秋継&和水・ソラより来たるモノ
三語改稿
「芒野」
「隕鉄」
「賞味期限は美味しく食べる期限だから、きっと食べても死にません」
   *

 ルゥフェンウィリァ及び諸島王国の首都ウィリアフィリァから北へ数キロ、アラグニア火山の麓に、宇宙から飛来した巨石が落下、衝突した。周囲は芒野が広がり、被害を受ける建造物等は存在しなかったが、生態系、その他大気への影響などを計るために調査隊が派遣されるなど、大きな話題となった。
「結局、何事というようなこともなかったのだろう?」
 秋継(あきつぐ)はぼんやりテレビの画面を見ながら、朝食の用意をしている和水(かずみ)に声を掛けた。
 ウィリアフィリァの中心からほど近い住宅区域、ラントリユSt.がカラフィロアAv.と交わる少し北、ファリアルアSq.の少し手前に並ぶテラスハウスのうちの一軒を借りて、秋継と和水は暮らしている。
 ルゥフェンウィリァ島は、高緯度である割りに潮流のおかげか気候が穏やかで四季があり、折々の景色も美しく過ごしやすい。東洋の島国から来た秋継にして、三年と区切って訪れたにも関わらず、十年経った今も帰る気にならずにいる。四季がはっきりしていて、季節ごとの景色の変化の楽しめるところも故郷に似て良い。和水には、いつか連れて行くと約束しているのだが、重い腰を上げる気配もない。なにしろここには何かと喧しい親族どもがいないのだから、好き好んで帰りたいとも思わないというのが正直なところだった。
 和水と出会ったのもこの街でのことだ。この少女のような可憐な外見をした少年は、街で探偵の真似事のようなことをして日銭を稼いでいた。本物の探偵に使われて情報を集めたり、時には非合法な工作にも手を染めていたのを、秋継は自分の相棒にすることでやめさせた。当時の和水はフードを深く被りおどおどと小さくなって過ごし、眼ばかりがぎらぎらと輝いているのが印象的で、触れると斬れそうな緊迫感を常に漂わせていた。
 それが怯えから来るものであり、孤独を何より怖れていることを看破したのも、秋継の昔に少し似ていたからかも知れない。
 当時和水は、そうやって小銭を稼ぎながら人を捜しているのだと言った。捜していた相手が、当の秋継だと知ったときには少なからず驚いたが、どうやら、行方不明になっていた秋継の祖父と縁があったらしい。魔窟という、海辺にある高層貧民窟の中で、祖父に拾われ育てられたのだという。そこから抜け出すようはからったのも祖父なのだそうだ。
 なぜ祖父がそんなところにいたのかは、結局良く分からない。和水の出自についても同じだ。祖父とは七年前に別れたそうだが、祖父が魔窟の中でまだ生きているのかどうかも分からない。分かりようもない。
 あそこは禁忌だ。一般人がおいそれと立ち入れる場所ではない。警察など行政機関はおろか、闇社会の連中でさえ足を踏み入れたがらない。まさしく魔窟。この世の奈落。
 和水は、その奈落で生まれたのだという。
 ともかく、それ以来行動を共にしている。
 じいさんが最後に育てた弟子ならば、面倒を見るのも孫の努め、などと殊勝なことを思ったわけではなく、なんとなくノリで連れて来てしまった。口は悪いが、家事も良くこなすし、探偵としての嗅覚も鋭い。結果としては良かったのだろう。今はそう思っている。
 そうして、今があるのだ。
「良かったんじゃない、なんともなくて」
 和水は、調理の手を休め、ちらりとダイニングのテレビ画面を見ると、すぐにキッチンに戻り、また庖丁でまな板を叩く。
 野菜を刻むリズミカルな音が聞こえる。
「噂じゃ、隕鉄の中から異星の生物が這い出て、密かにウィリアフィリァに紛れ込んでるんだって。おじさんも気を付けないと身体を乗っ取られて、内側から喰われちゃうよ」
 キッチンから聞こえる声は、庖丁のリズムに乗って軽やかなのだが、その内容たるや、いかがわしいにもほどがある。
「どっから仕入れてきた、そんな与太話し」
「八百屋のおかみさん」
「なるほど」
