はなまるの花 |
ある日、小学校からかえってきたナミお姉ちゃんが、妹のハナちゃんに算数のテストの紙を見せてくれました。 「ほらみて!100点よ。クラスで七人しかいなかったのよ。すごいでしょ」 お姉ちゃんは、よく花丸をもらってくるのですが、今日はいつもよりずっとずっとうれしそう。見ると100点と、書かれた紙いっぱいにぐるぐるっといきおいよく花丸がかかれていました。 「おひさまみたいね」とハナちゃんがいうと、 ナミお姉ちゃんは、手に持った紙をちょっとのあいだじっと見ていいました。 「なにいってるの。これは花丸よ。しかも花びらが七枚あるのよ。いつもは、花びら六枚までしか、かいてもらえないんだから!」 本当にお姉ちゃんにはかないません。 ハナちゃんは、おぼえたてのすうじで、ゆびさししながらうずまきの外がわにくるっくるっと書かれた小さな丸の数を、一つ一つ数えました。 「いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、ほんとだ!」 とたんに、その花丸がおたんじょう日のケーキのようにとくべつですてきな花丸におもえてきました。そして、そのテスト用紙も今日のお姉ちゃんの顔みたいにぴかぴかと明るく光ってみえました。ハナちゃんは、まぶしくて胸がドキドキしてきました。 「いいなあ。あたしもほしいなぁ」 でも百点なんて、しかも、こんなに大きな花丸の花でかざられた百点なんて、小学校でしかもらえないものなのです。ハナちゃんが小学校に行くのは来年の四月。まだまだ先のことなのです。 ハナちゃんは、きゅうにまちきれなくなって、むねがどきどきしてきました。そしてきめました。 「そうだ、ハナも花丸、さがしてみよう。だってあたしの名前もお花のハナよ。きっとハナだけの花丸もあるはずよ!」 でも、どこをさがしたらみつかるのでしょう。 花丸の花、というくらいですから、お庭にさいているかもしれません。 そとは夕方でしたが、まだ明るいようです。ハナちゃんはお庭でさがしてみることにしました。 ベランダに出る大きな窓のところで、じぶんようのピンクのサンダルをはこうとすると、となりにママの水色のサンダルがありました。一つは家の方をむいて、もう一つは逆さまになってころがっています。朝、ママがせんたく物をほしたときに、あわててぬいだようでした。 「もう、ママったら。だめですねぇ」 ハナちゃんは、ママのサンダルをそろえてあげました。 するとサンダルが右と左で声をそろえて、 「ハナちゃん、ありがとう!朝にママが私たちをぬぐときにこっそり明日の天気をうらなってみたんだけど、ママったらそのまま家に上がっちゃって、もとにもどれなくてこまっていたの。」と、いいました。ハナちゃんは『そうだ!』と思って、サンダルに聞いてみることにしました。 「ねえ、花丸の花って見たことある?」 「『花丸の花』?さあ、よくわからないわ……丸い花、ってことかしら?それならあそこのすみにさいているよ」 サンダル達が教えてくれた庭のすみには、あじさいがうえられていました。あじさいは、小さな花があつまって咲いていてまるで丸いボールのように見えました。 ハナちゃんは、あじさいのところまで行ってみました。するとあじさいの木のねもとの所に、色とりどりのおもちゃがちらかっていました。おままごとの道具です。きのう、ナミお姉ちゃんとあそんでそのままにしてあったのです。 「ハナちゃん、よいところにきた!私たちをおかたづけして!」 「今日も、せんたく物をほしているママに、けっとばされそうになって、とてもこわかったの!」 「さっきサンダルさんが、天気予報してくれてね、『明日はあめのちはれですよ』っていっていたの。ずぶぬれになっちゃうの、やだよう!」 おもちゃたちは、いっせいに話しかけてきました。ハナちゃんは、いつもママに『おもちゃはじぶんでおかたづけするのよ!』といわれていたことを思いだしました。 「みんな、ごめんね。」 ハナちゃんは、おもちゃを一つ一つひろって、大きなプラスチックのはこの中に入れました。おもちゃは、たくさんあったので、はこはすぐにいっぱいになってしまいました。さいごにのこったコップのおもちゃを入れたとき、ボールが一つあふれてころん……と、ころがりだしました。このあいだ、おまつりのときに買ってもらった、オレンジ色のカラーボールです。 「あっ!」 ハナちゃんはあわてておいかけましたが、まにあいません。 ころころころ…… ボールはころがって、お庭のみなみがわにあるさくの下をくぐって外に出て行ってしまいました。 ハナちゃんがさくの下から見まわしてみると、あ、ありました。ボールは家の前のどうろのむこうがわ、おむかいの家の門のところまで行ってしまっています。 「あーあ……どうしよう」 ハナちゃんは、さくの下からめいっぱい手をのばしてみるのですが、まずとどきそうにありません。外に出ればすぐにでも取ってこられそうな所なのです。 でもお母さんには『かってに道路に出てはダメ』といわれているのです。 