愛の生き残り大作戦! |
一級魔術師はモテル! 収入が安定している職業第一位。 部下にほしい人材第一位。 女にモテル職業第一位。 まじゅちゅしと言いそうになる名前の職業第一位。 今、世間では一級魔術師の需要があがっている。 「ということで、魔法を勉強します。もしも 魔術師になれたら結婚してください」 「ごめんなさい。消えてください」 意味もなく謝られてしまった。 目の前にいるポニーテール幼馴染、ミーナは頭を下げる。 なぜ謝ったのかは不明だが、わかることはあった。 「もちろん、魔術師になったら、不可視化の魔法は覚えたい魔法だよ。うん、覚えたいと思ってる」 「……最低」 しまった、これでは女子更衣室を覗くために魔術師になったと思われてしまう。実際に見たいけど。彼がすきなのはミーナだけなのだと伝えなくては。決して他の女に目移りしたりしない。 「勘違いしないでくれ! 僕はミーナだけを見たいから――ぐふぉ」 なぜかカバンをぶつけられた。 「なんでだ、こんなに愛しているのに。ミーナだけを」 「昨日、隣のクラスのマリーに、『ミーナの幼馴染のラキア君に告白されたんだけど、どんな子?』と聞かれたわ。『つきあったら問答無用でパンツを要求されるから断ったほうがいいわよ』って答えておいた」 そうか、昨日マリエンヌちゃんにいきなり消火用のバケツの水をぶっかけられたのはそのためか。 「ミーナ、今は君だけを見ている」 「そういえば、治療魔術担当のエリス先生(24)から、『ラキア君に個人的な頼みがあるんだけど』って恥ずかしそうに言われてたんだけど」 「何っ!? もしかして、それはいわゆる学校では教えてくれない背徳の個人授業というやつか…………なんて思ってないから、ミーナ、どこから取り出したのかわからない鈍器をおろしてくれないか?」 ミーナは素直に鈍器(壷)をおろしてくれた。勢いよくラキアの頭上に。 「こうして、ラキア少年の一級魔術師を目指すという夢ははかなく散ったのであった。ラキア君の大冒険は来世に持ち越しです」 「……あの、エリス先生、なんですか? その嫌なモノローグは」 さすがのラキアでも半眼で訊ねてしまった。 目を覚ますと、巨乳ほほんメガネ巨乳美人、(あ、巨乳二回言いました。ここ、重要なところね)のエリス先生が、自分のデッドエンドのモノローグを語っていたら、それはもちろんツッコムだろう。 とりあえず、ここは保健室でエリス先生が治療してくれたことだけは理解できた。 「あらぁ、起きたの。じゃあ、大冒険、アーユーコンティニュー?」 「大冒険なんてしてないし、そもそもファンタジー世界の設定なんだから格闘ゲームのノリで聞かないでください」 「……? ファンタジー世界の設定?」 「すみません、なんか妙な霊が乗り移りました」 「じゃあ砂糖まいておくわね」 「そこは塩でしょ」 「甘党なのよぉ。練乳とか大好き。でも、前練乳こぼして顔にかかったの。ぬるぬるして……どうしたの? 前かがみになって」 「いえ、思わず想像してしまって、それより、俺に用事って何ですか? 俺にできることならなんでも、個人授業でも個人レッスンでも一対一の訓練でもなんでも」 「あらぁ、勉強熱心なのね」 ふふふと笑うエリス先生は、さらに続ける。 「でも、違うの。私、ラキア君に部活に入ってほしくて。私の部の部員、二人しかいなくて、このままだと廃部になっちゃうのよ」 「へぇ……」 ラキアは一気に興味がなくなった。 確かに部活は出会いの場ではあるが、部員二人しかいないとなると、出会いも限られる。 エリス先生が顧問のうまみと、自由な時間とを天秤にかけると、やはり後者のほうがいい気がする。エリス先生といると生殺し感が半端ないし。 「女の子二人しかいない部だから、今度は男の子がいいかなぁって」 一気に天秤が部活のほうに垂直に傾く。 「ぜひ、見学から始めさせてください!」 エリス先生の言う部室は、保健室の裏にある木製の小屋の中にあった。 そこで、ラキアは運命の再会をする。 「俺は今、運命という言葉を感じている」 「もしそうなら、私の運命は呪われているわ」 なんと「呪」と「祝」とを間違えるとは。ファンタジー世界の設定なのに初歩的な漢字のミスをするかわいらしい彼女、ミーナを見て、ラキアは再び運命を感じていた。 「エリス先生が呼んでると言ったとき、嫌な予感したのよねぇ」 「それにしても、知らなかったよ。