 秋継は脳裏に面積の七割が目と口でできた丸顔を思い浮かべる。確かにあのおばさんなら嬉々として広めそうなネタだ。
「そうやって都市伝説の類は創られていくわけだな」
「かもね」
 味噌汁の香りが漂う。
 ウィリアフィリァは日本のキョートと姉妹都市提携しているだけあって日本の食材が一般の商店にも普通に並んでいる。欧州の中では日本人居住者は比較的多い方で、地元住民も日本文化には早くから慣れ親しんでいる。最近はまた健康へのこだわりからか日本的生活スタイルが流行になりつつあるらしい。
 和水の料理の腕もなかなかのもので、秋継が教え始めてからあっという間に、秋継の怪しい知識を越えて、かなり本格的に和食をマスターしてしまった。インターネット万歳というところだ。
 話題にも飽きたのと、小腹が空いてきたのとで、秋継は大きな欠伸を漏らす。酒が残っているせいも多分にある。頭がすっきりしないのは、そのせいだ。
「おじさん、まだ酒が抜けきらないの?」
 日本風の献立をテーブルに並べる和水が、心配とは程遠い表情で聞く。
「ああ、少し飲み過ぎたかもしれん」
「歳なんじゃない?」
「ケツの青いガキには分からない、歳なりの魅力ってのがあるんだよ、少年」
 事実である自負が半分、いや三分の二。残りが強がりだ。秋継は大いに胸を反らせてみせる。
「モテてるうちは良いけどね、そのうち捨てられないように気を付けることだね」
 料理の腕は上がっても、口の悪さは相変わらずだ。とはいえ、将来的にはないことでもない。
「全員に振られたら、そのときは、お前に養って貰うよ」
「な、なんでボクが……!」
 何気なく言った言葉にずいぶん強い反応が返ってきた。慕われているとまでは思っていなかったが、
「そこまで厭がることもないだろう」
「べ、別に厭じゃないけど。ボクはおじさんの嫁になんかならないんだからね!」
「当たり前だろう、男同士なんだから」
「ま、まあ、そうだけど」
 おかしなヤツだな。秋継は首を傾げつつも、用意のできたらしい食卓に着く。
 白い飯に、玉葱の味噌汁、だし巻き、魚の干物。基本に忠実で悪くない。干物の魚があまり見かけない容姿なのは、この際仕方あるまい。ここは日本ではないのだ。
  *
 和水は、キッチンの奥で胸に手を当て、無闇に跳ねる鼓動を抑えようと深い呼吸を繰り返していた。秋継からは死角になる位置だ。シャツの下に巻いたさらしのズレかけているのを直す。こんなところを見られたら、一発でアウトだよ。
 一瞬、バレたのかと思った。
 バレていたのかと思った。
 でも、そうじゃないらしくてほっとする。
 どういうわけか、ここ数日、和水の身体が女性化し始めてる。胸が膨らみ始め、腰がしまり、お尻が突き出るようになる。全体に鍛えた筋肉質な体付きだったところに、うっすらと身が乗って、わずかながら丸みを帯びる。なにより、性器の形状が変わりつつある。これは決定的なことだった。
 どうしてこんな事になったのだろう。振り返り考えてみても、思い当たることはない。病気、なのだろうか。気付いたら始まっていた。こんなの動物みたいで厭だ。でも、どうしたら止められるか分からない。医者にも行ってない。行けるわけがない。行ったら、おじさんに知られてしまう。
 ボクは、女の子になっちゃうのだろうか。
 こんなことおじさんに知られたら……、
 知られたら、どうなるんだろう。
 ボクはおじさんの……
 違う、違う。そんなわけない。そんなことあるわけない!
「どうした、喰わないのか」
 掛けられる秋継の声にびくりとする。
「片付け済んだから、今行くよ」
 ボクは、おじさんの嫁になんかならなくても、ただここにいられるだけで良い。
 海辺の高層貧民窟である魔窟出身というだけで蔑まれ、誰からもまともに相手にされず、ひとりで片意地張って生きてきた。あの頃にはもう戻りたくない。なにより、おじさんと離れて暮らすことなんて考えたくもないし、絶対に厭だ。
 ボクはここにいても良いんだよね。
 ねぇ、おじさん。

