伝説の剣 その価値は |
「美香ちゃん! 売ってたのよ、エクスカリバーが!!」 唐突に始まる会話。 最初にいっておくのは、ここは紛れもない日本であり、ファンタジー小説のワンシーンなどではないということ。 そして、意味のわからないことを興奮して話している人も、それを冷静に聞いている私も純粋な日本の女子高生だということ。 「そっかぁ、春だもんね」 「そう、エクスカリバーも芽を出す季節だよ」 「伝説の剣ってつくしか何かを先祖に持っているのかな?」 制服を着た女子高生の会話としてはシュールすぎる内容が繰り広げられていく。 絵梨はいつもこうだった。 ある日は、伝説の魔法を習得したと言い出したり、ある日は伝説の魔獣を倒すために力を貸してほしいと言い出したり、またある日は伝説の財宝の地図を見つけたから力を貸してほしいと言い出したり。 つまりは彼女の周りだけ伝説が文字通り"伝"わってきていた。残念なことに私に正しい"説"明は与えられないが。 だから、まぁエクスカリバーがどうのこうのという話もいつもの範疇であり、私は適当に話を合わせることにした。 「で、どこい売ってたの? そのエクスカリバーは」 「ふふふ、聞いて驚け見て驚け!」 「店の名前言われても多分知らないと思うから驚けないけどね」 「ヤフ○クで売ってたの!」 「ショボっ!」 驚いてしまった。 「えっと、ツッコミ間違いじゃないの? え、ヤフオクでまさか伝説の剣が!? とかそういうリアクション期待したのに」 「偽者に決まってる。ヤ○オクで売ってるって、どんな伝説よ!」 「えー、でも落札即決価格三十円(送料落札者持ち)のお買い得品だったからついつい」 「安っ、つくしより安いんじゃないの?」 「で、これがその伝説の剣、エクスカリバーです!」 彼女はエクスカリバーを鞘から取り出した。 訂正。 彼女はアイスの棒を取り出した。 「……珍しいわね」 そのアイスの棒には"あたり もう一本"と書かれている。 「三十円だと安いけど、送料(たぶん八十円)を含めたら大損ね」 『失礼な! 我の価値をなんだと思っている』 その声は突如現れた。 『驚いて声もでないか。そう、我こそはエクスカリバー』 「ね、本人もこういっているんだから間違いないよ」 「……ねぇ、絵梨。アイス食べたくない? 今日は暖かいし」 「うん、食べる食べる! あ、でもお金あんまりないよ?」 「大丈夫、ここに当たり棒があるからこれで交換しよ」 「わぁい!」 『こら待てい、小娘!』 アイスの棒がすかさず待ったをかける。 『我をなんだと思っている。そう、我こそはエクスカリバー』 「少なくとも木刀として生まれ変わって出直して来い、六十円!」 『しくしく、我も本当はこのような姿になど生まれ変わりたくもなかった。ただ、我が生まれ変わる時に強く願ってしまった。今度は喋れる剣になりたい。そしてさらに誰もが求める剣になりたいと。その結果が−−』 「おぉ、コンビニが冷房に切り替わってるよ、美香ちゃん」 「本当だ、あぁ気持ちいいわぁ」 『いつの間に我を交換する店に入っておる!』 コンビニの店員さんが突然アイス棒が喋りだしたのを見てびっくりしていた。人生経験もとい不幸成分が足りないみたいだ。 「絵梨、はい」 「うん。すみませぇん、交換してくださぁい!」 『待たんかい、小娘ども! 我をたかが氷菓子と交換する気かっ!』 「すみません、アイスの当たり棒は買った店で交換してください」 ※注意 コンビニの店員さんはいちいちそんなことを言わずに交換してくれることが多いです。この場合喋るアイス棒が気持ち悪いので交換を拒否したことを察してください。 「このアイス棒、六十円の価値もないじゃん」 『……我も泣きたくなってきた』 「まぁまぁ、エクスカリバーさん、アイスでも食べてくださいよ。美香ちゃんがおごってくれたんです」 『いや、我には口がないし』 口がないのにしゃべるなよ、アイス棒が。 「で、話を戻すけどいい?」 『ふむ、いいぞ』 「なんか、つくしの佃煮食べたくなってきた」 『そんなところに戻すな!』 そうはいうが、私は正直飽きていた。 今、自分が登校中なのか下校中なのかということも忘れている。あ、そういえば今日は日曜日だった。なんで制服着て絵梨と一緒にいたんだろ? 「そっか、これは夢だ」 『我も夢だと願いたい』 「そうだよ、エクスカリバークン。これは夢なのだ。だから寝なさい。起きたころには魔王との戦いが待っている」 『そうだ。これは夢なのだ。ならば私は寝よう! 剣に戻ったら起こしてくれたまえ』 そういうや否や、エクスカリバーは静かに吐息をだして眠りだす。あ、息は吐いていないけどそんな雰囲気だった。 「よし、絵梨。アイスもう一本買おう!」 「うん!」 こうして世界は今日も平和だった。 美香はつくしの佃煮を作って食べたら、とてもおいしかった。 絵梨は美香に買ってもらったアイスを冷凍庫に入れた。 そして、次の日。ちなみに、今日は創立記念日なのでお休み。 「聞いて、昨日買ったアイスなんだけどさぁ」 「どうしたの? 食べ過ぎておなかを壊した」 「当たりだったの!」 「へぇ、よかったじゃん」 「うん」 絵梨はそういい、アイスの棒を取り出した。 昨日と同じ、アイスの当たり棒がそこにある。ただ唯一違うのは、エクスカリバーと名乗らないことだろうか。 『私は聖剣デュランダルと申します。お初にお目にかかります』 エクスカリバーにしろデュランダルにしろ、アイスの棒に生まれ変わったら日本語を習得する機能でもついているのだろうか? 疑問は山ほどあるが、 「絵梨。昨日つくしの佃煮作りすぎたから、あとで持っていくわね」 「うん!」 結局のところ、今日も世界は平和だということだ。伝説の剣を必要としない程度には。 「核やミサイル撃たれたら剣とかアイス棒なんてなんの役にも立たないもんね」 絵梨は的を射たことをいいながら、交換したばかりのアイスを食べた。 「残念、はずれだ」 『よくぞこの妖刀村雨の封印を解い−−』 「ゴミはゴミ箱に」 美香の投げたアイスのはずれ棒は見事な放物線を描いて公園のゴミ箱に中に入っていった。 |
