も茶ボブからスカーレットレッドの長髪となっている。
「いや、トッキーだって……」
 友里も開いた口がふさがらない表情で時翔の黒衣のマントと、そしておそるべきことにスキンヘッドに目が釘付けになっている。
「トッキーって、ズラだったんだ……」
「いや、そこかよ」
 ツッコミどころがめちゃくちゃである。とは言えこの混乱した状況では無理もないのかもしれないが。
 時翔でさえ今の状況がまったく掴めていなかった。
 時翔も友里も、顔かたち、おまけに身長も現実に戻っているのに、コスチュームと髪型、それに装飾品などがそっくりそのままゲーム内の状態のままなのだ。
「これって、新機能?」
 友里が茫然自失のままつぶやく。
「いや、ありえないだろ……」
 ありえない、なぜなら二人の傍らにはもう一人の人物がきょとんと立っていたからだ。
「メイちゃん!」
「うそおお!」
「これって……テクノロジーの勝利だよ! ついに二次元妹の実体化に成功したんだね、マジすごいよ……」
 友里は脳の機能がマヒしているとしか思えないセリフを口走る。
「いや、落ち着け友里、おかしいだろ! 周りをよく見てみろよ」
 言われてさすがの友里もあることに気が付く。
「制服がない! 壁に掛けてた上着もなくなってるよ!」
「だろ? ぜったいおかしいって」
 しかも視界オーバーレイ表示までそのまま残っている。つまりゲーム内の視界から今このネカフェのオブジェクト内に移動してきたとしか思えないのだ。
「ここって、もしかして……」
 さすがの友里も思い当たったかのように瞠目する。
「うん、現実《オフ》じゃなくなくねー?」
 動揺のせいか、時翔が二重否定ギャル語調だ。
「新エリアって……ネカフェステージだったの?」
 どストレートな解釈を表明する友里。
「いや、それもおかしいんだけどな、だって体はリアルに戻ってるし、どっちがどっちなんだかわけわからんよ」
 ふと少女剣士、メイちゃんの方はと見てみると、待機状態のアクションを時折入れながらゲーム内そのままの状態で佇んでいる。
「おい、友里、ログオフできるか?」
 はっとして友里もオーバーレイメニューを確認している。
「で、できない、ログオフコマンドがグレーアウトしちゃってるよ」
「ああ、俺のほうも同じだ。どうなってんだ一体……」
 何とか理屈に合う仮説を頭の中で組み立てていく時翔。友里は居ても立ってもいられなくなったのかブースの扉を開け、外にでようとしている。
「待てって、友里、どう考えてもここはゲーム内だと考える方がつじつまが合う、おかしい点は三つだ、アバターがリアルの姿になってること、ステージがなぜか現実世界に似せたモデリングになっていること、なぜかログオフできないってことの三つだ」
「う、うん、そんだけ整理してもらえるとわかりやすいよ」
 友里は少し落ち着きを取り戻したように時翔の方に向き直った。
「でも、でもさあ、それでも……やっぱおかしいよ、ぜったいおかしい……」
 ゆらりと友里が時翔に近づく。
「ゆ、友里……」
 そうだ、おかしい、決定的に……ある意味恐怖にも似た感覚が胸元からせり上がってくるのを時翔も抑えようがなかった。
 だけど確認しなければならない。
 そこは……いや、そこだけは。
「ねえ……」
 意を決したかのように友里が毅然とした表情で時翔にまた一歩近づく。
 友里が時翔の左腕をぱしと掴んだ。
 まっすぐに時翔を見つめる真摯な瞳がそこにあった。
 そして友里は言う。
「私の胸……触ってみて」
 そう言うと、ぎゅっと目を閉じて顔を横に向け、胸を思い切り反らせるポーズで時翔の行動を待っている。
 友里の頬はゆであがったように真っ赤に染まっている。
 時翔に逆らう理由はなかった。
 右手をゆっくりと持ち上げる。
「…………んっ」
「Bカップ……」
 時翔の掌にすっぽり収まるこのサイズは、そう判断せざるを得なかった。
 いや、そこじゃない、サイズなんてものは見た目で一目瞭然なのだ。問題はそこではない。
 当たり判定が存在する。
 そう、それは実験、検証、確認のための作業だったのだ。
 そして念のためではあるが、おっぱいスライダーの効力も失われている。
 それを同時に瞬時に確認するのにもっとも手っ取り早い方法、それがこの行為だったのだ。
 他意はない。あらゆる意味で。
 まあ、見た目の話で言えば、ゲーム内での時翔のキャラも身長や顔かたち以外はまるっきりリアルと違っているわけで、そこは見ただけでわかることなのだが。
 それでも、モデリングの変更がなされているだけなのであればありえない話でもない。
 だから友里は時翔の腕を掴むことで当たり判定の有無を確認し、次いで時翔の確認を求めるために自分を触らせたのだ。
 リアルともっともかけ離れた部位である、“そこ”を。
 友里が顔を真っ赤に染め上げたまま時翔に訊く。
「ど、どうだった?」
「うん、リアルだった」
 額から冷や汗を垂らしながらようやくそう告げる時翔。
「間違いなく本物だ」
「いや、いやいやいや、その感想はおかしいっしょ、トッキーが私の胸なんて触ったことないジャン」
 言われるまでもなく、時翔にとっても図らずもファーストタッチをこんなところで経験するとは思いも寄らない出来事だった。
「言っとくけど、私はリアルだなんて認めないよ! 私のファーストBがこんなわけわかんないシチュエーションだなんて認められるわけがないよ!」
「Bだけにな……」
 眉間にシワを寄せ、半眼になった友里の手に160トンと刻印された巨大なハンマーが出現する。
 直後、時翔の頭上に振り下ろされた。