   *
 その山荘は、アラグニア火山の山麓にあった。
 元はある王家に連なる貴族の持ち物だったが近年の相続の折に売りに出され、今のオーナーが買い取って簡易な宿泊施設として営業している。貴族の山荘とはいってもこぢんまりとしたもので、宿泊に使える部屋は六部屋ほどしかなく、美術的価値のある建築様式であるわけでも、華美な調度に囲まれているわけでもない。その分、過ごしやすさには定評があり、自然の建材へのこだわり、あらゆる物がゆったり大きめに創られており、濃茶系の色合いで統一された館内は、訪れる者に「帰ってきた」という感慨を持たせる。他の設備としては、敷地内にはプールとテニスコートが併設されている。豪華さを感じさせるのはそれくらいだろうか。
 アラグニア火山は標高こそさほど高くないものの、風光明媚で知られ、複雑な地形が多くの絶景を生み出している。ハイキングコースも整備されており、体力の弱い者でも比較的楽に登山を楽しめることから国内外の人々の人気を集める。
 また、ルゥフェンウィリァの古い神話によれば、この世の全ての物の元はアラグニア火山の火口から噴出され生じたといわれる。そのため、そこを聖地と考える信仰も根強くあり、巡礼と称して定期的に参拝する集団もある。ごく普通の人々の集まりから、かなり怪しげな集団まで様々だ。
 だから、宿泊の需要はそこそこある。
 といっても、もちろん、時期というものがある。観光や行楽というのはだいたいにおいて時期的にまんべんなく人が動くというものではない。どこかに集中する。
 なぜかこの初春の頃というのはぴたりと客足が泊まる。しかも平日。客がいる方が不思議なくらいな日だ。
 ふたりがそこを訪れたのは、残念ながら人のいない静かな日にこっそり行楽を楽しもうというわけではない。以前から知り合いだったオーナーから急に電話があり、来て欲しいと伝言されていた。その時秋継はとある修羅場に立ち会っていて、電話に出る処の情況ではなかったのだが、後から聞いた、そのオーナーの声色があまりお気楽な遊びの誘いのようには聞こえず、折り返しの電話にも、山荘の予約用の電話にも誰も出ないのも気にかかる。普通そんなことをすれば商売あがったりなはずだ。何かはあったのだろう。それが何かは分からない。
 が、今時点であまり深刻にも考えていない。その証拠に秋継は、始め和水には黙ってひとりで来るつもりだった。……のだが、見事、嗅ぎ付けられ、すったもんだの末、ふたりで来る羽目に陥った。秋継としては非情にやりづらい。何しろこの山荘は、ある女性との秘密の逢瀬にも使っていた場所でもある。和水に知られれば、非難されるいわれこそないものの、冷やかされるか、厭味を言われるかのどちらかだろう。どちらもわざわざ望んで聞きたくはない。
 親っさん、余計なことを口走らなければ良いが。……と、危機感のまるでない心配をしていた。
 山荘に着くまでは。
 オーナーという人物は七十に近い老人で、かつてはウィリアフィリァ屈指の探偵として名を馳せたこともある。秋継の先輩探偵で、現場で何度か世話になっいてる。今は、息子夫婦と三人でこの山荘を経営している。
 ……はずなのだが、
 山荘の中は、昼だというのに薄暗かった。
 フロントカウンターのあるロビー。元の玄関ホールだろう。そこそこの広さがあるが、照明の類が何一つ灯っていない。カウンターにも誰もいない。声を掛けても誰も出てこない。客のいないオフシーズンにはこういうこともあるのかも知れない……が、それにしても……。
 人の気配がない。客が皆無だという以前に、オーナーや息子夫婦のいるような気配も感じられない。
「厭な感じがする」
 人一倍、気配とか感覚とかに敏感な和水が呟く。
「そうだな」
 用心深く進む。さほど大きな建物ではない。二階建て。客室は全て二階で確か五部屋か六部屋。一階の脇、カウンターの向う側にオーナーたちの住む区画がある。
 カウンターに入り込み、事務所になっている部屋と通り抜ける。通路。半ば物置のようになっている。こちらも薄暗く、そこら中に転がる小物に足元を取られそうになる。
