猫なべ人なべ
猫なべ人なべ

 時は今、ある片田舎に鬼猫の旅籠がありました。
 女将さんの銀千代はしゃかりきはたらき、毎日を忙しく暮らしていました。
 それというのは銀千代のふたりの子どもを養うためでした。
 兄の金司(きんじ)と妹の玉城(たまき)は母を慕い、よく働きますが何分ちいさい。
 ある日、銀千代は働きすぎて病に伏せてしまいます。
 ふたりは看病をしてやりますが、治る兆しもなく、医者は先が長くないと告げました。
「なにかできることはない?」
 そう銀千代に尋ねると、はじめは何もないと遠慮して、最後にようやく願いをいいます。
「そいじゃあ、人間が食べたいよ」
 こうして、兄と妹は人間を狩って母へ食べさせるために人里へと出かけてゆきました。

 道すがら、車の通りの少ない山の国道をふたりは行く。
 とぼとぼ、とぼとぼ。車に引かれてぺしゃんこにならないよう気をつけて道脇を往きます。
 金司は赤茶に白っぱら、玉城は黒に白っぱら、腹黒さに欠ける二匹のこと。ましてや、鬼猫という野良猫とは一線画する種であっても、その甘さときたらお子様なみ。
 近所の農家はしっかり戸締りをしてたり、鬼猫のことを知ってて魔除けを張ってたり。忍び込むこともできず、仕方なくもうすこし町へと降りることになりました。
「にーにゃ、にーにゃ」
「なんだい、たまき」
「にーにゃ、人間っておいしいの?」
「僕は食べたことないよ。けど、ごちそうなんだってさ。年寄りはちょっぴりしぶいけど、若いのや小さいのはおいしいらしいよ。首の“カマ”と耳のたぶが通好みなんだって」
 とことこ歩く兄猫、妹猫。
 時おりヘッドライトに照らされて、闇の中に四つの目が爛々とかがやく。
「にーにゃ、人間を食べるたってどうやって食べるの?」
「すきやきだよ。人の油を引いた鍋に甘い醤油と砂糖と出汁で、野菜もキノコも入れる」
「ネギはー?」
「それは母さん死んじゃう」
「にへっ、じょーだんじょーだん」
 ころころと玉城は笑う。金司は尻尾をしなだれさせた。
「三日だけだよ、今日はダメだった。三日目の朝には元きた道を辿って、母さんのところへ帰る。明日が勝負だ。適当なところで宿を探そう」
「宿屋さんなのに、余所の宿には泊まったことなかったもんね。たのしみ、たのしみ」
「僕ら鬼猫は野良猫とは違うからね、しっかり宿で寝泊りしなきゃ。文化的にさ」
「野宿はなんでいけないの?」
「うーん、それはねえ」
 金司はちらりとヘッドライトに映し出された死骸を見やった。
 ぺったりと平たくのされた野良猫だ。
「僕らはああいうのと一緒じゃないよ、てことさ」
 言うや否や、そいつはより“ぺちゃねこ”になった。