ミーナが部活をやってたなんて」 「そりゃ、108の手法であんたに知られないように情報操作したから」 「ははは、冗談ばっかり。108なんてそんなに情報あるわけないじゃないか」 「複製人形を使ったアリバイ作り。簡易転移魔方陣を作って教室と部室への秘密の抜け穴作り。入部届けに偽名。魔法を使える人間がモテルと嘘の情報を流してあんたをこの部に興味持たないようにしたし、もちろん私のことはエリス先生には口止めしてたし、部員にも――」 その後、107までの手法をミーナは語った。それにしても、魔法が使える人間がモテルという情報はミーナが流したのか。 「というわけで、魔王の人間界侵略は無駄だという情報操作で108個よ」 部活に通っている秘密を守るため世界すらも救っているとは、ラキアは彼女の思いに気付いた。 「……ミーナ……きみは……」 ラキアは大きく手を広げて言った。 「俺のためにそこまでしてくれるなんて」 「確かにあんたのためだけど、何かニュアンスが違うんじゃない!?」 「大丈夫、俺はミーナのことだけを考えて、ミーナは俺のことだけを考えていた。つまり両思いだ」 「確かにベクトルは重なり合っているけど、正負は逆でしょ」 「逆ベクトルで正負が逆ならば二つのベクトルは等しいことになるんだよ! さぁ、二人で愛の方程式を解こう! ミーナァァァァ……ぐふぶぉあ」 ラキアがミーナに抱きつこうとした、そのとき……鈍い衝撃と鋭い衝撃が身体を襲う。 一つは明らかにミーナの拳。魔竜すらもその拳で打ち倒す格闘家の家系を直に受け継いでいる彼女の拳の威力は絶大で、意識を手放さないでいられたのが奇跡だ。いや、意識を保っていられる原因は、彼女の拳とは違う鋭い左腕の痛み。 「……ナイフ?」 変わった形のナイフがラキアの左腕にささっていた。 「ナイフじゃないです、クナイです」 その声はどこからともなく聞こえてきた。 「何者だ!? というか、声だけじゃ、体重43キロ、身長147センチ、年齢は13歳、Aカップ、血液型はO型ということくらいしかわからないぞ!」 「なんでそこまでわかるんですかっ!?」 彼女は突如、ラキアとミーナの間に割ってはいるように現れた。 ラキアやミーナと同じ制服を着ているショートヘアの美少女スカートなのにベルトをしており、そこにクナイと呼ばれたナイフを入れるホルスターが装着されている。もう一度いうが、ラキアとミーナの間に割って入ったのは美少女。そう、美少女だ。 もともとラキアとミーナはそれほど離れた位置にいなかった。というか、殴られるくらいだから腕の長さも離れていない。その間に一人の人間が割って入ったとなると…… 「……美女が俺に密着! 美少女が俺に密着! むぉぉぉぉ!」 格闘漫画なみに筋肉が膨れ上がり、服がびりびりに破れる……ような気がした。まぁ、さすがに服は破れない。 「なにするんですか!」 「何してるのよっ!」 二人の美少女からの攻撃をうけラキアは吹っ飛ばされて倒れた。 「お姉さまにくっつかないでください」 「……カエデちゃん、ちょっとくっつきすぎ。ラキアを殴りにくい」 「そんな、お姉さまの手を煩わせることはありません。カエデのクナイで……な!?」 そこで、少女−−カエデの言葉はとまった。ラキアがゆらりと起き上がる。 「……さない」 カエデは思わず生唾を呑む。カエデにとって、ラキアという男はただのナンパ男だった。だが、今は違う。 彼女は感じていた。ラキアの……この男の怒気を。 ラキアは続けてポツリと呟いた。 「……許さない」 「……な、何を許さないというんですかっ!」 戸惑い。怯え。恐怖。様々な思いを抱きながら、カエデは言葉を紡ぎだす。そうすることでしか、彼女の精神は保てなかった。 ラキアの怒気は、彼女をそこまで追い詰めていたから。 そして、ラキアは怒鳴りつけた。 「不純同姓交友なんて、お兄さん許しませんよっ!」 『……は?』 ミーナとカエデが同時に素っ頓狂な声をあげた。 「な、何言ってるのよ、ラキア! 私とカエデはそんな関係じゃないわよっ!」 「そうです! お姉さまとカエデの関係が不純などと、カエデは純粋にお姉さまをお慕い申し上げています」 「え、そうだったのっ!?」 ミーナは多少なりともショックを受けた様子だった。 そして、カエデはラキアを睨みつける。 「だからカエデの全てをかけてこの男を部から追い出します。