 この通路の突き当たり、「PRIVATE」のプレートの付けられた扉の向こうが、彼らの住居だ。
「おじさん、この奥、凄く臭うよ」
 眉間をしかめる和水の顔色が悪い。
「何の臭いだ?」
「たぶん、血じゃないかな」
 和水の五感は、やや人間離れしているのではないかと思うほど鋭い。ほんの些細な物音、微細な空気の振動、風に混じる微量の臭気までを敏感に感じ取る。これは生まれついてのものらしい。魔窟生まれの者の中には、時々こういった特殊な能力をもって生まれる者がいると聞いたことがある。
 秋継にはまだ何も感じられないが、和水の顔色を見るに、覚悟を決めた方が良さそうだ。
 すなわち、異常事態の発生だ。
「開けるぞ」
 無言で和水が肯く。
 扉に顔を近付けると、確かに臭う。ゆっくり扉を開ける。
 強烈な臭い。これは非道い。
 和水が顔を背ける。秋継の五倍は嗅覚が鋭いだけにきついのだろう。
 わずか数センチ開けただけでこれだ。
「大丈夫か?」
「ボクだってプロだよ」
「上等だ」
 扉をさらに押し開ける。
 襲い来るすさまじい血の臭い。
 それに、暗い。
 いや、明るさは変わらない。
 ただ、瞑い。闇が濃い。闇が粒子によるものであるなら、その空間に凝縮され、光を歪め、弾き、部屋の内までを照らさせなず、薄明かりの中にも絶対の闇を生み出す。その闇の因子が血臭に混じって漏れ出してくる。厭な感じの元はこれなのかも知れない。
 怯みそうになるを堪え、最後まで扉を開けきる。
 闇の中、もぞもぞと蠢く影。
 人……なのか。
 そこにいるのは……、
「ねぇ、」
 声は、女のものだった。
 厭に艶っぽい。ねっとりと絡みつくように。淫靡で、妖艶。たちどころに弛緩する思考。
 オーナーの息子の嫁だと気付いたのは、以前にも来ていた給仕用のお仕着せ服を着ているからだ。あの時本人はあまり似合わないからと恥ずかしそうにしていた。
 今その服は、鮮やかなまでの深紅に染まっている。
「ねぇ、美味しいわよ。あなたたちも食べない? 少し賞味期限は切れてるかも知れないけど、大丈夫」
 女は、にたり、と嗤って、それからくすくすと痙攣するように身を震わせた。
「賞味期限は美味しく食べる期限だから、きっと食べても死にません」
 真面目くさって言う。そういえば、食品管理も彼女の仕事だった。
 それから、
 きゃははっはははー
 狂ったように腹を抱えて嗤い出す。
 その口に、齧り付く物。
「お爺さんと、息子さん」
 悲痛な声を和水が漏らす。そうでなければ良いと思っている。秋継に否定して欲しいと思っている。でなければあまりに……
 秋継にもそれは分かった。が、しかし、和水の望みに応じてやることはできなかった。食いちぎられて転がる二つの顔に見覚えがあったからだ。苦悶の表情に歪んではいるが間違いない。オーナーと彼の息子だ。
「ねぇ、あなたたちが食べないなら。あたしが食べちゃっても良いかな? でも、こんな老いぼれとぶよぶよのデブより、あなたたちの方が美味しそう。ねぇ、あたしあなたたちが食べたいわ。良いでしょ、食べちゃっても」
「おじさん」
 和水が、秋継の上着の裾をぎゅっと握りしめ、哀れな女を見詰めている。こいつにも分かっているのだ。彼女が、本来の自分の意思で動いているわけではないことを。話す言葉も、仕草も、食人という行為も、彼女の意思によるものではない。
「視えるか、和水」
 和水の超感覚は、実は五感に留まらない。六感あるいは七感とも言うべき感覚。つまり、見えないモノを視、聞こえないモノを聞き、感じられないモノを感じる。和水のこの能力は、生家の習わしとして訓練してきた秋継よりも数段優れている。
 柏葉家は、古よりこの世に囚われるこの世ならざるモノを解放することを役目としてきた。秋継もまたその訓練を受けてきた。柏葉を継ぐ者として。祖父は先々代の当主であり、役目を持ってこの国へ来て、行方不明となった。後を継いだ父親も引退し、今は義弟が当主となっている。秋継は逃げたのだ。祖父を捜すという名目で。