「エフェクタまで使えるとなると……」
「うん、当たり判定はあるけど、やっぱこれオンラインなんだよね……」
 一通りお約束とも言えるスラップスティックなやりとりを終えた後、冷静に現状を確認し合う二人だった。
「とりあえず、このネカフェステージとやらを探索してみようぜ」
 そう告げた時翔に対して友里の反応が妙だった。
 変に体をよじらせ、もじもじしている。
「その前に……」
 友里がそわそわしながら言う。
「なんだよ?」
「行きたいかも……」
「どこに?」
「だから……」
「?」
「お、お花つみ……」
「花畑なんてないぞ――って、おい友里!」
 こらえ切れなくなった友里がブースを飛びだし、トイレに駆け込んだ。
 しばらくしてトイレから出てきた友里は落ち着きを取り戻してはいたが、別の意味で青ざめていた。
「これがオンラインなんだったら……私、リアルでは悲惨なことになってるよね、きっと……」
「う、そう言われれば……」
 現実ではツインシートに二人並んで腰掛けているはずなのだ。恐ろしい光景が時翔の脳裏に去来する。
「じゃ、俺も行ってくるよ、トイレ」
「えっ? なんでそうなるのよ!」
 何とち狂ってんの? と言わんばかりの表情だ。
「おあいこだろ、それに、おまえにだけ恥をかかせるわけにはいかないさ」
 爽やかなイケメンボイスがネカフェの廊下に響き渡る。
「さらに悲惨さが増すだけなんじゃ……」
 友里がこの世の終わりだよ、とでも言いたげに目を剥く。
「いや、実は俺も行きてえんだよ、さっきから……」
「は、はは、そっか、そうだよね……し、しかたないかもね……」
 もはや諦念混じりではあったが、さすがにそこは合意を示す友里だった。
「ち、ちなみに小さい方……だよね、いくらなんでも……」
 そのファイナルアンサーには返答せずに時翔は男子トイレに消えていった。
 一人残される友里。顔色を失い、ぐらりと足下が揺らぐ。
「は・る・ま・げ……」
 どん、と両手両膝を床につけ、うなだれる友里だった。

