ちいちゃんと風船
 今日はとってもいい天気。ちいちゃんは、パパとママとお姉ちゃんとお買い物に出かけました。お店は大安売りのまっさいちゅう。人・人・人!人でいっぱいです。ママはお店のチラシとにらめっこしながら、パパとなにやら相談しています。お姉ちゃんはそのとなりをきょろきょろあたりを見まわしながらなんだか楽しそう。
 でもちいちゃんはひとり退屈して手を頭のうしろに組みながらみんなのあとを歩いていました。
「つまんないの。はやく公園に行って遊びたいなぁ。」
 つぶやいてふと横をみると、通路の向こうがわをシャボン玉がふわふわと通りすぎてゆきます。ちいちゃんは思わず引き寄せられるようにシャボン玉にむかって歩いてゆきました。それはどうやらお店の外からただよってくるようでした。
 お店の外の入り口のところでエプロンを付けた売り子さんがシャボン玉を「ふぅーーっ」と吹いていました。よこにはあか、あお、きいろ、みどり……色とりどりの風船が風に吹かれてゆれています。ここは新発売の洗剤を売っている会場。お店の人がシャボン玉で人を集めて買ってくれたお客さんに風船を配っているのです。
 ちいちゃんは風船がほしくなりました。そこでいつも幼稚園の先生にいわれているように大きな声でいいました。
「風船一つくださいな!」
 売り子さんはにっこりわらっていいました。
「大人の人といっしょにおいで、洗剤を買ってくれたらあげようね。」
「うん、ちいちゃん呼んでくる。ママ!パパ!……。」
そのときやっとちいちゃんは気がつきました。パパもママもお姉ちゃんもそこにいなくて、一人きりになっていたことに。ちいちゃんは迷子になってしまったのです。

「どうしよう…。」
 ちいちゃんはこまって、ふわふわ浮いている赤い風船をみあげました。風船には洗剤についているのとおなじかわいいウサギさんの絵。ちいちゃんがみていると、なんと赤い風船のウサギさんが話しかけてきました。
「こんにちは!」
 ちいちゃんはびっくりしました。
「ウサギさん、どうしてちいちゃんとおしゃべりできるの!?」
「うーん、なんでかなぁ。でもそんなことより今仲間うちで話していたんだけど、ぼくたちを結んでいるおもりがとってもじゃまなんだ。ちょっと外してくれないかい?」
 ちいちゃんは辺りをみまわしました。あたりはわいわいがやがや人であふれかえっています。だれひとりちいちゃんのことを気にしていません。売り子さんもいそがしそうにほかのお客さんと話しています。ちいちゃんはウサギさんにこっそりいいました。
「うん、いいよ!」
 そして風船たちを結びつけているおもりから糸を外してあげました。
 すると…あれれ?
 風船たちはたがいに結ばれたままゆらゆらふわふわ浮かびあがってゆきます。ちいちゃんは思わずその糸の束を両手でつかみました。
 でも風船たちを止めることができません。ちいちゃんの足が地面からはなれ、風船たちの糸の束にぶら下がっていっしょに浮かびあがってしまいました。
 ウサギさんの風船は空にむかってうれしそうにさけびました。
「やった!ぼくたち自由になれたんだ!」
「風よかぜ、ふぅーっと吹いてぼくらを遠くへ飛ばしておくれ!つながれているのはうんざりだ!」
 お店の人がお客さんにいわれてふりかえり、ふわふわ浮かんでいるちいちゃんと風船を見てシャボン玉のストローと石けんの入ったいれものを落としてしまいました。
 ばしゃーん!
 シャボン玉の水がこぼれて、床はびしゃびしゃのつるつるになってしまいました。みんなはどうにかしてちいちゃんを止めようとしましたが、つるっ!とすべってすてーん!とひっくり返ってしまいました。あたりはおおさわぎ。お客さんたちは、しりもちをつきながらくちぐちにさけびました。
「おじょうちゃん、はやく手をはなすんだ!」
「だめだ、落ちないようにしっかりつかまっていなさい!」
「だれか家族の人はいませんかぁ!」