「頸筋、延髄の辺りなのかな、その辺りに何かいる」
「何か……、何だ」
「ちょっと待って」
 和水は、仕事の時にはいつも筒状の二つの布包みを持ち歩く。背丈の半分以上ある長いのと、三十センチ程度の短い物。そのうち、短い物の方の封を解く。と、体長がせいぜい二十センチくらいの鼬のような動物がひょいと顔を出し、周囲を伺う。
「アンクフィア、お願い」
 和水が声を掛けると、ピッ、と小さく鳴いて飛び出し、女の周囲をくるりと旋回して戻る。
 この小動物は、和水の超感覚をさらに補助する役目を担うらしい。和水の、もう一対の目となり耳となる。
 これは、柏葉家に伝わる遣い魔の「クダ」というモノだ。かつて魔窟内で和水を助け育てたという秋継の祖父から受け継いだものだという。和水に良く慣れ、手足のように使いこなしているのは、よほど相性が良いのだろう。秋継はどちらかというと、遣い魔の使役は苦手だったが。
「なに……これ」
 何を見たのか、和水が言葉を失う。
「ねぇ、さっきのニュース。隕鉄が堕ちたって。噂話があるって言ったよね」
 和水の仕入れてきた噂話。が、しかし……
「おい、冗談だろう」
「そんなことって、あり得ると思う?」
「ない、と言いたいところだがな」
 視える、のだろう。他に比類しようのないモノが。ならば、信じるしかない。喩え、どんなに信じがたいことであろうと。和水の言うのだから、信じるに値する。
「斬れそうか」
「ボクじゃ無理だよ。場所が微妙すぎる。わずかでもずれたら、あのお姉さんの精神(こころ)まで解いてしまう。でも、おじさんなら。おじさんの腕なら」
 和水が大きい方の包みを解く。
 柏葉家重代の太刀「白尾丸」。今は、先々代柏葉家当主故和臣翁から和水に受け継がれている。本来ならば、秋継は早々にこの太刀を回収し日本へ持ち帰らなければならない……、はずなのだが、そうはしていない。なぜと問われて答えがたいが、今の日常が悪くないからとしか言えない。家を裏切っている感覚はなくもないが、それは、逃げ出したときからそうなのだから今さらだろう。
「おじさん、イメージを送るよ」
「ああ、頼む」
 和水が秋継の手をきゅっと掴む。
 小さい手。けれど、温かい。
 秋継の脳裏にイメージが浮かぶ。
「なるほど、こりゃ、エイリアンとしか言いようがないな」
 その形状は深海生物のようでもあるが、それにしたろころで少々独創的に過ぎる。そんなものが今ここにいるわけがないし、人の脳内に入り込んだり、人の精神を蹂躙し操ったりはしない。
 手を放すと、イメージも消える。しかし、今ので充分だ。
「我、放たん」
 秋継が、和水の捧げ持つ太刀を抜き放つ。黒曜色の刀身。この太刀は、日本の国の、文明の曙を見る前に鍛えられた剣を、さらに打ち直したものだといわれる。柏葉の家は、大和の民の歴史よりずっと古く日本に住まい生きてきた。ゆえにまつろわぬ者。現人の神を屠り地に根ざす神々を解き放つ者。しかしてこの太刀はいま異国の地、異国の少年の手にあって、今、その正当なる血脈の手に戻る。
「我は放り人。解き放つ者。妄執により囚われし者をあるべきへ解き放つ者なり」
 銀閃、一閃。
 白尾丸はこの世の目に見える物を斬らぬ。眼に見えぬ心を、この世の物から切り離し、解き放つ。ゆえに神殺し。神を屠る太刀。神を「はふる」者。
「和水」
 糸の切れた人形のように崩れ落ちる女を、和水が抱きかかえる。意識のないのは僥倖だろう。少なくとも今、この惨状を見なくて済む。問題は彼女の記憶がどこまであるかなのだが、それはこの場で推測のしようもない。願わくば、彼女が何も憶えてなければ良い。
 そう、願わずにはいられなかった。
2012年09月20日(木) 19時41分47秒 公開
■この作品の著作権はおさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
いよいよミニイベ板にて厨二イベントが告知されました!