 しかし、トイレから出てきた時翔は意外なほど神妙な表情を見せる。
 時翔は言う。
「なあ、ここってやっぱオンラインじゃねえんじゃねえか?」
「なっなんで?」
「トイレが機能してるなんてありえないだろ?」
「そういえばそうだよね……」
 思い直したように友里も首肯する。
 空腹感と便意はゲームに没入しすぎないための安全装置だったはずだ。それをゲーム内で行えてしまったら、それすなわち廃人プレイ真っ逆さまになってしまう。
「もしかして……」
 はたと思い当たったように友里がつぶやく。
「私たち……もしかして死んじゃったのかも……きっとそうだよ、幽霊になっちゃったんだよ、ゲームやってる途中で……ひ、ひいいいい」
 さっきまでの混乱がぶり返すように巨大なウエーブで友里の思考を襲ったようだ。
 現実逃避かもしれないが。
「なんでそうなるんだよ! 落ち着けって、俺も友里もちゃんと足は付いてるだろ!」
 友里の肩に両手を乗せ、がくがくと揺さぶりながら、なだめすかすように言い聞かせる時翔。
「そ、そんな古典的ななぐさめじゃ納得できないよ」
「ふむ、それもそうだな」
 ある意味なんでもありのVR空間を日常的に受け入れて生きている現代人にとってはなんの説得力もないセリフだ。
 時翔もやや冷静さを失していたかと思い直した。
「とにかく、何かのシステムのバグでおかしなことになってるのだけは間違いないだろ、とにかくこの半分オンライン、半分リアルみたいな状況から抜ける道を探すしかないよ」
 自分に言い聞かせるように時翔が言う。メイが実体化した理由も難解な問題として残っているのだが。
「そ、そうだね……うん、さすがトッキーだよ、意外に頼りになるジャン」
「よし、落ち着いたな、うん、じゃいいか? まずはこのネカフェから調べてみようぜ」
「わかった」
 慎重を期して、二人で廊下を歩き始める。
 少女剣士のメイもゲーム内と変わらず、後をついてきている。現実の無機質で殺風景なネットカフェの背景に中世ファンタジーRPGコスチュームの三人。
 その姿は第三者的視点から見ればあまりにもシュールな光景だったことだろう。
 だがしかし、その第三者は一向に見あたらない。
 どこもかしこも無人であった。
 ネカフェの廊下を進み、受付があるコミックコーナーを目指す。見慣れた光景のはずのネカフェの内部だが、どうにも作り物めいて違和感が拭いきれない。
 やはりここはVR空間なんじゃないだろうか、と思いを新たにする時翔だった。
「だれもいないな……」
「うん……でもだれかいたら、それはそれで恥ずかしいんだけどさ」
 あらためてお互いのコスチュームを確認し合う。
「ぷっ……」
「おい、今笑ったな」
「不可抗力だって」
 みひゃはは、と笑う友里。さすが本物の迫力(ウザさ)はすごい。
「客観的に見てどっちが恥ずかしいんだろうね」
「そりゃ、おまえの方だろ」
「変態紳士のコスプレに言われたくないよ」
「痛さで言えば友里の方が破壊力絶大だろうがよ」
 この手のコスチュームは基本細身でないと様にならないのは悲しい事実だ。
 喃々と無益なディスリ合戦を繰り返すうち、受付カウンターのあるネカフェの出口に到着していた。
 ここは出入り口ということもあって、かなり広々としたスペースが設けられている。
 壁際には、コインゲームやクレーンゲームなどの時間つぶし用のマシンが数台並んでいる。
 レイアウトも変わっていることもなく、ただ人影が見あたらないことを除いては見慣れた風景であった。
 予想通りというか、カウンターにも店員どころか人っ子一人見あたらない。
「ここも無人だね……」
「うん、こりゃとてもリアルとは思えないな」
 この時間、客を一人も見かけないというのはありえないことだからだ。
「このまま外に出ていいのかな?」
 友里が存外に常識人な疑問を口にする。
 料金の支払いに関して言えば、定期を兼ねているID端末を機器にかざすだけで行えるのだが、無人のカウンターに置かれている装置が作動しているのかどうかも不明である。 
 そこで友里は意外な行動をとった。
 ピンポーン、と店員召還ボタンを押下したのだ。
「なにやってんの、おまえ!」
「え? いや一応、さあ、食い逃げかっこわるいし」
 そう言われてみればそんな気もする時翔だった。
 状況からして誰も出てくるとは思えなかったが、呼び出しボタンはちゃんと動作しているようであった。
 しかし、意外なことにバックヤードから応答の声が聞こえた。
「はーい、おまちくださーい」と、めんどくさげな声で。
「ええっ? だれかいるのか!?」
「NPCの店員さんかな?」
 意表をつくその応答に色めきたつ二人であった。
 数秒後、カウンターの奧から姿を見せたのは少年であった。
 おそらくは十歳にも満たない小学生くらいの男の子。
 ぴったりとした黒いボディスーツに身を包んでいる。
 デザインは華美な物ではないが、ぎりぎりRPGの世界観に沿っていると言えなくもない。
 近づくと同時にぴょこんとカウンターの上に飛び上がり、そこに佇立する。
 そしてその表情には年齢にはとても似つかわしくない、不敵な笑みが張り付いていた。
 少年は二人を代わる代わる見据えるとおとがいをあげ、お子様ボイスで口火を切った。
「とうとう、ここまでたどり着いたか!」
 と、傲岸不遜にふんぞり返っている。
 チビこいので、迫力は感じられないが。
「なっ、なんだおまえ!?」
 時翔が想定外すぎる登場人物に面食らって声を上げる。
 友里の方は言葉を失って口をぽかんと開けているだけだった。
 ふふん、と少年が一際不遜に笑う。
「そうだねえ、なんと言ってあげればいいのかな? なんと言ってあげるべきなんだろうねえ、こんな場面にぴったりのセリフ、決まり文句、そうだねえ――例えばこんな感じかな?」
 と、両手を広げ息をめいいっぱい吸った後、その体躯から発せられるであろう最大の音量で発声する。