 猫の旅籠に泊まった二匹は、ずいぶん主人によくしてもらった。
「銀千代の女将さんには昔、世話んなったからねぇ。親孝行の良い子らじゃないか。そいや、人間っていやぁ最近ちょれえのが居てね。ちょいとまちな、地図と弁当を持たせたげるよ」
 主人の地図とメモを頼りに、金司と玉城は人里の町へとまぎれこんだ。
 猫の子一匹やってこようと、片田舎だというのに人里はだだっ広い。
 この町は漁港で、潮の薫り、海の眺め、船の白、港の灰、色々様になっていた。
「にーにゃ、にーにゃ」
「なんだい、たまき」
「お魚いっぱいあるのかな」
「やだよ生臭い。昔は貧乏臭くて魚ばっか釣れて肉は無かったもんだから、しょうがなく人も猫も魚を食べてたんじゃないか。骨だってめんどーだ」
「にーにゃは現代っこでやせんぼだってかーちゃ言ってた」
 金司は耳をへにゃりとさせた。
「よく考えれば分かるだろう? 僕やたまきに水かきはあるかい? およぎは得意かい? 断然、僕らは肉を食べる生き物であるべきさ」
「にーにゃは好き嫌いが多いけど、たまきはなんでも食べるよ」
「よろこんでネギを食うのはたまきくらいさ」
「にへっ」
 ころころと玉城は笑う。
「さて、このボロ屋か」
 やってきたのは古ぼけた一軒家。なんでも、ここの家は両親がいつも働きに出ていて、ちっこいのが一人で過ごしてるらしい。しかも家がボロっちい。するてーと、人間狩りをするにはうってつけというわけだ。
 金司と玉城はひょいと身軽にベランダに跳び昇って、中を伺う。
「ああ、いたいた」
「ちっこいね、にーにゃ」
「そうかい? こどもにしては大きいし、おとなにしては小さい。中くらいだ」
「かわいい服してる。たまきと同じ女の子だね」
「知ってるぞ、こういう服を着てるのは学生っていうんだ。中くらいの学生だね」
「がくせーちゅうだー」
「なにかちがうよ、たまき」
 たまきはけろけろと笑う。
「ね、この子でどうかな。かわいいってことはおいしいってことだよね」
「それに元気で美味しいそうだ」
「わかるの?」
「言ってみただけ。たまきは?」
「わからないことがわかるよ」
 ベランダの窓を開けてみようとするが、残念なことに鍵が掛かって開かない。鬼猫というのは器用で、箸でごはんを食べるなんて朝飯前。というより朝飯くらい人間の道具を使いこなして、まだ子どもで小さいながらも綺麗にちゃんと焼き魚とごはん(ぬるい)と味噌汁(ぬるい)も作れる。ただ、閉じてる窓を開けるのは困りものだ。
「どうする? ぶち割る?」
「音を立てちゃまずい。あいつに開けさせよう」
「にーにゃ、どうやって?」
「簡単さ。それっ」
 ヒゲをひと撫でする。金司が不思議な鬼術を使う時のお決まりだ。
 すると風が拭き、ぴゅいと洗濯物が飛んでった。ひらひらして、二つのお山がある白い服だ。
「あーっ! 私のブラがっ!」
 飛び出してきたがくせーちゅうを、二匹は足を引っ張ってつっこけさせた。
 ガンッ。
 見事、がくせーちゅうはベランダに頭を打ちつけ、勝手に気を失ってしまった。
「やったね、にーにゃ! 人間狩り大成功!」
「こんなに取り乱すなんて。アレはそんなに大事なものだったのかな」
「たまき知ってるよ。かーちゃ言ってた。だってアレ、おっぱいを隠すものだもん」
 金司は妹の意外な言葉に、全身の毛がぞわりと逆立った。
 玉城は二本足で立つと、もこもこ白い毛に覆われたおなかを隠すように手と尾で抱きしめた。
「いやん、にーにゃのえっちぃ」
 しゅぱっ。
 金司のねこパンチは今日も冴えていた。

 思うよりも早く帰路につくことができ、人間狩りは首尾よく終わることができた。
 二日目の夕方には峠を超え、夜も更けきる前には家に帰りつくだろう。
「にーにゃ、ひどい。たまきのことぶったぁ〜!」
「まだ言うか。からかうお前が悪い」
「だってだって、たまきはにーにゃのこと大好きだもん」
「どのくらい?」
「そーだねー」
 ぶおんと轟音を鳴らして、大きな鉄の箱車が二匹のそばを横切ってゆく。
「あれくらい大好き」
「わぁ、愛が重い。そりゃ尻に敷かれたくないね」
 あんな大きな玉城の“大好き”がぶつかってきたら、金司はぺしゃ猫だ。
「とにかく僕は実の妹のたまきとは結婚したりしないよ」
「じゃあ、たまきはにーにゃの妹やーめた」
「そ。じゃあ僕らは他人だね」
 てくてくと金司は冷たげに先を行く。あっと声をあげ、たまきは慌てて後を追った。
「やぁ〜! やっぱりたまき、にーにゃの妹がいい!」
「こいつめ〜」
 すりすりと愛しげに頬ヒゲをすり合わせてくる玉城に、金司はまんざらでもなさげだ。
「あのー……、美しき背徳の兄妹愛の最中に申し訳ないんですけど」
 声に振り返ると、そこには白縄を手首、足首に巻かれてるがくせーちゅうの人間(メス)が後ろをついてきている。鬼術で手足を操り、無理やり歩かせてるのだ。
「なぁに、がくせーちゅうさん」
「いや、私はそーゆー虫みたいな名前じゃなくて、玉緒って名乗ったでしょ」
「だってたまきとダブってて、まぎらわしいもん」
「そーだそーだ、僕も呼びづらい。めーわくだ」
 猫の子二匹、声を揃えてにゃんにゃんけんけん非難する。
「じゃ、じゃあ苗字でいいです。水野って呼んでください」
「みずののー」
「ああ、だから水玉模様なんだ」
 金司はどうでもよさげに、スカートの中を見上げた感想を述べた。
「このバカねこぉっ!」
「やっ! にーにゃ、見ちゃダメ!」
 かしまし、かしまし。
「うるっさいよふたりとも。で、僕らに何の質問、みずののさん」
「みずののー」
 がくせーちゅうの名は二匹の間ではみずのので定着することになった。
 みずののは諦観の表情で、本題に入った。
「おはなしは捕虜になった時に聞きました。私を食べるつもりなんですよね」
「うん、かーちゃのお願いだから」
「命乞いは無駄だよ。前にね、僕は逃げ惑うネズミの一家を女子供まで根絶やしにしたんだ。鳴き叫ぶ子を親の前で無理やりにね。僕は狩りについては非情で冷酷だ、恐れいったか」
「いや、それあんまり怖くないです。むしろありがたいです」
 気まずい沈黙。
「違うの! にーにゃはクール宅急便なの!」
「くふっ」みずのの一笑。
「爪とぎの刑!」ふくらはぎに一撃。
「いたっ! 今の反則っ!」
 金司は睨みを効かせ、爪を見せびらかす。
「その大根足をすりおろしてやる」
「うー……。とにかく抵抗も交渉も命乞いも無駄だってわかりました。だから」
「だから?」と二人揃って。
 一呼吸を置いて、みずののは重たげに言葉する。
「私を食べてもいいですよ」
 その表情は足元をうろつく二匹にはよく見えなかった。