お姉さまとの愛の巣を守るために」 ラキアが部から追い出したら部員不足になるとエリス先生は言っていたが、カエデも、ラキアにもそんなことを考える余裕はない。 「よし、俺が男の魅力をカエデちゃんに教えてやろうっ! そしてミーナにも惚れ直してもらう」 「一度も惚れたことないけどねっ!」 「お姉さまは誰にも渡しません! 男相手ならなおさらです。お姉さまはカエデだけのものです」 「うん、誰にも渡さないのはいいけど、カエデちゃんのものでもないよ」 『大事な人をかけて勝負だっ!』 「私の話を聞いてる?」 「勝負は明日のこの時間。部の公式ルールで勝負です」 カエデが言い放ち、ラキアがそれに了承した。 こうして、第一回ミーナ争奪戦の火蓋は切って落とされたのであった。 一緒にラキアの意識も落ちていった。 クナイのささった左腕から流れ出る血は、あと僅かで致死量に達しようとしていたから。 「いまから勝負にすればよかったです」 「……はぁ、エリス先生呼んでくるわ」 「来世に蘇ったラキア少年。彼が見たのは魔法が衰退し、科学によって統一された国だった。そんな中、唯一魔法の記憶を持つ彼は、同士に魔法を伝授し、一つの魔法組織を作り出す。次回、魔法美少女エリス 第108話『チャコペンの存在意義』 あなたも魔法覚えてみませんか?」 気付くと、先ほどの保健室に戻っていた。 「……エリス先生、満足しました?」 よくわからない次回予告を言ったエリス先生は優しく微笑む。 「うん、すっきりしたよぉ」 治療はすでに終わっていたらしい。左手に包帯が巻かれているが、痛みはほとんど感じない。 「そうですか。ところで、魔法少女って、先生いま何歳でしたっけ?」 「あら、女性に年齢を聞くときはデッドオアデッドの覚悟があるのかしら_」 「すみませんでしたぁ!」 ラキアは一瞬の怒気に身構えた。 「普通は女性恐怖症になりそうな一日だ。それでも好きです!」 「そんなことより、部活に入ってくれてありがとうね、ラキア君。じゃあ、早速歓迎会の準備でもしようかしら」 エリス先生はラキアの告白を「そんなこと」扱いし、いつもの調子に戻る。 「あ、でもその前にカエデちゃんと勝負することになったんですよ」 「あらぁ、そうなんだぁ。じゃあ、勝負が終わってから歓迎会ね」 「ところで、勝負ってなんですか? そもそも、俺って何の部に入ったのかも知らないんですけど」 「あら、言ってなかったかしら」 そして、エリス先生は大きな胸をさらに張り、宣言した。 「ようこそ! サバゲー研究部へ!」 「まるで深夜アニメの第一話みたいなノリですね」 「ふふふ、深夜アニメは大好きよ」 「確かに、俺も深夜アニメのほうがいろいろ規制が少なくて好きです」 この世界でもアニメは存在する。 「で、サバゲーってなんですか?」 「そうねぇ。ゲーム感覚で行ってる――」 エリス先生はのほほんとした笑みを浮かべて言う。 「殺し合いかしら」 次の日、ラキアの左腕はまだ包帯で固定されていたが、それ以外は良好な一日だった。 サバゲー。サバイバルゲームの略。頭の上に風船をつけ、それが割られたら負け、というゲーム感覚の勝負。 道具は何を使ってもいい。相手を殺したら駄目なので、エリス先生のいう殺し合いというほどのものではない。 ちなみに、勝負の場所は学校の裏山。 「ラキア……気をつけて」 ミーナがラキアに声援を送る。 「ミーナ、来てくれたのか。俺は君に勝利を捧げる」 「いや、負けてもいいけど、気をつけてね。なんというか、カエデちゃん、どじっこなの」 そうなのか、とラキアは考えた。 つまり、ミーナは何かがあったらカエデを助けるようにと言っているのだろう。 「もちろん、手加減はするし、カエデちゃんが怪我をしないように――」 「お願い、死なないで」 「は?」 ただのゲームなのに、聞きなれない台詞が飛び込んできた。 「もしかして、ミーナ、俺をからかってる? いや、俺はもちろん全てにおいてミーナを信じてるから言うよ。死なない! 僕は死にません、あなたが好きだから」 「そんなこといわないで聞いて! 私、カエデちゃんを殺人犯にしたくないの!」 とたん、ラキアの全身から冷や汗が流れ出した。 そんなラキアを笑顔でみていたエリス先生は笑顔で宣言した。 「それじゃあ、ゲーム、はじめましょうか」 「ちょっと待ってぇぇぇっ!」 その願いは聞き届けられなかった。 こうなったら使うしかないか。 この封印された左腕を。 