「ゲンジツセカイへようこそ!」
 快哉を上げるように言い放ったあと、
「ってとこかな?」
 と付け加える。
 少年は両手を広げたままじろりと二人をにらんでいる。
 リアクション待ちなのは間違いない。
 時翔はごくりと生唾を飲み込んだ後、友里を横目で見やり、アイコンタクトを試みる。
 友里も時翔の目を見ながら複雑な表情を作っている。
 (NPCエネミー?)
 (いや、違うだろ、いくらなんでも)
 (ここでまさかのロールプレイヤー?)
 小声でひそひそとお互いの見解を披露しあう二人。
 埒があかないことを確認した時翔がおそるおそる質疑の言葉を発する。
「あの……ここってラスボス部屋みたいなとこってこと?」
 一応少年のセリフのニュアンスを尊重した質問をする。大人な対応だと我ながら思う時翔だった。
「ああ、なるほどねえ、そうだよね、そりゃもっともだ、いたしかたない、では単刀直入に言わせてもらうよ、ずばり、君たちにはここで料金を支払ってもらいたいのさ」
 少年は不遜な態度のまま、さらに意味不明なセリフを投げかけてきた。
 どう考えても会話が成り立っていない。いや、成り立つと思う方が間違っているのか?
「で、あのう、料金支払えばログアウトできるんでしょうか?」
 どう見ても普通じゃない相手だ。こういう場合低姿勢で臨むのが無難な対応というものだろう。時翔の短い人生経験からもそれくらいの答えは導き出せた。
 少年が時翔の言葉に応えてにたりと笑う。
「できるとも、ただし……リアル人生からのね――」
「なっ――」
 時翔は思わず愕然とした呼気の音を上げてしまう。
「僕が欲しいのはね、君たちの――心臓さ!」
 語尾のほうは超然とした叫び声となっていた。
 その言葉が終わると同時に少年の右手から光弾が発射される。
 それはなんの前触れもなく。
 一直線に放たれたその光輝が時翔の体に直撃した。
「ぐっ――はあっ――」
 時翔のマントが焼けこげ、灰となって散り散りに舞い落ちる。
 だが、致命傷とは言えないダメージだ。時翔はとっさにオーバーレイ視界に浮かぶ自分のヒットポイントバーを確認してみる。
 それでも三分の一ほどがもって行かれていた。
 現実なのか仮想なのか、もはや判然としないこの状況でヒットポイント表示に絶対性があるのかどうかなぞ分からない。
 しかし、敵がゲームシステム上の攻撃を仕掛けて来た以上、敗北条件はやはりそういうことなのだろう。
 今やエネミーである少年が怒気をあらわにしてつぶやく。
「ふん、まあ、さすがに一撃で瞬殺というわけにもいかないんだね、どうやら、そういうわけかい、まったく、まったく、まったく――――“ぬるい”ゲームだぜ!!!!」
「トッキー!」
 友里が叫んだ。
「友里っ! 戦闘だっ! 呪文を――攻撃しろ!!」
 時翔が叫び声にも似た下知をとばす。
「あう、」
 友里は突然のことにパニクッている。あわててクイックスペルブックに登録しているファイヤーボールの魔法を撃ち込むのが精一杯だった。
 友里の手から放たれた炎の玉が少年めがけて飛んでいく。
 が、それを少年は片手の掌をかざして受け止めた。そしてその掌はアイスシールドで覆われている。炎と氷が相殺し派手な水蒸気が少年の体を包み込んだ。
 だが、それも一瞬のことで、蒸気が霧散した後には微動だにしてもいない少年の姿が現れた。 
 ダメージ無し。
 完全なリバーサル技だった。
 再び少年がにたりと笑う。ゆっくりと体勢を立て直すと余裕の所作で背中に右手をまわした。
「そうそう、そうだったねえ、そういうシステム、そういうスキルを競うゲームだったんだねえ、はは、めんどくさい、めんどくさい、めんどくさいよねえ、めんどくさいんで、こちらはエネミーとしてやらせてもらうよ――――手っ取り早く――ね!」
 ずばんっと、肩口から大剣が抜き出される。それは少年の身長よりも大振りなサイズであった。少年がその凶悪なファルチオンめいた大剣を振りかざし、カウンターを蹴って跳躍する。
 フォーカスされているのは少女ウイザード――友里だ!
「きゃあああああああっ」
 友里は少年が自分に飛びかかってくるのだけは認知できはしたものの、完全にてんぱっていて、防御魔法や、回避スキルさえも使う余裕がない。
 頭を抱えてしゃがみ込んでしまっている。
 時翔は瞬時に発動するクイックスペルブックの攻撃魔法を連打するが、とても間に合わない。
 数瞬後に目の当たりにするであろう光景を確信した時翔は思わず目を瞑ってしまう。
 ――だめだ、やられる!
 覚悟をきめた次の瞬間だった、時翔の耳朶を弄するほどの鋭い金属音が鳴り響いた。
 ギャリィィィィィン――と。
 おそるおそる目を開いた時翔が見た光景は――友里の前に敢然と立ちふさがり、少年の大剣を片手剣で受け止めている少女剣士の姿だった。
「メイ!」
「な、なにっ?!――こ、こいつ!!」
 思わぬ伏兵の登場に驚きを隠しきれない声音で少年が唸った。
 やや遅れて、時翔の放った魔法弾が少年の無防備な横っ腹に連続的に命中する。
 だが、そちらの方はさしたるダメージを与えているようには見えない。あらかじめ耐魔法防御のシールドを纏っていたのだろう。
 スパークエフェクトはおそらくシールドをほぼすべて削る程度の効果しか与えていない。
 一方、火花を散らすつばぜり合いはまったく互角のまま、両者一歩も引く様子もなかった。
 体格的には二人とも同等ではあるが、振るっている剣は重量、刃渡りとも圧倒的に少年が勝っているはずだ。
 現に押し合いのつばぜり合いではパワーは拮抗しているように見えた。
 ガツンッと押し合った両者の剣が反動で離れる。
 だがそこからの動きはメイのスピードが少年を凌駕していた。
 ただ単に剣の重量特性による物理的な速度と言うよりも、メイの動きその物が常軌を逸して速いのだ。
 しかもメイの剣はそれがあたかも体の延長であるかのごとく実にしなやかに動く。