 二匹は道づて、みずののの話しを聞いた。
 要約すると、みずののはひきこもり。家の中に閉じこもって、外に出ない人間らしい。
 友達付き合いがうまくいかず、両親とも折り合いがつかず、自分のことをダメな人間だといっていた。どういう人間がダメで、どういう人間がヨシなのか金司と玉城にはよく分からない。ただまぁ、働かず、親孝行もせず、友達もいないみずののは鬼猫であってもダメなやつなんだろうなぁという感覚に落ち着いた。
 あくびを噛むほどみずのののあれこれを二匹は聞いてやった。ひたすら眠かった。
 時どき泣いたり、怒ったりするみずののに二匹は大弱りだった。
 なんとなくみずののの話しは理解できた気になっても、なにか違うらしくて、どうにも噛み合わない。ともかく、みずののはめんどーな人間だった。
「死にたいわけじゃないけど、生きたいわけじゃない」
 そんな感じ。
 金司は段々と腹が立ってきて、山奥に入り、家が見えてきた頃、とうとう怒った。
「母さんは死んじゃいそうだってのに、お前ときたら贅沢なことばっかり!」
「ふたりのことは偉いなぁと思うよ、だって、私は親孝行なんてしようとも思わないもん。だったら、親想いの君らのために、死んであげてもいい」
「死んであげてもいいってなんだよ! 生きようとしろよ! お前なんて死んじゃえ!」
 そんな支離滅裂なやりとりをしていると、玉城は今にも泣き出しそうになった。
「やめたげてよ、にーにゃ。みずののの気持ち、たまき分かるよ。たまきだって、にーにゃに嫌われたり、喧嘩したりすると、もういいやってなっちゃう。生きてるの、つらくなる」
「それは……そんなの甘えだよ。喧嘩したら、仲直りすればいいのに、こいつときたら」
「にーにゃ、みずのの食べちゃったら仲直りなんて、できっこないよ」
 そのまま気まずい空気を漂わせ、二匹と捕虜一人は帰宅した。