ハナちゃんは『どうしようかな』と、かんがえながらさくの下からじっとのぞいていました。するとそこに、ふわふわした白っぽいものがとおりすぎました。おむかいの犬のリリーちゃんです。どうやら夕方のお散歩の途中のようでした。 「こんにちは!」 ハナちゃんは、リリーちゃんにいいました。 「あら、どこにいるのかしら?なんだか聞きおぼえのあるこえがするわねぇ」 上の方から声がするのといっしょに、黒いサンダルをはいた足がみえました。 「ここですよー!」 ハナちゃんはもういちど、さくの下のすきまからから手をだしてふりました。 「あらこんにちは、ハナちゃん。こんなとこからどうしたの?」 おむかいのおばさんが、かがんでハナちゃんの顔をのぞきこんで聞きました。 リリーちゃんも、近づいてきてハナちゃんの手にはなを近づけてふんふんとにおいをかぎました。そしてあたたかい舌でちょっとなめてくれました。いつも、くすぐったくてわらいたくなるのですが、今日はぐっとこらえていいました。 「ハナちゃんのボール、おばさんの家のとこまでころがって行っちゃったの」 「あのオレンジ色のボールのこと?じゃあおばさんがとってあげようか」 おばさんからボールをうけとると、ハナちゃんは、ほっとしていいました。 「ありがとう!」 リリーちゃんとおばさんにバイバイして、ハナちゃんは庭にもどりました。今度はころがりださないように、はこにきちんとしまいなおします。そしてもう一度、あじさいの花をよく見ました。 すると、花の上に、小さなカタツムリがいました。それは子どものカタツムリでした。 「カタツムリさん、こんにちは」 ハナちゃんが、ちょん、と頭をつついてあいさつしました。 カタツムリは、はっとしたようにツノをひっこめましたが、 「ああ……ハナちゃんか、こんにちは」と、あいさつを返してくれました。 「ねえあなたが今のっている花は…もしかして花丸の花?」 ハナちゃんが聞くと、カタツムリは答えました。 「この花は『あじさい』っていうんだよ。きれいだよね。ところで『花丸の花』ってどんな花?はっぱみたいに食べられるもの?」 「あのね、赤くてまんなかが『ぐるぐる』ってなっていて、花びらは七枚もあるのよ。いいことがあるとさくのよ」 「へえ〜見たことないなあ。それより、ぼくのせなかの上にあるこの家にも『ぐるぐる』があるんだよ、よく見て!」 カタツムリは、せなかのうずまきを見せてくれました。ハナちゃんがじっとみると、たしかにぐるぐるぐるぐる、うずまいていています。ハナちゃんは花丸の花とはちょっとちがうなと思いました。けれどもこういいました。 「ぐるぐるしていてかっこいいいね。」 「えへへ、ありがとう。」 カタツムリはうれしそうにいいました。そして思いついたようにつけくわえました。 「そうだ!おれいによいことをおしえてあげる。あそこの物ほし台の下にいってみて。さっき地面がぴかって光っていたよ。きみがさがしている花とはちがうかもしれないけど……」 ハナちゃんは、カタツムリにバイバイして、物ほし台の方にもどってみました。下を向いて、物ほし台のはしからはしまで歩いてさがしてみました。なにもみつかりません。 ぐるっとまわるようにして、もう一かい、おなじところを歩いてみましたが、やっぱりみつかりません。 「うーん、見つからないなぁ……」 こんどは、せんたく物の下をジグザクにくぐりながら歩いてみました。 すると、あっ!しばふのあいだに、なにかきらっと光りました。 ちょうど、パパの茶色いスラックスズボンがさかさまになってほしてある下のあたりです。しばふのあいだからひろってみると、それはぎんいろに光るコインでした。ハナちゃんは、それが百円玉だということをしってしました。 さあ、たいへんです! というのも、このあいだ牛乳と卵のおつかいをたのまれたナミお姉ちゃんが、こんなふうにいっていたのを、おもいだしたからです。 「お金をひろったら、おとなにわたさなきゃいけないんだよ。こどもがかってに自分のものにしてはだめなの」 ハナちゃんは、百円玉を両手でぎゅっとにぎりしめると、おおいそぎで家にもどりました。小さなコインは、まるで日かげにあった小石のようにつめたく重くかんじられました。 家の中では、夕ごはんのしたくがはじまっていて、かつおのおだしのよいかおりがしていました。おねえちゃんは、ピアノのレッスンに出かけています。 ハナちゃんは、さっそく手に持ったコインをママに見せにいきました。 「これお庭でみつけたの。百円玉でしょ。あたし知ってる!」 「あら、きっとパパのズボンのポケットに入っていたのね。気がつかなかったわ。ありがとう」 ママに百円玉をわたすと、ママはおさいふをだしてきて『パチン!』お金を入れました。そして、ハナちゃんにいいました。 「さあ、お金をさわったのだから手をあらっておいで」 「はーい」 ハナちゃんは、せんめん台に行きました。お金をぎゅっとにぎりしめていたので、手はあせでべとべと。