 上、中、下段――少年がめちゃくちゃに振るうごつい大剣の動きを先んじて封じるように次々と受け流す。
 目にも止まらぬ動きのおかげで剣と剣の発する火花が残像を引きながら乱れ飛んでいる。
 どう見てもメイが速度で圧倒していた。趨勢はじりじりと、そして確実に少年を追い詰めつつあった。
 メイはその回転数に物を言わせ、時折大剣の隙をつくように盾による強烈なバッシュを入れる。
 その度に少年は、体ごと後方に仰け反らされていた。
 少年の顔が引きつるように歪む。あきらかに焦燥の色が濃い。
 対照的にメイの表情は怜悧だった。明鏡止水の表情のまま着実に剛の強撃を柔の回転で捌いていく。そのスピードにはいささかの衰えもない。
 時翔はそのあまりにも見事な剣捌きに支援魔法を入れることも忘れ見入ってしまっていた。
 今や少年の息が上がっている。
 ここで形勢を立て直すべく一気にバックステップで後方に飛んだ。
 いや、もはや引かされたという表現が正しいのだろう。
 食いしばった歯のあいだからぜいぜいと乱れた呼吸が漏れている。
 少年が呻くように漏らす。
「……おま、え……ま、さか……」
 それまで無表情だったメイの口角がにやりと上がる。
「おや、ようやくお気づきですか、ちょっと遅すぎますわ」
 慇懃な雰囲気ではあるが、底知れぬ冷ややかさが込められている。そんな口調だった。
 ――なんにしてもメイがしゃべっている! それもAIが使うテンプレートセリフじゃなく、そう、まるで、まるっきりプレイヤーのように!
「キサマ、まさか――時空警察!」
 強烈な渋面を見せながら少年が叫ぶ。
「……おや、そのような蔑称を口にされないでいただけますか?」
 メイは嘲弄するかのように口元に笑みを浮かべている。
「く、くそ、くそくそくそがああああああ」
 少年がネカフェの出口から外に飛び出した。
「逃げても無駄ですよ!」
 警告のセリフを言い放ったメイだったが、迷いのない敵の全力ダッシュに虚を突かれた形で、追走が一歩出遅れてしまう。
 メイが少年を追って表に出る。
 時翔も後を追って外に出た。
 街路にもまったく人影はみあたらなかった。時翔にとってもはやそれは想定内の光景ではあったのだが。
 少年は後ろも振り向かずに全力疾走している。すでに十メートルは距離を取られていた。
 しかしメイのスピードは物理法則を完全に無視していた。ニトロ全開的なその加速ダッシュは、目で追うことさえも難しい。
 あっという間に少年の前に回り込み少年の前に立ちはだかる。
「あの、大人しく縛についていただけませんか?」
 息の乱れもなく、静かに諭すようにメイが言う。
「くっ、だれがっ、キサマ達なんぞに……」
「無理ですよ、私どものペースメーカーはあなたの十倍以上の物理速度を持っていますから」
「やはり……交渉者《アービター》か、くっこっこの犬がっっっ」
 言いながら少年の右手がフリック動作を見せる、何かを企んでいた。
 そう、多分このゲームならではのシステム戦略を。
「やばいぞ、あのスペルは……」
 そのプリエフェクトには見覚えのある時翔が思わず漏らす。
 少年の右手からブラウンに光るエフェクトがほとばしりメイの体を包み込んだ。
「きゃっ、なに? これは……」
「ふ、ふはは、実に初歩的なスペルさ、発動に時間が掛かるのが欠点だがな、スネアスペル、歩行速度ダウンの魔法だよ!」
 少年はしてやったりの表情で註解する。
 メイは明らかに油断していた、圧倒的な速度に物を言わせ余裕を見せすぎていのだ。
「や、なんで、重い、足が……」
 メイは全力で歩を進めようとするが、まとわりつくブラウンのオーラにはまるで粘度があるように、その速度を完全に封殺されていた。
「ふ、ざまあねえな、ではごきげんよう、あんたと丁々発止しても勝ち目がないのは承知したんでね、戦略的撤退とさせてもらうよ」
「く、そんな……」
「あばよ」
 少年はくるりとメイを迂回して逃げ去る体勢に入った。
 と、その時、かすかな声が響いた。
「ルート!」 
 少年の背後、遙か後ろから飛来した小さな光輝が背中に命中する。
 バシっ! と。
「な――に!」
 彼らが対峙する車道に設置された信号が、車影もない交差点の進路指示を変えていた。
 振り向いた少年の目に映ったのはぼろぼろのマントを身にまとい、スペルを放った直後のモーションを取るスキンヘッド男子高校生の姿だった。
 見る間に少年の足下の地面が割れ、数本の触手めいた緑色の茎が伸びる。そしてあっという間にその足にがっちりと絡みついた。
「な、なんだこりゃ!」
 少年の足はがんじがらめにされた茎で微動だにも出来なくなっていた。
 時翔がゆっくりと数メートルの距離まで近づく。
 街路灯に照らされた時翔の顔に仄かな微苦笑が浮かび上がった。
「初歩の初歩スペルですよ?」
 時翔が嗜虐的に響き渡る声で言った。
 そして再びの静寂。
 ………………………………
 ………………………………
 ………………………………
 ――万里を睥睨する黒き王よ、我が求めに応じ、爆炎の裁きの下に我らが敵に滅びを与えん――
 ………………………………
 ………………………………
 ………………………………
 地を這うような詠唱の声が――なのにどこか蠱惑的な響きを伴って静かに流れる。
 それは時翔の背後に立っていた友里の長大な呪文詠唱だった。
 そして彼女が言う。決めセリフを――
「どいて兄さん、そいつ殺せない」
 僅かに苦笑しつつ時翔が黙って体を横にずらす。
 白とピンク、レースをあしらったメイド服めいたドレスを着た女子高生が、両手の掌をまっすぐ前にかざし、屹立していた。
 はぁぁぁ、と、友里が大きく息を吸い込む。
 友里の体を中心にして巨大な炎が取り囲む。
 生き物のように幾筋にも踊り狂う炎の束が友里の掌に収束していた。
 直後、劫火渦巻くバックドラフト確実の扉をぶち破る絶叫が友里の口からほとばしる。