 銀千代は待ちかねていたように布団から身を起こした。幸い、まだ元気そうだ。
 銀千代は老いた鬼猫で、口は裂けて身は大きく、額に角があり、虎や獅子のようであった。
「お前たち、無事に帰ってきたんだね」
「僕がしっかり見てたから、大丈夫。ちゃんと人間狩り、できたよ」
「かーちゃ、にんげん! みずののだよ!」
 戸惑い、少々おびえた様子のみずののを銀千代は値踏みする。上から下へ、じっくりと。
「この人間は生きてるじゃないか」
「うん。新鮮でしょ、かーちゃ」
「どうして殺してこなかったんだい?」
 びくり、とみずののは銀千代の目の鋭さに驚いた。老獪で、本当に人の味を知っていそうだったからだ。今はかわいい金司も玉城も、いずれはこの鬼猫のようになるのだろうか。
「んーとね、なんでなの、にーにゃ」
「僕らは小さいからね、自分に歩かせた方が楽チンだった。合理的でしょ、母さん」
「ははぁ、なるほどそーかい。ふたりとも、賢いもんだねぇ」
「にへへー、たまきかしこい」
「僕がだ、僕が」
 なんとなく家族団らんとしていて、猫の旅籠はあったかい。
 もうひとつ、あったかいものがある。
 油を引いたおっきなおっきな鉄鍋だ。鬼火のように蒼い火が、囲炉裏には灯っている。
「それじゃあ早速、人なべすき焼きといこうかい」
「わぁい!」
 みずののを無視して淡々と進む調理準備、喜々として玉城はネギを刻みはじめる。
「あの、本当に私を食べてしまうんですか?」
「食材は黙っておき」
「……じゃあ、最後にひとつだけ。どうしてこの子たちに人間狩りなんてさせたんですか。そりゃ私は苦もせず捕まりましたけど、もし危ない目に合っていたら。人間だって無力じゃないです。鉄砲や刃物で抵抗します。そんな危険なことさせてまで人間が食べたいんですか?」
「生きるってことぁ危険がつきもの。小娘一匹、ちゃんと捕まれてこれないようじゃあ、私ゃ死んでも死にきれない。この子たちだって分かってる。私にね、私がいなくたって立派にやれるんだと見せたげたかったのさ」
 みずののは銀千代の話しに聞き入った。なにか、思うところがあったのか。
「こん老いぼれは我が子の成長を見届けたかった、そんだけさね」
 じうじうと鉄鍋の焦れる音がした。
「さぁ金司、玉城、最後にこの子をバラしちまいな。肉にしなきゃ食えやしない」
 そういわれて料理の手を休め、二匹はお互いの顔を見合わせた。
 そして当惑したように玉城は銀千代へ聞き返す。
「ぜんぶ? 足だけ、とかじゃダメなの?」
「そうさね、踊り食いも乙なもんさ。生きたまま天井に吊るして、少しずつ包丁で肉をこそいで焼いてくんだ。まず尻やふともも、血の通ってないところをね。こん娘は若い人間だからね、良い声で啼いてくれようよ。もう見たくないと言ったら、目を抉って食べてやる。もう聞きたくないと言ったら、耳を削いでやる。腹が減ったといったら、おすそわけ。最後には自分から死にたがる。それがいいかい、たまき」
 銀千代の語りの恐ろしさに、みなして首を横に振る。銀千代ははぁと溜息をついた。
「情けなや。お前たちはてんで鬼猫の鬼たるところが欠けてる。いいかい、私達ゃ肉を食って生きる獣だ。それを忘れちゃあおしまいさ。お前たちは優しい。けどね、優しいだけじゃダメだ。厳しさがない。惨酷さが足りない。いいさ、それなら考えがある」
 銀千代は歯牙に刀を噛み加えて、のっそりと床を這い出した。
「お手本を見せたげるよ」
 じりじりと銀千代は鉄鍋の滾る音に合わせ、歩み寄る。
 悠然と、老猫は妖しく刃を濡らす。
 その双眸、その口牙は鬼火に照らされて蒼く染まっていた。
 二匹はただ、あ然とその様を見つめていた。玉城と金司は今、迷っていた。

(殺される――!)
 水野は確信した。銀千代の心と言葉に嘘偽りはない。
 きっと本心より、我が子らの行く末を案じている。二匹にとっては、最良の母に違いない。
 だからこそ、怖い。我が子を思う母の愛ほどに、強い思いもそうありはしないだろう。
 そう思うのに、どうして自分は両親ともうまくやってけないのか。水野は悔やむ。我が身を案じてくれているからこそ、折り合いがつかないとは分かってる。学校の連中はいざ知らず、両親は真剣だったはずだ。それがたとえ空回りしていても、実を結ばなくても。
 今更ながらに水野は後悔する。
 もうすこし、がんばってみたかった。
 もっと、生きたかった。
 生きてて欲しいと、願ってくれる人が私にまだ居るのであれば。
「やめたげてよぉ!」
 玉城が、かばうように割って入った。精一杯、手を広げてる。
 この子は本当に優しい。兄想いの良い子だ。水野は嬉しくなった。そして自分を恥じた。母想いの玉城の同情を誘い、どうにか逃れてやろうと心のどこかで思ってた自分を。
「おどき! たまき!」
「みずののは生きなきゃいけないの! 生きて、みずのののお母さんとお父さんと仲直りするの! こんなの、ダメだよ」
 修羅めく銀千代の前に、玉城を守るように金司も立ちはだかった。
「僕も……母さん、これじゃダメだ。みずののを、母さんには殺させない」
「おどきったら! くぁ!」
 天井を仰ぎ、ぶんと豪快に獅子舞のように首を振る。
 そうして鬼母は水野へ横一文字に刃を――。
 金司が、その下顎へ体当たりをぶちかました。ひるみ、銀千代はよろめく。
 吐き出された妖光《あやみつ》の刀を、金司はその両手で担ぎ、受け止めた。
 ぐうう、と銀千代は口惜しげにうなる。余命幾許の実母に手を挙げたことを、金司は苦々しげに歯噛みした。
「にーにゃ!」
 天真爛漫に玉城は喜び、べそを拭った。金司はポンと玉城の額を撫でさすってやる。
 水野はついつい、安堵した。金司の背中は、とても大きく見えた。
「玉城、母さんを。乱暴をしてしまった」
「うん!」
 観念したように諦めの眼差しを向ける銀千代の元へ、玉城は四つ足で勇み駆け寄った。
 優しくも頼りのない我が子を、それでも立派に成長して、元気ならばいいや、とそう温かく思い抱いているかのように水野には思えた。
 と。
 銀千代の瞳が驚愕に染まる。縦に細い瞳が、弦を引き絞るように広がった。
 その理由が、水野にはすぐには分からなかった。
 なにせ――。
 水野の視界はすぐに天を仰ぐ。突然、足場が無くなってしまった。足の感覚がない。
 急速に視界は暗く、閉じてゆく。
 黒く、染まってゆく。
 そこに一匹、爛々と瞳を輝かせる鬼が映った。
 闇の中、鬼の瞳に一条の涙が零れる。
 妖光の刀が大きく天に煌き、そして――振り下ろされる。
 水野が最後に見たのは鬼なのか、猫なのか。