学校の裏山。一時は魔物が出るなどと噂されるほど広く鬱蒼と木々の茂った魔の山。 そんな中、すでに待機しているカエデちゃんを探し出し、頭の上の風船を割ることができるだろうか? そう思いながらラキアは山の中に進む。 もう、学校中に広がる雑音は消え去り、虫や鳥の声が聞こえる。 30分くらい歩いたところで、ラキアは看板を見つけた。 「もしかして、カエデちゃんからの愛のメッセージか」 恐怖心をかきけすようにラキアは独り言をいいながら看板を確認した。そこには赤いペンキで 「命はとても尊いものです」 と書かれていた。明らかに自殺防止のメッセージ。え? この山ってそんなにやばいの? なんて思っていると、次の看板を見つけた。 『クマが出ます。ゴブリンが出ます! UMAが出ます』 ――え、何!? クマやゴブリンはわかるけど、UMAって何!? 「てかゴブリンて三十年前の大乱獲で全滅したよな。じゃあ、生き残りがいるのか? それとUMAって何!?」 確か、生き残りのゴブリンを捕まえたら賞金もらえたような気がするけど。さすがにこれはデマだろう。 よく見たら、看板の下に何か変わった形の棒が落ちていたので、ラキアはそれを拾おうとかがみこんだ、そのときだった。 ラキアの頭のあった位置を何かが通り過ぎ、コツン! と看板に何かが突き刺さる。 それは明らかに鉄製のナイフ、もといクナイだった。 「…………」 ラキアはそのクナイを見た後、棒を持ってすぐに走り出した。 それにあわせて次から次にクナイが飛んできた。ラキアはそれをよけるように逃げていく。こうなったら、封印された左腕を使うしかないか、そう思いながら茂みの中に逃げたときだった。 ラキアは重力の洗礼を受けることになる。 つまり、茂みによって隠された落とし穴に落ちた。 しまった、と気付いたときにはすでに体制を崩し、わずか数十センチの穴に倒れる。 決して閉じ込めるつもりはない、体勢を崩させる目的の落とし穴はその効果を十分に果たしていた。 「…………」 カエデが、昨日と同じ制服でいた。こんなときでも、倒れているからカエデのスカートが見えそうでドキドキしているラキアだったが、彼女の手に握られているクナイを見て死を感じた。 使うしかない。 彼は左腕で自分の顔を守るように突き出した、そのときだった。 カエデのクナイは放たれなかった。 パンっ 破裂音。それは、ラキアの風船が割れた音だった。 「カエデの勝ちです! ちなみに、最後のは含み針です」 うれしそうな笑みを浮かべてカエデは自分の口の中から吹き矢のような道具を取り出す。 「死ぬかと思った」 「え? 殺すわけないじゃないですか。だって、相手を殺したら負けだし」 カエデは純粋な眼で言った。 「木製のクナイなら当たり所が悪くても死にませんよ」 「え? 鉄製でしょ、それ」 ラキアは先ほど拾った棒を地面につけて起き上がりながらクナイを見る。 「そんなことないですよ。カエデ、昨日ちゃんと確認して……あれ? これって……あ、間違えちゃった。そっか、木製のクナイはさっきUMAを倒すときにつかっちゃったんだ」 カエデの顔が青冷めていく。本気でラキアのことを狙っていただけに、あたっていた場合を考えたのだろう。 なるほど、どじっこだ、とラキアは納得した。うん、ぜんぜん萌えない。 「ご、ごめんなさい! カエデはラキアさんのこと殺したいほど嫌いですけど、殺すつもりはなかったんです」 「いや、死んでないし、なんかショックだし、大丈夫、怪我はないから。落とし穴で足をぐねったくらいで。それよりUMAって何?」 ラキアの問いにカエデは答えてくれない。もしかしたらUMAは結構身近にいるのかもしれない、そんなことを考えながら、ラキアは穴を出た。 そこで、ラキアはそれと目が合った。 「カ……カエデちゃん、それは知り合いの方ですか?」 カエデの後ろにいるそれを、ラキアは指差して訊ねた。 「え?」 カエデもそれを見て…… 「い……いえ、カエデにこんな伝説的な友達はいません。ラキアさんの生き別れのお兄さんとかじゃないですか?」 「生き別れとなったら兄さんよりも妹のほうが魅力的なんだけれど」 ラキアは再度それを確認していった。 「ドラゴンに妹はいないかなぁ」 そいつは突如現れた。 金色の鱗のドラゴン。まだ子供らしく身長はラキアと同じ程度しかない。しかし、それでも人間よりは遥かに強い力を持つ。 