「ドゥラァゴォゥン――――フレアアアアアアアァァァァァァァ」

 GG

陣家
2012年10月09日(火) 02時54分52秒 公開
■この作品の著作権は陣家さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
100枚を超えてしまったので、ファンタジー、童話板にアップします。

追記しても完結ルールを回避できなそうなので、完結するまでアップは控えます。
できるかな?

10/24冒頭に駄文を装入してみました。

この作品の感想をお寄せください。
No.12  陣家  評価:--点  ■2013-04-11 22:38  ID:98YScwpXzig
PASS 編集 削除
ひg、じゃない…… 卯月 燐太郎様、感想ありがとうございます。

・タイトル
タイトルは今作自体が尻切れ蜻蛉なので、ほとんどサブタイトルみたいなノリで付けてしまいました。
本タイトルは別に考えていたんですよね。続編をアップしたときにでも付け直そうと思っております。

・文章
無駄話が大好きなんですよ。いつもながら無駄話がメインで、設定やストーリーはそっちのけみたいになってしまいます。困ったクセです。

・ストーリーのテンポ
無駄話を書いてる内に想定していたストーリーを忘れちゃうことが多いので気をつけようと思います。

・シチュエーションの分かりやすさ
会話ばかりで場面転換が少ないので、分かりにくくなる要素が少ないのでしょう。

・構成
そもそも本編があるのか? と疑いたくなる人も多いことでしょう。
ほどほどにしないといけませんよね。

・テーマ性
一応あることはあるんですが、非常に日本人的な暗い考えに基づいているので、なるべく暗くならないように自戒しながら書いてしまいます。結果的にスカスカになってしまうのですが。

・キャラクターの魅力
語り手は無個性、主人公はオヤジギャルばかりになってしまうので、なんとかしないといけないと自分でも憂慮しております。

・サスペンス性
難しいですね、漫才会話から、いかに切り替えるかというのは難易度の高い技だとつくづく思います。
なんとかうまくやってみたいですね。

・イメージ豊かな描写
描写が大の苦手でして、いかに描写せずに話を展開できるかと考えながら書いていますので、描写不足という印象を与えなかったのであれば幸運でした。

・細部の臨場感
まだまだですね。会話に臨場感を持たせられるように努力します。

・ユーモア・ウィット・ギャグ
これがメインというか、もうアイデンティティみたいなものなので、一応通じるギャグが幾ばくかはあったということであれば嬉しいことです。

・ドラマの「深さ」
まったく話が進んでいませんからねえ。深さ以前の問題ですよね。

さて、続きはちびちびと書き続けていて100枚くらいにはなっているのですが、恐ろしいことにまったく話が進む気配がありません。なんとか無理矢理にでも書き続ければいつかは進んでいくと信じて書いていこうと思います。

丁寧な分析ありがとうございました。
No.11  卯月 燐太郎  評価:30点  ■2013-04-10 20:14  ID:dEezOAm9gyQ
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「同伴下校とソーサラーズ」読みました。



1 タイトルは適正か
「同伴下校とソーサラーズ」う〜ん、結構よいタイトルかもしれません。
サブ・ タイトルも必要かな。


2 文章が読みやすいか
読みやすかったですが、日常会話をやりすぎて、なかなか本編に入らない。


3 興味を惹くストーリーをテンポ良く展開しているか
上にも書きましたが、導入部が長すぎますね。
主人公たちが「ネカフェ」から出られなくなって、ようやく物語が動き出したということになります。
そして少年の出番。
メイが時空警察で話が本題に入っていく。


4 シチュエーション(状況)をわかりやすく示しているか
「いつ、どこで、誰が、誰と、何をしたか」わかりました。


状況設定について
構成のバランスを直したほうがいいですね。
導入部は日常会話が主だったので、退屈します。
本題の方は面白そうなので、早くそちらに入るように、伏線を張って本編に突入。


5 魅力的なテーマか
現実からゲーム内へ混合する作品でした。
そこに脇役だと思っていた時空警察から派遣されたメイが、黒幕の少年を追い詰める。
主人公たちが加勢する。
ということで、魅力的なテーマかといわれると、私もゲームではありませんが、違う世界との融合というのは、いくつか創っていますので、かなり斬新に創らないと、と思ったりします。


6 主人公および主要登場人物のキャラクターは魅力的か
主人公たちがステレオタイプになっているようですね。


7 ストーリーにサスペンスはあるか
導入部が長すぎます。
後半でやっと面白くなりました。


8 イメージ豊かな描写はしているか
普通に描写はできていました。


9 細部に臨場感はあるか
臨場感はなかったですね。


10 ユーモア・ウィット・ギャグはあるか
これはありました。
主人公たちのやり取りがユーモアに富んでいました。


11 ドラマに「深さ」はあるか
ありませんでした。
目的意識を持って、話を締めた方がいいですね。


12 その他
少し厳しい意見になりましたが、基本的なところで失敗しているようです。
「構成」のバランスですね。
練り込みが足らなかったようですね。

■作者からのメッセージ
100枚を超えてしまったので、ファンタジー、童話板にアップします。

>>追記しても完結ルールを回避できなそうなので、完結するまでアップは控えます。
できるかな?<<
●導入部の無駄な日常会話はほとんど必要がないと思います。
もっと、緊迫感を作品に持たすような「起承転結」の構成にした方がいいですね。


出典
使っているテンプレートは、三田誠広著書の「深くておいしい小説の書き方」という本の中にある「新人賞応募のコツと諸注意」の「おいしさの決め手十カ条」に一部追加したものです。作者には許可を頂いております。
No.10  陣家  評価:--点  ■2012-11-25 21:16  ID:98YScwpXzig
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きかさん
感想遅くなり申し訳ありません。
お読みくださりありがとうございました。