ウィル
2012年04月18日(水) 22時31分27秒 公開 ■この作品の著作権はウィルさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.6 弥生灯火 評価:30点 ■2013-10-25 00:43 ID:dPOM8su8lqs | |||||
とても楽しいお話でした。 ファンタジーの勇者に負けないぐらい、美香と絵梨がたくましいです。 逆に聖剣が情けない(笑 |
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No.5 ウィル 評価:0点 ■2012-07-17 23:25 ID:q.3hdNiiaHQ | |||||
マサチューサさん、感想ありがとうございます。 核ミサイルには通用しない、という記述ですが、皮肉は皮肉でも、最近のファンタジーでは核ミサイルでさえも無意味になる的なものが多いので、そっちに対しての皮肉ですかね。 たとえば、フルメタルパニックのラムダドライブの説明にも核ミサイルでさえもうんたらかんたら、 とある魔術の禁書目録の最強の超能力者、一方通行も核でも通用しない、と、核よりも強いファンタジー要素が出てきてるので、それに対抗しました。 ありがとうございます、これからもがんばります。 |
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No.4 マサチューサ 評価:30点 ■2012-07-12 23:30 ID:oCtkFZvppYg | |||||
こんばんは、お初です。 無駄な部分が無いのでテンポよく読めました。発想がなかなか面白いですね。聖剣も核ミサイル相手には意味が無い、と断じる落ちは、ファンタジー好きに取っては皮肉がきいており、「それ言い切っちゃう?」と苦笑を禁じえませんでした。 面白かったです。これからもがんばってください。 |
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No.3 ウィル 評価:0点 ■2012-04-25 16:58 ID:2iCmRa3FHEo | |||||
山本鈴音様 感想ありがとうございます。 確かに意外な展開は少ないですね。なんらかの対策をして、今書いている長編とは別の短編を近いうちに書こうと思います。 青山天音様 感想ありがとうございます。 話が噛み合っていないというより、話を完全に流している感じですね。 あと、本当におもいつきで書いた話なので、確かにあっという間だった感がありますね。長い冒険譚は書いているんですが、まだまだ終わりそうにありません(泣) 近いうちに、この話のなんちゃって続編的な形の話を書いてみようと思います。 |
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No.2 青山 天音 評価:30点 ■2012-04-25 12:22 ID:.qW7n.wim8Y | |||||
ウィル様 読ませていただきました。この2人組の会話面白いですね。 それから、設定がユニークでいいですね。伝説の剣が生まれ変わったり、それがアイスの当たり棒だったり。 会話のテンポはもうすこし良くなるような気がしますが、主人公とアイスの棒の会話が終始噛み合ない感じが面白く読ませていただきました。 ただ、すこしもったいないような気がします。せっかく始まった物語がマッチポンプであっという間に終わってしまった印象があります。 ウィルさんのテイストによる「冒険潭」、もうすこし続きを読んでみたい気がします。 勝手な事を書いてしまいすみません。よろしくお願いします。 |
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No.1 山本鈴音 評価:40点 ■2012-04-24 23:24 ID:xTynl89qwNE | |||||
拝見させていただきました。とにかく楽しくて笑いました! キャラがとんがってて良いですね。アイスの棒たちが情けなさ全開で、文字通り、良い味出してます。 一つ気になったのが、「意外な展開」が少ないという点。 何か一個、ドカンと驚く出来事が起こると面白いかもしれません。 設定は十分、意外だらけですが(笑) 実を言いますと、私自身が似た設定の話を別のサイトで連載し初めており、どんな展開か興味があって読みました。 主人公たちはクールで剣(?)に非情なツッコミをかまし、まさに現代の申し子という印象を受けます。とても若手読者にウケそうな設定ですし。 こうしたユーモアのセンスは羨ましいですし、とても真似できませんが参考にさせていただきたいです。 何らかのクライマックス・どんでん返しがあれば、傑作になるかと思います。 もう一ひねり作りこんだものを読んでみたい……でも中編にする話じゃないですし、難しい所ですね。 ラストだけ違うオチにして書き直しても、また新たな魅力が出てくるのではないでしょうか? |
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総レス数 6 合計 130点 |
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