 金司は慟哭した。
 刀を振るい、叫ぶに任せて斬りつけ、滅多斬りにした。
 みずののを、屠殺した。
 人間というものを、血と骨と肉に分解する。それははじめ激情に任せたものであったが、次第に冷静さを得た。狩りであること、食するということ。そのためには暴性だけではいけない。そうして切り分けたみずののを、金司は人なべで焼いた。
 じゅうじゅうと肉の焼ける音がして、甘辛い醤油、油の引かれた鉄板、野菜や具材などと共に焼いた。すき焼きにした。そうしてしまうと、もうそれはみずののには見えなかった。
 一部始終を、銀千代と玉城は黙って見守る他になかった。
 銀千代にとっても、玉城にとっても、金司の選んだ決断は信じがたいものだった。
 赤茶色の毛についた返り血を、ぶるぶると身震いして弾く。
 やがて出来上がった人なべを皿に盛りつけ、金司は母と妹へ、それを差し出した。
 金司はもう泣いてはいなかった。
「母さん、望み通りに用意したよ。人なべを」
 銀千代は何も言わず、黙って箸を置く。
 そうして、皿ではなく、煮え滾る鍋に頭を突っ込んだ。
 必死になって、金司の手料理と決意を味わう。喰らい、溺れる。
 それは銀千代の思いの壮絶さを物語っていた。
「みずのの、ごめん。僕は兄だ。鬼猫だ。僕は君が生きたいと願っても、それを踏み越えて生きる勇気を示さなきゃいけない。母さんに安心して旅立ってもらえるように
 君はダメな人間だったけど、ちょっと好きだった。だからこそ、僕は胸を張って、母さんに君をご血葬《ごちそう》するよ。
 みずのの、君の味は忘れない」
 そうして金司は黙々と、箸を手繰った。
 残されたのは玉城である。
 玉城は決断をできないでいた。食べるか、食べざるか。
 その意味するところを理解できていても、兄の選択がどれほど過酷であった分かっていても。
 兄が、母と自らのために鬼を演じたとわかっていても。
「にーにゃ……たまきは、みずのの、食べたくない」
「いいよ。僕もだ。みずののを食べたくはなかった」
 金司は噛み千切り、みずののを咀嚼する。
 喉が、ごくりと胎動する。
「にーにゃ、だけどたまきはいつまでも甘えん坊の妹じゃ、やだよ。
 だって、たまきはにーにゃのこと大好きで、いつかお嫁さんになりたいから」
 鉄鍋が、静かになった。
 鬼火が消える。
 銀千代は人なべの中にて、眠りについた。我が子の最高の手料理の中で。
 銀千代の焼け焦げてゆく、香ばしい匂いがした。
 皿を置き、玉城はそっと鍋へ寄る。
「たまきは親不孝もの、最後までかーちゃに甘えてた」
 くちゃり、くちゃりと玉城はみずののを口にする。
「これで玉城は――かーちゃのこども失格。ね、これで結婚できるよ」
 仔猫は、母猫を愛しげに食んだ。
 そうして頬を汚して、乙女は恋焦れて微笑む。
「にーにゃ、かーちゃにはナイショだよ」
 猫なべ人なべ。
シロクマ
2011年09月01日(木) 00時25分11秒 公開
■この作品の著作権はシロクマさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
執筆時間おおよそ六時間くらい
原稿用紙27枚、短編ファンタジーです
ちょい色々注意 ねことかその他アレルギーの人はお気をつけて

猫なべ人なべ
読み終わって「食べたい」か「食べたくない」か、みたいな
そこんとこ一言あなただったらどうする? 的なご意見ほしいです
ちなみに自分は食べたくないけど食べなきゃいけない派なのでこうなりました

この作品の感想をお寄せください。
No.12  シロクマ  評価:0点  ■2011-09-27 18:30  ID:44gQOvYh1xI
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作者返信レスです
て、ありゃ、誤作動かなにかで二重に点数が入っちゃってるようですね

>ak02さん
はじめまして。まずはお読みくださりありがとうございました。

>私も、短編童話モノを考えており、参考にさせていただければと思い、
>読みました。
なるほど・・・自分は童話って書きなれてないのですが、これを参考にしてはいけない!