「てか、伏線回収するのなら看板でフラグたったクマかゴブリンかUMAが出るべきだろ! なんだよ、ドラゴンって。どこで選択肢間違えてドラゴン攻略ルートに入ったんだよ!? で、UMAって何だよっ!?」 「UMAっていうのは、てそんなことより早く逃げないと……」 そうだ、逃げないと。 ラキアはそう思いながら、それは無理だと気付いていた。 「……聞いてくれ、カエデちゃん。ここは俺が引き受ける……というかこの足じゃ逃げられないんだ」 落とし穴で捻った足はまだ回復していない。 「カエデちゃん、今から急いで先生を呼んできてくれ。それまで、なんとか時間を稼ぐから」 「で……でも」 「行けっ!」 ラキアの一喝に、カエデは瞬時に移動する。 それを目で追うドラゴンは、本能か動くものを追おうとする。 そのドラゴンに、ラキアは落ちていた小石を投げつけた。小石はドラゴンの背中に当たり、そのまま地に落ちる。 「こっちだ、ドラゴン!」 ドラゴンがラキアを睨みつけ、ラキアもドラゴンを睨み付けた。 「お前、メスドラゴンか? 百合展開はもういいんだよ! やっぱ女と男のペアが最高だよな! 畜生、カエデちゃんに別れ際のチューくらいしとくんだったよ! てか、俺、いまだに女の子とチューをしたことがないんだ! こんなところで死んでたまるかっ! 責任とれ!」 ラキアは捲くし立てると、それに呼応するようにドラゴンが吠えた。木々が揺れるほどの咆哮にラキアの背筋が震えた。 「大丈夫、戦える」 ラキアは自分に言い聞かせ、棒を強く握る。 こうなったら、封印された左腕を使うしかないと、ラキアは左腕の包帯をほどいた。 「行くぞ! ドラゴン!」 竜の特徴は短い前足、硬い鱗。だが、鱗の下は無防備であり、鱗のない場所を攻撃すればいい。 「そこだぁ!」 ラキアは力の限り左手を口の中に突っ込む。 「ぐっ」 竜の牙が左腕にくいこむが、そのおかげで前足がラキアの身体には届かない。 ラキアの左腕から赤い液体がこぼれていく。 『ぐ……ぐるるぅぅぅぅ』 竜はうめき声をあげて飛びのく。 「ふ、まいったなぁ……本当に死ぬよ……だから助かった」 ラキアは笑うと同時に、巨大な岩が落ちてきて、ドラゴンの頭にぶつかる。 「ふぅ、なんでドラゴン相手に戦ってるのよ。カエデちゃんに殺されてないか心配できたのに」 「ナイスタイミング、ミーナ。相変わらずの怪力。でもそこに痺れるあこがれる!」 「バカいってないで、て、左腕大丈夫なの?」 「大丈夫だよ」 そういうと、岩をくらってさらに怒るドラゴンが大きく口を開いた。 それにあわせて、ラキアは左腕をひっこぬいた。 「行け、俺の封印されし左腕ボム!」 ラキアの投げた左腕は煙を出しながらそのままドラゴンの口の中に吸い込まれていく。 刹那――竜の口の中が爆発した。 「秘技、 そういいながら、ラキアは袖の下から本物の左腕を出す。 最初に左義手からもれたのは液体火薬。そして、本物の左腕で偽手に火をつけ、その火が偽手の中に残った液体火薬と竜の口の中に入った火薬に引火し、大爆発。口の中は鱗で守られていないため大ダメージ。 本当はこの後の歓迎会ように仕込んだのだが、こんな風に役に立つとは仕込んだ本人も思わなかった。 カエデとの戦いでは盾代わりに使えるか? くらいしか思っていなかったが。 「あとで先生にいってドラゴンの処理してもらうか……」 さすがにあれだけの爆発、もう死んでるだろう。 倒れて動かないドラゴンを見て、ラキアはようやく安堵の息をもらした。 カエデとエリス先生がやってきたのはそれから十分後だった。 「無事ですか! お姉さま!」 「ミーナちゃん、大丈夫?」 「うん、私は大丈夫」 女三人が再会を喜び合う。 「えっと、本当に死にそうになったのは俺なんだけど」 「……あぁ、生きてたんですね、ラキアさん」 「ラキア君、もう下校時刻は過ぎてるわよ」 「……もういいですけど……無事だったから。まぁ、これからは同じサバイバル部の一員として……」 そしてラキアは思い出した。 「……そういえば、俺、カエデちゃんに負けたんだった」 死にそうになったり死にそうになったり死にそうになったりで忘れていたけど、今回のカエデとの勝負は入部の是非を賭けた勝負だったことを思い出した。 「別にいいですよ。少なくとも、ラキアさんはカエデのことを助けようとしてくれたんですから、と……特別に入部を認めてあげます」 カエデはそっぽを向きながら言った。 