どうなったんでしょうね……
ぶったぎっちゃってごめんなさいです。
続きはぼちぼちと書いていってはいるのですが、なんか収拾がつかなくなりつつあります。
でも、一つだけ肝に銘じるべきことはありまして、妄想の中でウソを吐かないことだと思っています。
ウソを吐いてしまったら、それは物語ではなく、ただのウソになってしまいますから。
とは言いつつも、ご都合設定を、いかにもっともらしく煙に巻くかということなんでしょうが。
よろしければ、気長に待っていて頂ければ幸いです。
No.9  きか  評価:30点  ■2012-11-18 21:25  ID:Tqw0IDjU4kk
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楽しく読ませていただきました。
そして、うわーどうなったん?どうなったん?と続きが気になっていたりもします(笑)
オンラインゲームは人づきあいが怖くて手を付けたことがなく、このところようやく少しVRモノも読んでみただけの経験しかない私には、単語が何にかかっているのか、どんなゲームシステムなんだろ?と頭を悩ます箇所もいくつかあったのですが、それも含めてわくわく感というか未知のゲームシステムに対する憧れというか、そんなものを掻き立てられました。
冒頭が個人的にかなりのツボでした。
No.8  陣家  評価:--点  ■2012-10-30 00:09  ID:98YScwpXzig
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ゆうすけさん
お読みくださりありがとうございます。

冒頭からおふざけ全開にしてみたのですが、ネタが世代的にピンポイントねらい打ちでしたね。
もうわかる人だけ笑ってもらえればと思って書いたので、笑っていただけてなによりでした。
影さん、ツグミさんも出そうかと、ふと思っていたのですが、さすがになあ、と踏みとどまりました。
分かっちゃいるのですが、ゲームネタSFは2002年頃の.hack《ドットハック》のブームをピークに、今だに定番の題材で、多分今の若い人がSFラノベを書けと言われたら10人中4−5人は書くんじゃないかというほどのありふれたネタです。
ですが、まあどれだけ素材がありふれていても味付け次第で面白い物になるはずだとの希望的観測の元に書いてみました。
いつものことですがプロットは実はクソ鬱な世界観なのですが、そういうのに無理矢理ギャグを突っ込むのが好きなので今回もやってしまいました。
しかし、風呂敷広げすぎました。しかも、まだまだ広がりそうです。
果たして畳めるのか、かなり自分でも懐疑的になってきました。
とりあえず、続きは少しずつ書いています。
どんどん下品で低俗で暴力的になっていくと思います。
もしよかったら読んでやってください。
ありがとうございました。
No.7  ゆうすけ  評価:40点  ■2012-10-28 09:39  ID:QAFi4/c3duE
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拝読させていただきました。

読んでいてわくわくしましたよ。筆が走っているのを感じます。サクサク楽しむスナック菓子のような食感ですね。
さて冒頭からいきなり暴走。コンプティーク誌上でのロードス島戦記をリアルタイムで読み、ベーマガでベーシックを習得した私ですと、年代的に大笑いなんですけど、うら若き乙女たちには意味不明ですし、やっぱり陣屋さん最高と笑いました。
ネットRPGですね、最近のものにはついていけていないのですが、概ね理解できました。
生き生きとしたキャラ、このラノベテイストが生きていると思います。いかにもなヒロイン、こんな女の子と学生時代に……いや、何もいうまい。当時はゲームとかアニメとか好きな男は忌避されていたっけか(涙)

面白い設定の数々が垣間見えます。おさんの作品にも書きましたけど、たくさんまかれた種が芽を出して、花が咲いて、実がなって、さあ食べようかと思ったらおあずけを食らったような読後感です。

おっぱいスライダーについて調べてみました。すげ〜!
カップリングシステムとか、いろいろ妄想しちゃいます。あの頃にこれがあったら……いや、何もいうまい。

完結編を読みたいので、期待して待っておりますよ。
No.6  陣家  評価:--点  ■2012-10-23 23:55  ID:98YScwpXzig
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鮎鹿ほたるさん
感想ありがとうございます。
冒頭でいかに引きつけるか、大事ですね。
自分としてはロケットスタート&出落ちをかなり意識してカットバック構成にしたつもりだったのですが逆効果だったのかもしれません。
冒頭はあえてスカスカにして情報をあまり出し過ぎないようにして、読者をすんなりと文章に引き込む作品も多いですね。
自分もそっちのほうが好きな方なのでわりとそういう書き方が多かったのですが、今回は枚数制限を意識したせいか、ばたばたさせすぎたようです。
改稿するとしたらそのへんを推敲し直そうかと思いました。

率直なご意見ありがとうございました。
No.5  鮎鹿ほたる  評価:20点  ■2012-10-23 09:32  ID:O7X3g8TBQcs
PASS 編集 削除
こんにちは。
すみません。どうしても入っていけませんでした。私が古い人間で最近の作法についていけないのかもしれません。
ストーリーで一番大切でかつ難しいのは出だしのところで映画で言うと始まって30分くらいのところだと思うんですね。中・長編の場合、そこのところが一発でうまく書けるなんて絶対ないです。そこのところだけでもプロットを何度も練ったらどうかと思うのです。自分の作品を客観的に読んで悪いところを修正していくのは”自分の作品を客観的に読む”技術と”悪いところを発見、修正する”技術と両方必要なので大変ですが。
すいません。古い作法者からのアドバイスでした。
No.4  陣家  評価:--点  ■2012-10-16 22:02  ID:98YScwpXzig
PASS 編集 削除
わ、楠山歳幸さんに戻ってる! おなつかしや。
感想ありがとうございます。