水をちょっとだして石けんでぶくぶくとあわをたてて、手をあらいます。そうしてあらいおわった手をタオルで手をふいていると、『ピンポーン!』げんかんのチャイムがなりました。 ママはなにやらインターホンでへんじをしています。そしてじゅわきをおくなりぱたぱた走って、げんかんのドアの方にむかいました。お客さんのようです。とびらをあけたまま、なにやらお話しています。 話は、まず「あら、こんにちは!」ではじまり「まあまあそうですか」となりさいごに「どーもどーもごちそうさまです」とおわりました。 ガチャリ。ドアをしめたママの手にはざるいっぱいのつやつやしたソラマメ。ママはにこにこしながら、ろうかを走ってきたハナちゃんにいいました。 「ハナちゃんのおかげで、おむかいさんからこんなにソラマメもらっちゃった」 「わー、すごい!ハナ、お手つだいする!」 ハナちゃんの目はまんまるでキラキラ光っています。ソラマメのかわむきは、ハナちゃんの大すきなお手つだいなのです。 ソラマメの皮むきはこんなふうにします。まず、ママにほうちょうで切りこみを入れてもらって、カラを『ぱかっ』とあけてます。そして、ふかふかのわたのおふとんの中でねむっている、明るいみどり色の豆をひとつひとつ取りだすのです。 ハナちゃんがお手伝いをしているあいだに、お庭でせんたく物をとりこんでいたお母さんが台所にもどってきました。 手にははさみとあじさいの花をもっています。あじさいの花をガラスの花びんにかざりながら、 「ハナちゃん、さっきおむかいのおばさんがね、ハナちゃんがお庭のさくの下からちゃんとあいさつしてくれたこと、とてもほめていたよ。えらかったね。」 そこでハナちゃんが「あのね、……」と、お庭で花丸の花をさがしていたときのことをはなしました。ふんふんうなづきながら、ママはさいごまで聞いてくれました。そしていいました。 「知っていた?ハナちゃんはさっき、七つもすてきなことをしたのよ。だから、今日はとくべつにママから花丸の花をあげましょう」 ハナちゃんは、大いそぎでがよう紙とクレヨンをもってきました。 まっ白なページをひらくと、ハナちゃんは絵をかきはじめました。 さかさまになったママの水色のサンダル、オレンジ色のボール、ぐるぐるもようのついたカタツムリ、ふわふわの子犬のリリーちゃん。丸くてピカピカのお金は黒でかきました、それから石けんの泡だらけの自分の手、さいごにみどり色のソラマメ。 ママは、その絵の上に赤いペンで「ぐるぐるっ」と、大きな大きな花丸の花を書いてくれました。色は、もちろんナミお姉ちゃんと同じ赤色です。そして花びらの数はもちろん、もちろん七枚でした! ちょうど、ピアノからかえってきたナミお姉ちゃんは、お母さんとハナちゃんからはなしを聞いて、ちょっとうらやましそうな顔をしました。でもにこっとして「よかったね!」と、いってくれました。そしてハナちゃんの大すきな曲を、一曲ひいてくれました。 おしまい |
青山 天音
2012年06月24日(日) 22時19分03秒 公開 ■この作品の著作権は青山 天音さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 青山 天音 評価:0点 ■2012-06-28 01:53 ID:zhM4b1eL.ms | |||||
白星様、こんばんは! 拙い童話を読んでくださりありがとうございました。イラストは恥ずかしながら添付させていただきました。内容の邪魔にならず、よりイメージしやすくなっていれば良いのですが……。 ラストは子供にとってより安心感のある感じにしてみました。でも、確かに少々ありがちで、新鮮さには欠けてしまったかもしれません。 また、次はファンタジーをとのご意見、ありがとうございます。実はちょっとそちらの方向も考えているところです。 また投稿させていただきます。どうぞよろしくお願いします! |
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No.1 白星奏夜 評価:30点 ■2012-06-26 22:05 ID:ZnM0IRCgEXc | |||||
こんばんは、白星です。 拝読させて頂きましたっ。可愛い、お話しでした。ハナちゃんが良いキャラクターでしたね〜。日常の一幕みたいな感じで、こういう童話も良いなぁと感じました。最後は、何となくこうなるんだろうなぁと思った通りに進んだ印象ですが、わかりやすくてそれも一つの手法だな、と思いました。 挿絵、お上手ですね!!とっても可愛い絵です。柔らかいタッチが好印象でした。 温かい一時をありがとうございましたっ。個人的願望ですが、青山 天音様の童話チックなファンタジーもちょっと期待してみたり。いえ、聞き流して下さって結構です(汗 ではではこの辺で、失礼させて頂きます! |
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