「ラキアさんのことを認めたからじゃなくて、ラキアさんが入部しないと部員足りなくてカエデが困るんですよ」 「ありがとう、カエデちゃん」 それがカエデの精一杯の好意であることを悟ったラキアは、素直にありがとうと言った。 「……そんな、お礼なんていってカエデを油断させようとしてもそうはしません! 怖いです! 怖くて胸がドキドキします! だからまた明日です!」 カエデはそう言い残し、その場を消えるように走り去った。 「……じゃあ、帰るわよ、ラキア。こんなんじゃ歓迎会はできそうにないしね」 そういい、ミーナはラキアの腕を自分の肩にまわさせる。 「ほら、幼馴染のよしみで肩貸してあげるから」 「あ……ありがとう」 ゆっくりと二人は山を下っていった。 そんな彼らを見送りながら、エリス先生は一人首をかしげていた。 「あらら……ドラゴンさんはどこかしら」 山を降りるのに四十分かかり、二人はようやく家路へとついた。 「あぁ、やっぱ俺は駄目だなぁ。ミーナのいうとおり一級魔術師にならないとな」 ラキアはミーナの横で反省点を述べる。少なくとも一級魔術師になれば、ドラゴンを簡単に追い払うことはできるだろうし、カエデにかっこ悪いところを見られることもなかっただろう。 「一級魔術師がモテルってまだ信じてるの?」 「当たり前じゃないか。最初は半信半疑だったけど、ミーナが流した情報だって知って確信に変わった。俺はミーナのことは信じてるから」 「あのね……あれは私が流した情報だけど、本当にただのデタラメよ」 ミーナが嘆息混じりに言うが、ラキアは首をかしげて不思議そうに言う。 「ミーナが嘘のつもりで言ったとしても、それを信じない理由にはならないだろ?」 「はぁ?」 「ミーナが嘘で言ったのも信じるけど、実際、俺が一級魔術師になってモテナイ理由はないだろ? 俺が一級魔術師になったらミーナは俺にメロメロになるね。うん、きっと」 ラキアがいうと、ミーナは再びため息をもらす。 「……あんな無茶して、一級魔術師になるもなにもないでしょ」 「無茶するつもりなんてなかったよ。たまたまドラゴンと出会って」 「カエデちゃんと一緒に戦ったほうが勝率はあがったはずよ」 「……あぁ、それはそうだけど」 ラキアは恥ずかしそうに頬をかきながら、 「だって、カエデちゃんはミーナの友達だから、カエデちゃんになにかあったらミーナが悲しむんじゃないかって思って」 「……はぁ……本当にバカね」 そして、ミーナは誰にも聞こえないように小さく呟く。 (あんたが死んでも少しは悲しむんだけど) 「ん? 何かいった?」 「なんでもない。ほら、早く帰らないと……あら?」 二人が歩く先に、背の低い金色の巻き髪の美少女がたってこちらを見ていた。 そして彼女は二人に近づいてきて、 『………………!』 突如、少女はラキアの唇に自分の唇をおしつけた。 「ダーリン、ファーストキスの味はどうじゃ?」 突如ダーリンと呼ぶ少女。当然ラキアには面識などないのだが…… 「ふぅん、彼女がいたんだ。よかったね、ダーリンさん」 ミーナの目が急激に冷たいものへと変わっていく。 「ちょ、ミーナ、待て、俺は本当にこの子のことは知らないっていうか、こんなに美少女の彼女がいたら俺はもっと幸せオーラでてるだろ」 「かわいいなどと、照れるではないか」 少女は頬を赤めていう。 「我はダーリンとのはじめては忘れていないぞ。我のデリケートな部分がダーリンの長いものによって乱暴にかきまわされて」 「ちょ、待て、なんだそのうれし展開、全然に記憶に……ぶっ」 急にラキアの支えがなくなった……というかミーナがラキアを支えるのをやめたらしい。 「じゃ、私は先に帰るから、ラキアはハニーと一緒に帰ったら?」 ミーナはポニーテールを揺らし、大またで歩き去る。 そして、初対面のはずの二人が残された。 「……えっと、何のつもりだ?」 ラキアは少女に尋ねる。 「ダーリンが言ったではないか。我に、責任をとれと」 「は?」 「我は初めてだった。人間に負けたのは。しかも、あんな攻撃など」 人間に負けた。ということはこの子は人間ではないことになる。 そして、デリケートな部分を長いもの、もしかしたら口に手を突っ込んだ、あの…… 「もしかしてお前……あのドラゴンか?」 「ん? 今頃気付いたのか?」 そういい、少女は右腕を上にあげた。