 外のさわぎにまっ先に気がついたのはお姉ちゃんでした。お姉ちゃんはちいちゃんに「なんだかさわがしいね。」と、いおうとしてそのちいちゃんがいないことに気がついたのです。パパとママに知らせると、三人は大あわてで手分けしてあちこち探しまわりました。
 とうとうお姉ちゃんがお店の外の売り場でちいちゃんを見つけてびっくり。なんと、ちいちゃんが風船の糸の束にぶら下がって木の枝の辺りでふわふわ浮かんでいるのです。
「ちいちゃん、あぶないよ!おりていらっしゃい!」
 お姉ちゃんが大きな声でさけぶと、ちいちゃんも大きな声で答えました。
「どうやったらおりられるの?わかんないよ!」
 お姉ちゃんは床で転んでいる人たちをよけながらちいちゃんの下までいくと、ぴょんぴょんとびあがって足をつかもうとしました。でもあとちょっとのことろで届きません。
「ママ!パパ!みんな!ちいちゃんが飛んでいっちゃう!つかまえて!」
 お姉ちゃんはさけびながら大急ぎでお店の中にもどると入り口にある吹き抜けの大きな階段をかけ上がって行きました。そして二階の大窓から「えいやっ!」とジャンプしてちいちゃんにしっかり抱きつきました。そのままぎゅーっとちいちゃんを抱きかかえ風船の糸の束をしっかりつかみました。
 でも風船たちを止めることはできません。お姉ちゃんもちいちゃんと一緒に空に向かってどんどん上がってゆきます。
 風船たちはおおよろこび。ウサギさんの風船がさけんでいます。
「風よかぜ、どんどん吹いてぼくらを遠くへ飛ばしておくれ!つながれているのはうんざりだ!」
 
 ママが追いついて屋上までかけ上がってゆきました。手に握りしめたチラシはくしゃくしゃです。そしてちいちゃんとお姉ちゃんにむかってさけびました。
「お姉ちゃん、ちいちゃんをぎゅっとだっこしていてね!今ママが二人ともつかまえてあげるから。」
 ママは屋上のはしから身をのりだしてちいちゃんたちが上がってくるのを待ちかまえ、
「えいやっ!」と
ジャンプして二人に飛びつきました。そのままぎゅーっと抱きかかえ糸の束をしっかりつかみました。
 でも風船たちを止めることはできません。ママもちいちゃんとお姉ちゃんと一緒に空に向かってずんずん上がってゆきます。
 風船たちはますますとくいになってくちぐちにさけびました。
「風よかぜ、もっともっと吹いてボクらを遠くへ飛ばしておくれ!つながれているのはうんざりだ!」
 三人は風船たちに負けないようにさけびました。
「パパ!助けてーー!」

 パパは携帯電話で消防車を呼んできました。さわぎに集まってきた人混みをかきわけて消防隊の人と話し合い、今やお店の屋上よりはるか上を飛んでいる風船たちと、そこにぶら下がっている三人めざして消防車のはしごをのばすことにしました。みんながパパを応援しています。パパはみんなの応援に負けないようにどなりました。
「ちいちゃん、お姉ちゃん 、ママ、 おそくなってごめん!パパがすぐにみんなを助けるからな!」
 消防車のハシゴはぐーん!とのびて、ちいちゃんたちにすぐに追いつきました。そしてパパは、はしご車のゴンドラから風船の束の上に、
「えいやっ!」と
飛び乗りました。すると、
「こりゃたまらない!」
 風船たちは上に飛び乗ったお父さんにびっくりしてふらふら、よろよろよろ……ゆっくり下におりてきました。無事地面におりたところで、ちいちゃんとお姉ちゃんとママとパパはしっかりと抱きあいました。
 風船たちはお店の人たちにひっぱられて、しぶしぶともとの売場に戻されました。こんどは勝手に飛んでゆかないよう、前よりもっと重いおもりに結びなおされました。
「消防士さんありがとう。みなさん応援ありがとう。」
 四人はみんなにお礼をいって、消防車が帰ってゆくのを見送りました。
 それからお店の人にあやまって洗剤を一つ買いました。お店の人はちいちゃんに風船を一つくれました。「すきなのをどれでもえらんでいいよ。」といわれて、ちいちゃんは初めに話しかけてきたあのウサギさんの絵のついた赤い風船をもらうことにしました。
 そしてウサギさんにこっそり言いました。
「お空のさんぽ、たのしかったよ!ちょっとびっくりしちゃったけど。」
 けれど、ウサギさんは今度はもうなにも答えず、風船はおとなしくちいちゃんに引かれて一緒に家に帰りました。

青山 天音
2012年04月13日(金) 11時54分39秒 公開
■この作品の著作権は青山 天音さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
2作目の投稿になります。短い童話です。
拙い物ですが読んでいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。

追記(2012年4月14日)
物語の最後の部分を一部加筆修正しました。
どうぞよろしくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.10  青山天音  評価:0点  ■2012-06-24 22:28  ID:i1YITvLeLvw
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さかさき様
感想ありがとうございます!お返事遅くなり、すみません。
幻想の世界から現実に戻ってくる辺り、読み取ってくださりとてもうれしいです。また新しい作品をださせていただきましたので読んで頂けたらうれしいです。どうぞよろしくお願いします!
No.9  青山天音  評価:0点  ■2012-06-24 22:27  ID:i1YITvLeLvw
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G3様
感想ありがとうございます!お返事が遅くなり、すみません。
私のお話から想像を膨らませてくださってとてもうれしいです。
ウサギの絵が変化したらさらに物語にふくらみがでたかもしれないですね!今後の参考にさせていただきます。アドバイスありがとうございました。
No.8  さかさき  評価:40点  ■2012-06-14 19:00  ID:PYzYlhHjl7Y
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読みました。