>2人(2匹?)の兄妹のかわいさとは裏腹に、風刺が効いた展開が驚きで、
>それが面白いと感じました。


>もし、次回作がありましたら、みずののさんに再登場してもらい、
>幸福な結末になるようなお話を書いていただければ、と思っています。
>なんとかしてあげてください(涙)
次回作の予定は無い、のですが習作というか気分転換というか練習ということで
そのうちそういうのを書いてみてもいいかな、と思います。けっこう筋は変えると思うけど・・・
みずののに感情移入なさる方がいらっしゃるとは。みずののの手向けになりますね。
ご感想ありがとうございました!
また機会がありましたらよろしくおねがいします。
No.11  ak02  評価:30点  ■2011-09-27 17:00  ID:4mW1eDMp14A
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たびたびすみません、ak02です。
あの、アイディアなのですが、みずののさん視点の「猫なべ」というのは
だめですか?
引きこもりのみずののさんが、ふしぎな猫妖怪(?)に出会い、生きていく
ことの嬉しさ、辛さ、悲しさを知っていく……みたいな内容です。
なんか、スタジオジブリの「猫の恩返し」みたいですが。
うーん、みずののさんに、感情移入しまくりです。
なんとかしてあげてください(涙)

書き込みを一部編集しました。
No.10  ak02  評価:30点  ■2011-09-27 16:59  ID:4mW1eDMp14A
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はじめまして。
私も、短編童話モノを考えており、参考にさせていただければと思い、
読みました。
最初は、ファンタジックな、和風昔話モノかな?と思っていたのですが、
読み進むうちに「ええっー!」となる展開で、驚きました。

2人(2匹?)の兄妹のかわいさとは裏腹に、風刺が効いた展開が驚きで、
それが面白いと感じました。

個人的には、みずののさんが、かわいそうで涙が出てきます。
もし、次回作がありましたら、みずののさんに再登場してもらい、
幸福な結末になるようなお話を書いていただければ、と思っています。

書き込み内容を一部編集しました。
No.9  シロクマ  評価:0点  ■2011-09-26 02:59  ID:44gQOvYh1xI
PASS 編集 削除
作者返信レスになります

>三神五月香さん
お楽しみいただけたようで何よりです。
投稿から少々経ってたので感想返信は油断してました。ちょっと遅くなりましたかね。

>甘えも優しさもうまく表現されていましたし、にーにゃという呼び方も可愛らしい。
にーにゃは本当にかわいいですね、自分が今まで書いてきた妹キャラで一番かわいいかもしれない。ネコなのに。
猫舌というか、基本やっぱり顔をつっこんで食べるから熱いと顔まで熱いんでしょうねぇ〜
炊き立てのごはんは熱すぎて自分でさえ苦戦することも・・・

>うちには猫様三匹おりますゆえ。
おやまぁ
その猫様立ちにスキヤキの味は覚えさせないように

>「食べる」派ですw
おー、トータルでみるとほとんどみんな「食べる」派という結果になりましたね
なかなか参考になりました
また機会がありましたらよろしくおねがいします
No.8  三神五月香  評価:40点  ■2011-09-22 18:33  ID:KWdVQvBEiRI
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かなり面白かったです。
甘えも優しさもうまく表現されていましたし、にーにゃという呼び方も可愛らしい。
作るごはんはぬるいのね。
猫舌ですもんね。
親の愛情や厳しさもちゃんと伝えてくれる作品でした。
タイトルにひかれて来たんですけどねw
うちには猫様三匹おりますゆえ。

ちなみに私は
「食べる」派ですw
No.7  シロクマ  評価:0点  ■2011-09-04 23:55  ID:44gQOvYh1xI
PASS 編集 削除
作者返信レスになります

>山田さんへ
「ケッ!」ですか、よかった「ケッ!」にゆかなくて。ちらっとその路線も考えてたのはここだけのナイショです
今回の意外性は前半と後半のギャップのところくらいで、あとはわりと順当な結末ですね
「優しいけど厳しさのない頼りない子どもたち」の話なもんで、なぁなぁでは許されません

> 玉城は可愛いですね、「にーにゃ」という呼び方にちょっと萌え。
玉城は今回ほんとうによく働いてくれました
自分はラノベ系志望なので、なるべく書く時にも萌えるように考えて書いてたりすんですが、玉城はぬこ萌え妹萌えがうまく融合してくれました
「金」「玉」「銀」は「金銀パール」の意で、ほら昔CMで「金銀パぁールプレゼント♪」てCMありましたよね、アレが元ネタです
そんな下ネタだなんてハハハ

> 僕は「食べます」ですね。
> 面白かったです。
なるほど「食べます」派ですか。人気ですね人なべ、これは売れるかもしれない(ぇ
ご感想ありがとうございました
とかく励みになりました