突如、右腕が変形し、短いドラゴンの前足に変わり、すぐに人間のそれへと戻った。 「しまった……まさかのドラゴン攻略ルートにはいってた」 「ふふふ、一緒に素晴らしい巣作りをしような、ダーリン」 少女はそういいラキアの腕に身をゆだねるのだった。 「そうじゃのぉ、まずは一緒にUMA狩りにでも繰り出そう!」 「そんな未来も悪くないなんて思ってる自分を殴りたい! てかUMAってなんだぁ!?」 突如現れた三人目のヒロイン候補の登場によりラキアをめぐる三つ巴の ちなみにわずか三十秒後、ドラゴン少女のラキアの腕をつかむ力が強くなり、痛みで生死の狭間をさまようことになる。 ラキアがとりあえず今日を生き残れたかどうかは、またいつか語ろう。 |
ウィル
2012年05月28日(月) 22時12分42秒 公開 ■この作品の著作権はウィルさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.9 お 評価:20点 ■2012-08-30 21:46 ID:.kbB.DhU4/c | |||||
なんというか、かんというか。いやはや。どうもどうも。どっどっどっどどーですね。うぉう。この作品に面白いとか面白くないとかそういう評価は無粋ってもんですね。あぁもぅ、ぶっとんでけーて感じで。 冒頭辺り「彼がすきなのはミーナだけなのだと伝えなくては。」という一文で読むの止める価値あるよなぁと思ったことは内緒。口に出しては言えません。 まぁ、そんなこんなで、なんというか、かんというか。 |
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No.8 ウィル 評価:0点 ■2012-07-01 23:50 ID:yqFASJqAhJQ | |||||
ゆうすけさん、感想ありがとうございます。 確かに、ノリだけでぐいぐい押すタイプですね。 地の文があと五倍くらいあれば印象が変わったと思うんですけれども。 あと、ここから話はいくらでも広げられそうですねぇ。 UMAは永遠に名前だけ出てくるけど登場しない、幻のキャラとして使えそうですし。 あと、主人公の生き方は理想ですね。 むしろ、ここまでアホだと気持ちいいです。 |
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No.7 ゆうすけ 評価:30点 ■2012-06-30 16:37 ID:dZDA6s9Jnbw | |||||
拝読させていただきました。 ノリと勢いでぐいぐい押すタイプですね。こういうノリは好きですよ。 女の子たちのキャラ、それぞれの立ち位置も明確であって面白いですね。 主人公のバカさ加減、男の本音だけで生きている感じ、青臭くて笑えます。 ただちょっと勢いがありすぎて、付いていけない気もしました。私が老いたのかな〜。どたばたラブコメはまったく門外漢だからかな〜。 ミーナ、カエデ、エリス、ドラゴン娘、多彩なキャラですね。私はエリスが好みかな。 キャラ紹介が終わって、これから本格的に冒険が始まりそうな瞬間に終わってしまったようにも感じました。他の感想と重複しますけどもうちょっと続きがほしかったです。 |
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No.6 ウィル 評価:0点 ■2012-06-20 21:48 ID:yqFASJqAhJQ | |||||
G3さん、感想ありがとうございます。 まぁ、これのモデルはラノベの中のさらに簡単な小説ですね。 でも、ラノベの中には、生徒会の会議室から出ない小説で10冊以上続いていたラノベもありますからこういうのもありかな、なんて思ってます。 確かに間口が広いのが小説のいいところです。 |
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No.5 G3 評価:30点 ■2012-06-18 00:23 ID:v1oYWlDv7GQ | |||||
読ませて頂きました。なんか凄いな、という印象。ハイテンションというか。あまり、というか読んだ事が無い系統です。なんか絵の無いアニメみたいですね。勢いがよくて結構すらすら読めました。いやぁ小説って奥が深いなぁって思いました。しかも間口も広い。。。 | |||||