可愛いお話ですね。ちいちゃんがふわふわ浮いて行く情景が読み取れる。絵が付いたら子供が喜びそうな話だと思いました。ちょっと現実っぽくない幻想的な雰囲気と最後は現実に戻って行く感じがいい味を出しているので私は今のラストが好きですよ。

次作を楽しみにしています。
No.7  G3  評価:30点  ■2012-06-13 23:11  ID:v1oYWlDv7GQ
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読ませて頂きました。意外と童話好きなG3です。
一度掴んだ自由はちょっと暗いの重みでは奪えないって感じでしょうか。これは一体どこまで飛ばせるのかと思いましたが、落ち着くところで落ち着けて善かったです。個人的には空中での気持ちよさとかがあるといいなぁ、とか思いました。それとうさぎの絵がちょっと変化してるとか。勝手な事を書きましたが面白かったです。
No.6  青山 天音  評価:--点  ■2012-04-26 23:20  ID:.qW7n.wim8Y
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ウィル 様
感想ありがとうございました。
子供に読み聞かせた時にイメージが浮かぶように、と思い書かせていただきましたので、「絵本の様な」という感想を頂とてもうれしく思います。
また投稿させていただこうと思いますので、その時はよろしくお願いしますお願いします。
No.5  ウィル  評価:30点  ■2012-04-25 17:12  ID:2iCmRa3FHEo
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拝読いたしまいた
とても温かいお話ですね。

小説や童話と言うよりは、絵本を読んでいるような感じで楽しめました。
風船をつかんでお空のお散歩って、子供のころは憧れますよね。
でも、実際はやっぱり怖いですよね。
あと、お父さんにのられて降参した風船がかわいかったです。

また読ませていただきますね。
No.4  青山 天音  評価:--点  ■2012-04-20 09:44  ID:.qW7n.wim8Y
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るふぁろめお 様
感想ありがとうございました。お返事が遅くなりごめんなさい。
子供に読聞かせてくださったとの事!とてもうれしく思います。
お子さんは最後まで飽きずにお話を楽しんでくださったのでしょうか。
もしお子さんの感想等ありましたらお聞かせくださったらうれしいです。
イラストに関しては前作の時もご指摘戴き、考えているところです。
ただ、挿絵を付けてしまうと却って作品の印象が固定してしまわないか、
文字の方が読まれた方やお子さんが言葉から自由に想像できるのではないかと思ったりもしています。
もしなにか適切なイラストを用意できたらぜひ付け加えさせていただこうと思います。
No.3  るふぁろめお  評価:30点  ■2012-04-17 19:24  ID:1r.s3JIvg16
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青山 天音 様。
読ませていただきました。ほんわかとした雰囲気がとても良いですね。早速子供にも読み聞かせました。
お話だけでも十分情景が浮かんできますが、他の方も書いていらっしゃいますが、できることならば挿絵があれば、もっと青山さんの描いているイメージがハッキリしてくるのかな、と思います。
他の作品も読んでみたいと思います。楽しみにしています。
No.2  青山 天音  評価:--点  ■2012-04-14 00:31  ID:.qW7n.wim8Y
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白星奏夜さま。
早速感想くださりありがとうございます。白星様、図星です!
投稿した後で、「物語の最後の部分にウサギさんとちいちゃんの間に何らかの対話が必要なんじゃないか?」と思っていたところなので。
自分で言うのもなんですが、今の状態だとやっぱり一文足りないように思います。付けたす形になってしまうかと思いますが、思いきって投稿に手を入れて出し直すべきか悩んでいるところです。
挿絵に付いても、適切なイラストがあれば追加したいところですが……。
いろいろ中途半端な形で出してしまって恥ずかしいです。
読んでいただき、また的確なアドバイスありがとうございました。
どうぞよろしくお願いします。
No.1  白星奏夜  評価:30点  ■2012-04-13 12:35  ID:jbn/42uK6l6
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こんにちは、白星です。
気づいたら、すでに新作が出ていたので(笑) 可愛い雰囲気を生み出されるのはとてもうまい、ですね。この作品も、可愛らしい絵と一緒に読みたいと思いました。
最後、話しかけてきたウサギさんを連れて帰るのに微笑んでしまいました。

余計な一言とは思うのですが、一応、思ったことを述べさせて下さい。最後、話しかけてきたウサギさんを連れ帰るなら、一言、ウサギさんのセリフがあっても良かったかなぁなんて思います。「君で良かった」とウサギさんが呟いて、ちいちゃんが笑う、そんな感じでも面白かったような気がします。いえ、私の好みの問題なので、あまり気になさらずに〜。

童話の雰囲気がよく出ていて、温かい作品でした。また、読ませて下さい。失礼致します!!
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