>ラトリーさんへ

人食い物語に出会うことが多い・・・類は友を呼ぶですね!(ボケです

みずののが可哀想くない・・・ここは今更ながらに「失敗したなぁ」と思っていたりします
たぶん、みずののをもっと同情させるようなキャラに仕立てた上で殺すのが(冗長になるけど)必要なのかなぁと
いや、後味悪くなりすぎるかもしれませんが

後半は・・・あー、たしかにバトルものラノベのノリです
じつは書いていた時に制限時間のようなものが差し迫っていて、前半は「手探り」で後半は「勢い任せ」で書きました
そのせいか、本筋はいいんですけど微妙にバランスの悪いところが無きにしもあらず
昔話っぽすぎると今度は冷めすぎちゃって、そんなお鍋はおいしいかい? と思っちゃったりしまして。最初はぬるくても最後はぐつぐつ煮えるような感じが自分の好みというところです。ただ、そっちの方が完成度はいいだろうなぁ・・・。

> 生き物がどんな過程を経て肉として食卓に運ばれてくるのか、もっといろんな場面で考えてみたい。そう思える物語でした。ありがとうございます。
あ、肉だけでなく野菜、とくにネギにはくれぐれも注意してください。
銀千代の死因はネギですから!
こちらこそどうもありがとうございました
No.6  ラトリー  評価:30点  ■2011-09-04 16:46  ID:x1xfMMn8lDg
PASS 編集 削除
 最近、人食いの物語に出会うことが多いなあと感じています。そしてみなそれぞれに面白い。ともあれ感想など書いてみます。

 人食いといっても、特殊な力をもった猫が人を食べる話だから、これは猫にとっての正当なグルメであり、人間が各種の肉を味わうのとそう大きな違いはない。違うのは読んでいるのが食われる側の人間という点ですが、個人的には猫たちの「食べなきゃいけない」に賛同できました。みずののちゃんにあんまり可哀想だという気持ちを感じなくて、鬼猫兄妹のほうに共感するものが多かったので、そう感じたのもあるかもしれません。

 前半のほのぼのした流れから急転直下、シリアスな空気が立ちこめる後半の切り替えはお見事です。やはりこの作り方はインパクトがあると思います。一方で、(殺される――!)のあたりから言葉の選び方などが一気に変わりすぎて、途中まで作品全体に流れていた昔話風の雰囲気がかき消えてしまったかな、とも感じます。何というべきか、特に刀を振るっているあたりなどは悲劇的な色彩が強まり、「慟哭」「暴性」「ご血葬」など連なるとバトル物ラノベのようなノリに見えてくるんですね。
 もちろん、そういう書き方によって特に金司のギリギリの心情が表に出てきてますし、その場面にこそシロクマさんの思いが強くこめられているのは感じ取れます。ただ、気持ちがこもりすぎると前半ののんびりテイストとの折り合いがつけづらくなってくるので、そこはもう少し突き放して淡々と書いてあるほうが個人的には好きかな、と思いました。

 生き物がどんな過程を経て肉として食卓に運ばれてくるのか、もっといろんな場面で考えてみたい。そう思える物語でした。ありがとうございます。
No.5  山田さん  評価:30点  ■2011-09-04 17:16  ID:3RErvQF9ZU.
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 拝読しました。

 そういえば YouTube に「わが子を食べる母猫」なんて映像がアップされていたなぁ、なんてことを思い出したりしました。
「ブタがいた教室」という映画なんかも思い出したりしました。
 まぁ、それらは置いておいて。

 水野が喰われることもなく、めでたしめでたしで終わっていたら「ケッ!」って感じで終わっていたかと思います。
 まぁ、読んでいる最中から、きっと喰われる展開になるんだろうなぁ、そうなるべきだよなぁ、みたいな感じで読んでいたので、想定内の結果でもありました。
 猫の視線から描かれているので、この結末は猫にとっての「正義」なんだから、この結末はこうあるべきなんだろうな、なんて思います。
 玉城は可愛いですね、「にーにゃ」という呼び方にちょっと萌え。
 そうそう、「金」司に「玉」城、という名前なので、何かしらそれに絡む内容もあるのかなぁ、と思ったのですが、それはなかったようですね(もしかして見落としてますか?)。
 お母さんは「銀」でしたか。

 おっと、書き忘れてた。
 僕は「食べます」ですね。

 面白かったです。
No.4  シロクマ  評価:--点  ■2011-09-03 20:33  ID:26VugPo02oQ
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作者返信レスになります