カップリングシステムは結構良くあるネタ(特にエロゲ方面)で同性同士もわりとあったりします。
Physさんが以前お書きになったレンシンショウも頭のどこかにあったような気もします(おこられそう……)。
その辺の真面目なエピソードもちゃんと描写していきたいですね。
しかし三人称でギャグを書くというのは、後から読み返すと死ぬほどこっぱずかしいですね。
なにしろ、突っ込み役が作者なわけで、不動の厚顔無恥さが要求されるハードルの高い技術だと思い知りました。
一カ所でも笑えるところがありましたら幸いなのですが。

ありがとうございました。
No.3  楠山歳幸  評価:30点  ■2012-10-14 22:04  ID:3.rK8dssdKA
PASS 編集 削除
 読ませていただきました。
 冒頭、筆が乗っていていかにも的な所が面白かったです。僕はゲームに疎いため世界観は分かりにくかったですがもし詳しかったなら本作でもミステリアスな展開をもっと楽しめたと思います。ネトゲ廃人→本当に魂持って行かれるという設定も面白いと思いました。おっぱいスライダーにはびび!っと来ました。おさわりタッチのどき魔女のギミックみたいな感じですね。ロマンですね。
 ラストは、シリーズでしたら次に繋がる所が欲しいかな、と思います。
 同伴下校、ネーミングがいいですね。男子校だと新たな扉が開かれるかもですね。
 では。
No.2  陣家  評価:--点  ■2012-10-11 00:26  ID:98YScwpXzig
PASS 編集 削除
HALさん改め朝陽遥さん、感想ありがとうございます。

HALさんが告知された中二病イベントの惹句。
胸に響きました、響きまくりました!
と言うわけで……
そもそも地で書いても病的なものばっかり書いてる人間が官軍の旗印を与えられたかのごとく臆面もなく書き綴った結果、このような物ができあがってしましました。
いやあ……おはずかしい、一応自覚はあったりします。

おそらくギャグらしき物が書かれているのだろうなということは読みとれるとは思いますが、なんの躊躇もなくドカドカ出てくる意味不明な用語は、ネットRPG経験のない人にはまるきりちんぷんかんぷんな物だったと思います。
本当に不親切きわまりない内容ですよね。
おっぱいスライダーとか、説明するのも恥ずかしいのですが、何というか、3Dキャラメイキングの経験のある人(男)にはかなり思い入れのある機能だということだけお伝えしておきます。
実は、最新のゲーム、ファンタシースター2オンラインのキャラメイキングをネット動画で見て、その調整機能の多さに隔世の感を覚えたのがちょっとした動機です。
いわゆるエンスーアジャスト的な何かです(徳大寺有恒風)。

よく思うのですが、普段自分が漫画やドラマ、アニメ、小説などを見ていてギャグが書かれていても、ああ面白いなあ、さすがプロなあとは思っても、実際にはクスリともしていない自分に気が付くと、人を笑わせる(痛々しいなあという意味でなく)というのは難しいものなのだとしみじみ感じます。
なので、一カ所でもニヤリとしていただける箇所があったのだとしたら、もうそれだけで本懐を遂げられた気分になります。ありがとうございました。

背景設定、自分でも頭が痛くなるような設定は一応あるのですが、ぶっ飛びすぎだと思われるので、続編を書くことができれば、ちょろちょろと出していければいいなあと思っております。
あんまり真面目にやると、またまたヘビーで陰鬱な地金が露見してしまいますので。
多分日常的で馬鹿馬鹿しいコメディが書きたいという欲求と、ハードなSF設定も形にしてみたいという相反する無茶な願望があり、その間で葛藤していたりするのだと思われます。

今回は初めて、本気で意識して三人称で書いてみましたが、やはり難しいですね。それを補って有り余る三人称ならではの利点があるのは書いてみて気が付けましたが、やはり筆力が要求されるのも実感しました。

今作のラストはいわゆる爆発落ちという最悪なものです。
ですが半分以上はおらおら、これで続き書かないでどうすんの? と自分に追い込みを掛ける意味もあったりします。
最近また仕事が立て込んできましたもので年内に続編がアップできるかどうかも怪しいのですが、頑張ってみます。
応援してくださり本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。
No.1  朝陽遥(HAL)  評価:30点  ■2012-10-09 21:46  ID:QnK6vloMa.g
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 まずは中二病イベントへのご参加、ありがとうございます。年内いっぱいやっておりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!

 ということで、拝読しました。
 徹頭徹尾かるーく読めちゃうんだけど、その軽さがいいです。ニヤニヤしながら楽しく読ませていただきました。
 おっぱいスライダーってなんだよとか、0点って逆にすごくね? とか、高性能な下駄箱をあえてレトロな木製の外観にする意味がわからない! とか、諸々ツッコミながら読ませていただきました。トイレネタが異様にツボってしまったのはここだけの秘密にしておきたい……。(シモネタに弱いです)

 背景設定、具体的に書かれていませんが、これもしかして、校則で強制的にカップルにされるってことですか……? さりげないけどすごく怖い設定ですね?

 さて、イベント作ですからあんまり細かいことをいうのも無粋ではあるのですが、ご自身でも書かれているとおり、ちょっと伏線投げっぱ感が……。ここで終わられたら激しく寸止め感があって辛いです。ぜひとも続きを読ませていただきたいなと思います。
 が、あくまで一般板のルールにのっとって、連載はNGということでお願いしますね。向こうでも書きましたが、二話目以降も単独で読めるような形にしていただくか、別の場所を利用されるか、もう長くてもいいのでそのまんまミニイベのスレッドに書きこんでいただくかでお願いしたいです。
 執筆おつかれさまでした!
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