No.4 ウィル 評価:0点 ■2012-05-31 21:20 ID:/AUSEpJMfiA | |||||
白星奏夜さん、感想ありがとうございます。 ハーレム物は私も天地無用!とか大好きだったりします。 ミーナのデレは私もほしいです! ただ、ミーナは幼馴染属性&クールキャラ カエデは百合&ツンデレキャラ エリス先生は天然&裏ありキャラ ラクフィーはどろデレ&ヤンデレキャラ なんで、デレはカエデとラクフィーに任せようと思います。 私もこのキャラでもっともっと長く書きたいなぁ、なんて思いましたが、ギャグ小説の容量としてはこれ以上長いと読むのが大変になりそうで…… ただ、また機会があれば、今回のキャラの話をまた書きたいなぁ、とか思います。 点数に関しては40点でももらいすぎな気もします。 まだまだ地の文の改良の余地はありそうですし、もっとギャグの練度もあげたいですし。 未熟ですが、またこれからも読んでくださればうれしいです。 |
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No.3 白星奏夜 評価:40点 ■2012-05-31 20:59 ID:2JviV1GxTEQ | |||||
こんばんは、白星です! とても面白かったです。呼吸するようにギャグが出てきて、最後まで楽しんで読むことができましたっ、最高です。ハーレムものは、やっぱり見ていて面白いですね。 あなたも魔法覚えてみませんか? 大冒険、アーユーコンティニュー? とか魔法少女ものと格ゲーものの小ネタが個人的にツボでした。あと、デッドオアデッドも。選択肢一つ?みたいな言葉遊びがとても好きなので。 キャラも良い味を出していて、みんな好みでした。これは50点コースだっ、と思ったのですが、もっと読みたかったなぁと感じたので。あと、これはもう個人的な好みの問題ですが、ミーナのデレる場面がもっと欲しかったので。すみません。 楽しい一時をありがとうございましたっ。ではではっ。 |
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No.2 ウィル 評価:0点 ■2012-05-29 23:57 ID:q.3hdNiiaHQ | |||||
星野田さん、感想ありがとうございます。 はい、設定は投げ捨てました。 学園成分は確かにほしいですね。 生徒会長、新聞部、番長、裏番、生徒指導の先生など出したいキャラは山のように出てきます。 確かに、この話、起承転結ならぬ、起転転転という感じですね。オチもまた転ですね。 地文の視点のぶれは確かに感じます。少し訂正をくわえます。 恋愛小説ですよ。人の真剣な恋ははたから見ていると面白く思えるんですね。 人によって良し悪しの分かれるだろう作品に高評価、本当にありがとうございました。また頑張れそうです。 |
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No.1 星野田 評価:50点 ■2012-05-29 00:31 ID:Sz8RAg5pTfM | |||||
設定は投げ捨てるもの……!! もっと、もっと超展開をもっとだ!!!(ぇ 失礼しました、こんにちは。 女医先生の次回予告ネタはときめくものがありそうですね。それだけでご飯一杯行けそうなw コミカルなファンタジーは好きです。だからもっと学園成分を…!!! とと、真面目な感想も(笑。 一点二転三転四点としていく状況というか、主人公の思考とそれに振り回される周囲が愉快ですね。でも、もっと読んでて「おいお前ドコイクの!どこいっちゃうの!」ってかんじのぶっ飛び方でもいいとおもいます(ぇ)。もっと、もっと弾けるんだもっと!!! 物語のテンポは良いのだけど、地の文でちょっとつっかかるような文章や、視点にブレのある部分があるような気がして、読んでいて引っかかったのは勿体無いかなと思いました。 しかし超展開・・・大好物なのでもっとやってください!! あと、………恋愛小説?(笑 |
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総レス数 9 合計 170点 |
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