>陣家さんへ
お読みくださりありがとうございました

>なのに、結局相手は女子中学生。この辺も猫の狡猾さが出ていて笑えます。
仔猫ということもあるんですが、何分、現代っこなもので怖いんでしょうねぇ、農家に撃退されてますし
大きく成長したら……あー、米兵はきついんじゃないですかね
猫は狡猾だから自分より弱いものしか攻撃しません 人間がひっかかれたら自分より弱いと思っているのかも
弱い相手をいたぶって〜というのは合理的ですしね、対等な相手に狩りを挑むと5割の確率で怪我を負ってしまう
なるべく勝率10割に近い相手を選んで戦いたいのが肉食獣の性です
結局はまた弱い子を襲うのかも・・・鬼ですね。鬼でした。
最後のところはまぁ「痛快に」という感じになってましたらば。

>>ごはん(ぬるい)と味噌汁(ぬるい)
最近こういうくわえ書き表現にハマってるのですが、確かに面白いものですね。
程度問題ですが、適度に入ると軽妙で個人的には好きです。

どうもありがとうございました。
No.3  陣家  評価:30点  ■2011-09-03 00:23  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読致しました

人間を自分達よりもはるかに下位の存在と認識しているところは実際の猫と同じでいかにも猫らしいですね。
上位の存在で有るところの鬼猫は当然のように人間を食料として狩る。
なのに、結局相手は女子中学生。この辺も猫の狡猾さが出ていて笑えます。
いや、単なる食料と言うより嗜好品と見ているのでしょうね。
たくましく成長したこの二匹の鬼猫には、いつかは米軍基地にでも乗り込んで食べ応えのありそうな巨漢の黒人兵士を二、三人屠ってみて欲しいです。
保存食としては実用的な感じもしますし。
いやいや、それはやっぱり猫の正義には反するのかも知れませんね。
弱い相手を目一杯いたぶって楽しんで、愛でてから食べるのが猫というもんですね。
いやここでは、葬送への手向けとして捧げられている訳ですが。
ラストの殺しっぷりはいかにもな感じで気持ちよかったです。

>ごはん(ぬるい)と味噌汁(ぬるい)
これが良かったです。西岸良平のネコマンガの吹き出し外の手書き文字に有りそうです。

おもしろかったです。
それでわ。
No.2  シロクマ  評価:--点  ■2011-09-01 20:27  ID:26VugPo02oQ
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作者返信レスです。
なお、「たまや」→「たまき」「租借→咀嚼」など一部を改稿しました。

>ゆうすけさん
猫需要きた! お読みくださりどうもありがとうございました。

結末はじつのところ大筋ストレートなんですが、雰囲気でひねって見えるようにできてますね
ほむほむ、食べる派ですか

鬼猫は実在しない妖怪ですが、「猫又」ではかわいすぎるので鬼伝説と猫伝説を混ぜた感じです。
人間の中に鬼という特異存在がいて、猫の中にも鬼がいる。それが鬼猫である、という調子でしょうか? 
自分としては「人間のルール&ロジック」ではなく「鬼猫のルール&ロジック」で進めたがゆえの結末ですね。
おそらく、この決断を選んだがゆえに、二匹は母の願い通りに強くたくましく生きていくことでしょう。

全体がギャグ風味なのは後々の展開のためで、狙い通りに働いているようで安心しました。
私的には、軽い話から重い話へ転じる手法が好きなのでついつい多用してしまいがちですね

猫の旅籠はメルヘンなんですが、じつは元ネタの伝承があります。本来は猫又伝承ですが、根子岳という猫の聖地の近くにあるんだとか。
ヤマンバという表現は絶妙で、アレもニンゲンを泊めるものですから、そのへんのイメージもあるわけですが、しかしじつにメルヘーニュ。
描写を少なめにしてたこともあって、ちょいちょいここは分かりづらかったようですね。

誤字の方、修正させていただきました。
また機会がありましたらよろしくおねがいします。
No.1  ゆうすけ  評価:30点  ■2011-09-01 17:42  ID:1SHiiT1PETY
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拝読させていただきました。猫好きのゆうすけです。

ショッキングな結末ですね。まさかこうくるとは! いい意味での意外性、パンチが効いています。
食べるか、食べないか? 私なら食べますね。

鬼猫とは、山奥に住む日本古来の妖怪なのでしょうか。ヤマンバと化け猫を混ぜたような感じに思いました。高い知性や魔力を持っていることで一般の猫と一線を画すようですね。
その文化風習、恐らくは人を食べることもしばしばあったでしょうし、退治しにくる豪傑との一戦もあったことでしょう。人間とて、滋養強壮に猫を食べる文化もあるようですし。
母猫の想いを受け継ぐ、これはこれで一つの決断であると思いました。


全体的にギャグ風味で軽い文体だったので、まさか最後に重い話になるとは思いませんでした。そのギャップを違和感と思うか、意外性と思うかは人それぞれだと思いますが、私はこういうノリ好きです。

猫が旅籠を経営したり、料理をしたり、ちょっと風景を想像しにくかったです。なんだかメルヘンな感じになってしまいそうです。


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