元々は三語に投稿したものを加筆訂正したものです。厨二イベント用に企画してる設定の試し書きに書いてみたものです。長さのわりに説明が多いのはどうぞご勘弁。いくつか厨二っぽくて恥ずかしいところもありますが、それでこそイベント。まぁ、どんなものでしょう?

この作品の感想をお寄せください。
No.14  卯月 燐太郎  評価:40点  ■2013-05-15 20:52  ID:dEezOAm9gyQ
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「秋継&和水・ソラより来たるモノ」一応読みました。

ご本人も自覚しているようですが、「説明」が多いですね。
これをやられると、読むのがしんどいです。エピソードを描写で進めてほしいです。

頭の中に入ったのは、35%ぐらいかな。
ワードに取り込んで縦書きにして色分けをしながら読みました。
御作品の場合は外国が舞台となっていて、「ルゥフェンウィリァ」とかいう呼びにくい地名が出てきたりします。
料理のことなどは具体的に書いてあるけれど、作品とどういう関係があるのかなぁと思ってしまします。

あと、肝心のドラマがなかなか始まりません。
作品全体の説明を書きこんでいるので、必要なことだけを書いて、本題に早く入いり、ドラマを盛り上げた方がよいと思います。


主人公が少年ではなくて少女と言うのは男性の読み手からするとポィントが高いですが、これが「厨二イベント用に企画してる設定」ですか。

文章はうまかったです。
小説の形になっています。

作者様はご自分の欠点をすでにわかっているようなので点数は40点にしておきます。
あと、この書き手だと、今後「お」っと、思う作品が出来る可能性があると思いました。
No.13  お  評価:--点  ■2013-01-15 11:24  ID:.kbB.DhU4/c
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どもども。
コメント、ありがとうございます。
ざっと読み返してみて……、うひゃ、こりゃ恥ずかしい。
封印、決定。
No.12  帯刀穿  評価:30点  ■2013-01-02 19:25  ID:DJYECbbelKA
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設定の上手さや誘導の巧みさなど、ほんの少しのことの積み重ねができている。このほんの少しの部分ができるかどうかが大事なことだとよくわかる。
うまく畳みかける技術もあるが、人がしたがらず、実は大事な環境設定がしっかりしている。
部分的な終わりなので、総合的なストーリーとして作りだしたら、また評価は変わってくるだろう。
No.11  蜂蜜  評価:30点  ■2012-11-06 00:34  ID:fxD0PHpbJtA
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拝読しました。

『卒業』の最期っ屁に、幾名かの僕が一目置く作者さんの作品に感想を落としていこうと思いましたが、あいにくこれはイベント作品らしく、おさんの本家本道ではありませんね。

そのかわりに、おさんの印象について、厚かましくも僕は述べたいと思います。

なんとなく僕がおさんの作品にこれまで感想を書かず、互いに遠慮状態にあった事由は、既に氷塊したので、略。

おさんの作品から受ける印象は、

『上手いんだけど、特徴に欠ける』

というものです。

書き慣れてるし、ストーリーテリングも上手い。でも、「これぞおさん!」と言えるような、一読しただけで病みつきになるような『作家性』が足りない……それが僕のおさんという作者に対する印象です。

そこさえ乗り切っちゃえば、ぜんぜんそのへんの有象無象のプロより上手いのになあ、という感じです。

ハードル、超えちゃいませんか? あと一歩ですよ!


No.10  お  評価:--点  ■2012-10-20 21:48  ID:.kbB.DhU4/c
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返信遅くなっております。申し訳ないす。
背景設定付け足していくうちどんどん訳分かんなくってきてます。
整理しようとしてもなおさらこじれるばかり。
どうしよう。

>えんがわさん
まぁ、もうちょっと精査できるように頑張ります。

>G3さん
ラストは無理矢理ですね。
三語ってなんどやっても最後無理押しになっちゃう。
まぁ、普段からして物語り創るの苦手なんですけどねぇ。
もうちょっとまともに読めるようになるよう精進します。

>ゆうすけさん
その時触れたモノに影響されやすいんですねぇ。
昨日、津原泰水さんの文庫読み終えたら、もう、津原さんチックなの書きてーとなっています。
こう、なんというか、一本芯のようなモノが据えられるといいんですが。
コミカルなのも嫌いじゃないんですよねぇ。
さてはて。

>はるかりん
基本的に僕は、宇宙人ネタあんまり好きじゃないんですが。
今回はまぁ、三語ということで。
安易に転んでしまいました。
妖怪や怪異の類だと妙に気合いはいって手間かかりそうだったんで。
宇宙人は好きじゃないから惜しみなく突き放せました。
ぶっちゃけ、手抜きです。すみません。
長編にできればカズミの女体化は、物語りの核になるはずです。
長編にできれば……。
厨二病イベントの成功を祈願しつつ。
No.9  朝陽遥(HAL)  評価:40点  ■2012-10-10 20:50  ID:Jg4ANvwuqoU
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 中二病イベントの広報もありがとうございます。ミニイベント板で年内いっぱいまで作品募集しておりますので、みなさまどうぞ奮ってご参加くださいまし!(便乗宣伝)

 ということで、拝読しました。 これはいい中二……! 血が騒ぎます。
 三語バージョンを先に読ませていただいていましたが、がっつりバージョンアップされましたね。それでもまだ習作なんだ……本番が楽しみです。

 SFと和の融合が読んでいて楽しく、そこにコンビ萌えが加わって、なんかもうごちそうさまです。
> 時には非合法な工作にも手を染めていたのを、秋継は自分の相棒にすることでやめさせた。
 ……あたり、大変ツボでした。

 ひとつだけ、イベント習作ということを考えると無粋なツッコミですが、あえていわせていただきたい。女体化の伏線はどうなったの……? そのあたりはイベント本番で読めるのでしょうか。非常に気になります。

 執筆おつかれさまでした! イベント本番もどうぞよろしくお願いいたします!
No.8  ゆうすけ  評価:40点  ■2012-10-03 18:45  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。

読んでいて楽しくなりました。面白そうな設定がどんどんあって、いよいよ盛り上がってきて、そして御終い。種をまいて花が咲いて、実を味わう前に終わっちゃったな感じ。
和水、いいキャラですね。これからどんな展開があるのかと、期待させてくれる設定です。アニメにしたら映えそうな、アニメ調の挿絵とかあったら見栄えしそうな、そうか……この感覚が厨二なのか〜なるほど。
怪しいのとか妖艶なのとか、こういうミステリアスなキャラは毎度上手いと思います。いつだったか読んだ作品に出ていたコロガルンバみたいなトボけたキャラも好きですけど。
同年代の人の艶のある作品を読むと、創作意欲がわきます。日々妄想していかなくちゃな〜。
No.7  G3  評価:40点  ■2012-09-30 00:20  ID:v1oYWlDv7GQ
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読ませて頂きました。面白かったです。昔はこういった感じの作品をよく読んでいた気がします。個人的にはラストの部分にもう少し手に汗握る様な場面があってもよいかなぁ。という事と、回収しきれないネタが多いなぁ、と思いました。しかし、それも、連作短編の一挿話だと思えば納得ができます。
 厨二、というのがどういうものなのかがよく解らないのですが、頑張ってください。
No.6  えんがわ  評価:30点  ■2012-09-29 07:38  ID:Kihk3/i8Shs
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拝読しました。
何というか、凄い設定の連続でした。
息つく暇もなくどんどん設定が追加されていくので、最後まで刺激的で、がんがんと楽しめました。

ただ、ちょっと早送りというか、ゆったりとした部分が少なかったような。
説明っぽい部分がもろ説明っぽく、うーん、免疫が出来てない自分には苦しい部分がありました。
コメントされてるように設定の量に対して、描写の割合が少なめだと思いました。そこらへんがテレなのかな。ライトノベルっぽさなのかな。
特に冒頭部分、厨二っぽい洗礼なのかもしれないけれど、いきなりどんどんとカタカナの地名が続くので、理解が追いつかず、とっかかりが悪く損をしていると感じました。

うーん、ちょっと自分は今作で「お」さんの狙った読者層からは外れている気がします。
なので、こういうのは余り気にしないで己の道を突っ走った方がいい、んじゃないかなぁ。
No.5  お  評価:--点  ■2012-09-28 21:08  ID:.kbB.DhU4/c
PASS 編集 削除
>みつねさん

どもどもーっす。
感想おおきにどず。
詰め込みすぎ。そうですね、詰め込みました。
まぁ、厨二小説っていえば設定で大事な要素でしょう。
ということで、がりがり突っ込まないとと思ってやってやりました。
三語に出した方はそこまでじゃないです。
ひょっとしたら、そっちのほうがバランス良いかも知れませんね。
厨二120%! まだまだこれから調整掛けて上げてきますよ↑
今後ともよろしくお願いします。
みつねさんのも期待してますよ!
No.4  みつね  評価:50点  ■2012-09-23 20:42  ID:l.nBYleUREE
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尺の割りに詰め込みすぎたかなという感じ全開ですね。
不要なキャラの男装設定、この尺なのに必殺技の描写が凝りすぎている。
敵キャラの不用意な色気、説明文が冒頭から始まり長すぎる。
見事に中二感120%全開でよいと思います。
強いて言うなら、血のにおいをかぎつけた瞬間の描写にもう少し緊張感と書き込みがほしいかなぁ。そこがこの話のキーポイントなので。
No.3  お  評価:--点  ■2012-09-22 01:28  ID:.kbB.DhU4/c
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>星君!
さんくす! べりぃさんくす!

>桐原さん
食いつきましたね。ヤタ!
カズミをいかにして萌えキャラにするのかが当面の課題です。
柏葉家うんぬんは、あんまりまだ考えてなくて、ていうか、イベントないでは(100枚*2作まで)ではちょっと無理かなぁとか。
ていうか、ちゃんと書き切れるのか、オレ? そこが一番問題です。
桐原さんも、厨二全開で、イベント盛り上げていきましょう!!
No.2  桐原草  評価:50点  ■2012-09-21 09:49  ID:1zZ2b3u5YfY
PASS 編集 削除
うわ〜。中二、すっごく楽しみになりました。これはおもしろい!
てんこもりですねえ。和水ちゃんが今後どうなっちゃうのか、柏葉家の妖刀、一癖も二癖もありそうな秋継。
イベント万歳!
No.1  星野田  評価:50点  ■2012-09-20 21:06  ID:p72w4NYLy3k
PASS 編集 削除
すばらしい中二。面白かったです。
クダとは渋いな……この舞台で、そういうチョイスができるセンスは素敵ですね。
総レス数 14  合計 400

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